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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科27巻6号

1972年06月発行

雑誌目次

特集 皮膚切開法と到達法・Ⅰ

開頭術における皮膚切開法と到達法

著者: 坪川孝志

ページ範囲:P.747 - P.759

緒言
 いかなる手術にしても,その解剖学的,生理学的特徴に相応した手術手技があるのはもちろんであるが,とくに開頭術にさいしては,その特徴を熟知し,手術計画上に十分に応用されていなければ,たんに術後の感染,血腫,創の多開,機能障害などという問題のみならず,手術を完遂することすらできないのである.したがつて,開頭術を行なう際には,術前診断においても,病巣の局在のみならず,性状を知ることが要求され,その診断された病巣の特徴をも含めて,頭皮より脳組織までの各層における解剖・生理学的な特徴をとらえたうえで,皮膚切開の部位,方法を決定し,病巣への侵入法を術前に計画しなければならないのである.
 本稿では,開頭術に際してそれ程重要な解剖学的,生理学的特徴を概観し,その特徴は手術を完遂するためにどのように対処されているかを考え,次いで,この基本的事項をを考慮した開頭術に際しての皮膚切開法と侵入法について紹介したい.

気管切開

著者: 石原恒夫

ページ範囲:P.761 - P.765

はじめに
 近年,気管切開は喉頭の閉塞や狭窄に対してのみではなく,各種手術後の気道内分泌物の貯溜や喀出困難に対しても積極的に行なわれるようになつた.また昏睡状態にある症例,呼吸筋の麻痺がみられるような症例あるいは重症の胸部外傷とくにflail chestでは,気道内分泌物を自力で喀出することは不可能に近く,このような症例においては,気管切開により気道内分泌物を吸引し,気道を確保することは治療の第1歩である.
 気管切開の普及は大きな利益をもたらしたが,反面,合併症の増加をもたらしたことも事実である.一見簡単な手技に見える気管切開も正しい理解と確実な手技をもつて行なわなければ,重大な合併症を併発する手術であることを銘記すべきである.

甲状腺疾患の手術

著者: 原田種一 ,   西川義彦 ,   伊藤国彦

ページ範囲:P.767 - P.770

はじめに
 付表は,昭和45年度の伊藤病院における甲状腺疾患の手術施行例の性別である.この表でも明らかなように,甲状腺疾患のすべてを通じて,その手術施行例は,女性に圧倒的に多く,また若年者に多いのが特徴である.頸部は,女性にとつて,美容上重要な身体部分であり,最近では特に露出する機会が多い.
 したがつて,甲状腺疾患を含む頸部の手術は,創の大きさを最小限度にして,かつ十分な視野が得られ,手術瘢痕が目立たない,きれいな切開法が要求される."偉大な外科医である程,手術創もまた大きい."と言つて,無思慮で,無意味な切開をおこなうべきでなく,技術的な精巧性と,計画性が必要である.

耳下腺腫瘍の手術

著者: 北村武

ページ範囲:P.771 - P.777

はじめに
 耳下腺には多くの種類の腫瘍がみられるが上皮性腫瘍としては多形腺腫(混合腫瘍)がもつとも多く,ついで腺癌,中胚葉性腫瘍としては血管腫,リンパ管腫があるが,上皮性腫瘍と比較すると少ない.肉腫は非常に少ない.治療の面からみると良性,悪性,上皮性,中胚葉性,いずれも放射線,薬物療法が無効に近く,手術が唯一の望みのある治療法である1)
 耳下腺腫瘍の摘出を困難にする第1の理由はそのうちを後方から前方に向つて顔面神経が通過していることである2).しかも腺内で複雑に分岐と吻合をくりかえしている(第1図).それを傷つけることは麻痺を起こし,顔貌が醜くなり,2,3の生理機能の障害を起こすにとどまらず,患者に与える精神的な障害は計り知れないものがある.第2の理由は下から上に外頸動脈が通過していることである.しかも神経と同じように分岐をしている(第2図).その上随伴静脈を伴つている.

