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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科25巻2号

1970年02月発行

雑誌目次

特集 手術と出血対策Ⅰ

麻酔中の出血と循環管理

著者: 山村秀夫 ,   清水礼寿

ページ範囲:P.175 - P.181

はじめに
 麻酔中に患者の生命の安全を図るために,細心の注意をもつて行なわなければならない最も重要な仕事は,呼吸および循環の管理であり,外科的手術には量の多少を問わず出血が伴うものであるから,それにどのように対処していくかということは循環の管理において最も重要な部分を占めるものである.出血に対しては原則として輸血や輸液が行なわれるが,そのためには,出血,輸血,および輸液の病態生理に関する正しい知識を必要とする.

脳動脈瘤手術における出血対策

著者: 都留美都雄

ページ範囲:P.183 - P.186

はじめに
 脳の動脈瘤として手術の対象となるのは,いわゆる先天性動脈瘤と呼ばれるもので,先天的に動脈管に弱い部分があるか,あるいは胎生期に存在して出生後消失する運命にあつた動脈の痕跡が生後も残り,その様なものは発育も不充分で弱いので,長年月の間に動脈瘤が形成されるというようなわけで,動脈瘤の壁は非常に薄くなつており,非常に破裂し易いものである.従つて動脈瘤の手術を行なうに当つては,常にその破裂することを前提にして準備することが必要である.

静脈洞からの出血対策

著者: 中村紀夫

ページ範囲:P.187 - P.194

はじめに
 静脈洞からの出血対策を問題にとり上げる場合には,あらかじめ静脈洞が傷ついて出血している状態を前提としているのと,手術の過程で静脈洞を傷つける危険およびその処置を論ずるのとで,かなりのちがいがある.
 前者はもつぱら外傷による静脈洞損傷であり,後者は各種脳外科手術において,静脈洞を傷つける場合である.

顔面・顎・口腔の出血

著者: 藤野博 ,   田代英雄

ページ範囲:P.197 - P.200

 顔面,特に顎・口腔領域の出血を中心にのべることにする.顔面では,眼・鼻に関連する出血も重要な意義をもつことはいうまでもないが,その専門書にゆずる.
 顔面・顎・口腔領域は他の部位に比して比較的血行にとむ部位とされている.豊富な血液の供給をうけているために,手術創や外傷による損傷は比較的感染をおこしにくく,創傷治癒も早いが,一面,手術や外傷のさいには容易に多量の出血をきたしやすい.また顔面・顎・口腔の基盤は,複雑な形態をもつ顔面骨が多数結合して形成されており,それに伴つて血管の走行もこみいつている.

頸部出血の対策—とくに甲状腺と頸動脈出血

著者: 藤本吉秀

ページ範囲:P.201 - P.205

Ⅰ.甲状腺手術に関して
1.甲状腺の穿刺針生検
 かつては硬く腫大した甲状腺腫に対しては,一律に甲状腺癌の疑いをおいて手術をしたものであるが,最近10年間に個々の甲状腺疾患の病態生理がかなりよくわかつてきて,とくに慢性甲状腺炎(広義の橋本病)や亜急性甲状腺炎はできるかぎり手術を避けて保存的治療を行なうようになつてきた.そこで臨床諸検査から明らかに甲状腺炎と診断できるものはよいが,多少とも疑いの残るものではかんたんな操作でできる穿刺針生検でもつて診断を確かめておきたくなる、ところがこの穿刺針生検で最も気になるのが出血の合併症である.
 穿刺針生検の細かい手技については,最近別に記した1)ので参照していただくとして,出血を防ぐには,第一に穿刺針の刺入方向に注意することである.第1図に示したように,左手の第2指と第3指を甲状腺右葉の内側と外側にそれぞれあて,その2本の指の間に向けて,水平面から約40℃の角度で刺入すると,針は甲状腺右葉の実質内に正しく刺入され,総頸動脈や内頸静脈を損傷するようなことはない.

食道出血の対策—食道静脈瘤出血の治療について

著者: 赤倉一郎 ,   渡辺寛

ページ範囲:P.207 - P.212

はじめに
 食道出血は消化管出血の中ではその頻度は胃・十二指腸出血に比べ低率であるが,その対策の点では最も慎重な配慮を要するものの一つである.食道出血を来たす食道疾患は食道静脈瘤,食道炎,食道潰瘍,食道癌,食道憩室等がある.これらの疾患の中で,臨床的に最も問題となる食道出血は食道静脈瘤からの出血である.すなわち,多くが肝硬変症を伴つている食道静脈瘤からの出血は大出血を来たし,第1表のごとくその死亡率は極めて高く,敏速なしかも適切な処置が必要である.従つて今回は食道出血中この食道静脈瘤出血の対策について,われわれの若干の経験と文献的考察をもとに記述したい.

