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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科23巻8号

1968年07月発行

雑誌目次

特集 膵・胆・肝の外科

膵炎治療の問題点

著者: 本庄一夫 ,   小沢和恵 ,   武田博士

ページ範囲:P.1129 - P.1139

はじめに
 膵炎に対する治療方針といつても,他の疾患におけるごとく,その原因を除去することが,理想的であることは論をまたない.したがつて,その原因の明確な症例については,的確な治療を行なうことによつて,満足すべき治療成績を得ているのは事実であろう.
 しかしながら本態性高脂血症,ヘモクロマトージス,遺伝によるものなどの少数例は別としても,大部分の膵炎においては,そのtriggerとなる因子,ならびに,その発生機序についても,全く知るところがないといつても過言ではあるまい.

慢性膵炎の臨床

著者: 内藤聖二 ,   中島泰三

ページ範囲:P.1141 - P.1151

はじめに
 慢性膵炎1)2)は,欧米ではdrunkard's pancreatitisとしてアルコール常習者,またはアルコール中毒者にみられる慢性に進行する間質性炎症,線維増殖,実質の消失,膵管増殖,膵管閉塞,膵石,石灰沈着,仮性膵嚢腫を主とする慢性膵炎や再発性慢性膵炎が多いが,本邦では,急性膵炎より移行した慢性膵炎や慢性に経過する胆道系炎症を原因とした慢性膵炎,寄生虫を原因とする慢性膵炎,肝障害に合併する慢性膵炎,糖尿病にみられる慢性膵炎等が多い.これらは,一般に他の疾患,たとえば,胆嚢炎,胆石症,胃潰瘍,十二指腸潰瘍,肝硬変症等の病像にかくれて存在し,あるいは胃下垂,慢性胃炎,胆嚢ジスキネジー等の病名にかくれて,誤診されていることが多い.したがつて,慢性膵炎や,膵機能障害像は医師が積極的に膵機能を検査しなければ病像を得ることができない.また内科的には膵機能障害を推定しえても,外科的に膵実質の試験切除によつて決定しない限り,病態の決定診断は不可能である.日常の診療においては,不定の消化器症状の治療,慢性に経過する疼痛の対策,膵癌の診断が主であり,現在ではpancreozymin-secretin試験がスクリーニングとして最も有力な方法であるがなお研究,検討の必要がある.

膵臓のX線診断

著者: 加藤富三 ,   山岸嘉彦 ,   山中延元 ,   青山文七 ,   伊藤正 ,   西尾豊彦 ,   小林直紀 ,   竹中清次

ページ範囲:P.1153 - P.1162

はじめに
 膵臓は消化器としてきわめて重要な機能を果しているにもかかわらず,最近まで,そのX線診断は困難で,これによつてえられる情報が他の臓器に比して乏しかつた.しかし,最近は造影法の進歩がいちじるしく,適応と手技を選択すればかなりの所見が得られるようになつてきた.したがつて現在,われわれが行なえる膵臓のX線診断法を整理し,比較検討することは臨床的に意義のあることと考えて以下にのべる.

胆石の形成機序について

著者: 松倉三郎 ,   富田一男 ,   松永睦郎

ページ範囲:P.1169 - P.1176

はじめに
 胆石の成因ならびに形成機序については,今日われわれは,多くのすぐれた業績に接することができる.まず,Naunyn1)−3),Aschoff4)以来,胆石は核または既成の胆石のまわりに胆汁成分が沈着して成長増大し,層状構造はその反復成長の過程を示すものであると考えられてきた.
 これに対し,Sweet5)およびWeiser6)らは,胆石はまず病的胆汁中に,ある大きさのコレステロール・ゲルの凝塊が生じ,これがその後,界面から内方に向つて結晶化すると考え,このさい見られる層状構造はLiesegang現象によつて生じたものと主張した.

胆石症併存疾患および胃切後胆石症の検討

著者: 川島健吉 ,   登内真 ,   二杉和男 ,   吉田雋 ,   三浦則正 ,   奈良橋喜成 ,   戸沢弘明 ,   本庄修 ,   中島聡総 ,   真田勝弘 ,   戸叶正俶 ,   村田晃一 ,   山口晋

ページ範囲:P.1177 - P.1184

はじめに
 胆石症と併存疾患との臨床的意義については,すでに幾多の文献に記載されている.
 著者らは過去8年間に胆石症509例を経験したが,これと併存せる疾患の主なるものは第1表のごとくであつた.

