文献詳細
手術手技
文献概要
肝切除は,腹部外科を取り扱う者にとつて膵頭十二指腸切除またはそれ以上に経験してみたい手術の1つであろう.しかし何ぶん症例の数が限られており,練達の域に達することは不可能に近い.したがつて外科医はほぼ例外なく経験不足で肝腫瘍にたち向わなければならず,もしも出血が制御できなければ患者の死はほぼ確実に目前にあるというジレンマ〜宿命を背負つていることになる.したがつて執刀者の気持としては,ろくに泳げないものが飛込台の最上段から飛び込むような恐怖感と緊張感に駆られるものである.ことに肝の右葉切除ではしかりであり,外科医,麻酔医,手術室看護婦の一体となつた高いレベルの協調,および輸血と術後管理に関する病院の態勢も大きく関係する.国立がんセンターで経験された症例は幸いにして小児肝がんだけでも開院以来12例であり,試験開腹または肝動脈挿管のみに終つた3例を除けば全例に肝切除が行なわれているが,約8年前の第1例のstormyな手術経過は今なお関係者の脳裡に焼きついており,最近の症例ですら術前術中の執刀者の精神的な負担は巌のごとく重いものである.
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