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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科27巻8号

1972年08月発行

雑誌目次

特集 胆道外科のPitfall

胆石症診断の落し穴

著者: 綿貫重雄 ,   和賀井和栄 ,   小幡五郎 ,   大原啓介 ,   木村靖宏 ,   橋場永尚

ページ範囲:P.1037 - P.1043

はじめに
 診断上の見落しとか,適応を間違つたという経験は誰にでもあると思う.それを落し穴とすれば,知らずに落つこちることもあろうし,十分警戒しても落つこちることもあろうし,また警戒し過ぎて穴ならぬ石に蹴つまずくこともあるであろう.時には落し穴というよりも,自ら墓穴を掘るといつた方が適切な場合もないとはいえない.ところで,"こんなことが何故気がつかなかつたのか"というようなこともある.しかし結果からみて"何だこんなものを!"というのは易しい.クイズの答をみてから解くようなものであるから.しかし,われわれが日常直面するのは,どうやつても予め答えを知ることのできぬ問題である.ところで,他人の失敗を聞いてもそれほどためにならないこともある.それは正答つきの問題集に似たところがあるから.そういうことを前提においた上で,落し穴をさがしてみよう.

胆石症手術における偶発症

著者: 佐藤寿雄 ,   松代隆

ページ範囲:P.1045 - P.1051

はじめに
 最近,胆石症の手術はややもすると安易に行なわれる傾向にある.しかしながら,胆道系は解剖学的に複雑な部位であり,しかも先天性異常も少なからず見られるので,胆道系に高度の炎症を伴う場合や再手術例で癒着が高度の場合には,術中の思わぬ偶発事故や術後の合併症をみることも少なくない.また一旦このような事態が発生した場合は,その対策に苦慮することがしばしばである.今回は教室で経験した胆石症手術の際の偶発症についてのべ,その手術成績および対策について検討を加えて報告する.なおここでいう偶発症とは術中の偶発事故および術後の合併症を意味するものとする.

黄疸を伴つた胆石症

著者: 内藤行雄 ,   西川正一 ,   上山健弘 ,   有本重也 ,   松岡国雄 ,   安田正幸 ,   上山庸弘

ページ範囲:P.1053 - P.1060

はじめに
 黄疸を伴つた胆石症は,伴わない胆石症に比して診断,治療,予後のあらゆる面で問題をかかえていて,学会の主題にされたり,雑誌その他に掲載されたり,ほとんどつくされた感があるものの,まだまだ不明の点が残されており,実際に臨床でケースに当ると戸惑いをすることもある.
 私どもは幸いケースに恵まれ,殊に1965年頃から胆石症手術は急激に増加した.黄疸を伴わない胆石症はまず問題はないとして,伴つたもののなかで,予後のわるかつた症例,期待に反した症例,不可解であつた症例などを中心に検討を重ね,これらのPitfallに再び陥らぬよう自省の資ともなし,諸賢の厳しい批判を期待するものである.

胆管炎の臨床—特に急性胆管炎を中心とした考察

著者: 菅原克彦 ,   田島芳雄 ,   玉熊正悦 ,   柏井昭良 ,   三谷進 ,   河野信博

ページ範囲:P.1061 - P.1070

はじめに
 胆石症の手術成績は,高齢者や肝外閉塞性黄疸を伴うもの以外では手術による直接死亡は1%以下であり,外科手術成績は良好である.しかし既往に胆石症などのために胆道系に手術操作を加えた症例にみられることが多い急性化膿性胆管炎は,胆管の狭窄と炎症を主病変とし,正確な診断と時機を失せぬ救急手術を行なわぬ限り予後はきわめて悪い.本疾患は1877年にCharcot1)が記載して以来,病因,経過が特異であるために注目されてはいるが,臨床症状が幅広い2)ために報告者によつて定義が一定でないきらいがある.本症は近時広範囲スペクトラム化学療法剤が汎用されるようになり,典型的な症状をみぬうちに一時的に軽快することもあり得るが,胆管の閉塞が解除されぬ限り,感染をくりかえして重篤な経過をたどるにいたるため多くの注目を集めてきた.本稿では胆管炎ならびに急性化膿性胆管炎の定義,さらに急性化膿性胆管炎にいたる前段階で積極的な治療を行なう根拠となる症状などについて自験例を中心にのべる.

