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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科23巻12号

1968年11月発行

雑誌目次

特集 顔面損傷のファースト・エイド

顔面軟部組織の損傷

著者: 丹下一郎 ,   三宅伊予子

ページ範囲:P.1717 - P.1722

はじめに
 顔面は露出しているために外傷を受け易く,その傷は体の他の部分におけるものよりも一段と目立ち易い.増加の一途をたどる交通外傷の72%1)に顔面の損傷を伴うといわれるだけに形成外科的治療において顔面損傷の占める位置は大きい.
 生命にかかわる他部の外傷を伴つた顔面の損傷では,当然前者が優先して取り扱われるために,後者,特に顔面軟部組織の損傷が緊急手術の対象となる事は比較的少ないが,早期の適切な手当は永久的な顔の変形や機能障害を最少限にとどめるのに役立つ.この意味で顔面損傷のファースト・エイドは治療の最終的成果をきめる鍵ともなる.

軟部組織の損傷—眼部・涙器の問題

著者: 久冨潮

ページ範囲:P.1723 - P.1731

はじめに
 眼科領域は眉,上下の眼瞼,眼球,眼窩内容,眼窩骨,涙道の範囲であるが,眼科領域にはファースト・エイドは無い.あるいは唯一のベストの方法・・まあ云わばラスト・エイドがあるのみである.
 眼球の手術で何度も手術を行なつたといえば,視力は余り良くないという事は判つているようなものである.視力1.2を得られるのは1度あるいはせいぜい2度の手術で完成した時だけである.その点,眼瞼あるいは顔面の形成手術で最初から4回,5回の手術を予定して,1つ手術を行なう毎に次第に良くなつて行くというのとは大いに異なつている.したがつて外科でとりあえず手術して置いて,後で眼科へ回して本式に手術をし直すと云う考え方そのものを改める必要があるようである.

眼窩骨折

著者: 田嶋定夫

ページ範囲:P.1733 - P.1745

はじめに
 顔面外傷は最近増加の傾向にある.われわれの交通救急センターにおける交通災害の統計では頭頸部外傷,四肢外傷に続き顔面外傷は23%で第3位を占めている.そのうち鼻骨単独骨折を除く顔面中央1/3骨折(下顎骨骨折を除外した顔面骨骨折)は全体の1.2%であつた.顔面外傷とくに顔面中央1/3骨折に関しては,従来十分なる関心が払われていたとは決していえないようである.中央1/3骨折は眼窩を含むものが圧倒的に多く,われわれが過去1年10ヵ月間に経験した顔面中央1/3骨折(鼻骨骨折は除外)の96症例(第1表)のうち78例(81%)はなんらかの形で眼窩に関係するものであり,眼窩に関連のないものは18例(19%)に過ぎない.
 前記96症例の受傷原因としては交通災害が64例(67%)で最も多く,以下順に労働災害15例(15%),傷害9例(10%),スポーツ中の事故5例(5%),他3例(3%)である.96症例の顔面における合併損傷では眼球損傷が16例(17%)に達し,失明7,眼球内出血3,角膜損傷2,視神経損傷3.視力低下5例である.他に顔面広汎挫創17例(18%),涙系損傷9例(10%),内皆靱帯損傷6例(7%),合併した下顎骨骨折12例(13%)であつた.全身的な合併損傷では脳震盪症状を数日間示したもの,項部痛を数日間訴えたものが相当数みられたが,顔面骨折を惹起する外力を考えれば当然であろう.

頬骨・上顎骨・複雑骨折

著者: 藤野豊美

ページ範囲:P.1749 - P.1761

はじめに
 警視庁交通部の昭和42年度の交通事故白書によれば,都内の負傷者は10年前の昭和33年(43,450人)に比較して約2倍(87,534人)に増加し,そのうちでも頭頸部(顔面を含む)損傷は71%を占め圧倒的に多い.これらの損傷に対し適切な処置を欠くと,顔面瘢痕,骨折による前頭部,鼻部,眼部,頬部,口腔などの一部もしくは全体を含む容貌の変化による醜貌と機能異常を生ずる.そして患者に重大な肉体的精神的負担に加えて劣等感を与えて原職への復帰を不可能にし社会的な悲劇さえもたらす.
 このような事態を防止する道は大別して2つある.第1は事故が発生しないように予防を徹底させることである.第2は治療しにくい陳旧例にならぬように,初期に適切なファーストエイドを医学的に加えることである.

