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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科27巻9号

1972年09月発行

雑誌目次

特集 出血治療のPitfall

出血源の探索

著者: 武藤輝一 ,   岩淵真 ,   和田寛治 ,   吉田奎介 ,   佐藤厳 ,   松木久 ,   藍沢修 ,   石橋清 ,   金井朋行

ページ範囲:P.1203 - P.1208

はじめに
 上部消化管からの出血のため緊急入院した患者に直面した場合,この出血が如何なる原因によって起こつたものであるかを知つて,一刻も早く治療の方針を立てなければならない.しかしながら出血の続いている場合,推測は可能であつても出血源を確認するということは仲々容易ではない.なんとかして出血源を確認したいという理由から,出血源の探索に当つて考慮すべきいくつかの点について申しのべてみたい.検査法の詳細については別項において他の方々が述べられるので,概要についてのべることにする.なおここで述べる上部消化管出血とはTreitz係蹄から口側の食道,胃,十二指腸,肝,胆道,膵などからの出血であることをおことわりしておきたい.

出血源の術前および術中検索

著者: 関根毅 ,   横山成紀

ページ範囲:P.1209 - P.1218

はじめに
 近年,レ線検査,内視鏡検査などによる診断法はいちじるしく向上したとはいえ,吐血および下血を主症状とする上部消化管出血に直面した場合,出血源を術前および術中に正確に診断することはきわめて困難である.ことに外科治療の立場からすると出血によりショック状態に陥つたり,全身状態の不良な場合には救急処置を第一義とするために十分に原疾患の診断と出血源の検索などを行なわずに手術を余儀なくされることも少なくない.実際には如何にしたら出血源を術前に診断できるか,さらには術中に診断できるかなど多くの問題を包含していることになる.そこで,教室における上部消化管出血例について主として術前および術中検索の成績を検討し,併せて出血源の検索における問題点について考察を加えてみたいと思う.

出血源に対するX線検査のPitfall

著者: 池内準次 ,   鈴木博昭

ページ範囲:P.1219 - P.1225

はじめに
 上部消化管出血の診断方法には,臨床的観察と相俟つて,X線検査と内視鏡検査が車の両輪のような位置にある.これらいろいろの検査を十分に結集して使用すれば,上部消化管出血の出血巣の診断は決して困難なものではない(Palmer E.D.の提唱するVigorous Diagnostic Approach).
 さて,X線検査は消化管疾患の診断には不可欠として長い間用いられ,さらに,最近では消化管内粗大病変は勿論のこと,ときには,mm単位の微細病変も推定あるいは確認されるという成績である.さらにまた,X線検査はその検査方法の容易さと,患者に与える苦痛が少ないことからその利用価値は大きい.他方,とくに最近おいては,内視鏡検査の方法が,その器具の改良,操作の熟達などと相俟つて,内視鏡所見の成績が手術所見,あるいは,病理組織などの成績によく近づくようになり,その利用価値は,消化管診断にはまた不可欠の方法となつている.

出血源の内視鏡検査

著者: 鈴木博孝 ,   竹本忠良 ,   遠藤光夫 ,   丸山正隆 ,   川田彰得

ページ範囲:P.1227 - P.1234

はじめに
 上部消化管出血に対する内視鏡検査は,従来,非常に慎重に行なわれていた.ショックがある場合には検査を施行せず,出血が止まつてからゆつくり2〜3日安全を確かめて,まずX線検査を行ない,さらに2〜3日おいて内視鏡検査を行なうといつた具合であつた.内視鏡による緊急検査はすでに胃鏡の時代から,Palmerによつて提唱されていたが1),日本では実行される例が少なく,ファイバースコープの開発によつてようやく内視鏡の本領を発揮しはじめた感がある.最近では,積極的なX線・内視鏡による緊急検査が行なわれるようになり,出血源の診断や治療方針の決定に大きな役割を果たすようになつた.第6回日本内視鏡学会総会—ファイバースコープ,(仙台,1964)第5回日本消化器病学会秋期大会—消化管出血,(鹿児島,1963),第28回日本臨床外科医学会—上部消化管出血,(1967),第13回日本内視鏡学会総会—上部消化管出血と内視鏡,(東京,1971),第2回日本消化器外科学会大会,(大阪1972)など数々の学会シンポジウムのテーマとして取り上げられ,出血に関する検討はいうにおよばず,外科と内科の協力の必要性,内視鏡検査の必要性と安全性などが確認されて来た.

