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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科27巻7号

1972年07月発行

雑誌目次

特集 皮膚切開法と到達法・Ⅱ

胆石症手術における胆道への到達法

著者: 佐藤寿雄 ,   鈴木範美

ページ範囲:P.893 - P.899

はじめに
 胆道系の手術に際して広く用いられる皮膚切開法は,右肋骨弓縁切開(r.subcostal incision,r.Rippenbogenrandschnitt),右副正中切開(para-median incision,paramedianer Kulissenschnitt)および右経腹直筋切開(r.rectus muscle-splitting incision,r.vertikaler Transrektalschnitt)で,上正中切開(upper median incision,Oberer Me-dianschnitt)も用いられる(第1図).しかし,このほかにも胆道へ到達する皮膚切開法としては,数多くの方法が考案されている(第2図).いずれにしても,胆道系は比較的深部に位置するから,肝臓,十二指腸,膵頭部,胃幽門部,門脈などを十分確認できる手術野を確保することが必要である.また,患者の胸郭,肝臓の位置,疾患の種類,腹壁の厚さ,皮下脂肪の状態なども十分考慮して皮膚切開を選択しなければならない。一方,皮膚切開に際しては,腹壁の筋肉や神経の損傷を最少限にとどめることも考慮されなければならない.

肝臓の手術

著者: 菅原克彦 ,   柏井昭良 ,   三谷進 ,   河野信博

ページ範囲:P.901 - P.906

はじめに
 外科治療の対象となる肝疾患は,外傷,腫瘍,炎症などが主なものであり,従来いろいろの皮切法により肝臓に到達する術式が行なわれている.肝臓の脈管分布を中心とした肝区域の概念をとり入れた肝葉切除時の出血制御の工夫や,肝の限局性病変を診断する技術が普及することなどにより,肝葉切除の適応は拡大されつつある現況といえよう.このような背景の下に肝臓の病変部に安全かつ正確に到達するための皮切法はあらためて検討を要する課題の一つである.
 肝切除術が行なわれる際には対象となる病変に肝の悪性腫瘍が多い.肝腫瘍が存在すると肝が著しく圧排されていることが多いため,癌が占拠する肝葉が切除可能であるか否かを局所的に診断するには十分な視野を必要とする.また肝外傷時では,切除か,保存的に扱うかを判定するためにも同様に十分な視野が要求され,皮切もかなり大きいことを要するようになつてくる.したがつて従来から行なわれてきた皮切法はこの目的に合致しないものが多いように思われる.

直腸癌の手術

著者: 安富正幸 ,   村井紳浩 ,   進藤勝久

ページ範囲:P.907 - P.913

はじめに
 直腸は消化管の下端約15cmを占めており,上方はS状結腸に続くとともに,下方は2〜3cmの肛門管を経て体外に開口している.第2仙椎下縁より歯状線までの範囲が解剖学的な直腸であるが,実際にはS状結腸との移行部であるrectosig-moid(仙骨岬より第2仙椎まで)をも含めて直腸と呼んでいるようである(第1図).従つて直腸癌といつても,rectosigmoidや骨盤部直腸に発生した癌は腹膜に被われた腹腔内臓器の癌であるし,腹膜反転以下の癌とくに肛門に近い直腸癌は腹腔外の癌であるばかりでなく,肛門より容易に指で触れることさえできる.このように同じ直腸癌でも解剖学的にはかなりの違つた部分から成つているので,その手術術式もFaget(1739)1)以来今日まで極めて多くの術式が報告されている.今回は皮膚切開と到達法という観点からこれらの手術術式に検討を加えてみたい.

