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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科25巻7号

1970年07月発行

雑誌目次

特集 腫瘍の病理と臨床 カラーグラフ

乳幼児の腫瘍

著者: 金子仁

ページ範囲:P.908 - P.909

乳幼児の腫瘍は大人の腫瘍とかなり異る.頻度も少なく,その種類もガラリと変る.奇型をもととした腫瘍の多いのが一つの特徴といえよう.このページには小児よりもさらに年齢の若い乳幼児の腫瘍を集めた.本誌に載せた白黒写真の大人の腫瘍と比較して戴きたい.

グラフ

人体悪性腫瘍の実態

著者: 金子仁

ページ範囲:P.911 - P.918

 人類最後の敵といわれる悪性腫瘍の研究は最近特に盛んになつてきた.臨床医も基礎医も懸命にこの問題にとり組んでいる.悪性腫瘍の恐ろしさ,すさまじさは長年病理解剖をやつている筆者には痛いほどよく判る.
 ここで,も一度,人体例の悪性腫瘍をズラリと並べ,それも顕微鏡写真ではなく,実際の肉眼像を並べて再検討しようと企画されたのが本論文である.

外科の焦点

Cryosurgeryの外科臨床への応用—ことに各種腫瘍の破壊について

著者: 田中茂男 ,   永田丕

ページ範囲:P.919 - P.927

はじめに
 生体組織にfreezing injuryを加えると,組織は一定の条件で壊死に陥る(cryonecrosis).Cryosurgeryはこの原理を外科的治療に応用したものであるが,腫瘍の治療に局所のfreezingを行なつた記録は古く,Meryman1)の綜説によれば,Arnott(1851)が氷と食塩の混合物(−20℃)を用いて進行した子宮頸癌や乳癌の疼痛の軽減,止血に試みたのが最初といわれている.しかし,この局所超冷凍が腫瘍の治療手段のひとつとして再認識され,cryosurgery(超冷凍外科)として近代化をみたのは近年のことであつて,液体窒素を用いる精巧な装置が開発され,ごく限局した病巣の凍結・破壊が可能となり,Cooper2)がこれを脳外科でParkinson氏病の治療に,basal gangliaの破壊に用いてからである.以来,数種の冷却剤を用いる装置およびprobeが開発され,脳外科をはじめ耳鼻科,眼科,婦人科,皮膚,泌尿器科などの一部の領域で臨床的にもいくらか普及をみるようになった.一般外科領域では,Cooper3)4)やCahan5)6)らが各種腫瘍の破壊に用いてから,その応用範囲をひろげる努力がなされているようであるが,報告はまだ多くを数えず,その評価もまちまちのようである.

綜説

化学療法の応用,適応

著者: 近藤達平

ページ範囲:P.929 - P.935

 癌の化学療法が成功したのは1865年にLissauerが亜砒酸カリ,すなわちFowler氏液を白血病の治療に用いたのが始まりといわれる1).また癌がホルモンと関係が深いことについては,19世紀の終りに去勢が人の乳癌や前立腺癌を縮少せしめることがのべられており2,3),ついでホルモン療法の原理が明らかになつたのは1930年以後で,人前立腺・前立腺腫瘍・前立腺癌患者血清に大量の酸フォスファターゼが証明されるようになつてからで4)Hugginsはこの方面の研究でNobel賞をうけた5),第2次世界大戦前10年間にいくつかの癌化学療法剤が見出されBoylandのaldehydes6)やStrongのheptaldehydesによる自然発生マウス腫瘍の治療7)が発表されている.ついで大戦中毒ガスや抗生物質の研究が非常に進歩したが,たまたまマスタードガスを運搬中数人がこれにさらされ,そのため血中細胞の減少がみられたのがnitrogen mustardを癌治療に使うきつかけとなつた8)

