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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科21巻7号

1966年07月発行

雑誌目次

グラフ

走る高気圧室—高気圧酸素治療車の設備と運営

著者: 橋本義雄 ,   榊原欣作 ,   森澄 ,   榊原文作 ,   鷲津卓爾 ,   高橋英世

ページ範囲:P.924 - P.927

 第66回日本外科学会の展示物の一つとして出品されたもののなかに"走る高気圧室"があつた.これは昨年完成した"走る手術室"にひきつづき東海交通災害コントロールセンター(TACC)の救急2号車として"走る高気圧室"を計画,約1カ年の歳月を要して完成した.日本自転車振興会から寄贈されたもので,製作には川崎重工業などの協力をえた.ここにその設備と運営について紹介することにする.

外科病理アトラス

消化性潰瘍の病理(1)

著者: 村上忠重 ,   安井昭

ページ範囲:P.869 - P.873

 消化性潰瘍発生の本場は胃の下半から十二指腸球部までである.しかし消化力の強い胃液の及ぶ範囲がもつと広いせいか,実際に潰瘍の見られる部位は,食道下端から十二指腸垂直技に玄で及ぶ.門脈圧亢進症における食道静脈瘤の破裂という現象にも,破裂した部位の食道粘膜には,消化性の壊死葉がみられる.すなわち一種の消化性潰瘍の発生が加わつていると主張する人もある.
 これはさておき食道下端の潰瘍から,十二指腸垂直技まで及ぶ潰瘍を切除標本から選び出して供覧する.

外科の焦点

閉塞性血栓血管炎の臨床

著者: 三島好雄

ページ範囲:P.875 - P.881

はじめに
 閉塞性血栓血管炎(Thromboangiitis Obliterans,以下TAOと略す)は通常四肢主幹動脈をおかし青壮年男子ことに20〜40歳台に多く,病理学的には血管全層炎であつて,時に遊走性静脈炎が動脈閉塞に先駆または併発するとされている.
 1879年von Winiwarter1)は57歳男子の慢性下肢動脈閉塞症患者の切断肢で動脈壁の肥厚と内腔の狭窄をみとめ,Endarteriitis und Endophlebitismit Gangrän des Fussesと記載した,その後も恐らくTAOと思われる症例が1例報告として散見されたが,1908年に到つてBuerger2)が11例の切断肢について血栓形成を伴なう血管の急性炎症をみ,さらに1909年切断下肢19と切除静脈6について動脈壁の炎性変化の他に逍遙性静脈炎と主幹静脈の血栓性静脈炎をみとめて閉塞性血栓血管炎と名づけ,その後広く臨床的に用いられるようになつた.

外科学会から

第66回日本外科学会総会をふりかえつて

著者: 島田信勝

ページ範囲:P.882 - P.883

 私が会長に就任した時から今度の日本外科学会総会をどういう方針でやるべきかを色々考えてみましたが,ともかく次の2つを是非実現したいと念願しておつたのであります.
 開会のときあるいは閉会のとき申し上げておきましたが,日本外科学会総会というものは,外科学会会員の総力をあげてやるべきもの,また今度の学会は東京開催だけに,会場の無理をしても日本外科学の進歩の現状をこの際できるだけ学会に画き出したいという考えでやつたわけです.ですから会場が飛び飛びになつておりましたがバスで連絡をとるとか,各会場の間を自衛隊の援助によつて電話の連絡をとるとか,そういう点で非常に苦労はありましたが,ともかく私なりの初めの目的が十分達し得たわけです.それで今回は新しい試みとして臨床示説scientific exhibitionなるものを特にやつてみたのです.また特別講演,招待講演,シンポジウム,教育講演その他一般演題についてはもちろん,こういうものの総力をあげて日本外科学の進歩の現状を全部出してみたい,というのが私の大きな念願と申しますか方針であつたわけです.これが十分とは言いかねますが,一応その目的を達し得たと思うのであります.

学会シンポジュウムから

外科侵襲と代謝障害

著者: 高山坦三

ページ範囲:P.884 - P.887

はじめに
 この手術侵襲と代謝障害のシンポジウムはかなり考えた演題で,各物質代謝をそれぞれの面から論じてもらうように計画されてはいるが,それだけ若干,焦点がボケた感がないわけではない.この点司会者としてはそれだけ焦点を合わせるようにもつていくことに苦労した.

