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特集 甲状腺疾患の問題点
甲状腺癌の診断および鑑別診断
著者: 樋口公明1 堀江久夫1 麻薙章吾1 星昭二1
所属機関: 1国立栃木病院外科
ページ範囲:P.1231 - P.1240
文献購入ページに移動甲状腺癌患者の来院は,一般には比較的にまれであり,術前後の機能検査や術後の合併症と美容への配慮といつた煩わしさがある反面,ほとんどのものは経過緩慢のうえ,専門家においてさえ10〜30%に臨床診断困難例がある1)という安堵感がさらに一般の関心をうすめているようである.たしかに腺腫や腺癌の手術例に臨床所見と病理像が合致しない例があつたり,また累々とした転移のある若年者の腺癌例をよく経験するなどの特異性があるが,野口先生らが述べられるごとく2)3)4),幸い甲状腺癌の大多数を占める腺癌例は予後も良い.しかしまれとはいえ,もだえ苦しみ,悲惨な末路をたどる患者をまのあたりみると,早期発見の壁をつき破りたい焦燥感にもかられる.
一方最近の甲状腺癌の疫学的調査では5)6),来院数や死亡統計数と潜在患者数との間にはかなりの開きがあるとされ,釘本教授からも詳細な御説明があると思う.したがつて今後この方面の啓蒙と普及につれ,手術件数も増加し,また誤診例への後悔や合併後遺症に悩まされる機会も多くなるであろう.びまん性甲状腺腫例に抗甲状腺剤の乱用が戒められるべきと同様,診断困難な悪性甲状腺腫(Low Grade)は予後良好とはいえ,確定診断への努力と,症患や病期に応じた手術法を区別し選択する注意もまた必要である.
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