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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科23巻6号

1968年06月発行

雑誌目次

特集 木本誠二教授退官記念特集

序にかえて

著者: 三枝正裕

ページ範囲:P.729 - P.729

 木本教授は,昭和27年東京大学医学部外科学第2講座主任教授に就任され,昭和39年胸部外科学講座の新設とともにその初代教授に転ぜられ,本年3月末定年制の申し合せにより退官された.
 同教授がわが国血管心臓外科のパイオニアとして,内外にすぐれた業績を残されたことはいまさらいうまでもないが,16年にわたるその在職期間を通じて,一般腹部外科,胸部外科,小児外科,代用臓器および理工学の医学的応用,さらに臓器移植などの多方面の研究を推進指導され,第2次大戦後新しい時代を迎えたわが国外科学界および医学界の第一人者としてめざましい活躍をされたことは,万人の記憶に新しいところである.

担癌宿主の抗腫瘍性反応

著者: 卜部美代志

ページ範囲:P.730 - P.744

はじめに
 腫瘍の特異抗原の同定は現在なお十分でないが,腫瘍の増殖についてantigenic loss,あるいは,antigenicsimplificationの考え方を適用する人もある.腫瘍の増殖は宿主抵抗の減弱に伴つて宿主の免疫学的監視機構を逸脱し寛容状態を誘導した結果であるとも解釈されている.
 癌巣周辺における間質反応は癌に対する宿主の防衛反応の局所的な形態学的表示であるとみなされる.そこで,腫瘍——宿主相抗の現象として間質反応を観察し,間質反応に参集する細胞群の性格,ないし,機能を把握することは重要である.そして,host-tumor relationshipを解明する出発点としてこの間質反応をcellular level,あるいは,subcellular levelで免疫学的に多角的に解析することも甚だ有意義であるといえる.

乳癌の研究をかえりみて

著者: 藤森正雄

ページ範囲:P.745 - P.751

はじめに
 「木本誠二教授退官記念」を飾るべく,乳癌について執筆するようにとのことで,大変光栄である.
 私の乳癌研究は,まことに拙いものであるが,それでもこれを書きつくすことは紙数が許さないから,末尾の原著を参照していただくこととし,過去をかえりみて,私自身の将来に資することにした.ご諒承をいただきたいと思う.

縦隔胸腔内神経原性腫瘍—42例の臨床病理学的検討

著者: 羽田野茂 ,   岡厚

ページ範囲:P.753 - P.762

はじめに
 縦隔にはいろいろの腫瘍が発生するが,われわれがもつともしばしば経験するものの一つとして神経原性腫瘍があげられる.
 神経系由来の腫瘍は,脳,脊髄,腹部,その他末梢部にもみられるが,胸部においては殆んど大部分は後縦隔に発生し,多くは交感神経幹に接してみられ,他の部位に発生するものとは幾つか性格を異にする特徴がある24)

炎症性動脈瘤の外科

著者: 和田達雄 ,   松本昭彦 ,   貴邑健司

ページ範囲:P.763 - P.770

はじめに
 わが国における動脈瘤の根治手術は,木本教授によつて確立されたといっても過言ではない.木本教授が腹大動脈瘤の摘除移植手術に成功されたのは,昭和27年のことである1).当時同様な手術に成功したという報告はほとんどなく,世界の文献上2例がみられただけであつた.
 筆者和田は,この当時から,心臓血管外科の研究に従事しはじめたのであるが,昭和32年,杉江教授の北大赴任以後,もつぱら血管外科の研究に専念し,木本教授の御指導のもとに多数の血管外科症例を経験する機会に恵まれることとなつた.このような環境のもとで,東大木本外科における動脈瘤の手術例は年々増加していつたが,症例の増加につれて,従来粥状硬化性動脈瘤として一括されている腹大動脈瘤のなかに,臨床経過,手術所見および手術標本の病理所見のうえで,ときどき変つた形のものがあることが気づかれるようになった.この観点から関2)は,昭和39年に東大木本外科における腹大動脈瘤症例58例について,詳細な臨床病理学的検討を加え,その約77%はいわゆる粥状硬化に起因するものであるが,これ以外に中膜壊死や炎症にもとづくと考えられるものがあり,とくに後者は,約15%にも達し,その形態が嚢状,仮性動脈瘤型であるところから臨床的に重要であるという研究を発表している.

