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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科24巻11号

1969年11月発行

雑誌目次

特集 腸瘻の問題点

腸瘻の目的

著者: 掛川功一

ページ範囲:P.1477 - P.1482

はじめに
 腸瘻は消化管手術後,あるいは腹部外傷や腹腔内諸疾患の不快な合併症として起こる自然発生瘻と,栄養補給あるいは腸内圧減圧を目的として手術的につくられる造設瘻とに区別することができる.したがつて一口に腸旗といつても,その成因,目的などにより臨床上の取り扱い方には差がみられるのは当然であろう.また体外に開放された外腸瘻と,他臓器あるいは腸管相互の間の交通がある内腸瘻とでは--この意味では腸吻合によるby-pass作製もまたこれに含まれる--,臨床上の意義に大きな差があり病態,管理,治療方針などにも異質の問題をかかえているといつてよい.ここでは外腸瘻に限つて教室の経験例をもととし,現在われわれが採つている腸瘻の目的について一面を述べてみたい.

腸瘻造設の手技

著者: 西村光郎

ページ範囲:P.1483 - P.1488

はじめに
 腸瘻造設の手技は簡単で,外科手術の初歩の時期に修得する場合が多いが,同程度の手技を要する他手術に比して日常遭遇する頻度が遙かに少ない.たまたま本手術を実施する必要に迫られる場合は緊急の際でかつpoor riskの場合も多く,また困難な手術症例の後に追加手術として用いられることがあるので,術前にこの手術に対する準備不足のまま手術に追い込まれ,術後の合併症や管理の困難さに当面することがないとはいえない.以下簡潔に手技の要点を適応と絡み合わせて記載する.

救急的腸瘻

著者: 砂田輝武 ,   佐藤源

ページ範囲:P.1489 - P.1495

はじめに
 腹痛と腹部膨満を主症状とする急性腹症は,時を移さず適切な処置が望まれる.日常虫垂炎による腹膜炎に最もしばしば遭遇するが,諸種原因によるイレウスも多くみられる.近年イレウスの治療成績は著しく向上している1)が,これは術中のみならず術前術後の管理の進歩に負うところが大きく,諸処置の進歩はその病態生理の解明に大いに助けられている.しかし諸家の注目する如く,近年手術に起因するものが激増し,治療に難儀することがある.他方,麻酔や輸液療法が進歩したおかげで,老人や小児の手術適応が拡大され,poor riskの症例を取り扱う機会が増えている.かような症例においては一次的根治術は不可能なことが多く,病状に応じて適切な救命的処置がとられなければならない.個体への侵襲を出来るだけ少なくし,最大の効果を上げるために,救急的腸瘻を作成することは極めて有効であり,今日でもその意義は決して等閑に付されてはならない.

経腸瘻的栄養補給の実際

著者: 小出来一博

ページ範囲:P.1497 - P.1504

はじめに
 栄養の補給法は第1表に示す如く,経腸栄養法と避腸栄養法とに大別できる1).この場合経腸栄養法が充分な栄養素を,より生理的な経路で与えうる.したがつて,経口栄養が栄養補給の基礎になることは,外科栄養においてしばしば強調してきたところであるが2),経口栄養が著しく制限された場合,あるいは不可能な場合には,止むを得ずチューブ栄養が施行される.
 チューブ栄養でも鼻腔,食道を経由してチューブを挿入する場合と,瘻管をつくり消化管に直接チューブを挿入する場合とがある.この場合前者がより生理的であることは論をまたないが,後者の選択をせまられるにはそれ相当の理由がある.この理由,方法は他にゆずるとして,瘻管栄養の実際をのべるまえに,瘻管栄養の栄養学的特性を検討してみる必要がある.瘻管栄養も消化管の上部に置かれれば,置かれる程より生理的であることは明らかである,したがつて腸瘻の場合にも空腸に置かれたものが最も生理的に近く,廻腸,大腸になると消化・吸収能が劣る.すなわち上部腸瘻の場合が,消化液が充分混和し,消化が良好に行なわれ,吸収もよい.しかし胃液,胆汁,膵液の分泌が悪く,腸瘻より与えられた栄養物と混和しない場合には,消化吸収障害が起つてくることは当然考えられる.また消化管内のpHも消化にはもちろん関与してくるので,腸瘻から与えられた栄養物の消化吸収の病態生理をよく把握する必要がある.

