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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科26巻12号

1971年12月発行

雑誌目次

特集 胃癌根治手術の問題点 Ⅰ.胃癌の病像と切除範囲,術式の選択について

漿膜浸潤と手術侵襲の程度

著者: 井口潔

ページ範囲:P.1847 - P.1849

 胃癌において漿膜浸潤の程度と手術侵襲の範囲とが問題にされるのは,s3,すなわち,他臓器浸潤の場合に集約されることになろう.教室昭和39〜44年の6年間の胃癌症例746例についての集計によると,漿膜浸潤の程度と予後との関係は第1表に示すように,その5年生存率はs0−83.3%,s1−71.6%,s2−47.5%,s3−9.9%であり,漿膜浸潤の度合いが進むと予後は悪くはなるが,s2でも50%近い5年生存率であるから,s2までのものは当然のことながら,できるだけR3の手術を行なうように努めるべきであろう.ここで私はR3の手術といつたが,R2かR3か,つまり,R3の手術をroutineとして行なうだけの意味があるかどうかについては,研究者により必ずしも意見は一致していないかもしれない.しかし,教室の成績によると,第2表のように,治癒切除例では絶対的治癒手術は相対的治癒手術よりも良好な成績であるので,とくにS2の症例ではn2までの転移を示すことが多いので,n2までの郭清はroutineに行なうべきと考える.

胃癌の進展度および腫瘍の占拠部位による切除術式の選択—リンパ節郭清を中心として

著者: 間島進

ページ範囲:P.1851 - P.1854

はじめに
 近年における外科学ならびにその関連領域の長足の進歩により,胃切除術はきわめて安全な手術となつた.その結果,「癌に対する根治手術の原則である癌病巣のより完全な除去」を企図して,切除ならびにリンパ節郭清の範囲の拡大への努力がなされ,現在ではその極限にまできている.胃癌切除標本の検索成績あるいは胃切除後の遠隔成績ならびに再発例の検討などからは,この手術侵襲の拡大の必要性は肯定される.しかし,「手術侵襲の拡大をどの程度にするのが妥当か」ということになると,なお多くの問題が残されている.
 今回,本誌の特集として「胃癌根治手術の問題点」が取上げられ,胃癌深達度とメスを加えるべき範囲の関連において,下記の3つの問題についての執筆を依頼された.これらの問題については著者らによりしばしば報告されているので,詳細は原著を参照されたい.本論文では,紙面の関係もあり,これまでの検索成績をもとに,次の問題に対する私の考えを記述するにとどめた.

胃癌の病像と切除範囲の問題点

著者: 大森幸夫 ,   浅井正典 ,   藍沢修 ,   石橋清 ,   金井朋行

ページ範囲:P.1855 - P.1862

はじめに
 胃癌の手術成績は最近著しい向上を示してきた.すなわち,全切除例の平均5年生存率は30%台となり,ことに治癒切除例の平均5年生存率は各施設ともおおむね40〜50%という値を示すようになつた12)13)16)19)20).この理由としては,①早期胃癌が5年生存率の検討対象に入つてきたこと,②リンパ節郭清の概念の普遍化,③術後化学療法の施行,などが挙げられよう.しかしながら,外科手術の対象となる胃癌の大半は深部浸潤を伴う進行癌であり,それらの示す複雑多岐な病像は胃癌根治手術において今日なお多くの問題を提起している。周知のごとく,粘膜面に発生した胃癌は,胃壁に対して水平方向と,垂直方向との2つの浸潤型式が組み合わさり複雑な立体的発育を示してくる.Stout26)のいうSuperficial spread-ing typeは前者の極型であり,井口5)らのいうPen型小胃癌は垂直方向の浸潤Potentialがとくに強調された型であろう.

Ⅱ.胃癌拡大根治手術の限界について

S1以上の症例に対する拡大根治手術R3はどのような意味をもつか?