論説と症例

精神運動発作型癩癇を伴つたCompact psammomaの1例

著者: 若林信生 ,   青木秀夫 ,   東健一郎

ページ範囲:P.940 - P.944

 脳腫瘍で癲癇性痙攣発作を伴うものは比較的多く,特に髄膜腫,星状神経膠細胞腫等発育の緩徐な腫瘍に往々見られる.また,これらの腫瘍は主として25歳以上から中年にかけて多くみられるものである.すなわち,これを逆に見れば,晩発性癲癇では必らず脳腫瘍を疑うべきで,教室の波多野の調査によると,教室で診療を行なっだ晩発性癲癇の約1/2近い症例において,脳腫瘍が発見されている.従つて,このような患者を診れば必らず脳腫瘍を念頭に置いて検査を行なうべきである.その場合,最もroutineに行なわれる検査法の一っとして,頭部レ線撮影がある.
 Holt7)によれば,頭蓋単純X写で脳腫瘍の18%は,その局在が診断できるという.この場合,頭蓋内病的石灰沈着の発見が有力な手がかりとなる,脳腫瘍でレ線学的に石灰沈着を認めるものは多く,その代表的なものとしては髄膜腫,頭蓋咽頭腫,神経膠細胞腫等があげられる.このうち神経膠細胞腫は脳腫瘍の約40%を占めるが,顕微鏡学的な石灰沈着はその1/3にのぼるといわれている19).しかし臨床上レ線写真で石灰沈着が発見されるものは約1096といわれている15).また,同じく神経膠細胞腫でも,その種類により石灰化の発見頻度を異にしており,稀突起性膠細胞腫では50%,星状膠細胞腫では20〜25%となつている17)

左側内包付近に原発し感覚性失語症を呈した異所性のう胞性松果体腫の1手術例

著者: 古和田正悦 ,   田中輝彦 ,   三浦玄太郎

ページ範囲:P.945 - P.952

 鈴木等による本邦の集計1)によれば,異所性松果体腫は,松果体腫瘍の約10.7%を占めるといわれるが,その大半は脳室壁をビマン性に浸潤するものや,第3脳室底を中心に視神経交叉部,漏斗部や視床下部に拡がつたものであり,大脳皮質内や視床に限局して見出された例は極めて少数である.最近われわれは,右片麻痺を初発症状とし,約3年後に脳圧亢進症状と感覚性失語症が出現し,開頭手術で左側内包に原発し,主として外側に向かつて発育した異所性のう胞性松果体腫と判明した症例を経験したので,本邦における昭和20年以降に報告された異所性松果体腫,特にのう胞を形成した症例の文献を捗覧し報告する.

第三脳室を占有した視床背内側後部アストロサイトーマの1手術例

著者: 古和田正悦 ,   三浦玄太郎 ,   田中輝彦

ページ範囲:P.953 - P.957

 視床腫瘍は第三脳室底を侵して対側に至るか,広範に墓底核を浸潤するか,または脳室系をいわゆるsubep-endymal spreadingするのが大半であるが,中には少数ながらも,二次的に第三脳室内に限局して発育する場合のあることが報告されている4)8).最近,われわれは視床背内側後部に原発し,第三脳室をほとんど占有したアストロサイトームの症例を経験し,第三脳室腫瘍や松果体腫瘍等との鑑別,手術方法について若干の考察を行なつたので報告する.

先天性脊髄硬膜外嚢腫について

著者: 新名正由 ,   富田勧

ページ範囲:P.959 - P.968

はじめに
 脊髄硬膜外に発生する嚢腫のうち皮様嚢腫,ecchin-ococcus,炎症性嚢腫等は比較的良く知られているが,先天性発生と考えられる髄膜嚢腫の報告は稀である.Elsberg等(1934)は250例の脊髄腫瘍中3例,Lom-bardi(1962)は290例中3例,教室泉田等(1966)の報告でも93例中1例をみるに過ぎず,全脊髄腫瘍中における発生頻度は1.1%である.
 本疾患の最初の報告者はSchlesinger(1898)とも,Mixter(1932)ともいわれ明らかではないが,その臨床像,病理,成因等に関する詳細な報告はElsbergによつて始めてなされた.彼は"脊髄硬膜外嚢腫は,思春期男子の胸椎中,下部に好発し,下肢の痙性麻痺,亀背形成,軽度の知覚障害を主症状とし,疼痛はみられず,その発生は先天性髄膜憩室または先天性の硬膜欠損部よりの蜘蛛膜ヘルニアである"と述べている.Lehman(1935)は著明な後彎および症状の自然寛解を認めた症例を,Cloward等(1937)はkyphosis dorsalis juvenilisとの関係について言及し,成人の腰椎部に発生した嚢腫例を報告している.Mayfield(1942)は外傷が症状の発現を促進すると述べ,Hyndman(1946),Nugent(1959)等は成因に関する考察を行なつている.

