icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科22巻4号

1967年04月発行

雑誌目次

特集 進行性消化器癌の外科

胃癌拡大根治手術の理論と実際

著者: 陣内伝之助

ページ範囲:P.467 - P.472

まえがき
 早期診断,早期治療がかなり普及してきた今日でも,なお早期胃癌の占める比率は,胃切除を受けた胃癌症例のうちでも10%内外を出ず,私どもが日常遭遇する大多数の胃癌症例は,すでにある程度進展したいわゆる進行癌である.
 早期癌に対する胃切除症例の5年生存率が80〜90%であるのに対して,進行癌のそれは,非治癒手術と姑息手術とを含めると20〜30%を出ない現況にある.すなわち,胃癌の手術成績を良好ならしめるためには,早期発見,早期手術に頼るのがもつとも安易な近道であることはもちろんだが,しかしこれは外科以前の問題,すなわち啓蒙運動による定期検診の励行と技術練磨による的確な診断さらに患者をして手術に踏み切らせる熱意と説得技術の問題であつて,外科医のなすべき領域ではない.これに対して,進行癌の手術成績を向上せしめることこそ,私ども外科医に与えられた重大な使命といえよう.

胃癌の膵合併切除について

著者: 梶谷鐶 ,   西満正

ページ範囲:P.473 - P.479

はじめに
 周知のごとく,胃と膵との関係は解剖学的にはなはだ密接であつて,胃癌の場合に病巣の膵への波及はしばしばである.このことは胃癌の根治療法の著しい障害となつてきたのであるが,今日では外科の進歩につれ,膵臓の手術も比較的安全となり,進行した胃癌に対する膵合併切除もしばしば行なわれるようになつた.われわれは膵合併切除を胃癌治療上の意義の面から,あるいは胃癌拡大手術の限界の面から検討してみたい.

膵癌,胆管癌の切除限界点およびその他の治療法

著者: 土屋凉一

ページ範囲:P.480 - P.484

はじめに
 膵臓ならびに肝外胆道の悪性腫瘍は,早期発見が困難で切除不能の場合が多く,また切除可能であつても,その手術手技が容易でない上に,肝機能障害などのpoor riskの場合もあつて,一般に手術成績が悪いのが現状である.
 京都大学第1外科において昭和30年以後41年9月に至る膵臓癌および胆管癌の症例は88例,本庄教授在任中の金沢大学第2外科における,昭和34年より40年に至る6年間の症例は100例で,合計188例である(第1表).

原発ならびに転移肝癌の手術的治療の限界

著者: 葛西洋一

ページ範囲:P.485 - P.490

はじめに
 肝癌の手術的治療は,すでに前世紀の後半から試みられており,Yeomans(1915)11)の文献集計16例の中にも,肝部分切除によつて1年以上生存したものが37.4%あつたと記載されている.
 古い報告例のなかには,肝腫瘍の組織学的診断の不明なものもあるので,その治療成績を今日のものと同等に論ずることはできないが,肝癌の治療の主体が病巣部を含む肝切除にあることは,他臓器の癌の場合と同様である.

直腸癌,ことに進行性直腸癌の外科

著者: 卜部美代志

ページ範囲:P.491 - P.500

はじめに
 現在,外科においては,どの部位の癌に限らず,その初期癌の段階で治療されることは極めて稀であつて,多くは進行癌の状態で治療に持ち来らされているのである.直腸癌についてもその例外ではない.然らば,進行癌とは何をいうかの定義もまた必ずしも容易に下せるものではない.McDonaldのbiological predetermination)の説によると進行して予後の悪くなる症例と,そうでないものとは,すでに,癌発生の当初からきまつているものという.それはともかくとして,直腸癌の場合,癌が粘膜層に限局して,まだ血管,リンパ管に侵入していない状態,すなわち,早期癌の段階を過ぎると,その癌細胞ないし癌組織の伸展度を厳密に規定することは,もはや困難となる.したがつて,私共が直腸癌症例の治療に臨む場合,まず,手術にあたつては,癌の浸潤,転移および播種の及んでいるリンパ系ならびに周囲臓器のen bloc resectionを徹底せしめる根治手術の原則が最も重要視されるのである.その意味において,早期癌を除く大多数の直腸癌症例に対して行われる根治手術は,必要に応じて周囲臓器の合併切除が行われる場合にも,また,然らざる場合にも,その間に本質的の差異はないのである.

