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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科27巻11号

1972年11月発行

雑誌目次

特集 末梢血管の外科

四肢の血管撮影法と読影

著者: 勝村達喜 ,   小野幸四郎 ,   戸田完治 ,   古元嘉昭

ページ範囲:P.1493 - P.1505

はじめに
 近年の心血管外科の発達,普及は手術手技および血流遮断に対する補助手段の発達,人工血管などの開発によるところが大きいが,診断面における心臓血管撮影の占める役割は臨床診断のみならず術中の手術方法の決定にとつて欠くことのできぬものであり,さらに長期予後の判定にも大切な検査法の一つである.換言すれば,血管外科における直達手術は血管撮影に始まり血管撮影に終るとでも言えよう.
 四肢血管撮影は撮影装置の改良,連続撮影装置の開発,器具の改善,安全且特性のよい造影剤の出現により現在では病変部位を正確に捉えることができるようになつた.

慢性動脈閉塞症

著者: 稲田潔 ,   岩島康敏 ,   岡田昭紀 ,   松本興治

ページ範囲:P.1507 - P.1517

はじめに
 一般に日本人は欧米人に比べると血管疾患の発生頻度がかなり低いが,その原因の第1は動脈硬化性疾患が少ないためである.末梢血管疾患のうち日常しばしば治療対象になるのは四肢動脈の慢性閉塞性疾患であり,欧米ではごくありふれた疾患で,血管外科の対象としてももつとも多いものである.本邦でも最近この種の疾患の増加,とくに外科的治療の適応となる閉塞性動脈硬化症が増加しており,また本邦に特異的に多いといわれる若年男子に好発するBuerger病も再検討すべき時期にきており,これらの疾患について著者らの最近の経験例を中心に,主として下肢の病変をとりあげ現在問題となつている点について述べ,一般の参考に供したい.

急性動脈閉塞症

著者: 高雄哲郎 ,   大岩郷樹 ,   内木研一 ,   矢野孝

ページ範囲:P.1519 - P.1530

はじめに
 急性動脈閉塞症は,主幹動脈の急激な閉塞によつて,末梢の支配領域に激烈な阻血状態を惹起する疾患で,外科的治療の対象となる主要疾患として,動脈塞栓症,急性動脈血栓症,動脈外傷が挙げられる.これら疾患の多くは,発症後,二次血栓の発生によつて,より高度の血行障害をきたし,短時間に末梢部の壊死を生ずる危険性が大である.さらに全身状態の悪化によつて致命的となる場合も少なくない.したがつて,これらの疾患に対しては,発症後できるだけ早期に診断を確立し,迅速かつ適切な治療を行なわなければならない.本症の外科的治療は,近年血管外科の進歩によつて,手術方法も種々検討され,その治療成績は著しく向上している.ここに,本症の診断と治療を中心にわれわれの経験を交え,最近の動向を概説してみたい.

下肢静脈瘤

著者: 阪口周吉

ページ範囲:P.1531 - P.1539

はじめに
 原発性静脈瘤primary varicose veinsは下肢の静脈疾患のうちで最も頻度が高いにもかかわらず,すでにその病態,治療などについて一定の見解に達しているためか,ふだん論議の対象となることが少ない.人口の10〜14%に静脈瘤があるといわれる北欧や南米諸国に比し,せいぜい1〜2%程度の発生率と思われるわが国では,本症に関する論文や報告が非常に少ないのも,疾患の本質,予後などから考えてむしろ当然のことであろう.
 しかしながら,周知のように血管疾患においては欧米とわが国の症例にかなり異る面がみられ,したがつてわが国独自の観察や研究があつてしかるべきである.著者らはすでに2〜3の報告を通じて本疾患の臨床を論じてきたが,本文ではそれらの経験をまとめ,特に治療,手術手技に重点をおいて記述したい.

血栓性静脈炎

著者: 桜井健司

ページ範囲:P.1541 - P.1550

はじめに
 もともと肺栓塞症pulmonary embolismがわが国では比較的少ないとされていたせいか,その原因である血栓性静脈炎についてはこれまであまり重要視されてないきらいがあつた.
 患者の様態が原因不明で急変悪化した場合鑑別診断として外国の医学生がよく挙げる疾患の一つに肺栓塞がある.これからも分るように肺栓塞は外国ではそれ程珍しい病気ではない.したがつて肺栓塞はいろいろ研究されてきたわけである.肺栓塞の研究はその原因である血栓性静脈炎の予防,治療にもつながる.

