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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科21巻8号

1966年08月発行

雑誌目次

特集 腫瘍の外科 綜説

膵癌における今後の問題

著者: 本庄一夫

ページ範囲:P.997 - P.999

 膵癌に対する手術術式は現在一応確立されており,頭部癌には膵(頭)十二指腸切除,体尾部癌に対しては膵体尾部切除が行なわれる.膵十二指腸切除術は,膵頭部癌のみならず,Vater膨大部(領域)癌,総胆管(末端部〉癌に対しても実施される.
 これら膵頭部癌,膨大部癌ならびに総胆管癌はいずれも閉塞性黄疽を中心として,互いに相似の臨床像を示すが,黄疸発生後の術前の鑑別診断はかなり可能となつてきた.

膵癌の早期診断

著者: 佐野開三

ページ範囲:P.1000 - P.1004

はじめに
 膵疾患,なかでも膵癌は年々増加の傾向を示し,死亡率の統計でも1950年から1960年の10年間に約3倍の上昇をみていることは,癌治療の将来.ひいては癌撲減に対する今後の問題とも合わせ考えるとき,誠に憂慮すべき事態であると言わざるをえない.消化管の悪性腫瘍においては,近時一般の認識もとみに高まり,診断技術の進歩向上と相俟つて,集団検診などの普及発達により,その治療成績は著しく改善されたことは喜ばしい限りであるが,それにひきかえ膵癌では,認識の不足と診断方法の不確実なことから遠隔成績はきわめて悲観的である.
 膵はその解剖学的位置関係から考えてみても,後腹膜腔深部に存在するため,まつたく前後左右すべて他の器官組織により被覆され,きわめて高度の病変をみるまでは感知しえない.したがつてややもすれば,膵の存在すら念頭から離れ,重大な過誤をおかすことも稀ではない.また膵疾患のあるものでは,生理学的な特性から機能検査上特有の病態を把握しうることもあるが,膵癌においては特有の機能異常を認めることはほとんどない.

膵癌の早期診断

著者: 上垣恵二 ,   光宗哲夫 ,   山城守也 ,   島津久明 ,   黒田慧 ,   小林順弘

ページ範囲:P.1005 - P.1012

はじめに
 膵癌の診断が,腹部外科疾患のなかでも,とくに困難なものに属していることは衆知のところで,死に直面した進行膵癌すら,適確に診断できない場合が往々見うけられる.まして早期診断ともなると,そのむずかしさは格別で,ありきたりの方法ではお手あげのことが少なくない.問題をさらに複雑にしているのは,膵癌の進展型式についての病理組織学的検索や分類が確立されていず,早期胃癌ににかよつた早期膵癌の概念が,臨床医学に導入されていないことで,いきおい,早期診断についての検討は漠然としたものにならざるをえない,たかだか,今までよりはすこしでも早い時期での発見とか,外科的に根治手術が可能な時期での発見とかの程度に解釈されることが多いことになる.すべて,現段階ではやむをえないと思われるけれども,理論性の欠除はおおうべくもなく,その開発は焦眉の急と考えられる.
 私どもは過去16年間に94例の膵癌を経験した.そのうちわけは第1表に示す通りであるが,切除率はわずか12%にとどまり,如実に早期診断のむずかしさが示されている.これらを母体にして早期診断にかんする検討をおこなうことには幾分の無理はあるが,上の線にそつた立場から努力を続けているので,得られた結果の大要を,臨床症状の分析と臨床諸検査結果の分析とに大別して,以下にのべてみる.

研究と報告

Warthin氏腫瘍の自験例

著者: 溝口政澄 ,   小野慶治

ページ範囲:P.1019 - P.1024

はじめに
 Papillary cystadenoma lymphomatosum (Warthin'stumor)は唾液腺ことに耳下腺の良性腫瘍のひとつで,欧米の報告は少なくないが,わが国では松島が(昭和10年)その1例を報告していらい,現在まで私達が調べえた範囲では,わずかに19例で(第1表),まれな疾患と考えられる.私達は最近1例を経験したのでここに報告したい.