口腔損傷

著者: 中村保夫

ページ範囲:P.1765 - P.1772

はじめに
 交通事故による顔面損傷の症例が増加してきた現在においては,口腔損傷の症状も従来のものに比較して,はなはだしく複雑化を示すに到つた.これらの症例は,歯牙,口腔粘膜の損傷のみにとどまつているものはほとんどなく,上下の顎骨,頬骨ならびに頭蓋骨骨折等を併発している重篤なものが多い.そのためか,大多数の症例が口腔粘膜,口唇の開放創に対してのみ初期治療を施されて,歯牙顎骨に対してはまつたく放置されてしまうものがますます増加するのではないかと按じられる.しかし,歯牙顎骨は,食物摂取,咀嚼発語には重要な器官であるため,受傷後これらに対して初期治療が正しくなされなかつた時には,将来咬合異常が生じ,咀嚼発語機能の低下,顔貌の変形等の問題が生じて必ず患者は歯科医に不満を訴える.
 しかしこれらの症例の病歴を検討してみると,収容された当初においては,歯牙顎骨の損傷に対する診査,初期治療の施しうる状況でなかつたことは理解できたが,その経過の途上にあつて,口腔損傷に対し精査初期治療が施しえた時期もあつたことは否定できなかつた.歯牙や顎骨のみに損傷が限局した症例は,歯科口腔外科診療室を訪れているが,交通事故による顔面損傷に併発した症例では,最初外科救急病院に収容され処置を受けたのちに口腔外科に受診するか,全身的損傷の全治したのち歯科口腔外科に受診する症例がほとんどで,生命の危機を脱した時点でただちに歯科医が診査した症例は殆んどない.

顔面損傷の保障問題をめぐつて

著者: 加藤昭

ページ範囲:P.1773 - P.1779

はじめに
 自動車産業の目ざましい発達とモータリゼーションの伸展により,わが国の自動車保有台数はついに1000万台に及んでいるが,その蔭には幾多の悲惨な交通事故の犠牲者が発生している現実を見逃すわけにはいかない.
 他方,これらの交通事故の被害者に対していかなる原則に準拠して賠償額が認容されているのか?被害者救済のための法網はどのように整備されているのか?等々社会的関心も深まつてきている.

関連領域の立場から

脳神経外科の立場から

著者: 東徹

ページ範囲:P.1781 - P.1783

はじめに
 顔面に外力が加わるときは,必ず頭部および頸部にも外力がおよぶことは当然である.したがつて顔面損傷患者は,合併する頭部および頸部外傷に充分な考慮をはらいつつ治療されねばならない.今回は紙面の都合上,脳神経外科の立場から顔面損傷に合併する頭蓋内外の病変につきのべる.
 問題は2つの項目に分けて考えることができる.すなわち第1に顔面損傷に伴う一般的頭部外傷の問題と,第2に顔面損傷にさいして,しばしばみられる特殊な頭部外傷の問題である.しかし今回は一般的頭部外傷については省略し,特殊な頭蓋内外の病変についてのべる.

眼科の立場から

著者: 神沢幸吉

ページ範囲:P.1783 - P.1784

 私は顔部外傷の診療の難しさを,多数経験しているので,眼部近くの外傷なら,私共眼科医もファースト・エイド時から参加することが望ましいと思つている.とは言え,緊急時にはそれも不可能なことも多いし,眼科医から遠隔な僻地の事故もあろう.従つて,眼科医の立場から,ファースト・エイド時の注意すべき事項を述べることも無意義でなかろう.

