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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科22巻8号

1967年08月発行

雑誌目次

特集 胃・十二指腸潰瘍の手術

内科的治療の限界

著者: 常岡健二

ページ範囲:P.1071 - P.1072

はじめに
 胃,十二指腸潰瘍は内科的になおる病気であり,なおすべき病気である.潰瘍が発生した直後から治療すれば,さらにもしそれが理想的に行なわれるとすれば,そのほとんどすべてはなおしうると考えている.しかし,われわれの遭遇するものの多くがこのような条件に合つていないために,その一部が外科療法にまわされることになるわけである.普通の潰瘍,とくに内科的治療をさまたげるような合併症のないもの,しかも本来良性であるものは,これを外科的に治療(切除)したほうがよりよい結果がえられるという理由はどこにもない.つぎに述べるのは外科的に治療したほうが,その安全度を考慮したうえで,患者個人にとつて有利であろうと判断される限界を示したに過ぎない.

癌性変化を疑う場合どうするか

著者: 村上忠重

ページ範囲:P.1073 - P.1077

Ⅰ.「胃潰瘍」診断の困難さ
 「胃潰瘍」の診断を下した場合に,ただちに起こる次の問は果して癌化してはいないだろうかという疑いであろう.外科医は,この癌化しているかいないかによつて,胃の切除方法を変えなければならない.胃潰瘍ならば胃を比較的少なく切除して,健康な部分は残胃として大きく残したいし,癌化していれば,胃の切除部分もまた周辺の支持組織も十分に廓清して,再発の恐れのないようにしなければならない.したがつて,癌化の有無の鑑別は,患者の生命を左右する非常に重要な鍵である.
 この鑑別はできることなら,手術をする前に決めておきたい.胃潰瘍のための胃切除術ならば,予後の悪いこともまずないし,輸出その他の準備も簡単ですむ.ところが胃癌のための胃切除術となると,ある程度の出血は覚悟しておかなければならないし,手術時間,手術侵襲も大となり,したがつて統計的には直接死亡率も高くなる.

周辺臓器に癒着している場合どうするか

著者: 浜口栄祐 ,   石塚慶次郎

ページ範囲:P.1078 - P.1082

はじめに
 胃・十二指腸潰瘍に対する胃切除のさいに潰瘍病変部に一致した漿膜面に白色調の瘢痕があることが多く,さらにその部が周辺臓器との間にいろいろの程度の癒着が認められることもまれでない.手術にさいしこれらの胃周囲の癒着は剪刀で鋭的に,または指頭で鈍的に容易に剥離し得るので手術進行上,とくに困難を感じることは少ない.しかし癒着剥離術は術者の技倆によるところが多く,時には広汎な癒着のため解剖学的な位置関係が変り,癒着剥離中に思わぬ副損傷を招いたり,剥離が不十分なため胃腸管の断端閉鎖が不完全となり,縫合不全の原因ともなる.
 癒着性腸閉塞症の時の腸癒着剥離も同様であるがかかる場合には必要にして十分な癒着剥離こそこの手術のヤマ場であつて,手術を成功に導くポイントである.

多発性潰瘍の治療はどうするか

著者: 本多憲児

ページ範囲:P.1083 - P.1089

はじめに
 胃・十二指腸における多発性潰瘍としては多発性胃潰瘍,多発性胃・十二指腸潰瘍,多発性十二指腸潰瘍に分けられる.本稿においては紙面の都合上,多発性胃潰瘍(十二指腸潰瘍と多発性胃潰瘍合併例を含む)のみについて述べる.
 多発性胃潰瘍はきわめて難治の潰瘍であり,しかも発生部位が胃全体に及ぶのでその治療についてはいろいろの問題点がある.著者は福島県立医科大学赴任以来,過去8年間において手術せる多発性胃潰瘍46例を中心として,多発性胃潰瘍に対する処置についてのべる.

噴門部に潰瘍のある場合どうするか

著者: 田中早苗 ,   吉田宏

ページ範囲:P.1091 - P.1094

はじめに
 噴門部に潰瘍が生じた場合にはどのように治療するかというのがあたえられたテーマである.噴門部に生じた潰瘍という場合と,普通いつている高位潰瘍という場合と,病態生理学的にみた場合にはあまり区別して考える必要はないかもしれないが,その手術的治療法という立場から眺めた際には,それぞれの症例によつて大変趣を異にしていることがありうる.