耳下腺腫瘍について

著者: 原田実 ,   池田忠輝 ,   塩田良彰 ,   畑穆 ,   高瀬浩

ページ範囲:P.1025 - P.1029

 耳下腺腫瘍は必ずしもまれな疾患ではないが,腫瘍剔出を行なうと,ときに顔画神経を損傷し顔面神経麻痺をきたし,不愉快な醜形をきたすことがある.したがつて手術それ自体は必ずしも困難ではないが,術後の神経麻痺を恐れ,一般に本症の手術に対し積極的でないようである.
 われわれも本症に対しては今日までそれほど積極的ではなかつたが,最近腫瘍剔出時顔面神経を切断したので神経縫合を行ない良好な結果を得たことより,本症に対しては積極的に手術療法を行なうべきと考え,教室において昭和34年より昭40年5月まで取り扱つた耳下腺腫瘍症例について検討を行なつた.

顎下腺Cylindrom

著者: 安藤博 ,   鈴木正弥 ,   渡辺勝三郎 ,   篠沢貞夫 ,   石川正昭 ,   高橋惇

ページ範囲:P.1029 - P.1034

 Cylindrom という名称はBillroth18)(1859)が,涙腺より発生したと思われる眼窩腫瘍が特有な円柱様構造を示すことより命名したものであり,その後この腫瘍に関し幾多の報告をみるが,第1表のごとく諸家により,いろいろの名称が与えられ,またその悪性度についても,諸家の見解は必ずしも一致していないようである.
 わが国における顎下腺のCylindromの報告はまだ10例に満たないようで(第2表),またさきにわれわれの報告9)した唾液腺腫瘍28例にも含まれていない.われわれは,最近極めてまれと考えられる顎下腺Cylindromの1例を経験したので,ここに報告しあわせて2,3の文献的考察を行なう.

悪性胸腺腫の1例

著者: 染村舜輔 ,   斎木仁 ,   松原藤継

ページ範囲:P.1034 - P.1038

はじめに
 胸腺腫はまれな疾患で,かつその定義,分類にいまだ定説なく,種々の議論のあるところである.病理組織学的に悪性胸腺腫と診断することのできた1症例を報告する.

Pure red cell anemiaを伴う胸腺腫の1例

著者: 栄山光弥 ,   佐多正一郎 ,   近藤正人 ,   古川昌昭

ページ範囲:P.1038 - P.1043

 縦隔腫瘍は海外および本邦でもしばしば報告されているが,そのうちでも胸腺腫は胸腺の生理的機能がはつきりと解明されていない今日においては内分泌学的にも,外科領域においてもきわめて興味のある分野である.
 胸腺腫にはしばしば筋無力症を伴なうことはよく知られているが,さらに甲状腺機能亢進症,無γ—グロブリン血症,カッシング症候群,Pure red cell anemiaなどを合併することがあると言われ,そのような報告もまれでではない.

巨大な縱隔血管線維腫の1治験例

著者: 汐崎公太 ,   本山登

ページ範囲:P.1043 - P.1048

 最近の胸部外科の発展はめざましいものがあり,縦隔腫瘍の報告も多くみられるようになつた.しかし縦隔腫瘍のなかでも血管線維種は非常にまれであり,欧米では1949年,Tiitinen1)が1例を報告し,1951年,Horst2)が1例を報告しており,本邦においては1957年桑田ら3)が1例報告しているにすぎない.
 われわれは最近,巨大な縦隔腫瘍の剔出を行ない,組織学的検査により血管線維腫であることが判明した症例を経験したので報告する.

肺軟骨腫様過誤腫の1例

著者: 関口定美 ,   舟木昭蔵 ,   簑谷克美 ,   河合実智雄 ,   若井淳

ページ範囲:P.1051 - P.1055

はじめに
 肺腫瘍とはほとんど肺癌を意味するほど肺癌が重要視されているが,肺外科の進歩に伴ない,肺の良性腫瘍の報告も多くみられるようになつた.
 われわれは最近,右肺下野に孤立性円形陰影を認め,肺癌の疑いで右肺全別術を施行し,組織学的所見で肺軟骨腫性過誤腫であることが判明したので,本邦文献例を集計し報告する.