グラフ

進行乳癌の動注法による治療

著者: 坂内五郎

ページ範囲:P.453 - P.457

 進行乳癌に対しては,従来より外科的内分泌療法(卵剔・副剔・下垂体剔),ホルモン注射療法,化学療法(主として全身的投与),放射線療法などが試みられているが,内分泌療法でたとえ効果が認められても.その効果は一時的で,実地治療に当るものにとつて進行乳癌治療はなかなか困難な場合が多い.
 教室では,最近ホルモン依存性のないと思われる進行乳癌あるいは内分泌療法の無効であつた進行乳癌の中で,遠隔転移がなく,局所性にのみ進行した症例に対して,制癌剤の動注法を試み,著効をきたした症例を経験したので報告する.

外科の焦点

最近の術前・術後放射線療法について

著者: 梅垣洋一郎 ,   御厨修一

ページ範囲:P.459 - P.466

はじあに
 癌に対する知識が向上した今日でも,病院を訪ずれる患者は依然としてかなり進行した症例が多い.癌の治療法は進歩してきてはいるが,手術または放射線治療の単独療法では,進行癌に対する治療としては限界を感じさせられる.ここに,手術と放射線治療,あるいはその他のものとの併用療法が,今日の脚光を浴びてきた理由があるわけである.
 癌がまだ小さく,発生部位に限局している時期には,切除または放射線治療でよい成績を挙げることができる.けれども,ある程度以上に進展すると,広汎な切除も,また大量の放射線照射も,これを治すことができない.この時期では,もはや個体の防衛ないしは免疫の機能が低下してしまうように思われる.将来の癌治療の焦点は,おそらく免疫機転の解明に集中せられるとは思うが,今,さし当つての現実の役には立たない.現在の段階では,今一押して治しうる癌を,現在使える方法をできるだけ上手に使いわけて治療たようということになる.

--------------------

人事消息

ページ範囲:P.472 - P.472

長谷川 弘(新潟大講師 脳外科)助教授に昇任
深井博志(新潟大助教授 脳外科)慈大教授に昇任

論説

西ドイツにおける閉塞性動脈硬化症の臨床的考察

著者: 阪口周吉 ,   山田公雄

ページ範囲:P.502 - P.510

はじめに
 近年,血管外科の発展に伴つて,末梢動脈の閉塞性疾患に対する関心が大いに昂まつてきた.これに属する疾患として,Buerger病と閉塞性動脈硬化症の2つが代表的であるが,後者は従来わが国では少ないものと考えられていた.しかし実際には,かなりの頻度で存在することが明らかとなり,またこの両者を臨床的に区別することが困難ないし不可能な場合が決して少なくない1)
 閉塞性動脈硬化症(Arteriosclerosis obliterans,ASO1))は欧米では極めて多く,末梢動脈疾患の主流的存在である,本症の病態,臨床像その他についてはすでに多くの業績があり,われわれがこれらからその知識をうることは容易である.しかしその実態をわれわれの眼で確かめることも,決して徒労とは思えない.著者らは約2年間西ドイツにおいて,もつぱら本症の診療にたずさわる機会をえた.西ドイツは末梢血管疾患の大変多いところで,その現況についてはすでに報告したが2),ここでは著者らが体験した事実にもとづいて,ASOの臨床について考察したいと考える.

僧帽弁交連切開術後の脳栓塞およびその新しい防止法の提唱

著者: 別府俊男 ,   荒井康温 ,   山口栄豊 ,   後町浩二

ページ範囲:P.511 - P.515

はじめに
 心臓手術後の脳合併症は,僧帽弁狭窄症などを主とする非直視下手術と,人工心肺を使用する先天性心疾患の直視下手術によりその趣きを異にするが,人工心肺使用時には,時に環流量の不適にょるPerfusion Syndromが加わつて脳合併の因子も多彩になる.しかし,一般には,脳栓塞(血栓,空気,組織片などによる),頭蓋内出血(出血性傾向などによる),脳浮腫,脳膿瘍,進行した状態として脳軟化および脳壊死まで種々の合併症が含まれる.
 直視下心臓手術の脳合併症は他日に譲るとして,非直視下心臓手術の重篤な脳合併症としては僧帽弁狭窄症の脳栓塞が特に重要である.しかし,脳栓塞合併に関する発表は本邦において少ない.われわれは,僧帽弁交連切開術後の脳栓塞症について検討し,さらにその防止法において,頸動脈,椎骨動脈を同時に圧迫する新しい方法を考案,現在実施中であるので報告し,諸賢の御批判を乞うものである.