遠隔成績より見た門脈圧亢進症の手術法の検討

著者: 今永一

ページ範囲:P.888 - P.891

はじめに
 このたびの第66回日本外科学会総会にあたり,第1日4月3日午後渋谷公会堂の主会場で行なわれたシンポジウム"遠隔成績よりみた門脈圧亢進症の手術療法の検討"を司会した際の諸印象をとりまとめてみた.
 引続いて行なわれた同題の特別講演を木本教授が担当し,私が司会したシンポジウムには木本教授のもとから杉浦博士,私共からは山本講師が他の担当者発言者とともに参加するように編成されたのは,会長島田教授の深い配慮によるものであつた.したがつて,私としては,この日の講演を聞かれた会員諸賢が,門脈圧亢進症の概念について的確な認識を持たれるようになり,ここで報告された豊富な材料の長期にわたる観察結果を通じて,いかなる病状に対して,いかなる手術対策を構じたならば,いかなる結果が得られるものかを周知頂くことにより,臨床的に稀ならず遭遇するこのような症例の診療に利用して頂くとともに,さらに今後一層の研究の発展に資しうるようにありたいと念願し,その重責を痛感していた次第である.

内分泌過剰症の外科

著者: 桑原悟

ページ範囲:P.891 - P.892

 下垂体については京大半田教授が担当された.ここで問題になるのはアクロメガリーである.一般的には治療を要しないが,眼症状の進んでいるものでは,放射線治療をおこなう.しかし急性形で,現在進行している時期では,開頭手術が考えられる.半田教授は下垂体を経鼻的凍結さす法を提唱され,良好な結果をみたという.手術時,しかしいつも,生長ホルモン過剰状態であつたとは言えない.Cushing病は外科的に副腎手術がおこなわれ,下垂体にたいしては,手術はおこなわれない.放射線療法かおこなわれる.
 これにたいして,新潟大学植木教授の発言があつたが,要は下垂体ホルモンの定量が問題であるという.ことに臨床的には簡便ということが最優先的に考えられなければならない.

腹部手術後癒着などによる困難症の諸問題

著者: 田北周平

ページ範囲:P.893 - P.896

 腹部手術後癒着などによる困難症の諸問題という題目のシンポジウムは日本外科学会総会の演題としては異例のものである.
 近年開腹術が広く行なわれるようになつて,術後困難症に悩まされつつある外科医がいかに多いかということがうかがわれる.消化管の総ての部分に起こりうる問題ではあるが,主に腸外科に関係の深いものが興味の中心となつたことは当然である.木村(京都大学),綿貫(慈恵医大),石井(慶応大学)の3氏の演説に対して田中(順天堂大学),斉藤(日本医大),榊原(徳島大学),林田(東大分院)の4氏の発言があつた.

論説

術中胆管造影—200例の検討

著者: 植草実 ,   堀内弘 ,   富田濤児 ,   遠藤巌 ,   米山桂八 ,   大場正己 ,   赤松隆 ,   石飛幸三 ,   楢原徳之

ページ範囲:P.897 - P.904

はじめに
 胆道外科,ことに胆石症手術の成績向上はレントゲン診断法の進歩に負うところが大きい.しかし経口法,静注法による間接胆道造影は黄疸例には造影不能のため応用できないばかりでなく,黄疸がなくても胆管系の造影は困難,不鮮明なことがむしろ多い.したがつて胆道疾患に伴う胆管病変の造影検索には直接胆道造影法が用いられている.
 直接胆道造影法には経皮経肝胆道造影法,経皮胆嚢胆管造影法,術中胆管造影法および術後の経tube胆管造影法がある.それぞれ適応,利点があるとともに欠点もないではない.著者らは経皮胆嚢胆管造影法は胆汁漏出の懸念から行なつていないが,最近約3年半のあいだに300余例にこれら直接胆管造影を行なつてきた.このうち術中胆管造影は200例に達した.

