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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科22巻11号

1967年11月発行

雑誌目次

特集 肝腫瘍外科の課題

肝癌の外科的治療の趨勢

著者: 本庄一夫 ,   鈴木敞

ページ範囲:P.1485 - P.1491

はじめに
 ふるくより,肝癌は腫瘤の触知によつて診断されてきた.そして,現在もなお,それを凌ぐに足る適確な診断法はない.すなわち,依然として,肝癌として開腹される手術は,試験開腹術に終ることがすくなくなく,あとは,抗癌剤化学療法にわずかな期待を望む以外,うつべき手段を知らなかつた.
 一方,手技的にようやく確立されたとはいえ,唯一の根治療法たる肝切除術にも,なお,出血制御の問題や,切除許容量をめぐる課題など,いまだ解明すべき諸問題が残されており,腹部外科におけるこの分野の立ち遅れはおおうべくもない.

肝癌の発生,肝硬変,病理

著者: 宮地徹

ページ範囲:P.1493 - P.1498

はじめに
 肝臓に原発する悪性腫瘍は,肝細胞から発生する肝細胞癌(Hepatoma),胆管細胞から発生する胆管細胞癌(Cholangioma)のほかに,血管内皮細胞から発生する血管肉腫,その一種であるKupffer細胞肉腫および線維肉腫その他の中胚葉細胞から発生腫瘍などにわけることができる.
 文献でみる肝臓原発癌は,Bermanの60例のうち93%を最高として,著者の集めた410例では90%,志方の86例では92%というように,肝細胞癌が大部分がしめているので,ここではこの肝細胞癌についてのべることにする.この癌(以下肝癌と省略する)は世界的に,東洋,インド,アフリカのように米その他の澱粉類を主食とする地域に多いとされ,わが国も例外ではない.瀬木教授は,多年にわたつて世界中の死因統計にもとづくデータを集めて比較し,文明国22ヵ国のうちで,1962〜1963年には,日本人男性は10万につき14.8と最も多く,これにつぐ国はイタリー,西独オーストリア,ベルギー,有色アメリカ人であり,女性では,イスラエルの13.3についで,西独,イタリー,オーストリア,日本,ベルギーなどとなつている.

肝区域の概念

著者: 奥平雅彦

ページ範囲:P.1500 - P.1505

はじめに
 生物体の形状(Form),大きさ(Size),構造(Structure)および各部位における諸臓器相互の位置的関係を研究する解剖学が,記載方法によつて系統解剖学(Systematic anatomy)と局所解剖学(Topographic anatomy)に分けられ,後者は外科における実地上の要求による研究に基づいて外科解剖学(Surgical anatomy)として発展してきていることは周知の通りである.
 区域(Segment)とは「自然にできている区切りとか区分」という意味であるが,現在においても,臓器全体として摘出する手術が施行されている腎,脾,睾丸,卵巣および副腎には区域の概念が出されていないし,部分切除術において系統解剖学的な記載がそのまま適用されている臓器として,膵,甲状腺,子宮,前立腺などをあげることができよう.一方,臓器の部位や区分を決めると云つても大脳におけるように皮質の層構造(これにも細胞構築によるもの,髄鞘構造によるもの,血管構築によるものなどいろいろな立場がある)や局在機能により,手術的見地以外の決め方もある.

肝機能検査法の意義—ことに腫瘍性変化との関連において

著者: 山形敞一 ,   涌井和夫 ,   小松俊治 ,   真田昌彦 ,   大里祐一 ,   上野達雄

ページ範囲:P.1507 - P.1511

はじめに
 肝機能検査という言葉に含まれる内容は様々である.たとえばシンチグラムも,選択的に肝にとりあげられてゆく過程は,肝の機能によつているものであり,また肝循環血流量測定も肝の機能の測定である.そればかりでなく,肝の営む機能は無数に近く,あるいはNPNの測定も,また電解質の変動も,その間接的,直接的に,関与するところは広い.ただ,一般的に日常用いられる肝機能試験法としてあげられるのは,たとえば日本消化器病学会肝機能研究班でとりあげた標準操作法試案にみられるものをあげると,現在のところ,血清混濁試験,血清内酵素活性値測定法の中の2,3のものであり,この他にビリルビン量または黄疸指数,BSP負荷試験,血清蛋白およびその分画,尿ウロビリノーゲン,ビリルビンの定性あるいは定量といつたものであろう1).したがつて,本論文においても,主としてこの範疇の肝機能検査についてのべる.