小児の腸管重複症について

著者: 綿貫喆 ,   渡辺暉邦 ,   高田準三 ,   篠崎俊一 ,   塩塚瑛子

ページ範囲:P.516 - P.520

はじめに
 消化管に発生する重複症は従来一般にentero-genous cystsの名が主として用いられ,その他enterocystoma,giant diverticulum,ileum duplex,inculusion cysts,など種々の名称があつて混乱していたが,1941年LaddとGross8)がduplicationof the alimentary tract,と名づけて以来,これに従うものが多く,その発生部位によつてdupli-cation of the stomachあるいはduplication of theileumというような呼び方をしているものもある.本邦では本症のうち管状を呈するものを重複腸管,球形のものを腸管嚢腫と呼んでいたが,最近はこれを総称して,腸管重複症あるいは重複腸管の名を用いるようになつた.本症は消化管の先天性奇形のうちでは比較的まれなものであるが,臨床症状が不定で,術前に適確な診断をつけにくいが,新生児,乳児では腸閉塞症の原因になることが多いから,小児外科医にとつては重要な疾患の一つである.
 最近われわれは新生児,乳児にみられた腸管重複症の2例を経験し,これを根治手術で全治させたので,その経過を報告し,本邦の小児例についていささか文献的考察を加えてみたい.

低体温法による乳幼児心室中隔欠損症の開心根治手術—手術成績と適応

著者: 堀内藤吾 ,   小山田恵 ,   本田健夫 ,   石戸谷武 ,   阿部忠昭 ,   佐川安彦 ,   松村光起 ,   石川茂弘 ,   石沢栄次 ,   斎藤裕 ,   松本俊郎 ,   田中茂穂

ページ範囲:P.521 - P.526

はじめに
 心室中隔欠損症は生後乳幼児期に多数死亡することは周知の事実である.1960〜1961年の日本病理剖検輯報で,心不全で死亡した心奇形の頻度と死亡年齢との関係を調べてみると,第1図のようになり,数多い心奇形のうちでも心室中隔欠損症が圧倒的に多く,しかも予想外に予後不良であるのに一驚する.すなわち,日本では年間10,000人以上の心奇形が生れてくると推定されるのであるが,そのうちもつとも多いのが心室中隔欠損症であり,さらに,その死亡例中の大多数が乳児期に死亡していることが分つたのである.『このような患児に対していかなる治療救命対策が行なわれてきたのであろうか』と手近かの文献を調べたのであるが,根治手術成績は極めて不良であつて失望した.しかし,その不成績の原因を熟考した結果,手術侵襲そのものによるよりは,人工心肺使用よる体内血液のアンバランスによると気付いた.そこで乳児には,現状では人工心肺よりはむしろ低体温法が有利であると考え,かつ従来低体温法の欠陥とされてきた蘇生時の心マッサージを極力さけるため,冠灌流法を併用することを思いついたのである.

