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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科26巻9号

1971年09月発行

雑誌目次

特集 上腹部痛—誤りやすい疾患の診療

上腹部急性腹症の診断と治療

著者: 斉藤淏 ,   鈴木和徳 ,   岩崎隆 ,   和田輝洋

ページ範囲:P.1433 - P.1436

 急性腹症に関する論著は,今日になつてもなお跡をたたない.それほどに古くて新しい魅力的なテーマである.そこで思うに,その中に含まれる多くの疾患そのものに関する興味も捨て難いのであるが,それよりも豊富な経験を有する著者らがそれぞれの近代的観点に立つて,臨床の実際に役立てようとする心憎い取りあげ方にこそ,深い興味を覚えるのである.著者らおよび周辺において経験されたこの頃の上腹部手術例を中心に,近代的診断法と,進歩した外科治療の側面的観察を述べてみたい.急性症に直面するときは,その診療に限界のあることを承知しながら,終局の目的である最新かつ最良の治療をすべての患者に施すための策を探究したいと願うのである.

上腹部痛を主訴とする急性腹症—胃・十二指腸穿孔の診断

著者: 四方淳一 ,   和田信昭 ,   鈴木荘一

ページ範囲:P.1437 - P.1442

Ⅰ.胃・十二指腸穿孔による腹膜炎の典型的なパターン
 上腹部痛,それも激痛を訴えた患者が来院した場合には,一応は,胃・十二指腸穿孔を考えねばなるまい.
 それでは,まず,胃・十二指腸穿孔による汎腹膜炎の典型的なパターンについて述べよう.

上腹部痛を主訴とする急性腹症—胆石症,胆嚢炎

著者: 土屋涼一 ,   赤司光弘 ,   内村正幸

ページ範囲:P.1443 - P.1449

はじめに
 胆石・胆嚢炎のうち上腹部痛を主訴とし急性腹症として来院するのは,胆嚢蓄膿症,壊疽性胆嚢炎,胆嚢穿孔,胆石嵌頓などで,日常の診療によく遭遇するものである.その他,出血性胆嚢炎,遊走胆嚢捻転,胆道内回虫迷入,外傷などの報告もみられるが,きわめてまれである.これら急性腹症を呈する胆石・胆嚢炎を中心として,その診断の要点について最近経験した教室例から検討してみた.昭和45年1月より46年5月までの胆石・胆嚢炎の教室症例は79例で,その内訳は第1表のごとくである.入院より手術までの期間3日以内の症例を急性腹症として考えると,胆嚢炎では10例のうち1例,胆石症では69例のうち8例である.さらに,これら急性腹症9例の内訳は第2表のごとくである.
 胆石・胆嚢炎が疑われた場合,まず保存的に急性炎症を鎮静し,確実な診断,十分な術前準備のもとに,適応に応じて手術を施行することが原則であり,最近は胆石・胆嚢炎の緊急手術は次第に減少する傾向にある4).しかし,胆嚢穿孔による胆汁性腹膜炎は緊急手術の絶対的適応であり,教室でも急性腹症として処置された9例のうち2例の胆嚢穿孔例を経験した.

上腹部痛を主訴とする急性腹症—急性膵炎

著者: 村田勇 ,   広野禎介

ページ範囲:P.1451 - P.1459

はじめに
 上腹部痛を主訴とする急性腹症には,胃・十二指腸潰瘍穿孔,急性胆嚢炎,イレウス,急性膵炎など,緊急処置を講じないと,重大なる結果を招くものが少なくない.しかし,急性腹症の多くは,日常,われわれがしばしば遭遇する疾患が多いにもかかわらず,発病初期には典型的な症状を示すものが少なく,その鑑別診断は必ずしも容易ではない.いずれにしても,急性腹症においては,その症状,経過,腹部所見,検査所見などを総合的に,的確に判断し,すみやかに診断を下すよう心がけることが必要である.とくに,緊急手術を要する疾患では,診断の正確をのぞむあまり,検査に時間をかけすぎて,手術の時期を失しないよう注意すべきである.
 本稿では,これら急性腹症のうちでも,とくに鑑別診断が困難とされている急性膵炎について,主として,その症状,診断面を中心に検討を加えたい.急性膵炎に対する一般の認識が高まるにつれて,近年,その病態生理についても漸次解明されつつある11)26).しかし,本症の診断に関しては,いまだ決定的な診断法が確立されておらず,臨床症状,および血清・尿アミラーゼ値の測定以外には,信頼すべき検査法が少ない現状である.

上腹部痛を主訴とする急性腹症—特発性食道破裂,腸間膜血管閉塞症,腹部大動脈瘤破裂,解離性大動脈瘤

著者: 梅園明 ,   竹内成之

ページ範囲:P.1461 - P.1466

はじめに
 特発性食道破裂,腸間膜血管閉塞症,腹部大動脈瘤破裂,解離性大動脈瘤などはいずれも比較的まれな疾患であり,このためにとかく急性腹症を診断する場合にこれらの存在性が念頭より去り,診断を誤り,適切な治療を失することが少なくない.
 これらの疾患の知識と存在性を認識していることにより正しい診断を下すことが可能であると思われる.