肝癌の診断—とくにシンチグラムによる診断

著者: 奥田邦雄 ,   下川泰 ,   薬師寺英邦

ページ範囲:P.1513 - P.1520

はじめに
 肝疾患の診断は血清化学検査,肝生検,腹腔鏡検査などの発達によりかなり正確にできるようになつてきた.しかし,肝癌や肝膿瘍などのspaceoccupying lesionの検出には,肝臓が大きな不整形の臓器でありしかも機能的に強い代償力を持つことなどから非観血的には困難なことが多い.
 一方近年肝の外科的療法が積極的に行なわれるようになり,肝腫瘍の位置,拡がりをより正確に知る必要が生じ,また他臓器の悪性腫瘍のばあいは,肝転移の有無が手術の適応や患者の予後を大きく左右するため,その診断は大きな意義を有している.

肝癌の診断—切除可能性を中心に

著者: 菅原克彦 ,   大野博通 ,   河野信博 ,   柏井昭良

ページ範囲:P.1521 - P.1526

はじめに
 肝癌の確定診断が得られたときは,すでに切除可能の時機を逸していることが多く,最近の厚生省統計1)では,肝癌による死亡者は胃癌についで第2位となつている現状である.胃癌のように早期に診断することが可能となれば,肝癌の場合も術後5年生存率が9割前後という早期胃癌の治療成績に近づくことは夢ではなくなるであろう.病勢が進まない早期に,肝癌であるという診断が得られるようになれば,肝癌も病理学者の領域から外科治療の対象に十分になり得るであろう.現在のところ,一般胃癌術後5年生存率に近い21.4%の肝癌治療成績(術後5年生存率)を得ているのは,T.Y.Linのみで,他はいちじるしく悪いようである.
 しかし,肝癌の病像を仔細に検討することによつて早期に診断の足がかりを得,治療成績の向上を図ることは可能であると考えられ,本稿では重点的に,切除可能性を中心に疑診から確診への過程についてのべたい.

原発性肝癌の外科的治療—とくに手術成績,予後などを中心に

著者: 葛西洋一 ,   水戸迪郎

ページ範囲:P.1527 - P.1534

はじめに
 肝臓疾患に対する外科的治療が登場したのは,前世紀の後半頃からで,1913年にThöleは202例の肝切除の集計例を報告しているが,その大部分は良性疾患に対する手術例であつて,詳細は不明であるが肝癌と記載されているのはそのうち32例である.
 当時の肝腫瘍に関する知見からみると,これらのものが,果して原発性か,転移性かを判別することは極めて困難であるが,1956年三上22)が報告した本邦肝切除180例についてみると,原発肝癌の手術例はその約30%をしめており,原発肝癌の治療は,肝臓外科の領域では,もつとも大きな問題であることが示唆される.

消化器癌の肝転移—外科病理の立場から

著者: 陣内伝之助 ,   妹尾亘明 ,   中田晴夫

ページ範囲:P.1535 - P.1541

はじめに
 消化器癌の肝転移という標題を与えられたのであるが,消化器といえば口腔より肛門まであり,そのうち肝転移を起こすのは主として門脈系に属する臓器,すなわち,胃,小腸,大腸,直腸,膵臓の癌である.これらすべての臓器の肝転移についてのべることは紙数の関係上不可能であるから,今回は消化器癌のなかでももつとも多く,かつ代表的な胃癌の肝転移のみについてのべることにする.
 胃癌の予後を不良にする主なる因子の1つとして転移をあげることができる.これに対して制癌剤応用の進歩とともに,他方外科的立場からはリンパ節転移の広域郭清,浸潤ないし転移臓器の合併切除など,いわゆる拡大根治手術が行なわれてきたが,転移臓器合併切除の術後成績に関しては,現在必ずしも良好とはいえない.

