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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科22巻9号

1967年09月発行

雑誌目次

特集 甲状腺疾患の問題点

中毒性甲状腺腫の内科的治療

著者: 鳥飼龍生 ,   斉藤慎太郎 ,   桜田俊郎 ,   稲垣喜代司 ,   田山澄夫

ページ範囲:P.1211 - P.1216

はじめに
 中毒性甲状腺腫(toxic goiter)とは,いわゆる単純性甲状腺腫がnon-toxic goiterとよばれているのに対比して,甲状腺腫とともに甲状腺ホルモンの過剰分泌に基づく中毒症状(以下,甲状腺機能亢進症状)を呈するBasedow病およびPlummer病に対して名づけられたものである.
 その他,亜急性甲状腺炎でもしばしば,甲状腺機能亢進症状を呈する場合があり,また中毒性甲状腺腫の中に甲状腺癌が潜んでいる場合があり,そのような頻度は1〜26%といわれている1).さらにまた,一般には粘液水腫症状を呈することが特徴とされている橋本病においても,まれに甲状腺機能亢進症状をきたす場合があり,著者らも55歳の女性で,thyroglobulinに対する血清沈降反応が陽性で,組織学的にも橋本病の像を呈しながら,臨床的には甲状腺機能亢進症状を示した例を経験している.しかしながらこれらの例は,おのずからそれぞれ甲状腺炎あるいは甲状腺癌の分類に入れられるべきものである.

中毒性甲状腺腫の外科的治療

著者: 羽鳥俊郎

ページ範囲:P.1217 - P.1223

はじめに
 甲状腺機能充進症としての中毒性甲状腺腫(to-xigoiter)はthe American Society for the studyof goiterの定義でビマン性中毒性甲状腺腫(diffusetoxic goiter)と結節性中毒性甲状腺腫(nodulartcxic goiter)に分類されている.
 結節性中毒性甲状腺腫にはPlummer病(nodularhyperthyroidism),中毒性腺腫(hyperfunctioningadenoma)が含まれ,甲状腺シンチグラム上で甲状腺の偏葉あるいは一部に131Iが高濃度に沈着している場合で,本邦では頻度の少ない疾患である.本症に対しては131Iや抗甲状腺剤療法では再発が多く1),根治的には腫瘍の摘出がよいとされている2)

甲状腺疾患における自己抗体測定の臨床的価値

著者: 伊藤国彦 ,   西川義彦 ,   鈴木琢弥 ,   原田種一

ページ範囲:P.1225 - P.1230

はじめに
 自己免疫疾患の研究は慢性甲状腺炎の研究を中心に展開されてきた.すなわち1956年Roittら1)は橋本病患者の血清と人甲状腺抽出液との間に沈降反応を陽性にみとめ,橋本病患者の血清中には甲状腺抽出液を抗原とする抗体が存在することを見出した.同年Witebskyら2)は実験的に家兎を免疫学的に処理し,その甲状腺に橋本病様の変化が生じ,またその血清中に甲状腺抽出物に対する抗体を証明した.その後約10年の間に方法的にもまたその意義解明にも種々の研究が急速に進められて今日にいたつている.甲状腺自己抗体の検出も初期の沈降反応から,タンニン酸処理赤血球凝集反応(TRC),補体結合反応(MCF),さらにはcoonsの螢光抗体法などの発見により,きわめて鋭敏となり,また抗原の種類も分析されてきた.しかしながら自己免疫現象の機序はまだ解明されていない.自己抗体の存在が甲状腺疾患の原因になつているのか,あるいは自己抗体は甲状腺にみられる病変の反映として結果的なものかは議論が分れている.
 著者らは約4年前よりTRCの測定を日常の臨床にとり入れているが,今日この検査をいかに利用しているか,臨床的な価値についてのべてみたい.また特にBasedow病のTRCについては項をあらためて詳述する.