静脈の外科—その研究道程と将来

著者: 杉江三郎

ページ範囲:P.771 - P.783

Ⅰ.なぜ静脈外科をとりあげたか
 本誌は木本誠二教授退官記念特集号であり,同門のひとりとしてそこに名を連ね,しかもやや特殊な領域ともみられる静脈外科の研究道程について記述することには幾つかの理由がある.
 結論的なことをさきに申すならば,静脈外科をとりあげ,さらに今日まで研究を続行している原動力には木本教授の示唆や鞭達があり,また筆者自身の執念のようなものもある.

熱傷

著者: 林周一 ,   八木義弘

ページ範囲:P.785 - P.792

はじめに
 近年わが国でも徐々にではあるが,熱傷に対する関心が高まり,各方面でその成果が上つてきている.しかし諸外国の熱傷統計をみるとショック期の死亡率は漸次低下し,晩期のSepsisによる死亡が大部分を占めている現況であるが,わが国においてはいまだショック期の死亡が多く20%以上の熱傷の死亡率が20%を越すといわれており,ショックに対する対策のみをとり上げてみてもまだ諸外国にはおよばないのが現況であろう.本稿では,熱傷に関するわが国の最近の研究の跡をふりかえり諸外国の文献と対比しつつその問題点にふれてみたい.

移植の基礎的問題

著者: 石橋幸雄

ページ範囲:P.793 - P.799

はじめに
 過去10年間に腎移植の領域では,実にすばらしい進歩がもたらされた.この進歩のなかには,もちろん,新免疫抑制剤の開発やその使用法の工夫改良などもふくまれる.しかし,腎移植の失敗の多くは,donorとrecipientの間の遺伝的な差異と,それにつながる拒絶反応に帰せられることは多くの外科医の認めているところである.臓器移植が一応軌道に乗つた今日においては,ただそこに患者があり,そこにdonorがあるというだけで慢然と症例を重ねることは大した意義を持つていない.この辺でじつくり腰をすえて,基礎的研究を充実させることがなければ,さらに一段の飛躍は期しがたいと思われる.現状では,graftがいかなるプロセスをふんで落ちるかというもつとも根本的な問題ですらよく分つていないのである.その意味で,ここでは,移植免疫における血清抗体と細胞性抗体,組織適合性に関する問題の2つをとりあげてみた.

カプセルによる消化管検査

著者: 綿貫喆

ページ範囲:P.800 - P.811

はじめに
 医学と工学とは,元来べつべつのみちを歩いて発展してきたものであるが,医学が近代化するにつれて医学以外の領域からの協力が望まれる研究分野が最近発生してきた.こうして医学と工学との間のいわば境界領域の学問が起こり,その代表的なものが医用電子(ME)である.わが国においては昭和37年11月12日日本ME学会が誕生し,そののちは医学の各方面でMEの研究がさかんになったが,MEが健全に発展するためには医学者と工学者との緊密な協力が望ましい.MEの一分野としてテレメータリングの技術があるが,このテレメータリングを応用すると,生体においてできるだけ無拘束,より生理的な状態,さらにある種の負荷の状態のもとに,生体内の諸情報を計測することが可能となる.これは従来の検査法にない大きな長所といえる.
 生体内部に小形の無線情報発信機を入れ,適当なトランスデユーサーを介して生体内の情報を電気的シゲナルに変換し,これを無線で外部に送つて生体外部の受信機でキャッチするテレメータ装置が,ここで述べるいわゆるカプセルである.このテレメータ装置は,1957年6月スエーデンからJacobson&Mackay14)22)により初めて発表され,そののちアメリカ,東ドイツ,西ドイツ,イギリス,フランス,イタリーなどから相次いで報告があらわれた.わが国では1960年内山ら86)が外国のものとは異なった独特の方式(エコー・カプセル)を発表した.