胆石症と胆道癌

著者: 代田明郎 ,   三樹勝 ,   藤島義一 ,   清水淑文 ,   寺岡資郎 ,   吉岡正智 ,   田尻孝 ,   岡田靖朗 ,   斉藤裕

ページ範囲:P.1071 - P.1081

はじめに
 「胆石症と胆道癌」と並べると,片や良性の代表的胆道疾患であるし,片や悪性疾患であるから,これを誤診するなり,処置を誤つた場合には,患者の予後に関与すること大であるのは言を俟たない.ところが,皮肉なことにこの良性と悪性の両者の疾患が併存することがしばしばあり,これが特徴でもあること,また両者の臨床症状に差異が全く見出せないことの多いことが,われわれ外科医にとつての泣きどころでもある.例数から申せば,圧倒的に前者の方が多いのであるが,さりとて安心していると,時たま後者の症例に遭遇して苦い経験をする.つまり落し穴(pitfall)に陥るわけで,現時点では避けることのできない宿命のようにも感ぜられる点もあるが,しかしながら過去のこれらの経験例を整理してみると,このpitfallに陥らぬような対策がおのずから見出されるような気もする.そこで自らpitfallに陥つたような症例1〜2を述べ,その反省の上にたつて一般的な対策を述べてみたい.

胆道および周辺の血管異常

著者: 宮崎逸夫 ,   木南義男

ページ範囲:P.1083 - P.1089

はじめに
 胆道などの手術に際し,その血管系の異常のため予期せざる不良な結果を招来することが時に経験されるところである.胆道系の血管とくに動脈の走行異常が稀ならずみられるところであるが,ここでは肝動脈および門脈系を中心に,その異常について述べ,これらの血管損傷の病態とその対策について検討してみたい.

肝内結石症

著者: 梅園明 ,   尾形佳郎 ,   島伸吾 ,   佐久間正祥 ,   小林武夫 ,   小方卓

ページ範囲:P.1091 - P.1097

はじめに
 胆石症の治療成績はその診断法,手術の進歩とともに著しい向上がみられているが,胆管結石症,特に肝内結石症はなお多くの問題を残しており,胆石症の中で最も外科医を悩ますものといえよう.
 肝内結石症の病態は多様であり,術前,術中を通じて,これを正確に把握することは必ずしも容易でなく,その見落しによる再発,再手術は少なくない.一方その手術術式の選択についても一定したものはなく,外科医に困難な判断を要求するものである.

胆道外科の合併症—胆道癌手術症例について

著者: 中山和道 ,   斉藤敏比古 ,   吉田晃治 ,   池田明生 ,   中山陽城 ,   小島伸彦

ページ範囲:P.1099 - P.1106

はじめに
 胆道外科は黄疸,解剖学的特殊性などのため胃,腸の外科にくらべ診断,治療に多くの困難な点が残されており特に胆道癌は合併症も多く予後も悪い.今回は胆道外科の合併症の内,胆道癌の合併症について当教室手術例で死亡例を中心に検討し,その対策についてのべてみたい.

胆石症再手術からみた落し穴

著者: 香月武人

ページ範囲:P.1107 - P.1117

はじめに
 後天性良性胆道疾患の手術治療はすでに確立されたものと喧伝される傾向にあるが,手術直接死亡率はなお1〜3%,遠隔成績不良例も10〜15%に見られ(秋田ら,1971),臨床医学の理想域には未だしの感が深い.本邦でも胆石症は甚だ一般的な疾患で,その手術治療は広く実地臨床医家において行なわれている現状であるが,胆石症再手術の頻度は欧米の5%前後の約2倍10%前後と報告されている.本邦において胆管内ビリルビン系石,ことに肝内胆石が多い事実が再手術高頻度の主たる理由ではあろうが,解剖学,生理学的に甚だ複雑・微妙な胆道系の十分な認識に立脚する熟達した手術適応,手術手技によらない,安易な胆道手術が高い再手術頻度に反映している可能性も否定できない.制度的には,大部分の手術治療が行なわれる実地臨床医家における貴重な経験と反省が集大成されて,すべての臨床外科医の研鑚の資料となり得ない現医療体制の欠陥にも起因しよう.以下教室の経験を中心に検討を加え,再手術症例からみた胆道手術のpitfallの2,3を呈示する.

特殊な胆道疾患の外科

著者: 浅倉義弘

ページ範囲:P.1119 - P.1125

はじめに
 小児にみられる先天性疾患の中には,病像も治療法も成人の疾患とはかなり趣を異にしているものが多い.胆道系の先天奇形もその一つで,成人の外科の常識では,しばしば取り扱いに困難を感ずることがある.特に先天性胆道閉塞症は,大部分が胆内胆管も発育不全で1,2),成人の閉塞性黄疸とは全く異なつており,その特殊性を知らないと正しい診断や治療は困難である.先天性総胆管拡張症もその例外ではなく3),単純に成人外科の常識のみで処理しようとすると,思いがけないpitfallに出合うことがある.以下,胆道系の特殊疾患としての先天奇形の診断や治療に関して,しばしばおち入りやすい誤ちとその対策について,自験例を中心に述べてみたい.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・7

