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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科25巻8号

1970年08月発行

雑誌目次

特集 縫合糸の問題点

外科用縫合糸の現況と展望

著者: 岩佐博 ,   今村憲一郎

ページ範囲:P.1165 - P.1175

はじめに
 縫合糸は現代の外科手術に不可欠のものでありながら,従来使用する外科医は比較的無造作に習慣的に取扱つて来た傾向がある.
 しかし,この方面についてもたゆまざる研究がなされ,滅菌ずみの縫合糸の生産,細い部分を縫うための非外傷性針atraumatic needleつき縫合糸の出現はやがて,多くの部分を縫う針つき糸への製造まで種々の工夫がなされて来ている.

私どもの手術用絹糸の整備

著者: 馬越正通 ,   白木琴江

ページ範囲:P.1179 - P.1180

 私どもが現在使用している手術用縫合絹糸の整備の仕方は,古く塩田広重先生によつて開発され同門の方々によつて改良されながら受けつがれて来た方法によるものである.私どもの教室では昭和10年(1935年)斉藤教授の就任以来今日まで多少の変化はあつたかも知れないが,原法が踏襲されている.最近は本法に準じて加工された便利な市販品の出現をみている(第2,3,7図).しかし,この使用に当つても整備の段階を心得ていることが肝要であると思われる.また原糸(第1図)から始めてみても左程六ケ敷しい方法でもないので,原法に従つて順序よく記載してみる.それぞれのところで整備しておくと便利でもあり安心でもあると思う.
 整備の骨子は,原糸から始まつて,その脱脂・滅菌・洗浄・保存にあつて,最後に使いやすいように整頓しておくことである.

腸線と合成糸の得失

著者: 島文夫

ページ範囲:P.1181 - P.1186

はじめに
 縫合糸,結紮糸は手術に欠くことのできない材料の一つである.歴史的にみても,出血や創傷の処置に縫合材料surgical suture materialが用いられたのは紀元前からのことである.
 腸線(surgical catgut)は,西暦200年頃から存在したらしい.1840年頃,腸線は優れた縫合材料として強調されてはいるが,無菌思想がおよばず,感染の問題が解決されなかった.1860年代,無菌手術を始めたListerによつて腸線が用いられたが,感染の問題は満足すべき結果が得られなかつた.Listerはまた,クロム酸に浸漬して吸収の遅い腸線をも使用した.これが現在使用されているクロミックカットグット(chromic catgut)の初めであろう.

心臓・血管外科用縫合糸

著者: 松本昭彦 ,   和田達雄

ページ範囲:P.1187 - P.1191

はじめに
 外科縫合糸はその歴史を外科手術と同じくし,動物の毛,種々の植物繊維からはじまり19世紀の末に絹糸を使用することが一般的となつた.その後多少の問題はあるにしても,絹糸の外科縫合糸の中に占める位置は確固不動のものにみえたが,20世紀半ばをすぎる頃より合成繊維が登場し,絹糸の地位をゆるがし,あまつさえ心臓,血管外科の発達がこれに拍車をかけることになつた.とくに心臓や血管に人工代用物を移植したり,細小血管を吻合するさいの合成繊維のもつ優秀さは,この方面の外科の発達を裏から支えたといつても過言ではない.しかし一方において,絹糸のもつしばりやすさ,扱いやすさは捨てがたく,合成繊維との優劣はにわかにはつけにくい.
 今回は外科縫合糸を血管・心臓外科領域に限り,われわれが日常使用しているものにつき,その種類と特徴をのべ,いろいろの角度から検討してみたい.

形成外科用縫合糸について

著者: 長田光博

ページ範囲:P.1193 - P.1197

Ⅰ.形成外科手術の目的と特徴
 形成外科医を標榜する以上,その手術後の瘢痕は他科にくらべきれいでなければならぬという宿命を背負つている.そのためには,手術の綜合計画,デザイン,手技,使用器具,縫合材料,後療法の全般にわたり,正確に合理的に行なわれる必要がある2).本稿では主として,われわれの日常用いている形成外科用縫合糸について述べたい.
 われわれの行なつている外科手術で創縁を縫合接着させたり,出血部位を結紮することは,日常のことなので,縫合手技,材料について十分検討を加えることなく,習慣的に1つの材料,方法にたより,特に注意をはらうことは少ない.