人工肛門造設閉鎖の手技

著者: 小平正

ページ範囲:P.1507 - P.1515

はじめに
 自然肛門の代りに腸内容を排泄させるために作つたものを人工肛門と言う.腸内容の一部の排出のために作つたものや,損傷や炎症によつて生じた腸管の排出口は腸瘻である.人工肛門の意味で回腸末端に作つたものを回腸旗と呼ぶことが多いが,これは上記の腸瘻と誤解されやすいから,そんな場合には,回腸人工肛門と呼びたい.

腸瘻閉鎖後の合併症

著者: 佐藤博 ,   磯野可一

ページ範囲:P.1517 - P.1520

はじめに
 腸瘻閉鎖後の合併症としては特に取り立てる程のものはなく,主として,再開腹,腸吻合に伴う合併症であり,それは主に,①手術手技の未熟または過誤により起る機械的合併症,②生体のもつ特異な成形能により必然的に起る癒着症である.
 先ず,腸瘻を全般的に理解し,閉鎖術,合併症について,教室のデータを中心に述べてみる.

外腸瘻の病理と生理

著者: 葛西森夫 ,   鈴木宏志 ,   渡辺公男 ,   大橋映介

ページ範囲:P.1521 - P.1524

はじめに
 外腸瘻患者の死亡率は輸液,栄養,化学療法の発達により以前に比らべれば低くなつているが,多くの危険な合併症を来しやすいことは変わりない.
 とくに最近は腸管の感染症に由来する外腸瘻が少なくなつており,手術合併症としてできたものが多くなつているので,管理の誤まちによつて外腸瘻患者を失なうようなことがあつてはならない.

腸瘻の過誤

著者: 林田健男 ,   佐治弘毅

ページ範囲:P.1525 - P.1529

 腸瘻は病的腸瘻はもちろんのこと,造設腸瘻でも甚だしく非生理的な状態であつて,患者に与える精神的,肉体的苦痛は少なくない.腸瘻の過誤ということで,ここでは造設腸瘻について述べる.腸瘻造設に当たつての患者の説得,造設後の管理,患者の指導,また合併症等,通常は些細なこととしてあまり取りあげられないことであるがわれわれ医師にとつても腸瘻はなかなか問題が多いものである.
 腸瘻の過誤を文字通りとれば,腸瘻造設の技術的な失敗,適応の誤り等のために,腸瘻造設の目的を達し得ない場合と考えられる.また合併症のために腸瘻がその機能を十分に果し得ない場合があるが,腸瘻狭窄,脱出,内ヘルニアその他種々の合併症も手術手技自体にその原因を帰せられるもの,したがつて本来合併症以前のもの,あるいは過誤といわれるべきものに近いものが少なくない.

グラフ

医用サーモグラフィ(熱像法)—1 原理と応用

著者: 藤正巌

ページ範囲:P.1461 - P.1466

サーモグラフイ(熱像法)とは物体の表面の温度分布を図または写真として表わして研究する方法である.古来より医学領域では体温は病気の診断の重要な手がかりの一つであり,体内部の温度は体温計によつて古くから計測されていたが,体表面温度は熱電対やサーミスタを利用して部分的に計測されているにすぎなかつた.最近電子工学の進歩により,温度と関係ある赤外線エネルギーを計測し,物体の表面温を指示する赤外放射温度計が開発され,非接触法による物体表面温の計測が急速に進歩しはじめている.

