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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科22巻1号

1967年01月発行

雑誌目次

特集 鼠径・陰嚢ヘルニアの問題点

腸壊死—整復の困難な場合の処置はどうすべきか

著者: 塩川五郎

ページ範囲:P.17 - P.19

はじめに
 課せられた問題を,外鼠径ヘルニア嵌頓による腸の壊死および穿孔と解釈し,女性骨盤臓器の嵌頓や滑脱ヘルニアの還納困難な症例には触れないことにする.また労力をはぶくために統計材料は最近11年間の例にしぼつたが,壊疽症例はこの範囲にとどめず昭和10年から29年までにさかのぼつて抜萃した.
 昭和30年から40年までの外鼠径脱腸手術数は2621例で,そのうち嵌頓した症例は233例であるから全数に対して8.88%となる.この233例中腸壊疽に陥つたものは7例で切除が5例,壊疽範囲が小部分なので縫合埋没したものが2例である.

鼡径ヘルニア内容腸管の癒着している場合の処置はどうすべきか

著者: 村上治朗

ページ範囲:P.20 - P.24

はじめに
 鼠径ヘルニア内容腸管が癒着して,根治手術に困難を感ずる症例はそんなに多いものではない.私自身が最近15年間に根治手術した鼠径ヘルニアは3927例で,そのうち,嵌頓症例は321例である.性別では男3170例(うち,嵌頓220例),女757例(うち,嵌頓86例)であり,右側2315例(うち,嵌頓243例),左側1071例(うち,嵌頓61例)で両側541例(うち,嵌頓17例)であつた.この中には腸管の一部がヘルニア嚢の一部に単純な索状癒着をしていて,これを2重結紮切断後,還納すれば良い程度の症例もあつたが,かかる症例はここでは問題としない.癒着に対する操作のあとで,普通に行なわれる根治手術を行なつたのでは,還納腸管に都合の悪い再癒着が起こつたり,ヘルニアが再発する危険のあるために,これらの術後事故を防止する目的で,根治手術に多少の困難な形成的操作を加えなければならなかつた症例は,しかし,比較的少なく,13例に過ぎなかつた.すべて10年以上鼠径ヘルニアに罹患している30歳以上の成人であつた.女子には1例もなく,罹患患者の7例は老人の再発性ヘルニアで,うち5例は2回目であつたが,2例は3回ならびに4回目の手術で脱腸帯を歩行時疼痛のために着けることができないので,止むを得ず手術を受けた症例であつた.

陰嚢ヘルニアを水腫と誤つて腸内容を穿刺した場合の処置はどうすべきか

著者: 河石九二夫

ページ範囲:P.25 - P.27

はじめに
 陰嚢ヘルニアを陰嚢水腫と誤認して穿刺するということは,時々見られることのようである.無事に経過した例もあるが,非常な不幸な結果に終つたという話も聞いている.
 かかる場合の処理をいかにするかについては後に述べることとして,まず,なぜこんな誤りが起こるかを考えて見よう.

ヘルニア術後創の化膿した場合の処置はどうすべきか

著者: 前田友助

ページ範囲:P.28 - P.31

はじめに
 ヘルニア(鼠径,陰嚢ともに)の化膿は以前にははなはだ稀というほどではなく,時々見かけたことがあつたが,近年はほとんどこれを見ることはなくなり,少なくも私自身ここ10年以上ほとんどこれを見たことがない.
 ヘルニアが化膿するとその跡始末には実に困るものであるが,幸いに近年これが著しく少なくなつたのは何よりもペニシリンなどの抗生物質が広く使用されるに到つたことが最大の原因であると思う.今日,手術場で使用の器械や材料を十分に消毒し,術後に適当量の抗生物質を用いたならばヘルニア手術創の化膿はほとんど起こりえないもののように考えられる.ただ,手術後に血腫が形成され,それが瘻孔状となつて化膿菌が侵入して化膿することなどは考えられないことはない.これらの点で手術後少なくも1週間は患者に安静を守らせることは必要で,私は一部に行なわれているように手術後3,4日目から起立歩行させ,あるいは僅か3,4日の入院で退院させることなどは避けるべきものと信じている.