小児の急性腹症—幼児期の腹痛を主訴とするものを中心に

著者: 秋山洋 ,   石井勝巳 ,   小平義彦 ,   佐伯守洋

ページ範囲:P.1467 - P.1474

はじめに
 一般に急性腹症の概念は原因不明の腹痛や嘔吐を主訴として来院し,緊急的に手術を行なう必要がある疾患を指しているが,小児の場合にとくに腹痛という症状が不定であり,Abdominal em-ergency1)ということばが用いられ,このことばが適当のように思われるのでここではこの意味で理解したいと思う.したがつて来院時は診断不明でも実際問題として術前に種々な検査を行なえば,その原因疾患の見当がつくことが多い.事実われわれも術前に急性腹症としたばくぜんとした診断のもとで手術を行なつた症例はほとんどなく,術前にはかなり診断がつくことが多い.
 小児のabdominal emergency,すなわち,緊急的に手術を必要とするような疾患は,新生児,乳児期のいわゆる先天性疾患に原因があることが多く,これについての報告は多い.しかしこのような年齢で,特殊な疾患に遭遇する機会は一般外科医では少ないと思われ,しかも幼児期の症例の報告は少なく,さらに幼児においては上腹部痛を選択的に訴えることは少ないので,とくに,ここでは幼児を中心にして,急性腹症として取り扱われうる疾患をその診断面を中心にしてわれわれの経験にもとづいて述べてみたいと考える.

手術を必要としない上腹部痛

著者: 山形敞一

ページ範囲:P.1475 - P.1479

まえがき
 腹痛は内臓痛,体性痛または両者の合併および連関痛の4つに分けて考えられるが,一般の疼痛に比較して腹痛が複雑な様相を示すのは内臓痛と連関痛の存在によるものである.
 内臓痛は発痛刺激が主として内臓神経内に含まれる求心路を通つて感ぜられる痛みであるのに対して,体性痛は発痛刺激が脳脊髄神経線維を上行して生ずる痛みであるから,内臓痛は内腔臓器壁の伸展や痙攣が神経終末を刺激して起こるものであるのに対して,体性痛は皮膚の痛みと同様に,脳脊髄神経への圧迫,摩擦,捻れ,牽引などの機械的刺激のほかに,ブラジキニン,毒素などの化学的または細菌学的刺激によつても起こる.この脳脊髄神経終末は腹部では壁側腹膜,腸間膜根,横隔膜および小網に分布しているので,前述の発痛刺激がこれらに加わると体性痛をおこすことになる.

上腹部痛の病態生理

著者: 木村忠司

ページ範囲:P.1481 - P.1485

 Ⅰ.上腹部内臓の知覚支配(付表,第1図)
 腹部内臓の求心神経線維は自律神経とともに走行するから自律神経の解剖をしらべることによりその中に含まれる求心線維の分布状態を知ることができる.
 上腹部内臓の自律神経は交感神経と迷走神経からなり,求心線維はこれと同行し機能的にも両者は反射弓の両翼をになつて密接な関係下にあるから交感神経と同行する求心線維を交感神経知覚線維sympathetic afferents(=S.A.)と称し,迷走神経と同行するものを迷走性知覚線維vagal af-ferents(=V.A.)と呼ぶ.S.A.は病的刺激に対してはいたみを伝えV.A.は悪心,嘔吐などの反射を誘発するものである.V.A.がいたみを伝えるかどうかは疑問視されているが,悪心,嘔吐などの反射は明らかに腹筋反射を生ずるから,このようなviscero-motor reflex内臓運動反射を介して上腹部に関連痛を生ずることは可能である.またvagusを通じて顔面,上頸部などに関連痛を生ずることも知られているからvagusもまたいたみに関係するとの考え方が有力になつてきている(Mounier).

カラーグラフ 外傷シリーズ・9 顔面外傷の臨床

Ⅱ.耳下腺・耳下腺管損傷,顔面骨骨折—眼窩底骨折(blowout fracture),鼻骨骨折,頬骨骨折

著者: 原科孝雄 ,   礒良輔 ,   田嶋定夫

ページ範囲:P.1398 - P.1409

耳下腺管断裂(第1〜5図)
 3週間前に交通事故で左頬部に受傷,耳下腺管断裂により左頬部に唾液の貯溜および顔面神経頬筋枝の麻痺を認める.第3図は断裂耳下腺管を吻合したところで口腔外に出ているポリエチレンチューブは吻合部を越えて耳下腺部へ達している.第4,5図は術前術後のシアログラフィー(耳下腺造影)で吻合部の開通を示している.