外科の焦点

手術感染防止のための設備と滅菌の技法

著者: 原素行

ページ範囲:P.1467 - P.1473

まえがき
 手術感染防止は,手術者の悲願である.それに応えるために,病院などの開設者は,十分なる援助をしなければならない.本稿には滅菌設備の選び方,その整備および滅菌の技法について,さらに無菌手術室などについて近来の動向の概要を紹介してみたい.筆者は元来内科医であるから,外科関係の問題に口をはさむのはまさに釈迦に説法の類であると知りながら,本誌からの課題に応じて筆を執つたのは,病院管理,病院設備の勉強をしていたため,おのずから,表題の諸問題に触れざるを得なかつたからである.敢て他意はない.むしろ情報屋という方がよかろう.

論説

血管拡張剤と末梢血管疾患

著者: 神谷喜作 ,   小野木宏 ,   山下富美夫 ,   城所仁 ,   竹内忠孝 ,   浅井忠亮

ページ範囲:P.1535 - P.1539

はじめに
 末梢血管に対する,血管拡張剤使用の目的は,血行障害を起した原因を取除くことよりは,むしろ,血管の攣縮を緩和したり,副血行を形成する血管を拡張せしめることにより,血流を改善して,組織への血流を増加せしめ,血行障害によつて起る各種の症状を軽減せしめることを目的とするものである.
 ここでは,末梢血管疾患として,動脈の閉塞性疾患である,閉塞性動脈硬化症,バージャー病,機能的疾患として,レイノー病,レイノー症候群を考え,冠状動脈,脳の血管に対する作用を,主目標とするものや,降圧剤としての血管拡張剤は,考えないことにする.従来より用いられている血管拡張剤で主なものおよび最近新しく開発されたものについて,主として薬理学的見地から,その作用機序に検討を加え,これを分類し,末梢血管疾患における,血管拡張剤使用の問題点に,触れてみたいと思う.

胸壁皮下バイパス代用心臓の研究

著者: 田辺達三

ページ範囲:P.1541 - P.1549

はじめに
 種々な疾患によつて代償不全に陥り,内科的処置によつて改善のみられない不全心に対する機械的循環補助,または代用心臓装置の必要性は今日増大してきている.一時的または短期間の循環補助の方法としては種々な補助循環(assisted circu-lation)の研究が続けられており,一方長期間または永久的応用の方法としては代用心臓(artificial heart),または同種心臓移植の研究がすすめられている2)
 そのうち代用心臓の研究としては代償不全に陥つた心臓を完全に切除し,その心?内部にポンプを含有する代用心を移植する研究と,代償不全心には手を加えず左心を流れる血流を変え循環を補助する胸腔内バイパスポンプの研究,または副心臓(auxiliary ventricle, booster heart)の研究とに二大別される.

学会印象記

第18回東日本臨床整形外科学会

著者: 玉置拓夫

ページ範囲:P.1551 - P.1553

第18回東日本臨床整形外科学会は幹事慈恵医大伊丹康人教授,慈恵医大整形外科教員室諸氏のお世話で,昭和44年8月22,23の両日,慈恵医大中央講堂において開催された.

外科教育を考える 医師の卒後教育について・2

一般市中病院における臨床研修—特にその日本的条件をめぐつて

著者: 牧野永城 ,   三重野寛治

ページ範囲:P.1554 - P.1559

わが国における医師の卒後臨床研修教育は,今日まで大学の医局を中心として行なわれてきた.戦後,インターン制度という新しい教育方式が紹介され,一般市中病院の教育への参加が要請されることになつたが,臨床研修のためのすぐれた市中病院を生み出す歴史的・社会的背景のなかつたわが国では,この要請に応じ得る病院は数少なかつた.最近,医学教育の改善をめぐつて,一般市中病院の教育への参加や教育機能の問題が論議されるようになつたが,こうした市中病院における臨床研修教育がかかえている日本的条件を考えてみた.