口腔外科の立場から

著者: 藤野博 ,   田代英雄

ページ範囲:P.1784 - P.1785

 顔面外傷で,直接生命をおびやかす危険のあるものは,気道の閉塞と出血であろう.ショックもあげられるが,紙数上他にゆずる.
 気道の閉塞は,骨折による上顎骨転位のために軟口蓋の後退,沈下がおこつた場合と,下顎骨骨体部重複骨折で,骨折部が頣部の両側にあり,頣部ひいては舌が後退した場合におこる.これは口底の血腫形成,腫張や血液,唾液などの貯留によつて助長される.

グラフ

定位脳手術法

著者: 杉田虔一郎

ページ範囲:P.1699 - P.1706

定位脳手術法が臨床に応用されて以来.すでに20年以上になり,その間国内外で多くの研究がなされてきた.臨床例はすでに国内では5,000例以上.世界では30,000例以上と推定される.研究的段階ははるか以前に通りこし,脳外科手術の中でも治癒率の最も高い手術分野の一つで今後確固たる基礎のもとに大きな発展が約束されている.

外科の焦点

心臓人工弁の臨床応用

著者: 和田寿郎 ,   北谷知己

ページ範囲:P.1707 - P.1716

はじめに
 弁膜症治療の歴史に,実際上人工弁が登場するようになつたのは1958年頃からでありますが,人工弁による弁完全置換術はここ数年間,殊に欧米においてはroutineの治療法として多くの症例に行なわれてきました.わが国における弁完全置換術の現況は,昭和42年1月末までの著者の集計によると全体で731例となつていますが(第1表),米国のテキサス,ミネソタ,Mayo Clinicおよびクリーブランドなどでは各施設とも2,000例近くの臨床例を有しており,欧米に比べ遜色は免がれません.
 そもそも人工弁研究の歴史は,1950年Denton等の僧帽弁移植の研究に端を発するものと思われますが,1952年Hufnagelが大動脈弁閉鎖不全症の患者の下行大動脈へ,プラスチックのボール弁を挿入することにより,閉鎖不全の程度を軽減したのが,人工弁臨床応用の嚆矢といえます.しかしながらこの方法は,血行動態を完全に正常化しうるものではなく,人工心肺による直視下心臓内手術が次第に安全となるに従い,結局本来の弁附着部へ,全く正常の弁機能を有するものと置き換える,すなわち弁完全置換術の方向へ研究の焦点が向けられてきました.

論説

腺腫様甲状腺腫の再検討—病理組織学的特徴と臨床上の意義について

著者: 藤本吉秀 ,   岡厚 ,   福光正行

ページ範囲:P.1791 - P.1800

はじめに
 甲状腺に生ずる良性の結節は,病理組織学的に腺腫(adenoma)と腺腫様甲状腺腫(adenomatousgoiter)に2大別でき,欧米では常に論議の対象にされているが,わが国ではこの両者の鑑別にとくに注意をはらつて検討した論文が少なく,わずかに伊藤1)や沢田2)の報告をみる程度である.それというのも,欧米では腺腫様甲状腺腫が非常に多く,ことにアメリカの五大湖周辺や太平洋岸のendemic goiter areaでみられる甲状腺腫は大体この病変によるものであるといわれており,そうした疫学的な問題をかかえている上に,実際臨床面では橋本病や甲状腺癌と如何にして鑑別するかが問題にされ,また甲状腺機能亢進症状を伴う腺腫様甲状腺腫の患者が少なからずみられるということもあつて,甲状腺疾患のなかではもつとも重要なものの1つにされているが,わが国ではそれほど頻度が高くなく,また病変の程度も比較的軽いものが多く,甲状腺機能亢進症状を伴うものは非常に少ないという点から臨床医の関心を強くよぶまでにいたらなかつたのではないかと思う.

