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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科27巻12号

1972年12月発行

雑誌目次

特集 外科と大腸—炎症性疾患を中心に

潰瘍性大腸炎患者の扱い方

著者: 進藤勝久 ,   安富正幸 ,   陣内伝之助

ページ範囲:P.1641 - P.1656

はじめに
 わが国で潰瘍性大腸炎に関心が払われるようになつたのはごく最近のことであり,学会誌などに臨床的研究が発表されるようになつてきた.日本には潰瘍性大腸炎はほとんど存在しないか,あつても稀であるという時代を経て,今や,半世紀以上も前から熱心に研究している欧米諸国の文献に目を通したり,視察に行くようになつたことは好ましいことかもしれない.しかしながら,わが国での最近の臨床誌に現れる研究発表には単なる外国文献の追試や,大腸の生理機能を無視した手術手技などが十分な検討も加えられずに発表されている感があるのは残念なことである.
 著者の一人進藤は最近,海外留学の機会を与えられて米国Temple大学大腸肛門外科(主任教授Harry E. Bacon)で臨床と研究に従事し,その最後の1年余をchief residentとして自ら執刀してきた。

潰瘍性大腸炎の診断—注腸レ線像を中心に

著者: 湯川研一 ,   林正也 ,   湯川永洋

ページ範囲:P.1657 - P.1666

はじめに
 いわゆる潰瘍性大腸炎は非特異性炎症性の大腸疾患の一つで,病歴および病状の把握,糞便検査,注腸レ線検査そして生検を含む内視鏡検査を行なつて初めて診断が下せる性質のものである.これらの項目はいずれも同程度に重要であるが,今回は大腸の全体的な様相が把握出来るという点から潰瘍性大腸炎のレ線像を中心に述べる.鑑別すべき疾患として比較的稀ではあるが現在の日本でもみられ,かつ診断学上興味あるものとして大腸結核および大腸のクロン病を挙げておく.

潰瘍性大腸炎の重篤度と手術適応

著者: 田井千秋 ,   田中早苗

ページ範囲:P.1667 - P.1675

はじめに
 定型的な症状経過をとる潰瘍性大腸炎の診断はさして困難ではない.症状が初発より重症で,急激に重篤化するものでは,診断も容易ではないが,その治療はなおのこと困難で,しばしば手術の時期を逸して不幸の転帰をとる.軽症あるいは中等症として,長年にわたつて保存的に加療されてきた本症が後で触れる種々の合併症,あるいは難治のために,外科治療をうけるといつた症例の方が実際には多いのであるが,外科領域で注目されるのは,頻度は少なくても先に述べたような激症型の重篤な潰瘍性大腸炎であると考える.一般に大腸疾患の多い欧米では,潰瘍性大腸炎の頻度も高く,諸家の報告を見ても500例以上の症例に基づく統計的観察が主である.幸か不幸か,本邦ではこれまでその発生頻度は低く,一施設で100例を越す報告をみない.最近になつて症例が増加しているような印象をうけるが,診断技術の進歩あるいは一般臨床医の関心が高まつたことなどによるものと思われる.特に外科的疾患として問題となる重篤症は未だ症例数も少なく一般臨床家にとつて重篤な本症はやはり一例一例きわめて個性的で,その経過,予後を経験的に推測できるといつた状態でないのが現状と考える.

潰瘍性大腸炎の外科的処置と術前・術後管理

著者: 小山真 ,   岩淵真 ,   和田寛治 ,   相馬剛 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.1679 - P.1687

はじめに
 潰瘍性大腸炎についてすでに多くの研究がなされているが未だにその病因は全く不明と云つてよく,したがつて内科的にせよ,外科的にせよ本症の治療は対症療法の域を出ず,完全な治療法は未だないと云つてよい.しかし多くの先人の努力により現在では一般に広く受け容れられる治療法が次第に確立されつつあると考えられる.わが国では1958年の松永の全国集計に始まり臨床経験を重ねてきたが,昭和44年12号の「胃と腸」における本症の特集と座談会の集録に現時点における総論とも称すべき優れた報告が載せられている.それに対し本年7月の消化器外科学会での多くの報告はその後の進歩も含めて外科領域におけるいわば各論ともいうべきもので,シンポジウムを中心に,より具体的に本症の治療につきわれわれが悩んでいる点が多く討議された.われわれも本症の術後処置についての経験を述べたのであるが,今回はその報告を中心としてさらに術前処置,手術法などについての経験を加えて本症の手術療法におけるわれわれの考え方をのべたい.症例についてのべる前に,外科の立場よりみた本症についての現時点での問題点をあげ緒論に代えたい.なお病因論については今回はふれない.

