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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科22巻6号

1967年06月発行

雑誌目次

特集 血管の外科 グラフ

血管外科における血管撮影手技と読影—手術適応を中心に

著者: 三島好雄

ページ範囲:P.751 - P.757

 血管造影の歴史は古いが,近年,血管外科の発達とともにその適応も急速に拡大され,今日では,血管外科の立場からは必須の検査法のlつとされている.ここに主要な造影法を紹介する.

綜説

血管移植と縫合材料—実地的見地から代用血管と血管縫合糸を検討する

著者: 井口潔 ,   草場昭

ページ範囲:P.759 - P.764

はじめに
 最近数年間の血管外科のめざましい進歩は,自己の分野の適応をいちじるしく拡大したばかりでなく,外科医長年の夢であつた臓器移植の世界の門戸を開き,食道遊離腸管移植,腎移植などの臨床応用をはじめとして,手技的にはこれを可能ならしめた.
 この血管外科の進歩は,化学療法,麻酔学の進歩によることはもちろんであるが,特に代用血管,および血管吻合器をはじめとする縫合材料,縫合技術の進歩によるところが大きい.

大動脈縮窄症の外科

著者: 杉江三郎 ,   田辺達三

ページ範囲:P.765 - P.771

はじめに
 大動脈縮窄症は古く1789年フランスの解剖学者Parisによつて詳細に記載されたが,臨床的に注目されるにいたつたのは比較的近年のことである.1945年Crafoord,NylinおよびGross,Hu-fnagelらがそれぞれ手術成功例を報告して以来,積極的な手術療法が取上げられ,20年間にGross(1964)14)の800例を始め,多数例の手術症例が報告されてきた.
 本症は,欧米では多く,1500〜2000人に1人(Abbott),15歳以下の小児12000人に1人(Mu-stard),先天性心疾患中6%(Keith),5%(Nadas)などの頻度でみられている.しかし本邦ではいちじるしく少なく,過去10年間にわずかに137例の手術例が集計されているにすぎない37).また特異なことは,欧米で多くみられる定型例が本邦では少なく,異型例が比較的多い点である.われわれは現在まで,7例の本症を経験しているが,ここでは症例の検討と本症についての文献的考察を加え,問題点について論じてみたい.

四肢動脈閉塞症—とくに交感神経切除術の再検討

著者: 恒川謙吾 ,   広岡仁夫 ,   山本国太郎 ,   毛利喜久男

ページ範囲:P.772 - P.784

はじめに
 四肢動脈閉塞症が近年増加の傾向を示しつつあつて,食生活が欧米型に近くなつていく将来は,Atherosclerosisに基くものが増加してくるものと思われる.京大外科第2講座において取扱つた四肢動脈閉塞症について述べ,診断面として連続撮影装置,治療面として交感神経切除術にもふれてみたい.

血管外傷の処置

著者: 白羽弥右衛門 ,   上道哲

ページ範囲:P.785 - P.792

はじめに
 四肢の血管は外傷のために損傷されやすい.外傷のために,主な血管が切断され,さらに重篤な軟部組織損傷や骨折を伴つた四肢は,ただ切断端の処置を施されるのみで,傷肢は切断されるのがふつうであつた.しかし,このような重篤な四肢損傷に対しても,その血行をまず再建して,これを保存する努力が払われるようになつてきた.Malt(1962)や陳(1963)らは,切断肢の再植手術に成功したと報告している.私たちも,1963年10月左手関節部完全切断例の再植手術にはじめて成功し,さらに,このような重篤な血管損傷を伴う上肢損傷11例(付表)をこれまでに診療することができた.それで,ここにはまず末梢血管外科の立場から,これに関する2,3の検討を加え,さらに切断肢に対するわれわれの応急保存法と,その手術方法や自験例の回復状況について述べてみたい.また,腹部刺創などに伴う下大静脈損傷診療の経験から,その処置上の注意事項をも述べるとともに,近時頻発する自動車衝突事故などの鈍性外力による胸部大動脈破綻についても申し添えて,外傷者を取扱う一般臨床家の参考に供したい考えである.