甲状腺癌の診断および鑑別診断

著者: 樋口公明 ,   堀江久夫 ,   麻薙章吾 ,   星昭二

ページ範囲:P.1231 - P.1240

はじめに
 甲状腺癌患者の来院は,一般には比較的にまれであり,術前後の機能検査や術後の合併症と美容への配慮といつた煩わしさがある反面,ほとんどのものは経過緩慢のうえ,専門家においてさえ10〜30%に臨床診断困難例がある1)という安堵感がさらに一般の関心をうすめているようである.たしかに腺腫や腺癌の手術例に臨床所見と病理像が合致しない例があつたり,また累々とした転移のある若年者の腺癌例をよく経験するなどの特異性があるが,野口先生らが述べられるごとく2)3)4),幸い甲状腺癌の大多数を占める腺癌例は予後も良い.しかしまれとはいえ,もだえ苦しみ,悲惨な末路をたどる患者をまのあたりみると,早期発見の壁をつき破りたい焦燥感にもかられる.
 一方最近の甲状腺癌の疫学的調査では5)6),来院数や死亡統計数と潜在患者数との間にはかなりの開きがあるとされ,釘本教授からも詳細な御説明があると思う.したがつて今後この方面の啓蒙と普及につれ,手術件数も増加し,また誤診例への後悔や合併後遺症に悩まされる機会も多くなるであろう.びまん性甲状腺腫例に抗甲状腺剤の乱用が戒められるべきと同様,診断困難な悪性甲状腺腫(Low Grade)は予後良好とはいえ,確定診断への努力と,症患や病期に応じた手術法を区別し選択する注意もまた必要である.

甲状腺癌の治療および治療成績

著者: 野口秋人 ,   野口志郎

ページ範囲:P.1241 - P.1246

はじめに
 甲状腺癌は大別すれば,比較的予後の良好な腺癌と予後の非常に悪い未分化癌とに分けて考えることができる.腺癌はどちらかといえば若年者に多く,未分化癌は老人に多い.わが国では,未分化癌は比較的少なく,腺癌が圧倒的に多いので,甲状腺癌は予後の良好な癌であるといつてもいいすぎではない.また腺癌では,多かれ,少なかれホルモン依存性,すなわち癌の成長がTSHによる刺激に依存していると考えられる点もあり,このことが甲状腺癌の対策を外少複雑にしている.癌であればどんな犠牲を払つても徹底的に広範な手術をしなければならないという考え方が一概に受け入れられない由縁である.
 甲状腺癌の性質については著者ら1)の最近の綜説を参照されたい.なお本誌の性質上ここでは手術および補助的療法の一つであるホルモン療法についてのべ,放射性ヨード療法やテレコバルト外部照射についてはふれない.

いわゆる側迷入甲状腺腫

著者: 古屋四郎 ,   佐藤清

ページ範囲:P.1247 - P.1253

はじめに
 甲状腺の癌は他の臓器のものと異なる性格をもつており,臨床的に特異な病像をとることが比較的多く,そのひとつにいわゆる側迷入甲状腺腫がある.これは側頸部に腫瘤を認めて診療をうけ,外科的に摘出し病理組織学的に検索し,初めてこの腫瘤が甲状腺由来であるか,甲状腺構造を持つていると判明した場合を通常呼んでいる.側頸部腫瘤のみでなく甲状腺自体に対しても同時に検索が加えられるにつれて,ほとんど大部分は甲状腺癌の側頸部リンパ節転移であることが判明してきた.したがつて側迷入甲状腺腫という言葉は大部分が迷入という意味から離れてしまつたため,"いわゆる"という言葉が附せられるようになり,その本質も解明されたかにみえるがなお未解決の点もあり,興味ある問題が含まれていると考えて改めて検討を加え,甲状腺癌がいかに多様性の性格をもつているか,また転移巣に見られた所見からして病理組織学的に腺腫の癌化ということを証明することがいかに困難であるかということが再確認された。