著者: 田中早苗 ,   岡島邦雄 ,   藤井康宏 ,   中川潤 ,   河合達 ,   曾我部興一 ,   竹下篤範 ,   荒木京二郎 ,   戸谷完二 ,   寺田紘一 ,   石川純

ページ範囲:P.1863 - P.1867

緒言
 このテーマの出題の意図は,漿膜侵襲のある進行胃癌にたいし,R3という手術侵襲の強い拡大根治手術(広範リンパ節郭清)を行なつた場合その限界があるならば,胃癌の予後を左右する因子であるn-factor(リンパ節転移程度)とs-factor(胃壁内深達度)のどちらが強い影響をおよぼすか,また,漿膜侵襲のすでにある胃癌に手術侵襲の大きな拡大根治手術を行なつても効果があるかどうかを検討してみようという意図であろうと解釈してこれらのことについて述べてみたい.
 まず,n-factor,s-factorの根本を考えてみると,胃癌の手術を行なうに際して外科医はリンパ節郭清を,第3群リンパ節の範囲まで行なうことはできるが,漿膜侵襲はすでに決められたものであつて,外科医が変えることのできないものである.この外科医の力がおよびうるn-factorと,いかんとも変えがたいs-factorの2つを治癒切除という範囲内でその予後を比較してみると,各段階における5年生存率の傾斜は壁深達度因子の方が急峻である(第1,2図).

全身状態からみた手術禁忌を中心に

著者: 石川浩一 ,   草間悟 ,   玉熊正悦 ,   古山米一 ,   野村和成

ページ範囲:P.1869 - P.1873

はじめに
 外科的疾患の治療において手術を行なうべきか否か,また手術を行なうときにはどの程度の手術を行なうべきかは,治療の対象となる疾患に対する手術の適応と,その疾患をもつている患者における手術の禁忘という,2つの相反する立場のバランスの上にたつているということができる.胃癌の根治をめざして手術範囲が拡大されつつあるにもかかわらず,胃癌の手術によつて直接死亡する症例がきわめて少なくなつていることはよろこびにたえないが,今日でもなお胃切除術後の合併症によつて死亡するものが絶無でないことは事実である.
 わたくしたちは東京大学第1外科において手術された胃癌患者における重篤な術後合併症および術後死亡に検討を加え,われわれの方針を反省し,胃癌根治の禁忌について論じたい.

単発肝転移をどう取扱うべきか

著者: 陣内伝之助 ,   東弘 ,   伊藤英太郎 ,   野口貞夫 ,   星野嘉明

ページ範囲:P.1875 - P.1879

まえがき
 胃癌の治療成績向上のためには,早期発見が重要なことは論をまたないが,進行胃癌がなお減少の傾向をみせない現在にあつては,進行胃癌の治療方法を探究することはわれわれ外科医にとつてきわめて重要な問題である.そのためには手術そのものの限界打破に努めるとともに,制癌剤・放射線・免疫療法などの併用療法を駆使することもまた重要である.
 胃癌の進展にはいろいろな因子が関与している.すなわち,漿膜侵襲から続発する他臓器への直接浸潤,腹膜播種,あるいは血行性・リンパ行性転移である.これらの予後を左右する因子が複雑に組合わさつた胃癌に対して,根治をめざすべくいろいろな手術術式がくふうされ,またその適応と限界についても検討がなされてきた.いわゆる拡大根治手術(R3の手術)もその1つである.今回は,血行性肝転移があった場合それをどのように取扱うかについて私の考えを述べてみたい.

横行結腸への浸潤に対する合併切除の意義

著者: 三輪潔

ページ範囲:P.1881 - P.1884

はじめに
 胃の後壁に発生した胃癌は,その解剖学的理由から,かなりの進行例に対しても,合併切除を加えた適切な手術によつて,根治が期待できることがあるとされている.というのは,胃の後壁,大小網,膵前面ならびに横行結腸間膜などによつてつくられている空間すなわち網嚢(Bursa omen-talis)は,肝十二指腸靱帯の後でウインスロー氏孔(Foramen Winslowi)によつてのみ腹腔と交通しているに過ぎないために,漿膜に顔をだした癌細胞が腹腔全域にこぼれ落ちることなく,この網嚢内にとどまつている可能性が強いからである.この意味から,横行結腸さらには膵脾を含めた合併切除のもつ意義はきわめて大きいといわねばならない.
 そこで,国立がんセンターで横行結腸の合併切除の行なわれた胃癌症例をもとに,この手術の安全度を含め,その意義と適応について検討を加えてみた.