転移性肝癌の治療—肝切除と化学療法

著者: 伊藤一二

ページ範囲:P.1543 - P.1550

はじめに
 肝転移癌の予後は,きわめて悪く,一たび肝に転移をみればきわめて短期間内に患者を死に至らしめるものであり,諸家の成績よりみても平均生存期間は4ないし5ヵ月であり,9ヵ月で全例死亡するとされている.したがつて肝転移を治癒しえたならば,原発巣は手術的切除により治癒せしめ,肝転移をも根絶しうることになり,臨床的意義ははなはだ大といえる.しかしその治療法となると,原発性肝癌をも含めてきわめて悲観的であつて,現在未だ満足すべき域に達しているとはいえない.根治的治療法としては転移巣を含めて,手術的に肝切除を行なうことであるが,肝転移の早期診断の困難なことより,根治的切除を行なえるような限局性の肝転移に遭遇することはまれであり,また広汎な肝切除例は手術侵襲が大であり,その治療成績も決して良好とはいえない.また放射線治療が肝転移に関する限りほとんど意義をもたないことより,残された課題は化学療法である.
 肝転移癌に対する化学療法については,多くの試みが報告されており,特に肝転移巣の栄養血管を通じて制癌剤を投与する局所化学療法としての肝動脈内挿管投与法については,1961年Ecker1),Miller2)の報告以来,多くの学者により追試されいちじるしい効果が認められている.われわれも過去4年間に多くの症例に対して,肝動脈内挿管投与法を行ない,その成績については,すでに数次にわたり発表してきた3)4)5)

進行性肝癌の治療

著者: 土屋凉一

ページ範囲:P.1551 - P.1558

はじめに
 京大第1外科における,昭和26年より現在に至る原発性肝悪性腫瘍症例は,第1表に示す如く27例である.この中,手術し得ず死亡したChola-ngiomaの1例を除き,26例に開腹手術を施行した.施行せる手術術式は,根治的肝切除,姑息的肝切除,単開腹,さらに門脈枝結紮,肝動脈結紮に分けることができるが,根治的肝切除を施行た得たのは5例で,手術症例の19.2%にすぎなかつた.(第2表)
 根治的肝切除とは,腫瘍が1葉に限局し,腫瘍を含めた肝葉切除ができ,残存肝に転移,浸潤の認められないものである.姑息的肝切除は,主腫瘤は切除し得ても残存肝に明らかな転移または浸潤の認められるものである.実際には,症例のすべては主腫瘤が左葉にあり,中葉または右葉に転移あるいは浸潤があるにかかわらず,とにかく左葉切除が施行された.単開腹とは,肝腫瘍に対してなんら侵襲を加え得なかつたものであり,脾腫を有し門脈圧亢進症状を呈する症例に摘脾を行なつたもの,あるいは十二指腸狭窄症状のために胃空腸吻合を行なつた症例も含んでいる.これらの症例の肝腫瘍の状態は,腫瘍がびまん性に肝全体におよんでいるもの,または結節性腫瘍が多発性に肝全体に発生しているもの,また主腫瘤は右葉および中葉のほとんどを占め,しかも左葉にも散在性に転移の認められるもの,さらにまた肝より後腹膜または横隔膜へと浸潤高度のものなどであつた.

肝の良性腫瘍—とくに肝嚢胞を中心として

著者: 佐藤寿雄 ,   斉藤洋一 ,   山内英生 ,   渡部健一

ページ範囲:P.1559 - P.1567

はじめに
 最近,外科的肝疾患の診断法として腹腔鏡検査,肝スキヤンニングあるいは諸種の血管撮影法などが取り上げられ,また治療の面でも肝広汎切除術が比較的安全に行なわれるようになつた.そのようなことから,肝腫瘍,とくに肝癌の外科は一段と脚光をあびるにいたつたが,肝の良性腫瘍に関してはまれな疾患に属するためか一般の関心を得るにいたつていない.教室ではさきに槇ら1)が肝嚢胞の臨床について報告したが,その後選択的腹腔動脈撮影法の併用など,診断法の進歩もみられ,また症例も数例加えることができたので,それらを一括して肝の良性腫瘍,とくに肝嚢胞を中心にして概説してみたいと思う.