肺癌手術後,長期生存例について

著者: 片岡一朗 ,   堀江伸 ,   加藤恒康 ,   桜井凱彦 ,   野口達也 ,   矢部熹憲 ,   和田輝洋 ,   中条能正 ,   野口真吾 ,   橋上保二 ,   矢田一

ページ範囲:P.969 - P.975

はじめに
 最近,肺癌手術後の長期生存率は著しく向上して,欧米における諸家の報告では,1950〜1960年代における5年生存率は20〜30%である.わが国における肺癌手術後5年生存率は1963年河合は全国統計を示し,7.9%といい,1965年鈴木は全国12施設の調査で,肺癌切除546例のうち89例が5年以上生存し,19.6%の生存率を示し,昭和30年頃に比べ,ここ数年間に著しい進歩を示し,欧米の水準に近づいている.これは肺癌の診断法,手術適応の選定,手術手技の進歩および手術前後における放射線療法,化学療法併用などの補助療法が好影響を与えているものと老えられる.
 肺癌手術後の長期生存率についての検討には多くの報告がみられ,病理学的の面からは癌の組織型,周囲組織の浸潤,リンパ行性または血行性転移の有無,また臨床面からは術前後放射線療法,化学療法の併用などについて検討されているが,まだ決定的な要因はみいだされていない.

小児の前縦隔に発生した嚢腫状リンパ管腫の2例

著者: 伊藤利男 ,   渡辺至 ,   葛西森夫

ページ範囲:P.977 - P.981

はじめに
 縦隔腫瘍のなかで,リンパ管腫は稀で報告症例も少ないが,乳幼児には比較的多く見られている.
 我々は,1歳8カ月の女子,および7歳の男子の前縦隔に発生した嚢腫状リンパ管腫の2例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

早期胃癌についての統計的観察(全国99施設の統計)

著者: 川島健吉 ,   岩佐博 ,   岡本安弘 ,   田村金寿 ,   小島満 ,   永倉幸平 ,   畑野良侍 ,   石川光賢 ,   橋爪満 ,   仙誉軍一 ,   今村憲一郎 ,   石井敏勤

ページ範囲:P.983 - P.987

 近年胃疾患におけるレ線,内視鏡検査法の進歩,集団検診の普及により早期胃癌症例の増加はまことに目覚しいものがある.
 昭和43年4月,川島は,第68回日本外科学会総会にて,癌の新しい診断法についての教育講演をなし,その際,全国99施設において最近3年間に,経験された早期胃癌についてのアンケートを集計し発表したのでここにこれを報告する.

Krukenberg腫瘍として発見された小さな早期胃癌IIcの1例

著者: 長廻紘 ,   竹本忠良 ,   岩塚廸雄 ,   榊原宣 ,   市岡四象 ,   鈴木博孝 ,   山内大三 ,   後町浩二 ,   笹本佳子 ,   児玉京子 ,   平山章

ページ範囲:P.989 - P.992

はじめに
 最近我々は原発巣である胃癌は粘膜内癌であるにもかかわらず,卵巣に転移し,卵巣腫瘍の症状で発見され,しかも胃癌の診断がかなり困難であった胃切除症例を経験した.
 しかも胃切除後1年を経て肺転移巣が発見されるという極めて特異な進行を示しつつあるのでその大要について報告し,あわせて早期胃癌と転移の問題および小さな早期胃癌の診断について若干の考察を加える.

消化器系原発性多発癌の4例

著者: 野崎修一 ,   千葉昌和 ,   田中隆夫

ページ範囲:P.993 - P.998

はじめに
 同一個体に2個以上の悪性腫瘍がそれぞれ独立して存在するいわゆる原発性多発癌は臨床的にも必ずしも少なくないことは諸家の報告から明らかである.そのうちでも,消化器癌同志の組合わせが最も多い事実1)2)は癌の病態生理の解明の上からも興味ある問題である.
 われわれの教室では5例の消化器系多発癌を経験しているが,「多中心性に発生した腸管細網肉腫症」を教室石垣らがすでに発表3)しているので,ここでは他の4例を報告し,若干の検討を加えてみたい.

胃癌と直腸カルチノイドの合併例

著者: 山際裕史

ページ範囲:P.999 - P.1004

はじめに
 重複腫瘍は本来かなり稀なものであるが,一方が胃癌であるものはそのうちでは比較的多いものである.
 胃癌に直腸カルチノイドの合併した極めて稀な44歳女子例を報告するとともに,胃癌との重複悪性腫瘍を統計的に観察し,カルチノイドについての一般的な概念についても触れたい.