簡易検査法

血液検査(2)出血素因の検査

著者: 野村武夫

ページ範囲:P.906 - P.908

はじめに
 出血素因は自発的に,あるいは些細な外力によつても容易に出血をきたす病態を指し,血管・血小板・血液凝固の異常がそれぞれ単独もしくは,いろいろに組合わさつて惹起される.
 外科的手術に際してはあらかじめ出血素因の有無を検査し,もし出血素因を認めれば,さらにその原因を確かめ,術中および術後の対策を講じておくことが必要である.出血素因に関し日常行なわれる検査は,出血時間・全血凝固時間・毛細血管抵抗・血小板数・プロトロンビン時間(Quick 1段法)・トロンボテストの測定である.(臨床外科,20, 8, 1054, 1965.)

診断のポイント

膵疾患の鑑別診断(1)—急性膵炎

著者: 若林利重

ページ範囲:P.910 - P.912

はじめに
 急性膵炎もいわゆる急性腹症の中の1つの重要な疾患であるが,急性膵炎の診断に際してはほとんどすべての急性腹症はその鑑別診断の対象となる.急性腹症の場合は一般に診断をいそぐあまり綜合判断の根拠が薄弱なことから,しばしば誤診を招いたり確診をくだしえなかつたりすることがある.当然行なうべき問診を忘れていたり,特有な症状や所見を見落していたり,あるいは必要な検査をやつていなかつたりして,開腹してみてはじめてその迂濶さを知ることがよくある.したがつて,まず念頭におくべき急性膵炎の特徴的な症状,所見,検査成績などを列記し特に誤診し易い疾患のそれと比較してみたい.

読影のポイント

脳波の読み方—(7)脳腫瘍の脳波

著者: 喜多村孝一

ページ範囲:P.914 - P.917

 脳腫瘍を構成する腫瘍細胞は神経細胞と異なり,脳波のような電気活動をもたないので,脳腫瘍そのものには脳波的電気現象はみられない,したがつて,腫瘍の中心に電極をおいた場合は電気的活動は見られないはずであり,理論的には脳波活動の零点を探せば腫傷の局在部位を突止めることができるはずである.しかしながら,臨床脳波検査において脳波電位の零点を見出し腫傷の局在部位を診断することは実際にはまず不可能である.その理由は,臨床脳波検査に用いられる頭皮上の電極が大脳表面から2〜3cm離れており,このために,この電極からは,電極直下を中心とする径2〜3cmの範囲内の脳表面の電気活動が導出されるからである.また,浸潤性の悪性腫瘍の場合,肉眼的な腫瘍組織の中には腫瘍細胞とともに神経細胞も残存し脳波活動を維持しているからである.したがつて,脳腫瘍による脳波異常としてわれわれが臨床脳波検査でみとめうるものは,腫瘍による圧迫・浸潤を原因とする神経細胞の機能障害であり,その大部分は脳瘍の周囲の脳組織の循環障害・脳浮腫によつてひきおこされたものである.広範囲にわたる悪性腫瘍でそのなかには神経細胞を見ないようなものでは,頭皮上からでも脳波活動の零点を見出すことができるが,このようなことはむしろまれである.

手術手技 血管外科の手技・3

静脈およびリンパ管

著者: 高橋雅俊 ,   工藤武彦

ページ範囲:P.918 - P.922

I.静脈の手術
 静脈の手術では,大静脈と末梢静脈とに分類することができ,さらに大静脈では心臓を境にして上大静脈と下大静脈とに分けられる.
 先天的な大静脈の走行異常や欠除の例では,そのほとんどが心内奇型を伴なつているので,この場合は心臓手術の対象となり,ここでは省略する.

トピックス

肝臓の移植

著者: 菅原克彦

ページ範囲:P.931 - P.933

 近代外科学は,罹患臓器ないし組織を摘出,切除する努力から,さらに臓器移植への,けわしい道をたどりつつある.病廃臓器をとりのぞいて新鮮な臓器でおきかえることが,いかなる治療法を試みても,望みのない疾患への新しいアプローチであろうが,治療効果を得るためには,いくつかの部厚い壁を破らねばならない.
 米国のJ.E.Murrayのところで現在登録発表されている腎移植は672例で,147例が1年以上生存しているが,わずか2年前の成績と較べると驚異的であるといわざるをえず,donor腎摘出の時期,灌流と保存,手術手技,donor選択およびいわゆるrejection現象抑制の検討などのたゆまぬ努力による進歩である.

