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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科22巻10号

1967年10月発行

雑誌目次

特集 イレウスの治療—その困難な問題点

教室におけるイレウス死因の研究成果に基づいての治療の実際

著者: 松倉三郎 ,   代田明郎 ,   三樹勝 ,   藤島義一 ,   内藤委仲 ,   市川豊 ,   清水淑文 ,   谷口恒義 ,   柴長儀 ,   寺岡資郎 ,   服部博之 ,   恩田昌彦 ,   鎌田文明 ,   山下精彦 ,   柴積 ,   塚原英之 ,   埴原忠良 ,   清水良泰 ,   斉藤淏 ,   堀江伸 ,   馬越正通 ,   掛川功一 ,   西尾騰五 ,   田北周平 ,   西島早見

ページ範囲:P.1357 - P.1371

はじめに
 松倉およびその共同研究者らは長年月にわたりイレウスの死因を中心とする病態生理について種々なる角度から臨床的ならびに実験的研究を実施し,これら知見をもとにして1951年1)以来,従来のいわゆるイレウスのヒスタミン説にたいして新たにアセチルコリン説を提唱してきた.
 つぎにわが教室のイレウス死因に関する研究成果の大要を述べるとともに,これにもとづく治療の実際の一つとして,イレウスの低体温麻酔療法とその病態生理について述べてみよう.

イレウスをめぐつて診断の困難な場合どうするか

著者: 葛西森夫 ,   四方淳一 ,   松尾泰伸

ページ範囲:P.1373 - P.1377

はじめに
 急性腸閉塞症の診断は定型的なものでは比較的容易であるが,診断が困難な場合として次のようなものがあげられる.(1)腸管にある程度の通過障害があることは確かであるが,急性イレウスと診断すべきかどうか,(2)突然激痛を伴つて発症した場合,この代表的なものは腸捻転であるが,消化管の穿孔との鑑別に注意を要する,(3)急性腸閉塞症特に閉塞性イレウスの進展例で腸麻痺を合併した場合は,消化管穿孔後時間を経過した例との鑑別が困難となる.(4)麻痺性イレウスと器械的腸閉塞症との鑑別は,手術後や器械的腸閉塞症が進行した場合に困難である.(5)また.手術後には腸管麻痺と縫合不全による汎発性腹膜炎との鑑別も難しい場合がまれでない.(6)特殊な例ではあるが,新生児期にイレウス症状をきたす疾患で早急に手術を必要とする先天性腸閉塞症や腸異常回転位症に伴う腸捻転などと,必ずしも手術を要しないヒルシュスプルング病,あるいは手術が有害無益である機能的イレウスとの鑑別は時にいちじるしく困難である.
 以上述べた(1),(4),(5),(6),は,病名診断が直ちに開腹手術を行なうべきか否かの決定に関連する.それに対して(2),(3),の場合はいずれにしても開腹手術を必要とする.しかし,開腹手術が必要であつても,汎発性腹膜炎かイレウスかにより,またイレウスであればその型と閉塞部位によつて開腹部位または皮切の方向も異ならねばならない.

救急手術の方針をたてる場合どうするか

著者: 佐藤博

ページ範囲:P.1378 - P.1380

はじめに
 イレウスは,われわれは外科医にとつては,いわゆる救急腹部症の一つとして,診断ならびに治療について,その適確性と迅速性を要求される.重要な疾患の一つである,したがつて,イレウスの原因や,部位による差異ならびに,経過,予後などにつき,あらかじめ正しい知識をもつて,患者に応待する必要があろう,しかし一方において,原因が異なつていても,終局的には,同じ,症状が現われてくる場合もあり,他方同じ単一の原因でもその経過中刻々と症状が変つてくるものもあり.イレウスの診断については,なかなか複雑な要素が含まれている.したがつてその治療についても画一的なものでこと足りるわけにもゆかず,われわれが手術を行なう場合,その診断と,手術の時期と,手術の方法をいかにするかということは,非常に重要な問題となろう.