甲状腺癌の疫学的問題

著者: 釘本完 ,   丸地信弘

ページ範囲:P.1255 - P.1260

はじめに
 従来甲状腺腫に関する疫学的研究は,地方病性甲状腺腫の存在の有無についてのものが中心となつていて,これに関する報告は少なくない.もつともこれまでの成績を通覧すると,その存在を肯定する報告も相当みられるが,内容を詳細に検討すると,わが国の甲状腺腫は頻度的にも諸外国の多発地帯に比較してそれほど多いものではなく,またその腫大程度も軽度のものがほとんどで,したがつてわが国の甲状腺腫の発生を諸外国のそれと同列に評価することは困難のように思われる.このため最近では,むしろわが国での地方病性甲状腺腫の存在は疑問視する傾向が支配的になつてきている.
 われわれの教室では,ここ数年来一般住民を対象としたいわゆる循環器成人病の集団管理法について検討を行なうため,長野県下地区で調査,検診活動を続けてきているが,たまたまその活動の過程で住民の中にかなりの頻度で甲状腺腫が認められ,かつ要医療と考えられ手術を行なつた住民の中から,数例の甲状腺癌が発見されたため,以来甲状腺腫の実態に関する検討を行なつてきている.これまでの成績によると,もちろん地方病性甲状腺腫の存在は考えられないが,当初想像されていたよりも高い頻度で甲状腺癌が発見されてきており,したがつて今後甲状腺腫の疫学的研究は従来のような地方病性甲状腺腫にのみとらわれることなく,悪性甲状腺腫の疫学という新らたな観点からこれを究明する必要があろうと思われる.

アンケート

単純性甲状腺腫は手術すべきか

著者: 隈寛二 ,   藤本吉秀 ,   河石九二夫

ページ範囲:P.1261 - P.1266

 単純性甲状腺腫はびまん性のものと結節性のものとで治療方針は異なるので分けて考えたい.

グラフ

甲状腺癌の転移巣の病理

著者: 古屋四郎 ,   佐藤清

ページ範囲:P.1195 - P.1199

 悪性腫瘍の転移巣と原発巣との関係は,生物学的性格および組織類似性の点からむずかしい問題が多く,転移巣についての病理組織学的のくわしい検討は,意味づけが困難のため一般には行なわれていない.
 しかし甲状腺癌の場合は他臓器の癌に比べ,病理組織像,発育速度および転移形式が大部趣を異にしており,また特に発生母地としては他の臓器の癌と異なり,良性腺腫から相当高率に発生するといわれている.

外科の焦点

高気圧酸素治療と外科

著者: 榊原欣作

ページ範囲:P.1201 - P.1209

はじめに
 地球上の生物にとつて,通常の大気圧よりも高い気圧の環境は非常に異常な環境である.このように異常な環境のなかでは生物は当然さまざまの異常な反応や現象を示す.高い気圧環境の医学的研究は,これら異常な反応や現象をとらえて,正常な環境にある生物の未知の分野を解明するための鍵として活用することにその本質がある.しかし一方,これらの異常な反応や現象のなかには,そのまま現在の臨床医学に導入し応用できるものも少なくない.現代の高気圧酸素治療はこのような基盤の上に立つて発展したものである.以下,高気圧酸素治療に若干の考察を試み,とくに外科的領域を中心として適応とその問題点に触れたい.

臨床メモ

血管外科の2,3について

著者: 藤田孟

ページ範囲:P.1246 - P.1246

 最近血管外科の進歩は著しく,どこでも血管手術がやれるようになつてくるとともに,誰でも心得ておかねばならない手技の一つとなりつつある.また血管の手術のみでなく,診断面において血管撮影の占める比重も次第に高くなつてきている.そこで先人の業績をいろいろ追試してみて,これは学んでよかつたというもの1,2のを紹介することにする.
 先ず動脈撮影を行なつた際の合併症として,直接穿刺した場合は造影剤の漏れとか,血腫形成とかでそれ程重篤なものはない.しかしSe-ldinger法の場合は外膜組織をカテーテルと一緒に血管内腔に押しこむため,往々にして血栓を生ずることがあり,結局血栓摘除や血管再建をしなくてはならない破目におちいる.従つてSeldinger法を施行する場合には次の注意が肝要である.