大出血をともなつた胃・十二指腸潰瘍の手術はどうするか

著者: 紙野建人 ,   曾和融生 ,   山辻英也

ページ範囲:P.1095 - P.1100

Ⅰ.治療方針の決定
 大出血をともなつた胃十二指腸潰瘍に遭遇した場合には,その出血の程度を判定して,止血救命に早期外科手術が必要であるか,あるいは待期保存療法で止血可能であるかを判定しなければならない.
 上部消化管出血例の出血量判定基準として,いろいろの意見がのべられているが,大量出血例に遭遇した場合の救急処置である輸血をまず行なつて,その反応によつて判断する方法がもつとも実際的であると思う.しかしいろいろの臨床例の中には,早期外科手術か,待期観察かの判断に苦しむ場合も少なからずあり,また,どの時期で手術に踏み切るべきかは難しいことである.

貧血の強い場合どうするか

著者: 武藤輝一

ページ範囲:P.1101 - P.1104

Ⅰ.強い貧血のみられる場合
 胃・十二指腸潰瘍で明らかに貪血がみられるのは,(ⅰ)吐血や下血による大出血のあつた後,(ⅱ)黒色便を主としたていどの小出血が続いている場合,(ⅲ)潰瘍に伴う種々の愁訴により長期間経口摂取の不足が続いている場合,(ⅳ)幽門狭窄がある場合,などである.大出血を伴う場合および幽門狭窄のある場合については別項において記載されるので省略し,これらの場合を除き強い貪血のみられる場合についてのべることとする.
 Bockusによれば吐血および下血の原因として胃・十二指腸潰瘍からの出血がもつとも多く70%を占めるといわれ,内外諸家の報告によつても50〜90%を占めると報告されており,消化管出血の原因として胃・十二指腸潰瘍はもつとも重要で,かつ頻度の高いものである.著者の教室の1044例の胃・十二指腸潰瘍の患者の主なる愁訴についてみると,胃部疼痛がもつとも多く65.5%をしめ,大なり小なり出血を主訴とするもの19.1%,狭窄が13.6%,穿孔が1.7%である.幽門狭窄のある場合を除いて,われわれがしばしば強い貪血をみとめるのは大出血の後とか,気づかぬうちに黒色便ていどの小出血が続いていたという場合が多く,次に著者の経験した後記の1例を挙げ,その症例を中心に治療法についてのべる.

胃・十二指腸穿孔のある場合どうするか

著者: 飯塚積

ページ範囲:P.1105 - P.1111

はじめに
 被覆性穿孔の場合は,肝,胆嚢,大綱または膵などの周囲臓器に包埋されて膿瘍を形成し,消化管内と交通した状態をたもち救急的な特色はない.ここでは,消化管内容の腹腔内漏出による急性汎発性腹膜炎をひきおこす開放性穿孔の場合をとりあげる.
 私の医局では患者の状態が許すかぎり潰瘍の根治手術を目的として,胃切除術を施行している.したがつて第一期切除のできないpoor riskでは単純縫合閉鎖にとどめ,患者の回復を待つて2〜3週後に胃切除術をおこなうようにしている.

潰瘍症と胃の切除範囲

著者: 中谷隼男

ページ範囲:P.1113 - P.1119

はじめに
 潰瘍症は,きわめて多い点から消化器を対象とする医家の興味,関心の中心をなすものであるが,潰瘍発生の機序については現在なお説明しつくされているとはいえない.しかしその外科的療法にかんしては胃切除術をもつて本筋となすべきことに異論はないようであるが,近時米国の影響をうけて迷走神経切除術,さらにこの場合残胃を可及的保存して栄養に役立たせようとする意味で選択的迷切プラス胃前庭部切除(あるいは幽門成形術)等の努力がなされている.いずれにしても胃切除に伴う再発あるいは後貽症の予防の問題が潰瘍外科の進歩をここまでもたらした原因といいうる.
 胃切除による消化機能の欠落,ダンピングの問題ことに術後消化性空腸潰瘍は手術法の選択,決定においてもつとも大きな意味をもつているといえよう.端的にいえば洋の東西を問わず広範囲胃切除術は現在一応結論のごとくみえる.その根底に横たわるものは空腸潰瘍にかんする危惧が中心をなす.他方切除による消化機能の欠落すなわち広範切除が個体の栄養に影響がないとは考えられない.その意味において切除範囲は必要にして十分でありたい.それについていろいろの点より検討してみよう.