出血源の血管撮影による探索

著者: 佐々木常雄 ,   木戸長一郎

ページ範囲:P.1235 - P.1240

はじめに
 消化器疾患における診断において選択的血管造影は病巣の局在,侵襲範囲,性状を詳細に示しうるようになり,その診断の質的向上に役立つている.消化管の出血巣の大部分はバリウム粥の経口投与による食道,胃・十二指腸および小腸,あるいは注腸による大腸の透視ならびに撮影によつて,それらの病巣の発見がなされている.
 しかし,出血中は検査のための体位変換が十分行なわれ難いこと,出血巣に凝血塊が貯溜して潰瘍底をおおいかくすため,バリウム造影検査によつては発見出来ない場合が時々ある.このような場合,選択的血管撮影法が出血巣の局在の発見,病巣の性状の描写に如何に役立つかについて文献的考察を行なうと共に,症例を中心に検討する.

上部消化管出血における救急出血源探索の手順と注意すべきPitfall

著者: 川井啓市 ,   井田和徳 ,   赤坂裕三 ,   中島正継 ,   多田正大

ページ範囲:P.1241 - P.1249

はじめに
 本邦においては,上部消化管出血に対して救急検査の必要が痛感されながらも,これが日常の臨床検査としてとりあげられて来たのは比較的最近のことである.私達が積極的に,内視鏡検査を術前検査としてとりあげたのは仙台における第6回日本内視鏡学会(昭39)で,Symposium「ファイバースコープ」のなかで「出血胃に対する観察」を担当してからである1).最近では第13回日本内視鏡学会(昭46)で「上部消化管出血」が2)シンポジウムとしてとりあげられるとともに同年PrahaでInternational Symposium for Urgent Endoscopy(1971)がもたれる等,現在では全体として次第に出血巣の早期診断に対する関心はまして来た3)
 しかしこのurgent endoscopyまたはurgentradiologyに対する理解は欧米ではPalmer(1951)のvigorous diagnostic approachまたはvigorous pandiagnostic management4)5)の考え方のように,比較的早く,幅広い関心でかつ積極的になされており,昨年6ヵ月間滞在した西ドイツのHannover医科大学での内視鏡検査の現況からみても,彼我にかなりの差を痛感させられたのである.

上部消化管出血における出血源の臨床特性

著者: 小林迪夫 ,   楊総三 ,   朔元則 ,   小川勇一郎 ,   井口潔

ページ範囲:P.1251 - P.1256

はじめに
 上部消化管出血には吐血・下血をともなつて致死的大出血をきたすものから,潜出血として認められるにすぎないものまで,その程度は様々である.
 潜出血例においては,多くの場合,充分な出血源の探索を行なう余裕があり,したがつて,その診断も比較的容易であるが,これに反し,吐血,下血をともなつた大出血例においては,患者riskの悪化により出血源の探索も大きな制約をうけるものである.

出血源不明の場合の対策

著者: 島津久明

ページ範囲:P.1257 - P.1264

はじめに
 上部消化管からの大量出血は日常の臨床上しばしば経験され,その救急処置・出血源の診断・治療方針・治療成績などに関して多方面から検討されているが,なお未解決の問題が少なくなく,現実に内科治療あるいは外科治療によつてかなりの死亡率が報告されている.とくに,来院時に出血源不明の場合には各種のショック対策による全身状態の管理と平行して,その原疾患の究明に努めることが肝要で,なるべく早期にこれを確認することはその後の治療方針の選定上にもきわめて重要であることはいうまでもない.しかし,急性の大量出血例では全身および局所の状況に制約されて出血源に関する十分な情報をえ難い場合も少なくない.
 本稿では,当教室における経験例および文献上の報告を参照して,吐血あるいは下血のために救急入院した症例における出血源の探索を中心に論説を試みたい.

