icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科25巻12号

1970年12月発行

雑誌目次

特集 Silent Disease

Silent Diseaseとその外科的治療

著者: 斉藤淏

ページ範囲:P.1779 - P.1784

 Silent diSease(S.D.)といわれているものは,病変が実在するのにもかかわらず,producing nodetectable signs or symptoms, noiseless(Doland'sMed Dictionary),無音,無声,沈黙の状態にあつて,全く症状を示していない疾患のことである.潜在性疾患と訳されている.すべてこうした字句は,臨床家のために作られてあると思う.なるほど剖検によつて始めて陽の眼を見た,つまりそれまで潜在していた疾患は多い.しかし特異な疾患ではない.そこで病理学者がもし興味を覚えたとしたら,臨床診断の限界でも考えてのことに過ぎないであろう.われわれ臨床家は,潜在の実態やその意義や,またその疾患の種類や性質,さらにまたその予後に止まらずその顕在化にまで考究を広めようとする.そして多くの困難な問題の含まれていることに気づく.無症状であるからといつて無関心あるいは無責任ではすまされない対象であるとも理解するのである.
 S.D.が自らヴェールを取り払つて全貌を露呈することは多い.これは疾患の自然の経過というほかない.すべての疾患について,臨床家は,初発時の真の姿を知ることは困難である.細菌感染においては,その侵入時に直ちに炎症性病変は始まつているわけで,細菌の種類により一定の潜伏期のあることも知られている.

集団検診,人間ドックにて発見されるSilent Diseases

著者: 有賀槐三 ,   岩崎政明

ページ範囲:P.1785 - P.1791

はじめに
 集団検診(以下集検と略す)やドックで発見される患者は,ある意味ではすべてSilent Diseaseということができる.自覚症状があり,これを主訴として病院外来を訪れるものとは異なり,集検やドックを受診するものは,症状が全くないか,あるいは多少の自覚症があつたとしても,その症状を医師に訴えようとする積極的な意志がなく,問われれば答えるという消極的なものでしかない.また,あるいは相当な症状がありながらそれが重要な意味を持つていると気づかないもの,さらに集検の場合には,気づきながら仕事の都合等で受診する機会のなかつたもの,受診することを躊躇しているもの等も含まれている.それらが,集検という場が提供されることにより,検査を受け,その中から重要な疾患が発見される.このことか,すなわち広い意味でのSilent Diseaseから疾患を拾い上げ適切な治療をするという集検の目的となるのである.ドックはその目的は,集検と同じである.発見される疾患の性質も似ている.しかしそれを受診する者の意識の間には相当の違いがあり,ドックの場合は個人の意志が強く出ている.このために発見された疾患に対する受診者の態度もやや異なり,同じSilent Diseaseであつても治療に対する積極さに差がみられる.
 いずれにしても集検やドックにより発見される疾患は今回のテーマSilent Diseaseそのものということができる.

脳のSilent Disease

著者: 鈴木二郎 ,   金山重明

ページ範囲:P.1797 - P.1804

 脳のSilent Diseaseについてということではあるが,著者は頭蓋内疾患,その中でも脳神経外科的疾患のSilent Diseaseについてと解して,筆をとることにする.さて,この問題を論ずるに当つては,頭蓋内には脳,脳膜,血管,脳神経,血管の中の血液および髄液が入っていること,また頭蓋それ自身は幼児を除いてはきわめて硬い箱で一定の容積しかないものであることを,まず念頭におかなければならない.また性質上脳膜,髄液は全くのsilentであり,血管も閉塞,破裂がこない限りsilentで,脳それ自身もかなりの部分が一応silentといわれている.故にそれらの部分のmasslesionを考えるとき,頭蓋内圧が高まつて来るまでは全くのsilentで症状は現われてこないのである.これが頭蓋内疾患の特徴であり,したがつてSilent Diseaseは頭蓋内疾患には,きわめて多いことにもなる.以下,腫瘍,血管性障害および頭部外傷についてのSilent Diseaseに関して述べてゆくことにする.