ニュース

順天堂大学小児外科教室新設

ページ範囲:P.933 - P.933

 欧米に比べ30年の遅れがあるといわれる日本の小児外科も,ようやく5月9日から順天堂大学小児外科教室の外来診療のスタートにより,小児外科専門医の養成の道が開かれた.
 小児外科領域は比較的新しい学問で,一昨年に日本小児外科学会が誕生して,今年で3年目になる.以前は小児とくに新生児は大手術に耐えられず手術を行なえば死ぬと一般的には考えられていた.しかし長年にわたる研究から死亡率は著るしく改善されて,さらにめざましい進歩をとげている.今日においては,新生児や乳幼児も大手術に充分耐えられ手術は可能になつていることは言うまでもないことである.

総合医学賞に上野明氏・他6氏が入賞—本誌20巻10号掲載「腎性高血圧症の外科」に

ページ範囲:P.936 - P.936

 医学書院の総合医学賞は,昭和23年創設以来,医学面ですぐれた研究業績に対しておくられている,本年第15回総合医学賞には,東大脳外科教室三宅浩之の頭皮上の定常電位測定による器質的脳疾患の診断と東大胸部外科教室の上野明氏・他6氏の「腎性高血圧症の外科」におくられることになつた.
 とくに上野明氏・他の論文は,本誌20巻10号の論説として掲載されたものである.ここにその内容と,今回受賞された上野明氏を紹介する.

患者と私

「扶氏医戒之略」に学ぶ

著者: 前田友助

ページ範囲:P.934 - P.936

 昭和38年3月末に大阪で日本医学会総会が開かれた時,緒方洪庵先生の『扶氏医戒之略』の写しが私共に贈られた,私はこれを看てつくづく医師の患者に対する態度は正にかくあらねばならぬと感心し,これを額に仕立て,本当に座右の銘にしたいと思つて居る.
 この医戒を実行する事は相当に難しいがある程度はやつてやれぬ事はあるまい.何時の世になつても医師と患者との関係は正にこの医戒の通りであらねばならぬ.もちろん時代の変遷によつて人の心持も変り医師と患者とのお互の気持ちもある程度変る事は止むを得まいがその根本に相違があってはならぬ.

雑感

整形外科医の"たわごと"

著者: 池田静哉

ページ範囲:P.937 - P.937

 軍医生活4年,医局生活11年,そして開業生活9年,この道に足を突つ込んですでに20有余年.
 いまだに東京の真中でさえ,整形外科=美容外科と信じ込んでいられる方々がいかに多いことか.ましてや地方においておやであろう.

外国雑誌より

Hypercapniaの外科的応用

著者: 上井巌

ページ範囲:P.938 - P.938

 HypercapniaまたはHypercarbiaといわれる状態はCO2の蓄積のため血中pCO2の上昇pHの低下をきたす状態を意味しこれが麻酔中などにおこることは好ましくないものとされていたが最近Hypercapniaの効果を外科的に応用しようという試みがなされ,かなりの利点のあることが注目されている.
 Hypercarbiaの効果はNunn1)によれば血中pCO2の上昇のため呼吸性アチドージスをきたし,代償的に代謝性アルカロージスを誘起する.また酸化ヘモグロビンの解離曲線の右方偏位がおこり組織における酸素拡散が容易となるとされている.心臓に対して被刺激性の増大,とくにCyclopropane麻酔下では不整脈をきたすことがある2).脈管系に対しては自律神経を介して交感神経緊張性に働く一方,直接作用として血管拡張が重なりあうため一定しないが,一般にHypercarbiaによって脈搏数の増加,血圧の上昇,末梢抵抗の減少,心搏出量の増加がおこるが,脳血管はCO2に対する感受性は安定しており,血中pCO2の上昇によつて拡張し,脳血流量の増加がみられるが,脳酸素消費量には著変はないとされている.また血中pCO2が80mmHg以上になつて麻酔効果があり,その作用はN2Oのそれにもつともよく似ているという.