潰瘍性大腸炎の合併症と治療

著者: 久保明良 ,   舟田彰 ,   氏家紘一

ページ範囲:P.1689 - P.1697

はしがき
 潰瘍性大腸炎は,比較的近年までわが国においてはきわめてまれと考えられていたが,松永教授1)の第55回日本内科学会(1958年)における宿題報告以来,その報告例は急速に増加してきており,最近ではわが国においてももつとも重要な大腸疾患の1つとして注目されている.
 しかし,潰瘍性大腸炎の病因に関しては古くから種々の説があり2),現在なお解明されていない.したがつて本症に対する特異的療法はなく,内科,外科の両域に跨がる境界疾患として,その治療法についてはなお多くの問題がある.

大腸の非特異性疾患—とくに肉芽腫性大腸炎(大腸Crohn病)を中心に

著者: 土屋周二

ページ範囲:P.1699 - P.1710

はじめに
 外科的治療の対象となる大腸疾患のなかで重要なものに慢性炎症性肉芽腫性疾患がある.それらは炎症性腫瘤,狭窄,潰瘍などを形成し,臨床的には便通異常,下血,腹痛などを主症状とし,癌や他の良性疾患と鑑別を要するものが少なくない.このような疾患を示すと大略第1表のようで,原因の明らかな外傷,特異性・非特異性感染症と現在のところ原因不明なものに大別できる.後者の代表として慢性非特異性潰瘍性大腸炎(単に潰瘍性大腸炎といわれる)があるが,最近10年余りのうちに非特異性肉芽腫性大腸炎または大腸Crohn病といわれる疾患が独特の病像を呈する一疾患単位としてみとめられ,その治療の適応,長期間後の効果などについての検討21)44)もようやく行なわれるようになつた.わが国におけるこれまでの報告例や臨床的病理学的検討は比較的少なかつたが,ここに症例と内外諸発表をもとに本症の特徴を中心にのべてみたい.

潰瘍性大腸炎とまぎらわしい結腸結核の1手術例

著者: 高橋勝三 ,   徳永剛 ,   岩間毅夫 ,   福島雅子 ,   渡辺恵幸 ,   陳維嘉

ページ範囲:P.1711 - P.1713

はじめに
 松永などの報告以来わが国でも潰瘍性大腸炎がごくまれな疾患ではないと考えられるようになつたが,谷村11),永井7),池永4),槙5),高橋10),丸田6),湯川12)の報告が示すごとく潰瘍性大腸炎とまぎらわしい結腸結核があり,鑑別診断に際し念頭におかなければならない.われわれも同様の症例を経験したので報告する.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・11 胃疾患の肉眼診断

Ⅰ.早期胃癌の内眼形態とその鑑別—3.IIbおよびIIc+IIa型早期癌

著者: 佐野量造

ページ範囲:P.1638 - P.1639

 1.IIb型早期癌(症例12,13,14,15). IIb型早期癌は隆起もなく陥凹もしない平坦な癌である.平坦な癌を肉眼的に診断できるのはその部の粘膜が変色したり粘膜面のアレヤの性状が周囲と著しく異つている場合でなければ知ることはできない.現在IIbとして報告されている大部分の早期癌はIIaまたはIIcの癌で手術され,たまたま組織検索の結果,偶然に見出された例で術前にIIbとして診断され手術された例はほとんどない.
 IIb型早期癌は大別すると①全く平坦なもの(純粋IIbとも称されている),②IIa等の隆起癌に伴つているもの,③潰瘍またはIIcに伴つているもので②,③は随伴IIbともいわれる.

クリニカル・カンファレンス

潰瘍性大腸炎をどうするか

著者: 牧野永城 ,   新井健之 ,   池内準次 ,   矢沢知海 ,   細田泰之

ページ範囲:P.1718 - P.1735

≪症例≫
 患者40歳の女性.昭和44年11月頃より排便にさいし,紙に血がつくようになつた.その後,肛門出血が強くなり,某医に坐薬による治療などをうけたが,軽快しなかつた.
 昭和45年5月,ある診療所を訪れ,直腸鏡検査で,表在性潰瘍を認め,生検を行ない,潰瘍性大腸炎と診断されている.この頃より,下血と共に粘液の排出がみられるようになつた.プレドニンの内服または注腸による治療をうけ,一時症状が改善したこともあつたが,間もなく再び増悪した.昭和45年7月中旬より,38〜39℃の発熱と頻脈がみられるようになり,便通は水様,血性となつた.