肺癌症例の経験(とくに脳転移による発症について)

著者: 高橋希一 ,   阿部力哉

ページ範囲:P.1057 - P.1062

 悪性腫瘍症例では,原発巣が症状上からはまだ潜伏性の時期に,遠隔部の転移巣に由来する症状をもつて発症するようなことは珍らしくなく,ことに肺癌ではそのような例は日常診療上少なからず見受けられている.癌の治療対策として,《まだ転移の起こらぬうちに,そして原発巣が可及的に小さなうちに》これを処置することを根本方針とする,いわゆる早期治療の立場からすれば,このような,転移が起こつて後に初めて発病するような例は,はなはだ手遅れな事態だとされるであろう.しかし肺癌の場合には早期発見,早期治療ということがいかに難しいことであり,おのずからなる限度のあることを認めざるをえないのが現状であると思われる.
 われわれは東北大の桂,葛西外科教室で取り扱つた肺癌73症例について治療現状,とくに治療成績を阻害するものの一因について少しく考察したので,ここに報告する.

Desmoid tumorの1例

著者: 伊藤博治 ,   高木長二

ページ範囲:P.1065 - P.1067

 Desmoid tumorは筋膜,腱膜より発生する良性線維腫で,1832年McFarlene3)によりはじめて報告された,それ以来Perman & Mayo4),Nichols5),Pack6)らの報告がみられる.いつぽう本邦における報告は意外に少ない17-38).最近私どもは34歳の主婦の前腹壁より発生したdesmoid tumorを経験したのでここに報告する.

胃粘膜下脂肪腫

著者: 小波津守良 ,   海江田統 ,   大山治史

ページ範囲:P.1068 - P.1071

 胃粘膜下脂肪腫は1842年Cruveilhierの検例を矯矢とし,約130例の記載があるが,本邦では水野ら(1954年)以来10例の報告が見られる.われわれは胃内性発育を示す良性腫瘍と考えて胃切除を行なつたところ,脂肪腫であつた症例を経験したので報告し,あわせて文献的考察を試みたい.

胃原発Hodgkin病の1例

著者: 正津晃 ,   内山忠勇 ,   川西和夫

ページ範囲:P.1073 - P.1076

 胃に原発するHodgkin病は,胃腫瘍としてきわめてまれなものであるとともに,Hodgkin病の一病型としてもまれであり,本邦の報告例は16例にすぎない.私は若年者胃癌の臨床診断のもとに胃亜全剔除術を行ない,組織検査の結果胃Hodgkin病と判明,術後2年3ヵ月の経過を観察しえた1例を経験したので報告する.

多発性潰瘍をともなつた胃血管肉腫の1例

著者: 富永正中 ,   鈴木正弥 ,   深田弘治

ページ範囲:P.1076 - P.1079

はじめに
 胃に発生する悪性腫瘍のうちで肉腫はまれな疾患であり,胃悪性腫瘍全体の1ないし2%を占めるにすぎない.なかでも血管肉腫はその発生がきわめてまれで,1915年Sherrill15)が初めて記載していらい内外文献を通じてもその報告は10例に満たないようである5)7)12)17)19)
 われわれは最近胃壁より発生した胃血管肉腫の1例を経験したので報告する.