総胆管癌に合併した肝嚢胞の1剖検例

著者: 田中健蔵 ,   羽栗純夫 ,   友田秀教

ページ範囲:P.1185 - P.1189

はじめに
 肝嚢胞Michel(1856)1)は,本邦では三宅(1910)2)の症例をはじめとして,内外にかなりの報告がみられるが,その成因は組織学的に特徴を示さないためにきわめて不明瞭であり,また定型的な症状を現わさないので診断が困難で,開腹術や剖検時に偶然に発見されることが多いようである.われわれは臨床的に診断が困難であつた巨大なSoli-tary nonparasitic liver cystsの症例を経験したので報告すると共に本症の文献的考察を行なつた.

胆嚢捻転症の1例

著者: 若佐理 ,   原滋郎

ページ範囲:P.1191 - P.1193

はじめに
 胆嚢捻転症は急性外科的疾患で,通常早期の手術的治療が行なわれなければ死に至るものである.本症は1898年Wendelが23歳の女性における第1例を報告して以来,欧米では,Carterら1)によるとほぼ200例が報告されているというが,わが国においては,昭和7年横山2)の報告以来現在まで29例を数えるにすぎず,まれな疾患に属するものである.
 私共は当病院において,64歳の女性で穿孔性腹膜炎(急性虫垂炎)の診断のもとで開腹したところ,本症なることが判明し,胆嚢摘出術を施行して軽快せしめえた症例を経験したので報告する.

定型的な外傷性胆道出血の1手術治験例

著者: 田嶋定夫 ,   伊藤隆雄 ,   須藤政彦

ページ範囲:P.1195 - P.1199

はじめに
 外傷性胆道出血とは,Sandblom(1948)1)の記載によれば外傷により肝内または肝と周囲組織との間に空隙を生じ,これを介して血流と胆道系とが交通するため,吐下血,胆石様疼痛などの発作をくり返えすものである.いわゆる胆道出血hemo-biliaは,いろいろの原因によつて起こり比較的多数の報告があるが,外傷性の胆道出血は,海外文献においてOwen(1948)1)の初報告以来,Sand-blom1),Sparkman2),Saliba12),Whelan8)らの集計に今回われわれの調査した数例を加えても1965年までに推定例,剖検例をあわせて46例を数えるに過ぎず,本邦においてはいまだ報告例はなく,わずかに砂田(昭36)22)が外傷の既往の不明な2例の吐下血患者を本症と推定しているのみである(第1表).
 われわれは,定型的な本症に遭遇し,これを手術的に治癒せしめえたが,確認しえたものとしては本邦第1例と考えられるのでここに報告し,文献的考察を行なつた.

大量の吐血,下血をくり返した胆石による胆道出血の1例

著者: 井上生二 ,   緒方節夫 ,   山川良精 ,   染矢内記

ページ範囲:P.1201 - P.1204

はじめに
 吐血または下血をきたす疾患は少なくないが,もつとも多く遭遇するのは,胃,十二指腸の消化性潰瘍であり,ついで胃癌,胃炎,食道静脈瘤などの頻度が高い.しかし,その他に胆石ないし潰瘍に基づく胆道出血のあることを逸するわけにゆかない.その発生例はさほどしばしば見られるものではないが,その故に,他の疾病による消化管出血との鑑別が困難なことが多い.そうして,適切な外科的処置を迅速に行なうことによつて,その出血死を防ぐこともできるのである.
 われわれは,最近上腹部痛を伴う大量の吐血下血を主訴とした患者について,緊急手術を行なつたところ,多数の胆石による総胆管内出血をみとめ,胆のう動脈結紮などの外科的処置によつて幸いに救命治癒しえた症例を経験した.

石灰乳胆汁の1例

著者: 杉本雄三 ,   大津章 ,   吉永道生 ,   丸山泉 ,   藤原美砦 ,   河嶋稔

ページ範囲:P.1205 - P.1208

はじめに
 石灰乳胆汁の症例は,1911年Churchmannにょり初めて報告されて以来,欧米においてはしばしばみられるが,本邦では少ない.最近,われわれは手術によつて本症と確認した1例を経験したのでここに報告し,文献的考察を試みる.