動脈塞栓症の外科

著者: 大原到 ,   大内博

ページ範囲:P.793 - P.799

はじめに
 動脈塞栓症は手術の対象となる血管疾患の中でも,診断と治療法のたて方により予後が非常に左右される.動脈が急に塞栓子により閉塞すると末梢組織に不可逆性変化が起こる可能性が大きいので,治療の時期は適確な判断を必要とする.
 教室の小山田ら1)は僧帽弁膜症手術100例中3例(3%)に動脈塞栓症が発生したが,本稿ではこれを除外した動脈塞栓症10例(付表)の経験をもとにして本症の特徴をあげ,著者らの治療方針を述べる.

注意すべき珍らしい末梢血管の疾患

著者: 阪口周吉

ページ範囲:P.801 - P.806

はじめに
 与えられた標題の"注意すべき"というのは,臨床像からみて他疾患と混同されやすく,したがつて誤つた治療をうけやすい疾患という意味に解釈される.この場合,ごく一般的なありふれた疾患と混同されやすい方がその価値は大きいと言うべきであろう.そのような観点から次の4疾患を選んでみたが,もとより乏しい著者の経験よりのことで,果して適切なものかどうか大いに危惧を感ずる.もしいささかでも読者諸賢を裨益するところがあれば幸いである.

大動脈起始部および上行大動脈瘤の外科的治療—その問題点について

著者: 浅野献一 ,   五十川久士

ページ範囲:P.807 - P.812

はじめに
 近年わが国においても大血管心臓外科の進歩に伴つて,ことに胸部下行大動脈瘤,あるいは大動脈縮窄症の手術は,末期の症例を除けば決して困難なく処置しうる段階にあることは,経験者の等しく認めるところである.しかし,いつたん大動脈瘤が,大動脈弓部あるいは上行大動脈,もしくは大動脈起始部に発生した場合には,世界的にみてもDe Bakeyら1,2)の業績を除けばその手術成功の報告はまことに少なく,かついちじるしく高い死亡率を示していることを認めざるをえない.

血管移植法の新しい試み—とくに自家腸管遊離移植による食道再建への応用

著者: 中山恒明 ,   織畑秀夫 ,   太田八重子 ,   羽生富士夫 ,   岩塚迪雄 ,   野本昌三 ,   御子柴幸男 ,   浜野恭一 ,   鈴木茂 ,   秋田善昭 ,   今給黎和典

ページ範囲:P.813 - P.822

はじめに
 食道癌根治術には,種々検討が加えられており,近年その手術成績においても,めざましい向上を示している.しかし,頸部あるいは頸胸境界部にある食道癌に対する手術は,食道再建法の点に関し,今なお幾多の難点を有している.われわれは頸部食道癌根治術後の頸部食道欠損部に対しては1961年より中山式血管吻合器を使用し,動静脈再建による自家腸管遊離移植術を施行し,多数の食道再建成功例を収めているが,1965年11月には胸部上部食道癌根治手術に対して胸腔内自家腸管遊離移植を応用し,はじめて成功した.さて,食道再建術は19世紀後期より皮膚管成形術がまず行なわれ,次いで腸管の有茎挙上による方法,胃大彎側を管状に挙上する方法,いわゆるHeimlich法のごとく大彎側胃管逆挙上による胸壁前食道胃吻合術などがあるが,今日では,開胸にて病巣部を摘出,同時に開腹して胸壁前あるいは胸腔内において,食道胃吻合術を行なう方法が確立されている.中山は1960年より胸部上中部食道癌に対しては,主として三期分割にて胸壁前食道胃吻合術を施行し,手術死亡を激減せしめている.また1954年以後は60Coなどの術前短期濃縮照射を併用し遠隔成績の向上につとめている.さて,食道再建の目的で遊離腸管移植術の行なわれたのは,1926年Schamowが,犬において有茎小腸片を皮膚に包んで管状とし,皮膚遊離腸管弁として用いたのにはじまる.

