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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科23巻13号

1968年12月発行

雑誌目次

特集 癌外科の進歩—現状と将来

脳腫瘍

著者: 千ヶ崎裕夫

ページ範囲:P.1867 - P.1871

はじめに
 Cushing等の先覚者によって近代脳神経外科の基礎が確立されて以来,脳腫瘍は脳外科領域において第一の対象であり命題であつた.脳外科の診断法,手術法は常に脳腫瘍という疾患を中心にして発展改良されてきたといってもよい.かくて脳腫瘍の手術法は,すでに30数年前にCushingによつてほぼ完成されたとし,その治療成績,予後もほぼ予測されてしまつたと考える人もいるくらいである.その結果脳神経外科医の主な興味は他の領域,頭部外傷,脳血管障害,脳の機能的疾患等に移つてきた.しかし脳腫瘍は現在でもなお脳外科症例の過半数を占める疾患であることは変りなく,また最近には手術治療以外の各種の治療法が開発され,脳腫瘍の大半を占め,今迄は手術して剔出するだけでは絶対に完治しないと思われていたgliomaに対しても一応完全治癒の可能性がでてきたことは,脳腫瘍の治療に新しい局面をひらくものとして注目に値する.事実来年New Yorkで行なわれる国際脳神経外科学会に"gliomaの非手術的療法"が主要なテーマの1つに選ばれたことも,このような新しい脳外科の傾向を如実に物語つているものといえよう.東大脳神経外科教室は清水名誉教授開設以来,現在の佐野教授へとひきつがれ脳腫瘍の症例,組織学的に確定されたものだけでもすでに3000例に達し,世界でも有数の脳腫瘍のクリニークとして名が知られている.

甲状腺癌

著者: 藤本吉秀

ページ範囲:P.1873 - P.1876

Ⅰ.甲状腺癌の特徴
 日本で経験される甲状腺癌の90%までが比較的よく分化した組織形態を示す分化癌であり,これには一般の癌の概念であてはまらないような変った点がある.患者の手術時の年令をみると,20〜40歳の若い層のものが多い.しかも甲状腺腫瘤を始めて気づいた時,あるいは明らかに転移と思われるリンパ節の腫大や骨腫瘤に気づいた時を調べてみると,5年も10年も以前であるというものが少なくないので,甲状腺分化癌の好発する年令は10歳台から20歳台とみてよいように思う.
 甲状腺分化癌の予後がよいことは今日一般に認められているところであり,癌としては非常に性質のおとなしいものとみてよい.それだけに放射線療法や抗癌剤療法が効を奏することはまずない.根治的に摘除するのが確実な唯一の治療法といつて過言ではないと思う.この種の癌の予後がよいだけに,手術に際しては細心の注意をはらい合併症を起こさないようにしなければならない.一般に癌の根治手術というと,少々術後に合併症が残つてもen blocに癌を含めまわりの組織を大きく摘除するのが常道であるが,それが甲状腺分化癌に関する限り適用されないことを第一に強調しておきたい.癌を根治的に摘除することと,あとに手術合併症を残さないこと,この一見相矛盾する2つの要素を個々の症例に応じて適切に判断し処理することが要求される.

頸部腫瘍

著者: 服部孝雄

ページ範囲:P.1876 - P.1879

はじめに
 近年の癌外科の目ざましい進歩発展から見れば,頸部腫瘍という領域は,割合にとりのこされた境界領域のように思われる.紙数の関係もあるので,特にホヂキン病を中心に,その診断と治療についてのべてみたい.

食道癌

著者: 鍋谷欣市

ページ範囲:P.1881 - P.1884

はじめに
 食道癌の外科は,手術侵襲が大きく死亡率がきわめて高かつたこと,またそれ以前の問題として早期発見が困難でほとんどすべてが進行癌であること,したがつてたとえ手術しても術後遠隔成績がきわめて不良であることなどから,もつとも進歩のおくれた癌外科の分野の一つであった,しかし最近は,幾多先人の努力によつて手術成績は著しく向上し,遠隔成績も次第に希望をもてるようになつて来た.