縫合糸の放射線滅菌

著者: 佐藤健二

ページ範囲:P.1199 - P.1203

はじめに
 医療用具のデイスポーザブル化の発展とともに,手術用縫合糸の分野にもこの影響はあらわれ,針付の滅菌済製品の需要がたかまりつつある.このためもあつて,縫合糸類の滅菌に関する研究もさかんになり,従来の加熱法および,化学薬品を用いる方法の他に,最近ではわが国においても,各種医療用具の放射線による滅菌の実用化がさかんに検討されはじめ,縫合糸の滅菌にも,放射線を用いようという動きがみられる.
 海外におけるこの放射線滅菌法の動向についてみると,1953年に,アメリカのエチコン社において,腸線縫合糸の滅菌にはじめて用いられてから,ヨーロッパにおける研究もさかんになり,1960年に,ウオンテージ研究所,1962年に,ジョンソンズエチカル・プラスチック社というように,滅菌施設が作られ,現在では,冷滅菌法の代表的方法の一つとまでいわれるようになり,各国に施設(そのほとんどがコバルト−60r線照射施設)がもうけられ,デイスポーザブル医療用具全般にわたつて,多くの量が実際に滅菌されており,わが国においても,放射線滅菌ずみの輸入製品が目にふれることがある.本稿では,今後,わが国においても実用化の可能性がたかくなつてくると思われる放射線滅菌法の概要にふれ,縫合糸の滅菌への,本法の導入の可能性についてのべる.

縫合糸の滅菌法

著者: 藤岡一郎

ページ範囲:P.1205 - P.1210

いとぐち
 忌むべき術創感染の一つとして,縫合糸に起因する感染症が挙げられている1,2,3).別の稿で筆者が問題を提起4,5)したように,縫合糸が感染(化膿)を起こす可能性は,その品質と滅菌・消毒法および取扱いの方法に密接な関係を有する.
 縫合糸を滅菌または消毒するために,従来,種々の苦心が払われているが6,7),わが国の病院では未だ統一的な決め手が持たれていない.特に注目すべきことは一般に,諸外国においては編み糸を用いて蒸気滅菌が実行され,わが国の多数の病院では撚り糸が用いられ煮沸消毒で済まされていることである.

カラーグラフ

ムチうち症の知見補遺

著者: 渋沢喜守雄

ページ範囲:P.1144 - P.1145

ムチうち症患者の愁訴は医学的にあくまで精査すべきである.広い視野に立つて,あらゆる方法で調べられれば,そこに多くの場合,何らかの異常を見出しうる.しかしそれは決して人体実験であつてはならぬ.患者が自発して「私のこのシビレを顕微鏡でしらべて下さい」という位の患者の信頼を博し,それに応えうる研究上の自信をもたなくてはならぬ.

グラフ

乳腺疾患のX線検査による診断

著者: 高橋勇 ,   井上善弘 ,   林和雄

ページ範囲:P.1147 - P.1150

 乳腺疾患,とくに乳癌の診断におけるX線検査は,古くより行なわれ,1913年,A.Salomon以来,多くの研究が相次ぎ,現在では,ほとんどルーチン化した検査法といえる.本検査法の主体は,乳腺単純撮影としてのマンモグラフィーであるが,特殊なX線検査として,ゼロラジオグラフィーや気体あるいは造影剤を使用して撮影する方法などがある.
 われわれは,各種の乳腺疾患の診断に,種々なX線検査法を応用しているが,ゼロマンモグラフィーを主に利用しているので,これを中心に,乳癌,乳腺症,乳腺線維腺腫,女性乳房など,乳腺の各種疾患にわたつて,その実際のX線像を示すとともに,読影上,誤診をした症例をも,あえて供覧してご参考に供したいと思う.

外科の焦点

顔面神経外科の現状

著者: 森本正紀

ページ範囲:P.1151 - P.1160

 今秋9月27日から30日までの間,大阪で顔面神経外科の国際シンポジウム(International Sy-mposium on Facial Nerve Surgery)が開かれる.その故もあつてか,顔面神経外科とは何のことか,との問い合わせが最近頻々として舞い込む.本誌編集部からの求めも同趣であつたと惟う.この度の国際シンポジウムの主題をみると,顔面神経外科の現状の一端がうかがわれると思うので,同会議で取り上げられるmain subjectを先ず紹介し,簡単な説明を付記する.

