icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科23巻1号

1968年01月発行

雑誌目次

特集 初療の要点

めまい,頭痛

著者: 佐藤文明

ページ範囲:P.25 - P.30

はじめに
 めまい,あるいは頭痛を主訴とする患者の診療にあたつて,どのような原因疾患を考え,どのように処置するかという点について,主として外科的(神経外科的)立場から簡単に述べることにする.めまい,頭痛のどちらについても,それらが発現する機序,本態に関しては不明の点が多く,またその原因となる疾患も無数に考えられる.原因疾患の一応の診断をつけるために最も参考になるのは,一般神経疾患の診断の場合と同様,患者の現病歴と臨床神経学的諸症候である.それによって,原因疾患の部位,性質などについて一応の判断がつくと思う.つまり,めまい,頭痛のおこり方,型などを明らかにするとともに,それに随伴する諸症候をはつきりさせることが最も大切である.以下にめまい,頭痛のそれぞれについて,それらの発現機序,解剖学的事項,分類,原因として考えられる疾患,治療法などにつき簡単に述べてみよう.

胸痛

著者: 正木幹雄

ページ範囲:P.31 - P.33

はじめに
 胸痛は,咳嗽,喀痰,喀血や呼吸困難などの症状とともに,胸部疾患の重要な症状の一つであり,主として,胸壁や胸腔内臓器の病変によつて出現する.
 しかし,胸痛は,諸々の原因によつて発現することもあるので,詳細な問診が必要で,胸痛の部位,性状,種類や発現の仕方,拡がり,また,胸痛に伴つて現われる随伴症状の有無などを判断して,いろいろの臨床検査成績と共に,正確な診断を下して,その治療に当らねばならない.

腹痛

著者: 飯塚積

ページ範囲:P.34 - P.38

はじめに
 種々の腹部疾患で腹痛を伴わないものはないといつてもよいほど,腹痛は共通の症状であり,しかもこの腹痛という感覚は本態的な自己防衛の表現であり,疾病の存在を知らせる貴重なシグナルでもある.しかしながら,あまりにも普遍的であるためか,医師としては一応の手がかりにはしても,ともするとその疼痛を詳細に分析することを忘れる傾向にある.
 さて腹部の激痛を主訴とした腹部の急性疾患を,急性腹症または急性腹部症(acute abdomen)と呼んでおり,治療上の実用的な用語として好んで用いられている.このacute abdomenには症状がそろうまでゆつくり待つて診断を下す余裕がなく,急いで開腹すべき疾患群であるという意味をももたせていることは衆知のとおりである.

吐血,下血

著者: 戸部隆吉

ページ範囲:P.39 - P.44

はじめに
 吐血および下血に対する初療の要点は,原因のいかんにかかわらずまず失血に対する救急処置を行ない,出血量および患者の状態を把握し,同時に出血部位を診断し,外科的治療すなわち開腹手術を必要とするか否かを判断し,手術を必要とするものには時期を失せず救急手術を行なうことにある.特に私達が注意しなければならないことは,開腹手術を行なつても出血部位の切除が,胃潰瘍のように根治的な意味をもつ切除可能な部位からの出血と,食道静脈瘤破裂のように救急時期に根治手術を行ない得ないまたは根治手術そのものにも問題点の残されている部位からの出血は,開腹術前にできる限り予知しなければならない.さらに,開腹手術を行なつても,視診および触診では全く所見が認められず,いわゆるblindgastrectomy5)32)の可否について直面することもまた,臨床外科医には少なからずある.吐血および下血に対する治療の方針は,緊急を要するのでこれらのことも最初から考慮されなければならず,要点的に述べよう.

熱傷

著者: 藤田五郎

ページ範囲:P.45 - P.49

はじめに
 熱傷は,初療のありかたによつて患者の予後を大きく左右する.受傷後早期の死亡の多い事実がそれを実証しているし,専門的治療を開始するにあたつて,初療のありかたが少なからず影響をおよぼすからである.熱傷の局所の初療がたいせつなことはもちろんであるが,同時に全身状態の観察と管理は初療の段階で重要な意味をもつている.受傷後48時間以内における死因は,疼痛による一次型ショックと脱水によるoligemic shockが多いし,それ以後になると局所感染ひいては全身感染症,ならびに腎不全の多いことからみても,初療での局所治療とともに全身管理,ことに呼吸管理,体液の改善と維持,精神管理,感染防止,栄養補給の重要さを痛感する次第です.