術後の睾丸萎縮の予防はどうすべきか

著者: 志村秀彦

ページ範囲:P.32 - P.35

はじめに
 鼠径ヘルニアの術後合併症として出血(陰嚢血腫),陰嚢水腫,創感染,術後再発,呼吸器合併症(肺炎,気管支炎,肺栓塞),睾丸萎縮などが挙げられている.術後の睾丸萎縮は,以前は重視された合併症の1つであるが,最近では稀な合併症とされKiesewetterは,243例の手術例中4例,Welchは840例中4例に軽度の萎縮を認めたにすぎない.またSwensonは506例の小児ヘルニアの手術例中,術後合併症としての睾丸萎縮を見ず,Grossも1940年以来の3874例の手術例で,1例も経験していないと報告している.われわれも現在まで手術例の遠隔調査で,軽い睾丸萎縮を起した1例を経験しているにすぎない.しかし嵌頓ヘルニア,炎症性ヘルニア,再発性ヘルニア,巨大ヘルニアなど局所の病変が強く,手術操作が困難なものでは精索の血管損傷を起こしやすく,術後睾丸萎縮をきたす危険も大である,筆者は本問題についてその原因,および予防法について概説したい.

精系の切離された場合の処置はどうすべきか

著者: 斉藤淏

ページ範囲:P.36 - P.37

 精系とくに輸精管の切離.想像するだけでも一種の緊張感を覚える.幼小児であつても輸精管の切離の後に睾丸の萎縮は起こらないだろうし,他側は健在なのだからと軽く考えてはならない.精系動脈を切離したり結紮したりしない限りは,不問に附して置けるかも知れないが,意味のない切離はすべて避けるよう,つねに深甚の注意の要するのはいうまでもない.大人の場合には比較的その危険は少ないと思う.幼小児の場合は著者の実見しているところによると,一瞬の一切で決定的結果となつたが,知らぬ間に切つていて,後にそれと気付く場合もあろうと思われる.
 幼小児の鼠径ヘルニアについて,精系損傷を中心に不断に注意していることを述べる.

質疑応答

小児の先天性鼡径ヘルニア

著者: 蛯名勝仁

ページ範囲:P.37 - P.38

質問 小児の先天性鼠径ヘルニア(還納性)について,次にお答えください.(東京・勤務医)
 1) 自然治癒およびヘルニアバンド使用にる治癒の可能性と,ヘルニア門の大きさおよび年齢との関係.
 2) 手術以外に治癒の期待できないものを放置した場合.小児の発育その他に与える弊害の有無と,弊害があればそれを具体的に.

グラフ

乳癌の全乳房大切片標本と乳房レ線像について

著者: 川島健吉 ,   高橋勇 ,   伊藤久寿 ,   高田貞夫 ,   井上善弘 ,   岩渕正之 ,   林和雄

ページ範囲:P.5 - P.10

 近年,癌に対する対策は国家的事業としてとりあげられ,乳癌についても,一般社会,とくに婦人の関心と知識が向上したため,比較的早期の乳癌が治療の対象となりつつある傾向は,まことに喜ばしいことである,一方,ほとんど生理的な乳腺の腫脹や疼痛に際しても,乳癌と関連づけて恐怖を抱く婦人が少なくないことも事実であり,診療に従事する医師として,乳腺腫瘤の訴えがはたして悪性あるいは悪性化のおそれがあるものか,あるいはまつたく良性もしくは生理的範疇に属するものかを,明確に鑑別診断する責任がいよいよ増大し,診断と治療上の慎重さが要求されるに至つた.周知の通りいずれの疾患も,確定診断が下されて,はじめて適正な治療が可能であることは,いうまでもないが,現状ではいまだ充分とはいえない点がある.
 治療を必要とする乳腺疾患の確実な選択と,不必要な苦痛を与えることなく,いたづらに乳癌の恐怖におののく患者に安心感を抱かせるために,より正確な診断法の確立が痛感される.われわれは,最近4カ年間に約800例におよぶ乳腺患者を対象として,種々な理学的補助診断法を施行してきたが,乳腺患者の内訳をみると,最も多いものは乳腺症(約37%)であり,ついで乳腺線維腺腫(約15%),乳腺痛(約13%),乳癌(約10%),乳腺炎(約4%)の順であった.