論説

マイクロ波照射による肝切除法

著者: 逢坂愛児

ページ範囲:P.1739 - P.1746

はじめに
 1668年Blanchardによつて肝切除が行なわれて以来,Warivi1),Keen2),Van Prohasa3),Pack4),Brun-schwig5),石山6),本庄7)等によつて肝切除臨床例が報告され,その他,これらに関する多くの輝かしい研究業績があり,この間における抗生剤,麻酔,輸血法等の発展は肝臓外科にも著しい進歩をもたらした.さらに最近に至り,肝疾患の診断も肝シンチグラム,肝動脈造影法,門脈造影法,経皮肝内胆管造影法や,生化学的研究の発展に伴う酵素学的方法,また,α-feto glb.,オーストラリヤ抗原等の進歩著しく治療の実績もその効大なるものがある.しかしながら癌に焦点を置いて考えると,現在種々の検索が行なわれているにもかかわらず,未だその病巣切除が一番的確な治療方法である.一方これらの切除特に脆弱な実質臓器における切除にはさらに安全簡単確実な方法の開発が望まれる所である.肝切除の主要課題の出血制御,また断端の壊死,感染,胆汁瘻等の合併症の対策も一応の技術的解決を見てはいるが,これが実施は多大の労苦を伴い,未だ解決を見ぬ多くの問題がある.

吻合部潰瘍の外科的治療について

著者: 青木照明

ページ範囲:P.1747 - P.1753

はじめに
 現在,吻合部潰瘍(Stomal ulcer)といえば,消化性潰瘍に対して幽門側胃切除術を行ない,再建術として,胃・十二指腸吻合(BI),または,胃・空腸吻合(BII)を行なつた術後の吻合部に発生した再発潰瘍(recurrent ulcer)を意味することが多い.語源的には,1955年頃迄,潰瘍手術として盛んであつた.胃切除なしの胃・空腸吻合術の術後に発生した空腸潰瘍(jejunal ulcer)を意味していたもので,その後,消化性潰瘍に対する手術術式の変遷に伴い,種々の潰瘍手術の術後潰瘍をも含めて,anastomotic ulcer,marginal ulcer,jejunal ul-cer,recurrent peptic ulcer等と,なんとなく漠然と同義語として使われるようになつてきている.しかし,厳密にいえば,吻合部潰瘍必ならずしも再発潰瘍とはいいがたく,むしろ,潰瘍症の病態を十分に考慮しなかつた結果生ずるIatrogenic Diseaseであるとさえいえる場合もある.例えば,早期胃癌に対する胃切除術後の吻合部潰瘍などは,その典型であろう.

回盲部の非特異性潰瘍について

著者: 陳守一 ,   松林冨士夫

ページ範囲:P.1755 - P.1761

はじめに
 回盲部に腫瘍を形成する良悪性疾患は多い.最近特異性疾患や伝染性疾患によるものはしだいに減少し,それに代り非特異性炎症性肉芽腫,憩室炎,限局性腸炎など良性疾患によるものが多くなつてきた.したがつて,これらと悪性腫瘤との鑑別をせまられる機会が多く,しかも開腹しても悪性との鑑別が困難な場合が多い.非特異性疾患もまれな疾患であるが,これらの中の一つの疾患である.私どもは最近本症の三例を経験したので,この機会に本疾患についての今後の診療の参考の一部にでもなれば幸いと思い,この三症例に文献的資料を加えて,本疾患について述べてみる.

症例

肝臓放線菌症の治験例

著者: 原科孝雄 ,   松井康信 ,   田嶋定夫 ,   須藤政彦 ,   伊藤隆雄

ページ範囲:P.1763 - P.1766

はじめに
 放線菌症は戦前までは外科領域においてそれほどまれなものではなく,難治性の瘻孔を形成する疾患とされていたようである.しかし抗生物質の発達とともにその使用により発生頻度は激減し,またその治療成績も著しく向上している.最近われわれは肝臓腫瘍を疑い開腹し,組織学的に肝臓放線菌症であることが証明され,完治することができた症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

膵臓結核の1症例

著者: 内田道男 ,   根本浩介 ,   岩佐裕 ,   黒岩延男

ページ範囲:P.1767 - P.1770

緒言
 結核症に対する膵臓の素因の少ないことは古くから知られている.独立疾患としての膵臓結核は剖検報告においてもきわめてまれであり,臨床報告においては,現在まで本邦では10指に満たない.
 私達は,生来何ら結核の既往歴がなく,しかも肺を始め他の臓器にも臨床的に何ら結核性病変を認めることのできない膵臓結核の1例を経験し,治癒せしめたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

大腸に発生した異時性重複癌の3例

著者: 鈴木時雄 ,   西村五郎 ,   古賀敏睦 ,   黒須康彦 ,   山川知洋

ページ範囲:P.1771 - P.1775

はじめに
 同時性であれ,異時性であれ1個体に2個以上の原発性悪性腫瘍の発生をみた場合,原発性多発癌または重複癌と呼ばれ比較的まれなものとされているが,1879年Billroth1)2)によつて記載されて以来,比較的多くの報告がみられるようになつた.
 われわれは,初回手術後いずれも6年以上経過して異時性に発生したと考えられる大腸癌の3例を経験したので報告する.

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臨床外科 第27巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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