肺のSilent Diseaseとしてのアスペルギルス症について

著者: 井上権治 ,   宮里恵三郎 ,   楠瀬賢三 ,   露口勝

ページ範囲:P.1809 - P.1814

 内臓に発生するいわゆる深在性真菌症,特に肺真菌症については,近年抗癌剤,副腎皮質ホルモン剤の大量使用,放射線療法,などによる全身または局所の抵抗減弱,さらに抗生物質大量使用による菌交代現象などがら,その発生数も増加し,また本症に関する一般的関心のたかまりとともに,適正な診断,治療による治癒例の報告も多い.しかしながら,本症自体は急性の致命的疾患となることは稀であるので,一般に初期の発見はおくれがちである.診断の遅れは治癒までの期間の延長,ひいては薬剤や貴重な日時の浪費などをもたらし,本症の適正診療については医師としての社会的な責任も少なくない.

食道のSilent Disease

著者: 鍋谷欣市

ページ範囲:P.1815 - P.1822

まえがき
 食道は咽頭と胃を連絡する食物の通路であるから,もしこの食道に変化が起これば,機能的であれ器質的であれ,またその程度の差こそあつても良物の通過障害が起こるのが当然である.多くの食道疾患にみられる,嚥下困難,つかえ感,不快感,胸骨後方痛,逆流,胸やけ,嘔吐,出血などのいわゆる食道症状が現われる.しかし,疾患の種類によつてはこれらの症状が早期から出現するものと,かなり進行しないと出現しないものがある.また現われた症状が次第に増強して行くものと,ある程度までは全く無症状に経過し,突如として重篤な症状が現われるものがある.このSilentDeseaseというのは,厳密にいえば最後まで症状かなく,たまたま他の疾患の検査で偶然に発見されるもの,あるいは単なる身体検査たとえば集団検診,さらには死後解剖などで発見される食道疾患を指すものと思うが,ここでは多少拡大解釈をして軽度の症状はあつても見逃されやすいもの,また当然発見されるものであつても発見されたときには予想外に進行している場合が多い疾患も含めて考えてみたい.また,一つの食道疾患のみでなく2〜3の疾患が合併している場合に,一方の疾患に捉われて他方を見逃す場合があるので注意しれければいけない.

甲状腺のSilent Disease—とくに甲状腺潜在癌について

著者: 伊藤国彦 ,   西川義彦 ,   原田種一 ,   鈴木琢弥 ,   百渓尚子

ページ範囲:P.1825 - P.1830

はじめに
 甲状腺疾患の分野では,Silent Diseaseの概念に相当する症例に遭遇することが多い.
 甲状腺疾患は,甲状腺の機能的変化と,甲状腺そのものに現われる器質的変化とが組み合わされて,それぞれの特有な臨床像を呈してくる.甲状腺の機能的疾患の場合では甲状腺疾患と気づかずに他の疾患として治療されている場合がある.すなわち,心症状や糖尿等が前景に立つて,甲状腺機能亢進症状が見落されていることがある.極端な場合には,他の手術,とくに開腹術などを受けて,急激にThyroid stromにおちいり,はじめて甲状腺機能亢進症の存在に気づいたりする場合もある.逆に甲状腺機能低下症の場合には,あるいは腎疾患とされていたり,あるいは年齢的な変化等として片づけられていることがある.これらはいずれもSilent Diseaseというよりも誤診あるいは見逃されている場合である.これに反して甲状腺機能の異常がない甲状腺疾患では,甲状腺腫そのものが唯一の特徴である.したがつて甲状腺腫に気づかない限りは医師を訪れることがない.

乳腺のSilent carcinoma

著者: 久野敬二郎

ページ範囲:P.1831 - P.1835

はじめに
 乳腺のoccult carcinomaあるいはsilent car-cinomaとは古典的には,臨床上乳房に異常所見を認めないで,腋窩リンパ節転移を認めた乳癌をさしている.一番多く用いられている名称はoccult carcinomaであり,Silent carcinomaあるいはhidden carcinomaともいい,latent car-cinomaとゆう名称を用いている人(Lewison)7)もいるが,普通latent carcinomaは臨床的の癌に相対して用いられ,前立腺癌が長期間無症状で存在し,剖検で初めて発見されるようなものに用いられている.
 乳癌は殆どすべての例が乳房に腫瘤をふれる.原発病巣の大きさと腋窩転移の有無とは強い関係がある.しかし多くの症例の中には乳癌は大きいが腋窩転移のないものや,乳癌は小きいが腋窩転移の大きいものがある.この両者の間には移行があるが,後者の極端な例が腋窩転移をふれるが原発巣をふれないsilent carcinomaといえる.一般に前者は悪性度の低いもので,後者は悪性度の高いものといわれている.