小児の肝腫瘍

著者: 葛西森夫 ,   渡辺至

ページ範囲:P.1569 - P.1573

Ⅰ.小児の肝腫瘍
 乳幼児,学童を含めて15歳以下の小児の肝には,良性・悪性,上皮性・間葉性,種々の腫瘍が原発し得るが,そのうち最も多く,またその大部分を占めるものは肝細胞癌である.本邦では成人の肝癌が多いことは周知のことであるが,小児の肝癌も多く,神経芽腫,ウイルス腫に次いで,小児腫瘍の中で重要な位置を占めている1)2).小児の肝に腫瘤が触れた時には,まづ第一に肝癌を想起しなければならない.
 最近Ishakら3)は小児の肝細胞癌を組織学的に大きく二つの型に分けた.一つは比較的高齢児の男子に多く発症してくる肝細胞癌で,成人の肝癌と同様な組織像を呈し,hepatocarcinomaと呼ばれ悪性度も高い.他はいわゆる胎児性肝癌(肝細胞芽腫)hepatoblastomaであり,前者と異なり,比較的異型性に乏しい小型腫瘍細胞群からなり,切除予後も比較的良好の腫瘍で,満1歳をピークとして発症する.小児肝癌の60%以上が3歳以下に発症し,これらは成人肝癌に較べて切除予後が著しく良好である,と最近報告されてきているが1)4)5),その大部分はhepatoblastomaであると考えられる.

肝切除後の患者管理,再生肝の代謝

著者: 玉熊正悦 ,   小泉澄彦 ,   大野博通 ,   菅原克彦

ページ範囲:P.1575 - P.1582

はじめに
 肝臓は生体の諸々の代謝を直接にになう重要臓器である.糖質をグリコーゲンとして貯蔵し,必要に応じてブドウ糖に分解し,血中に送り出して血糖を維持し,アルブミンや血液凝固因子など生命に不可欠な蛋白合成の責任を負うことはもとより,脂質,核酸,ビタミン,ビリルビン代謝,解毒作用など,これまでに知られている範囲でも250を越える生体固有の代謝パターンが報告されている1).最近の麻酔,輸液,化学療法など,一般外科領域における進歩のおかげで,このような重要臓器に対してもその腫瘍性病変などに対し広範切除術が可能となつた.
 しかし後に詳しくのべるように,手術侵襲による一過性の肝機能低下のもとで,肝切除後に残された肝——右広汎切除後にはわずかに20%2)の残存肝で代謝のバランスを維持し,回復していくためには,肝本来のVital Functionを十分理解した上で,きめこまかい術前術後管理が不可欠である3).Schwarz4)によれば,一般に肝腫瘍のため切除術の対象となる症例の約25%では,腫瘍の大きさ,解剖学的位置,肝硬変の合併などによつて,術前からすでに肝機能,循環血液量,血清蛋白分画,血液凝固因子,などに異常がみとめられる.

肝臓移植の現況と将来

著者: 杉浦光雄 ,   三浦健 ,   市原荘六

ページ範囲:P.1583 - P.1592

はじめに
 肝臓はもつとも高度の分化した代謝の中枢であり,その機能の障害された肝不全の病態生理はまことに複雑である.
 急性肝不全の治療法としては,今日までに交換輸血1)3),交叉循環2)3),イオン交換樹脂,腹膜透析,人工腎臓あるいは生物学的人工肝臓4)などが試みられて,それぞれにある程度の臨床効果が認められている.また最近では豚の肝臓を利用した異種別出肝灌流5)6)や,死亡直後のヒトの屍体からとりだした肝臓による同種剔出肝灌流7)によつて急性肝不全を治療した報告もある.