診断困難な上部消化管出血の治療—とくに胃粘膜下動脈瘤破綻について

著者: 小坂進 ,   木下睦之

ページ範囲:P.1265 - P.1271

はじめに
 上部消化管の急性大量出血をおこす病態は数多くあるが,近年X線・内視鏡検査など診断技術の進歩によつて,出血病巣の性状と部位を明確に認知し,適切な治療を行ないうる段階に達しつつある.しかし,現在でも,病巣が微小な場合など,これらの検査法を駆使しても,病態を十分に把握し得ないままに,持続する出血に対処しなければならない例も決して少なくない.
 本年2月に大阪で開催された第2回消化器外科学会大会の主題のひとつに消化管出血がとりあげられ,静脈瘤出血・潰瘍出血・癌性出血を主体に多くの発表があつたが,病巣の確認が困難であつた出血例についても検討がなされた.そのなかの"外科的処置の困難な急性消化管出血"の演題で,信州大学第2外科から報告された症例は,本誌で企画された出血治療におけるPitfallの好個の例と思われるので,ここに,その抄録を引用する.「52歳男性で,空腹時の心窩部痛,吐血および下血のため,出血性胃潰瘍として当科へ入院し,即日手術を施行した.切除胃の粘膜には吐血・下血の原因となるような出血巣は認められなかつた.術後も吐血・下血が持続したので再開腹した.胃切開を施行し,胃内腔をみるに出血巣は発見できなかつた.以後も下血が持続し,10日後死亡した.剖検所見では,胃噴門部後壁よりの粘膜内小動脈瘤の破裂であつた」.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・8

縦隔腫瘍

著者: 下里幸雄 ,   鈴木明

ページ範囲:P.1186 - P.1191

 縦隔には,色々な腫瘍や嚢胞が発生し,時に肺癌との鑑別が問題になる.国立がんセンターで過去10年間に手術の対象となつた縦隔の腫瘤は悪性リンパ腫を除くと87例で,この中胸腺腫が26例で最も多く,次いで,奇形腫20例(良性15,悪性5),神経鞘腫13例,各種嚢胞9例,胸腺癌8例,リンパ節過形成3例などの順であつた.

外科の焦点

本邦における胃・十二指腸潰瘍に対する手術方針の現況

著者: 石川浩一 ,   島津久明

ページ範囲:P.1193 - P.1199

はじめに
 胃・十二指腸潰瘍の外科治療において,幽門側広範囲胃切除術は,もつとも普遍的な術式として広く採用され15,17),現実に減酸効果・潰瘍再発防止などの点において満足すべき成績をあげてきた.しかし,近年胃を広範囲に切除したのちに生ずるいろいろな術後障害(postgastrectomy synd-rome)がひとつの重要な問題として提起されるようになつた.また過酸傾向の乏しい胃潰瘍例に対する広範囲胃切除の意義に関しても批判が少なくなく18,19),その結果,切除範囲・切除部位・吻合法などについていろいろの工夫がこらされるようになつた.一方,Dragstedtら1)によつて提唱された十二指腸潰瘍に対する迷走神経切断術(以下迷切と略す)は幽門形成あるいは胃空腸吻合などの誘導術を付加することによつて評価に応えうる術式であることが実証されるようになつた.

クリニカル・カンファレンス

上部消化管の大量出血をどうするか

著者: 牧野永城 ,   杉浦光雄 ,   桜井健司 ,   鵜川四郎 ,   上垣恵二

ページ範囲:P.1274 - P.1287

《症例》
 患者:54歳,♂
 現病歴:生来健康で著患を知らない.過去30年以上,毎日4合以上の酒をのみ,ある時期には10年位にわたつて毎日ウイスキー1本ずつ空けていたことがある.4年位前から時折空腹時痛があり,時々黒色便に気が付くようになつた.入院前目脱力感があつたが,入院当日の朝1時頃,トイレに起きたとき,洗面器に1杯近くの暗赤色の吐血をし,救急入院した.