創傷

著者: 由良二郎

ページ範囲:P.50 - P.54

はじめに
 創傷治療は,外科療法におけるもつとも基本となるもので,昔より先人がいろいろ検討を重ねて来たところであるが,医学の進歩発達した今日においてもその根本となるものはなんら変るところはない.
 ただ優秀な消毒剤,化学療法剤の出現,あるいはこれにともなう起炎菌の変遷,出血ショック対策,ならびに血管吻合,移植技術の進歩等によつて治療法,治療成績にある程度の変化が見られることはいうまでもない.この創傷治療にかんしては本年度の臨床外科医会総会において鬼束教授によりシンポジウムとして取りあげられ,一般の術後創感染の実態とその対策,小児外科領域での創感染とその予防,創傷の理学的療法特に温泉浴にかんして あるいは火傷創の3色素療法,同種あるいは異種植皮の技術,肝臓レ線照射と全身抵抗力増進による治療,創傷治療の過去と現在あるいは将来等にかんし多角的にいろいろ討議されたところである.筆者も小児外科の立場からこのシンポジウムに参加し,小児特に新生児・乳児の感染症,術後感染の特異性ならびにその起炎菌の動態について論じ,小児における術後の創傷感染予防対策に関して報告したところである.そこでここに創傷に対する初療とくに化学療法に関する問題点について教室の成績を中心として述べると共に,創傷治療に対する現在の趨勢についても2,3つけ加えるしだいである.

骨折

著者: 鈴木勝己 ,   高橋定雄

ページ範囲:P.55 - P.61

はじめに
 骨折は急激かつ重篤な損傷の一つであるが,とくに産業あるいは交通災害によるものではより重篤で,他部の合併損傷も少なくない.したがつて,全身の入念な診察が必要となる.それと同時にショック対策をはじめとする全身管理は不可欠であるが,外傷に共通する基本的なことなので紙面の都合上省略する.
 治療法は,骨折の部位,種類,局所条件,年齢,合併損傷の有無等の患者の状態および処置する側の行ないうる治療条件によつて左右され,定説化しうるような方法はむしろ少ない.しかし治療目標は機能の完全回復である.したがつて,解剖学的整復がえられなくとも,機能的回復が期待される場合にはいたずらに手術操作を加えるべきではない.

グラフ

外科的大腸疾患のX線診断における新しい試み—高濃度低粘稠性造影剤使用による単独空気注入二重造影法とその診断的意義

著者: 代田明郎 ,   服部博之 ,   吉岡正智 ,   恩田昌彦 ,   内田隆也 ,   浅川祐三 ,   小俣則夫 ,   中島義磨

ページ範囲:P.7 - P.12

 造影剤注腸による外科的大腸疾患のX線診断法としては,充盈法,レリーフ法および空気注入二重造影法の一連の検査が行なわれているが,手技的に頬雑であるばかりでなく,従来使用されているような濃度の薄い注腸用バリウムやこれに単に強い付着剤を添加したものでは空気注入二重造影法によつて腸管の輪廓を描写することはできても,造影剤の粘膜付着が適度でないために粘膜の極めて微細な病変像を正面像として明確に抽出することが困難な場合が少なくない.
 そこでわれわれは,外科的大腸疾患のX線診断における1つの新しい試みとして,日常上述一連の検査を行なわないで,硫酸バリウムと水を等量に混じた,従来の注腸用バリウムに比べるとはるかに高濃度で,しかも粘稠性のある造影剤を使用して,単独に空気注入二重造影法を行なっている.このわれわれの方法は従来の外科的大腸疾患の一連のX線診断法に比べて単に手技的に簡略であるばかりでなく,その診断的意義もきわめて大きいものと考えるので,本法の概略とその診断的意義について述べると共に,本法による外科的大腸疾患のX線像を供覚する.

外科の焦点

外科における水分電解質異常の治療

著者: 砂田輝武 ,   志水浩

ページ範囲:P.13 - P.23

はじめに
 水分電解質異常の治療は近年各科領域でめざましい進歩をとげ,10数年前の「脱水があるようだからブドウ糖液でもリンゲル液でもよいから1Lほど輸液しておこう」といつた考えは,今日の治療法からみるとまつたく昔日の感がある.これは体液代謝の異常に目を向けその基礎的事項を解決した先人の業績であり,その臨床面への応用が今日不可欠の治療法となつて外科手術の進歩に寄与している.加うるに治療面では数十種類におよぶ電解質液,利尿剤,THAMなどが開発され,さて治療ということになるとその選択にとまどうほどである.さらに最近,Volémetron, Autoanaly-ser, Osmometer,I.L. meter, Astrup MicroEquipmentなどが出現し,これまで多大の労苦と時間を費した検査が簡単かつ迅速にできるようになつて,諸検査成績が臨床面へ直結し,より正確な診断と新しい治療法の確立に貢献しつつある.
 われわれは水分電解質の諸問題,輸液についてしばしば論じてきたが1)-7),その後かなり様子が変つてきている点もあるので,水分電解質異常の治療をのべつつ最近の動向についてもふれてみたい.