外科の焦点

食道静脈瘤の外科

著者: 杉浦光雄 ,   坂本啓介 ,   阿部秀一 ,   堀原一 ,   三浦健 ,   小島靖 ,   小倉正久 ,   市原荘六 ,   豊島範夫 ,   山崎善弥 ,   本田善九郎 ,   築瀬正邦 ,   室井竜夫 ,   出月康夫 ,   野村満

ページ範囲:P.11 - P.16

はじめに
 食道静脈瘤をきたす疾患は主なるものとしては門脈圧亢進症がある.Weinberg1)は上部食道にできる静脈瘤として上大静脈閉塞,鬱血性心疾患(成人)をあげ,下部食道にできるものは門脈圧亢進によるものとしている.またPalmer,Brick2)らはWeinbergの上部および下部食道の静脈瘤以外に特発性をあげており,門脈,上大静脈の圧亢進のないものとし,350例の食道静脈瘤中13例(3.7%)にみられたと報告している.Mikkelsen3)は上大静脈閉塞例で7年の経過で上部食道静脈瘤の範囲が拡大した1例を報告し,Aufses4)は骨髄増殖性血液病で食道胃静脈瘤からの大量出血2例を報告し,Polycythemiaによる静脈瘤の進展の可能性について論じている.このように静脈瘤のできる部位によつてその原疾患が論議され,一方,門脈圧亢進に関しても組織学的に肝硬変症,肝線維症,日本住血吸虫症などあり,特殊なものとして肝静脈閉塞を伴う肝部下大静脈閉塞症(Budd—Chiari症候群)があるが,門脈圧亢進の原因として肝を中心とする門脈,肝静脈の狭窄または,血管床の減少が主因であり,どちらが先か不明ではあるが,補助的なものとして動静脈瘻があるといわれている.

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人事消息

ページ範囲:P.19 - P.19

葛西洋一(北大講師 外科) 助教授に昇任
卜部美代志(金沢大教授 外科) 結核研究所併任

論説

上部胃癌の検討

著者: 卜部美代志 ,   山本恵一 ,   竹森清和 ,   三浦将司

ページ範囲:P.41 - P.49

はじめに
 最近の外科学の進歩によつて,消化器に対する外科手術も,従来困難視されていた部位に積極的に加えられるようになつてきた.しかし,下部食道・噴門癌は現在でもなお他の消化器癌に比らべ,依然として高い手術死亡率を示し,術後生存率もまたきわめて低く,満足すべき状態とはいえない.ただ,近年すべての種類の癌腫に対し,新しい癌病理学の基盤に立つて,その治療法が再検討されている.上部胃癌についても当然として,その手術方法ならびに術後遠隔成績の再検討を企つべき機運が生じつつある.また,下部食道・噴門癌はX線撮影,逆視式胃カメラ検査,abrasive bailoon法など臨床家の努力にもかかわらず,その解剖学的位置より診断のもつとも困難とされるものであり,さらに,胸腹部境界疾患として癌腫の進展の様相,手術法の特殊性などにおいて,上中部食道癌や胃体部ないし幽門部の癌とは異なる1つの独立疾患として検討を要するものとみられている.そこで,先年胃癌研究会では検索対象として上部胃癌をとりあげ,同人の間で論議するところがあつた.そのさい,私どもの教室の材料として提示したものを整理して,ここに,本文を起草した次第である(昭和39年2月現在).

横隔膜ヘルニアについて

著者: 片岡一朗 ,   蟹江弘之 ,   桜井凱彦 ,   大矢裕庸

ページ範囲:P.51 - P.60

はじめに
 横隔膜ヘルニアには先天性横隔膜ヘルニアが多く,呼吸,循環器系,脱出臓器などへ及ぼす影響が強いため,新生児期における死亡率は高く,Bochdalek孔ヘルニアでは60%,食道裂孔ヘルニアでは12%といわれ,早期手術の適応で,ことに新生児におけるBochdalek孔ヘルニアでは,緊急手術を要する場合もしばしばあるが,無症状に経過し,成人になつて始めて,症状の現れる場合もある.従来,新生児に対する手術は極めて予後不良で,その手術法については種々異論のあつたところである.最近小児外科の進歩により,手術例の報告も増加し,その手術成績は著しく向上して,手術法についての論議もほぼ一致した意見に到達したかの感がある.
 そこで当教室において経験した8手術例を中心として,本邦文献より集計しえた564例(手術463例)を参照,また私どもの行なった実験的研究の1〜2を引用して,ここに少しく述べる.