救急手術を回避しようとする場合どうするか

著者: 山本俊介 ,   伊東敬之 ,   岡林義弘

ページ範囲:P.1380 - P.1383

はじめに
 最近のイレウス治療成積は,診断,抗生剤の進歩,麻酔の発達,術前,術後の患者管理の向上などにより,いちじるしい進歩をとげている.しかしながらイレウスの診断なかでもその型の判定については古来幾多の報告があるが今だ一定するものはなくその都度当面の外科医の判断により手術,あるいは保存的療法を選ぶ場合が多い.
 表題のいかにして救急手術を回避し得るかということは換言すればいかに手術を避け得る症例を選ぶかの一言につきる.イレウスをその病態生理の面より放置せる場合はまず腸壁血管の変化→細菌ならびに毒物の腸壁透過→腹腹炎,中毒→蠕動亢進,麻痺→腸管拡張,筋伸張→腸壁の静脈管塞閉→局所性血行停止→壊死と悪循環をくり返し,ついには死の転機をとる.たとえば単なる単純性イレウスで圧迫型,屈折型の場合においても同様放置すれば患者は重篤な結果になる.またすでに複雑性イレウスでしだいに腸管壁死に陥入りつつあるか,あるいは壊死がすでに成立しているような場合,これを回避しようとする試みはいたずらに患者の一般状態の悪化を促進せしめるのみであり無駄より有害な試みとなるであろう.すでに腹膜症状を呈している場合も同様である.四方はイレウスの簡易診断法としてIleus Indexをあげ1つの判定基準として取つた.

胃切除後の早期イレウスの診断はどうするか

著者: 西村正也 ,   古沢悌二

ページ範囲:P.1384 - P.1386

はじめに
 胃切除後のイレウスは,他の腹部手術の術後イレウスと同様に,術後数日以内に発症するものから,かなりの長年月を経てはじめて起こつてくるものもある.ここでは,特に胃切除術後の早期イレウスの診断に焦点をあてて,これをいかに取扱うべきかを述べてみたいとおもう.
 はじめに,早期イレウスを術後数日中より1ないし2ヵ月以内(原則として胃切除術のための入院期間内)に発症するものとして,最近の教室例(昭和40年1月より昭和41年12月までの2年間)でその発生頻度をみてみると,第1表のごとくなる.胃切除総数220例中6例(2.7%)の発生があり,うち4例は手術的療法を行なつている.この頻度よりみても.胃切除後早期イレウスはあまり多いものとはいえず,これは他の報告1)とも一致する.なお,こつ表の胃切除例には同時に虫垂切除術,胆嚢摘出術,脾摘出術,結腸部分切除術,膵部分切除術,肝部分切除術,いろいろの程度のリンパ腺廓清術等を行なつたものをも含む.また,ビルロートⅡ法においては,胃ないし食道空腸吻合術は,その大部分が結腸後法であり,結腸前胃空腸吻合術においては原則としてBraun吻合が行なわれている.早期イレウス発症6例は原疾患別では胃癌術後が5例,十二指腸潰瘍術後が1例,また胃切除術式ではビルロートⅠ法後は1例,ビルロートⅡ法後のものが5例となつている.再開腹に至つた4例はいずれもビルロートⅡ法後発症したものであつた.

広汎な癒着のある場合どうするか

著者: 高山坦三 ,   早坂滉

ページ範囲:P.1387 - P.1389

はじめに
 機械的イレウスには,いろいろの形があるが,なかでも術後癒着性イレウスは,もつとも頻度が高く,イレウスの原因の約50%をしめるといわれている.われわれの教室における過去15年間の統計をみても,全イレウス症例の64%は癒着性イレウスである.そのうちには,癒着障害として数回にわたつて開腹術をうけたのちについに急性イレウス病状を呈し,やむなく緊急手術を必要とした症例も少なくない.しかしてこれらの症例では,いずれも広汎な腸管の癒着があるため,その治療に困難をきわめたものが多い.いずれにしろすでに開腹術をうけているものにイレウス状態がおこつたばあい,まず第1に癒着が主因をなしているとみなければならず,それが簡単な癒着であればさして問題はないが,もし広汎な癒着があるばあいには,その程度,部位に応じそれぞれ困難な問題があるわけである.以下,とくに広汎な癒着があるばあいの治療にかんして日常われわれがおこのうている方針と手技とについて述べてみたい.