論説

血管性腫瘍の治療における流動性プラスチックの血管内注入療法

著者: 佐野圭司 ,   神保実 ,   斉藤勇 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.67 - P.75

はじめに
 腫瘍あるいは腫瘤の構成分の大部分が血管であるものは,その手術的除去をはかる場合に多量の出血を覚悟せねばならず,そのために手術を断念しなければならない場合も少なくない.かような際に,あらかじめ腫瘍の栄養動脈および腫瘍内血管を人工的に閉塞しておくことができれば,腫瘍の摘出はきわめて容易となるはずである.
 また脳動静脈瘤の手術的除去はさほど出血を伴うものではないが,動静脈瘤が脳機能の重要な部位をしめていたり,きわめて広汎な部位にわたつていたりすれば除去は不可能となる.かような場合,動静脈瘤を人工的に栓塞して瘤内の血栓形成をうながすことができれば,それは動静脈瘤の治療に一新生面をひらくことになるであろうし,また動静脈瘤の手術の補助療法としても役に立つであろう.

心内膜床欠損症の手術と遠隔成績

著者: 榊原仟 ,   横山正義 ,   高尾篤良 ,   小柳仁

ページ範囲:P.77 - P.83

はじめに
 根治可能な心奇形のうち最も複雑な形と考えられる心内膜床欠損症(以下ECDと略)についての病理解剖,診断,外科手術等が年々進歩している.
 ECDの特徴は低位心房中隔欠損と房室弁変形であるが,われわれは1963年本症の手術にあたつては,僧帽弁亀裂を完全に縫合することは好ましくないと述べた1).したがつて,1963年以来東京女子医大心臓血圧研究所では, ECDの1度および2度の例では,心房中隔一次孔のみを閉鎖し,僧帽弁亀裂は縫合せずに放置している.

糖尿病患者の術後死亡例について

著者: 赤木正信 ,   谷脇孝 ,   福田武司 ,   池田恒紀

ページ範囲:P.84 - P.88

はじめに
 糖尿病患者の外科的合併症は,その特異な代謝異常と特有な合併症の点から,外科的リスクとしてはなはだ不良なものであり,それだけにその手術成績も不本意なものに終る傾向が強かつた.しかしインシュリンの発見,抗生物質の開発,術前,術後管理の進歩は,その手術死亡をいちじるしく減少せしめることに成功した.これは何といつてもC.H.Bestのインシユリンの発見によるところ大きく,糖尿病治療史では,いわゆるBest時代として,それ以前のNaunyn時代,Allen時代等の糖尿病自体による死亡率の高かつた頃と比較されていることは周知の通りである.
 しかし,このBest時代のもたらした糖尿病患者の寿命の延長によつて,それらの患者が外科的合併症をもつて,外科治療の対象となる機会を多くする傾向を生じたこともまた事実である.これはJoslin, RootあるいはPrattが指摘しているように,その外科的合併症例の年次増加からもわかる.同時に欧米では糖尿病患者が多いだけに,その外科的合併症に対する関心もまた大きかつた.

トピックス

人工赤血球の実用をはばむもの

著者: 関口彌

ページ範囲:P.89 - P.89

 「人工赤血球」といっても,これは牛馬その他現在利用されずに捨てられている動物のヘモグロビンを,将来ヒトへの応用を考えて,生体内で直ちに凝集・破壊されることのない高分子の薄膜の微小カプセル内に封入したものである.
 元来,異種動物間の輸血は不可能とされてるが,これはそれぞれの動物に存在する異種赤血球凝集素・溶血素によつて赤血球膜が破壊されるからであって,われわれのin vitroの測定によれば,ヘモグロビンそのものは,異種血清内でも十分その機能をはたし得るものである.