膵頭への浸潤に対する膵頭十二指腸切除の意義と適応

著者: 西満正 ,   中島聡総

ページ範囲:P.1885 - P.1889

緒言
 胃癌の拡大根治手術には,4つの問題がある.
 第1は横の拡がりに対する胃の広汎切除であり,全剔の適応や下部食道,上部十二指腸の切除距離が問題になる.第2は胃壁と垂直方向の進展に対する周囲臓器合併切除,第3は広範囲リンパ節郭清である.そして第4は局在性,孤立性の遠隔転移に対する切除である.

Ⅲ.術後愁訴をへらすために

術後愁訴をへらすためのくふう—胃全剔術におけるβ吻合法について

著者: 佐藤博

ページ範囲:P.1891 - P.1894

はじめに
 消化管手術の普及発達とともに,胃全剔出術もその手術の安全性も高くなり,広く一般に施行されるようになつてきた.しかしたとえこの手術死亡率が低下したとはいえ,胃切除からくらべればまだまだ,満足すべきものではなく,また術後愁訴の面からも今後十分に検討すべき点が多いところであろう.教室では中山教授時代から胃全剔後の再建法としては第1図のように食道胃吻合,β吻合,B—Ⅱ吻合,Roux吻合,さらに空腸移植吻合などが行なわれているが,教室における1965年から1969年までに胃癌に対して行なつた胃全剔出症例は第1表のごとくである.この期間は私が中山教授の跡を継いでからの5年間の症例である.表の中で噴門切除兼胃瘻造設術とあるのは本来ならば胃全剔出を行なうべき対象に対し,術後早期の栄養補給の意味と術後消化吸収能力への好成績から幽門側の一部を残し,これを胃瘻として術後2〜3日目より栄養補給をするものであつて,その他の再建法は胃全剔出の場合とほとんど変らないのであえて症例に加えてみた.
 症例数は195例で死亡は2例,死亡率は1%である.術式別にみるとβ吻合の数が非常に多い.すなわち噴門切除術兼胃瘻造設術では99例中86例,胃全剔術では96例中74例,計195例中160例,82%にβ吻合術を行なつているわけである.

術後愁訴からみた胃全剔術式の比較—Roux-Y型吻合法か,B-Ⅱ法か代用胃成形術のくふう

著者: 内山八郎 ,   加治佐隆

ページ範囲:P.1895 - P.1898

はじめに
 胃全摘出術が行なわれたのは1884年Connorをもつて嚆矢とするが,彼はその症例を術後ショックで失なつた.1897年Schlatterは56歳の婦人に胃全摘出術後食道空腸吻合術を行ない,初の成功例をえたが,約14カ月後肝転移で失つている.その後1898年Brighamは第2および第3の成功例を報告し,Richardsonも時を同じく第4例を報告している.麻酔法や感染に対する処置など患者管理が未開発の状態にあつた当時は,胃全摘出術を行なうことはもちろん,切除後の再建操作や吻合部の一期癒合を営ませることはそうたやすいことではなかつたろうと推察される.麻酔法が発達し十分な筋弛緩がえられて広い視野で余裕をもつて切除術,再建術が可能となり,さらに術後感染をはじめとする患者管理がすすむにつれて,胃全摘出術は急速に広く行なわれるようになつた.すでにただ単に切除して下位の消化管と吻合すればよいということに努力がはらわれた時期はすぎた.現在では再建に際して術後障害の最も少ない方式はいかにあるべきかに焦点が向けられ多くの研究者による種々な術式が考案されている.
 筆者らが過去約19年間に,教室で胃癌に対して行なつた胃全摘出術症例は78例で症例数は多くはない.それは筆者が術後機能を考慮して,従来から切除はなるべく必要最少限にとどめたいと考えているからである.