機械的イレウスで高度の腸麻痺にたちいたつている場合どうするか

著者: 浜口栄祐

ページ範囲:P.1390 - P.1392

Ⅰ.機械的イレウスにおける腸麻痺の病態生理
 機械的イレウスは単純性イレウス(閉塞性イレウス)と複雑性イレウス(絞扼性イレウス)とに大別できる.それにしたがつて腸麻痺の発生機序が異なつている面がある.
 絞扼性イレウスでは血行障害の発生当初にすでに腸麻痺が認められる.それは腸間膜の絞扼が腸管の血行障害を惹起すると同時に,交感神経を介して反射性に腸運動が抑制されるによるのである.この腸麻痺は絞扼された腸係蹄ばかりでなく,それより口側の腸係蹄にも起こるものである,絞扼部の腸係蹄の蠕動はその後も回復はしないし,時間の経過とともに腸管腔内にはガスと液体とが増加し,いわゆる局所性鼓腸の像を呈する.これがv.Wahlの徴候である.もし絞扼が広汎にわたり,かつ強度であれば,絞扼性イレウスの典型的臨床症状を呈し,時を移さず手術を行なわなければ死の転帰をとるから,絞扼発生後の長時間にわたる腸運動の変化は観察できないものである.

結腸癌によるイレウスの治療はどうるか

著者: 堺哲郎

ページ範囲:P.1393 - P.1395

Ⅰ.結腸癌によるイレウスの臨床2・3例
 結腸癌によつてイレウスを呈することはそう稀ではない.20%前後と思われるが,右側結腸の内容は左側結腸のそれに比べて,まだ硬くなく水性であるので,右側結腸癌の場合はむしろ亜急性または慢性型をとる.これに反し,左側結腸,特にS状結腸の場合は,"Ligaturkrebs"といわれる位に環状狭窄型をとる場合が多く,加えて内容は水分が吸収されてしまい硬くなつているので,急性型のイレウスを呈することが多い.
 また,癌組織増殖によつて腸管内腔が完全に閉塞してイレウスをおこす場合(付図a)の他に,比較的の閉塞であるのに,その上部腸管に糞塊がつまつてイレウスを呈する(付図b)場合もある.まれではあるが,移動性に富むS状結腸では腸重積症を呈することがある(付図c).1例これを私どもは経験している.こういうイレウス症状に加えて,原発癌組織が壊死におちいつて穿孔する場合(付図d),閉塞上部腸管が強く拡張し内圧亢進に抗しかねて穿孔する場合(付図e),盲腸壁の穿孔(付図f),また虫垂炎様症状を呈する場合(付図g),もあることは知つておく必要がある.しかし,こういう腹膜炎の合併症は比較的徐々に進行し,silentに経過するため診断が確立されず,予後は一般によくない.

乳小児の腸重積症において高圧院腸の不成功の場合どうするか

著者: 村上治朗

ページ範囲:P.1397 - P.1400

はじめに
 乳小児腸重積症は,高圧浣腸によつて整復治癒させることができる場合が少なくないことは古くから知られていた.この高圧浣腸成功率は本症の早期診断と整復手技の進歩とともに近来とみに向上し,その全症例を高圧浣腸で治癒せしめたという報告1)さえ現われるようになつた.しかし全症例高圧浣腸成功というような報告は第一線医療機関で経験症例も少ない場合であつて,医療機関の装備・術者の手技・治療方針・来院時の病態などによつて高圧浣腸不成功,または不適当として,治療の完壁を期するために手術に移らなければならぬ症例は今日といえども実際には少なくないのである.手術の必要性は高圧浣腸偏執報告の症例における死亡率をみれば思いなかばするであろう.