食道癌の手術

著者: 都築俊治

ページ範囲:P.779 - P.783

はじめに
 大家の手術を見学していていつも感ずることは視野がよいことである.臓器の解剖学的関係がよくわかるような手術野で楽々と,しかも確実に手術操作を行なつていることが大家の手術の共通点である.あれならば誰にでもできるなと思いながら後で自分でやつてみるとうまくゆくこともあるが,うまくゆかないこともある.後者の場合には大家がわれわれの気がつかないような細かい点にも工夫をしているためである.
 筆者は食道癌の手術についてまだこの方法がよいと断言できる程多数の手術経験を持つていないが,恩師,先輩,同僚の手術経験をも加えて,食道癌の手術にはこういうアプローチの仕方が一番良いのではないかと現在考えている方法について述べてみたい.

肺の手術

著者: 尾形利郎

ページ範囲:P.785 - P.790

はじめに
 肺疾患の皮膚切開創を決定するうえで重要な事項が4つある.
 第1は病巣,および病巣に到達するまでの局所解剖学的な把握であり,第2はその症例のもつ病態生理学的な状況の理解であり,第3はその疾患のもつ本質的な特徴の認識であり,第4はその手術が全体の治療計画上いかなる役割を演ずるかを念頭に置くことである.

縦隔腫瘍の手術

著者: 岡厚

ページ範囲:P.791 - P.795

はじめに
 近年麻酔学,術中術後の管理技術の著しい発展に伴ない,今日では縦隔腫瘍の手術は安全かつ比較的容易に行なわれるようになり,縦隔外科は全国に広く普及されてきたが,このことは曲直部,正岡の全国集計にも歴然と示されている.
 縦隔とは左右の胸膜腔,胸骨ならびに前胸壁,脊柱,横隔膜などによつて囲まれた一種の臓器間隙であつて,ここには心臓,大血管,気管—気管支,食道などの重要臓器が集中している.

乳腺疾患の手術

著者: 渡辺弘

ページ範囲:P.797 - P.803

はじめに
 乳腺疾患のうち手術治療を必要とする主な疾患には,炎症性病変(膿瘍)と腫瘍性病変がある.前者の最優先する治療手段は膿瘍の切開排膿であり,後者のうち良性腫瘍(線維腺腫,嚢胞,乳管内乳頭腫,乳腺症あるいは異物性硬結など)に対しては,腫瘍剔出,部分切除または単純乳房切断術が行なわれる.また悪性腫瘍(主として乳癌)に対しては腋窩廓清を伴う乳房切断術が普遍的な手術術式である.
 皮膚切開法は外科手術の第1段階であり,かつ最も基本的な操作である.したがつて機能を保存しつつ疾病の治癒をもたらすことは如何なる場合でも必須条件と見なしうるが,ことに乳腺疾患においては美容形成に関する技術を要求されることが多いためその方法に古くからいろいろ工夫がはらわれてきた.この論文では,われわれが日常実施している外科治療法について詳細に述べる.

心臓の手術

著者: 今野草二 ,   黒沢博身

ページ範囲:P.805 - P.811

はじめに
 心臓手術を行なう場合,もつとも大切なことは正確なOrientationをつけることであり,そのために最良の視野を得る必要がある.その到達法として3つの方法があるので種類と適応を次に示す.
 右側開胸 第Ⅲ肋間 右側Blalock-Taussig吻合術

胃癌の手術—とくに噴門癌について

著者: 岩永剛

ページ範囲:P.813 - P.823

はじめに
 現在の日本では,大学病院,専門病院のみならず,一般の病院においても胃癌の治療にたずさわる機会が多い.胃癌患者を手術する際には,単に胃を切除し,早期に手術状態より回復させ,1日も早く社会復帰させるのみならず,その患者を永久治癒させるために,手術時に胃周辺のリンパ節を十分に郭清し,場合によつては胃以外の他臓器をも合併切除しなければならない.それには,手術時に視野を広くして局所の操作を行ないやすくする必要がある.それ故に胃癌手術時の皮膚切開法が重要な意味をもつてくるわけである.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・5