縦隔腫瘍

著者: 中村和夫 ,   松本陽一 ,   木曾康裕

ページ範囲:P.1884 - P.1887

はじめに
 源発性縦隔腫瘍は他の部位の腫瘍と異なり,組織学的に悪性のものは比較的稀である.しかしながら,たとえ良性腫瘍であつても,重要な隣接臓器との癒着のために剔出が不可能な症例が時として見られ,また悪性例では,他の部位の悪性腫瘍以上に剔出不能例が多い点で特異な腫瘍といえよう.教室においては,現在までに,86例の原発性縦隔腫瘍に対して手術が行なわれたが,われわれはこれらの手術症例を中心として,縦隔腫瘍の診断と治療に関する2,3の知見についてのべてみたい.

肺癌—診断技術の進歩

著者: 堀江昌平

ページ範囲:P.1889 - P.1892

はじめに
 肺癌の診断が,ここ数年間にいちじるしい進歩をとげたことは否定できない.これは,医療面における診断技術が進歩したことにもよるが,これに加えて一般大衆の知識が社会的に啓蒙されてきた点も見逃すことはできない.
 1955年に河合,篠井,石川3教授によつて日本外科学会総会の宿題報告として"肺腫瘍"が取上げられた当時の肺癌は,大部分が現在誰がみても一目で肺癌とわかる程度のものが対象とされ,しかもその診断が困難とされていたことを考えるとたしかに格段の差が感じられる.

乳癌—診断に関する最近の知見

著者: 坂内五郎

ページ範囲:P.1893 - P.1895

はじめに
 乳癌のごとく,体表近くに存在して診断も治療も比較的容易な癌については,他臓器の癌に比してはるかに治療成績が良さそうに思われるが,今日乳癌の根治手術後5年生存率は大体約60%といわれ,決して満足すべき成績が得られていない現状である.従来日本では乳癌は胃癌や肺癌等に比して診断も容易でしかも手術手技も容易であつた関係からか外科医の関心が薄いきらいがあつたが,5年前に藤森教授らの御努力で乳癌研究会が発足してから漸くこの方面にも関心が持たれるようになつた.乳癌治療成績を向上させるには早期診断,早期治療を行なえばよいことは論を俟たない,そこで本稿では乳癌の診断法に関する最近の趨勢を述べ,特に早期診断に関していくつかの問題点をとりあげてみたいと思う.

胃癌

著者: 村上栄一郎

ページ範囲:P.1897 - P.1901

はじめに
 胃疾患のレ線,内視鏡検査等診断学のめざましい進歩により,1cm程度の微細病変の発見,鑑別診断もさほど困難ではなくなつたものの,全国的にみれば外科医の手術する胃癌は依然として深達進行癌が大部分を占めている.以下表在癌(早期胃癌)を中心とした診断の現況と,主として進行癌を対象とした外科治療の面について,最近の動向をのべる.

原発肝癌

著者: 葛西洋一 ,   佐々木英制

ページ範囲:P.1901 - P.1904

はじめに
 癌治療の面で,肝癌は,あたかも不毛の領域の感があった.その原因は,著者らもしばしば述べてきたように,要約すると進行期以前の肝癌の病態診断が著しく困難であり,手術の安全性も危惧されていたことなどによるものであろう.
 1968年の4月までに教室で経験した原発肝癌71例16)のほとんどは進行癌であつたが,外科的治療を行なつたものは,逐年手術死亡率も減少し,延命効果もみられるようになつたし,またこの間に試みた近年の肝腫瘍の診断法は,開腹所見との対比検討からも,肝癌早期診断に対する将来的意義が少なくないように思う.

胆道癌の診断と治療

著者: 佐藤寿雄 ,   斉藤洋一 ,   斉藤隆之

ページ範囲:P.1905 - P.1909

はじめに
 肝外胆道腫瘍では手術による根治率は肝癌と同じくきわめて低率である.しかも胆道腫瘍は他臓器の癌腫と異なり早期より閉塞性黄疸を発現するという特異性がある.これを教室例についてみると,胆管癌では全例の74%が黄疸指数80以上の高度黄疸症例であつた.さらに患者の年令をみると平均60歳ときわめて高齢者が多かった.外科医はこれらの大きな障害を乗り越えて胆道癌の治療にあたらねばならない.胆道癌の治療に日常われわれ外科医が苦悩する所似はここにあるといつてもよい.
 胆管癌は黄疸必発という宿命にあり,他の癌腫と異なつた特異な経過をたどるため,今回は胆管癌における診断および治療法の変遷をふり返ると共に,教室例を中心として現在行なわれている診断および治療法の実状について述べ,今後の見通しなどについても言及してみたい.