肺手術における出血対策

著者: 鈴木千賀志 ,   助野忠義

ページ範囲:P.213 - P.219

はじめに
 今日では輸血,補液法がいちじるしく発達し,血液の入手も容易になつたとはいえ,手術中および手術後の出血量をいかにして少なくするかということは,外科医にとつては依然として重要な課題である.
 とくに血管が主要な構成分をなしている肺の手術においては,肺門の処理にさいしてかなりの出血がみられるほか,肺手術の適応とされる肺結核をはじめ肺癌であれ,肺?胞症または気管支拡張症であれ,感染を伴うものが多いので,多少高度な胸膜癒着がみられるものが多いが,胸膜癒着剥離部から多かれ少なかれ出血がみられる.

心臓手術の出血対策

著者: 榊原仟

ページ範囲:P.221 - P.223

Ⅰ.心臓手術の出血の特異性
 心臓からの出血は,ほかの外科手術の時にみられるような末梢動脈からの出血に較べて影響が強く,速やかに現われるので生命の危険が大きい.だからこの処置は急を要する.
 また心臓外科では人工心肺を用いるので血液凝固阻止剤を使用する.したがつて術後の出血傾向を招きやすい.術後の胸腔内出血は,呼吸を抑制し,心機能を低下させるので,病的心臓への影響は極めて大きく,術後死亡の重要な原因となつている.このような点からほかの手術に較べて心臓外科での出血対策が特に重要なのである.少しく詳しく記してみよう.

心臓の出血対策

著者: 曲直部寿夫 ,   宮本巍

ページ範囲:P.225 - P.230

はじめに
 一般に手術における出血対策としては,いうまでもなくできるだけ出血させないように手術手技を遂行することを原則とする.すなわち手術部位の局所解剖,特に血管の分岐および走行を知ることにより無駄な血管の損傷をさけ,手術を円滑に行なうことが手術手技上の出血対策として最も必要なことである.
 心臓そのものの手術にさいしては血液循環の根源を操作するだけに手術手技に関して,慎重な考慮がもし欠如するならば,出血により直ちに生命の危機に連なる故に厳重な注意の上にさらに注意を重ねるべきである.

大血管の出血対策

著者: 杉江三郎

ページ範囲:P.231 - P.236

はじめに
 外科手術を開始し,皮膚切開を加え,やがて深層に達し,あるいは開胸術や開腹術によつて目的とする手術を達成するためには,出血対策つまり止血操作がそれら操作の大きな部分をしめていることに気付くのである.
 合理的な手術とは,できるだけむだな操作を省き,いたずらに出血せしめて,その止血に手間どるようなことがなく,適確な手術操作をすすめるということにつきると思う.

大血管の出血対策—破裂性動脈瘤について

著者: 和田達雄 ,   本橋久孝

ページ範囲:P.237 - P.239

はじめに
 外傷や手術操作による大血管の損傷や破裂性動脈瘤の場合を除いて,大血管から出血のおこる疾患は非常に稀である.正常な血管壁の中膜弾性線維はあらゆる病変に対してきわめて抵抗性の強いものと考えられ,血管周囲の病変が血管壁に波及しても,これが破壊され,その結果血管壁が破れてしまうということは少ない.たとえば悪性腫瘍細胞の浸潤が大血管の壁に強く及んでいたり,膿瘍のなかに大血管が含まれていて強い炎症が血管壁をおかしていても,正常な血管壁が破裂したり,動脈瘤が形成されたりすることはあまり経験されない.
 筆者自身の経験では,膵臓壊死に開腹誘導を行なつた術後に膵液によつて腹腔動脈がおかされて大出血がおこつた例,甲状腺癌再発例に照射療法をくりかえしたために生じた放射線潰瘍が頸動脈をおかして出血死亡した例,などの二,三の症例に遭遇しているにすぎない.

大血管手術における出血対策

著者: 浅野献一

ページ範囲:P.241 - P.244

はじめに
 大血管手術の成否は出血のコントロールにかかつているといつて過言でない.他の部位の手術と異なり,大血管,心臓手術では急速かつ大量の出血を来たす場合があり,直ちに致命的となることもあり,大出血—大量輸血—血液凝固障害—大出血という悪循環に陥る危険もある.術中の心停止で最も予後の不良な原因は大出血によるものである.
 止血法,出血対策は本来外科の基本的手技であり,また症例ごとあるいは部位ごとに相違もあつて,箇条書きに記述することは困難であるが,凡そ次のような事項について説明する.大血管手術の基本的手技,大出血に対する予防手技,大出血の止血手技,補助的手技などである.ここでは全身的に投与される止血剤の効果や,ショック対策などについては触れないこととする.

カラーグラフ

ファイバースコープによる膵・胆道の造影

著者: 高木国夫 ,   池田靖洋 ,   中川安房 ,   坂口信昭 ,   高橋孝 ,   熊倉賢二 ,   丸山雅一 ,   染矢内記 ,   高田亮 ,   竹腰隆男 ,   金孟和

ページ範囲:P.152 - P.157

内視鏡検査は進歩した技術を用いて,胃から十二指腸の内視鏡へと発展をとげつつある.十二指腸は肝,膵と密接な関係にあるが,とくに膵臓の検査は,従来間接的な方法であった.内視鏡を用いたファーター乳頭口へのCannulationは,膵管を造影し,膵臓そのものを検索する直接的方法で,従来暗黒大陸ともいわれた膵臓にも,ようやく解明する手掛りが開発されてきた.