論説

超音波洗浄器による手術前手指洗浄法の研究

著者: 守屋荒夫 ,   田村重宏 ,   市川忠次

ページ範囲:P.1213 - P.1218

はじめに
 手術手技の向上と,抗生物質の進歩により,手術創の感染はいちじるしく減少してはいるが,手術前の手洗いは,今日でも必須条件として日常実施されている.しかも,その方法は,消毒石鹸の改良にともなつて,若干の変革こそ加えられたものの,約80年前に,Fürbringerの提唱した,ブラシ洗浄が,原理的には全く変更されずに行なわれているのが実状であつて,洗浄には少なくとも5〜10分は必要であり,またこの手洗い法に習熟しているか否かと,手洗いそのものにたいする注意力の如何によつて,洗浄効果の個人差を生ずることはさけられない.
 われわれは,器械・器具類の洗浄用に開発された超音波洗浄装置を用いて,たまたま哺乳瓶を洗つていたところ,目盛りにつけていたエナメル塗料が剥脱することや,液内に入れた手の汚れが除去される点に着目し,消毒石鹸液内に超音波を発振して,その中に手を浸せば,手術前の手指洗浄ができるのではないかと考えた.

食道胃接合部機能よりみた特発性食道拡張症に対するHeller氏手術切開線の範囲について

著者: 平島毅 ,   佐々木守

ページ範囲:P.1221 - P.1226

はじめに
 特発性食道拡張症は機能的な食道の食物通過障害を主訴とする疾患で,その病因はまだ不明である.従つて良性の食道疾患ではもつとも多いにもかかわらず,その治療法は確立されていない現状にある.現在内科的療法には殆ど希望はもてず,主として外科的療法が行なわれているが,これにも種々の術式があり,各々の術式に一長一短があり決定的なものはない.中でもHeller氏法は手術が安全で簡単なことより広く好んで行なわれている術式である.過去22年間に教室で172例に各種の術式を行ない,そのうち20例にHeller氏法を行なつた.これらについて術前術後の食道内圧検査および遠隔成績より筋切開の範囲を検討したので報告する.

手術用縫合糸に関する考察

著者: 藤岡一郎

ページ範囲:P.1227 - P.1234

はじめに
 日本製の手術用縫合糸を欧米諸国で作られている製品と較べると,品質が明らかに劣るという批評が高い.実質上どの程度の差があるのか,また何故そのような差異が生れてきたのであろうか?検討を加えてみると,数多くの問題点が浮び上つてくる.
 国産の縫合糸を吟味すれば,品質にバラツキの甚だしいものがあり,例えば,同じ番号の糸であつても太さにムラのあるものや,抗張力の異るものが多く,また,時には感染(化膿)を起しやすい糸も混入しているのが実情であるという1)

学会印象記

第7回日本小児外科学会

著者: 守屋荒夫

ページ範囲:P.1238 - P.1239

 今年の第7回日本小児外科学会は5月10日,11日の2日間,仙台市で開かれた,春のおそい仙台には会期中冷たい雨が降りつづいたが,学会内は例年にもまして活気にあふれていた.
 学会第1日は会場が四つにわかれ143題の一般演題の後に,Duhamel博士の特別講演と,「小児外科学会のあり方」についての討論会が行なわれ,第2日は講演は1会場にしぼられ,18題の演題と,Young博士の招待講演および今回の学会々長である東北大学葛西森夫教授の会長演説が行なわれた.

患者と私

ある対話

著者: 杉江三郎

ページ範囲:P.1240 - P.1241

□外科医の経験
 ある日こんな会話がかわされる.必ずしも私でなくとも,ひとりの外科医Aと第三者Bとの対話である.
 B——外科のお医者さんにはずいぶん上手,下手があるんでしようね.10年も20年もやつた経験のある人と,卒業間もない新米とでは雲泥の差があるんじやないですか.

海外だより

アメリカの学会から—Advice to the Program Participants

著者: 出月康夫

ページ範囲:P.1242 - P.1245

 最近,学会が多すぎる,面白くないという話が若い連中の間でよく出る.学会に出かけても会揚に行くのはごく僅かで,観光や休養に終始したということも多い.学会のあり方が問題にされる機会も多くなつてきた.
 学会が面白いとかつまらないとかいう議論は,何をその価値判断の基準にするかによつて異なり,多分に個人の主観によるので,必ずしもその評価が当を得ていない場合も多い.しかしながら,学会が医学の進歩を目的として存在している以上,その本来の目標に向つて効率よく運営されているか否かは,常に反省されていなければなるまい.