胃の腺癌と平滑筋肉腫の同一腫瘤内共存例

著者: 山際裕史 ,   竹内藤吉 ,   大西武司 ,   稲守重治 ,   堀英穂

ページ範囲:P.1005 - P.1008

はじめに
 腫瘍が異なつた臓器に,別個に発生する場合に重複腫瘍という名称が用いられ,この場合は同一の臓器内であつても,組織学的に由来の異なる腫瘍であってもよい.同一臓器内で同じ組織源に由来するものである症例については,多発(多中心性発生)性であるとして重複腫瘍という名称を用いないのが適当である.
 胃においては多中心性発生は上皮性腫瘍の場合はさほど稀ではなく,殊に組織学的レベルでは全く独立して別個に発生している例が,腸上皮化生と関連して生ずる成熟型腺癌では,よく観察される,しかしながら,非上皮性腫瘍の場合には,リンパ網内系のものでは初期には組織学的レベルでの多中心性発生がみられても一般に非常に少ないことであるということができる.

胃毛細血管腫の1例

著者: 太中弘 ,   豊島宏 ,   尾崎憲司 ,   古川喜一郎 ,   高橋康雄 ,   田中昇 ,   松岡昭

ページ範囲:P.1009 - P.1015

はじめに
 胃の脈管性腫瘍は良性,悪性を問わず極めて稀な疾患である.われわれは胃毛細血管腫の1手術例を経験したのでここに報告し,あわせて胃の脈管性腫瘍について文献的考察を行なつた.

悪性リンパ腫様所見を呈した脂肪肉腫の1例

著者: 大波勇 ,   仁科盛章 ,   加藤嗣郎

ページ範囲:P.1017 - P.1020

はじめに
 整形外科領域の悪性腫瘍のうち骨原性悪性腫瘍はよく知られているが,悪性軟部腫瘍は比較的まれなゆえもあり,あまり注目されていないのが現実である.最近著者らはその臨床所見が悪性リンパ腫と類似した脂肪肉腫の1例を経験したので報告する.

空腸・大網等に海綿状血管腫を伴つたLindau病の1例

著者: 佐藤壮 ,   伊藤善太郎 ,   岩淵隆

ページ範囲:P.1021 - P.1024

 空腸,大網膜,S状結腸間膜,直腸月労胱窩に血管種を伴い,多彩な経過をたどつた4歳10力刀男児の小脳血管芽腫の1例を報告した.この例は発病から死亡までの1年2カ月の全経過中,3同の後頭蓋窩開頭,1回の開腹術,5回にわたる計18,100Rの60Co照射,4回にわたる脳室心房連絡術またはその手術的開通検査が行なわれた.肉眼的に全摘したと思われた左小脳半球の70gの血管芽腫は55日後ほとんど同大の腫瘍となっていた.治療により2回歩行退院したが,結局延髄,一上部頸髄の空洞状軟化が死因と思われた.おそらく60Co照射の晩発性障害と想像される.

空腸への多発性転移と思われる結腸癌の1例

著者: 徳長雄幸 ,   田中忠良 ,   渡辺浩策 ,   根木逸郎 ,   杉省二

ページ範囲:P.1025 - P.1029

 最近,結腸癌の疑いで開腹したところ,盲腸から上行結腸にかけての腫瘤のほかに,空腸に限局して,しかもskip lesionを呈して12個の輪状狭窄型の腫瘤のあつた症例を経験した.
 臨床像からは,結腸癌のそれが原発巣で,空腸の腫瘤は多発性であるというところから転移巣ではないかと考えられた.しかし,結腸癌の遠隔転移は肝臓が多く,小腸しかも空腸に限局した転移という点は解せないのである.

直腸平滑筋腫の1例

著者: 完山秀雄 ,   中村隆一 ,   岡本隆

ページ範囲:P.1049 - P.1051

 消化管の平滑筋腫は比較的稀れな疾患であるが,中でも直腸の平滑筋腫は稀有である.最近われわれは,本症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて,ここに報告する.

盲腸内へ発育した粘液嚢腫

著者: 佐藤太一郎 ,   神谷武 ,   倉橋秀寿 ,   家田浩男

ページ範囲:P.1053 - P.1057

 虫垂粘液嚢腫は,かなりの頻度で経験される外科的疾患でありながら,その術前診断の適中率は良好とはいえない.これは本疾患の疾病形態が定型的でないことも考えねばならないであろう.私どもは本疾患の特殊な形態として「盲腸内へ発育した粘液嚢腫」を経験したので報告し,本疾患の特殊型と術前診断に焦点をしぼつて文献的考察を行なう.