腸重積症の高圧浣腸について

著者: 駿河敬次郎

ページ範囲:P.1401 - P.1403

いとぐち
 1674年,P.Barbetteより報告された腸重積症は,小児外科,特に乳児外科領域では,Classical diseaseとして,重要な疾患の1つである.本症の頻度は,報告者によりいろいろであるが,欧米の主要な小児病院外科での統計では,毎年20例前後の症例が取り扱われている.私どもも,過去3年半に,52例を経験しており,取扱数については,欧米の小児病院と余り差異がない.
 小児期の腸重積症は,60ないし65%が,満1歳以下の乳児でありとくに,生後4ヵ月より9ヵ月の年齢にもつとも多くみられるので,治療方針の決定には,慎重を要し,また,問題点も少なくない.以下,私どもの経験した症例にもとづき,本症患者を取り扱うさいに,まず考慮しなければならない.本症の病因,病型にかんする問題,診断,さらに,本症の治療上,重要な高圧浣腸による腸重積解除についてのべる.

広汎にわたり腸管に血行障害のある場合どうするか

著者: 瀬田孝一

ページ範囲:P.1403 - P.1405

はじめに
 腸管に血行障害をきたすイレウスとしては主に絞縊性イレウスであるが,広汎にわたり腸管の血行障害をもたらすものとしては,絞縊性イレウスの中でも腸絞縊症,腸捻転症,腸管結節形成,腸嵌頓症などの場合が考えられる.また特殊なものとして腸間膜血栓症のさいにもイレウス状態となり,しばしば広汎な腸管の血行障害をきたす.

急性虫垂炎に機械的イレウスを併発している場合どうするか

著者: 脇坂順一 ,   矢野博道

ページ範囲:P.1406 - P.1408

はじめに
 イレウスの治療の特集の1つとして,筆者らには"急性虫垂炎に機械的イレウスを併発している場合どうするか"という表記の課題について解説するように編集子から依頼を受けた.
 数名の実地臨床外科医および教室員に上記の題の質問をしたところ,「虫垂切除を行ない,イレウスを解除する」ときわめて簡単なしかも明確な解答が得られた.なるほど,急性虫垂炎に対しては虫垂切除を行ない,併発した機械的イレウスに対してはこれをなんらかの方法で解除してやればよいわけで,問題はないように思われるが,さらに深く考えてみると,非穿孔性の急性虫垂炎に機械的イレウスを併発することは盲腸炎を合併するような高度の炎症がある場合以外にはほとんどなく,急性虫垂炎にイレウスを併発するのは主として穿孔性の虫垂炎で,膿瘍を形成した部位をschützenするように小腸ないし大網が癒着してイレウス状態を起こすか,または虫垂穿孔によつて腹腔内(freies Bauchhöhle)に流出した膿汁ないし滲出液が拡散しないように小腸相互間が防波堤のように癒着し,またはこれに大網が加担して発生する癒着性イレウスの場合である.したがつて,急性虫垂炎に併発した機械的イレウスはその病巣を拡散させないようにし,限局化せしめようとする汎発性腹腹炎に対する生体の防衛機構とも解せられる.

イレウス管使用の適応はどうするか

著者: 大矢裕庸

ページ範囲:P.1409 - P.1411

はじめに
 Miller-abbottのlong intestinal decompression Tubeとして知られたイレウス管は,その後工夫と改良が重さねられ,今日では,広く利用されるようになつた.ここではわれわれが使用している斉藤式イレウス管をかかげ(第1図)その使用の適応についてのべてみたい.

グラフ

X線単純撮影像の読影に難渋する場合どうするか

著者: 大内清太 ,   柴田晋 ,   鈴木行三

ページ範囲:P.1341 - P.1346

イレウスはacute abdomenの代表的疾患の1つで,迅速な診断,処置を心要とする.すみやかに既往歴,腹部所見診査,一般臨床検査を行なうとともに,侵襲も少なく,時間もとらない腹部単純写真の撮影が望ましい.
これらの成績を総合すればイレウスの診断,閉塞部位やその原因などの判断が可能な例が大部分であり,さらに種々の検査を行なつて正確な診断を下そうとする試みは一面理想的とも考えられるが,いたずらに治療開始までの時間を浪費するばかりでかえつて予後を悪化させることが多くさけたいものである.

