文献詳細
外科の焦点
手術創感染の問題点
著者: 柴田清人1 今津市郎1 岡田英也1 木村章二1 伊藤忠夫1 水野貴男1
所属機関: 1名古屋市立大学医学部第1外科学教室
ページ範囲:P.161 - P.167
文献概要
手術創感染は通常皮膚および皮下組織を場とする感染症の一つであるが,理論的に感染と発症を区別すれば,微生物が宿主に侵入してその体内で増殖することが感染であり,その結果として,宿主が病理組織学的にある変化を受け,自覚的にも他覚的にも病的な状態となつたのが発症で1),厳密にいえば,手術創感染は感染症という概念よりはずれることになるが,今日われわれが慣用している手術創感染とは,両者を区別せず一括した意味で用いている.
感染症は病原体と宿主との密接な相関関係の下に成立するものであるから,その解明にはこの相互の関係,すなわちhostparasite relationshipを対象として観察,検討しなければならない.病原菌の毒性virulenceを例にとれば,母乳を与えていない新生児に対して大腸菌Escherichiaは容易に腸壁を突破して敗血症を来たすことがしばしばあるとされている.それは菌に対する抗体が胎盤移行をしていないため,母親の抗体が存在する母乳を授乳していない新生児はその菌に対し全く抵抗力がなく重症な大腸菌性敗血症を来たすが,授乳を受けた新生児ではもはや敗血症は起こり得ない2).このように同一菌種によつてもその個体の菌に対する感受性によつて菌の毒性も違つたものとなつてくるので,それぞれ相互の関係を見る必要があり,毒性にしても宿主寄生体関係の複雑な多くの因子の総合的作用として認めねばならないであろう.
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