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人事消息

ページ範囲:P.1491 - P.1491

糸井 純三(名大講師,附属病院外科)助教授に昇任
木村 信良(医歯大講師,外科第2)助教授に昇任

患者と私

生甲斐

著者: 杉原礼彦

ページ範囲:P.1600 - P.1601

 高等学校の頃はなんとなく前途洋々たる希望に満ちていたが,ただ夢みる心地で現実的な目標などはなく全く呑気で楽しく日々を送つていた.併しこのような生活も長くは続かず,いよいよ大学へいくとなると,前途は急に限局され実際的であることに気づいた.当然のことではあるが,妙に寂しい気がして行方の選定に迷つた.ただ何が生甲斐があるかということを根底に置いて考えた.
 物心ついてから私は医者になろうと思つたことはなかつた.私の家は代々医者で兄も医者であつたが,もつと気のきいたものになりたいと思つたからである.しかしどうにも私の血には医者というものが滲みこんでいるらしく,結局大学は医学部にしようと決めた.どうにかその大学も卒業し,外科の医局にも入局許可になつた.こうなつたからには何とか名医にならなければと思った.名医という言葉はもう歴史的な言葉かも知れない.今の若い人は笑うかも知れないが,ともかくそう思つた.しかしこの夢は戦争やその他の事情と,時代の変遷によつていつの間にか消えてしまつた,また外科医という求めた道も,そう簡単に計画通りにいくものではなかつた.本職と思う外科以外の仕事にもたびたび携わらなければならなかつた.十分に外科医として,満足すべき仕事もしないうちに気がついて見ると院長というようなものになつていて,当分の間は『メス』というものはお預けとなり,管理のようなことをする妙な羽目になつた,と自ら感心している.

海外だより

The Society for Vascular SUrgery—その途路見学した病院と学会〈2〉

著者: 新井達太

ページ範囲:P.1602 - P.1604

University of Minesota Hospital
 暑いHoustonからプロペラ機でMineapolisに着きました.思いがけなく,Lillehei教授の下で研究しているDr.田中(慶大赤倉外科)の出迎えをうけました.Mineapolisは東京の1ヵ月遅れくらいの気候で,Hous-tonから来た私には若葉の緑が印象的でした.モーテルから緑のアーチの道を大学病院まで歩くのはひとつの楽しみでした.
 僧帽弁狭窄の手術はtransventricleのdilatorを用いています.次に見ましたのは,左冠動脈のsclerosisに対してのrevascularisationとして,Vinbergの方法とOmentopexyを併用する方法でした.この方法は従来行なわれているものでした.次に見た,梅毒に起因する大動脈閉鎖不全を伴う上行大動脈の動脈瘤の手術は興味がありました.人工心肺で直腸温30℃にしてから,大動脈の血液を遮断し,大動脈瘤にT字状の切開を加えます.まず,大動脈弁を切除して,Starr Edwardsの8Aの人工弁の置換を行ないました.糸はテフデックの両端針を用いますが,U字に糸をかけ,人工弁の縫合部のうちにスパゲッティがあたるようにします.この糸を,人工弁のHolderの中央につけた刀のつばのようなものに通して,糸の混乱を防ぎます.糸を結ぶ時には,このつばの上で針の部分を切つて,抜いてから結びます.

学会印象記

第16回東日本臨床整形外科学会

著者: 坂口亮

ページ範囲:P.1606 - P.1607

 本年は,日医大,伊藤忠厚教授のお世話で9月1日,箱根湯本観光会館で行われた.本学会の演題は,身近な臨床的のものに限られ,くつろいだ雰囲気で語り合うのを旨としている.