胃癌に対する胃全剔出術—術後愁訴をへらすための消化管再建法について

著者: 大同礼次郎 ,   恵谷敏 ,   山根毅 ,   中村政弥

ページ範囲:P.1899 - P.1903

はじめに
 胃癌の外科的治療については,今日まで多数の術式と,それに伴う愁訴の分析ならびに改良法が報告されてきた.
 また一方,内視鏡的,レ線的診断学の長足の進歩をみた現在では,胃癌の早期発見という一分野はほとんどまつとうされたかのようであるが,まだまだ外来を訪れる患者の中には進行癌症例の方が多い.したがつて,進行癌で広範囲郭清術に広範胃切除を施行しなければならない症例が現在なお多数例ある以上,その対策は必ずしもおろそかにしてはいけないし,これこそ真に外科的治療法としてはきわめて重要な部門と考える.

座談会

胃癌根治手術の問題点

著者: 陣内伝之助 ,   西満正 ,   羽生富士夫 ,   和田達雄

ページ範囲:P.1904 - P.1927

 胃癌を全治に導くためには完璧を期した手術を必要とすることは言うまでもない.しかし,なお胃癌根治手術には幾つかの問題点がある.今回は4人のこの方面の専門家を招いて,早期胃癌のリンパ節廓清はどの程度にするのが適当か,噴門癌の手術の根治性を高めるにはどうすべきか,その際再建術式にはどの方法がよいか,肝転移がある場合どうするか,術後愁訴をへらすためにはどうするか,などについて,具体的,実際的にキメの細かいお話をしていただきました.

カラーグラフ 外傷シリーズ・12 泌尿器外傷の臨床

Ⅱ.下部尿路外傷

著者: 大原憲

ページ範囲:P.1834 - P.1842

 症例番号は前号に引続いて一連番号とした.なお,1,2の症例については,一部前号に図示したものもあるので比較参照戴きたい.今回は,下部尿路外傷例を紹介する.カラー頁では,前号と同じく比較的カラーグラフ的なものを図示した.

グラフ解説

交通災害泌尿器外傷—その初療を中心に(Ⅱ)

著者: 大原憲

ページ範囲:P.1843 - P.1845

Ⅳ.下部尿路外傷
 1.下部尿路外傷の初療について 尿路外傷初療全般については前号に略記したが,このうち下部尿路外傷初療は,その取扱いの良否が直接患者の生命,予後に大きな影響をもつので,重複するところもあるが,あらためて取りあげることにした.実際には尿道外傷例による経験が大半を占めるので,記述も尿道外傷を軸とし,これに膀胱外傷についての経験を1,2付記する.
 交通災害下部尿路外傷は,膀胱,尿道を問わず骨盤外傷に合併して発生する場合がほとんどである.骨盤外傷のなかでも,尿路外傷に関連したものとしては恥骨骨折が多く,恥骨間三角靱帯の変位,損傷がおこる結果,その中央を貫通する膜様部尿道に損傷が惹起される.実際UGを行なつてみると,膜様部付近で造影剤の中断がみられたり溢流がはじまつたりする場合が非常に多い.

外国文献

唾液腺癌,他

ページ範囲:P.1935 - P.1935

 腺が違うと組織像も違う傾向がある.耳下腺80%,顎下腺5〜10%,舌下腺1%,口蓋その他の小唾液腺が10〜15%を占める.さてEneroth(Cancer, 27:1415,1971)はKarolinska 1919〜1969の2,867唾液腺癌を展望している.Parotid 2,261,submandibular 203,palate 403.良性腫瘍はpleomorphic adenomaがparotid 1,658(77%),submand 102(60%),palate 98(53%),計1,858(74%).papillary cystadenolymphomaがそれぞれ101,4,ゼロ,計105.oncocytomaはそれぞれ21,4,ゼロ,計22.悪性ではpleomorph adenocaそれぞれ,32,3,3,計38.mucoepiderm.caそれぞれ88(4%),6(4%),30(16%),計124(5%).adenoid-cystic caはそれぞれ49(2%),26(15%),44(24%),計119.acinic ell ca 66,1,2,計69など.悪性腫瘍頻度はparotid 18%(378/2,158),submand 37%(63/170),palate 47%(87/185).