後腹膜腫瘍

著者: 庄司佑 ,   山手昇 ,   中山良有 ,   中条能正

ページ範囲:P.1911 - P.1914

はじめに
 後腹膜腫瘍とは解剖学上の後腹膜腔に発生する腫瘍の中から膵,腎,副腎,尿管,十二指腸など臓器形態をとるものより生じたものを除いた残りを呼ぶのが通例である.
 後腹膜腔とは上は横隔膜,後方は脊椎と腰方形筋群,前方は腹膜腔で限られているが,下方は小骨盤腔まで含める広い範囲をとるのが便利である.

膵癌

著者: 土屋涼一

ページ範囲:P.1914 - P.1917

 膵癌に対する治療成績の現状を,最近の教室の症例から検討してみよう.昭和40年4月より現在にいたるまでに京大第1外科に入院した膵癌症例は55例で,その内訳は,膨大部癌8例,頭部癌11例,頭部領域癌19例,体尾部癌14例,広汎癌3例であった(付表).
 頭部領域癌という項目を設けたのは,開腹して膵頭部領域に癌腫の存在を確認しても,肝転移あるいは腹膜播種などのために試験開腹や姑息的手術に終り,膵十二指腸切除をなし得なかつた症例を指している.すなわち,われわれは切除または剖検によらざる限り,その癌腫が膵頭部のものか,総胆管より発生したものか,あるいは膨大部癌かを判定し得ないものとし,これらを一括して膵頭部領域癌としたのである.膵癌の治療成績を云々する場合,膨大部癌と膵頭部癌とは厳に区別せねばならぬことは,くりかえしのべられてきたが1)2)3),臨床症状は全く膨大部癌の性格を有しながら1),切除標本では膵頭部癌であつた症例を経験してから,切除標本を手にとって検討しないかぎり,単に臨床症状や臨床検査から診断することはさけようと考えたのである.したがって,頭部領域癌の中には,厳密には膵癌の他に,膨大部癌,総胆管癌あるいは十二指腸癌が含まれている可能性がある.

直腸癌

著者: 山本恵一 ,   中塚勝正

ページ範囲:P.1919 - P.1925

はじめに
 大腸癌は,欧米では本邦の約5倍,そのうち直腸癌は2倍弱の癌死亡を示し,消化器癌の中でも重要な位置を占めるが,これは酪農食と密接な関係があるとの推察もなされている.向後,わが国においても,食生活環境の変化に伴ない,問題を生じてくる可能性を含んだ癌といえる.事実,瀬木25)の本邦腸癌統計の中心でも,直腸癌死亡率は,従前より小腸および高位の結腸癌に較べて欧米との差がいちじるしくないが,1957〜58年頃よりは,その比較的増加が示されていることは注目を要する.
 ここでは,教室症例および諸家の報告を通じて,直腸癌の診断 治療の現況について述べ,さらに将来の成績改善の方策についても工夫したい.なお,肛門癌はいささか趣を異にする面が多いので他の機会にゆずることとし,また,高位の結腸癌については,他の著者の述べられるところと重複を避け省略した.

結腸癌

著者: 河原勉 ,   安富正幸 ,   進藤勝久

ページ範囲:P.1927 - P.1930

はじめに
 結腸癌は欧米では直腸癌とともに最も重要な癌であるが,わが国では胃癌や直腸癌に比べあまり関心が払われなかつた.それは胃癌の頻度があまりにも高いのに反し結腸癌はそれほど多くないばかりでなく,結腸そのものの機能も直腸や他臓器に比べると単純であつて切除後の合併症や後遺症は少なく,また結腸癌自体も限局性で悪性度の低いものが多いので余後が比較的良いためであろう.しかし,近年生活様式が欧米化するにつれて結腸諸疾患は次第に増加する傾向にあり,結腸癌もまた注目されるようになってきた.