腰椎麻酔後頭痛症に対する副腎皮質ホルモン療法

著者: 城後昭彦

ページ範囲:P.527 - P.532

はじめに
 腰椎麻酔後24時間ないし48時間を経て,特に起立時に自覚する頭痛症は,腰麻続発症のうちもつとも頻度が高いとされ,現在でもなお,意外と多く見られるにかかわらず,その対策はいまだに雑然たる域を脱せず,患者,医家ともに頭を痛める場合が少なくない.
 本症患者は確かに不快な頭痛に悩む暗い表情をしており,洗面所へも行けぬ苦痛を訴え,中でも抜糸後までも愁訴の続く重症例では,もはや手術病症よりも,本症のほうが主病のごとき経過をとるものさえある.さらに虫垂切除術やヘルニヤ根治術などを,さながら小手術として解するに至つた外科学の発達は,一般患者にもその観念を植えつけ,早期離床や早期退院はすでに世の常識とさえなつている今日,腰麻後頭痛のために離床を妨げられ,不快な術後を送らせることは,患者,医家ともに意の満つるところではなく,さらに手術手技拙劣なためと憶測されるに至るや,主治医の面目上,極めて遺憾の限りであり,また本症に凡ゆる加療を施すも,効果確実ならざる場合,体質上の問題だと片附け,時が経てば治ると言いきかせるには,いささか抵抗なからざるをえない.

トピックス

急性膵炎における神経因子の再認識

著者: 尾河豊

ページ範囲:P.537 - P.537

急性出血性膵炎の成因
 これについては,種々多数の実験的作製法にもとづいた学説と推論があるが,いずれもいまだ結論を得ていない.それはいずれもが実際の膵炎の成因の一部を占めていると考えられるからである.成因の一つとして膵臓の血流障害がその根底としてあり,さらに膵動脈周囲の神経叢,腹腔神経叢などを介する異常な刺激が血流障害を促がし,膵炎の発生に大きな役割を果していることは,これまでもいくつかの文献の支持がある.すなわち,腹腔神経節の化学的(クロトン油による)ないし持続的電気刺激により,広汎性肝壊死とともに急性出血性膵炎が発生する1).さらには上下膵十二指腸動脈周囲神経叢の,化学的,電気的刺激で急性出血性膵炎が発生する2).膵管内に胆汁を注入,主膵管を結紮すれば,100%に急性壊死性膵炎が起るが,同時に腹腔神経節に電気刺激を行なえばより早期に,より高度に壊死性膵炎が成立する3).また膵動脈に水銀を注入すれば,無菌性出血性膵炎を発生するが4),同時に植込み式持続的電気刺激Pacerにより,膵十二指腸動脈の周囲神経叢刺激を行なえば,より早期に出血性膵炎の発生をみる.

海外だより

無言の刺激—Mayo Clinicの組織とresident

著者: 有森正樹

ページ範囲:P.538 - P.539

 Minnesota州の首都のSt.Paulから南に約80マイルほど車で走ると,Mayo ClinicのあるRochesterの町がある.見渡すかぎりのとうもろこしの畠の中に,忽然として,前方に城を思わすMayo Clinicのビル群が現われてくる.どうしてこのような田舎に,マンモス・クリニックができたのかという疑問が,思わずうかばずにはおられないような光景である.
 Rochesterは総人口4万7千あまりのうち,医者だけで1,000人以上もいるという変つた町である.しかも大変美しく,静かで落着いた医者の町である.

患者と私

やあ貴方でしたか

著者: 秋谷良男

ページ範囲:P.540 - P.541

 朝刊を見ていると司馬遼太郎氏が菊池寛賞を受けるとある.彼が小説を物するには多くの文献をあさる.史料の中に1回しか出て来ない人物がいくらでもいる.それが1年もして別の史料で見つかると飛び上る「その喜びはなにものにもかえがたい.その人物が私の机のそばにグーツと寄つて来たようで感動を覚えます」といつている.正にそうであろう,しかし医師と患者と,それも久し振りで面会したときは少し異う.特に私は他人の顔と名と関連して覚えることは天才的に不得手である.医師が客商売だとなれば,第一資格に落第である.いつか会つた人,何処かで見た人,話したことのある人,誰かその名が思い出せない.他の教室の医員,インターン,学生の区別さえも時には判然としない,だから会話の初めに充分警戒をする.どのようなつなかりがあるか,記憶の綱がどこかで切れて,その先が探り出せない.家に帰つたらその女人が女房であつたとなれば落語の落ちにふさわしいが,かなりそれに近いことに出会すことが稀でない.だから会話の最初のうちに思い切つて相手の身分姓名,私とのつながりを聞いて置けば問題にならないのだが,話が進行してしばらくして,貴方はどなたですかとは今さら言い出せない.そのチャンスを狙つているが,終りまで聞き出せない,言い出せない,思い出せないで,帰途家の近くで町内の魚屋の主人であつたことに思いつき,ある環境においての記憶は,同一環境にもつてきて目覚めることがあるのた気付く.