感染を合併せる血管移植例の血行再建術

著者: 大原到 ,   大内博

ページ範囲:P.1801 - P.1808

はじめに
 血管に対する直接的手術が多くなるにつれて,血管再建のために代用血管が使用されることが多い.しかしながら代用血管,なかでも合成線維管を血行再建に用いた場合,感染を併発する危険が多かれ少なかれ存在する.その頻度は,Fry等1)によれば890例中12例,1.34%,Hoffert等2)は,20例中12例,60%と述べている.
 感染による合併症は,縫合不全に由来する仮性動脈瘤の形成,大量の出血,または血管の閉塞であるが,その予後は概ね不良で,なかでも大動脈の場合は死亡率は高く,Fry等1)は感染代用血管の12例中9例死亡,死亡率75%と発表し,一方Hoffert等2)は腹部大動脈より膝窩動脈の範囲内に移植した症例12例中3例死亡,死亡率25%と述べ,9例は肢切断(大腿部7例,膝下部2例)をうけたと報告している.

各種血漿増量剤の止・凝血機序に及ぼす影響

著者: 村上誠一 ,   太田陽一 ,   福田明史 ,   小林茂信 ,   森田信人 ,   山崎四郎

ページ範囲:P.1831 - P.1836

はじめに
 近年,麻酔学や体液生理学の発達に伴つて,外科領域ではめざましい進歩がみられ,その結果,手術の適応の拡大や大型化がもたらされた、このため,一方においては,輸血に必要な血液は不足勝ちとなり,完全な予防および治療対策が確立されていない輸血後肝炎の増加という問題も絡んで1),大きな社会問題となりつつある.これに対して,血液の供給面よりもむしろ術中の出血量の節減と,安易に輸血を実施するという傾向を是正することの方が重要なpointであるということは,閣係者によつて度々強調されてきたところである.
 私共も,術中の患者管理に当たつて可及的に輸血量を節減し,輸血後肝炎の発生の減少に努力してきている.

手術手技

フアロー氏四徴症の根治手術—とくに右心流出路形成法を中心として

著者: 堀内藤吾 ,   小山田恵 ,   阿部忠昭 ,   石戸谷武 ,   李好七 ,   石川茂弘 ,   横山安那 ,   日野博光 ,   松岡茂 ,   田中茂穂 ,   岡田嘉之 ,   佐藤成和 ,   栗林良正

ページ範囲:P.1815 - P.1822

はじめに
 ファロー氏四徴症の外科治療の本質は,心室中隔欠損の完全閉鎖と肺動脈狭窄の完全除去につきる.前者については二重心膜縫着法の優秀性をすでに紹介したが1),後者については種々未解決の問題が多い.本論文では,主として,この右心流出路形成に対するわれわれの考えをのべ,手術手技について詳述してみたい.

講座

術前,術後管理の実際—1.入院より手術まで

著者: 石塚玲器 ,   宮川清彦 ,   前川隆 ,   壇上泰 ,   田中信義 ,   葛西洋一

ページ範囲:P.1823 - P.1830

はじめに
 手術を目的(Elective Surgery)として入院して くる患者の術前・後における管理は,従来,幾多の成書に述べられている.しかし,初心の医師は もとより,経験豊かな外科医にあつても,理論的なオーダー(指示)が必ずしも実際的でなく,そのため,自分の意に即しない場合が日常の患者管理に生じることがある.入院と同時に始まる患者の環境,安静度,食餌の規定が記載されず,鎮痛剤,抗生物質,補液などの指示が医師,看護婦間に何の疑問もなく先行しているところが少なくない.筆者は,国内の大学病院より私立病院の実態と,米国における大学病院,著名な私立病院の臨床体験にもとづき,若い外科医の臨床的なトレーニングの面で,現在の医学教育のひずみを感じていたが,たまたま自分が,予期せぬ疾患で開胸手術を受け,以上の問題を患者の立場より眺める機会を得たので,ここに医師,看護婦,患者の三面から従来の管理を再検討し,手術に関連せる病態生理の立場から体液,電解質,酸塩基平衡などの代謝面を中心にoutlineを述べる.
 本文では,また,海外留学および視察の場合に欧米の臨床医学のConference Roundにのぞんで,理解を容易にするため,最少限の実用医学英語およびラテン語(この文の最後に一覧表を附す)を実際のチャート形式で挿入し,各項目毎に必要な説明を加えた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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