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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科27巻10号

1972年10月発行

雑誌目次

特集 頸部血管障害

—再録—脈無し病

著者: 清水健太郎 ,   佐野圭司

ページ範囲:P.1351 - P.1372

本病の紹介
 この病気は新しい病気ではない.然し稀な病気である.日本に於ての報告を総ざらひしても,26例を越さないだらう.外国には遂に報告例が見当らない.私は前々(昭和12年頃)から,この病気に縁を持つて注意して見て居たのであるが,どうも此頃殖えて来た様に思ふ.終戦後方々から紹介されて来ることが多いのである.この病気はまだ正式に名前がついていないので,色々な名をつけられて,又は名なしのまま送られて来る.そればかりではない.この病気の原因も解つていなければ,従つて治療法もない.もつとひどいことには,症状そのものすらほんとうには掴まれていない.即ち何も解つていない状態なのである.私はこの病気の7例に関係した.そして各々詳細に観察することにより色々新しいことも発見したし,昔からの報告例とも対照してみて,一応症候学を完成出来たと思ふ.又病理,病源論等に関しても多少の新知見を加へ,且治療法にも色々の工夫を試みているので,多少意に満たない処もあるけれど,不取敢今までの事をまとめて発表する次第である.
 此疾患の理解の便宜上,其代表的な1例の病歴を掲げよう.

「脈なし病」その後の発展

著者: 佐野圭司 ,   斉藤勇

ページ範囲:P.1373 - P.1379

はじめに
 最初に高安右人の第12回日本眼科学会(1908年,すなわち明治41年4月2日福岡)における「奇異ナル網膜中心血管ノ変化ノ一例」という報告と,それに対する大西,鹿児島の「討話」をのせた.さらに1948年本誌3巻10号377-396頁に発表された清水健太郎,佐野圭司の「脈無し病」の原著をそのまま再録した.(ただし原著の眼底図は色彩版であるが,この再録ではモノクロームとした).現在ではこの原著を手に入れることは困難であろうし,また終戦直後の紙質の悪い時代のことでもあり,原著を手に入れても読みにくいであろうと考えたからである.
 この「脈無し病」の発表された時点までのわが国の報告は25例(すなわち40年間に25例)にすぎなかつたのに,これ以後急速に,この疾患の発表が増加した(たとえば1948〜58の10年間に120例以上も報告された)ことを見ると感慨無量である.

動脈硬化性頸部動脈閉塞

著者: 上野明

ページ範囲:P.1381 - P.1388

はじめに
 頸部の動脈閉塞はわが国では脈なし病,あるいは特発性内頸動脈閉塞といつたいわば世界的にはあまりpopularでない疾患で注意が喚起され,また外科的治療も若年層を中心に行なわれてきた.しかしここ10年間の推移をみると動脈硬化性疾患の数は漸次増加し,このままでゆくと数年で身体の他部位のみならず頸部においても血管外科の主役を演ずるようになると思われる.
 著者等はすでにこの部の動脈硬化性閉塞については脳血行不全を示した内頸動脈狭窄の治験例,ならびにsubclavian steal syndromeを伴う鎖骨下動脈閉塞の治験例を発表した1,2).この頸部の動脈閉塞疾患の治療の主眼点は上肢でなくて脳血行の障害であるが,本邦では剖検例の検索から頭蓋外閉塞は極めて少なく,より末梢の頭蓋内動脈,たとえば中大脳動脈,脳底動脈の方に多いという見解がとられてきた3).しかし剖検例では閉塞はともかく狭窄の程度についての判定は困難であつたが,動脈撮影が安全でしかも一般に普及した昨今では,この狭窄がかなりの頻度で存在することが注目されてきている4,5).しかし,根本的な問題は脳血行障害としての脳虚血発作が狭窄性変化による血流の問題のみでなく,塞栓性の因子もあり,それも意外に多いことが世界的に認められるようになつたことである6-9)

外傷性頸部血管障害

著者: 千ヶ崎裕夫 ,   大野恒男

ページ範囲:P.1389 - P.1399

はじめに
 身体のどの部位の動脈でも,外傷によつて断裂や血栓を生じて,仮性動脈瘤,動静脈瘻,あるいは血管閉塞を発生し血流障害をおこす可能性をもつている.しかし頸部においては,頸動脈および椎骨動脈が脳脊髄の循環を支えている重要な栄養血管であるという特殊性のために,単なる局所的障害ばかりでなく,その血流障害によつて重篤な脳脊髄(主に頸髄部)機能の脱落を残したり,時には生命の危険を伴うことも稀ではない.したがつてこの部の外傷性血管障害については臨床上,診断,治療の面でも他の部位とは違つた特別の考慮が払われなければいけないであろう.
 頭部外部,あるいは頸部外傷のさい直接あるいは間接に外力が頸部血管に作用してひきおこされる後遺症として次の三つが考えられる.

