文献詳細
特集 腫瘍の病理と臨床
論説と症例
文献概要
はじめに
梅沢ら1)2)が,放線菌の一種である,Streptomyces verticillusより得た,Bleomycin(BLM)は,マウスのエールリッヒ癌を始めとする実験腫瘍に,すぐれた治療係数を示し,市川ら3)4)により臨床的に使用され,扁平上皮癌に著効を有することが,明らかになつた.
我々は従来,甲状腺癌に対する制癌剤の使用については消極的であつた.甲状腺癌の大部分を占める腺癌は,組織学的には,分化の程度が高く,臨床的には,発育が緩慢であり,術後成績もまた良好であり,再発率は極めて低い.このような癌に,制癌剤を再発防止の目的をも含めてroutineに投与することは,臨床的にも問題があり,理論的にも,正常細胞と,癌細胞との,生物学的"落差"を利用する現在までに開発された制癌剤を使用することは,矛盾があつた.一方未分化癌は,正常細胞との"落差"は,充分に存するものの,臨床経過は急激であり,放射線療法が奏効するものがあるものの,大部分は,発病後,1年を経ずして死の転帰をとり,制癌剤を使用しても,経過に追いつくいとまもなかつたのが,実状であつたからである.
梅沢ら1)2)が,放線菌の一種である,Streptomyces verticillusより得た,Bleomycin(BLM)は,マウスのエールリッヒ癌を始めとする実験腫瘍に,すぐれた治療係数を示し,市川ら3)4)により臨床的に使用され,扁平上皮癌に著効を有することが,明らかになつた.
我々は従来,甲状腺癌に対する制癌剤の使用については消極的であつた.甲状腺癌の大部分を占める腺癌は,組織学的には,分化の程度が高く,臨床的には,発育が緩慢であり,術後成績もまた良好であり,再発率は極めて低い.このような癌に,制癌剤を再発防止の目的をも含めてroutineに投与することは,臨床的にも問題があり,理論的にも,正常細胞と,癌細胞との,生物学的"落差"を利用する現在までに開発された制癌剤を使用することは,矛盾があつた.一方未分化癌は,正常細胞との"落差"は,充分に存するものの,臨床経過は急激であり,放射線療法が奏効するものがあるものの,大部分は,発病後,1年を経ずして死の転帰をとり,制癌剤を使用しても,経過に追いつくいとまもなかつたのが,実状であつたからである.
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