トピックス

ショックにおける循環系の反応様式—方法論としての"外乱法"のアナロジー

著者: 鰐淵康彦

ページ範囲:P.1608 - P.1609

 最近,わが国における医学教育制度や,大学の医局制度の問題が大きくクローズアップされつつある,ところが,その中のインターン問題一つを取上げてみても,決して今始つたばかりの真新しい問題ではなく,この制度の成立当初からすでに,その不備,矛盾が論じられてきたものであり,インターンを経験してきた医師のすべてが知つているはずの,あるいは少なくとも十分感じているはずの問題である.毎年同じことを繰返し繰返し問題にし,毎年同じような反応しか起こさなかつたこれらの問題が,なぜにこのたびは,かくも大きな反響を呼び起こしているのであろうか.これに対する一つの見方として,従来の運動が,矛盾を感じながらも,何となくその制度に適応してしまつた人々が中心であり,一種の平衡状態の中での運動であつたのに対し,このたびのそれは,この平衡状態の外にある学生が中心となつて,この平衡状態そのものを外から揺り動かそうとしているためであると考えることができる.真の平衡であるか,見せかけの平衡であるかを判別するには,もちろん状態そのものを綿密に検討していくことによつても可能であろうが,それよりもむしろ,この平衡状態そのものを外部から積極的に乱してみる方が手取り早いことが多い.見せかけの平衡は必ずどこかに無理があるはずであり,むりやりこれを攪乱してやれば,きつとそこに破綻が生ずるであろう.

外国文献

重複癌,他

ページ範囲:P.1610 - P.1613

 二重複癌は100〜150癌に1例,三重複癌は2000癌に1例(0.8〜4.8%)といわれ,Bauer(Krebs problem,1963,G.Thieme)のように重要視しない学者もある.本欄でもすでに何回か紹介したように4重複癌の例などは遺伝的因子,奇形などと関係あるのもあり,各国から精査して報ぜられている.Drömer(Zbl.Chir.92:943,1967)の50歳男,家族歴特記すべきものなし,上腹部不定痛,食思不振,ときどき嘔吐,8kgの体重減少で来院,S結腸部に5×5cm大,可動性,やや圧痛ある腫癌.開腹,S結腸中部に潰瘍化せる腺癌,根治術.56歳胆嚢炎にて治療,57歳秋,下腹部仙痛,排便障害,体重減少,X-Pで再発の像なし.肝彎曲部6cm大の腫瘤,58歳切除術.円周状,粘液産生多き腺癌.59歳右頸部腫脹,耳鼻科でProbeを取り,右扁桃腺からのRethotel-sarkom.照射.その冬胃通過障害.大出血.開腹.前庭癌,膵転移.第1癌と第2癌は組織像が共に腺癌であるが8年の間隔あり,別々のものと考えたい.4重複癌の1例といつてよいであろう.

論説

各種縫合糸の比較—とくに高純度ポリビニルアルコール(PVA)による吸収性縫合糸を中心として

著者: 秋山太一郎

ページ範囲:P.1615 - P.1622

はじめに
 縫合糸の理想とするところは術後糸本来の役目をはたしたら自から消えうせることである.そして生体に対して為害性が全くなく,強く,結びやすく,消毒滅菌操作もやりやすいものであるべきである.それでは一体今日の縫合糸はどのようなものがあり,この中で吸収性縫合糸はどのような位置をしめているか,これまでとりあげられたもの,または可能性のあるものをひろいあげて,まとめてみると第1表のようになる.この中で吸収性を標榜しているものはCatgut糸1),Collagen糸3),アルギン酸糸などである.この中でCollagenとアルギン酸は縫合糸としてまだ決定的なものではなく.いわば可能性のあるものである.今日吸収性縫合糸の生い立ちは第1表からもわかるように全部天然物を加工したものであつて,純合成のものはまだ実用になつていない.それでは吸収性縫合糸3種についてその特色をあげてみると

講座 リハビリテーションの基礎知識・2

対麻痺のリハビリテーション

著者: 吉田一郎

ページ範囲:P.1623 - P.1628

はじめに
 外傷性脊椎損傷に合併して発生する脊髄損傷を中心とする対麻痺(Paraplegia)は,リハビリテーション医学の特に重要な問題といえよう.過去においては,ほとんどの患者が悲惨な生活を余儀なくされ,また死亡率も高かつたこの疾患も医学の進歩,社会の理解などによつて,現在ではその死亡率も問題とし得ないほど低率であり,また充実したリハビリテーションによつて,社会復帰,幸福な家庭生活,さらには職業生活への途を進むものが増加しつつある.
 しかしながら脊髄損傷患者にあつては,終生治癒し得ない麻痺と,尿路系を中心とする健康管理を常に必要とし,社会復帰への重大な条件である肉体的,家庭的,さらに経済的職業的問題について困難な障害が山積している.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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