学会印象記

癌治療研究の進歩と外科

著者: 三輪潔

ページ範囲:P.542 - P.545

 第4回日本癌治療学会総会は1966年12月8日と9日の2日間にわたり,大阪の日本生命ビルと大阪大学講堂において開催された.3年前,日本癌学会から分離して,京都,千葉,仙台と巡つてきた本学会も次第に盛大となり,癌の臨床的治療研究の学会として,独自の重大な役割をもつようになつてきた.そして今回は初の試みとして,肺癌学会,癌学会と同じ大阪において,しかも各会長の緊密な連繋のもとに,12月5日から直列に並んで行なわれたのである.このように癌に関する主要な学会が1ヵ所に集まつて,それぞれの特徴を生かし,それぞれの使命を帯びて発展していくことは,誠に喜こぶべき現象と痛感した次第である.
 さてこのような総合的学会の1つの表現として,3つの合同シンポジウムがもたれたが,癌学会と癌治療学会の合同シンポジウムとして,12月7日の午後,「癌の免疫療法」というシンポジウムが行なわれた.

外国文献

破傷風,他

ページ範囲:P.549 - P.552

 1966年1年に世界で5万名の破傷風死があつた.Creech (Ann.Surg.146:369, 1957)は死亡42%であつたが,その後連続19例の生存を得ており,破傷風では少数例の成績はアテにならない,また各地から報ぜられた各種の治療法の比較は,その流行性因子,看護法などの相違のために,意義が少い.しかし本欄でも注意を喚起してきたように抗血清(ATS)のみでなく,その他を併用する療法がすすめられている.さてGoyal(Lan-cet 2:1371, 1966)はインドで1年間に470例を治療し,ATSなき群103例(1),ATS 1万単位127例(Ⅱ),3万単位133例(Ⅲ),6万単位107例(Ⅳ)の4群にわけ,性別・年齢・潜伏期・症状など大体おなじようにして,比較した.生存率はⅠ群54.5%,Ⅱ群59.0%,Ⅲ群50.4%,Ⅳ群52.3%で,各群の間に有意差がない.年齢では35歳以上は生存44.7%で有意に低く,55歳以後では30%にすぎない.性差はない,潜伏期15日以上では生存64%で高いが,1〜7日では47%,24時間以内では37%の生存.全身強直ケイレン者は41%,さらに高熱あれば10%の生存で,予後わるいことを示す.

手術手技

胃切除術六題(その5)—胃全摘膵脾肝合併切除

著者: 中山恒明 ,   織畑秀夫

ページ範囲:P.557 - P.561

 今回は前回に引き続いて,胃全摘出術の場合に,膵,脾,肝の合併切除を行うにはどうしたらよいか,ということを図で説明してみたいと思います,この場合は,主として噴門癌ならびに胃上部癌としての,進行した癌ですので,手術それ自身も大きくなります.したがつて,大網膜の剥離の方法とか,十二指腸部の処置というようなことは省略して,肝左葉もしくは膵尾部に癌が直接に浸潤している場合に,肝左葉の全摘出術はどのように行なうか,もしくは膵尾側の切除はどのように行つているか,という点のキー・ポイント,要するにこの手術手技の最も大事な点についてお話いたします.
 私(中山)は,約20年前になると思いますが,そのような進んだ,直接他臓器に癌の浸潤のある場合には,普通,手術不能症例と考えて手術は行なつておりませんでした.しかし,その後簡単に,しかも安全に,それらの臓器が切除できる方法を工夫してから,すでに500例以上の症例に対して,そのような合併切除を行なつております.合併切除のほうが,5年遠隔成績はある程度低いにしても,その結果として,およそ10%の患者が5年以上生存しています.これは単純な胃全摘出,もしくは噴門切除が11〜12%の生存率であるのに比較して,低率ですが,もし,これが非切除であれば,2年以上の生存例は1例もありません.