アンケート

胆石を発見した場合どうするか

著者: 戸部隆吉 ,   西村光郎 ,   上中省三

ページ範囲:P.1120 - P.1121

 胃あるいは十二指腸に,明らかに病変が存在し,しかも胆石も存在する場合,胃あるいは十二指腸潰瘍に対する手術療法と同時に,胆石手術を行なつている.
 この場合,まず,胃,十二指腸潰瘍に対する手術療法を,すなわち私達は,原則として,潰瘍に対しては2/3あるいは75%胃切除を行ない,胃潰瘍の場合は,主としてBillroth第Ⅰ法で,十二指腸潰瘍の場合は,Billroth第Ⅱ法(後結腸)で吻合を行ない,ついで胆嚢剔出術を施行している.

グラフ

脳鏡の臨床

著者: 尾方誠宏

ページ範囲:P.1057 - P.1062

 頭蓋内に内視鏡をはじめて用いたのは,1910年のLespinasseで,その後Putnamの報告があるが,膀胱鏡を応用したもので,いずれも太過ざて,かえりみられなくなつた.われわれは、その難点を解消して,1963年4月,脳鏡(Encephaloscope)を完成し,各方面に応用してきた.

外科の焦点

臓器移植の問題点

著者: 稲生綱政

ページ範囲:P.1063 - P.1069

はじめに
 虫垂炎に対する虫垂切除手術,胃癌や胃潰瘍に対する胃切除手術など,生体内の罹患臓器を摘除することによつて原病を根治することが今までの外科的治療の原則となつていた.その後,動脈管開存症に対する遮断,心中隔欠損に対する縫合および補填閉鎖など,形成手術も手術治療の重要な部門になつてきた.
 ところで,生命維持に不可欠な臓器の機能不全に対して,これを置換しようということは誰しも考えることではあるが,なかなか臨床的に応用することは困難であつた.いうまでもなく,生体の移植免疫反応による移植臓器に対する拒否反応を克服できなかつたからである.そこでまず,臓器移植に関する過去の研究をふり返つてみよう.

論説

ガンマ・グロブリンによる癌治療

著者: 田中早苗 ,   折田薫三 ,   武田淳志

ページ範囲:P.1123 - P.1131

はじめに
 近来,内科的診断法の飛躍的進歩に伴い,癌の早期発見,早期治療が行なわれるようになつて,癌の治療面での向上には著しいものがある.にもかかわらず癌征服への道はいまだに遠いという他ない.このような癌治療の行詰りから,再び注目されてきたのが癌の免疫学的療法である.第25回日本癌学会総会において,癌の免疫学的療法がシンポジウムにとりあげられたのも,このような情勢を浮彫りにしている.
 癌の免疫療法が確実に行なわれるためには,まず第一に自然発生癌である人癌に免疫—抗原抗体反応が存在することが前提条件となる.癌を移植免疫の立場でみる時,自然発生癌が宿主に対して同種移植であるのか,自己移植であるのか,換言すれば癌が宿主によつて非自己と認められて抗原性を発揮しているか否かという問題に焦点がしぼられる.癌の抗原性に関しては,実に多くの研究1)がみられるが,自然発生癌にもつとも近いMethyl-cholanthrene誘発癌で,その抗原性を証明したKlein2)の業績以来,自然発生癌にも抗原性が存在する可能性があると考えられてきた.昨年の癌学会で発表したように3),われわれも組織培養法を用いて誘発癌の局所リンパ節細胞が癌に対して抵抗性を有する(免疫現象)ことを報告し,自然発生癌での同様な現象の証明に一歩近ずいている.