シンポジウム

胃の迷切をめぐつて—迷切研究会より・その1

著者: 田北周平 ,   山岸三木雄 ,   島津久明 ,   木下智治 ,   額田克海 ,   宮田道夫 ,   小西富夫 ,   山岸健男 ,   毛利喜久男 ,   中村欣一 ,   石井一嘉 ,   草野充郎 ,   林四郎 ,   竹島徹 ,   沈柏青 ,   中山文夫 ,   津江満麿 ,   石上浩一 ,   淵本悍 ,   鈴木惟正 ,   江上富康 ,   田中忠良 ,   西嶋義信 ,   平松忠 ,   平島毅 ,   佐藤博 ,   塩田彰郎 ,   広田利俊 ,   青木照明 ,   長尾房大 ,   小野慶一 ,   加藤弘一 ,   大川眞澄 ,   渡辺洋三 ,   村上忠重 ,   藤沢祥夫 ,   西山潔 ,   福島恒男 ,   大久保高明 ,   小玉正智 ,   原田善弘 ,   橋本勇 ,   笹尾哲郎 ,   江崎治夫 ,   荒木信 ,   浜井雄一郎 ,   西山善弘 ,   谷忠憲 ,   寺尾紘 ,   櫛田俊明 ,   木下真人 ,   蔵本守雄 ,   桑島輝夫 ,   榊原幸雄 ,   武藤輝一 ,   佐藤巖 ,   松木久 ,   新田洋 ,   中村康夫 ,   李奎鉉 ,   ,  

ページ範囲:P.1288 - P.1300

 迷切術に関しては,未だ臨床的にも基礎的にも解明を必要とする事柄が少なくない.これはこれらの諸問題について広く検討を行ない,迷切併用術式の完成を期するための集いである.

論説

乳腺腫瘍の臨床的観察

著者: 小林克己 ,   長田宏平 ,   葉梨之義 ,   新野和夫 ,   菊池勉

ページ範囲:P.1301 - P.1306

はじめに
 乳腺腫瘍は外科臨床上最も重要な疾病の1つである.最近一般への啓蒙運動が効を奏し,病悩期間が減少すると共に癌では腫瘤最大径が最近5年間に平均2cmもの減少をみせ,乳癌に対する啓蒙運動の効果が現われつつあることを示している.
 われわれは過去6年間水戸赤十字病院外科にて扱つた乳腺腫瘍のうち,病理学的に確診された良性腫瘍415例,並びに悪性腫瘍86例について検討を加え,さらに乳癌81例については遠隔成績も合せて調査したので報告する.

胃空腸吻合部潰瘍穿孔による汎発性腹膜炎の1治験例および吻合部潰瘍の現況

著者: 北島政樹 ,   橋本正夫 ,   田畑健久 ,   熊井浩一郎 ,   西村昌幸 ,   丸山圭一 ,   星野喜久 ,   飯倉重常 ,   宮崎道夫

ページ範囲:P.1307 - P.1311

はじめに
 胃切除後吻合部潰瘍については,多数の報告があるが,潰瘍が穿孔を起こし,腹膜炎をきたした症例はきわめて少ない.最近われわれは本症を経験したのでここに最近における吻合部潰瘍の成績を合わせ検討し文献的考察を加えて報告する.

症例

軽微な交通外傷に続発した多発性細菌性肝臓膿瘍の化学療法のみによる1治験例

著者: 根本浩介 ,   内田道男 ,   岩佐裕 ,   林茂之 ,   大賀興一

ページ範囲:P.1313 - P.1315

はじめに
 肝臓膿瘍は必ずしもまれな疾患ではなく,比較的多く報告されている.抗生物質が導入されて以来,化膿性疾患の治癒率の向上は驚くべきものがある.しかるに多発性肝臓膿瘍に関しては抗生物質の発達した現在でも治療の困難な病態である.私たちは軽微な交通外傷に続発した多発性細菌性肝臓膿瘍を手術で確認し,強力な化学療法のみで幸いにも治癒せしめた一症例を経験したので報告する.

腎前性急性腎不全の1例

著者: 平沢博之 ,   浅野武秀 ,   日浦利明 ,   小渋智哉

ページ範囲:P.1317 - P.1320

緒言
 急性腎不全の予後は悪く,透析療法が発達した現在でも,その救命率は高々50%程度にすぎない1).最近われわれはpostaborticではあるが,脱水が主な原因となつたと思われる腎前性急性腎不全の一例を経験し,無事救命しえたので考察を加えて報告する.

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人事動静

ページ範囲:P.1320 - P.1320

大井 好忠(鹿大講師 泌尿器科) 助教授に
村上 文夫(大阪大講師 外科) 助教授に

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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