人工腎

著者: 石井淳一 ,   入江邦夫 ,   高垣俊 ,   飯島恒司 ,   土岐秀典 ,   太田秀男 ,   渡部照光

ページ範囲:P.812 - P.819

はじめに
 近年,エレクトロニクスや高分子材料が医療の分野に導入され,人工心臓,人工血管,人工腎臓などの,いわゆる人工臓器の研究が飛躍的な進歩をとげた.ことに人工腎臓に関しての研究は古くから行なわれ,1940年代にはKolffらが臨床用装置を作成し臨床的に応用した.その後,多くの研究者によつて各種の設置が考案,あるいは改良されて腎不全や薬物中毒などの有効な治療法として一般の認識されるところとなった.
 現在広く使用されている装置は,透析能率も良く,優れた臨床効果がえられ,一応完成の域にあると思われる.しかしながら,適応となる疾患の病態によつて,人工に腎臓の応用意図に多少異なつた意義を含むことを理解する必要があろう.いいかえれば,急性腎不全のごとき可逆性疾患に行なわれる血液透析は根治的療法としての意義をもつている.また,不可逆性で,しかも進行性病変を示す慢性症に対して,1960年Scribnerが,Per—manent Shuntによる間歇的血液透析法を発表したのを契機として,最近では1年余にわたる長期反復透析例の報告がみられ,血液透析は慢性症の治療法としても意義のあるものとなつた.しかし,この治療システムにおいても,患者は,常に専門医の管理下に制約された生活を送らねばならない.また経済的負担,精神的不安がきわめて大きく,真の意味での根治的療法とはいい難い.

心臓外科と麻酔

著者: 稲田豊

ページ範囲:P.820 - P.829

はじめに
 1955年12月に木本教授の御奨めによつて第2外科学教室から麻酔科学教室に転科し,山村教授の御指導の下に麻酔,ことに心臓外科の麻酔の勉強を始めてから足掛け14年になるが,その間に発表したことを骨子とし,麻酔の「歴史的変遷」さらに文献的考察を加えて,今までの足跡をたどつてみたいと思う.

人工弁置換手術の臨床

著者: 浅野献一

ページ範囲:P.830 - P.838

はじめに
 人工弁による弁置換手術は,今日後天性弁膜症治療の上で欠くことのできぬ手段の1つとなつている.しかし人工弁自身理想的なものから未だ程遠い段階にある以上,現段階では人工弁を如何に適応させ,いかに管理するかが重要で,問題の多いところである.本稿では教室の経験を述べるとともに人工弁に関する2,3の問題点を挙げて検討を加える.

人工心臓

著者: 渥美和彦 ,   桜井靖久

ページ範囲:P.839 - P.852

はじめに
 欧米諸国では,心臓の疾患が死亡順位の第1位を占めているが,わが国の心臓疾患による死亡も年とともに増加してきている.わが国の疾病構造がしだいに欧米諸国なみに近づくとすれば,心臓疾患への恐怖はますます大きくなり,最近のわが国における死亡順位において,心臓疾患は中枢神経系の血管損傷および悪性腫瘍とともに重大な三大疾患の一つと目されている.
 一方,近代の心臓疾患に対する診断学の進歩や心臓外科の発展は目ざましいものがあり,先天性心疾患の根治手術の他に,従来困難とされて来た心臓弁膜症の修復に人工弁置換が行なわれ,連合弁膜症に対して,三つの人工弁置換の手術さえ成功するに至つている.

Banti病の独立性について

著者: 鈴木忠彦 ,   中作修 ,   和佐武 ,   島一秀 ,   布施徳馬

ページ範囲:P.853 - P.860

はじめに
 1894年,Bantiが先天性梅毒,慢性マラリヤや白血病などと区別される,肝硬変を伴う原因不明の脾腫の症例を記載し,特有な経過をとることを述べた.これがBanti病の名をもつて呼ばれ,以後慣用されてきたことは周知のごとくである.しかし,Banti病の独立性については,従来より,多くの議論の対象となり,疑義を抱くものも多く,とくに最近では,肝外性閉塞に由来するうつ血性脾腫となす米国学派の説が欧米においては支配的となつて,Banti病なる名称も抹殺しようとする傾向さえみられる.
 一部にBanti病の存在を是認する学派はあるが,これとても,うつ血性脾腫をも認める条件下のものであつて.例えばDiGuglielmoは肝外性閉塞に由来するうつ血性脾腫を認めるが,これと臨床的にも,また病理学的にも区別されるBanti病が存在するとし,また,Cassanoなどは脾の濾胞あるいは髄索のFibroadenieを重視する立場から,Splenomegalia fibroadenica diBantiとSplenomegalie fibrozo-congestizieとを認める二元的見解を採用している.このような見解は,イタリー,フランスに多くみられる.