四肢動脈瘤—診断の要点と最近の治療法

著者: 大原到

ページ範囲:P.1551 - P.1559

はじめに
 四肢動脈瘤の手術は血管撮影の普及と血管外科に対する関心のたかまりと相まつて,症例報告も次第にましてきたが,わが国では欧米の諸施設の如く,1ヵ所で50例以上の報告例を行なつている所はない.例えばCrawford等1)は8年間に105例の動脈硬化性膝窩動脈瘤を経験したと述べ,Ki-nmonth等2)は下肢動脈に発生した87例を述べておる.このことは彼我の血管疾患の発生頻度の相違,即ち動脈硬化性血管疾患の少ないことや,ナイフや銃丸による血管損傷が少ないことも原因としてあげられよう.
 しかしながら現在では診断の目的で動脈血を採取する為動脈を頻回に穿刺したり,心疾患や腹部内臓疾患の補助診断として,動脈に種々の種類のカテーテルを挿入して動脈撮影を行なう等,動脈に対する侵襲はこの数年間飛躍的にふえ,これが原因となつた動脈瘤の発生もましておる17).昭和41年の稲田等3)の四肢動脈瘤の報告によれば15症例中5例,33%が動脈切開,動脈注射,動脈穿刺等を原因としてあげてをる.一方ではまた開心術の際,人工心肺の装着による動脈切開修復後の動脈瘤の発生,あるいは血行再建術後の動脈瘤発生等が注目される.Spratt等4)は1967年,33例の下肢に発生した仮性動脈瘤中外傷に起因せるものは7例,外科手術後に発生したものは実に26例,78%であつたという.

Raynaud症候群

著者: 三島好雄

ページ範囲:P.1561 - P.1567

はじめに
 四肢先端の小動脈の発作的収縮によつて指趾の皮膚色調が間歇的に変化し,pallor,cyanosis,ruborなどを呈するものは,一般にRaynaud現象として広く知られているが1),この状態は純粋に機能的な疾患として小動脈の収縮によつておこるものの他に,他のいろいろな疾患に合併することがあり,今日では前者を1次性Raynaud症候群あるいは単にRaynaud病,後者を2次性Raynaud症候群としている.2次性Raynaud症候群を来すものとして外傷,振動工具,神経疾患,四肢主幹動脈閉塞,中毒,膠原病,神経血管圧迫症候群などがあげられている.これまで教室で経験したRaynaud症候群は422例で,四肢血行障害の約1/3にあたり,Raynaud病265例,四肢主幹動脈の閉塞や圧迫によるものを除いて2次性Raynaud症候群が157例で,原因別頻度は第1表に示す通りである.以下,自験例について病態生理を中心に述べてみたい.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・10 胃疾患の肉眼診断

Ⅰ.早期胃癌の肉眼形態とその鑑別—潰瘍型早期胃癌(その2)

著者: 佐野量造

ページ範囲:P.1490 - P.1491

2.Ⅱc型早期胃癌
 Ⅱc型は潰瘍型早期瘤のうちで最も多く60%を占めている.
 Ⅱc型早期胃癌と肉眼的に鑑別を必要とするものは,①萎縮性胃炎,②潰瘍の随伴性胃炎(第5図),③悪性リンパ腫及び反応性リンパ組織増生症(偽リンパ腫,第7図)等である.

座談会

血管外科の問題点—血管造影,動・静脈のあつかい方,救急処置

著者: 三島好雄 ,   古川欽一 ,   田辺達三 ,   草場昭 ,   上野明

ページ範囲:P.1570 - P.1585

 近年,血管外科の領域においても,例えば診断に関して言えば,angiography,scintig-ramなどがルーチンに盛んに用いられるようになつてきた如く,その技術面,あるいは考え方においても目覚しい研究成果が実現しつつあるようです.本特集では血管外科のうちでも特に末梢血管の外科について,様々な先生方にそれらの現状をふまえて,細かい点にまでわたつて書いていただきましたが,ここではそれらの論文の間隙を埋めるような意味で,第一線でご活躍の先生方に,その豊富なご経験を基に,①診断におけるangiogra-phyの問題,②動脈に関して,③静脈に関して,④救急処置,の4つの問題点にしぼつて自由に話合つていただきました.