腸間膜血管腫の1例

著者: 千葉庸夫 ,   大沢一郎 ,   小田嶋栄作 ,   大橋映介 ,   青柳春樹 ,   石川健

ページ範囲:P.1059 - P.1061

はじめに
 腸間膜腫瘍は,後腹膜腫瘍とその起源を一にするといわれ,その構成する種々の組織により,種々の腫瘍の発生がみられる.しかし腸間膜に発生する腫瘍は比較的少なく,わが国においても散見する程度の報告にすぎない.発生する基盤としては,内被細胞,結合組織,脂肪組織,神経組織,血管系,リンパ系などがあげられ,またこれらの混合したものや,奇形腫もみられる.
 一方,開腹術後にみられることのある腫瘍として,瘢痕付近に発生する慢性炎症性腫瘤であるSchloffer氏腫瘤や,大網にみられるBraun氏腫瘤などの報告もしばしば見うけられる.

小児期における腹腔内リンパ管腫の診断と治療について

著者: 今泉了彦 ,   石田正統

ページ範囲:P.1063 - P.1071

はじめに
 腹部良性腫瘍のなかで腸間嚢腫の占める割合はきわめて小さく,大綱嚢腫,後腹膜嚢腫はさらに珍しい疾患である.
 1507年フロレンスの解剖学者Benevieni1)が剖検例で腸間膜嚢腫の1例を"anatomic curiosities"と評して紹介して以来,腸間膜嚢腫の報告は現在まで700例に充たずFlynn2)は腹部腫瘍の中で最も稀な疾患であるといつている.

脾嚢腫の2例

著者: 稲垣宏 ,   佐藤次良

ページ範囲:P.1073 - P.1075

はじめに
 脾嚢腫は甚だ稀な疾患で,本邦においては現在まで56例の報告をみるに過ぎない.我々は昭和34年に本疾患の1例を報告したが,今回またさらに1例を経験したので,前回症例の極く概略と併せて今回の症例を報告し,文献的考察を加えた.

男子乳癌の2症例(Diffusion Chamber応用による予後判定の可能性)

著者: 伊藤元明 ,   辻公美 ,   宮本宏 ,   山下久雄

ページ範囲:P.1077 - P.1081

はじめに
 1963年より1965年に至るUICCの企画にもとづく本邦乳癌調査集計によれば,女子乳癌は2727例,男子は28例となり男子乳癌は全乳癌の約1%を占めることになる.本邦においては,現在までのところ岡本13),鈴木19),荒瀬1),泉雄23)の報告および昭和43年度日本臨床外科学会総会の報告を加えて推計してみると未だ120数例に過ぎない9)22)
 女子乳癌のHormon依存性,なかんずくEstrogen依存性に関しては多くの研究,調査発表があるが,全乳癌中の約1%を占めるに過ぎない比較的稀な男子乳癌のHormon依存性に関する研究は極めて稀である.

甲状腺嚢腫穿刺液の濾紙電気泳動学的分類とその意義—甲状腺の微小癌検索に関する第2報

著者: 大西韶治

ページ範囲:P.1083 - P.1087

はじめに
 甲状腺嚢腫は,甲状腺手術例の19%程度にみられているが1)3),自験例でも最近の手術例65例中13例,20%に得ており,比較的しばしば遭遇する疾患である.甲状腺に発生する嚢腫は,原発性のものと続発性のものとに分けられており,通常みられるのは続発性嚢腫で,その原因としてColloidの鬱滞,リンパの鬱滞,出血および腺腫中心部の軟化等があげられている4).しかし実際には,嚢腫穿刺液の色調のみからはこうした成因を判別することは困難である.
 その臨床診断上の根拠としては,甲状腺上に一致した半球状の腫瘤以外にほとんど症状が無く,腫瘤の辺縁境界は比較的明瞭で,表面平滑,硬度は一様で弾性軟ないし硬,時に波動を触れ,腫瘤の周辺および頸部リンパ腺に異常所見無く,穿刺7)により液が得られること等があげられようが,こうした症例の穿刺液について,濾紙電気泳動を施行したところ,その色調に関係無く,これを3型に分類することができた.また一方,甲状腺嚢腫の自験例13例中2例に,術後の精査により癌および癌と思われる所見が得られたところから,嚢腫穿刺液の濾紙電気泳動上の分類が嚢腫の成因に関連して,甲状腺嚢腫に併存する癌の検索上にも何等かの有用性をもつのではないかと検討を加えた.