肺癌Ⅲ

著者: 下里幸雄 ,   鈴木明

ページ範囲:P.734 - P.739

 Small Cell Anaplastic Carcinomas小細胞癌(Ⅱ),およびLarge Cell Carcinomas大細胞癌(Ⅳ)(WHO):小細胞癌は1.fusiform cell type,2.polygonal cell type,3.lymphocyte-like("oat cell")type,4.othersに分けられている.当センターでは小細胞癌は手術的に剔出した症例の約5%,剖検例の17%を占めている.その多くは区域支までの太い気管支に発生するが,末梢発生も稀ではない.太い気管支に発生したものでも末梢肺野の二次変化は扁平上皮癌の場合より軽度である.この癌は制癌剤,放射線に感受性が高いけれども肺癌のなかで予後の最も悪い腫瘍である.組織学的には,細胞質の量の少ない小型の細胞からなるが,組織発生のみならず,臨床的にも異つた幾つかの癌を含んでいる可能性がある.なかでも燕麦細胞型はしばしばロゼット形成,リボン状ないし索状配列を示し,カルシノイドと類似するものがあり,電顕的には100〜300mμの神経分泌顆粒様の顆粒を有し,さらにセロトニンやACTHを産生するものもあることなどから,現在ではKultschitzky cell(argentaffine cell)由来であるとする考えが強くなつてきた.

外科の焦点

胃切除術後縫合不全および通過障害に対する経鼻腔栄養管療法

著者: 渡辺金隆 ,   志村巌

ページ範囲:P.741 - P.745

はじめに
 近年消化管外科の著しい進歩に伴ない,胃癌,胃十二指腸潰瘍などの外科的療法は着実に成果をおさめ,その手術死亡率も毎年減少し手術成績は向上の一途をたどつている.
 当院にて1960年から1972年までの12年間に行なわれた胃切除症例1,380例の手術死亡率は11例0.8%できわめて低率である(第1表).死亡原因は縫合不全にもとづくと考えられる症例がもつとも多く11例中7例であり,全死亡例数の64%と重要な死亡原因となっていて諸家の報告とまつたく一致している.著者らは胃切除術の成績をより一層向上させるために,縫合不全を起こした症例の検討を行ない,また不幸にして縫合不全が発生した場合,その対策として当院で行なつている治療方針について検討を加え,諸家のご批判を仰ぎたいと思う.

論説

胆管ガス像の検討

著者: 久次武晴 ,   五十君裕玄 ,   古沢悌二 ,   許斐康熙 ,   安藤健一 ,   志村秀彦

ページ範囲:P.827 - P.832

はじめに
 近時胆道疾患に対する胆道造影法の発達は真にめざましいものがある.特に静脈内点滴による胆管撮影法(Drip Infusion Cholangiography,DIC)1,2),さらにこの点滴造影法に立体的胆道造影法(Stereocholangiography)3,4)を併用することが開発され成果を挙げつつある.しかるにこれらの症例の中には肝内胆管または肝外胆管内にガス像があり造影剤の胆管内への排出,充満が阻害され造影不良例が存在するのでこれら各症例の分析が必要である.特に胆管内ガス像の発生例は胆道系の手術後の症例に多く認められ注目される.ここに1965年から1971年4月までの当教室症例に検討を加え,いささか知見を得たので報告する.

