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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科24巻8号

1969年08月発行

雑誌目次

特集 良性腫瘍

良性腫瘍の考え方

著者: 横山武

ページ範囲:P.1043 - P.1048

はじめに
 良性腫瘍とは何か,その発生,増殖の機転が完全に判明すれば,正常組織の生理的生長,補充増殖のみならず悪性腫瘍の発生機転をも判明することになり,現在の生物学的問題は一挙に解決されることになる.勿論現在のところすべては判然としていない.簡単に良性腫瘍といつても,それを完全に規定することは極めて難かしい.古典的には,良性および悪性腫瘍を対比して第1表のように記載してある.
 上記の様な記載に対して,現在の細胞病理学はいかに説明しうるか,また実際上臨床病理学的な問題について考えてみたい.

髄膜腫および神経鞘腫

著者: 吉岡真澄

ページ範囲:P.1049 - P.1054

はじめに
 頭蓋内腫瘍のうち,良性腫瘍の代表として髄膜腫と神経鞘腫があげられる.これらの腫瘍は,脳実質外の腫瘍(extracerebral tumor)で,脳実質に浸潤せず,実質を圧排して発育するため,その部位と大きさによつては,重大な神経学的欠損症状をのこさず,完全に別出,治癒させることができる.したがつて,脳神経外科医にとつて,もつとも手術のしがいのあるものの一つで,脳神経外科の診断学,手術手技も,この疾患においてもつとも著しい進歩をとげたものであつた.しかし,その部位,大きさ,組織学的種類によつては,極めて多彩な臨床的経過を示し,予後も必ずしも良性腫瘍であると楽観できない場合もある.今回は最近おこなわれている手術手技を中心にのべる.

頸部良性腫瘍

著者: 渋沢喜守雄

ページ範囲:P.1055 - P.1059

はしがき
 多くの教科書に記載されているように,線維腫,脂肪腫,乳嘴腫など,全く良性限局性の,治療容易な腫瘍は,日常しばしば遭遇する.また嚢胞,その瘻孔も頸部特有のものがあるが,わざわざ,ここに取りあげる必要はあるまい.
 嚢腫で触れておくべきものは,いわゆる頸部胸腺嚢腫であろう.その発生病理は研究者の意見が一致していないが,普通,胸鎖乳突筋の内側下部で,胸腺全部が頸部に嚢腫として残留することもあり,胸腺大部分は前縦隔へ下降し,一部が嚢腫状に頸部に残留することもあり,一定しない.しかしPolloson(1901)の報告以来,20例に足りない少数例にすぎない.本邦では筆者が1例(医学書院"胸部外科教科書"の中に),真銅(1958)1例,相内(1969)1例などの報告があり,重症筋無力症は合併せず,また悪性化していない.しかしLaage-Hellman(1952)に悪性化の報告があり,したがつて,発見したら,手術的に摘除すべきであろう.

脊髄の良性腫瘍

著者: 池田亀夫 ,   池田彬 ,   西郷恵一郎

ページ範囲:P.1061 - P.1066

はじめに
 脊髄外科の進歩発達に伴い,脊髄腫瘍に関する知見はほぼ完成された観があり,髄内腫瘍,悪性腫瘍を除けばその手術成績ははなはだ佳良であるが,時に発見,診断の遅延により脊髄の変性,麻痺が完成して不幸の転帰を取る症例に遭遇する.本症は早期に診断し,手術的侵襲を加えればその多くは根治しうるものであり,一般医家の本症に関する認識の向上が望まれる.
 脊髄腫瘍の診断,治療に関するわれわれの知見を概説し,諸賢の参考に供する.

肺,縦隔の良性腫瘍

著者: 片岡一朗 ,   三樹勝 ,   寺岡資郎

ページ範囲:P.1067 - P.1075

はじめに
 肺良性腫瘍には種類は多いが,その発生頻度は極めて少なく(5%位),肺腫瘍の大部分(95%位)は肺癌が占めている.これに対して,縦隔腫瘍では良性が過半数で,悪性は少ない.
 肺良性腫瘍はX線写真上,円形陰影あるいは腫瘤性陰影を示すが,肺野において円形陰影を呈する疾患は数多く,しかも悪性腫瘍が多いことから,ことに肺野陰影ではMayo ClinicのJackman(1969),Hood(1953),Jones,Cleve(1954),その他の報告においても約40%が肺癌であって,良性腫瘍の鑑別には難渋することがあり,極めて問題の多い陰影である.