悪性甲状腺腫106例の検討—最近10年間の成績を中心に

著者: 葛西洋一 ,   石塚玲器 ,   宮川清彦 ,   田中哲 ,   長尾卓蔵 ,   明石孝幸 ,   今村文元

ページ範囲:P.1089 - P.1098

はじめに
 悪性甲状腺腫(以下本文では,広義に甲状腺癌として扱う.)は他の癌と比較すると,その臨床像は異なつた点が少なくなく,癌治療における根治手術,抗癌剤,放射線などの常識も甲状腺癌にそつくり適用するには問題があるように思われる.また手術術式と予後の関係からも根治性ということは必要であるが,必ずしも全剔をする必要があるとはいい切れない.本文は以上のことに焦点を置いて,当教室における昭和34年より43年までに取り扱つた延総数113名の悪性甲状腺腫(実数106名)につき,その臨床像を多角的に検討し,かつ現時点における我々の外科治療の方針について述べたいと思う.

小児聾唖甲状腺腫の臨床—とくにPendred's syndromeについて

著者: 渡辺岩雄 ,   柘植更一 ,   松浦清勝 ,   遠藤辰一郎

ページ範囲:P.1099 - P.1104

はじめに
 われわれはすでに小児甲状腺癌の臨床に関し,その生物学的特性について報告1)した.
 近年,幼少年期における甲状腺腫と先天性聾唖との合併はPendred's syndromeと呼称2-5)され,しかも本症候群における甲状腺腫は腺内ホルモン合成障害機序を有するとともに組織学的には悪性像を示すものがある3-5)とされ興味深いものがある.

甲状腺分化癌の未分化癌への移行について

著者: 原田種一 ,   西川義彦 ,   鈴木琢弥 ,   伊藤国彦

ページ範囲:P.1105 - P.1110

はじめに
 甲状腺癌は,組織学的に,分化癌と未分化癌の二つに大別することができるが,この両者の間には,臨床像の上からも,画然とした差が認められる.すなわち,分化癌は通常発育が緩慢であり,術後成績も極めて良好で,各種臓器に発生する癌の中でも,最も臨床的に悪性度の低いものの一つと考えられる.これに対し,未分化癌は迅速な発育を遂げ,医師を訪れたときは,すでに手術不能のことが多く,たとえ手術が可能であつても,その手術成績が極端に悪く,放射線治療により一時的に症状の改善が見られても,短期間のうちに大部分がCatastro—pheに陥る.
 しかし,甲状腺癌の中には,分化癌が未分化癌へ移行するもの,あるいは両者が混在するものがあり,臨床的にも興味ある経過をとることが多い.これらの症例については,Frantzら1)Crileら2)3), Frazellら4)Wychulisら5),藤本ら6)の報告があるが,われわれも組織学的に証明し得た分化癌の未分化癌への移行例を2例,混在例を1例経験したので報告し,同時に当院において死亡までの臨床経過を観察することのできた甲状腺癌の症例について,上記の症例と関連づけて検討し,甲状腺癌の臨床的経過とその死亡について考察した.

甲状腺癌に対するBleomycinの使用経験

著者: 原田種一 ,   西川義彦 ,   鈴木琢弥 ,   伊藤国彦

ページ範囲:P.1111 - P.1119

はじめに
 梅沢ら1)2)が,放線菌の一種である,Streptomyces verticillusより得た,Bleomycin(BLM)は,マウスのエールリッヒ癌を始めとする実験腫瘍に,すぐれた治療係数を示し,市川ら3)4)により臨床的に使用され,扁平上皮癌に著効を有することが,明らかになつた.
 我々は従来,甲状腺癌に対する制癌剤の使用については消極的であつた.甲状腺癌の大部分を占める腺癌は,組織学的には,分化の程度が高く,臨床的には,発育が緩慢であり,術後成績もまた良好であり,再発率は極めて低い.このような癌に,制癌剤を再発防止の目的をも含めてroutineに投与することは,臨床的にも問題があり,理論的にも,正常細胞と,癌細胞との,生物学的"落差"を利用する現在までに開発された制癌剤を使用することは,矛盾があつた.一方未分化癌は,正常細胞との"落差"は,充分に存するものの,臨床経過は急激であり,放射線療法が奏効するものがあるものの,大部分は,発病後,1年を経ずして死の転帰をとり,制癌剤を使用しても,経過に追いつくいとまもなかつたのが,実状であつたからである.