胃サルコイドージスの1例

著者: 本田盛宏 ,   石川文夫

ページ範囲:P.1080 - P.1083

 サルコイドージス(以下サと略記) Sarcoidosis邦名類肉腫症は,近年全身性疾患として注目され,その重要症状の所在に従つて内科眼科皮膚科などで取り扱われているが,文献によると1875年英国のHutchinsonが今日から考えればその皮膚変化に当ると思われるものを初めて記載,同様の皮膚変化を1889年フランスのBesnierは凍瘡状狼瘡Lupus pernio,1899年ノルウェーのBoeckは類肉腫Sarcoidとしたが,1905年ZielerはBesnierの凍瘡状狼瘡とBoeckの類肉腫が同症であるとした.その後Schaumannは皮膚.リンパ節,扁桃,脾,肺および骨に共通した変化のくることを認めて1種の全身性系統性疾患とし,1934年その見解を発表,今日本症はMorbus Besnier-Boeck-Schaumannとも呼ばれている.ここに報告するような胃に本症の変化を認めた胃サの第1例は1936年Schaumannの発表にかかわる.
 全身性疾患としてのサについて,侵されるおもな臓器は肺,皮膚,眼,リンパ節,骨,脾,肝,耳下腺また鼻腔,副鼻腔,骨格筋その他口唇,舌,中枢神経などで消化管の侵されることはきわめて少ない.

Insulomaの1手術例

著者: 本山登 ,   阿部富男 ,   金井弘 ,   湧井智一郎

ページ範囲:P.1084 - P.1088

はじめに
 Langerhansが膵にLangerhans氏島を発見したのは1869年であるが,1902年にいたりNichollus1)が剖検例でラ氏島腫瘍を発見した.1922年Banting & BestによるInsulinの発見いらい,ラ氏島の機能が解明され始め,Insulinとラ氏島腫瘍の関係に気づかれ,1926年Warren2)らはラ氏島腫瘍と過Insulin症との関連を初めて実証した.1927年Wilder3)は臨床的に本腫瘍を初めて報告し,意識消失と痙攣発作を頻発する例の剖検で,ラ氏島癌を発見した,1929年Howlandら4)は初めて外科的にラ氏島腫瘍の剔出を行ない,発作を消失せしめ本症の治癒に成功した.いらい本症の報告は漸次増加し,1950年Howardら5)は文献上398例のラ氏島腫瘍を集め詳細に検討を行なつた.1960年Hanson6)によれば報告例は600例をこえるという.これらラ氏島腫瘍の中にはInsulin分泌を伴なわず低血糖症状を伴なわないものも含んでいる.
 ラ氏島腫瘍には,おもにβ細胞からなりInsulin分泌するfunctioning tumorと,おもにα細胞からなりInsulinを分泌しないnon-functioning tumorとがあり,β細胞からなるものだけが特異な低血糖症状を呈するのであつて,organic hyperinsulinismはおもに良性のラ氏島腫瘍にみられる.

巨大なる膵ラ氏島細胞腺腫を有するZollinger-Ellison's Syndromの1手術治験例

著者: 大沼雅弘 ,   木村秀枝 ,   及川登

ページ範囲:P.1088 - P.1092

はじめに
 膵ラ氏島細胞腺腫は1902年Nichois1)が初めて剖検例を記載し,1927年Wilderら2)はある種の膵腺腫とHy-perinsulinismとの関連を実証した.本邦においては1933年三宅ら3)が剖検例を記載し1936年棟方ら4)が臨床第1例を報じた.以後年々症例が増し1960年には世界の症例は活性非活性あわせて600例に達した5).本邦でも著者らの調査では現在まで(第1表)2)3)22)-60)のごとく47例を認めた.いつぽう1955年ZollingerとEllison6)は上部消化管の消化性潰瘍を合併する膵腺腫について考察し同症例はZollinger-Ellison's Syndromとして注目された.1960年Zollingerら7)は同症候群75例の報告例があることを指摘している.最近著者らは巨大な膵腺腫を有するZollinger-Ellison's Syndromと思われる一例を経験し,手術により治癒せしめたのでここに報告する.

虫垂癌の統計的観察(付.自験例)

著者: 大槻道夫 ,   村山博良 ,   榎本耕治 ,   宍倉滉 ,   水谷幽

ページ範囲:P.1095 - P.1099

 われわれは最近まれな虫垂癌の1例を経験したので報告し,あわせて文献的考察を行なつた.