胸部大動脈疾患の手術成績

著者: 上野明 ,   若林明夫 ,   丸山雄二 ,   粟根康行 ,   根本〓 ,   多田祐輔 ,   関正威 ,   村上国男

ページ範囲:P.61 - P.67

はじめに
 胸部大動脈疾患の外科的治療は,現在本邦の各施設において盛んにとりあげられ,その治療内容,成績も日進月歩の感はあるが,しかし血管外科領域の中では,まだきわめて問題の多い分野の1つであることに異論はないであろう.
 衆知のように本邦の大動脈疾患には,四肢動脈同様に他国ではほとんど報告のみられないもの,すなわち,脈なし病,あるいは異型大動脈縮窄症など,現在では非特異性炎症性大動脈疾患の概念で把握されつつある型が,かなりの瀕度を占め,原因論的に治療的に,わが国の占める役割が重大であり,その結論は諸外国でも注目している以上外科としても慎重に手術術式を選び,またその予後を観察する要がある.また胸部の大動脈瘤は腹部のそれと異なり,遙かに治療上の難点があり,その手術適応,術式の選択には未解決の点が少なくない.今回,教室ではこの領域の手術例が60例を越えた点よりその直接,および遠隔成績を報告し,これらの問題点を論じて一般のご批判を乞いたい.

甲状腺癌の外科的治療成績

著者: 降旗力男 ,   牧内正夫 ,   山口智安 ,   飯田昭平 ,   折井孝雄 ,   丸山智道

ページ範囲:P.69 - P.73

はじめに
 甲状腺癌は一般に予後の比較的良好な癌とされているが,わが国においては甲状腺癌の外科的治療成績を詳細に検討した報告はきわめて少ない.著者ら1)はかつて信州大学丸田外科と神戸市隈病院とにおける甲状腺癌について,外科的治療成績を調査して本誌1)に報告したが,今回,ふたたび丸田外科の症例について術後遠隔成績を調査し,全例にその消息を知りえたので,その外科的治療成績に考察を加えて報告する.

肝部下大静脈閉塞症13例の検討

著者: 小倉正久 ,   阿部秀一 ,   市原荘六 ,   本田善九郎 ,   室井竜夫 ,   野村満 ,   杉浦光雄

ページ範囲:P.74 - P.82

はじめに
 Budd-Chiari症状群と文献上記載されている疾患群は,原発性肝静脈内膜炎または炎症性,肝硬変性,肝腫瘍性の肝変化による2次的肝静脈血栓閉塞症であつて,閉塞部位は肝静脈の下大静脈開口部,または肝静脈枝であり1)2),症状は急激に発症経過し,早期に死亡するものが多いとされている.一方,本邦のBudd-Chiari症状群と報告されているものは,164例中,下大静脈閉塞を伴う慢性例が89%を占めており,成書記載のBudd-Chiari症状群とは明らかに異なる経過をとる疾患であると思われる.
 また,血管撮影法,カテーテル検査法の進歩普及に伴い,下腿静脈瘤,胸背部静脈怒張,肝脾腫を有するこれらの患者に接する機会が増加し3),これらを詳細に検討すると,肝部下大静脈に閉塞がみとめられ,肝静脈にも同時に流出路障害がある一群の疾患群であることが経験されるようになり,これはBudd-Chiari症状群とは異なつて,むしろ原発性の肝部下大静脈閉塞症と名付ける独立した疾患と考えたほうが妥当であると考えられるようになつた.本症の成因に関しては,いまだ不明の点がなくないが,木村教授4)は先天性と考え,Ductus Arantiusの閉塞機転と関係があると想像している.

トピックス

ガンによる胃切除の場合の機械縫合

著者: P. I. アンドロソフ ,   織畑秀夫

ページ範囲:P.84 - P.85

 現在,胃癌患者の治療の唯一の合理的方法が手術であるということはいうまでもない.
 体内の癌,とくに胃の主要部分における癌の根本的治療方法には2つぃのタイプがよく知られている.すなわち胃の全面的または部分的切除である.