陶器様胆嚢および石灰乳胆汁を合併した胆道癌の1例

著者: 加藤金吾 ,   杉重喜 ,   田島知郎 ,   村田晃

ページ範囲:P.1209 - P.1213

はじめに
 われわれは最近陶器様胆嚢および石灰乳胆汁を合併した胆道癌の1例を経験したので報告すると共に,2,3の文献的考察を加えたい.

特発性総胆管拡張症の癌化

著者: 田中千凱 ,   渡辺尚 ,   可地秀樹

ページ範囲:P.1215 - P.1219

Ⅰ.症例
 患者: 28歳,女.
 主訴: 右季肋部痛と発熱

腎腫瘍と誤まられた肝腫瘍の1例

著者: 北川司良 ,   寺村幸雄 ,   自見弘之

ページ範囲:P.1221 - P.1224

はじめに
 わが国では原発性肝癌の頻度は,南アフリカ,アジア諸国とともに欧米諸国とくらべてきわめて高く,剖検による統計では,宮地らによると,本邦では36380例中1.75%あり,山岡らは11700例中1.3%であるとしている.このようにして,発生頻度が高いにもかかわらず,従来肝悪性腫瘍の早期手術は,外科における死角とされるくらい,原発性肝癌の診断はきわめて困難であつた.
 しかし,最近,臨床医学の発展とともに,肝腫瘍の診断にも肝シンチグラム,肝生検,脈管造影,腹腔鏡などいろいろと診断技術上の進歩がみられ,次第に,早期発見や早期治療の可能性が多くなつてきている.しかし,肝癌診断の第一歩は,不特定の症状を呈する腹部疾患をみた時に,まず肝腫瘍を考えることにあるとされており,とくに上腹部腫瘤の存在は,最も大きな診断の根拠といわなければならない.しかし,こうした場合にも胃,膵,脾,横行結腸などの腫瘍と鑑別することは必ずしも容易でなく,開腹して初めて腫瘍の本態が判明することも稀ではない.最近,われわれは,腎腫瘍と誤まつて開腹手術が行なわれた肝腫瘍に遭遇し,直らに手術方針を変更して,右肝葉切除を行なつて良好な結果を得た症例を経験したので,その概略を報告する.

肝を内容とする外傷性横隔膜ヘルニアの1治験例

著者: 寺本勅男 ,   森直之 ,   蜂須賀喜多男 ,   浅野多一 ,   松永吉和 ,   森直和 ,   加藤量平 ,   村瀬允也

ページ範囲:P.1225 - P.1227

はじめに
 われわれは,最近,交通事故を原因とする肝を内容とする右外傷性横隔膜ヘルニアに遭遇し,早期手術により救命しえたので,2,3の考察を加え報告する.

肝外閉塞性黄疸をきたしたHodgkin病の1例

著者: 堀内弘 ,   石飛幸三 ,   玉置憲一

ページ範囲:P.1229 - P.1232

はじめに
 Hodgkin病の経過中に黄疸をきたす場合は必ずしもまれではない.その多くは肝内病変の進展に伴うもので,肝外胆管の閉塞に由来するものはきわめて少なく,わが国ではほとんどその報告をみない.
 著者らは最近,高度の黄疸と肝腫脹を主症状とし,経皮経肝胆道造影によつて総肝管の腫瘍性閉塞を認め,剖検により肉腫型Hodgkin病が肝外胆管を浸潤閉塞していたことを確めえた症例を経験したのでここに報告する.

非寄生虫性多発性肝嚢胞症の1例

著者: 吉岡諄二 ,   榊三郎 ,   黒瀬寅次 ,   村上栄一郎 ,   満田夏樹 ,   常松英一

ページ範囲:P.1233 - P.1237

はじめに
 非寄生虫性多発性肝嚢胞症はBistowei1)(1856)によりはじめて記載されて以来,欧米では数多くの報告がある.本邦でも三宅12)(1910)の報告に始まり,臨床例および剖検例を合せて現在まで100余例の報告がある.
 しかるに本症は臨床的には肝腫大を示す他は,特有の症状を欠如するため,診断はきわめて困難であり,しばしば他の肝腫瘍を疑い,手術または剖検によりはじめて肝嚢胞症と診断されることが多い.