アンケート

イレウス手術の前処置はどうしているか

著者: 大村泰男

ページ範囲:P.1386 - P.1386

 私の掲げる症例は,慢性再発性腸癒着性イレウス患者であつて,その底にある栄養低下,すなわち,手術療法への抵抗力減弱に対する処置について考察したい.
 腸癒着性イレウスは再発し易いから,たびたび手術を受ける例が多い.すでに10回目の手術だと訴える例にも会つた.こんな患者は外科医を転々し,手術者も代つて多人数にのぼる.過去には如何なる手術方法が行なわれたか不明のまま,腸切除か腸吻合によるバイパスがつくられる.つまり腸管の長さが,手術のたびに短縮されるのである.

イレウス手術の前処置はどうしているか

著者: 荒川久

ページ範囲:P.1400 - P.1400

 過去36年の第Ⅰ線外科開業医としての体験を記す.尊い生命を救うことが本命で,病源のみを衝くにあまりに急であつてはならない.開腹して直視下に適当な処置をすればよいというような安易な考え方は極力避けねばならぬ.「森を見る猟師山を観ず」または「牛の角を矯めて牛を殺す」の愚を学ばないことだ.非観血的に全力をあげて闘い,万事窮して,なるべく早期に,電光石火,手術への判断が必要である.手術,非手術のいかんを問わず,月並なことであるが前処置を列記する.

外科の焦点

補助循環—その原理と臨床応用

著者: 阿久根淳

ページ範囲:P.1347 - P.1355

はじめに
 薬物的療法にはもはや全く反応を示さないような重症心不全症に対し,なんらかの方法でその不全に陥つた心機能を積極的に補助あるいは代行することにより,適正な体循環を維持して生命の危機を切り抜ける一方,その不全心に回復の機会を与えようとする努力は,今日まで数多くの研究者によつてなされてきたところである.
 このような循環不全に対する治療法には,ちようど呼吸不全の対策として補助呼吸(assisted respiration)あるいは調節呼吸(controlled respira-tion)が考慮されるように,補助循環(assisted circulation)または調節循環(controlled circulation)なる名称を与えるのが妥当かと考えられる.事実,欧米においては現在まで各研究者によつて種々の命名が行なわれてきたが,次第に"assisted circulation"なる名称に統一される機運にあるもののようである.わが国においても数年前ごろから補助循環という用語が徐々に採用され始め,今日ではさして目新しいものではなくなつてきた.

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人事消息

ページ範囲:P.1383 - P.1383

林田健男(東大教授 外科)文京区目白台3-15-24へ転居
御手洗玄洋(名大助教授 環境衛生研)名大教授に昇任

論説

心臓手術における自己血輸血

著者: 砂田輝武 ,   寺本滋 ,   志水浩 ,   河合進 ,   大本武千代 ,   妹尾嘉昌 ,   平井淳一 ,   佐藤温三

ページ範囲:P.1415 - P.1419

はじめに
 体腔内に出血した自己の血液を輸血に用いるという意味の自己血輸血の試みは,1914年Thies1)によりはじめて報告され,その後子宮外妊娠,肝脾の破裂などのさい救急的に行なわれてきたが,銀行血が容易に入手できるようになつた近年はまれに行なわれているにすぎない.
 しかし,1962年Milles, Langston2))3)らは肺結核手術における自己血輸血の可能性について大規模な検討を行ない,術前1〜2パイントの採血なら高令層でも安全で,かつ十分手術に耐えることを実証した.この同種輸血による種々の障害を防止することを目的とした自己血輸血は,本邦でも吉野4),松井5)らにより肺手術で追試され好結果が報告されている.

"Glue Appendectomy"300例の経験についで

著者: 檀上泰 ,   宮川清彦 ,   田中信義 ,   佐藤知義 ,   石塚玲器 ,   佐々木英制 ,   福木徹

ページ範囲:P.1421 - P.1426

はじめに
 手術操作の基本である糸と針による縫合法を接着剤で置換しようとする画期的な試みは,米国および本邦においてきわめて盛んであり,この方面に関する研究報告が近年頻繁に行なわれている.しかし臨床応用となるとまだ絹糸縫合に依存することが多く,その補助的手段にとどまつているに過ぎない.今後,接着剤の改良と発展が期待できるので,やがて絹糸縫合が過去の手術操作となる時代が到来するのではなかろうか.
 現在常用されているシアノアクリレート系接着剤でも,その特性と使用方法の検索により臨床応用の拡大と普及が期待されると考えている.