胃手術後患者の貧血に対する治療の要点

著者: 古賀成昌

ページ範囲:P.1264 - P.1264

 胃全摘出後には術後経過にしたがつて,ある種の貧血が発生することが知られている.すなわち,術後1〜2年で低色性貧血,2〜3年で正色性貧血,3〜5年で高色性血があらわれ,一定の治療を行なわなければ,ついには無胃性悪性貧血があらわれてくる.この原因として,胃全摘出にもとづく胃内因子の消失,腸内細菌の異常分布などによるビタミンB12を中心とした造血因子の代謝障害,およびこれに関連して鉄代謝障害の存在などが考えられる.
 私共はかつて,胃全摘出後5年以上経過した症例について,末梢血液所見,骨髄所見について検討したところ,大部分の症例でヘモグロビン値の低下がみられ,かつヘモグロビン値に比べ赤血球の減少が大で,色素指数が1.1以上の高色性貧血が認められ,また,骨髄像では赤芽球系の成熟障害があつた.したがつて,かかる場合の貧血の治療方針を知ることは,術後管理の上から,外科医としてきわめて大切なことと思われる.

論説

脳幹腹側部病変に対するTranspharyngeal Approachについて

著者: 佐野圭司 ,   寺尾栄夫

ページ範囲:P.1267 - P.1272

はじめに
 脳幹腹側部は頭蓋内でももつと手術的に到達しにくいところのひとつである.Chordoma,neuri-noma, meningioma,転移性腫瘍などの各種の腫瘍,脳底動脈の動脈瘤など,この部に発生する病変は決して少なくないが,これら病変のほとんどはinaccessibleということで放射線療法,減圧手術などの姑息的な治療にゆだねられていて,根治的療法は断念されているのが現状である.
 直観的にみるならば,前方から口腔を介して,transoralあるいはtranspharyngealに到達することがもつとも簡単と思われるが,非常に深部の手術になるうえ,口腔壁にさまたげられて十分な手術視野のえられないこと,消毒が十分に行ない難く常に感染の危険が大きいなどのためにあまり試みられていない.しかしhigh speed air drill,手術用顕微鏡をはじめとして種々の手術器具が発達し,さらに十分強力な各種抗生物質が用いられる現在,この方法は検討してみる必要があると思われる.

乳幼児にたいする腰・全合併麻酔の臨床的検討

著者: 守屋荒夫 ,   田村重宏 ,   山登淳伍

ページ範囲:P.1273 - P.1277

はじめに
 新生児の先天性奇形を中心とする小児外科の急速な進歩にともない,従来,ある程度成長してから実施されることの多かつた小児の外科疾患で,乳幼時期に積極的に手術されるものも増加してきた.鼠径ヘルニアはその代表的な疾患の1つであり,特別な理由がない限り,手術を学令期近くまで延期することはなくなつてきている.しかし,現今なお,この種の手術が,麻酔担当者を常時確保しうる病院を除いては,麻酔の点で学令近くまで延期せざるをえない場合も少なくはない.
 われわれも,少ない人手をいかにして有効に用い,安全・確実に,しかも簡便に,このような手術を遂行しうるかを考え,種々の方式を試みた結果,吸入麻酔に腰椎麻酔を加えた方法(以下,腰全麻酔と略)に,多くの利点を見出し,現在これをroutineの方式とするにいたつたので,この方法に関する検討成績を報告し,御追試・御批判を乞いたいと考える.

トピックス

脳神経外科学会の「認定医」発足へ

ページ範囲:P.1287 - P.1287

 "専門医(認定医)制度"は,医学の進歩発展とその水準をはかる目的で,各学会で検討され,すでに皮膚科,麻酔科では実施にうつされている.日本脳神経外科学会でも近く「認定医」を実施する準備を進めている.
 数年前より,同学会は認定医制度の構想を打ちだし,その具体的実施につき検討がなされてさたわけであるが,いよいよ,8月末に,第一回認定資格審査会が,開かれることになつた.現在,事務局には,約200名の申込みがきており,今年の岐阜における学会総会までには,結果が判明する予定である.なお学会の発表による認定医制度の大要は次のとおりである.