研究と報告

血管外科領域における低分子量デキストランの応用と効果

著者: 稲田潔 ,   佐藤昌平 ,   白髭健朗

ページ範囲:P.823 - P.828

はじめに
 近代外科学の発展は,(1)輸血,輸液,(2)麻酔,(3)化学療法の3方面における進歩にきせられるが,とくに外科で日常遭遇するシヨックの概念ならびにこれに対する輸液療法の確立はもつとも大きな因子といえる.血液に代る輸液材料として各種のものが考按されているが,高分子量デキストラン製剤(平均分子量75,000)はそのちでも,もつとも優秀なものとして広く使用されている.しかし最近粘稠度の低い低分子量デキストラン(平均分子量40,000)が,シヨック時に起こる赤血球凝集による末梢循環における血流のうつ帯(Sludging)に対し著明な抑制効果を有することが認められた.すなわち低分子量デキストランは,たんに血液量の補填に役立つのみでなく,末梢循環を改善する点でシヨック療法として2重の利点を有することが明らかになり,漸次各方面で利用されつつある.
 当教室では低分子量デキストランを使用する血液稀釈による体外循環について実験的ならびに臨床的研究をおこない,本剤を灌流液に添加する(通常10〜20%の割合)ことにより体外循環のprimingに必要な血液量を節減しうるのみでなく,全血のみによる体外循環にさいしみられる末梢循環障害を防止しうることをすでに報告した1)

脳血管撮影の副作用

著者: 脇坂順一 ,   倉本進賢 ,   渡辺光夫 ,   馬場繁行 ,   吉村恭幸 ,   大仲良一 ,   李東和

ページ範囲:P.829 - P.835

はじめに
 最近,頭蓋内疾患の診断にさいしていろいろの新しい補助診断法が普及してきた.すなわち,脳波はもちろんのこと脳血管撮影,超音波診断および放射性同位元素の応用等である.これらの検査法はそれぞれ長所と短所をもつているが,特に脳血管撮影は多くの優れた点を有しているため急速に普及してきている.これは脳血管撮影により頭蓋内の脳血管自体の病変やspace taking lesion等に対しその障害の局在は勿論のこと,しばしば障害の性状さえも明らかにしてくれることや或る程度の手技上の経験をもつておれば特別な装置がなくとも容易に実施できるためである.
 しかし,如何に便利でしかも診断的価値の高い検査法であつてもこれに伴う副作用が僅少であることが第一条件である.

選択的気管支動脈造影法—とくにその診断的価値について

著者: 田辺達三 ,   鮫島夏樹 ,   磯松俊夫 ,   早坂真一 ,   土田日出夫 ,   白石俊之

ページ範囲:P.843 - P.847

はじめに
 気管支動脈が肺臓の栄養動脈であり,各種の肺疾患に際していろいろの変化を示すことは実験的に,また病理学的に古くから知られてきた2,4,5,6,9,15,16,19,20).しかし,臨床的にこれを実証し,応用する適切な方法が見出されなかったため,この方面の研究は遅れた.1964年Via—monteが選択的気管支動脈カテーテル法および造影法の可能であることを報告するにおよんで,各種肺疾患,特に肺癌の診断,治療の面から注目されるに至った3,7,8,10)
 われわれも早期診断上,鑑別診断上の価値,薬剤の局所注入の応用の面から本法の検討を続けているので,ここでは各種肺疾患の鑑別診断の上から若干の成績を紹介してみたい.

本邦における大動脈造影の趨勢—とくに合併症ついて

著者: 前川誠

ページ範囲:P.849 - P.852

はじめに
 1929年dos Santos1)がはじめて経腰的大動脈造影に成功し,つづいてNuvoli(1936)2)の胸部大動脈の直接穿刺造影法,Castellanos(1939)3)の逆行性カテーテル造影法が発表されて以来,大動脈造影法は大動脈本幹およびその分枝,さらに支配臓器の疾患に対する有力な診断法として現在ではあらゆる分野での診断の花形として脚光をあびている.
 反面,合併症についても当初はかなりの頻度にともなつていたが,技術の進歩,安全かつ優秀な血管造影剤の開発によつて初心者でも安全に行なわれるようになつたが,今なお若干の合併症の報告をみるのは遺憾で,なかには重篤なものもあり施行にあたつてはとくに慎重を要する.