海外だより

アメリカにおける小児外科

著者: 加藤幸一

ページ範囲:P.86 - P.87

 今回,アメリカにおける小児外科の現況について何か少し書いてくれないかと頼まれましたので筆を取つた次第です.私がアメリカ留学から帰つてから随分と成りますので,留学当時と現在とでは,少しズレがあるかも知れません.しかしながら,帰国後2回に渡つて欧州(北欧をも含む)および米国に学会講演を機に各大学および研究所を視察して廻りましたので,その時得たものも含めて述べたいと思います.
 現在では多くの人々が留学できるようになりましたが,私達が行くころは非常に厳しい制限があり,行く人の数にも限りがあつた.現在でこそ日本の各有名大学の研究所,手術室を見て廻つても,相当にアメリカナイズされて驚かなくなつたが,私達の帰国当時の日本の現状は,相当にアメリカに遅れているものがありました.

患者と私

誠心誠意事にあたる

著者: 東陽一

ページ範囲:P.88 - P.89

 医師とは人命を取扱うことになりうる職業であるだけに,医師という資格が与えられるまでに,他の科の人たちより長い年月が必要とされでいる.しかし学問だけがよくできるからというだけで,立派な医師ということはできない.その上に人間性を多分にもつているということが何よりも大切なのであるにもかかわらず,現在の医学教育では,この方面に積極的な教育配慮がなされていない.
 患者のほうから見ると,医師という肩書きをもつていれば,みな立派な人々だと思いこんで,からだをまかすわけであるが,その診療の間に,患者の評価は色々に変つてくる.

追悼

移植と2人の科学者,故篠井金吾教授を偲んで

著者: 辻公美

ページ範囲:P.90 - P.91

 故篠井金吾東医大教授は,1932年すでに皮膚移植と免疫について立派な業績を残され,最近では,本邦第1例の肺移植を行なわれました.ところが残念にも篠井教授は,9月3日永眠されました(本誌,21巻11月号掲載).
 故篠井教授の推せんでDuke大学でtransplantation immunologyを学ばれた同教室の辻公美博士が,今回,次の一文をお寄せくださいました.文中のDr.Amos,Dr.Medawar両氏の手紙にも篠井教授の,科学者としての偉大さがうかがわれます.

雑感

内科小児科開業医と外科との関係

著者: 広瀬正義

ページ範囲:P.92 - P.92

 内児科を10数年開業してると,いやおうなしに他科,とくに外科とは切つても切れない関係ができてくる.その関係を思いつくままに分析,分類してみよう.
 疾病の扱い方は,患者側の条件,医師側の条件,両者間の人間関係,その疾病の経過した時期などにより,はなはだしく異なるものである.したがつて,以下の各項目にあてはまる疾患は医師個人によつて千差万別であろう.

餡麺麭と蕁麻疹

著者: 林富士馬

ページ範囲:P.93 - P.93

 棟方志功画伯がアメリカでくらした1年ほどの間に,餡麺麭をさがし求めたが,どこにもなかつた,不便をしたと,帰つた時に言つたというはなしを聞いた.それから欧州を旅した時も,どこでさがしても餡麺麭はなかつたそうである.
 棟方志功と餡麺麭の取り合わせが大変たのしく思われた.棟方画伯におめにかかつたことがあるので,殊更になつかしいはなしに思われた.もちろん,画伯が特別に餡麺麭が好物というわけではなかつたと思われるが,ふと思いついて,食べてみたく思われたのであろう.

外国文献

pseudotumor cerebri,他

ページ範囲:P.94 - P.97

 pseudotumorあるいはbenign intracranial hyper-tensionのlong-term follow upはDavidoff(Neurology6:605.1956),Paterson(Medicine 40:85,1961)など少数の報告があり,このうちFoley(Brain 18:1,1955)は1/4に視力障害が長く残つたといい,optic atrophy がみられたという,Dersh(Tr.Am.neurol.Ass.84:116,1959)はinferior nasal quadrantanopiaが残つたとしており,やはり注意される.そこでGreer(Neuro-1ogy 15:382,1965)は本症をそのetiologyによつてdefineしようとしている.さて,Lysak(J.Neurosurg.25:284,1966)は46例(各年齢層),肥満12,ステロイド療法中のゼンソク3,血液病1,その他原因疾患なし30例について,3〜24年follow-upした.この間,46例のうち,心血管病2,高血圧4,リウマチ性心疾患1,心筋硬塞1,消化性潰瘍2,田中症1が合併した.視力ではpseudotumor症状再発して3例に高度障害(3年,17年,14年各1例)が生じた.