肺および肋膜の良性腫瘍

著者: 下里幸雄 ,   鈴木明

ページ範囲:P.1030 - P.1035

 肺の悪性腫瘍と鑑別すべき疾患は炎症性の病変を含めて数多いが,この中でも本邦で比較的しばしば経験する胸腔内の良性腫瘍あるいは腫瘍様の病変を2号にわたり示してみよう.今回は肺ならびに肋膜の腫瘍を選んだが,この種の病変は国立がんセンターにおける切除した肺腫瘍の約5%を占め,その大多数は"Sclerosing he-mangiomas硬化性血管腫"およびHamartomas過誤腫である.臨床的にこの2つの腫瘤は末梢発生の低分化腺癌,扁平上皮癌,大細胞癌,"悪性度の低い肺癌",肉腫,転移性腫瘍などとの鑑別が問題になる.しかし,気管支造影や血管造影などにより多くの場合推定が可能である.にもかかわらず術前の確診が不可能であるから,手術に際しては腫瘤のincisional biopsyやenucleationを避け,肺の部分切除ないし区域切除による腫瘤の完全摘出,次いで迅速凍結切片診断の手順を履むことが望ましい.肺癌と鑑別すべき良性の病変として,WHO分類にはこの他にplasma cell granulomas,pseudolymphomasなどが記載されているが,これらは極めて稀である.

クリニカル・カンファレンス

複雑な急性胆嚢炎をどうするか

著者: 牧野永城 ,   星野喜久 ,   桜井健司 ,   梅園明 ,   飯島勝一 ,   高橋勝三

ページ範囲:P.1128 - P.1146

 なんでもないような日常の診療にみられる症例が,実はそれぞれに異なつた,しかも拾い出せば出すほど多くの問題を抱えている.具体的な症例を中心に種々の問題を想定して,その実地診療を討論しようというのが,この欄の趣旨である.今回は,複雑な急性胆嚢炎をとりあげた.

学会印象記

第72回日本外科学会

著者: 都築俊治

ページ範囲:P.1148 - P.1149

 第72回日本外科学会は京都大学木村忠司教授を会長として3月28日から3日間京都市岡崎の京都会館において開催された.
 臨床外科の求めに応じて学会印象記を書く訳であるが,個々の演題に対する感想に中心をおくよりも学会に対する全体的な感想を書いてみたいと思うのである.それは外科学会のあり方についての討議が最近2,3年程活発に行なわれたことはないと思うからである.この線に沿つて一会員としての率直な感想を書いてみるのも無益ではあるまいと考え,あえて妄言を書くことにした.

論説

原発性胃肉腫について

著者: 花田弘義 ,   赤岩正男 ,   斉藤敏比古 ,   成田征四郎 ,   藤瀬嘉則 ,   藤岡康彦 ,   笠原卓 ,   山口芳 ,   小島伸彦 ,   中山和道 ,   工藤殷弘

ページ範囲:P.1153 - P.1161

緒言
 胃に原発する悪性腫瘍の大部分は癌腫で,非上皮性腫瘍である肉腫に遭遇する場合は稀である.そのため臨床診断は困難であり,大部分は手術を行なつて摘出される標本の組織学的所見,または剖検にて診断されている.
 われわれは最近興味ある原発性胃肉腫2例を経験したので報告し,あわせて教室にて経験せる症例を加えて文献的考察を試みたい.

症例

腸間膜嚢腫の1治験例と文献的考察

著者: 相川直樹 ,   吉崎聡 ,   鴇田典夫 ,   渡辺仁七郎

ページ範囲:P.1165 - P.1169

緒言
 腸間膜嚢腫は1507年Benevieni1)が剖検時に小腸腸間膜にある嚢腫を最初に発見記載したといわれており,その後1842年にはRokitansky2)による腸間膜の乳糜性嚢腫の報告が見られるが,外科的治療を初めて行なつたのは1880年Tillaux3)で,以来諸家の報告は600余例4)に達している.本邦では明治27年伊藤等5)がはじめて報告して以来180余例の報告がある.われわれは最近急性虫垂炎を疑つて開腹したところ腸間膜嚢腫と診断された1治験例を経験したので症例を報告し,あわせて本邦例の文献的考察を加えた.

興味ある骨Eosinophilic granulomaの1例

著者: 儀藤洋治 ,   古和田正悦

ページ範囲:P.1171 - P.1174

はじめに
 骨の破壊とその病巣に一致して腫瘤を形成する疾患として,Eosinophilic granuloma,Hand-Schüller-Chris-tian病やLetterer-Siwe病があり,これらは網内系に共通の所見を有するという見地から,Lichtensteinは三者を一括してHistiocytosis Xと言つている1).His-tiocytosis Xについては,病理学的にもまた臨床的にも,種々問題のあるところであるが,最近私達は頭部外傷後くり返し瘻孔を形成し,症状がきわめて進行性である例を経験し,約2年にわたつて経過を観察し得たので若干の文献的考察を行ない報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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