患者と私

一期一会

著者: 宮崎五郎

ページ範囲:P.1288 - P.1289

 病名は同一であつても,われわれが取扱う疾患の一例一例がそれぞれ何らかの個性的な点を持つているものである.一期一会は外科の道を端的に表現した言葉であり,それに従う者の心構えを教えているものといえるであろう.
 私は自分の手術した症例をメモ程度に病歴,検査成績,手術所見,手術操作,術後感想を記して保存し,その一連番号が6000になつた.初心は反省の資にでもしようと仰々しく考えたのであつたが,実のところは,本日ただいまは2度と経験できないもの,外科医の人生記録として日記代用ということである,相似た病気を取扱う時にはそれをひつくり返して当時の苦心や後でふり返ってこうすれば良かつたろうと思うという記事を読むと,その患者の様子から取交した会話の内容,果てはその風貌まで頭の中に蘇つてきて,思わず独り笑いをしたり,あらためて憤概してみたりすることさえある.

海外だより

The Society for Vascular Surgery—その途路見学した病院—その1:Starr教授,Cooley教授の手術を見て

著者: 新井達太

ページ範囲:P.1290 - P.1293

 この旅行の目的は,6月17,18,19日にAtlanticCityで開かれるThe International CardiovascularSurgeryとThe Society for Vascular Surgeryに出席して,S.A.M弁について追加報告をすることでした.この機会に少しでもアメリカの心臓外科の現況を見学したいと考え,次の四つの病院を選びました. 1) Oregon Medical Scllool(Starr教授) 2) Baylor University(Cooley教授) 3) Minesota University(Lillehei教授) 4) Mayo Clinic(Ellis教授,Dr McGoon)
 これらの病院で見たり聞いたりした事を主にして報告したいと思います.

学会印象記

学問的進歩の時代に入つた小児外科—第4回日本小児外科学会総会にひろう

著者: 森田建

ページ範囲:P.1294 - P.1295

 本年度の日本小児外科学会総会は,原爆の地広島において,初夏の日ざしの強い6月9日より11月までの3日間,広大第1外科上村良一会長主催の下に,1000名を越える会員の参集をえて盛会裡に開催された.
 従来2日間であつた会期が,今回より3日間に延長されたが,会の内容をできるだけ有意義にしたいとの上村会長の御熱意によつて189題の一般演説のほか,英国Rickham教授をはじめ4題の招持・特別講演,4題のシンボジアム,公開討論会などのスケジュールがぎつしり組まれ,夜は教育講演,スモールグループディスカッションが続き,会場のなかで「この学会ほど勉強させられる会は少ない」との声も出るほどであつた.夜の教育講演の一般公開や公開討論会の試みなどの新機軸を出された会長は,運営面においても一般演題の発表をシンポジアム形式にしたり,座長に小児外科の第一線で活躍している中堅を起用するなど,本学会の性格をよく把えて会の盛上りに工夫されていた点は,会員の一人として筆者も敬服したしだいであり,これを助けて運営の実をあげられた上村外科教室の方々の御努力に感謝の意を表したい.

外国文献

熱傷昏睡,他

ページ範囲:P.1298 - P.1301

 熱傷に伴う精神神経症状は福田先生の宿題報告「熱傷」にも見られるが,Sevittの"Burn"(ButterworthCo.,1957)はburn toxemiaがその原因であろうとしている.Harbauer(DMW 88:1281,1963)は脳の虚血を原因として考えている.Haynes(J.Trauma 7:464,1967)は重症熱傷後の昏睡10例の自験を報じている.Ⅱ-Ⅲ度熱傷,面積21〜54%,受傷より9〜23日に,多くは創感染著明,血液培養陽性化と共に,昏睡症候群があらわれた.最も高率に証明されたのはPseudomonasaerg.,kreb.aerob.も多い.溶レン菌は多からず症状は限局性の中枢変化というより,diffuse.瞳孔反射あるも鈍,眼球divergence,眼振もしばしば.腱反射低下,アタキシー,発語障害多し.EEGは各例共通にδ波diffuse, grade 11でtoxic metabolic encephalopathyに一致す.皮膚を移植し着床すると,これらの昏睡症状が急に軽快した点が,共通の,興味ぶかい特色であった.死亡3例,その脳は形態学的に一定の変化なし.回復した7例は何れも遺残症状なし.以上の所見から熱傷昏睡は感染,sepsisにもとつくのであろう.