手術手技

胃切除術六題(その2)—十二指腸潰瘍に対するBillroth-Ⅰ法(中山法)

著者: 中山恒明 ,   織畑秀夫

ページ範囲:P.101 - P.106

 前回は,胃潰瘍に対する胃切除術について,書きましたが,今回は十二指腸潰瘍について,書いてみたいと思います.十二指腸潰瘍も胃潰瘍の場合とまつたく同じく良性疾患でありますので,この場合も必ずしもリンパ節,大網などを一緒に剔出する必要はありません.ただ潰瘍が十二指腸部にありますので,非常にしばしば在来はその部分を残した,いわゆるFinsterer Ausschalt-resektion(幽門部曠置胃切除術)というようなものが行なわれました.しかし私(中山)が20年前に考え出した,いわゆる後壁固定による胃切除術を行なえば,ほとんどの十二指腸潰瘍にBillroth Ⅰ型の胃切除術を安全に,しかも容易に行なわれるようになりました.したがつて,その方法についてこれからお話します.
 手術手技上の重複を避けるために,第1回目に述べた,いわゆる胃の分離の方式は,できるだけ簡単に記載します.この場合ももちろん胃の動脈の解剖は良く知つておらねばなりません.私はこの場合も順序として(第1図は解剖図,第2図は重要血管結紮部位)脾臓の傍の短胃動脈の部分で大網を開いて,そして横行結腸側の大網を動脈留針によつて糸をかけて結紮し,胃側の大網はペアン止血鉗子をかけて,間を切断します(第3図).次に胃ならびに横行結腸を別々に特ち土げて,いわゆる胃横行結腸靱帯を剥離します(第4図).

他科の知識

外科臨床における心身医学

著者: 小此木啓吾

ページ範囲:P.107 - P.111

はじめに
 私のように,外科にはまつたく素人の精神科医が,外科臨床と縁深くなつたのは,ひとえにここ10年余にわたる慶大外科教室のかたがた,とりわけ石井良治助教授との協力による心身医学を通してである1)2).しかし外科専門医とのよき協力体制が得られれば得られるだけ,外科の専門のことはそれにオンブし放しで,外科の心身医学といつても,もつぱら私は,外科から依頼される患者たちへの精神医学的側面からの接近に終始している.そんなわけで,本稿も,"外科臨床における心身医学の精神医学的側面"に限つたものになると思う.

症例検討会

胆石症を疑つた胆嚢癌

著者: 中山恒明 ,   織畑秀夫 ,   太田八重子 ,   羽生富士夫 ,   岩塚辿雄 ,   遠藤光夫 ,   小林誠一郎 ,   山口慶三 ,   荒木仲 ,   沢井明子

ページ範囲:P.112 - P.115

 荒木 最初の例は,黄疸と発熱と右季肋部に抵抗がある患者です.普通そういう患者を見たときに,胆石あるいは胆のう炎,また40歳を過ぎていると,なにか胆管を圧迫するような癌でもできているのではないか,ということを疑うわけです.しかも鬱滞性黄疸であれば,ますますその疑いが濃厚になるということなんですが,私達もそういうふうに診断し開腹手術の結果,胆石と一緒に胆嚢癌がありました。さらにまことに複雑といいますか.胆石と癌あるのはそれほど珍しいことではないと思いますが,そこに細菌がでて,しかもチフス菌だったという珍しい症例ですので.手術はすでに終了していますが.ここに報告して,臨床経過を振り返つて参考にしたいと思います.先ず受持の沢井先生から症例について報告願います.
 沢井 患者は64歳の男子で,主訴は黄疸です.昭和41年8月初めごろより食欲不振となり,ときどき右下腹部痛があり,同年8月25日に37.9℃の発熱がありました.尿意頻数を伴うので近医を訪れ、腎盂炎の診断のもとに化学療法をうけ,尿意頻数は消失したが,微熱が持続し,黄疸および右季肋部痛が出現し、黄疸が増強するために41年9月2日当科外来を受診し,同日入院しました.