虫垂炎の手術

著者: 渡辺晃 ,   加畑治

ページ範囲:P.915 - P.921

Ⅰ.虫垂炎の多様性と外科医の態度
 虫垂切除とひとくちに言つてもその難易は年齢,性別,肥満度,移動性,位置異常ならびに炎症の程度など,それぞれの組合わせによつて千差万別であるのできわめて簡単容易でもあるが尋常一様に行かないものも多く種々雑多である.従つてこれらを完全にマスターするにはやはり10年からの経験を必要とするであろう.そして如何なる症例をも正しく手術することはなかなか難しいものである.そういう訳でタカをくつて手術に臨んではならないことをまず銘記すべきである.たとえばかなりベテランの外科医が安易な気持で手術を始めたところ虫垂がなかなかみつからず,やつとみつけたところ虫垂間膜がちぎれたりして出血が多くなんとか止血をしているうちに時間は経過し腰麻はきれてくる.内容はなかなかおさまらず四苦八苦して手術を終り,なんと拙ない手術だつたろうと嘆息し情なくなることは,恐らく外科医たるもの誰しも一度ならず経験するところであろう.このようなことが何故起こるかということを反省してみると,アッペだというので患者をろくにみないで手術を始めたり,準備が悪い.皮切が悪い.麻酔がよく効かない,助手が悪いなど様々な悪条件が重なつている場合が多く必ず原因があるわけで心すべきことと思つている.

小児の腹部手術

著者: 井上迪彦 ,   田村重宏 ,   石田治雄 ,   勝俣慶三

ページ範囲:P.923 - P.931

はじめに
 病巣へのアプローチの第一歩として皮膚切開は手術操作のうちでも重要な意味をもつている.不適当な皮膚切開は手術に多くの時間を費やすばかりでなく,手術が不成功に終る危険もある.しかし,外科医あるいは病院の能力,教育の方式,伝統,疾患や患者の条件などに差があることから,実際には,一つの手術に対して,ある定められた皮膚切開法だけが有効であると画一的に論ずることはできない.どのような場合にも,手術書に記載されている,いろいろな皮膚切開法のなかから各人の経験によつて自信のある手馴れた方法を選んで行なえばよいわけであるが,小児外科手術では,通常成人の手術にもちいられる皮膚切開が通用しない場合や,新生児,乳児であるために留意しなければならないこともある.ここでは主として新生児,乳児の手術を中心に,われわれの経験をもとにして各疾患の病巣への到達過程とその処理の要点を述べたい.

小児外そけいヘルニアの皮膚切開

著者: 角田昭夫

ページ範囲:P.933 - P.937

はじめに
 皮膚切開は二つの目的にかなうよう選ばれるべきである.まず手術のやりやすい切開であること,次に創面ができるだけきれいに仕上ることの2つである.第一の目的が主目的であるが,術後の創面ができるだけ目立たぬように,かつ機能的にも支障のない皮切を選ぶことはメスをとるものの,当然の義務であろう.
 古典的にいわゆるLangerの皮膚割線(Spalt-linien der Haut nach Langer)があり,皮膚切開線がこれに一致した時は,治療瘢痕は最も美しく,ほとんど細い線状創を残すのみという.ただし形成学的見地からは,Langer線よりも,皮膚の張力や皺の方向,身体表面の接合部に平行した皮膚切開の方が,皮膚の張力が減少するため,創面治癒が容易で,かつ瘢痕も目立ないという14)

腎臓の手術

著者: 中村宏

ページ範囲:P.939 - P.943

はじめに
 皮膚切開法の選択は次のような因子によつて決められる.
 ①腎疾患の種類
 腎周囲膿瘍,膿腎症などの場合には腰部到達法を選ぶべきで,経胸膜到達法,経腹膜到達法は禁忌である.一方腎悪性腫瘍の場合には経腹膜到達法により,腫瘍を処置する前に腎茎を結紮して,腫瘍細胞が流血中に入るのを防ぐようにする,馬蹄鉄腎や偏位腎では皮膚切開を通常より下方に置く必要のあることが多い.