手術手技

小児腸重積症の治療

著者: 武藤輝一

ページ範囲:P.1427 - P.1432

はじめに
 腸重積症は乳幼児の器質的腸閉塞症の大半を占め,近年小児外科の進歩とともに治療成績にも著るしい向上がみられるようになつてきた.小児腸重積症のほとんどが回盲部を中心とした重積症であるが,本稿ではいわゆる"二連銃式縫合固定法"を中心に手術療法についてのべることとする.なお,私は,(1)保存的療法(バリウム高圧注腸など)で整復不可能のもの,(2)発症後長時間を経ているもの,(3)全身状態不良のもの,を手術療法の適応としている.また手術前に,まず経鼻的に胃内に吸引管を挿入,留置して嘔吐や誤嚥を防ぎ,静脈を確保し(必要に応じ静脈切開を行なう),点滴による輸液を開始する.麻酔は通常気管内挿管によりフローセンを使用している.

他科の知識

小児泌尿器の外科

著者: 辻一郎

ページ範囲:P.1433 - P.1438

はじめに
 われわれの教室の統計によると,泌尿器科を訪れる幼小児の割合は年々ふえてきて,最近では外来・入院ともに全体の11%をこえている.
 12年間の泌尿器科外来小児患者約1,500例のうち,4割強は一応泌尿器外科の対象となる疾患であつた.もちろんそのすべてがただちに外科的治療を必要とするものではなく,この期間に実際に手術した幼小児は204例(泌尿器科外来小児の14%,入院の80%),314回手術である.内訳は,尿道下裂(22%),停留睾丸(11%),半陰陽(5%)などの外陰部先天性異常に対する手術が全体の40%を占めてもつとも多く,次は尿路通過障害に対する手術の27%(うち先天性下部尿路通過障害に対する手術14%)となり,以下先天性尿瘻6.7%,泌尿性器腫瘍6.7%,結核5.7%,結石2.5%,外傷2.5%の順であつた.

講座 リハビリテーションの基礎知識・1

四肢骨折のリハビリテーション

著者: 吉田一郎

ページ範囲:P.1439 - P.1444

はじめに
 骨折については,従来あらゆる角度から数多くの研究がなされており,現在ではその治療法の進歩により骨折によつて重度の身体障害者に至るケースは比較的低率である.
 しかしながら最近の産業の発展,また特に交通戦争とも呼ばれる交通事情などによつて骨折患者教は激増の傾向にあり,さらに重大損傷者の著明な増加も認められて骨折後遺症の問題は看過し得ないところである.

患者と私

前車の轍

著者: 阪本亨吉

ページ範囲:P.1448 - P.1449

 患者と私という題では,まず長い間に接した多くの患者さんと,その人達に関する,いろいろの事件が,つぎつぎに思い出される.とくに,手術に失敗したり,治療に苦労して,治るまでに長くかかつた人達のことは,忘れ難い.
 今回の話も,結局そんな患者さんの思い出話というか,失敗談である.

インタビュー

〈第16回綜合医学賞受賞〉中村紀夫氏に聞く

ページ範囲:P.1450 - P.1451

昭和23年創設以来,医学面ですぐれた研究業績に対して,おくられている綜合医学賞も16回をむかえ.本年は,東大脳神経外科講師中村紀夫氏「慢性硬膜下血腫の発生機序」(脳と神経18巻7号)に決定した.

