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症例
いわゆる"脈なし病"(大動脈弓症候群)に対する手術経験
著者: 湯浅浩1 新実藤昭1 山際晴紀1 西村誠2
所属機関: 1三重県立大学胸部外科 2遠山病院
ページ範囲:P.573 - P.577
文献購入ページに移動いわゆる"脈なし病"は1908年高安1)により「奇異なる網膜中心血管の変化の1例」と題して,特異な眼底像を示す本態不明の疾患として報告されている.1948年に清水,佐野2)はこれと同様な疾患6例を報告し,この疾患は脈がふれないこと,特異な眼症状を有すること,および頸動脈洞反射が亢進しているという3主徴を有するものであり,このような臨床像および病理学的な特徴から"脈なし病"と命名した.以後わが国においては,大動脈弓分岐動脈の閉塞のため,上腕動脈の脈搏が触れないか,微弱な疾患に対して,いわゆる"脈なし病"と命名して用いられている.外国では,これと同様な疾患に対して,高安病,Martorell氏症候群,大動脈弓症候群,脈なし病などと種々の名称を用いており、いずれも症候群として用いられ,その本態はいまだ不明である.
近時,逆行性大動脈造影法および血管外科の進歩により,いわゆる"脈なし病"の診断が詳細に行なわれるに至り,その結果として,外科的根治術が行なわれるに至つた.DeBakey3)は1958年に大動脈弓から出る無名動脈,左鎖骨下動脈および左総頸動脈の狭窄に対して,病巣範囲の少ない症例では動脈内膜切除とPatch移植を,また範囲の広いものでは,代用血管移植によるBypassを行なつて根治に成功している.しかしわが国においては,文献上いまだ根治術を行なつた報告は極めて少ない4)5).
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