閉塞性末梢動脈疾患治療の遠隔成績

著者: 藤田孟 ,   中野武彦 ,   鈴木宗平 ,   伝法忠夫 ,   相内晋

ページ範囲:P.853 - P.857

はじめに
 本邦において,四肢末梢動脈の閉塞性疾患の大部分をしめるものは,なおBuerger病であるが,二次的に器質的変化をきたしたRaynaud症候群や,動脈炎,動脈瘤,外傷,腫瘤などによる閉塞を除くと,動脈硬変化性化にもとづく閉塞が最近増加する傾向にある.近年とくに米国においてはいわゆるBuerger病の存在に疑いを抱く報告者が多く,四肢末梢動脈の閉塞性疾患は,ほとんど動脈硬化症に起因するものであり,Buerger病というものはないのではないかともいわれている1)2)
 本邦では,石川3),稲田4),神谷5)らの諸氏によつて,Thromboangitis obliterans(TAO)と,Arteriosclerosisobliterans(ASO)の異同につき論ぜられ,現在のところTAOの存在は認められている.

本邦における舌血管腫の統計的観察—自験例を加えて

著者: 戸谷拓二 ,   神野高光 ,   三輪恕昭

ページ範囲:P.859 - P.863

はじめに
 舌に発生する腫瘍は,悪性腫瘍とくに舌癌がもつとも多く,良性腫瘍は非常に少ないとされている.西山ら1)によれば耳鼻科外来の舌疾患の占める頻度は2.0%であり,そのうち舌血管腫は3.6%にみられ,以下乳頭腫,線維腫,リンパ管腫,粘液嚢腫の順に散見すると報告している.舌血管腫に関してこの報告はそのほとんどが耳鼻科方面で発表され,本邦では根岸2)の報告以来,伊達3)の15例,岡本ら4)の33例,渋井ら5)の47例の統計をみることができる.われわれは自験例の1例の症例報告とあわせて,本邦文献にあらわれたものをもれなく集計し57例の舌血管腫の統計的観察をおこなつた.

Marfan症候群に伴う心血管異常の手術について

著者: 新津勝宏 ,   阿部実 ,   今達 ,   村井正之 ,   岡村宏 ,   細井靖夫 ,   斉藤春悦

ページ範囲:P.865 - P.869

はじめに
 Marfan症候群1)2)とは,蜘状指症(Arachnodactyly)長頭症(Dolichocephaly),筋萎縮,眼異常,心血管異常を特長とする結合織のDystrophyで,先天的,家族的疾患である.最近われわれは心血管異常としてボタロ管開存を伴う定型的な本症を経験したが,さらにファロー四徴症を伴う1例およびボタロ管開存を伴う1例をそれぞれ経験した.かかるMarfan症候群に伴う心血管異常の頻度3)4)はかなり高いといわれるが,本邦においてはその明確な記載は少なく,また外科手術の報告もまれである.心血管異常を主訴として来院した3例を中心に考察を加える

大動脈縮窄症

著者: 柴生田豊 ,   遠藤邦夫 ,   香川謙 ,   陳文輝 ,   佐治公明 ,   富永忠弘 ,   鈴木厚生 ,   平井達郎 ,   荒川弘道 ,   矢野南巳男

ページ範囲:P.871 - P.876

はじめに
 大動脈縮窄症は,欧米では数多くみられ,手術例に関しても多数の記載があるが1)2),わが国における本症の報告はまだ少ない.しかも定型的峡部縮窄3)4)に比し異常部位の縮窄が多く発表されている5)6)7).われわれは,最近3例の定型的大動脈縮窄症に手術を行ない,本症に関して2,3の知見をえたので報告する.