胃のSilent Disease

著者: 島田信勝

ページ範囲:P.1837 - P.1842

 胃のSilent Diseaseについての執筆依頼があつたが,実は昨年第96回国際治療談話会で潜在性疾患とその治療というテーマで講演をしたことがある(日本医師会雑誌,56巻,11号,1279頁,昭44).その際の解釈は特に苦痛を訴えずに集団検診やドック,あるいは他の疾患で来院中希望により検査をして偶然発見されたような疾患,または特別な苦痛かなく経過中突然出血などを来たして発見されたような疾患を胃について考え,話をした.実際Silent Diseaseという病名を厳重に分析すると,Diseaseとは何か,Silentとはま何かというむずかい儀論も出ると思うが,上述したように身体のどこかに正常にはみられない異常所見があるに拘らず,生体そのものにはその存在を思わせるような苦痛とか自覚症状,その他特別な訴えがなく,しかも何らか偶然の機会に胃の疾患として指摘されたものをとりあげて述べることにした.したがつてなかには疾患の初期と思われるものから,かなり進行したものまで含まれることになるが,自覚症状はいうまでもなく各個人によつて相異かあるばかりでなく,殊に日常酷使されている胃においては正常であつても多少お互いに何らかの症状を訴えることがあり,果して無自覚な胃疾患かどの位存在するかは従来の集団検診でもしばしばとりあげられているが検診の種類,年齢,地域などによつてかなりの違いのあることも報告されている.

腸のSilent Disease

著者: 岩塚迪雄

ページ範囲:P.1845 - P.1852

はじめに
 最近,レ線診断技術の向上および十二指腸ファイバースコープ,大腸ファイバースコープ等の内視鏡の進歩に伴い,消化管疾患の診断は著しい向上を示している.
 しかし,まだ下部消化管の診断は,小腸は勿論,大腸を含めて,上部消化管に比し,非常に遅れているのが現状である.その理由としては,下部消化管の頻度が上部消化管のそれに比して少ないこと,解剖学的制約のあること,検査が前準備を含めて繁雑になりやすいこと等があげられる.

肝,胆,脾のSilent Disease

著者: 葛西洋一 ,   水戸廸郎 ,   中西昌美 ,   柴田茂

ページ範囲:P.1853 - P.1861

まえがき
 肝,胆,脾領域の病変では,その病態像に対応する臨床所見が進行期,ないしは末期になるまであらわれないことが多いので,Silent stageでの診断は一般的に困難である.
 また,良性病変でSilent Diseaseとなる場合には,その手術適応が問題になるが,Blalock(1924)3)は胆嚢癌と診断されたものに手術的侵襲を加えることは無意味であるから,胆石症に対して予防的胆嚢摘除をする以外に救命の道はないといつている.しかしながら,Silent Diseaseとしての胆石症の手術適応の判定には問題があろう.

膵のSilent Disease—特に膵癌について

著者: 横山育三 ,   村上千之 ,   平岡武久

ページ範囲:P.1863 - P.1870

はじめに
 Silent Diseaseという言葉を文字通りに解釈すれば,ある臓器に"治療を必要とする"ような病変がありながら自他覚的にはほとんど明確な症状所見を示さない状態ということができる.その時点では本人はそれ程苦痛を感じていないが,時間が経過すると治療がきわめて困難になるためにいわゆるsilentな時期に診療を行なう必要がある疾患である.なお実地臨床上では,何らかの自他覚的症状所見はあるが,それが直接ある臓器に由来するとは思われないのに,実際はその臓器に原因がある場合も少なくない.いわばsimulating diseaseとでもいうべき状態であるが,その臓器に直結した症状所見を欠くという意味ではやはりsilentということかできる.
 膵臓に何らかの病変がありながら自他覚的にほとんど症状所見を示さない疾患としては副膵,環状膵などの先天性奇型,嚢胞症特に先天性膵嚢胞症,良性腺腫特に非分泌性nonfunctioning ade-nomaなどがあげられる.これらの病変のうちのあるものは"治療を必要とする"程度の症状所見を示すことがあるのは衆知のとおりであるが,silentであるものの大部分は"治療を必要とする"ような状態でない場合が多い.

大腸・肛門のSilent Disease

著者: 北條慶一

ページ範囲:P.1873 - P.1882

はじめに
 Silent Diseaseという概念は漠然としているが,症状が乏しくまたは無症状で,そのために偶然に発見され,あるいは,症状発現までの期間が長く,初発症状の出現までその疾患を発見するに足る主症状を示さないもので,しかも,外科的治療の是非が問題となる疾患と解釈すると,ポリープ(ポリポージス),憩室(症),さらにカルチノイドを初めとする悪性疾患などが,大腸肛門領域におけるSilent Diseaseとしてあげられよう.
 ここに,私どもの症例を供覧し,それらの疾患について検討を加えてみたいと思う.