異所性褐色細胞腫(Paraganglioma)の1治験例

著者: 矢嶋浩三 ,   三輪浩次 ,   江口昭治 ,   鈴木伸男 ,   寺島雅範 ,   鈴木和男

ページ範囲:P.1100 - P.1104

 本邦における褐色細胞腫の症例報告は,近年急増しつつあるが,われわれも本症の1例を術前に診断し,摘出治癒せしめえたのでここに報告する.

後腹膜腫瘍の3例

著者: 西本忠治

ページ範囲:P.1109 - P.1112

はじめに
 後腹膜腫瘍は,Morgagni (1761)の例いらい200余の報告がある.私も最近3症例を経験したのでここに報告し,あわせて文献的考察を行なつた.

巨大なる腹膜後部奇形腫の1治験例

著者: 三竹俊雄 ,   柳田謙蔵 ,   西井啓二

ページ範囲:P.1112 - P.1118

はじめに
 腹膜後部奇形腫は比較的まれな疾患であり,1829年Lobstein1)によつて記述されているが,1871年Dickin—son2)が,本邦においては1904年今3)が発表していらい漸次増加し,百数例に達している.最近われわれは比較的年長者に見られた巨人な腹膜後部奇形腫の一症例を経験し,手術的に全治せしめえたのでここに報告する.

妊娠に合併せる褐色細胞腫の1治験例

著者: 柴沼達郎 ,   宮本胤彦

ページ範囲:P.1118 - P.1124

 1886年Fränkel1)は,初めて褐色細胞腫の1剖検例を発表し,1929年,Pincoffs2)は,初めて褐色細胞腫を術前に正しく診断することに成功した.それいらい本症は比較的まれな疾患とされていたが,1945年Rothら3)はhistamine testを1949年Longinoら4)はregitine testをその診断に導入し,さらに1950年Engel5)が本症の診断における尿中catecholamine定量の有用性を提唱していらい,本症の診断は容易となり,欧米における症例も実に800例を数えるに至つたのである.いつぽうわが国においては,1942年村上6)が初めて報告してから1962年までに,わずか15例の報告をみるに過ぎなかつたが,それ以後年年増加の傾向を示し,現在では40例に近い報告をみている.しかし,本症の手術による根治率はいまなお低いと言わねばならない.その原因としては,第1に本腫瘍が,約4%は多発性7)で,約10%は異所性8)のものが存在する事実をあげることができる.Clausen9)によると,一側副腎に腫瘍一コを証明しえた症例は52%と述べでいるが,本症手術の困難性の一面を物語るものである.第2に本症の手術死亡率の高いことがあげられる.

乳児ウイルムス腫瘍の1治験例

著者: 池田恵一 ,   坂口正昭 ,   村上浩

ページ範囲:P.1125 - P.1129

はじめに
 近年わが国においても小児外科学の発達により,従来その年齢の幼少ゆえに根治手術が不能であつたり,また手術成績が不良であつた諸種の疾患にも積極的に根治手術が行なわれるようになつた.ウイルムス腫瘍は小児悪性腫瘍の中で最も重要なものの一つであるが,近年その治癒例が増加するとともに,治療手技の向上により治療成績をさらに好転させうるものとして注目を浴びている.
 最近われわれの教室においてウイルムス腫瘍の診断のもとに腫瘍剔出術を行ない,組織学的に本腫瘍であることを確認し,術後経過良好なる生後86日の女児の症例を経験したので報告する.

血小板減少性血管腫(Kasabach-Merritt症候群)の3症例

著者: 鷲尾正彦 ,   阿部富男 ,   和田寛治 ,   入沢敬夫 ,   岩崎敏介

ページ範囲:P.1130 - P.1135

 1940年にKasabachおよびMerritt12)は巨大な血管腫と著明な血小板減少性紫斑病の合併例を初めて報告したが,彼らは,両者は偶然の合併と考えていた.しかし1953年Weissman25),Good8)らにより血管腫と血小板減少との間に一連の関連性が認められ,一つの症候群であるとみなされるにいたりThrombocytopenic Hemangio-ma,Kasabach-Merritt症候群その他の名称で呼ばれるにいたつた.教室でも最近3例の本症を経験したので報告し,本症の外科療法について文献的に考察したい.

