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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科26巻1号

1971年01月発行

雑誌目次

特集 これからの外科

癌の化学療法の進歩—制癌剤—手術との併用療法

著者: 近藤達平 ,   市橋秀仁

ページ範囲:P.69 - P.77

 近年外科手術の技術や患者の術前術後処置また早期診断技術が非常に進んできたが,癌の治癒率は胃癌の手術成績の統計をみても,この20〜30年間あまり進歩しているとは思われない.第1表は1930年頃の手術例の5年生存率と1960年頃のそれとを比較したものである1-7).すなわち癌患者が外科手術によつて一時的によくなつても長期生存が延びない理由は,癌は普通診断が確定された時にはすでに全身的疾患となつているからと思われる.外科手術も放射線療法も局所療法であつて原病巣はたとえなくなつても遠隔病巣が残つておりこれが再発して死因となるからであろう.それ故にもつとも合理的な方法は外科手術に併用して全身を対象とした療法,すなわち化学療法,あるいはホルモン療法・免疫療法等を行なうことであると思われる.

癌の放射線療法の進歩

著者: 御厨修一

ページ範囲:P.79 - P.86

はじめに
 従来のエネルギーの低いX線治療の目的は,大部分が姑息的な療法としての効果に対するもので,その評価も重要なものではなかつた.しかし今日の癌の治療に対する放射線治療の役割については,癌の治療の主流を占めていた手術にも劣らぬ程の評価がなされるようになつてきた.それは放射線治療技術その他の進歩により,放射線治療が容易になり,治療効果もあがつてきたためであるという事ができよう.

癌の免疫療法の可能性

著者: 石橋幸雄

ページ範囲:P.87 - P.92

はじめに
 癌に対する免疫療法は可能か,という設問をしてみた場合,それは実に古くからとりあげられていたものであり,その実証と称するものにはいくつかのおとし穴のあつたことにふれることのほうが,まず自然のようである.
 癌研究の根本的問題は,癌細胞が癌の予防や治療につながる何らかの特徴をもつているかどうかということであろう.これに対して,いろいろのアプローチがあり得るが,1950年代にはじまる近代腫瘍免疫学は,かかる特徴の一つが,癌の特異抗原(抗移植抗原—TSTA)の形で代表されることを確実に示したといつてよかろう.

癌の手術療法の進歩—とくに早期胃癌,小胃癌の手術について

著者: 西満正 ,   関正威 ,   山野辺孝雄 ,   堀雅晴 ,   霞富士雄 ,   菅野武

ページ範囲:P.95 - P.105

 癌の診療にたずさわるものにとつて,癌はどうしてできるのか,癌とはどんなものか,癌はどうしたらもつともよく治すことができるのかという第一義的な命題は一生涯つきまとつている.
 癌の克服には癌の発生を予防することがもつともよいことに異論はなかろう.癌の予防の面では,放射能汚染や,あまたの公害をもたらしている近代文明はむしろ癌の発生を助長するものであろう.動物における発癌実験では,化学物質,ウイルス,ホルモン,放射性物質などいろいろな原因が発癌に関係していることが明らかにされてきた.そして癌化の本質的な追求は,超微細構造,酵素pattern,分子生物学などの分野でいろいろな新しい知見を生みだしている.

臓器移植の現状と将来—特に腎移植を中心に

著者: 四方統男 ,   松井喜昭 ,   岡隆宏

ページ範囲:P.141 - P.147

 1970年代,急速に進歩する医学は「臓器移植」であるといわれる.心臓であろうが,腎臓であろうが,取り替えができれば"不治の病気"はなくなる.そして人工心臓,人工腎臓,人工肝臓など人工臓器が完全に代役を果たす"人間改造の時代"へ….だが,現実はまだそこまでいつていない.臓器移植の前には"拒否反応"という厚い壁が立ちふさがつている."最高の治療"といわれる移植ではあるが,文字通り"最高"になるには,この拒否反応など医学上の難問はもちろん人道・倫理上でまだ解決しなければならない問題が多くある.
 腎を中心に,心臓,肺,肝臓,血管,神経,角膜,骨髄,骨など臓器のほとんどの移植が試みられすでに骨や血管,角膜,神経などの移植は大きな成果を上げ,ある程度一般化されてきた.しかし,いわゆる臓器移植,腎臓や心臓などの移植は,腎臓を除いてほとんどがテクニック的に成功しても,思うように長期間生存させ得なかつた.昭和42年12月3日南アフリカのバーナード博士が心臓移植を行なつて以来,連続して世界中で実施されたが,今年にはいつて,この心臓移植も世界的にストップしている.肝臓や肺,すい臓なども,一応実施はされたが,いまは中止状態にある.いずれも症例も少なく,生存率も低く,成功といいうるほどのものではない.例えば膵臓移植についてみると,