肺動脈Banding—4例の経験

著者: 小助川克次 ,   猪俣和仁 ,   牛田昇 ,   豊泉稔 ,   外山香澄 ,   岸一夫 ,   中山耕作

ページ範囲:P.877 - P.881

はじめに
 乳幼時期の心室中隔欠損症で,特に自覚症状がなく,心電図,レ線において変化の少ない例,すなわち小さな心室中隔欠損では経過を追つて症状を観察し,手術が必要となれば,安全な時期に行なうべきである.しかしながら,心室中隔欠損症で重症肺高血圧を合併した例では発育が遅延し,肺うつ血が著明で呼吸器感染を繰返し,心不全になりやすく,内科的治療を行なつても,症状が改善されない場合が多い.しかもその経過中突然死亡する可能性が大きい.もちろん,このような場合,一時的に心室中隔欠損を閉鎖することは理想的であるが,手術侵襲が大きく手術による死亡率が高い.Lillehei1)の報告では1歳以下で肺動脈圧60mmHg以上の心室中隔欠損閉鎖術では,40%の死亡率であり,その他,多くの人がこのような例の開心術の危険性を報じているが,いずれも死亡率は高いものである.このような場合,繰返す呼吸器感染を予防し,心不全の発生を防ぐ目的で,肺動脈血流を減少させる肺動脈Bandingを行なう.この手術は容易で,手術侵襲が少なく死亡率も少ない.われわれも重症肺高血圧を合併した心室中隔欠損症の乳幼児4例に肺動脈Bandingを行なつたのでここに報告する.

上大静脈血栓症の1治験例—慢性線維性縦隔炎

著者: 上道哲 ,   白羽弥右衛門 ,   井上喬之 ,   乾慶助 ,   福住弘雄 ,   原田繁 ,   上原信彦

ページ範囲:P.883 - P.887

はじめに
 上大静脈が閉塞すると,上半身の静脈圧が急激に上昇し,その結果,頭部,顔面や頸部などの上半身に浮腫をきたし,頭痛,咳嗽ならびに呼吸困難など,一連の特異な臨床症状があらわれる.その成因としては,肺癌,縦隔腫瘍などのために,上大静脈が圧迫されたり,腫瘍が上大静脈壁自体に浸潤する結果,これが閉塞されるなど概して悪性疾患の合併としてあらわれることが多い.しかし,慢性線維性縦隔炎や血栓性上大静脈炎のごとき良性疾患に基因することもすくなくない.
 最近,われわれは原発性と思われる上大静脈血栓症の1例を経験したが,これに対して,human plasma-coated crimped tetron graftをもちいて,右内頸静脈・上大静脈by-passをつくり,良好な結果をえたので,その詳細をここに報告し,あわせて上大静脈症候群について,病理発生ならびに統計的考察をこころみた.

外傷性腕頭動脈瘤に対する代用血管移植例

著者: 後藤忠司 ,   大原到

ページ範囲:P.889 - P.893

はじめに
 腕頭動脈瘤は,明治43年今井1)によつて「無名動脈瘤剔出治療の一例」として日外会誌に報告されて以来他に報告例はなく,欧米においてもGordon-Taylar2)およびLane等3)の集計では1951年まで約53例が報告されているにすぎない.その後血管再建術が行なわれるようになつてから1964年までの約14年間の症例を数えても総数60数例に過ぎず,そのうち外傷性のものは約20%で,他は梅毒,動脈硬化,あるいは特発性である.
 本報告例は貫通銃創により生じた仮性動脈瘤でこれに対し動脈瘤の流入,流出血管の結紮,総頸動脈,鎖骨下動脈の再建を試みたが不幸にして術後9日目に死亡した.

鎖骨下動脈瘤について

著者: 稲田潔 ,   中西正三 ,   妹尾嘉昌

ページ範囲:P.894 - P.896

はじめに
 血管外科の発展により動脈瘤の手術症例が増加しているが,鎖骨下動脈瘤は比較的まれである.岡大第2外科教室ではさきに本症の2例について報告しているが1),最近両側鎖骨下動脈に発生した梅毒性動脈瘤の1例を経験した.本例はきわめてまれと思われ,かつ鎖骨下動脈瘤に関する詳細な記載をみないので,症例を報告するとともに本症について総括的に述べ諸家の参考に供したい.

両側に発生せる膝窩動脈瘤の1治験例

著者: 加藤繁次 ,   宇都宮利善 ,   松井良友

ページ範囲:P.897 - P.899

はじめに
 われわれは昭和27年11月に左膝窩動脈瘤を切除し異種血管移植を行ない.12年後反対側に再び膝窩動脈瘤を発生し切除後テフロン代用血管移植を行ない好結果をえた一例を経験したので報告する.