軟部組織好酸球肉芽腫について—自験5例と文献的考察

著者: 伊藤善一 ,   鈴木正弥 ,   篠沢貞夫 ,   深田弘治 ,   石川正昭 ,   斉藤一夫 ,   吉沢良平

ページ範囲:P.1135 - P.1141

 好酸球浸潤を伴なつた肉芽腫は骨,皮膚,胃・腸の粘膜および皮下軟部組織などに出現し,すべてこれらは一般に好酸球肉芽腫Eosinophilic granuloma (以下E. G.と略称する)と総称されている.現在この名称には多少の混乱がみられており,また発生部位による病因・本態の相違が論議されているが,皮下軟部組織から発生する腫瘤は,骨,皮膚,胃・腸の粘膜および肺,尿路などのものとは一応別個の疾患と考えられ,その共通点は好酸球浸潤を伴なう炎症性肉芽であるといわれている22).われわれは最近12年間に当教室において本症の5例を経験したのでここに報告し,あわせて2,3の文献的考察を加える.

Recklinghausen病の本邦159例の統計的観察

著者: 津田多加良 ,   村岡徳保

ページ範囲:P.1141 - P.1144

 1882年von Recklinghausenの命名によるReckling-hausen病(以下R病と略す)は,皮膚に多発する結節様腫瘍,Cafe an Leit斑とよばれる色素沈着,神経幹腫瘍を主徴候とする一系統的疾患であるが,その後諸家の報告により,本症における骨変化が高率に発現することが判名し,本症に骨変化の重要性がしだいに認識されてきた.Weiseは1921年に本症にSkolioseが高率に存在することを記載し,またLehmanは1924年初めて骨発育異常と骨膜下嚢腫について記載している.また本症と遺伝との関係,腫瘍の悪性化等についてもかなりの報告例がある.
 われわれは最近皮膚腫瘍,色素沈着,および脊椎変形を伴なつた1例を経験したのでこの機会に,われわれの渉猟し得た本邦報告例に,われわれの1例も合せて本邦報告159例について,遺伝関係,腫瘍の悪性化,骨の変化などについて統計的観察を行なつて見た.

気管支性嚢腫の1手術治験例

著者: 遠藤三郎 ,   中島季陸 ,   佐藤鉄司 ,   平田耕之助 ,   真柄芳昭

ページ範囲:P.1145 - P.1148

はじめに
 気管支性嚢腫は比較的まれな疾患であつて,無症状例が多く,従来は剖検によつてはじめて発見される例が多かつた.近年,集団検診の普及ならびに胸部外科の発達に伴い剔出例の報告をみるに至つた.本症例も集団検診にて肺の異常陰影を指摘され,肺切除術によつて治癒した1例である.

胃の癌肉腫(Carcinosarcoma)について

著者: 谷村弘 ,   古田睦広

ページ範囲:P.1149 - P.1154

はじめに
 癌肉腫Carcinosarcomaとは一つの悪性腫瘍の中に上皮性と非上皮性の両成分の混在したもの,すなわち癌腫と肉腫がともに1個の腫瘍を形成しているものをいう.その発生,本態に対しては腫瘍学上はなはだ興味あるものとして注目されてきた.しかしその発生はきわめてまれなものとされ,なかでも胃に原発することはさらに頗るまれであつて,1904年Queckenstedt1)が報告していらい,外国に8例,本邦に16例を数えるにすぎない.最近著者はこのような胃に原発した癌肉腫の1例を経験したので,この症例を中心に胃の癌肉腫についてその特徴を述べたいと思う.