座談会

第68回日本外科学会総会会長に聞く

著者: 卜部美代志 ,   斉藤淏 ,   織畑秀夫

ページ範囲:P.90 - P.95

第68回日本外科学会総会は,卜部美代志(金沢大学)教授を会長に,4月10日,11日,12日の3日間金沢観光会館を中心に開催される.そこで学会準備で,何かと御多忙のなかではあるが,卜部教授に今学会にたいする抱負とオリエンテーションをお願いした.

手術器械の豆知識

縫合針

著者: 島文夫

ページ範囲:P.95 - P.95

 手術器械というには,形は小さく,一見単純なものではあるが,縫合針の使用頻度は高い.縫合という単純な操作なしには,再建手術は一切できない.特殊な手術では,縫合糸,縫合針共に関心がもたれているとはいえ,一般にはそれほど関心がもたれていないのは,決して優れた縫合針が使われているためでもないようである.一本の針も,細かに検討すると,形や構造によつて,手術の進行や完成に非常に大きな役割を持つているのである.
 最近M社(国産)製の縫合針を使用しているが,極めて満足すべきものである.もつとも特長的なことは,いわる角針の構造である.顕微鏡で40〜100倍にして,じゆうらいのものと比較してみると,その構造の差は明らかである.肉眼的にはほとんど差がなくても,使用感のよさが十分これらの構造から納得できる.

学会印象記

第2回高気圧環境医学研究会

著者: 古田昭一

ページ範囲:P.97 - P.99

 昭和42年10月6日,名古屋市,ホテルニューナゴヤにおいて,東大教授木本誠二会長のもと第2回高気圧環境医学研究会が開かれた.
 減圧症に対する再加圧療法は別として,高圧酸素療法は,日本では,3年余の浅い歴史しかなく,この新しい医学の分野がどのように受け入れられているか,今後の発展がどの方向に進むかを知るには,適当な研究会であると思われるので,臨床面,特に外科的応用に関する2,3の問題点と,高圧治療室の火災防止について話題となつたことについて述べてみたい.

外国文献

頭蓋外の脳血管狭窄,他

ページ範囲:P.100 - P.103

 これがstrokeの原因になることが最も多いので,その粥状硬化を除去する手術が諸国で行なわれている.しかしDeBakey(Ann.Surg.161:921,1965)らも指摘するように,臨床所見とX-Pとが一致しないのみならず,手術は成功しても改善が一向に見られないということが少なくない.本症の自然史は多様で,例えばBradshaw(Br.M.J.1:261,1967)はその65%は狭窄,45%は閉塞を見ているが,閉塞なら直後数分以内に手術されなくては効果はない筈であろう.さてO'Brien(Lancet 2:392,1967)は本症40例について,血管写,皮質潅流速度(CPR)を測定(Mollet法:Clin.sci.29:179,1965),手術の効果およびCPRに及ぼす臨床的,血管写的所見を検討した.その結果,臨床的にも血管写的にも成功した手術でも,CPRには有意の変化を惹起しない.1例わずか改善したが却つて,低下したのもあり,手術失敗の場合はCPR激減もあつた.これは粥状硬化部に有効なるべき吻合が発生している筈だから当然であろう.CPRは左右非対称的の例が多いが,そのasymmetryと臨床的病変局在とは何の関連もみつけられなかつた.これはCPRに変化を与えない小病巣か臨床的には大なる神経学的所見を招いているからであろう.

手術手技

乳幼児鼠径ヘルニアの手術

著者: 秋山洋 ,   伝田俊男

ページ範囲:P.111 - P.118

はじめに
 現在,小児麻酔,外科手術および患者管理の向上に伴つて古くはオムツがとれてからまたは就学前に広く行なわれていた乳幼児鼠径ヘルニアに対して,新生児期をのぞいて発見後できうる限り早期に手術を行なうような方針に変つて来ている1)2)3)11).事実,われわれが,小児病院で手術を行なつた症例730例中6ヵ月未満18.0%,1年未満35.6%,2年未満になると60.5%を占め若年児の手術例が多くみられるようになつて来ている(第1表).乳幼児期のヘルニアは成人の場合とは異なり,鼠径管周囲の腹壁組織の萎縮によつておこる後天性のものではなく,先天性で胎生期の腹膜鞘状突起,女児ではNuck管の残存によるものであり,その手術法は同じ鼠径ヘルニアでも成人の場合と異なり,手術の主体はヘルニア嚢の高位結紮にあり,鼠径管形成は従と考えるべきである.