術後肺塞栓症とその心電図

著者: 佐竹弘 ,   塩之谷昌

ページ範囲:P.900 - P.903

はじめに
 近年,わが国でも交通事故の増加により,その原因となる四肢外傷後の静脈血栓が増えたこと,心臓血管外科の発達によりその治療の可能性が増したことなどより,致命的な術後肺塞栓症が注目されてきている.橋本1)の調査によれば,わが国主要大学の1947〜1956年の10年間の報告では,致命的な肺塞栓は2例しかなかつたということである.われわれは最近,相次いで3例の術後肺塞栓症を経験し,これらを通じて肺塞栓症の術後合併症としての重要性を痛感し,またその時撮影しえた心電図と共に多少の文献的考察を加えたので報告する.

臨床メモ

頭部,顔面,咽頭部痛に対する大耳介神経遮断

著者: 青木秀夫

ページ範囲:P.792 - P.792

 頭痛や顔面痛における頸神経の役割については,最近しだいに解明されつつあるが,三叉神経と上位4つの頸神経の間には,末梢性の知覚支配の重畳とともに,いわゆる関連痛の存在も考えられている.このうちとくに有名なものは,大後頭三叉神経症候群GOTSである.この作用機序は,解割学的に三叉神経の痛覚に関する線維は,三叉神経脊髄路核となり,頸髄後角をC3〜C4まで下降する.この部は頸部知覚神経が後根から入り,第2次ノイロンと接合する部である.したがつて,この両者の間に関連痛が生ずると説明されている.
 この解剖学的関係から明らかなごとく,三叉神経との間の関連痛は大後頭神経に限られたものではなく,小後頭神経,大耳介神経なども関係してよいわけである.しかるに頭痛と頸神経に関しては,大後頭神経についての報告は数多くみられるが,その他については少なく,大耳介神経に関するものはMason(1953)の報告以来,わずかの臨床報告を散見するにすぎない.大耳介神経の分布領域は広く,教室の特長によると側頭部から耳介後部を経て後頭部,顔面の三叉神経第3枝領野と第2枝領野の一部,顎下部などにおよんでいる.したがつて,これらの領野の頭蓋外の痛みに対して,大耳介神経遮断は程度の差こそあれ,有効なことが多い.教室では200例以上の頭部外傷後遺症,非定型的顔面痛,偏頭痛などに施行し,約80%に有効との結果をえている.

"術後腸管癒着症"と"むかつき"の治療

著者: 弓削静彦

ページ範囲:P.806 - P.806

日常診療においてわたくしがつね日頃,自分にいいきかせて注意していることのうちから,ひとつふたつひろいあげることにいたします.もちろんご経験の多い読者のみなさんには,お笑い草かもしれませんが‥‥‥
 (i)術後腸管癒着症は臨床外科医にとつて重要な問題のひとつであり,多くの研究が積み重ねられてきた.とくに癒着防止剤としてとりあげられた薬剤は枚挙にいとまないほどであるが,現在のところ,癒着防止の〈決め手〉になるものはない.わたくしどもは10年近くこの問題について研究してきたが,現在1%コンドロイチン硫酸の腹腔内注入と副腎皮質ホルモンの併用をルーチンの方法としている.ところで癒着症患者の訴えは,癒着の広さや強さとは必ずしも一致しないことは,この種の患者を取扱つた人なら誰れでも経験ずみのことであろう.また,癒着症患者の治療にあたつては,精神身体医学的なことも十分考慮に入れて治療すべきことも周知の事実である.多くの癒着症患者をとりあつかつていると,便秘,消化性潰瘍様の症状,腹部膨満感などを主訴とし,術後腸管癒着症の診断で数次にわたり手術を受けたが症状好転せずというような患者がある.

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人事消息

ページ範囲:P.784 - P.784

清水準也(岡大助教授 外科)神戸日赤病院長に転任
佐野圭司(東大教授 脳神経外科)大田区田園調布6の22の13に転居

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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