食道,胃の良性腫瘍

著者: 矢沢知海 ,   井手博子 ,   藤本章

ページ範囲:P.1079 - P.1086

はじめに
 食道および胃の良性腫瘍について述べるが,この部位の腫瘍は大部分が悪性であつて,良性腫瘍は稀であり,また,癌など悪性腫瘍との鑑別は困難な場合もあり,それに関連して,その治療方針も千差万別となつて来ているが,東京女子医大消化器病センターで経験した症例をもととし,また現在迄の諸家の報告を参考として,吾々の診断,および治療の方針について述べることとする.
 一応,食道と胃に分けて説明し,各々の終りに興味あると思われる症例をあげる.

小腸,大腸の良性腫瘍

著者: 水上哲次 ,   高松脩

ページ範囲:P.1087 - P.1094

はじめに
 小腸に発生する良性腫瘍は極めて稀であり内外の文献をみても,その殆んどが症例報告として散見されるにすぎない.一方大腸における良性腫瘍もポリープを除くと,これまた稀有である.消化器外科に主力を注いでいる私共の教室においても,最近10年間に小腸の良性腫瘍は僅か2例(十二指腸膨大部の乳頭腫,小腸の平滑筋腫各1例)に遭遇したにすぎず,また結腸直腸のポリープは20例みているがその他の良性腫瘍は経験していない.しかしその発生頻度の少ない良性腫瘍といえども,いずれも種々の愁訴をもつて来院しており,悪性化も決して少なくないものと考えられ,その診断,治療に適正を期したいと念願しているが,もとより私共の症例も少ないので机上にある文献を整理しながら,大,小腸の良性腫瘍に関して,主としてその診断および治療の観点から記述したい.

肝,胆道系の良性腫瘍

著者: 菅原克彦 ,   大野博通 ,   黒田慧 ,   柏井昭良 ,   小暮洋暉 ,   白倉徹哉 ,   森岡恭彦 ,   田島芳雄

ページ範囲:P.1095 - P.1106

はじめに
 良性腫瘍を有する肝を切除することは多くの外科医の試みるところであるが,病理学者の賛同は必ずしも得られていない.一般に良性腫瘍は発生部位によつても異なるが,多少とも周囲臓器組織を圧迫したり,破綻,出血などの合併症の発来,悪性化の危惧などを理由に摘出されることが多く,肝,胆道系の良性腫瘍についてもほぼ同様の傾向にあるといえる.放置した際の予後については症例も少なく,剖検時の統計で肝切除の可否について推論することも必ずしも妥当ではない.肝,胆道系の良性腫瘍はその発生母地,分類についてなお,多くの議論があり,特殊例があり,組織標本でも断定的に納得のできる診断を下し得ない症例もある.
 肝,胆道系の悪性腫瘍は診断,手技の開発により,現在では多くの場合その質,量の診定まで可能となつている.大きい良性腫瘍でも良性であることは診断し得るが,さらに腫瘍の性質まで診断することは困難で,推測に止まらざるを得ないことが多い.臨床上問題になるのは肝では血管腫,非寄生虫性肝嚢包,過誤腫,胆道系では乳頭腫などである.真性腫瘍ではないが,臨床的意義が大きいので寄生虫性嚢包についてもふれる.