海外だより

アメリカにおける超音波の医学的応用の現況—循環器系を主として

著者: 尾本良三

ページ範囲:P.1560 - P.1562

 本稿は第14回日本超音波医学会談話会(昭和44年1月,東京)における著者の帰朝報告『欧米における超音波の医学的応用の現況——主として循環器系に関して——』のうち,アメリカに関する部分の骨子をまとめたものであります.
 著者は昭和42年6月から7月にかけての,Baylor大学(テキサス州,ヒューストン市)における6週間のSummer Course"Classical Physiology with ModernInstrumentation"に出席後,同年8月より昭和43年10月まで,Massachusetts General Hospital(マサチュセッツ州,ボストン市)のW.G.Austen教授(ハーバード大学医学部)の下で,心臓血管外科学の研究に従事した.この間,著者は日本超音波医学会のactive Mem-berの1人として,主に循環器系に関するものであるが,超音波の医学的応用の実際についての情報を得るべくわずかながら努力した.以下断片的ではあるが,その一部について述べさせて頂きます.

外国文献

早期外傷てんかん,他

ページ範囲:P.1563 - P.1566

 早期というのを受傷1週までとする.Hendrick(J. Trauma 8:547, 1968)の4465例では1週内7.0%の頻度である.Jennett(Lancet 1:1023, 1969)はOxford 189例,Glasgow 150例のblunt injury(計339),射創73例について,1週blunt 273,射創47,2週16,射創10,以後8週ごろまで大体一定するのを見た.つまりbluntでは早期89.2%,射創77.0% 2〜4週の計はblut 11%,射創4.7%,従つて1週:2〜4週の比はblunt 25:1,射10:1である.8週までを通計するとbluntで29:1,射で13:1となる.

講座 血管外科入門・4

血管外科の一般治療法

著者: 三島好雄

ページ範囲:P.1570 - P.1578

はじめに
 現在のところ血管外科の対象となる血管疾患に対して,根治的な治療法がなく対症療法が主になつているので,その症状や閉塞の部位・範囲などから治療の方針を定めるのがよい.

症例

馬尾神経部にみられた真珠腫の一例

著者: 高岸直人 ,   森永亨 ,   松崎昭夫

ページ範囲:P.1579 - P.1581

はじめに
 胎生途次に何等かの原因によつて迷入した上皮組織残遺の増殖によつて生ずると考えられている真珠腫は,神経系では主として脳底部,脊髄馬尾神経部等にみられるが,その頻度は比較的まれなものとされている.
 私達は馬尾神経部に発生した本症の一例を経験したが,腫瘍摘出により著効を認め,更に約3カ月を経た後に再診し,良好な経過を辿つていることを確め得たので報告する.

腎盂—回腸—膀胱吻合術による治験例について

著者: 堀内誠三 ,   富田義男 ,   大鳥博幸 ,   横山正夫

ページ範囲:P.1583 - P.1589

はじめに
 尿管の狭窄はいろいろの原因によつて起り,水腎,水尿管症となり,腎機能は低下する.これらの例では障害を除去すると腎機能は著しく改善することもまれでない,この為に種々の手術法が応用されるが,狭窄の位置や範囲に従つて,腎瘻術,尿管瘻術,尿管膀胱再吻合術,膀胱壁を利用した尿管膀胱吻合術等がある.しかし最近は回腸を利用して尿管を代用する方法が盛んになつて来た.われわれも回腸を利用する手術をすでに10例に行なつた.このうち,腎結核による尿管狭窄と萎縮膀胱のある症例で,尿毒症となつて入院し,腎瘻術を行ない,次いでGoodwinのCup-patch法による回腸膀胱成形術を行なつた.
 再び尿管狭窄を来し,尿管の形成術を行ない,不成功に終り,最後に腎盂・回腸・膀胱吻合術を施行し,良好な結果を得たので,症例の経過を報告し,本手術の適応,術式,手術に対する注意等を簡単にのべ,御批判を仰ぎたい.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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