海外だより

Montreal Neurotogical Instituteの思い出

著者: 松岡成明

ページ範囲:P.1453 - P.1456

 外国留学4年7ヵ月をふりかえり,何か書けといわれると,やはり脳神経外科を希望する私には,一番思い出となるのは1962年〜1963年にいた頃のMontreal Neuro-logical Institute(MNI)である.ここでDrs.Penfield, Rasmussen, Jasperとお会いでき,その時の私のボスであるDr.Jasperを今日まで外国での第一の恩師とし,その後の米国での仕事も,彼を通じて一貫して行なつた因縁というか,いつまでも忘れえない地がかのMontrealである.したがつて毎年夏休みがくると,遠路車をかつて訪れるのが唯一の楽しみであつた.セントローレンス河に囲まれた市は一つの島をなし,この島の中心に小高いMt.Roya1が,夜ともなると十字の塔を灯し,その中腹ともいうべきところにMcGill大学,その付属病院(Royal VictoriaHosp.),MNI, Allon Memorial Institute(精神病院)と並んでいる.1962年には日本人はLucas山本氏(北大出身)と小生のみで,先輩格には岩間(大阪),和田(北大,現ブリテッシュ・コロンビア大学教授),山本(金沢),北村(九大),松永(京都),沼本(岡山,現米国在中)諸先生の名前がみられた.

トピックス

呼吸数と心拍数—完全A-Vブロックにおける心拍・呼吸同期の解釈について

著者: 堀原一

ページ範囲:P.1457 - P.1458

呼吸と心拍数の相関
 心拍数が呼吸によつて変動することはすでに19世紀半ばからわかつていたことであり1),呼吸性不整脈として知られているように,吸気時に心拍数増加,呼気時に減少をみる.
 このとき吸気中枢の興奮が起こると,それが心臓促進中枢に伝導されてそれを興奮せしめ,次いで(あるいは同時に)心臓抑制中枢の抑制を起こすことが知られている2).また呼吸性変動といわれている血圧の呼吸と同期的な動揺は,頸動脈洞や大動脈弓にある圧受容器を介して,心拍数に影響を与えている3).Bainbridge反射として知られていることであるが,右心房への静脈帰来が吸気によつて増加すると心拍数が増加する4).肺自体が吸気時に心臓抑制中枢を抑制するインパルスを発生するともいわれている5)

外国文献

Basal-cell carcinoma syndrome,他

ページ範囲:P.1459 - P.1462

 発見はJarisch(1894)に遡るがBinkley(Arch.Derm.63:73,1951)が多発性基底細胞母斑,胼胝体無形成,歯槽嚢胞を合併した症候群として記載したのが,30歳母,6歳娘という遺伝の明らかな最初の報告であろう.Gorlin(N.E.J.Med.262:908,1960)がこれをbasal-cell nevi syndromeと命名した.しかし,Howell(J.Pediat.69:97,1966)に至つてnevoidbasal-cell carcinoma syndromeと改められ,後者が漸く一般的となろうとしている.もつともドイツではneviを嫌つてPhakomatoseの語を(phakosはspotの意,この慨念の中にtuberous sclerosis.Recklinghausen,von Hippel-Lindau, Sturge-Weberを含める)用いて,fünfte Phakomatose(Hautarzt 11:160,1960.あるいはDermatologica 126:106,1963など)によるようである.

症例

回盲部好酸球性肉芽腫の1例

著者: 堀田猛雄 ,   初鹿野高好 ,   小西義男

ページ範囲:P.1467 - P.1469

はじめに
 われわれは最近比較的亜急性の経過をとつた回盲部腫瘤の手術例に遭遇し,手術後摘出組織を種々検索したところ,病巣部に迷入したある種の幼線虫を発見した.病理組織学的には同線虫を中心とした好酸球浸潤の著しい肉芽腫の形成がみられ,興味ある症例と考えられたのでここに報告する.

原発性胃癌と胃潰瘍併存の3症例について

著者: 大同礼次郎 ,   鹿野実 ,   広谷謙一 ,   西尾義典 ,   船田三昭 ,   大橋一郎

ページ範囲:P.1471 - P.1475

はじめに
 1848年Dittrichが胃癌と胃潰瘍の併存症例について初めて報告して以来,本邦でも時にその共存例の報告に接するが,まだその症例も50例に満たず,比較的まれなものである.そしてその原因についても不明確な点が多いが,多発性胃潰瘍の一部が悪性化したように思える長期間の病歴や胃酸過多症の多いことより種種の考察を加えることも可能であるが,ここではわれわれが経.験した3症例をもととして,文献的統計的検討を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

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