Entire colon aganglionosisについて

著者: 浅倉義弘 ,   鈴木宏志 ,   大橋映介 ,   加藤哲夫 ,   杉村敬 ,   葛西森夫

ページ範囲:P.833 - P.838

はじめに
 Aganglionic segmentが全結腸に及ぶ,いわゆるentire colon aganglionosis,あるいはuniversal aganglionosisは,それ程多い疾患ではないが,診断のむずかしさ,術後管理,特に栄養管理のむずかしさなどの点から,通常のHirschsprung病とは別に扱われており,新生児外科の中でもかなり予後の悪い疾患の一つと考えられている.われわれは昭和46年12月末日までに本症を5例経験したが,わずかに2例しか救命することができなかつたので,死亡例を検討し,治癒例の経過を分析し,本症の治療上の問題点について臨床的検討を試みた.

盲腸憩室炎について

著者: 松林冨士男 ,   佐藤薫隆

ページ範囲:P.839 - P.845

はじめに
 最近レ線検査の進歩により,回盲部のレ線像も以前よりは診断的価値の非常に高いものが得られるようになつた.
 盲腸部憩室炎について以前は,ほとんど造影レ線検査もされず,大部分が虫垂炎として手術され,術後はじめて憩室炎であることがわかり,報告されていた.本邦文献(第1表)によれば,昭和39年までは27例の報告例があるが,そのうち1例に経口的造影レ線検査がこころみられたにすぎず,術前憩室炎の診断のついたものは1例も見当たらなかつた.昭和40年以降は報告20症例あり,11症例に造影レ線検査がこころみられている.そのうち7例に憩室を証明し,術前に正しい診断が下されるようになつた.7例のうち,筆者らの例を除き,すべて多発性憩室炎症例であつた.

胃粘膜の欠損と修復について

著者: 山際裕史

ページ範囲:P.847 - P.853

はじめに
 胃粘膜の欠損がどのように修復するかについては,欠損,修復の過程で,上皮が悪性化し得るか否かという問題とも関連があつて,重大な問題のひとつである.近年,内視鏡の進歩とあいまつて,胃生検が技術的に改良されて,かなり的確に,目的とする部分を採取することが可能になつてきた,従来,早期癌,異型上皮,ポリープ,潰瘍,慢性胃炎の各疾患における相関については,個々の成り立ちとともに推測の域を出なかったきらいがある.今後に残された胃疾患の成り立ちについては,生検という手段がもつと頻回に,有効に用いられて,おのおのの実体をつかむ努力がなされねばならない.
 本稿では,胃粘膜の欠損と,その修復について,生検例,手術材料を参考にして,考えてみたい.

症例

十二指腸平滑筋肉腫の1例および本邦十二指腸平滑筋肉腫の統計的考察

著者: 伊藤秀哉 ,   斎藤政見 ,   油田紘邦 ,   山口民夫 ,   松本好市 ,   鳥井孝雄 ,   三宅哲也 ,   藤野敏行

ページ範囲:P.857 - P.862

緒言
 十二指腸平滑筋肉腫は,まれな疾患であるが,近年臨床報告例が増加している1-3).最近われわれも腹部腫瘤を主訴として来院し,低緊張性十二指腸造影,選択的腹腔動脈撮影などにより,十二指腸平滑筋肉腫を疑い,病理組織学的に確かめ得た1例を経験したので本邦臨床例の統計的考察を兼ねて報告する.

胃重複悪性腫瘍の1手術例—胃癌と胃細網肉腫が各々独立して併存した症例

著者: 犬飼治 ,   中神信男 ,   伊藤定雄 ,   田代勝州 ,   織田実 ,   宇野裕

ページ範囲:P.863 - P.869

緒言
 胃の悪性腫瘍の中で肉腫の占める割合は非常に少ないが,特に原発性胃細網肉腫は稀な疾患である.われわれは胃癌に胃細網肉腫を合併した1例を経験したので報告する.

足部再植の1例

著者: 熊谷力二郎 ,   神裕昭 ,   田村純一 ,   遠藤尚孝 ,   土田博

ページ範囲:P.871 - P.874

はじめに
 われわれは,最近,外傷による右足根部(Chopart関節部)におけるほぼ完全な切断足に対し,再植術を行なつた.その後6カ月間の経過を観察し,その切断足の機能回復に有効であつたとみとめた症例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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