末梢血管の露出法

著者: 神谷喜作

ページ範囲:P.945 - P.951

はじめに
 末梢血管といわれる範囲は,どこをさすのか一定していない.広く解釈すると心臓および頭蓋内血管をのぞく全血管を含むが,狭く考えれば四肢の血管ということになる.つまり,上肢の場合には胸腔外の鎖骨下動静脈以下を意味し,下肢の場合は腹膜外に到達しうる総腸骨動脈以下を考えたらよいと思う.大動脈,大静脈から分枝する内臓への血管—腹腔動脈,上腸間膜動脈,下腸間膜動脈,腎動静脈,および門脈系も,通常,末梢血管として,血管外科の対象とされているが,本論文の目的とする皮切,到達法という観点からみると,すべて正中開腹によりそれぞれの血管に到達するわけであるから,一応省略することにする.
 従つて,本論文においては,四肢血管と頸動脈の露出法について述べることにする.そして,まずそれぞれの動脈について記載し,静脈は特に必要な場合にのみ,ふれることにする.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・6

肺癌Ⅳ

著者: 下里幸雄 ,   鈴木明

ページ範囲:P.886 - P.891

 悪性度の低い肺癌:Carcinoid Tumorsカルシノイド(Ⅵ)ならびにBronchial Gland Tumors気管支腺腫瘍(Ⅶ)(WHO):(Ⅶ)は1.Cylindromas(adenoid-cystic carcinomas腺様嚢胞癌),2.Mucoepidermoid tumors(粘表皮癌),3.Othersに分けられている.これらは従来腺腫としてあつかわれていたが,時に転移し致死的となる.比較的稀な腫瘍で,国立がんセンターで切除した肺腫瘍400例中カルシノイドは4例,腺様嚢胞癌は2例,粘表皮癌は3例にすぎない.
 カルシノイドの頻度は欧米に比べかなり低い.この多くは主・葉・区域・気管支に発生しポリープ状に内腔に突出するが,末梢発生のものも時にみられる.30〜40歳台に発見されるものが多い.随伴症候として,カルシノイド症候群の他クッシング症候群を伴うものもあり,気管支ならびに気管支腺上皮内に存在するKultschitzky cellから発生すると考えられ,また燕麦細胞癌との関連が論議されている.5年生存率は57〜95%といわれている.

クリニカル・カンファレンス

穿孔性腹膜炎をどうするか

著者: 牧野永城 ,   桜井健司 ,   星野喜久 ,   飯島勝一 ,   高橋勝三 ,   熊谷義也

ページ範囲:P.954 - P.971

カンファレンスをはじめるにあたつて……
 このカンファレンスの趣旨は,CPCとか,症例報告のようなめずらしいものを討論するというのではなく,外科医が日常遭遇する症例,実は,その中にいろいろな問題を含んでいることが多いが,そういうものを手近な症例から拾いあげ討論しようというものである.今回は穿孔性腹膜炎の手術例をとりあげた.

研究

子犬における完全経静脈栄養時の脂質代謝の検討

著者: 古賀禧子 ,   池田恵一

ページ範囲:P.975 - P.981

緒言
 小児外科領域では栄養管理上,完全経静脈栄養を要する場合がある.中心静脈栄養法がWilmore and Dud-rickにより確立され1),以来高張栄養輸液が比較的安全に投与可能となり,最近では小児外科領域のみならず,成人外科領域においても中心静脈栄養法によるhype-ralimentationさらには完全経静脈栄養が試みられている.小児においては完全経静脈栄養を行なう場合,1日必要熱量は月齢により多少異なるも,体重当り100Cal/kg/day前後であり,その際の熱量源として脂肪乳剤の占める役割は大きい.その投与量は生理的状態である経口栄養の場合の栄養比率を考慮すると,体重当り4g/kg/day前後となる.今回三大栄養輪液を併用し,完全経静脈栄養を子犬を用いて行ない,脂質代謝につき興味ある知見を得たので報告する.

論説

脳肺吸虫症の外科的治療

著者: 東健一郎

ページ範囲:P.983 - P.990

はじめに
 肺吸虫(肺ジストマ)(Paragonimus wester-mani)は東洋諸国に広く蔓延する寄生虫で,かわにな(河貝子)を第1中間宿主とし,川蟹またはざりがにを第2中間宿主とする.人体への寄生は,川蟹やざりがにを生食または半生食することによつておこる.
 肺吸虫の寄生部位は主として肺であるが,異所寄生をすることも多く,肺以外の寄生部位として最も多いのが脳であるとされている.