一側肝管の閉塞による黄疸を伴つた胆道奇形の1例

著者: 米山桂八 ,   堀内弘 ,   竹内成之

ページ範囲:P.1239 - P.1243

はじめに
 肝外胆道は内臓諸器管のうちで解剖学的異常をみることが多く,手術に際して十分な知識を欠くときはときに致命的な結果を招くおそれがある.これまで報告された胆道奇形にはいろいろあるが,胆嚢が肝管に直接結合している型は稀れである.
 われわれは最近,胆嚢が左肝管と結合し,かつ左右の肝管が十二指腸後部において結合し,従つて総胆管は膵内部にのみみとめられる奇形例において,胆嚢内結石とともに左側肝管に結石と拡張をみとめ,このため一側肝管閉塞性黄疸を生じた症例を経験したのでここに報告する.

肝右葉全切除による巨大な非寄生虫性肝嚢胞の1治験例

著者: 富田濤児 ,   山田伸明 ,   宮崎茂和 ,   東泉東一

ページ範囲:P.1245 - P.1250

はじめに
 肝の嚢胞,とくに非寄生虫性嚢胞は従来まれな疾患とされ,剖検あるいは開腹の際に偶然発見されることの方が多かつたが,診断法の発達とともに近年では外科的治療を行なつた症例の報告が増加してきた.
 最近われわれは,肝右葉に発生した孤立性肝嚢胞の1例を経験し,右葉の全切除を行ない全治せしめえたので,ここに報告する.

グラフ

人工腎臓

著者: 檀上泰 ,   宮川清彦 ,   田中信義 ,   佐藤知義

ページ範囲:P.1123 - P.1128

 昨今の医学の進展にかかわらず,腎不全は難渋な疾患であり,多くの生命を脅してきた.1943年オランダのKolffは透析効率の優れたセロファンと,抗凝固剤であるヘパリンを基本的背景として体外透析装置を作成し,はじめて臨床応用に成功した.それ以来本操作の有用性は広く注目されて,多方面から種々検索が重ねられ,腎不全に対する最も有力な治療手段と見做されるに至つた.本邦においても,各領域でようやくその認識が深まつて,広く普及し画期的成果を収めつつある.今回は最も普及性に富み,入手の容易なcoil型人工腎臓の駆動操作について,その要点を写真で紹介する.

臨床メモ

結腸・直腸癌について

著者: 間島進

ページ範囲:P.1176 - P.1176

 わが国は胃癌の発生率の高い国であるが,同じ消化器癌でも結腸・直腸癌の発生頻度は,欧米諸国のそれに比較してはるかに低率である.従つて,わが国では本症に対する一般の関心も低く,臨床面でも今後改善されねばならない多くの問題がある様に思う.私は数年前米国に留学し,この様な印象を強くうけて帰国した.その後,最近まで勤務していた東北大学槇外科教室において,この方面のことを多少調べてみたので,以下2,3の気付いたことを述べてみたいと思う.
 先ず,欧米とわが国とでは結腸癌の部位別発生頻度に差がみられることである.盲腸上行結腸などの右側結腸における癌発生頻度には,わが国と欧米との間にはそれ程差はみられない.しかし,下行結腸とくにS状結腸においては癌発生頻度が,欧米に比較してわが国においてかなり低率である.

制癌剤副作用の防止について

著者: 近藤達平

ページ範囲:P.1219 - P.1219

 末期癌に対して,又いわゆる外科的根治手術に併用して,癌進行の抑制の為に,或いは再発防止の目的で制癌剤を使用する事は今日では色々の形で広く行なわれているが,癌に対し化学療法を行なう場合には細菌感染に対し化学療法を行なう時とは異なり個体とその個体から発生した腫瘍とは代謝が極めて類似している為必ず多かれ少なかれ副作用を伴うものである.一方疾病の治療を行なう時は生体に害を与えない事が前提条件であるから,制癌剤を投与するに当つては,殊にその大量を投与せんとする時には副作用を防止する事が極めて重要なことといえよう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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