腎臓癌

著者: 岡直友

ページ範囲:P.1931 - P.1934

はじめに
 X線診断法の進歩と和まって今日では腎癌の80〜95%までが術前に確診されるようになった.腎癌の診断はX線診断法なくしては不可能だといつても過言ではない.以下に,腎癌の診断法の概要をのべ,腎癌の治療の現況を概説しよう.

四肢悪性腫瘍

著者: 増川元彦

ページ範囲:P.1935 - P.1938

はじめに
 四肢腫瘍は骨格に発生するものと,軟部組織に発生するものとに分けられる.骨格には,その構成要素から多くの種類の腫瘍が発生しうるが,個々の腫瘍の発生数は比較的少ない,四肢に原発する骨悪性腫瘍は,多い順に骨肉腫,線維肉腫,軟骨肉腫,細網肉腫,Ewing肉腫,血管肉腫などであり,続発性の癌あるいは肉腫からの転移は,乳腺,肺,腎,前立腺,唾液腺,甲状腺,胃,子宮などの癌,また神経芽細胞腫,Ewing肉腫,悪性リンパ腫などからの骨転移が多い.

皮膚悪性腫瘍

著者: 石原和之

ページ範囲:P.1938 - P.1940

はじめに
 一般に皮膚癌というと表皮より発生する基底細胞癌と有棘細胞癌に大別されるが,厳密にいえば皮膚の付属器(汗腺および脂腺)より発生する腺癌あるいは表皮内および表在性癌性変化を示すパージェット氏病,ボーエン氏病,紅色肥厚症およびいわゆる多発性扁平表在性表皮腫などが含まれる.この他,しばしば皮膚に原発せる悪性腫瘍として知られているものに悪性黒色腫,悪性淋巴腫(細網肉腫,菌状息肉症など),皮膚線維肉腫その他などがあげられる.
 われわれは,最近約5年間における国立がんセンターに来院した皮膚悪性腫瘍患者は216例によおび,その内訳は有棘細胞癌154例,基底細胞癌28例,パージェット氏病6例,ボーエン氏病2例,悪性黒色腫14例,腺癌3例,血管肉腫1例(カポジーの肉腫),細網肉腫4例,菌状息肉症4例である.このうち,比較的多く発症を見る有棘細胞癌,基底細胞癌および悪性黒色腫について言及したい.治療を施行するに当つて皮膚悪性腫瘍も,他の内臓癌と同様,早期発見による早期治療は,これを根治せしめる最善の方法であることは当然のことである.

グラフ

高気圧治療棟—名古屋大学医学部付属病院

著者: 榊原欣作 ,   高橋英世

ページ範囲:P.1851 - P.1856

 名古屋大学病院では,最近医学界において話題となつている高気圧治療を総合しておこなうための高気圧治療棟の建設に着手し,さる3月、その第1期工事の竣工をみた.
 総面積約470m2この建物には,主として高気圧下手術に使用することを目的とした超大型の高気圧治療室装置をはじめ,小型の高気圧酸素治療装置などを配置するとともに,ICU(重症患者治療病室)なども設けて.院内の高気圧治療を集中一元化しておこなうことを意図したものである(第1,2図).

外科の焦点

小児外科領域における超音波診断法

著者: 駿河敬次郎 ,   平井慶徳 ,   和賀井敏夫

ページ範囲:P.1857 - P.1864

はじめに
 近年我国においても,小児外科に対する関心がたかまり,一般社会の認識と相俟つて,その症例数も次第に増加し,疾患の種類も多岐にわたり,その治療成績も向上の一途をたどつている.しかし一方,これらの疾患の診断方法に関しては,従来成人に用いられていた方法の応用か,あるいは欧米諸国で用いられている方法の模倣にすぎず,大部分の患者が精神的にも肉体的にも極めて影響のうけ易い小児であることが余り考慮されていない.又,いたずらに検査による侵襲を加えているのではないかと思われる場合すらある.又診断が不明のまま治療開始の時期をおくらせ,疾患を進行させてしまつている場合もある.
 そこで我々は,1950年頃から菊地,和賀井らによって開発されて来た,超音波による臨床検査方法を,小児外科領域の各種疾患に利用し,この方法が小児に対して全く侵襲がなく,容易におこなうことが出来るところから,screening testとして良い成績をあげて来ている.今回はこれ等の中から代表的疾患についての利用の現況について述べる.