先天性胆道閉塞症の治療

著者: 駿河敬次郎 ,   平井慶徳 ,   長島金二 ,   清宮弘毅 ,   中島研郎 ,   尾崎元 ,   橋本倶男 ,   河野澄男 ,   池田舜一 ,   宮野武

ページ範囲:P.861 - P.868

はじめに
 乳児閉塞性黄疸としては,先天性胆道閉塞症,先天性総胆管嚢腫,あるいは,胆嚢炎等いろいろの疾患があげられるが,これら胆道疾患のうち,先天性胆道閉塞症は,外科的治療の対象となる,もつとも重要なものである.先天性胆道閉塞症は,わが国ではしばしば経験される疾患であり,本邦の小児外科の発展の歴史が欧米に比べて浅いにもかかわらず本症の手術症例50例以上を報告している施設もすでに数多くみられる.一方,欧米では,本症の手術症例数は,わが国に比べるといまだ少ない.したがつて先天性胆道閉塞症は,わが国では欧米に比べて,発生頻度が高いと推定される.本症の発生,診断,治療については,今日なお未解決の問題が多い.われわれも,数年来本症について,いろいろの面より研究を行なつてきたが,今回は,今日までにえられた私どもの研究成績に基づき,本症の治療についてのべる.

教室における直視下心臓内手術の発展

著者: 三枝正裕

ページ範囲:P.869 - P.876

はじめに
 1951年6月,木本教授がはじめて動脈管開存症に対する結紮手術に成功されて以来,1968年3月末,同教授が退官されるまでの間に教室において手術が行なわれた心臓疾患症例総数は,先天性心臓疾患1470例(第1表),後天性心臓疾患556例(第2表),合計2026例(診査開胸あるいは診査開心例を除く)となつている.
 このうち直視下心臓内手術症例は993例(第3表)であつて,その手段,方法,手術術式,術中・術後の管理,病態生理,適応の選択などについては各方面から研究がすすめられ,手術成績向上のため多大の努力が払われてきた.これらについてはこれまで度々発表してきたが,今回木本教授の御退官に際し,綜合して検討することは意義の深いことと考え,ここに教室における直視下心臓内手術発展の経過をふりかえって考察することとする.

小児腹部腫瘤—主として悪性腫瘍について

著者: 石田正統

ページ範囲:P.877 - P.884

はじめに
 東京大学第2外科教室において1951年から1967年3月迄の16年間に入院治療をうけた小児の腹部腫瘤患者の総数は181例である.
 本編はこれらの患者の概要と,特に悪性腫瘍についての治療成績を述べ,小児腹部腫瘤に対する概説を試みたい.

門脈圧亢進症の病因とその治療

著者: 杉浦光雄

ページ範囲:P.885 - P.894

はじめに
 昭和24年以来,恩師木本誠二教授は,現在まで19年間本門脈圧亢進症の研究を続けてこられ,多数の報告をされてきた.もちろん,門脈外科の研究は,教室の多くの研究のごく一部に過ぎないが,これから記述する内容は木本教授の指導の下に教室の諸先輩,現在の多くの協同研究者の長年の研究の積重ねであることを始めにお断りしたい.つぎに門脈圧亢進症の病因についての教室での考え方,外科的治療についてものべるが,あくまでも現在までの追究の結果であり,外科的治療についても必ずしも満足しているわけではなく,病因の追究とともに,治療法も十分満足できるところまで持つて行きたいのが現在の協同研究一同の念願である.

小児外科領域における水分電解質代謝

著者: 斉藤純夫

ページ範囲:P.895 - P.904

はじめに
 小児期の外科疾患に対する術前,術後管理のなかで水分電解質補給が重要な役割を占めている.これは小児期ことに新生児,乳幼児期の全体水分量,細胞外液量,水分出納,腎機能などの生理学的条件が,成人のそれとかなり異なつていることに基因している.したがつて脱水症,水分過剰,水中毒症などの病態に陥りやすく,ことに手術を契機として生体の内部環境が大きな変動を示す場合には,特殊な輸液処置が必要になつてくる.
 教室においても乳幼児期の一般外科および胸部外科手術が増加するにしたがい,術前,術後の水分電解質代謝について研究を続け,既に多数の報告を行なった.本稿においては教室の研究成績とわれわれの経験に基き,小児外科領域における水分電解質代謝の特徴と輸液の実際について記したい.

教室における肺および気管支外科の回顧と現況

著者: 吉村敬三

ページ範囲:P.905 - P.912

はじめに
 東大第2外科教室における肺外科の歴史は古く,ことに肺結核外科療法をめぐる教室の研究業績は,本邦における肺結核外科の歴史をそのまま反映しているといつても過言ではない.本稿をささげる木本誠二教授も,その若き日の情熱を恩師故都築正男先生にしたがつて,肺結核外科治療に傾けられたのは,まぎれもない事実で,その著作の一部1)2)3)にもうかがうことができる.
 さて,教室では故都築正男先生が1934年教室主任御就任とともに,肺結核外科を研究課題としてとりあげられ,積極的にその治療にとりくまれた.特にCoryllos-都築の名称で知られる選択的肺成形術の考案実施は4),肺結核治療に大きな福音をもたらした.その他人工気胸術の補助手段としての肋膜癒着剥離術等2),結核外科に関する業績は後年の一時期隆盛を極めた肺結核外科の開拓者として都築先生の偉大な功績である.