患者と私

「誤り」が起きる前後

著者: 本多憲児

ページ範囲:P.1936 - P.1937

25年前の医療事故
 「患者と私」ということになるといろいろの事が思い出され,また先般本誌にのつた今永先生のお言葉のようなこと(「医事紛争の経験から」本誌26巻6号)になりそうになつたことは何回かあつた.然し幸いにして今日まで裁判沙汰にならないが,しかしその都度これで私の大学生活は終りだと何度か決心した.私は教室における医療の責任は教授にあると考えているので,事故があるときは,その瞬間よりその責任をとるつもりでいる.
 25年前になるが,助教授時代に看護婦が生理的食塩水と洗浄用硼酸液を間違え静注を行ない,急性腎不全により1週間悪戦苦闘し,とうとう力及ばざることがあつた.この当時は物資があまりない時で,今の若い先生方には到底考え及ばないことと思うが,静注用の生理的食塩水も,洗浄用の生理的食塩水も,洗浄用硼酸水も皆三角コルベンに入れて消毒したものである.従つて誤りの起こることは当然考えられたことであるが,事故が起こるまでは,そういうことを少しも考えず,瓶についている記載事項を誰でも注意してみるものとのみ一人合点していたのである.

海外だより

第18回国際小児外科学会に出席して

著者: 大川治夫

ページ範囲:P.1938 - P.1941

はじめに
 昭和46年5月26日より3日間にわたり,イタリアのジェノァで開催されたこの学会に4年ぶりに出席する機会をえた.日本でもBAPSの名で通称されているこの学会は,元来英国の小児外科学会(British Association of Paediatric Surgeons)を国際学会の形式にしたものである.2年間の会長任期の一年を会長所属の都市にて行ない,他の一年を英国外に出て学会をひらく規則になつている.本年はHospital for Sick Children Lo-ndonのA.W.Wilkinson教授が会長で,学会をGenovaのF.Soave教授が主催して行なつたものである.出席者は全世界より約260人で,会場は地中海に面したジェノァ国際展示場を利用して行なわれた.3日間にわたり一般演題23題,特別講演が2題口演され,各演説,討議に十分な時間を用意してある事が非常に目立つた.問題の核心にふれ,とことんまで議論がつくされるという感じであつた.

トピックス

甲状腺腫瘍に関する最近の動向

著者: 原田種一

ページ範囲:P.1942 - P.1943

 甲状腺腫瘍は,昔からmysteriousな腫瘍であるといわれている.他の臓器の腫瘍と異なり,組織学的に良性であると思われた腫瘍が転移をきたしたり,一部の肉腫と癌との鑑別が極めて困難であつたりして,甲状腺腫瘍の診断は,苦手だとする病理学者も多い.甲状腺腫瘍は,まだ解明されるべき多くの余地を残している.

論説

胆嚢癌の診断と予後

著者: 志村秀彦

ページ範囲:P.1947 - P.1953

はしがき
 胆道に発生する悪性腫瘍の手術成績は最近でもかなり悲観的であり,根治性について懐疑的な者も多い.すなわち,解剖学的位置の関係から周囲の重要臓器への浸潤が起こりやすいこと,および周囲の血管リンパ系の構造が複雑で,十分な郭清ができないことのほかに初期症状が不定で早期発見が困難なことが,その原因としてあげられる.とくに胆嚢癌では初期といえども浸潤が速やかに胆嚢床を経て肝におよぶので肉眼的に転移や浸潤がないと思われる症例でも,術後再発を起こす例が多い.Robertsはきわめて初期と思われた5例に胆嚢摘出術を行なつたが,長期生存例は,ただの1例のみと報告している.これらの症例も多くは胆石症や良性上腹部疾患として開腹された際に偶然発見されたものであるが,その悲観的な成績から胆嚢癌の根治性に疑問をもつ者も多い.しかしわれわれも術後十数年を経て健在な症例を持つており,早期に発見され,手術されれば,術後成績もかなり期待し得るものと思つているので執拗な探索と,積極的な手術療法が必要であろう.筆者は教室において経験された39症例について胆嚢癌の特徴と診断および予後についてのべたい.