膵の良性腫瘍

著者: 土屋凉一

ページ範囲:P.1107 - P.1112

はじめに
 一般に膵の良性腫瘍は,比較的稀なものである.この中,島細胞腺腫が一番発生頻度が多いが,その中でもhyperinsulinismや,消化性潰瘍,あるいは下痢を合併するホルモン産出性の活動性腫瘍は,その臨床症状の特異性によつて近時注目され,治験例も増加している.一方,島細胞腺腫でホルモン非産出性の非活動性腫瘍も発生するが,大いさも小さく,臨床症状を呈することも少なく,剖検でたまたま発見されるということが多く,臨床的にはあまり重要でない,島細胞腺腫についで多いのは,嚢胞腺腫であり,他に脂肪腫,線維腫,線維腺腫,筋腫,粘液腫,軟骨腫,血管内皮腫,神経鞘腫,リンパ管腫などの間葉組織起源の良性腫瘍や,充実性腺腫があるが,いずれもはなはだ稀なものであり,臨床的にも相当大きく発育しないと発見され難い.
 さて,日常の外科診療に際して,膵癌との鑑別に最も困難を感ずる疾患は慢性膵炎である.慢性膵炎は勿論良性腫瘍ではないけれども,上述の良性腫瘍と膵癌の鑑別よりもむしろ重要である.膵癌と膵嚢胞の鑑別も困難なことがあり,また,膵嚢胞の中で良性と悪性との間に鑑別困難なことがある.

後腹膜の良性腫瘍

著者: 守且孝 ,   吉永直胤

ページ範囲:P.1117 - P.1122

はじめに
 後腹膜腫瘍の中で,大動脈,腎臓,尿管,副腎,膵臓,女性性器などの後腹膜諸臓器に関係のない原発性腫瘍つまり狭義の後腹膜腫瘍は比較的稀な疾患であるが,その中でも良性腫瘍の占める割合は少なく,本邦報告例についてみると一施設で経験された良性後腹膜腫瘍の症例数はせいぜい10例前後である.われわれが最近1年間に経験した2症例は線維脂肪腫および嚢腫で,いずれも組織学的に良性であつた.この症例経験を機会に最近10年間にわが国で報告された後腹膜腫瘍症例ならびに私共の教室症例について統計的観察を行ない,特に後腹膜良性腫瘍の問題点について触れてみたい.

皮膚および皮下組織に発生した良性腫瘍

著者: 石田啓

ページ範囲:P.1123 - P.1133

はじめに
 皮膚腫瘍として取り扱われる疾患の中で,特に良性腫瘍については皮膚組織の広範にわたり,多種多様性に富み,その疾患名も枚挙にいとまのない程である.然るに悪性腫瘍,すなわち皮膚癌の如きものに遭遇することは他科の消化器系,呼吸系などから比べると全く稀有のものである.本領域における一つの特性は非腫瘍性疾患から悪性腫瘍性化し,また経過中良性腫瘍が悪性化に移行するものがあり,その移行の限界というものは細心の観察をしているにもかかわらず,治療に抗して取り返しのつかない症状の深刻さに直面することが再三ある,ために経過によつて変転し,悪性化するような腫瘍の予後判定などの最後のきめ手は,唯一つ組織学的検索にたよるより他はないようである.
 とにかく広範で,多岐にわたつている皮膚腫瘍の診断にあたつて,皮膚科医はその臨床像を直接視診し,印象的な経験によつて決定するようである.ただ診断の一助として,広範な腫瘍群を発症系統的に幾つかに分類し,その個々の疾患についての特性を解明せんとする試みを,多くの先駆者によつて提唱せられたが,いずれも組織学的なまたは病理学者的な見解からであつた.これなど実地医家にとつてはその概念すら理解に苦しみ,もう少し視診上からの臨床像的な分類の簡明,ならびに解説が望ましいと常日頃念願していた.

泌尿器系の良性腫瘍

著者: 宍戸仙太郎 ,   土田正義 ,   白井将文 ,   加藤哲郎 ,   菅原博厚

ページ範囲:P.1135 - P.1141

はじめに
 泌尿器科領域で治療の対象となるのは大部分が悪性腫瘍であり,良性腫瘍は少ない.しかし一部の良性腫瘍が悪性化することは注意を要する点であり,その意味で泌尿器科領域の良性腫瘍に関する知識を再整理することははなはだ有意義である.
 ここには副腎,尿路,性器に発生する良性腫瘍の分類,臨床症状,診断および治療について簡単に述べてみたい.なお前立腺肥大症は本来腫瘍ではなく過形成と称すべき疾患であるが,臨床的には腫瘤として触れ,発生頻度も高いので,とくに本稿に含めることにした.