臨床メモ

癌の骨転移

著者: 後藤守

ページ範囲:P.1871 - P.1871

 国立がんセンターの前山巌氏の発表では,国立がんセンター病院の4456名のがん患者中,骨転移の発生頻度は5.0%で剖検例には26.1%に確認されている.また原発巣別の骨転移率は腎がん35.3%,前立腺がん32.0%,肺がん10.9%,乳がん10.7%,子宮がん2.3%,胃がん1.9%で,剖検時には乳がん73.3%,肺がん、25.8%,子宮がん17.6%,胃がん17.6%の高率であり,一方全国骨腫瘍登録例の約1/5が,がんの骨転移で占められている.
 末期のがん患者の対策は全身状態の管理と疼痛に対する処置が主となり,たとえ骨転移があつても自覚症状がないとか,またルーチンの諸検査やレントゲン写真撮影も思うにまかせない状態も多く,そのまま骨転移の見のがされる場合が少なくないように思われる.

論説

Ringer's lactate Solutionを用いた体外循環開心術

著者: 藤倉一郎 ,   安西信行 ,   川瀬光彦 ,   遠藤真弘 ,   高野良行 ,   石井信行 ,   堺裕 ,   山口繁

ページ範囲:P.1943 - P.1947

はじめに
 私たちは1956年Bubble Oxygenatorを用いて開心術による心臓手術に成功していらい,Ce-ntrifugal disc Oxygenator1)およびDisposableVinyl Sheet Oxygenator2)を用いて2000例におよぶ臨床例を経験して来た.
 1961年以来,稀釈体外循環を行ない3,4)種々の代用血漿を用いて軽度低体温併用のもとに良好な結果をえているが,今回,充填液としてRinger’slactate Solutionを用い従来の充填液に比しすぐれた成績をえた.Ringer’s lactate Solutionは後述するように細胞外液とその電解質組成が近くしてあり,細胞外液喪失やShockなどに対しての治療に利点があげられている.また乳酸ナトリウムのもっBuffer activityによつて,酸塩基平衡が正常に保ちやすい.私たちは,ここに臨床例の一部を報告し,諸腎の御批判を問うものである.

甲状腺機能性腺腫の臨床

著者: 原田種一 ,   西川義彦 ,   鈴木琢弥 ,   伊藤国彦 ,   土屋武彦

ページ範囲:P.1949 - P.1959

はじめに
 甲状腺機能亢進を示す疾患の中で,甲状腺のびまん性腫張を有するいわゆるBasedow病以外に,結節性甲状腺腫で,機能亢進症状を示す疾患があることは,1910年代頃より認められ,Plummer1),Willso2),Rinehoff3)等により発表されてきた.しかしこの結節自体が甲状腺機能亢進症状を惹起するのか,あるいはただ単に甲状腺機能亢進症に,結節が併存しているに過ぎないものなのかについては,病理組織学的検索以外に両者を鑑別する手段を持ち合わせていなかつた当時としては,これを証明する方法もなく,この疾患の定義は漠然としたものであつた.しかし放射性ヨーソが臨床にとりいれられるようになり,Scincigramの撮影が可能となるに及んで,Cope, Rawson, McArther4),Dobyns&Lemon5)等の研究により,この存在が確認され,また同時に甲状腺機能亢進症状を臨床的に示さなくても,Scincigram上結節に放射性ヨーソの集積するいわゆる"Hot nodule"のあることも発見されて,中毒症状の有無に拘らず,機能を有する腺腫として,一つの独立した甲状腺疾患として理解されるようになつた.