総胆管嚢腫—特にレ線診断ならびに手術術式に関する検討

著者: 松本陽一 ,   木村健 ,   河合克郎 ,   津田誠 ,   陳銓忠 ,   西山章次

ページ範囲:P.991 - P.998

はじめに
 総胆管嚢腫は,1905年佐久間の報告以来本邦においては多数の報告がみられ,1969年のLee等による集計500例の約1/3を本邦報告例が占めていることからも先天性胆道閉鎖症とともに本邦では特に重要視すべき疾患の1つであろうと考える.
 われわれは過去1年間に本症の5例を経験したが,うち4例において経静脈的嚢腫造影に成功し,不成功であつた1例は 131I Rose Bengalによるシンチフォトで本症の診断を得ることができた.全例に嚢腫剔出術を施行したが,うち1例には本邦最初と思われる肝管総胆管吻合術に成功したので,われわれの行なつている嚢腫造影法および手術方針を検討し報告する.

症例

左下肺野の転移性腫瘍と見誤られたコレステリン性肋膜炎の1手術治験例

著者: 船木治雄 ,   大田早苗 ,   布施勝生 ,   宮原透 ,   渋沢喜守雄

ページ範囲:P.999 - P.1004

はじめに
 1882年にThomus Churton7)が肋膜腔滲出液中にコレステリン結晶を多数に認める肋膜炎を「コレステリン性肋膜炎」として報告して以来,わが国のみの報告でも,1915年から1955年までに約100例を数えている.それ以後のまとまつた報告はみられないが,われわれは,最近,左下肺野の限局性転移性腫瘍と診断し,手術の結果,コレステリン性肋膜炎という組織診断をえた珍しい症例を経験したので,ここに報告し,諸家のご批判を仰ぎたい.

乳児にみられた上腕動脈閉塞による指壊死例

著者: 大原到 ,   高宮誠之

ページ範囲:P.1005 - P.1010

はじめに
 乳幼児にみられる四肢の循環障害は稀なものであるが,欧米の小児外科教科書1-5)10)では一般にこの問題を四肢の壊死として一項目をもうけて取り扱つている.本症の概略を述べれば,誕生時または誕生後数週以内に突然上,下肢の一部がチアノーゼを呈し,冷感等明らかな血流障害がみられ,指趾尖端あるいは下腿,前腕が壊死に陥る.発熱,皮下出血斑,敗血症症状,脱水状態,ショック状態等を伴つていることが多く,末梢血管の攣縮または血栓により,血流障害の原因になるといわれている.治療法としては一般状態の改善をはかるが,壊死に対しては感染を防ぎ,組織が乾性壊死により自然に脱落するのをまつか,生体の中毒症状の程度により切断術が行なわれている.
 昭和46年畑埜等13)は生後3ヵ月および6歳の乳幼児の指にみられた末梢循環障害例を報告し,1例は両指の自然脱落,1例は薬剤により治癒したと述べ,本症の存在に対して世人の注意を喚起した.われわれは生後11ヵ月の乳児で原因不明の上肢動脈閉塞により示指が壊死に陥つた症例を経験したので報告する.

小腸に発生し一部悪性化せる神経線維腫の1例

著者: 贄田茂雄 ,   梅津武美 ,   菅谷彪 ,   渋谷一誠 ,   木村孝哉 ,   梁盛強

ページ範囲:P.1011 - P.1015

緒言
 本来神経線維腫は神経組織のあるところであれば身体のどこの部分に発生してもよいものである.一般的には悪性変化が少なく,多発性に皮膚を主体として発生してくる神経線維腫症として知られている.今回われわれは小腸に単発に出現し,かつ悪性化を呈する稀なる神経線維腫の一例を経験したので報告するとともに,本邦における小腸神経線維腫の集計を行ない若干の文献的考察を加えた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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