肝内胆石症の外科的治療の検討

著者: 志村秀彦

ページ範囲:P.1133 - P.1143

はじめに
 肝内胆石症に対する治療は,現在,最も問題とされている領域である.その成因がきわめて複雑なため,肝外胆石のごとく一回の手術で完全にこれを除去し,結石の再生を予防しえないところに治癒困難な原因がある.しかし,肝内胆石の分類でも挙げたように,原因を徹底的に追求して適切なる治療を行なえば,完治必ずしも不可能ではない.すなわち,まず肝内結石の原因が寄生虫によるものか,感染によるものか,あるいは胆管の形態的異常によるものか,つきとめる必要がある.十二指腸液検査で寄生虫あるいは細菌感染が明らかとなれば,もちろん駆虫あるいは抗生剤投与が必要となろう.次いで肝内結石を徹底的に除去し,もし肝内胆管に形態的異常があれば,胆汁の通流を容易ならしめるごとき外科的処置が必要である.
 これが肝内結石治療の原則であるが,以下具体的に治療法の概要についてのべてみたい.

消化性潰瘍469例についてのアンケートによる術後遠隔成績

著者: 白鳥常男 ,   塚本長 ,   菅原俠治 ,   黒田俊 ,   関根毅 ,   岡林敏彦 ,   長岡謙

ページ範囲:P.1145 - P.1152

はじめに
 消化性潰瘍に対する外科的療法としては,従来,広範囲胃切除術が主体となり,外科的療法の目的である根治性の面では,ほぼ満足すべき結果が得られている.しかし術後機能の面からみた場合,術後になお愁訴が残り,ダンピング症候群をはじめとする無胃性貧血,消化吸収障害,逆流性食道炎,輸入脚症候群などの胃切除後症候群のため,日常生活を快適に営むことのできないものもみうけられる.このため,近年,胃切除後症候群の原因,病態,治療に関する報告も多く,論義が盛んであるが,なお問題の解決には困難な面が残されており,これらに対するいつそうの検討と究明が要請される.
 今回,われわれは,昭和16年1月から40年12月までの25年間に教室で手術した消化性潰瘍1210例にアンケートを送り,返事をもらつた生存例469例について,アンケートによる術後遠隔成績の調査を試みたので,その成績を中心に消化性潰瘍の統計的事項および遠隔成績よりみた胃切除後愁訴の発現頻度などに関し大要を述べてみたい.

トピックス

心筋収縮力を増強するペースメーカー

著者: 三井利夫

ページ範囲:P.1155 - P.1156

 刺激伝導障害に対して,心搏数を増すためにペースメーカーを用いることは,すでに臨床的に広く応用されているが,最近2つの電気刺激パルスを適当な間隔で心筋に与えると(Paired Pulse Stimulation=PPSと略す)心搏数を減少させるのみでなく,心筋の収縮力を増大せしめることがわかり,不全心の治療法としての可能性が期待されつつある.以下本法の簡単な解説と,著者らの経験を紹介したい.

海外だより

活発な対話と討論—第68回フランス外科学会から

著者: 北条慶一

ページ範囲:P.1157 - P.1158

 昨年の9月26日から5日間にわたつて,フランス外科学会が例年のごとくParisのセーヌ河畔のMaisonde la chimieの大講堂を中心にして開かれた.1884年に創立されてから途中戦時の中断をおいて昨年で第68回にいたつている.
 今回は,内分泌外科,特に甲状腺外科で有名なセーヌのSylvan Blondin教授(Beaujon病院)が会長となり,まず第1日の開会式が午後2時30分より行なわれた.といつても日本の場合のように祝賀式典などのようなプロローグがあるわけではない.単なる会長のあいさつのみである.

学会印象記

肝癌の外科的治療の現況—第1回肝癌研究会から

著者: 菅原克彦

ページ範囲:P.1159 - P.1162

—肝癌研究会発足まで—
 外科領域で治療効果の芳しくない疾患に肝と膵の腫瘍がある.その原因として,ことに肝は腫瘍性変化がいちじるしくなつてはじめて症状を呈することが多いため,治療の機を逸してから医を乞うことと,また医療側での肝外科の認識が不十分であつたことなどがあげられる.
 外科医としてはそのような患者が目の前にあらわれて,はじめて診断と治療のための努力をはじめることになり,胃のような早期診断はごくごくまれかあるいは皆無といつてよく,切除不能例に遭遇することが現況では一般的であろう.今後の外科が真剣にとりくまねばならない領域であることは疑うべくもないことである.