外国文献

microsurgery,他

ページ範囲:P.939 - P.942

 耳鼻,眼科などはもちろん,神経外科,血管外科,移植にmicrosurgeryの必要が生じている.聴神経腫瘍,下垂体腫瘍,Willis環動脈瘤あるいは脳血管腫,視神経gliomaにはdissecting microscopeを用いるものが出てきているし,Pool (P&S Quart.Sept.,1965),Smith(Plast.Reconst.Surg.37:227,1966)のようにその有利を主張するものもいる.血管外科では1〜4mmという内径の小血管,ことに手術による収縮状態には,局所血管拡張法とともにmicrosurgeryが必要である.中山血管吻合器,operating microscopeによる小血管吻合の成功(Cobett 1965,Goldwyn 1966その他),内膜—内膜接着法の考案などなど.1mm程度の血管吻合が安全に成功すればBunckle (Plast.Reconst.Surg.36:62,1965)の言うように移植領域の進歩も一層促がされよう.離断した手指の再接着,neurovascular pedicleの成功など.Krizek (Plast.Reconst.Surg.36:538,1965)はcomposite graftに成功している.輸卵管の吻合も成功している.そうしたmicrosurgeryのためにZeiss Diplo-scopeなど種々の器械が考察されてきた.

他科の知識

内分泌疾患の内科的治療(3)

著者: 鳥飼龍生

ページ範囲:P.949 - P.953

Ⅲ.甲状腺疾患(つづき)
 3.単純性甲状腺腫,橋本氏病および甲状腺癌
 甲状腺疾患のうち甲状腺腫が主症状をなし,甲状腺機能亢進を伴なわないものには,嚢腫,腺腫(adenoma),既述の亜急性甲状腺炎など種々あるが,主なものは単純性甲状腺腫,橋本氏病および甲状腺癌の3者である.これらの疾患は相互の鑑別診断に臨床上の問題があるのであつて,確診がついてしまえばその後の治療には,あまり問題はないはずである,すなわら,嚢腫,腺腫(adenoma),癌では外科的治療が行なわれ,橋本氏病では甲状腺剤による薬物療法が行なわれる.単純性甲状腺腫も圧迫症状を呈するほど大きなもの,あるいは結節が大きなものでは外科的治療を行なうが,その他のものでは一応甲状腺剤の投与を試みる.
 ところが甲状腺腫がある場合に,これらの疾患のどれであるかを臨床的に診断することが困難な場合が少なくない.重きに従つて処置するという原則に従えば,すべて甲状腺癌と考えて甲状腺腫の摘出を行なうことになるが,甲状腺腫の中で実際に甲状腺癌の占める頻度がかなり低いので,全例を手術するという方針は決して実際的ではない.ただしこの頻度については,諸家により高低種々の値が出されていることは周知の通りである.この事実はすなわち,このような統計を出している人も実際にはすべての甲状腺腫を手術しているのではなく,手術に当つてある程度の症例選択を行なつていることを示している.

顔面形成の基本手技・1

曲線の手術

著者: 丹下一郎

ページ範囲:P.956 - P.960

はじめに
 個体の身体的苦痛をいやすことを主な目標とした従来の臨床医学と較べて,形成外科は,(身体的病気の有無にかかわらず)"身体外表の固定した醜くさによる精神的苦痛を除くことを固有の目的とする社会医学"である1)2),したがつて,病気や手術そのものについての扱い方,考え方に相異する点が少なくない.
 そのような相異点のうち,形成外科の実際面における特質の一つは,「移植(あるいは移動)によるartisticな造型」ということである.これはすなわち,人体を科学的に見,科学的に扱うことと同時に,これを審美的に,たとえば「顔面は復雑な曲線および曲面から成る立体である」と,考えて扱うことである.本稿ではまず主として,さような意味での曲線の処置について,すなわち1次元的な手術について述べる.