低体温法の現況とその問題点

著者: 阿曾弘一 ,   船木治雄

ページ範囲:P.913 - P.921

はじめに
 われわれが第2外科教室において,羽田野茂講師(現教授)の指導の下に,低体温法の研究に着手したのは昭和27年の暮の頃であった.これは,その年の5月,第2外科の主任教授に就任され,わが国における心臓血管外科の発展のために,その先頭に立つて意慾的な研究を始められた木本誠二教授の指示によるものであつた.
 爾来15年間,低体温法に関する病態生理の解明と,より安全な実施法を目ざして,多くの教室員の努力と創意が結集され,直視下心臓内手術実現への突破口として大きな役割を演じた後も,地道な,たゆまざる研究が続けられて今日に至つている.

腎移植

著者: 稲生綱政

ページ範囲:P.922 - P.928

はじめに
 昭和38年夏,木本教授に呼ばれた私は,教授からMurrayらが腎同種移植の成功例をNew England Jour-nal of Medicineに報告していることを知らされた.今迄,臓器や組織の同種移植は,いわゆる移植免疫反応という厚い壁の前に全く不可能とさえ考えてられていた.もちろん,生命維持に不可欠な臓器が機能を廃絶したとき,これを他の個体からえて置換しようとする試みは過去に数多くの報告がある.しかし,Carrelらに始まる同種あるいは異種移植時の免疫反応の特異性は,Medawar,Dempsterらによつて確認され,その抑制は,生命維持を困難なものにすることから,結局は,移植を断念せざるをえないものと考えられつつあつた.たまたま,Hitchingが6MpさらにはAzathioprineの抗免疫効果がすぐれていることに着目し,これをMurrayが臨床的に応用して,腎の同種移植を成功させるにおよんで,臓器移植を治療手段に用いるようとする臨床医学へ一大革命をもたらしたものといえよう.われわれも臓器移植に対する興味は少なからず,すでに昭和33年に当教室におりて移植に関するConferenceを開催している(綜合医学16巻4号).当時はもちろん,実験成績もきわめて不満足なもので,その後しばらくは静かに,わびしく,やがてくる日を待ちながら細々と研究が続けられてきたに過ぎなかつた.そしてその日がやつてきた.

遠隔成績よりみた末梢動脈再建術の検討

著者: 上野明 ,   丸山雄二 ,   粟根康行 ,   村上国男 ,   関正威 ,   根本〓 ,   多田祐輔 ,   向山昭吉

ページ範囲:P.929 - P.938

はじめに
 身体の動脈が外傷,あるいは破裂,または閉塞を来すような状態において,これを吻合や縫合し,あるいは移植片をおいてこれを補う試みは今世紀の初頭,Carrel,Guthrie等をはじめとする多数の研究者によつて実験的な解決はえられていたが,これが血管外科として広く臨床応用されるようになつたのは近年のことである1)
 わが国においても,戦後まもない昭和24年8月に木本教授(当時は第二外科助教授)が73歳の塞栓症の患者に上腸間膜動脈,大腿動脈の塞栓別除術が行なわれたが2),臨床において動脈の再建が現在各方面で広く行なわれていることを考えればこの十数年は,非常な目覚ましい進歩と普及があつたといえる.欧米でも本稿で取扱う末梢動脈の遠隔成績はここ数年出揃つてきた感があり3-6),9-11),当教室でも欧米と較べ症例数は少ないながらも,それでもこの進歩と発展の中にあった各症例のその後の経過を報告し,この末梢の動脈再建法について謙虚に反省すると共に,より新しい,よりすぐれた方法をこの血行再建分野にとり入れる指針にしたいと思う.