若年者における交感神経芽細胞腫の1例

著者: 黒川健甫 ,   神野哲夫 ,   鈴木卓二 ,   田中建彦

ページ範囲:P.1121 - P.1124

はじめに
 交感神経芽細胞腫の大多数は,乳幼児の副腎髄質或は交感神経節より発生し1),しばしば腹腔内諸臓器,特に肝,リンパ節,骨に早期に広汎な転移をきたす極めて予後不良の悪性腫瘍で,その原発巣と主たる転移巣の分布状態よりPepper2)型とHutchson3)型に分類されている.わが国においても藤吉4)(1909)以来,現在まで約100例の報告があるが,われわれは最近Pepper, Hutchson混合型と考えられる15歳男子の交感神経芽細胞腫の1例を経験したので,その概略を報告する.

充実性大網腫瘤の1例

著者: 大波勇

ページ範囲:P.1125 - P.1127

はじめに
 大網腫瘤はその多くが炎症性腫瘤,あるいは転移性のもので占められており,大網の構成組織よりの真性腫瘤は稀有といわれている.
 今回著者はX線上胃噴門癌が疑われた患者で,手術により大網の結合織腫瘤と確認した1例を経験したので報告する.

急激な経過を示した左臀部横紋筋肉腫の1例について

著者: 志村秀彦 ,   久次武晴 ,   安藤忠

ページ範囲:P.1129 - P.1134

はじめに
 横紋筋肉腫については,1925年Abrikossoffが,筋芽細胞性筋腫(Myobrasten-Myom)と名づけて以来,この疾患に,医家の関心が寄せられてきたが,我が国でも,外国と同様,非常に稀なる疾患であるので,今なお,他の悪性軟部腫瘍と同じく,その治療法および予後に関しては,確立されたる方針がない.
 今回,直接打撲が誘因となつたと考えられる左中臀筋原発の,横紋筋肉腫1例について,約3カ月にわたり,経過観察を行なう機会を得たので報告し,考察を行なつた.

外国文献

血栓栓塞病,他

ページ範囲:P.1041 - P.1048

 急性であれ再発であれ,血栓栓塞病の原因にthrom-bophlebitisに伴う感染が見出されることがある.DeTakats(Am.J.Med.Sci.184:57, 1932),Kendall(J.Inf.Dis.44:282, 1929)らが古くこれを強調している.Altemeier(Ann.Surg.170:547, 1969)は6.5年間に外科的に除去した血栓栓塞31例からL型の菌を血液培養で見出し,この基礎から,L型ないし非定型菌が血栓栓塞の重要な因子ではないかと考え,20〜29歳ごろ好発するのは大部分女性(感染流産など),45〜75歳ごろのピークは大部分男子(癌など)という事実をふまえ,L型菌発育,凝血性充進にホルモン因子が加わると考えた.臨床的には急性症18例,再発多発28例,系統循環障害4例につき,好発の性年齢とホルモン使用,外傷有無,癌有無,感染所見を精査,50例にL型を血液に培養しえ,L型菌発育の条件をたしかめ,実験的にはL型菌ことにbacteroidesが主で,血栓栓塞はendo-genousであることをみつけた.妊娠,Enovid投与はin vitroでヘパリンを阻害した.norethylnodrel添加は更にL型発育を促進することを知つた.血栓栓塞の予防はL型の作用機序をたしかめてかるべきであるという.

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第70回日本外科学会総会印象記

著者: 森安信雄 ,   坪川孝志 ,   中村三郎 ,   堀内藤吾 ,   堀原一 ,   白鳥常男 ,   水戸廸郎 ,   植田隆

ページ範囲:P.1033 - P.1040

第70回日本外科学会総会(会長 槇 哲夫 東北大教授)は今春3月28日(土)から30日(月)までの3日間,杜の都仙台市において開催された.この学会の運営にあたつて棋会長が,昨年来鋭意心を砕かれた現われが,演題の選択にも,あるいは医学会のあり方について種々論議されている昨今,「外科教育のあり方」をシンポジウムに取上げるなど総会の運営にもみられ,印象深い学会であつた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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