講座

頭部外傷後遺症の治療—〈その3〉脳および脳神経挫傷の後遺症の場合

著者: 景山直樹 ,   池田公行 ,   中島正二 ,   小津泰

ページ範囲:P.1304 - P.1312

はじめに
 外力作用がかなり強大で意識障害の程度が強く,その長さもかなり長時間におよび,脳や脳神経の脱落症状を呈するような中等度以上の閉鎖性頭部外傷および開放性脳挫創の症例は脳挫傷(Contusio cerebri)と総括される.
 頭部外傷によつてひきおこされる症状の多くは脳,または脳神経の挫傷による巣症状で,その多くは受傷後数週間のうちにいちじるしく軽快していくものである.このことは,一見器質的と思えるような巣症状も,その大部分は短期間のうちに完全に機能を回復できる機能性障害であることを示している.一般に大脳半球の穹窿部に近い部分に由来する症状,たとえば運動や知覚の障害,失語症などは比較的回復しやすいが,脳底部に近い部分に由来する症状は回復しにくいものである1)

他科の知識

最近の麻酔

著者: 岩月賢一

ページ範囲:P.1313 - P.1317

はじめに
 医学は各分野において日進月歩の歩みをつづけ,麻酔もその例にもれない.以下,麻酔剤,患者管理の面での最近の話題の2,3について述べる.

症例

びまん性中毒性甲状腺腫に合併した潜在性甲状腺癌

著者: 稲垣秀生 ,   大沢智昭 ,   菊地勉 ,   鈴木雄次郎

ページ範囲:P.1319 - P.1323

はじめに
 以前にはびまん性中毒性甲状腺腫と甲状腺癌との合併は非常に稀であると考えられ,"Thyrotoxicosis is insurance against cancer of the thyroid"とさえいわれていたようである2).しかし近年ではびまん性中毒性甲状腺腫と甲状腺癌との合併についてのかなりの数の報告がみられる1-17).ことに最近ではびまん性中毒性甲状腺腫に対して131I療法が行なわれる傾向にあるので,この癌の存在には以前にもまして注意する必要があると思われる.東大第一外科では最近4年間にこのような癌が2例あつたので,その生物学的特徴や予後についての考察と共に報告する.

自己免疫性甲状腺炎を伴つたバセドウ病にSjögren症候群を合併した1例

著者: 岡厚 ,   藤本吉秀 ,   内田久則

ページ範囲:P.1325 - P.1329

はじめに
 近年バセドウ病の発症因子と考えられているLATSはγグロブリンに属し,この活性は抗γG.血清で中和されることが明らかになり,LATSは自己抗体で,バセドウ病自体を一種の自己免疫疾患であると考える論議が盛んになつてきた1)2).この点はまずおくとしても,バセドウ病甲状腺にかなりしばしばリンパ濾胞形成を伴うリンパ系細胞浸潤のみられること3)4),あるいは甲状腺組織に特有の抗原に対する自己抗体陽性率が橋本病についで高くみられること5)は,自己免疫現象との関連を強く疑わしめる事実である.
 一方Sjögren症候群についても,最近この疾患の患者血清中に多くの自己抗体が発見され6)7)8),病因的に本症候群も自己免疫が関与するものと考えられ,多くの注目を集めるにいたつた.

先天性食道狭窄症の1例

著者: 小西昭男

ページ範囲:P.1331 - P.1333

はじめに
 先天性食道狭窄症は非常にまれな疾患であるが,7歳女子の本疾患の手術を行なう機会を得,興味ある組織所見を認めたので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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