他科の意見

耳鼻咽喉科から外科への希望

著者: 後藤敏郎

ページ範囲:P.963 - P.965

 耳鼻咽喉科の手術は耳や鼻,扁桃腺や喉頭などの特殊な器官の手術として発達してきた.その限りにおいては一般外科との関係はきわめて薄く,参考に供することも,特に希望する問題も見当らない.最近もこのような耳や鼻などの器官内の手術はその内部においていちじるしい変り方をして来ているが,そのことは一般外科の方々には関係の薄いことである.いま,これを耳鼻科手術の内的変化と仮定してみると,外科の方々へ希望というよりは理解して頂きたいのは,外的,あるいは外方への変り方である.耳鼻咽喉科の手術は,耳の手術に見られるように、現在は顕微鏡下のmicro-surgeryの方向へ進んでいるが,一方では反対に顔面や頸部への手術野の拡大が進められている.耳鼻科では手術はかつては鼻腔や咽頭,喉頭などの内腔からの手術に限られていて,その外表部からの手術となると一般外科に委ねるといつた状態が長い間続いていた.現在では,そのように,手術上のapproachを外科と分つて考えることはこれらの部位の手術では不合理であると感ぜられるようになつてきた,その結果,顔面頭蓋や頸部の手術は,その内側の器官や管腔を含んで,耳鼻科的な技法や解釈で内外から行なわれる機会が多くなつてきた.その意味から,耳鼻咽喉科の手術は,従来は感覚器官の特殊な外科であつたものから,区域の外科に変遷してきているように思われる.

講座

X線撮影の仕方(1)—基礎的なこと

著者: 木村和衛

ページ範囲:P.967 - P.974

はじめに
 X線診断は非破壊検査である.そして形態的(解剖・病理),機能的(生理・病態生理)に有力な所見を与えてくれる.この目的をはたすには,よいX線写真を撮るための手段と方法を選び,かつできたX線写真を適切に読影する能力がなければならない,まず診断に有用なX線検査はどうしたらよいか.ここにX線検査を立案し,それを読影する外科医として知つておきたい基礎的ならびに臨床的なことについて述べる.まずX線写真の良否を決定する因子を考えてみよう.

カンファレンス

肺癌

著者: 小島憲 ,   平福一郎 ,   林豁 ,   若山晃 ,   福田圀如 ,   小沢啓邦 ,   上野幸久 ,   大出良平 ,   太田怜 ,   堀之内宏太 ,   原田敏雄 ,   森永武志 ,   河村久 ,   大橋成一 ,   本橋均 ,   大宮善吉

ページ範囲:P.977 - P.985

 森永(司会) CPCも300回を迎えました.症例は肺癌,肺性脳症という診断ですが,活溌な討論をお願いします.
 河村(担当医)患者は61歳の男子,昭和40年2月18日に呼吸困難,チアノーゼ,鼓状指を主訴として入院.家族歴では父が腎疾患で死亡.既往歴に30年前に黄疸に罹つています.現病歴は約10年前から冬になると感冒に罹り易く,絶えず咳をしていたが,増悪する傾向はなかつたので放置していました.1年前の冬、長い石段を昇つている途中,急に息苦しくなり,約5分間うづくまつていてよくなつたが,その後ときに激動に際し発作性に呼吸困難が起るようになつた.入院5ヵ月前に近くの医者を受診.気管支喘息といわれて,アロテックなどの服用をつづけた.約1ヵ月前から37.5℃前後の微熱と右胸部の圧迫感が生じ,軽い体動でも息苦しくなるので入院しました.また1年くらい前から手指の膨大に気付きまして,最近チアノーゼが強くなつたと言つております.咳は多いですが,喀痰は少なく,出ても白色漿液性で,血痰はないそうです.

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第17回 日本医学会総会風見鳥ニュース No.3

著者: 勝沼精蔵 ,   神田善吾 ,   萩野鉚太郎 ,   橋本義雄

ページ範囲:P.986 - P.986

第17回日本医学会総会のメッセージ—分化と総合をめざして—
 "医学の祭典"といわれる日本医学会総会も17回目を迎えて、明年昭和42年の春、名古屋で開催されることになりました。
 いうまでもなく、この総会は、日本の医学領域における最高の学術集会であって、現在及び将来にわたる医学研究の真価を世界及び社会に問う国際的規模のものであります。

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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