外科の焦点

電子計算機のX線診断への応用—(2)読影所見の整理と論理診断

著者: 梅垣洋一郎

ページ範囲:P.159 - P.172

 電子計算機のもつ能力の中で最も重要なものは,大量の情報を記憶することができ,また,必要な情報を記憶の中から検索することができるという点である.情報社会といわれる今日ではコンピュータを利用しない産業はないといつてよいくらいであるが,医療はその性質上その利用がもつともおくれた分野になつている.コンピュータに情報を記憶させ,これを利用するためにはまずすべての情報を標準化し,コード化する必要がある.ところが医学には数限りない用語があり,その使い方も統一がとれていないのが実情である.しかも医療は1人1人の患者を取り扱うので,決して大量生産的な仕事ではない.病院の規模も1,000床どまりであつて,企業としては中以下に属する.従つてコンピュータを実用化するに要する困難さに較べて,実用化によつて得られるメリットが少ないと考える入が多い.しかし現実の問題として病院は医療技術のレベルアップにともなう業務および情報量の急速な増大を処理する一方,サービスの改善の要求を満さねばならず,病院管理および経営の面で大きな困難に直面している.今後医療の質を向上させるには否応なしにコンピュータによる情報処理を実用化しなくてはならないといつてよい.
 X線診断は医療情報のコンピュータ化の中では最も早く手をつけられた領域である.多くの国では放射線科の組織が確立されていて,X線診断の結果は診断リポートの形で病歴にファイルされ,利用されている.

論説

食道の動態とその臨床—第1篇 食道噴門の生理的動態

著者: 佐藤博 ,   平島毅 ,   西村明 ,   塩田彰郎 ,   田紀克 ,   佐々木守 ,   原輝彦 ,   大山修身 ,   三好弘文

ページ範囲:P.249 - P.253

はじめに
 食道噴門部の動態についての研究は,近年エレクトロニックスの医学への応用と相まつて,ますます盛んになつて来ている.教室においても過去数年来,食道疾患の鑑別診断,手術の適応,さらに手術効果の判定等につき,食道の動態を電気内圧曲線の測定から観察しているので,その研究の一端を報告する.われわれの行なつている方法については,すでに詳細な報告があるので省略するが,いわゆるopen tipped法によつて食道の電気内圧曲線を測定している.

わが教室の12年間における小児虫垂炎の臨床的観察

著者: 宮永忠彦 ,   吉野雅武 ,   石田清 ,   古味信彦 ,   木村信良

ページ範囲:P.255 - P.258

 近年の小児外科の進歩は,めざましいものがある.腹部外科領域で最も多く扱われる虫垂炎についてみても,その手術成績は向上しており,かつ新生児期虫垂炎などの報告も散見される2)3)4)5).そこで私達は,東京科歯科大学第2外科学教室における1955年5月教室開設以来1967年9月迄の12年4カ月間に経験した満15歳未満の小児虫垂炎の臨床統計的観察を試みたので報告する.

講座

循環量維持としての輸液—(Ⅲ)輸液の実際

著者: 大谷五良

ページ範囲:P.262 - P.268

Ⅲ.輸液の実際
A.輸液手技
 原則として輸液セットを用いて静脈内点滴注射を行なう.輸血を併用する場合は必ず輸血セットを使用し,輸液セットにより輸血を行なつてはならない.

症例

石灰乳胆汁の1例

著者: 岩本淳子 ,   小原辰三 ,   福田三男 ,   河野実

ページ範囲:P.271 - P.276

はじめに
 石灰乳胆汁は1908年R.Volkmann1)によりlimywater bileとして記載されたのが最初であるという.また.1911年Churchman2)は結石にあつて閉塞された胆嚢内に灰白色不透明で練歯磨様硬度の凝塊を持つ例を報告したのが最初であるともいう.以来欧米ではかなりの報告例があり,Nolan3)らによると1960年現在文献上58例の報告をみるというが,わが国では非常に少なく,1955年常岡4)らの報告以来,われわれの例をも含めて1967年9月現在,わずかに12例をみるに過ぎない(第1表).1926年J.Volkmann5)はKalkmilchartige Galle,1933年Knutsson6)はLimybileとそれぞれ命名している.その他Calciumcarbonate gallstone(1931, Phemister)7),Kalk-milchgalle(1933, Markus)8),Kalkgalle(1939,Berg.)9),Calcium bile(1942, Mc Call)10),等の名称があり,一般にはKalkmilch-galleあるいは,Limy bileといわれているようである.

胃全摘術後の空腸重積症

著者: 高松脩 ,   西田良夫 ,   古川信

ページ範囲:P.277 - P.280

 胃全摘後におこる空腸重積症はまれな合併症の一つとされている.さいきんわれわれは胃全摘術後,空腸輸出脚に生じた空腸重積症を1例経験したのでここに報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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