外科における医用電子と生体工学

著者: 渥美和彦

ページ範囲:P.149 - P.157

I.医用工学の現状
 最近,学問の分野は多様化するとともに,境界領域の学問が拡がりつつある.この中に,Bio-Medical Engineering(M.E.)という分野があるがこれは医学と工学との境界で,医用工学とよばれている.数年前にM.E.が研究されたときは,Medical Electronicsといわれ,工学の分野としてはエレクトロニクスが主体であつたが,現在では,エレクトロニクスの他に,メカニクス,光学,材料などが含まれ,この分野も一段と複雑になつている.つまり,医用工学の中には,Medical Electronicsの他にBiomechanics,Medical opto-electronics,Bio-materialなどが含まれることになる.
 現在,医用工学の領域で研究されているものはきわめて多いが,これらは 1)生体計測,2)生体刺激,3)生体機能の代 行,4)生体情報の処理,5)医用システム工学, 6)その他に大きく分類されることになる.

座談会

これからの外科医と外科教育

著者: 牧野永城 ,   内山八郎 ,   村上治朗 ,   熊谷義也 ,   斉藤淏

ページ範囲:P.24 - P.44

 医学教育の重要性,医療制度の再検討が叫ばれ,外科分野においても外科医の卒後教育や臨床研修をめぐつて,若手医師・医学生の改革を求める活動の活発化とともに,ますます今日的な課題となりつつあります.外科教育を考えることは単に外科の分野にとどまらず,日本の医療事情と制度を考えることへと結びついていくものですが,今回は今までさまざまに論議されてきたことを踏まえて,主としてこれからの外科医の在り方,卒後の臨床研修,専門医制度および外科医と社会との関係などについて,卒直な話し合いをしていただきました.

外科領域における診断法の進歩

消化器系—食道・胃・大腸の早期癌を中心とした内視鏡診断

著者: 遠藤光夫 ,   市岡四象 ,   長廻紘

ページ範囲:P.107 - P.115

はじめに
 最近各分野における診断法の進歩はめざましいが,その中でもとくにファイバースコープを中心とした内視鏡検査の進歩は著るしく,早期癌の診断に有力な武器となつている.以下食道,胃,大腸における内視鏡検査の現況の一部を紹介,自験例を主として早期癌についてのべてみたいと思う.

肝臓・胆道・膵臓を中心に

著者: 石川浩一 ,   菅原克彦 ,   田島芳雄 ,   黒田慧

ページ範囲:P.117 - P.130

はじめに
 この領域の外科的疾患の治療効果は胆石症をのぞいては依然として低く他の管腔臓器のそれに較べることもできない現況である.疾患の起源臓器の特異性から進行した患者の訪医から診断および治療のプログラムをたてざるをえないことに原因する.しかしretrospectiveには不定の消化器症状はほとんど例外なく認められるので,これらの解析から補助診断法を駆使する足がかりをえて早期における発見もやがて可能となつてくるであろう.本稿ではこの領域の外科的疾患による形態学的変化を捕捉するために最近駆使される診断技術と診断精度向上への歩みや,手術時における胆道系の病態把握の現況などに焦点をおいてのべる.

心臓,血管系を中心に

著者: 杉江三郎

ページ範囲:P.133 - P.139

はじめに
 治療医学における診断法の目標にはふたつの面がある.ひとつは疾患に伴なう変化や病態を適確にとらえる正確度,つまり信頼性の高い方法であること,および第2は安全で患者に負担や苦痛を与えない方法であること,のふたつの条件が満されなければならない.
 しかもこれら第1条件,第2条件ともどちらが優先するかの問題ではなしに,このふたつを同格に満足するものと考えるのが正当であろう.

カラーグラフ 交通外傷シリーズ・1 腹部外傷の臨床

Ⅰ.肝破裂と脾破裂

著者: 須藤政彦

ページ範囲:P.8 - P.15

 腹部外傷の中でも交通外傷はとくに損傷の様相が多彩であり,1例ごとに損傷の状況が異なっているといっても過言ではない.腹部外傷診療は腹部外科学の応用問題に過ぎないのであるが,重症例の緊急手術を沈着になしとげるには腹部の解剖,生理,手術手技の知識をいつでも直ちにとり出せるように整理しておくことはもちろん,1例ごとの経験の積み重ねもまた重要である.臓器によっては1例をもって代表することが困難なものが多いため,限られた紙面になるべく多くの症例をとりあげて図説を試みることにする.