Powers' Syndrome(椎骨動脈間歇的圧迫症候群)とこれに関連した症候群—ならびにPowers' Syndrome 57例の術後遠隔成績,手術手技,診断法などについて

著者: 長島親男

ページ範囲:P.1401 - P.1412

はじめに
 外科学の対象となる「頸部の血管障害」といえば,一般的には,内頸動脈系の血管障害がよく知られている.たとえば,脈なし病,特発性内頸動脈閉塞,Fibromuscular Hyperplasia(Dysplasia),動脈硬化性内頸動脈閉塞などがあげられる.
 一方,椎骨動脈系で,外科的治療の対象となる疾患についての研究は,この数年のうちに,とくに増加し,新しい知見が発表されている.Subclavian Steal Syndrome,Spondylotic Vertebral Insufficiency,1)ここに述べるPowers' Syndrome2)3)などもその一つであり,外科的治療の対象となる.

Subclavian Steal Syndrome—その病態と臨床症状について

著者: 田崎義昭 ,   沢田徹

ページ範囲:P.1413 - P.1421

はじめに
 Subclavian steal syndromeは,1960年Con-torni1)によつてはじめてその存在が報告され,ついで1961年Reivichら2)によつてその特異な病態が明らにされた症候群である.すなわち,鎖骨下動脈起始部の閉塞と同側椎骨動脈の逆行性血流があり,臨床的には患側上肢の疼痛,易疲労性,知覚異常などとともに,めまい,複視,耳鳴,構音障害などの脳幹障害を主とする神経症状を呈する症状群をいう.そしてこれらの症状が上肢の運動によつて誘発もしくは増強することがその特徴のひとつとなつている.本症候群では,患側上肢の血流が反対側椎骨動脈を経て同側椎骨動脈から逆行性に供給されており,運動などによつて上肢の血流需要が増大すると本来脳へ行くべき血液が上肢の方へ奪われ,脳虚血を起すために上記のような神経症状が発現する,とされている2).本症候群の血行力学的な病態が脳血流を鎖骨下動脈灌流領域に奪う(steal)ことにあるから,New Engl. J.Med.のEditorialは3)これを"subclavian steal"syndromeと名付けた.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・9 胃疾患の肉眼診断

1.早期胃癌の肉眼形態とその鑑別—潰瘍型早期胃癌(その1)

著者: 佐野量造

ページ範囲:P.1337 - P.1338

 胃癌を病理学的に大別すると,①潰瘍型(消化性潰瘍を伴うもの)②隆起型(消化性潰瘍のないもの)に分けることができる.今回と次回は潰瘍型早期癌について供覧する.

外科の焦点

FiberopticsによるOxymetryおよびManometry装置の開発

著者: 横田旻 ,   高橋透 ,   町田荘一郎 ,   田村正秀 ,   田辺達三 ,   杉江三郎 ,   森俊之

ページ範囲:P.1341 - P.1347

はじめに
 Forrsmann,Cournandによる心臓カテーテル法の導入によって,心臓および血管疾患の診断法は急速に進歩し,それにつれ,心臓および血管の外科学も著しく進歩した.異常短絡を有する心臓および血管疾患の診断と血行動態の分析には,心臓,血管の内圧測定とともに,酸素飽和度の測定は欠くことができない.
 現在一般的には心臓カテーテルによつて血液サンプルを入手しVan Slyke法,電極法,体外で分光学的に行なう方法などによつて測定している.Van Slyke法は測定操作が繁雑な上信用に足る測定値を得るまでには,かなり習熟しなければならない.電極法,体外での分光学的な測定法も採血を要し,測定値を得るのにかなりの時間を要するため,測定値に疑問の有る場合に,簡単には再検できない.ことに重症例では,心臓カテーテルの操作も時間が制約されており,再検は無理となる.さらに循環の各時相に汎る連続測定記録が不能であるなど,実用上では多々改良すべき点を有している.グラスファイバーを用いた生体内での分光学的酸素飽和度測定法は,先に述べた問題点を改良しうる臨床的に有意義な測定法である.

クリニカル・カンファレンス

結節性甲状腺疾患をどうするか

著者: 原田種一 ,   樋口公明 ,   藤本吉秀 ,   牧野永城

ページ範囲:P.1426 - P.1440

症例
患者:28歳,♀
 現病歴:既往歴に特記すべきことはない.会社の仕事のため,たまたま北ボルネオに居留中妊娠し,原地で宣教と医療に従事するアメリカ人の医師に妊娠についての診察をうけた.このとき妊娠3カ月と診断された他に,甲状腺左葉に1.5cm×1.0cmの小さな腫瘤があることを指摘された.帰国の上精査することをすすめられて来院した.