脈管のSilent Disease

著者: 稲田潔

ページ範囲:P.1885 - P.1889

 Silent Diseaseの定義ないし概念についてはまだ一致した見解はないが,疾患自身による自覚症状がまつたくないか,あつても軽微のため患者自身は自覚せす,他疾患にさいし偶然発見されてはじめてその治療が問題になり,あるいはこれに対する対策が全く考慮されなかつた場合には,時に重篤な合併症をまねくおそれのある疾患と解釈してよいであろう.脈管系の疾患のうちこのような概念に相当し,がつ日常の臨床上もつともしばしば遭遇する代表的な疾患としては冠動脈硬化症があげられるが,本稿では本症以外の疾患について述べることとする.
 脈管系疾患のうち日常問題となるのは主として動脈系であり,これは大別すると動脈瘤性疾患と閉塞性疾患の2つに分けられる.

卵巣のSilent Disease—とくに卵巣腫瘍を中心として

著者: 加藤俊 ,   薬師寺道明

ページ範囲:P.1891 - P.1899

はじめに
 医学の進歩は専門領域の細分化を促進する一方,いわゆるGrenz gebietに属する事象の判断も迫られる関係上,専門外の知識もますます要求されるようになつてきた.しばしば経験されるのに緊急開腹手術などに際して,術前予想もしなかつた他の疾患を発見したり,またある疾患の治療中,突発的な症状出現があつて,それまで潜在していた他の疾患を見出し,その処置に惑うことなどが挙げられよう.
 一方,卵巣腫瘍の診断は従来単なる内診と開腹所見のみに頼ることが殆どで,該腫瘍の良・悪性の鑑別,種別の診断は容易ではなく,ことに特殊性種瘍を術前に確診することは,一部の特異な内分泌性腫瘍を除いては殆ど不可能に近い現状である.

腎・尿管のSilent Disease

著者: 高崎悦司

ページ範囲:P.1901 - P.1908

はじめに
 尿路疾患がありながら,泌尿器科医に受診するのがおくれ,すでに病状が相当に進んでいて治療に苦慮する例は,実際上少なからず経験される.尿路疾患で無症状に経過するものは,まれなものまで挙げればがなり多数になるか,このうち比較的しばしば経験し,放置すれば人体に重篤な危害をおよぼす疾患で,無症状あるいは症状があつても見落し易いものについて述べてみる.

カラーグラフ

内視鏡からみた腸のSilent Diseases

著者: 岩塚迪雄

ページ範囲:P.1776 - P.1777

消化管を上部と下部とを問わず内視鏡診断の範疇に入れること,つまり口側と肛門側よりの内視鏡のドッキングが我々の夢であるという言葉は,常々,内視鏡を専門とする人達からきかされる言葉である.特に腸のSilent Diseaseとなると,現状では,術前診断が困難なものが多く,これからの研究分野であるが,このドッキングが成功して腸の疾患の大多数が術前に解明される日は近い.

外国文献

CL−1848C,他

ページ範囲:P.1909 - P.1909

 新しい麻酔薬として登場し臨床的に安全なこと,有効なことがAMA第119回総会麻酔学会でCalveston大学Wilson(1970)によつて報告された.除痛作用が著明な点は他の麻酔薬を超えている.学生13例に用い0.25〜0.75mg/kg,i. v. で疼痛試験,脳神経機能,深部反射,意識などをしらべ全くsatisfactory,副反応は1例に興奮がみられたのみであるという.麻酔間,夢をみるそうだが恐しいものでない.Sweet(JAMA 210:1375,1969)はketamine-HClより恐しい夢をみるといつているが,それは青年でhallucinogenic物質を受けていた上に実験動物にされているという観念があつたためか.Wilsonによると麻酔48-72h後,心理学的所見は一様に麻酔前と全く同じに回復し,人格上の変化もない(専門家の診査),EEGは睡眠と覚醒とで明らかに正常所見.しかし1-5時間constant,alternating nystagmus(diplopia)があり,かるいメマイが起こることもある.本剤とKetamineとは化学的に異なるが麻酔作用は全く似ている.FDAはketamineを許可したがpencyclamine剤は当分は人体に用いられないだろう.