胃線維筋腫の1例

著者: 佐藤進 ,   渡辺哲夫 ,   山田和宏 ,   庄司忠実 ,   小野寺耕 ,   小檜山満雄 ,   瀬崎登志彰

ページ範囲:P.1155 - P.1156

はじめに
 胃の腫瘍としては癌腫が圧倒的多数を占め.良性種瘍は比較的少ないが,その中でも粘膜下腫瘍はまれなもののようである.
 私どもはレ線検査によつて胃癌の疑いをもつたが,胃カメラで粘膜下腫瘍であることを証明し,組織学的に胃線維筋腫であることを確認しえた症例を経験したので報告する.

副腎嚢腫の1治験例

著者: 古本雅彦 ,   鳥越漸

ページ範囲:P.1157 - P.1160

はじめに
 最近副腎の外科は急速な進歩をとげ,副腎の腫瘍についての報告も,しだいにその数が増加しつつある.しかしながらこれらの報告のほとんどは,内分泌的に活性な腫瘍であり、非活性型の腫瘍の報告は比較的少ない.また非活性型腫瘍の中でも,その多くは悪性腫瘍の剖検例あるいは偶然の発見例のようである.われわれは術前に副腎嚢腫と診断してその剔出に成功した症例を経験したので,多少の文献的考察を加えて報告する.

巨大単房性脾嚢胞の1例

著者: 椎名栄一 ,   中山祐 ,   永野志朗 ,   鳥飼勝隆 ,   三方淳男

ページ範囲:P.1160 - P.1165

 腹腔内臓器に発生する嚢胞のなかで脾嚢胞はきわめてまれな疾患とされている,われわれは最近巨大な単房性脾嚢胞の1例を経験したので,ここにその概略を報告しその発生機転について検討するとともにあわせて文献的考察を加えたいと思う.

副腎嚢腫の1例

著者: 金子千侍 ,   湯田康正 ,   長谷川泰 ,   田島達郎 ,   斉藤功

ページ範囲:P.1165 - P.1167

はじめに
 副腎の嚢腫は,1670年Greiseliusの第1例の報告以来,きわめてまれなもので,全世界の剖検,手術例を総合しても,その報告症例数は僅少である.なかんずく,本邦におけるその報告例は未だないもののごとく,その文献を知ることはできない.私はたまたま腎膿腫の疑いにて腎剔出術を行なつた際,偶然にも副腎嚢腫の存在を発見し,これを病的腎臓とともに剔出,全治しえた1例を経験したので,本邦における第1例として,ここに報告する.

瘻孔癌の2症例

著者: 中隆 ,   相川公太郎

ページ範囲:P.1168 - P.1170

 火傷,骨髄炎,粉瘤などの慢性創面からの癌腫発生の傾向は少なくない.1889年Volkmannがこのような症例223例を報告し,その後瘻孔癌に関してはZesás(1904),Hübler (1924)の系統的報告があり,最近はCocil (1953),Costelloa,Saxton,わが国では串崎,大野らの報告がある.著者は2例の瘻孔癌を経験したのでこれらと慢性炎症との関係について文献的考察とともに私見を述べたい.1例は痔瘻手術後の肛門癌,他は虫垂切除後に発生した腹壁の瘻孔癌である.

原発性右腎癌の1例

著者: 浦上輝彦 ,   竹森繁晴

ページ範囲:P.1170 - P.1173

Ⅰ.症例
 患者:42歳 家婦
 主訴:上腹部不快感
 既往歴および家族歴:特記すべきことなし.

腸管嚢腫様気腫の1例

著者: 福庭克郎 ,   渡辺俊一 ,   安達秀雄

ページ範囲:P.1173 - P.1175

はじめに
 腸管嚢腫様気腫は比較的まれな疾患であり,胃,十二指腸潰瘍に合併している場合が大部分がある.最近,腸閉塞症と診断し,開腹により絞抱腸管に嚢腫様気腫を認め,この部の腸切除を行なつたか,術後胃潰瘍を認め,再たび胃切除により治癒せしめた1例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻3号(2023年3月発行)

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78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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