グラフ解説

交通災害腹部外傷—Ⅰ.その特殊性と開腹要否診断

著者: 須藤政彦 ,   伊藤隆雄 ,   今村洋二 ,   礒良輔 ,   原科孝雄

ページ範囲:P.17 - P.22

 交通災害死亡者数は年ごとに増加の一途をたどつている.そしてそれに何10倍かする負傷者数も逐年増加しつつあるわけである.腹部外傷は諸統計によると全外傷の1〜4%を占めるに過ぎないとはいえ,救急病院における交通災害腹部外傷の取扱い数は次第に増加し,関係学会での腹部外傷の演題も年々その数を増しつつある.このような現況にあつて,交通救急を標榜するわれわれの病院における腹部外傷の概略を述べることも無意義ではないと考える.

外科の焦点

Polysurgeryの臨床的問題

著者: 渡辺晃

ページ範囲:P.49 - P.66

 戦後25年間の外科の進歩はめざましく,臓器移植も可能になり腎移植はもちろんのこと,心臓移植も成功するようになつた.このような進歩の陰には,全身麻酔の研究,水分電解質代謝の究明,各種抗生物質の開発,免疫学の進歩等におうところが大である.外科は内科とは異なり診断的なものより,むしろ治療が主である関係上,とにかく医学の各分野において究明されたことを実践にうつしてこのようにめざましい進歩をとげ得たものと思う.
 しかしながら最近はその質的発展はあまり見られなくなり,反面その反省期にきているのであろう.最近の文明開化と共にすさまじい勢いで発展した工業生産の陰に公害の問題が論じられるようになつたごとく,医学の分野においても,どうやら手術によつてもたらされたいろいろな愁訴を振り返つてみる時代にきたのではないかと思う.十数年も前から手術に伴う各種の愁訴は取り上げられてはきたものの本当には問題にはされなかつたのである.

境界領域

動脈硬化症,高血圧症患者に対する手術

著者: 林四郎

ページ範囲:P.161 - P.169

はじめに
 患者にとつても,また外科医,麻酔医にとつても,手術を受ける生体ができるだけ良い状態にあることが望ましいことには異論はないが,現実にはそのような都合のよい条件下の手術ばかりを期待することはできない.今から20年ぐらい以前,筆者が外科医の1人として歩み出した当時,胃切除術など,上腹部の手術もほとんど腰椎麻酔の下で行なわれていた時点では,術中の管理も不十分であつたし,輸液材料も生理食塩水,リンゲル液,5%ブドウ糖液が主体であり,また降圧剤や速効性のヂギタリス剤も入手し難い状態であつたため,重症な動脈硬化症や,高血圧症を合併していた患者に対する手術は敬遠され,今日では根治手術が当然可能であつたような症例に対して,姑息的な治療を行なうことに止まつたことも決して稀ではなかつたことを今日でもよく覚えている.これに対して,これらの異常に対してあまり危惧の念も抱かれずに手術が行なわれている現状を眺めていると,文字通り今昔の感に耐えない.しかしここで十分に考えていなければならない点は手術後の病態は原則的には20年前と今日との間で特別な違いがないということであろう.

最近の麻酔

最近の新しい麻酔剤

著者: 田中亮

ページ範囲:P.173 - P.180

ケタラール®(Ketala®®)
 エポントール®(Epontol®)

講座・1【新連載】

腹部外科と動脈撮影—Ⅰ.外科的にみた動脈変異

著者: 鈴木敞 ,   川部克己

ページ範囲:P.181 - P.189

はじめに
 血管の走行や分枝の変異に関する研究は,もつぱら解剖学者の手にゆだねられてきた分野であつた.足立1)やMichels2)による古い著書が,手術にたずさわる外科医にとつて,しばしばバイブル的な役割を果してきたことは周知のごとくであるが,とくに近年悪性腫瘍に対する拡大根治手術や動脈内薬剤注入法が普及するにつれ,動脈変異の問題は外科的に一層密接な課題となつてきた.
 一方,最近の大動脈分枝の選択的造影法の普及は,今までアトラスの上での存在でしかなかつたこれら動脈の全貌をフィルム上にきわめて明解に描出することを可能とした、本法により,各症例ごとに,術前に血管の走行を容易に把握できるようになつたことの意義は,はかりしれないものがあろう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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