講座 外科医のための心電図入門・3

虚血性心疾患の予知と対策〔2〕

著者: 難波和

ページ範囲:P.563 - P.568

 外科領域における心電図の有用性は心筋虚血の有無の鑑別に集中される.その理由は,心筋虚血がいわゆる各種の虚血性心異常を招来するからである.例えば術後におこる各種の不整脈,時には心筋硬塞症の発症などがそれであつて,予後を生右するものとして軽視できない.本稿では虚血心の予知に用いられる運動負荷法の際に特異な心電図形態を示す二,三のものを例示し,実た虚血心診断の指標の一つである陰性T波について,主として内科的立揚から考察した.

カンファレンス

肝硬変か,肝癌か

著者: 小島憲 ,   平福一郎 ,   林豁 ,   太田怜 ,   上野幸久 ,   森永武志 ,   中村哲也 ,   佐藤亮五 ,   前原義二

ページ範囲:P.569 - P.572

 森永(司会) 今回の症例は臨床診断は胃癌,肝硬変で消化管出血で死亡したことになつていますが,肝癌か肝硬変かという問題は大変興味のあるところですから,充分ご討議願います.では担当の佐藤医官に現病歴を説明していただきます.

症例

いわゆる"脈なし病"(大動脈弓症候群)に対する手術経験

著者: 湯浅浩 ,   新実藤昭 ,   山際晴紀 ,   西村誠

ページ範囲:P.573 - P.577

はじめに
 いわゆる"脈なし病"は1908年高安1)により「奇異なる網膜中心血管の変化の1例」と題して,特異な眼底像を示す本態不明の疾患として報告されている.1948年に清水,佐野2)はこれと同様な疾患6例を報告し,この疾患は脈がふれないこと,特異な眼症状を有すること,および頸動脈洞反射が亢進しているという3主徴を有するものであり,このような臨床像および病理学的な特徴から"脈なし病"と命名した.以後わが国においては,大動脈弓分岐動脈の閉塞のため,上腕動脈の脈搏が触れないか,微弱な疾患に対して,いわゆる"脈なし病"と命名して用いられている.外国では,これと同様な疾患に対して,高安病,Martorell氏症候群,大動脈弓症候群,脈なし病などと種々の名称を用いており、いずれも症候群として用いられ,その本態はいまだ不明である.
 近時,逆行性大動脈造影法および血管外科の進歩により,いわゆる"脈なし病"の診断が詳細に行なわれるに至り,その結果として,外科的根治術が行なわれるに至つた.DeBakey3)は1958年に大動脈弓から出る無名動脈,左鎖骨下動脈および左総頸動脈の狭窄に対して,病巣範囲の少ない症例では動脈内膜切除とPatch移植を,また範囲の広いものでは,代用血管移植によるBypassを行なつて根治に成功している.しかしわが国においては,文献上いまだ根治術を行なつた報告は極めて少ない4)5)

巨大な腸間膜嚢腫を伴うイレウスの1治験例

著者: 佐々木雅彦 ,   片野素道 ,   土橋正邦

ページ範囲:P.578 - P.580

はしがき
 腸間膜嚢腫は1507年Benevieniの発見以来,内外に多数の報告が見られるが,比較的稀な疾患である.臨床的には腸間膜嚢腫そのものよりも,主としてイレウスなどの合併症により.開腹手術を受けて始めて判明する場合が多い.われわれは今回小児頭大の腸間膜嚢腫に合併した腸間膜根部の軸捻転によつて、イレウス症状を呈した症例に遭遇したのでここに報告する.

第1肋骨骨折について—その1症例と本邦報告例の統計的観察

著者: 島谷信人 ,   広恵俊雄 ,   三宅新太郎 ,   毛利宰 ,   森下和郎

ページ範囲:P.581 - P.590

はじめに
 第1肋骨骨折1ま1867年Jonesが初めて報告して以来Lane1),Alderson2),Huher3),Sjögren4),Jenkins6),Kai-ser7),Adler8),Nadler9)らの多くの報告があり,1952年のJenkins6)の報告によれば.欧米での報告例は合計263例であつたという.
 本邦においては,昭和10年本間10)の初報告以来,高橋11),嘉戸12),土屋13)らの報告をはじめとして著者らが文献を渉猟した結果では.現在までに50例の報告例がある.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?