症例

巨大な両側慢性硬膜外血腫の1例

著者: 泉周雄 ,   渡辺正幸 ,   玉城通弘

ページ範囲:P.121 - P.123

はじめに
 頭部外傷に基づく硬膜外血腫は,主に中硬膜動脈破綻によるため,ほとんどすべての例が急性に発生し,亜急性ないし慢性頭蓋内血腫は主として硬膜下血腫である.出血源が静脈性または小動脈の場合,稀に亜急性ないし慢性硬膜外血腫を作成するが,これも後頭蓋窩に起こることが多い.したがつて大脳半球部に発生する慢性硬膜外血腫は,きわめて珍しいものと考えられる.
 われわれは最近両側性の慢性硬膜外血腫の1例を経験したが,その1側の血腫量350ccという巨大なものであつた.この症例は幼児期に脳性麻痺に罹患し,以後精薄状態であつて,内水頭症を合併していたため,頭も大きく,それがこのような巨大な血腫を作つた一因と推察されるが,それにしても,きわめて稀な症例と考えられるのでここに報告する.

過外転症候群について

著者: 高岸直人 ,   田丸卓郎 ,   国東易径 ,   大谷武

ページ範囲:P.124 - P.126

はじめに
 腕を長時間過外転位にして眠つたり,仕事をしている時に腕に知覚異常,運動障害,疼痛などきたすことを経験することがあるが,本症候に関して,1945年Wrightが過外転症候群として報告している.左官,配線工などによくみられるものである.このmechanismは腕を過外転すると上腕神経叢および鎖骨下または,腋下動静脈が小胸筋や鳥喙突起や鎖骨〜第1肋骨腔間で圧迫されるというのであるが,われわれも15例余の本症患者を経験し,かつ手術所見,解剖所見などより臨床的,解剖学的検討を加え,Wrightの説に再検討を加えた.われわれの研究成果もTelfordらのそれにも見られるごとく,Wrightの説とは必ずしも一致せず,Wrightの説が必ずしも正しくはないと思われたので,これについて報告し,また諸先生方のご批判を仰ぎたい.

特発性膀胱破裂の1例

著者: 鷲尾正彦 ,   桜井淑史 ,   清水好男 ,   金井弘 ,   岩崎敏介

ページ範囲:P.127 - P.131

はじめに
 現今,外傷性膀胱破裂はそれほど珍しいものではないが,いわゆる特発性膀胱破裂は稀な疾患とされている.
 われわれの教室においては先に2例の特発性膀胱破裂を経験し阿部1)が発表したが,最近さらに1例の経験例を得たので追加報告する.

Ebstein氏病の1例

著者: 星野俊一 ,   菅場定次 ,   渡辺徳夫 ,   八子柳一

ページ範囲:P.132 - P.136

はじめに
 最近教室において術前諸検査でEbstein氏病と診断,右肺動脈と上大静脈の端側吻合術を施行したが,吻合部血栓形成による肺循環不全のため術後60時間にて死亡,剖見によりEbstein氏病と確認し得た1例を経験したので報告する.

座談会

代用硬膜材の使い方をめぐつて

著者: 桑原武夫 ,   宮崎雄二 ,   高田育郎 ,   戸谷重雄 ,   志沢寿郎 ,   佐藤文明 ,   平井秀幸 ,   早川勲

ページ範囲:P.137 - P.145

 桑原(司会) 今日は代用硬膜材ゼルフィルムの使い方について話しあつてくれということでございます.こういう代用硬膜は,硬膜が閉じられないような場合,あるいは足りなくなつたような場合に使うわけですけれども,もし硬膜を閉じなければどういうようなことになるだろうかということを考えてみますと,まず,そのまま閉じないでおくとliquorが外にもれやすいということがあります.もう1つは,だんだん治つていく過程において,脳の表面とduraが癒着して,これが将来,なにか災いを残す.そういうようなことがduraを閉めないでおくと起こりうる.そのためにこういうような代用硬膜を使うのだろうと思うのです.したがつて,代用硬膜が果たさなければならない役割というのは,硬膜を完全に閉鎖するということと,癒着を防止するということ,これがもつとも基本的な要素だろうと思うのです.
 そして,代用品ですから,いろいろな生体反応があつてはならないし,免疫反応を起こしてもいけない.それから,感染のもとになつてもいけない.また,このものは異物ですから,必要がなくなつたらば吸収されてなくなつてくれれば一番いいわけです.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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78巻13号(2023年12月発行)

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78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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