循環機能の外科病態生理—ことにショックについて

著者: 堀原一 ,   須磨幸蔵 ,   三井利夫 ,   鰐淵康彦 ,   片山憲恃 ,   山崎善弥 ,   広瀬益雄 ,   尾本良三 ,   尾河豊 ,   豊田忠之 ,   関口弥 ,   藤森義蔵

ページ範囲:P.939 - P.947

はじめに
 循環の本質である臓器血流が満足に保たれるためには,まず心臓からの血液拍出が第一義的であることは論をまたない.この心拍出はHarveyの昔から知られているとおり,拍動性(pulsatile)であるというところに正常ならびに病態ともに,循環生理学上の特徴がある.つまり心臓は,血流を生じるジエネレーターであると同時に,血流にパルスを与えるジエネレーターであるわけである.そこに心拍数や拍動の性質が収縮力などと同列に問題とされるゆえんがある.
 また心臓から拍出された血流を運び,臓器・組織を灌流して再び心臓にかえす血管も,単なるかたい導管でないところに,興味が持たれるわけである.

手術成績からみた胃癌治療の適応と限界

著者: 坂本啓介 ,   三浦健 ,   秋山洋 ,   豊島範夫 ,   本田善九郎 ,   豊田忠之 ,   榊原譲 ,   茅野嗣雄 ,   奥山正治

ページ範囲:P.948 - P.958

はじめに
 戦後の20年あまりのめざましい医学の進歩にともなつて,外科の分野でも,つぎつぎに新らしい治療法が開発され,心臓,血管疾患が内科から外科に近づき,結核は外科から遠ざかつた.戦前と戦後では,手術の対象となる疾患も,適応も,術式も,すつかり変つてしまつた.しかしこのいちじるしい進歩のなかにあつて,癌だけが頑強に抵抗を続けている.
 胃癌に関しても,なるほど,診断技術は進み,手術術式は改善され,手術死亡率も減少してきてはいるものの,胃癌患者全体の予後をみると,必ずしも飛躍的に向上したとはいえない.現在でもなお,胃癌患者は,その10%前後が,外科手術によつて救われるに過ぎない.癌の化学療法や,放射線治療が胃癌に関する限り,なお補助的手段に過ぎない現在,その手術の適応の決定,術式の選択が,直接患者の予後を左右する点で,われわれ外科医の責任は重い.

保存大動脈の移植

著者: 水野明 ,   池田貞雄 ,   小林寛伊 ,   三枝正裕

ページ範囲:P.959 - P.964

はじめに
 ボール型人工弁はその普及とともに欠点も次第に明らかになり,いろいろの改良型が出現し現在では数え切れぬほどの種類の人工弁が誕生したが,いまだに理想的と考えられるものはなく,自然弁にもつとも近い形態を持つリーフレツト型人工弁で臨床使用に耐えうるものは出現していない.一方,Barratt-Boyesら1-2),Rossら3-4)によつて強力に推進された同種保存弁による大動脈弁移植手術は,人工弁に比較して縫着に手数を要すること,閉鎖不全の残存がおこりやすいことなどの欠点もあるが,血栓形成の少ないこと,感染に強いことなどの利点を有するため次第に広く用いられつつある5-8)
 以下,教室で行なわれた同種または異種保存弁に関する実験的研究と臨床応用について簡単にのべよう.

心臓移植

著者: 上井巌 ,   中村和雄 ,   伊藤健二 ,   長谷川嗣夫 ,   古瀬彰 ,   小藤田敬己 ,   三枝正裕

ページ範囲:P.965 - P.969

はじめに
 1967年12月3日,南ア連邦のBannardらにはじまる一連の6例におよぶ同種心臓移植臨床例が試みられ,現在そのうち1例の生存者があり,それが今後どのような経過をたどるかは全く不明であるが,このように早く臨床例が行なわれたことはわれわれ心臓移植の実験的研究に従事していた者たちはもちろん全世界の人々に少なからぬ驚愕を与えた.国民感情,社会機構,宗教的伝統などからあるいは多少行ないやすい環境にあつたとしても世界で最初に同種心臓移植の臨床例を試みるということはかなりの批判は免れ得ないところであり、確固たる信念と勇気とが必要であつて,ここに率直な敬意を表したい.心臓移植の研究はすでに今世紀はじめCarrel1)らによつて血管吻合技術の開発が主な目的で仔犬の心臓を成犬の頸部に移植する異所性の心臓移植を行ない移植心が2時間の摶動をつづけたという記録が示されている.
 のちにMannら2)はこの方法を改良し発表したが,いわゆるMannの方法といわれ,頸部異所性心臓移植の実験モデルとして広く応用されるに至つた.一方心臓外科の発達にともない心血流遮断の方法が進歩するにつれて同所性心臓移植が可能になり1953年Neptune3)は犬を用い低体温法(21〜24℃)下で同所性同種心肺合併移植の実験を試み最長6時間の生存をみた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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