外国文献

癌と糖尿病,他

ページ範囲:P.1246 - P.1249

 Kessler(Lancet, 1:218, 1970)がMassachusetts州26年糖尿病クリニックで登録21447糖尿患者では,癌死は男子糖尿が女子糖尿より15%低く,Jewishは癌死17%,generalは5%という性差,人種差を示した.Jewと糖尿患者を比較すると胃・性器癌以外,すべての癌が同じ程度にあらわれる.Jewish diabeticsとnonjewishとでは男で癌死に15%の差がある.環境のみならずgenetic factorが考えられる.糖尿病になりやすいX-linkedのrecessive genetic traitは男子では癌susceptibilityが低い.糖尿病はJewにたしかに多い.Jew男子は他宗教人種より癌死が有意に高い(女子は違う).米国ではNegro男子は白人男子より癌死が低い.American jew,israeli,negro,Massgenera14人類男子では糖尿病と癌とは逆相関にある.これはG-6-PDと関係があると考えられる.G-6-PDはhexosemonophosphate (HMP) shunt (発癌の間にactivateされる)に重要だが癌ではHMP shunt↑,G-6-PD↑,insulin↑,糖尿病ではHMP shunt↓,G-6-PD↓,insulin↓.この事実は一般にみとめられる.

講座

消化器疾患の手術—C.救急を要する消化器疾患

著者: 川俣建二

ページ範囲:P.1255 - P.1264

 腹部に急激なる疼痛をもつて現われる急性の疾患群をacute abdomen(急性腹症)と称している.これら一群の疾患は救急処置を要するもので,臨床上重要なものである.
 先に術前術後の管理で述べたようなroutineな検査を行なつている余裕はなく,緊急に手術にもつてゆかなければならない状況にあつたりして,診断のための検査も,術前の検査も限られた範囲内にとどめなければならないことがしばしばである.

症例

石灰化慢性硬膜下血腫の特異な1症例

著者: 木下和夫

ページ範囲:P.1267 - P.1272

はじめに
 硬膜下血腫が吸収されず長期間頭蓋内にある場合骨化または石灰化することは稀ではあるがよく知られている.しかしそれらの症例報告には急性硬膜下血腫が完全に吸収されず,石灰化,骨化を示した症例と思われるものも多い.このような例の多くは板状のもので,慢性硬膜下血腫の嚢腫被膜の石灰化症例は少ない.著者は約20年にわたる経過を有し,頭蓋骨の変形と,被膜の広範な石灰化を伴ない,内容には赤血球を多数含有するという特異な?腫性慢性硬膜下血腫の症例を経験したので報告する.

横隔膜より発生したデスモイドの1治験例

著者: 友寄英雄 ,   田中英輔 ,   猪口嘉三

ページ範囲:P.1275 - P.1278

 横隔膜腫瘍の中でも,デスモイドは稀なものとされている.欧米,本邦を通じて,その報告例はきわめて少ない.最近,私共は,本症例を経験したので,2,3の文献的考察を加え,ここに報告する.

胃直視下生検の微小早期胃癌に対する診断価値

著者: 鈴木卓二 ,   石井良治 ,   大槻道夫 ,   比企能樹 ,   深見博也 ,   吉野肇一 ,   樋口公明 ,   荒井良 ,   西田一己 ,   丸山圭一

ページ範囲:P.1281 - P.1286

 近年胃疾患診断技術の著しい進歩により早期胃癌の発見率は次第に向上している.しかし現在なお胃癌手術の大多数は進行癌で,その根治率を考える時決して満足すべき状態ではない.慶応病院において昭和39年から42年までの期間に402例の胃癌手術を行ない,その内早期胃癌はわずか44例であつた.それ故今後とも癌発生の原因究明に一層努力すると同時に,いわゆる"早期発見,早期治療"に心がけねばならない.
 慶応義塾大学病院および国立栃木病院において昭和39年1月より昭和44年9月までの約5年間に133例の早期胃癌を手術した.この内長径10mm以下のきわめて小さな早期胃癌(以下微小胃癌)は6例であつた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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