グラフ

ファイバースコープによる心臓の診断

著者: 杉江三郎 ,   村上忠司 ,   田辺達三 ,   久保良彦 ,   川上敏晃 ,   太田里美 ,   富山三良 ,   横田旻 ,   橋本止人 ,   町田荘一郎 ,   今井利賢 ,   杉山誠

ページ範囲:P.1037 - P.1041

ものごとの認識には思考のほかに視聴覚に訴える面も決して無視はできない.医学における診断の方法論においても,データの集積,分析のほかに直接目で見,あるいは触診,聴診することの重要性は,いまさらいうまでもない.
ことに心臓や血管内腔の器質的病変の有無については,従釆はレ線学的造影やカテーテル法などによるいわば間接法によっていた これら困難視されてきた部位にも,いよいよ内視の方途が延ばされようとしている.

座談会

脂肪静注の臨床的諸問題—Wretlind教授を囲んで

著者: ,   中尾真 ,   広田和俊 ,   木村信良

ページ範囲:P.1146 - P.1151

種々の疾患に際して,栄養の補給の適否がその病態の予後を左右することが往々ある.しかし栄養の必要性を痛感しながら,実際には十分に補給することは,はなはだ困難であつた.最近,脂肪が栄養補給の目的で静脈内に与えられるようになり,注目をあびている.

論説

体外循環後の意識障害—自験例,空気塞栓を中心に

著者: 原宏 ,   西山亘 ,   山崎達輔

ページ範囲:P.1153 - P.1159

はじめに
 体外循環後の意識障害は重大な合併症でありながら,その発生機序,対策について未だあきらかなものは少ない.
 最近,われわれは心室中隔欠損根治手術後,約1週間に及ぶ意識障害を来し,脳波的にも興味ある治験例を得,また,われわれが予防対策として体外循環回路内に混入しているCytidine diphos-phate choline(以下CDP cholineと略す)の空気塞栓に対する効果を実験的に確かめ得た.

救急医講座

頭部外傷の治療—救急処置から社会復帰まで—<3>重症頭部外傷患者の経過・リハビリテーション

著者: 西村謙一

ページ範囲:P.1160 - P.1165

Ⅴ.重症頭部外傷患者の経過
 前回は頭部外傷患者のベッドサイドの治療について述べたが,以後の治療を論ずるにあたり,必要と思われるので重症頭部外傷患者の経過を簡単に記そう.
 交通事故にせよ,災害事故にせよ,頭部だけの損傷であつても,最重症例は治療をうけるまでにその場で死亡してしまう.また,直ちに医療機関に運ばれて適確な処置が行なわれたとしても一部は救命できない.手術療法の適応があり,速やかに手術が行なわれた頭蓋内血腫例や非手術的にベッドサイドで治療が行なわれた症例であつてもやはり一部は死亡をまぬかれない.特に,来院時両瞳孔が散大し,対光反射なく,痛覚にも全く反応しない昏睡例はたとえ,最初は血圧や脈搏が比較的によくてもほとんど絶望的である.

症例

Lutembacher症候群の1手術治験例

著者: 林久恵 ,   乃木道男 ,   檜山輝男 ,   小柳仁 ,   小林尚子

ページ範囲:P.1166 - P.1170

はじめに
 心房中隔欠損と僧帽弁狭窄の合併については,古くから,Corvisart,J. N.(1814)1),Louis,p.(1826)2),Martineau(1911)3),Mc Ginn,S. & White,P. D.(1865)4)などの報告があるが,1916年Lutembacher,R.5)が報告して以来,Lutembacher症候群と呼ばれている.
 本症候群は,かっては発生頻度の高いものと考えられていたが5),その後の諸家の経験によりむしろ稀な疾患であるとの見解が有力である6)7)8)9)

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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