臨床メモ

輸血セットを利用した持続脳室ドレナージ法

著者: 松岡健三

ページ範囲:P.118 - P.118

 脳腫瘍,重度頭部外傷などで,著明な脳圧亢進があるとき,持続脳室ドレナージをおこなうことは,第1に髄液圧の正確な指標をうることができる故に,また髄液の排出による圧調節,髄液性状の継続的観察などを可能にする故に,その有用性は脳神経外科領域において,次第に広く認められつつある.しかし欠点として感染,髄液瘻,低脳圧の発生などが考えられるので,じゆうらい用いられてきた装置は,その予防を考慮して,かなり複雑な自家製のものが大部分であり,簡単なものは,相当の欠陥を有しているので,本法をどこでも手軽に行なうわけにはいかないのが実状である.そこで私は,現在市販の和製輸血セットを利用した持続脳室ドレナージ法を考案し,過去6年間160例に応用し,好結果をえているので,その方法の概要をのべる.
 装置には,6号または7号ネラトンチューブ1本と輸血セット2組を要するのみである.

他科の知識

停留睾丸の治療

著者: 仁平寛巳

ページ範囲:P.119 - P.124

はじめに
 停留睾丸は小児においては比較的多い疾患で,そのままの状態で思春期以後に至れば,異常位置の睾丸では精細胞は萎縮して精子形成能が全く障害されてしまうことは一般に認められている.そしてこの治療としてはホルモン療法と睾丸固定術が行なわれるが,治療を開始する時期,およびその方法などの点になると,各人各様ともいうべきいろいろの方法が行なわれている.そこで最近の文献を参照しながら,これらを一定の見解に近づけてみたいというのが本論文の意図するところである.

症例

原発性類澱粉症を伴える上腸間膜動脈血栓症の1例

著者: 半沢幸一 ,   関根正人 ,   河村孝

ページ範囲:P.125 - P.129

はじめに
 急性化膿性汎発性腹膜炎の診断の下に緊急手術を施行,上腸間膜動脈血栓による広汎な腸管壊死と判明,広汎腸切除を行なつたが死亡,剖検の結果,原発性類澱粉症も存することを知つた.原発性類澱粉症と上腸間膜動脈血栓を合併せる例は極めてまれなので報告する.

頭部外傷重症例に対するステロイド療法の経験

著者: 泉周雄 ,   渡辺正幸 ,   玉城通弘 ,   菅谷英一

ページ範囲:P.131 - P.134

はじめに
 重症頭部外傷症例において,脳挫傷を主とする例はもちろん,頭蓋内血腫例で開頭血腫除去を行なつた症例においても,その後に発生する脳浮腫に対して強力な治療が必要とされる.各種高稠液による脱水療法は現在ほとんど常織化され,20%マニトールが主として使用されており,つづいて薬物冬眠または低体温による人工冬眠療法が広く行なわれた.これによる効果は多くの人により確認されているが,同時に欠点と思われる障害も現われてきて,現在では一時より批判的になつてきた.ステロイドが脳浮腫に対して有効であることが,諸家により唱えられ,各種脳手術や重症脳腫瘍例に用いられているが,重傷頭部外傷症例に対しても使用されるようになつてきた.わが国においては,主として東大畠中氏により実験的臨床的発表が行なわれているが,この血液脳関門防禦作用が実際に有効であるのみならず,使用法が簡便であり,副作用が少なくかつこれに対して予防が行ない得る点において,広く実用化されてきている.
 われわれは重傷頭部外傷急性例に対して,以前は低体温法を利用してきたのであるが,最近これにかえてステロイド療法を行なつてみた.そして約1年半の間に14例の臨床例に接したので,これの経験について発表したいと思う.

活動性ランゲルハンス島腺腫の1手術治験例—本邦報告症例の統計的観察を含めて

著者: 森田建 ,   西尾崇 ,   海老原学 ,   楡井正義 ,   細田仁 ,   太田昭文

ページ範囲:P.135 - P.142

はじめに
 低血糖をきたす疾患としては,種々のものがあるが,手術的治療の適応となる代表的疾患は器質的過インシュリン症に属する膵ランゲルハンス島(以下ラ島と略)腫瘍である.本症に関して,すでに本邦においても,昭和11年,棟方108)による最初の手術治験例が発表されているが,それ以来,報告数は漸次増加し,昭和36年には,沖中48)らが自験1例を含めた文献上の23例について統計的な観察を加えている.
 われわれも最近,15歳男子の本症腺腫の1例を手術的に治癒せしめ得たので,その概略を報告するとともに,沖中48)らの集計以来,本症の報告例が増加している点を考慮し,現在のわが国における本症の統計的観察を試みたので併せて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?