学会印象記

1968年札幌癌シンポジゥム

著者: 早坂滉

ページ範囲:P.1965 - P.1967

 日本癌学会主催の癌シンポジウムが札幌で開催されるのは1961年,武田勝男教授のもとで「癌と免疫」という主題でおこなわれて以来7年目である.今回は,1968年札幌癌シンポジゥムとして,札幌医大第1外科高山坦三教授会長のもとに8月30日,31日の両日,札幌市共済ホールで開催された.札幌市では9月2日に天皇・皇后両陛下を迎え北海道百年記念祝典がおこなわれるという時期にあたり,高山会長はこの百年記念事業の協賛として本シンポジゥムをこの時期に選んだ由であるが,本シンポジゥム終了後,公開講演として黒川利雄名誉教授が「胃癌の診断」,今永一名誉教授が「胃癌の治療」という演題で一般人向けの講演会が開催された.両日とも天候にめぐまれ会場一ぱいの聴衆がつめかけ盛会裡におこなわれた.
 本シンポジゥムの主題は「合併療法の面からみた癌治療の問題点」ということで,癌の治療に化学療法がとり入れられて以来,すでに長年を経過しており,その効果はいろいろな創意工夫のもとで向上しているとはいえ,この辺で一応合併療法の反省をも求めるという会長の配慮が感じられ,非常に有意義なシンポジゥムであつた.

海外だより

SHOCK UNIT—USC Medical Center

著者: 隅田幸男

ページ範囲:P.1968 - P.1973

 Los Angeles Country-USC Medical CenterのShockUnitを訪れたのは1968年7月5日のことである.Di-rectorのDr.Max Harry Weilは,市の北方NorthState Streetに面する丘の上に建つこの病院の一室"Shock Unit"で愛想よく筆者を迎えてくれた.このUnitは南カリフォルニア大学医学部のShock ResearchUnitに属しており,主に内科医によつて構成され,最も救命率の低いIrreversible Endotoxin Shockの治療に取組んでいる.
 Shock Unitとは重症Shock患者のみを治療の対象とした病室である.したがつて,外科医や麻酔科医によつて運営されている回復室(Recovery Room)や濃厚治療室(lntensive Care Unit)は,主に手術後の患者の観察と治療を目的として手術室内あるいは,それに隣接して設けられたものであり,最初からShock患者のみを取扱うShock Unitとはいささか趣を異にしている.しかし,機構そのものが,ややマンネリズムに陥りかけた,本邦の回復室やICUを運営する上に多くの参考となる点を持つている.

外国文献

前頭meningioma,他

ページ範囲:P.1976 - P.1979

 Hunter(Brit.M J.3:9,1968)の3例は興味ふかいので紹介したい.62婦人presenile dementia,著るしいdepressionで当精神病院入院.3年前,前頭痛つよく,持続性,2年前,前頭やや腫脹,その後不眠,うつ病,ついに病臥,検査でglobal dem.,X-P前頭中央mening.と診,脳血管写でそれを確認,やや左に発育つよい.手術,骨に浸潤したparasagital m.全摘,数週後I.Q103,記憶力.指南力回復,5年後全く正常.65婦人25年前からテンカン・人格変化・視神経萎縮がつづき,やがて高血圧,入院.demented, somnolent.無目的に手足をうこかす.X-P石灰化前頭m.,脳血管写で6.5cm大bifrontal m.開頭,大腫瘍で3/4(140 g)切除.症状すつかり改善したが5ヵ月後死.75婦人,32歳のときから精神病,視神経萎縮,つまり43年つづいて入院.ほとんど失明と聾.精神病学的所見なし.X-Pトルコ鞍圧迫萎縮,血管写subfrontal mass(mening?),Hg203 scanで6.5cm大の球状のsubfrontal m.開頭,左前頭葉端から前頭蓋窩におよぶ巨大m.4/5切除.意識回復せず2日後死亡.くわしいdiscussionがついていて参考になる.

講座

術前,術後管理の実際—2.術後管理

著者: 石塚玲器 ,   宮川清彦 ,   前川隆 ,   檀上泰 ,   田中信義 ,   葛西洋一

ページ範囲:P.1981 - P.1987

 前回は,入院より手術にいたるまでの管理の実際をのべた.今回は引き続き,術後管理をチヤート形式で説明して行く.始めに腹部外科の標準的術後オーダーを示し,各項目ごとに説明を付し,終りに術後補液について解説を加えた.なお,文中の慣用医用ラテン語,英語については,前号終末の一覧表を参照されたい.

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「臨牀外科」第23巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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