シンポジウム

胃の迷切をめぐつて—迷切研究会から・その2

著者: 田北 ,   ,   榊原幸雄 ,   桑島輝夫 ,   蔵本守雄

ページ範囲:P.1441 - P.1445

特別講演の部
 田北教授 Holle教授はSpezielle Magenchirurgieを書いていらつしやいますので,皆様よくご存知のことと思います.Holle教授は1914年にお生まれになり,ベルリン大学でご研鑚なさつたのち,1940年にMDを得ておられます.
 そして1950年に,いわゆる専門医になられ,一時軍隊にはいつておられますが,1958年にニュールンベルグ大学の外科の教授になつておられます.その後,1961年ミュンヘンに移られChirurgische PoliklinikのDi—rektorとなられ,1967〜1968年にかけてはミュンヘン大学医学部の学部長もなさつています.学会関係においても,万国外科学会や世界消化器病学会などのメンバーであり,そのほか多くの要職についていらつしやいます.

特別寄稿

癌の化学療法における副作用—とくに制癌剤の発癌性について

著者: シュメールディートリッヒ ,   藤村真示

ページ範囲:P.1447 - P.1450

はじめに
 がんの化学療法の副作用については,その「急性」の副作用ががん治療の歴史の当初から関心の的であつた.
 これに属するものは,骨髄や腸粘膜の損傷,生殖機能や発毛の減退などであるが,これは,もともと生理的に増殖していた組織に対する毒性を意味し,白血球減少症や下痢や脱毛というような症状として現われる.

症例

Subclavian Steal Syndromeの2治験例

著者: 西島早見 ,   三木久嗣 ,   藤井雅義

ページ範囲:P.1455 - P.1460

はじめに
 血管造影法の進歩普及とともに各種臓器の循環動態やその不全状態が明らかにされ,治療法について検討が加えられてきた.
 頭蓋外脳血管に起因する脳血行不全は欧米に多発し種種検討が加えられてきたが,多くは総頸動脈や内頸動脈の狭窄ないし閉塞に起因するもので,椎骨動脈の血行不全によるものは比較的少ない1)2).かつ,脳底動脈系血行不全も多くは狭窄ないし閉塞に起因するが,時に鎖骨下動脈起始部(first portion)の閉塞ないし狭窄のために,Reivich3)らのいうreversed blood flow through the vertebral arteryなる現象を起こして脳底動脈不全症状を訴えるSubclavian steal syndromeを呈する場合がある.このSubclavian steal syndromeは欧米では1960年以降すでに500例内外の報告1-8)があるが,本邦では少なく13例の報告9-12)があるにすぎず,かつ手術例は7例にすぎない.私どもは最近2例の本症例に対し外科的治療を加えて良好な結果を呈したので報告するとともに,本症の臨床について文献的考察を試みたいと思う.

術前に疑いをおくことのできた甲状腺髄様癌の1例

著者: 藤本吉秀 ,   岡厚 ,   折茂肇 ,   山口和克

ページ範囲:P.1461 - P.1466

はじめに
 甲状腺髄様癌は,甲状腺組織内にある傍濾胞細胞より生ずると考えられている腫瘍であり,calcitoninを産生し血中に高濃度に分泌することが認められている.著者ら1)は,さきに甲状腺原発巣の摘除手術後,とり残した頸部の所属リンパ節内転移が腫大してきたのを切除した時,転移癌組織におけるcalcitonin含有量と再手術時の末梢血中濃度を測定し,ともに異常に高い値を得た.その後2年間甲状腺髄様癌の症例を経験しなかつた.今回新たに1例を経験したが,この例では手術前に,頻脈のあることと,頸部における甲状腺腫瘤およびリンパ節転移の触診所見から,甲状腺髄様癌の疑いを抱き,術中に迅速凍結切片で診断を確かめることができたので,甲状腺腫瘍組織のcalcitonin含有量の測定,電子顕微鏡検査,および術中の血中calcitonin定量を行なうことができた.なおこの症例では,臨床上興味ある所見が2,3みられたので,ここに報告する.

孤立性肝結核腫

著者: 左近司光明 ,   野崎幹弘 ,   若林利重 ,   桑木絧一 ,   右田徹

ページ範囲:P.1467 - P.1471

はじめに
 肝の結核結節は,結核屍の剖検で32%から99%の高率に発見される.また最近では肝生検により発見されることもまれではなく,数々の報告例がある.しかしながらこれらの報告例の大部分は粟粒結核で,いわゆる孤立性の結核腫といえるものはごくまれであり,われわれの知りえた限りでは,本邦では,1960年,腰塚1)の報告による1例のみである.今回われわれは,孤立性の巨大な結核腫を形成した症例を経験したので,その症例について報告し,若干の文献的考察を加えてみたい.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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