学会印象記

第23回日本胸部外科学会総会印象記—心臓大血管外科領域を中心に

著者: 瀬在幸安

ページ範囲:P.1910 - P.1912

 第23回日本胸部外科学会総会は,砂田輝武岡大教授を会長に,9月5・6日の両日岡山市で開かれた.今回の特長は14の主題をあげ(心臓大血管外科領域10主題),それぞれの主題別に広く演題をつのり,しかも演題数を各主題で数題にしぼったことである.したがつて十分な討論時間によつて,それぞれの主題が当面する問題についてその焦点をしぼることができたわけである.このような企画は,すでにアメリカ胸部外科学会でも行なわれているが,この試みは本学会25年の歴史のなかで画期的なものであるばかりでなく,今後の学会のあり方をしめしたといえよう.

患者と私

医師と患者の結びつき

著者: 長洲光太郎

ページ範囲:P.1914 - P.1915

広島の原爆写真を日本に売り込もうとして肘鉄砲をくつて面くらつたエノラゲイ号乗組パイロットの話が最近あつた.アメリカ人の認識不足,無知に唖然とした.アメリカ人はドライに割切つた考え方をするのだといつて弁護するようなおつちよこちよいの日本人さえあらわれた.この写真は5000ドルぐらいの値うちはあると思つたなどとそのパイロットはいい出すのである.まことに恐れいった.しかし--
 これに似たことを医者が患者におしつけていないと断言できるだろうか.私は少し心配である.「私の手術は10万円ぐらいの値うちはあるだろう」などといい出すのである.学園紛争にしたところで,医師や医学生の身分のことが主な原因であつて,医療の本質論からの騒動ではないから,私としては心配である.

外科教育を考える 外科医卒後教育について・5

市中病院における臨床研修の現状と将来—虎の門病院の場合を中心として

著者: 筑紫清太郎

ページ範囲:P.1916 - P.1922

 卒後教育を含めて医学教育が,今日ほど社会的な問題提起にまで進展したことはない.終戦前はいうに及ばず戦後もしばらく,卒後教育は大学の教室に入局して行なわれるのが常道で別に疑問ももたれなかつた.医師の教育は卒後教育までほとんど大学でのみ行なわれるものが日本の従来の慣行であつた.

講座

外科領域におけるアミノ酸輸液—3.アミノ酸輸液と電解質輸液

著者: 早坂滉 ,   福井四郎

ページ範囲:P.1925 - P.1932

Ⅰ.アミノ酸代謝とK, Mg代謝について
 アミノ酸代謝と電解質代謝,なかんずくK代謝の関連性については古くから多くの研究があり,枚挙にいとまがない.Elmannはアミノ酸から蛋白質1g合成するためにはK2.9mEq必要欠くべからざるものであるとその実験結果をあきらかにしている.一方,Mg代謝に関しても多くの研究があるが,しかしアミノ酸代謝との関連についての研究は寥々たるものである.
 われわれの臨床実験によると,第1図は胃切除患者のみ集めてさらにMg非投与胃切除群39例とMg投与胃切除群38例とにわけて,各項目にっき各々その平均植のみあつめてグラフにしたものである.これによると,Mg投与群の術後の経過は,尿中排泄窒素と尿中排出Kは比例関係があり,また血清Kと血清タンパク質とA/Gとの関係も同様のことがいえる.

症例

胆石イレウスの一治験例

著者: 南一明 ,   長瀬正夫

ページ範囲:P.1933 - P.1937

緒言
 胆石によるイレウスは本邦では比較的まれであるとされているが,最近われわれは胆嚢十二指腸瘻により排出されたと考えられる巨大胆石によつてイレウスを起こした一例を経験したので報告する.

腎移植後のErythrocytosisの1例

著者: 碓井貞仁 ,   佐藤博 ,   花岡建夫 ,   岡村隆夫 ,   小越章平 ,   岩崎洋治 ,   米満博

ページ範囲:P.1939 - P.1943

はじめに
 Erythrocytosisは,腎疾患の合併症の一つとして知られていたが,腎移植後のErythrocytosisについても,1965年Niesら1)によつて報告されて以来,移植患者長期生存例の増加とともに,しばしば見られるようになつた2,3,4,5,8)
 私どもが最近経験した症例は,腎移植と,Eryth-rocytosisの関係がはつきりと解明されていない現在,その臨床経過は興味深いものがあり,ここに紹介し諸家のご参考に供したい.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?