座談会

チームワーク診療における権限と責任

著者: 高田利広 ,   三宅史郎 ,   牧野永城 ,   熊谷義也 ,   山本亨 ,   川島みどり

ページ範囲:P.1412 - P.1430

 医学の進歩につれて医療行為も個人診療から,病院を中心とした組織診療へと発展してきましたが,現場においては医療業務の多様化とともに専門分化もますます進みつつあります.医師はチームを組んで診療に当り,また看護婦・検査技師・薬剤師などパラメディカルの人々によつて業務が分担されておりますが,今回はそうしたチームワーク診療の現場における責任と権限のあり方をめぐつて話し合つていただきました.

最近の麻酔

新生児の麻酔と管理

著者: 緒方博丸

ページ範囲:P.1491 - P.1497

 生後20日間内の新生児で手術を必要とする場合は,緊急性を要するものが多い.たとえば,鎖肛,横隔膜ヘルニア,食道閉鎖,腸閉塞,Onp-halocele,Meningocele,胃穿孔などがある.術前処置はおのおのの疾患に応じて行なうべきであるが,共通して注意すべきことは,静脈切開を行ない,輸液を確保することである.そして脱水が起こらないように気をつけなければいけない.脱水状態のまま手術にもつていくと予後は非常に悪い.輸液の量は,尿が出るまでは10ml/kg/hr.を点滴し,尿が1ml/kg/hr.の量まで排出するようになつたら50ml/kg/dayの割合で輸液する.だいたい新生児で手術を受けるのは未熟児が多い.未熟児の場合は40ml/kg/dayの割合であると,ほぼ2ml/kg/hr.になる.輸液に何を使用するかは,患者のその時の電解質および膠質浸透圧によるが,ほぼこれらが正常と思われる時は,ソリターT3を使用する.ソリターT3は等張液で維持液として使用される溶液である.
 また,新生児はincubatorに入れておかなくてはいけない.incubatorの中には給湿されたO2を送る.この時の湿度は100%でなくてはいけない.100%とはincubatorの内壁が露でくもつている時の状態をいう.

講座・3

臓器冷凍の理論と応用—Ⅲ.臓器の冷凍保存

著者: 隅田幸男

ページ範囲:P.1499 - P.1505

はじめに
 単細胞の冷凍保存で幕開けした低温生物学は,まず冷凍血液輸血によつて医学に大なる貢献をした.そして,この細胞を冷凍保存する技術は,組織へそして単一臓器へと応用が期待されはじめた.治療法としての臓器移植が増加するにつれて,当然臓器保存法の適切な方法が要求されはじめたのである.凍害保護物質(cryoprotective agents)の発見によつて臓器凍結は長期保存の有望な手段となつてきたからである.
 本稿では,生命の冷凍保存でもつとも古い歴史を有する精子から生体内の単一臓器の冷凍保存までの研究の現況を概観した.

論説

腸管の癌の臨床病理学的検討

著者: 山際裕史 ,   竹内藤吉 ,   大西武司 ,   稲守重治 ,   堀英穂 ,   岡林義弘 ,   伊東敬之 ,   西村誠 ,   大西長昇 ,   大杉紘 ,   山崎泰弘 ,   中川潤

ページ範囲:P.1507 - P.1515

はじめに
 腸管に発生する癌は,胃の場合のそれに比較して,手術成績の良好なことが知られている.その理由のひとつは,胃では特有の低分化型の癌であるadenocarcinoma tubulareがあつて,その修飾型である,浸潤も早く,腹腔内播種をきたしやすいadenocarcinoma(tubulare)mucocellulareがかなりの頻度を占めること,胃炎,胃潰瘍と臨床症状の類似することなどが原因である.胃の癌のもうひとつのtypeは,腸上皮化生粘膜に生ずるもので,その発生,進展の様式が,腸管の癌にかなり類似する.
 本稿では,腸管の癌について,発生,進展,臨床所見との関連について,若干の考察を加えたい.

症例

われわれの経験せる胃切除後の縫合不全症例について

著者: 佐藤薫隆 ,   松林富士男

ページ範囲:P.1517 - P.1522

はじめに
 近年,術前,術後の管理および術式の改良により,胃切除後の縫合不全発生率は,第1表のごとく,ほぼ2%前後に減少した.しかし一度縫合不全を起こすと,その死亡率は相変らず約40%の高率を示している.われわれは最近10年間に533例の胃切除後,第2表のごとく,6例の縫合不全を経験したので,それらを中心に,対策について2,3の知見をあわせて報告する.

胃漿膜下出血を伴つたMallory-Weiss syndromeの1治験例

著者: 加部吉男 ,   清水巌 ,   森一郎 ,   益岡孝之 ,   向井俊二郎

ページ範囲:P.1523 - P.1527

緒言
 大酒家で,嘔吐後の多量の吐血,下血を主訴として来院し,手術により広範な胃漿膜下出血を伴つたMallory-Weiss syndromeと診断した1症例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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