論説

上肢血管外傷の処置—初療の大切さ

著者: 柿木英佑 ,   上道哲

ページ範囲:P.1589 - P.1595

はじめに
 工場災害に併発する重篤な血管損傷が近年増加しつつある.なかでも,上肢血管外傷は他の主要臓器血管損傷にくらべて,生命に関する予後はよく,その多くは,第一線病院にて最初の処置がなされる.しかし,その初療が適正でないためにたとえ切断をまぬがれても,後日における上肢の機能に重大な影響をおよぼすことが多い.これまでに,私たちは,重篤な血管損傷を伴う上肢損傷16例(大阪市大2外科11例,厚生会高津病院5例)を診療した.すなわち,完全切断肢5例(成功2例),一部の皮膚や一部の神経のみにてかろうじて連続性を保つているほとんど切断肢5例(成功4例)およびその他6例(成功5例)である(第1表).その他とは,神経・筋・骨いずれか1〜3者の合併損傷を伴う重篤な血管損傷を意味するが,ほとんど切断例よりも解剖学的損傷の程度がやや軽度な例である.もちろん,単純な血管損傷のみの症例は含まれていない.私たちの経験から,上肢各レベルでの血管外傷処置上注意すべき点をのべるとともに,第一線病院での初療の重大さを強調したい.さらに,最近,私たちは,鈍性外力による非開放性四肢血管損傷の7例を経験し,その初療の大切さを痛感したので,ここにあわせて報告したい.

早期下肢静脈血栓症に対する手術療法の検討

著者: 上山武史 ,   永井晃 ,   土屋和弘 ,   黒田譲

ページ範囲:P.1597 - P.1602

緒言
 腸骨・大腿静脈血栓症は欧米では,古くから不愉快な後遺症を残す疾患として注目されてきたが,本邦では発生が比較的少なく,余り関心が持たれなかつた1),しかし,近年,体格の肥満化や食生活の変化などにより急速に増加の傾向にある.従来,本疾患に対して手術療法の永続的効果に疑問が持たれ2),もつぱら保存療法が優先してきたが,最近では血管外科,抗凝固療法などの進歩により,本疾患を外科的に治療せんとする傾向が強くなり,この予後が検討されている.
 特に,1965年Fogertyにより考案されたバルーン・カテーテルによる血栓摘除術が,高齢者や一般状態の不良な患者に対しても少ない侵襲で行ないうるようになり,本手技を中心とした手術方法が急性静脈血栓症に対する治療法の主流となつてきた3).しかし,全例が容易に開通し後遺症を残さずに治癒する訳ではなく,さらに,Palma氏手術4)や筋膜切開術の追加施行5),肺塞栓のさいの下大静脈結紮術などを症例により選択せねばならず,種々の問題を含んでいる.

前胸壁,鎖骨上部の悪性腫瘍に対する動脈内持続注入化学療法

著者: 宇都宮譲二 ,   馬来忠道 ,   小川伸一郎 ,   津屋旭

ページ範囲:P.1603 - P.1611

はじめに
 制癌剤の動脈内注入法は1958年Kloppら1)が頭頸部腫瘍に対してnitrogen mustardの間歇投与を試みたことによりはじめられ,その後,Sullivanら2)が代謝拮抗剤を用いた持続注入法を提唱し,今日その価値が高く評価されている.
 本法は頭頸部,肝腫瘍が最もよい適応とされていたが,われわれは骨盤内腫瘍に本法を用いる可能性があることをすでに発表した3)

学会印象記

第8回国際脈管学会

著者: 三島好雄

ページ範囲:P.1596 - P.1596

 去る7月24日から30目まで1週間にわたつて,第8回国際脈管学会(Union internationale d' Angeio-1ogie)がRio de Janeiroで開催された.カーニバルで知られるリオの町はまた,あくまでも青く澄み切つた空と海に,木々の緑が映えて美しく,落ちついたたたずまいを示し,学会会場にあてられたHotel Glo-riaからは朝に夕にリオの景観を十二分に堪能することができた.
 学会は主会場で特別講演とRo-und table discussionが,4つの会場でForum sessionが行なわれ,アスタ・マニャーナというお国柄のことで開会前には正直のところ多少危惧の念もあつたが,会長のProf.Mayallご一家の献身的な努力もあつたとかで,誠にスムーズに運営された.

症例

食道平滑筋腫について

著者: 秋山洋 ,   山崎善弥 ,   丹羽寛文 ,   藤原研司 ,   篠原幸夫 ,   木暮喬 ,   板井悠二

ページ範囲:P.1615 - P.1619

はじめに
 食道平滑筋腫は時折,症例報告としてみられるが,報告例の集計をみてもなお多数とはいえない.しかし,その報告例は年々増加しつつあるように思われる.本稿は食道平滑筋腫の症例報告をも兼ねてはいるが,その頻度について検討したいというのがねらいである.すなわち,われわれの食道癌症例の切除標本について,非癌部を少しく詳細に観察すると,小さい筋腫結節はまれならずみられることであり,程度問題の差こそあれ,食道平滑筋腫の頻度は比較的高く,これらを含めるとすれば,意外に多く存在するものといえよう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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