外国文献

骨折にMgを,他

ページ範囲:P.1166 - P.1169

 骨折で臥床したきりの状態では,Ca尿排泄,Ca負平衡が約5週進行し以後一定となるが,このCa喪失はGoldsmith(J. Clin. Invest. 45:1014, 1966)によると,無機燐1日1〜2g分割投与で低減せしめうるという.そこでGoldsmith(Lancet 1:687, 1967)は骨折51例のうち,24例は他のコントロールと同じ食事,治療の上に,さらに無機燐1日1g 3ヵ月連用(disodium phosphate1.5+monopotassium phosphate 1.Oをカプセルとして).コントロールではすべてに患側にdemineralisation像がX-Pでみとめられたが,燐投与群では6例に,骨癒合時,全く脱灰がみとめられなかつた.ことに大腿骨幹の骨折にこの差が著明であつた(燐投与6例では4例に全く脱灰なし).燐投与群では++以上の脱灰はおこつていない.Colles骨折では燐投与の効果ははつきりしなかつた.骨癒合の平均時日は,コントロールが大腿骨幹で9.9±1.8週,踝部では12.4±3.6週,燐投与はそれぞれ6.1±2.9週,および6.4±3.3週,その両群の差はP<0.05ないしP<0.005で有意である.燐投与が脱灰を防ぎ,骨癒合を促進すると考えられる.

講座

頭部外傷後遺症の治療—〈その2〉特にcervical syndromeを中心に

著者: 景山直樹 ,   田中衛 ,   池田公行 ,   頼国壌

ページ範囲:P.1171 - P.1178

 頭部外傷急性期の症状が一応軽快ないし消失したあとで,頭痛,眩暈,悪心,嘔吐,視力障害(主に目のかすみ),肩こり,四肢のシビレ感,脱力感,上肢の知覚異常,運動麻痺などの不快な症状が長期間持続しているような症例はきわめて多い.これらの症状は頭部外傷の重症度とはあまり関係なく,かえつて1,2型の比較的軽い症例に多い,最近では,これらの症状は,脳自体の変化によつて起こるものではなく,大部分が頭部を打つたさいに,間接的外力を受けた頸部の損傷に由来した症状,いわゆる"cervical syndrome"であることが明らかになつてきている.そして同様の症状は,自動車の追突事故のさいに定型的な形をとつてあらわれ,一般にはそれがwhiplash injury(むちうち損傷)と呼ばれている.そのさいには頭が他の物体にあたつてはいないが,頸部はまず急激に過伸展状態となり,さらにそれについで反動的に過屈曲位をとるので,ちようどむちを打つ形となるために,この名前が用いられているのである.
 頭部を打つた時に,頸部の急激な運動が起こり,cervical syndromeが起こる.むちうち損傷のさいに,頸部の急激な運動で類似の症状をあらわし,頭はほかの物体にあたつていないので,脳の損傷がまつたくないように思われがちであるが,そのさいにも急激な頭の振れにより,脳実質は頭蓋内板へうちつけられるわけであるから,この両者の間に本質的な差はない.

症例

巨大な皮膚腫瘍をともなつたRecklinghausen病の1例

著者: 伊藤秀芳 ,   高木俊男 ,   霜礼次郎

ページ範囲:P.1179 - P.1182

はじめに
 1882年,Von Recklinghausenは,多発性皮膚腫瘍,深部神経腫瘍,色素斑を伴う症例を,多発性神経線維腫症として発表した.以来この疾患をRecklinghausen病として多くの報告がある.LandowskiはRecklinghausen病の3主徴として,皮膚腫瘍,神経腫瘍,色素斑をとりあげているが,確居,諸富氏らは神経腫瘍のかわりに骨変化を強張している.
 われわれは最近,全身の色素斑,高度の側彎,および,悪性変化を思わせる巨大な皮膚腫瘍をともなつた一症例を経験したので報告する.

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人事消息

ページ範囲:P.1162 - P.1162

池内 彦(名市大講師 第2外科) 助教授に昇任 中央手術部
深井博志(新大助教授 脳外科) 慈大教授に昇任

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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