乳癌とホルモン

著者: 山本泰久

ページ範囲:P.1955 - P.1962

はじめに
 乳癌と内分泌因子に関して過去多くの研究がなされてきたが,基礎的,理論的知見がえられたのは1950年以後のことで,それまでの乳癌に対する内分泌療法は経験的なものにすぎず,現在なお臨床医は乳癌の内分泌療法をいかにすべきか暗中模索を続けているのが真相かもしれない.
 乳癌のみならず癌の内分泌療法は実に多くの問題を含んでおり,生体内のホルモンバランスと癌の発育環境を知りえて初めて適切な治療法を選びうるのである.一般に知られているestrogen,androgen,corticosteroid,progesteroneのようなsteroid hormoneから,それらの分泌を支配する下垂体ホルモンやneural hormoneさらには甲状腺ホルモンなど直接あるいは間接に乳癌に関与すると考えられているが,その個々のものは生体内でさらに他のホルモン分泌と相関関係をもつため,全貌を知ることは不可能に近いものと思われる.

症例

十二指腸平滑筋肉腫

著者: 椙原美昭 ,   角田司 ,   滝紀雄 ,   平井三郎 ,   古川正人 ,   押淵英展 ,   赤司光弘 ,   古瀬光 ,   土屋凉一

ページ範囲:P.1963 - P.1966

はじめに
 十二指腸の悪性腫瘍はまれであるが,このうちでも肉腫はきわめてまれで癌腫と比較するとその頻度は十二指腸癌の約10%にすぎない.最近われわれは十二指腸原発の平滑筋肉腫症例を経験し,しかも患者の都合により初診時より手術にいたるまで約7カ月の間隔をおいて,肉腫の発育経過を観察できた上,術後経過が順調であるので,これを報告し合わせて文献的考察を試みる.

電撃傷による広範な頭蓋欠損症の1治験例

著者: 倉本進賢 ,   渡辺光夫

ページ範囲:P.1967 - P.1970

緒言
 近年,産業の発達に伴い種々の災害事故による疾患が増加してきた。電撃傷もその1つであるが,強度の電撃により頭蓋に広範な欠損を生じた症例に接する機会はまれである.これは頭蓋内の中枢神経が電撃傷により致命的障害を受け,生存が困難になる場合が多いためと思われる.
 私どもは電撃傷により頭頂部に広範な頭蓋欠損を生じた1症例を経験し,これを手術的に治癒せしめたので報告する.

原発性胆嚢肉腫の1症例

著者: 田本杲司 ,   蜂須賀喜多男 ,   森直和 ,   石川覚也 ,   北島正是 ,   平松隼夫 ,   河合誠一

ページ範囲:P.1973 - P.1976

はじめに
 胆嚢に原発せる悪性腫瘍は,比較的少ないものである.そのなかでも肉腫は,癌腫との割合からみて,きわめて低い頻度にしか発生していない.ただ胆嚢原発性悪性腫瘍は,根治的に切除することが不可能な場合が多く,開腹時の所見のみで,これを癌腫として診断していることがあるので,実際には,もつと多いのかもしれない.われわれは,胆嚢に原発した紡鍾形細胞肉腫の1症例を経験したので,多少の文献的考察を加えて報告する.

医療の眼

犬と猿・嫁と姑・医者と医者—5.怒りつぽいお医者さん

著者:

ページ範囲:P.1972 - P.1972

 医師でない友人達と会合をもつと,しばしば医師批判になることが多い.その1つに「医者はどうしてこうも怒りつぽいのか」というのがある.
 医師という特殊な職業の人には,独善的で,他人の批判をきらう教祖的性格があることは確かである.

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臨床外科 第26巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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