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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科28巻10号

1973年10月発行

雑誌目次

特集 外科医のための臨床検査

胃癌手術と臨床検査

著者: 西満正 ,   加治佐隆 ,   阿久根務 ,   永田政幸 ,   肝付兼達 ,   西瀬戸紀征

ページ範囲:P.1359 - P.1366

はじめに
 胃癌の手術は諸家の努力によつて安全に行なわれるようになつた.全剔でも噴切でも手術死亡率は3%以下といつてよい.しかし,広汎な他臓器合併切除や超拡大根治手術の場合,または開胸・開腹を同時に行なわねばならない場合には5%以上の直死率は免かれないのが実状である.
 手術にはその安全性が第一に要求されるが癌に対してはそれにも増して遠隔生存や延命効果がなければならない.すなわち安全なだけでは意味が少なく,正しい有効な手術が要求されるということである.胃癌の手術もその例外ではない.この要求に応える手術を行なうための臨床検査は大きく2つに分類できる.

外傷と臨床検査

著者: 須藤政彦

ページ範囲:P.1367 - P.1374

はじめに
 外傷例に対する必要な,あるいは可能な臨床検査が受傷部位,程度,救急を要する度合いなどによつて異なることは当然であろう.たとえば頭部外傷では一般的には損傷の部位・程度の診断が第1となり,その結果しばしば発生する呼吸障害は重要ではあつても呼吸循環面の障害程度を第1に捉えようとすることは少ないのに対し,胸部外傷では呼吸と循環の状況を知ることは非常に重要なこととなる.また最重症例では血型,クロスマッチとそれに加えて胸部レ線程度の術前検査がやつと行なえるのみというものもあるのに対し,一方では十分な臨床検査を行なう必要があり,またその時間的・体力的余裕のある症例も多い.そして臨床検査も必要最少限の検査,できればやつておきたい検査,外傷学研究のための検査などいろいろの段階に分けることができよう.
 本稿では臨床研修中の外科医を対象として,われわれが現在,日常の外傷例に対して行なつている臨床検査にもとづいて,腹部外傷を中心に主として受傷から数時間ないし十数時間以内の術前状態の把握に主眼をおいて述べることにしたい.術後の検査については他の場合とほぼ同じであり,損傷初期の問題が特に外傷の特徴を示していると考えられるからである.

心臓手術と臨床検査

著者: 曲直部寿夫 ,   川島康生 ,   堀口泰範

ページ範囲:P.1375 - P.1382

はじめに
 外科領域における臨床検査は,術前の診断はもとより,手術適応,手術時期,手術risk,手術法の選択等を検討するためのものでなければならない.心臓外科にあつては,これらの問題を検討するために,レントゲン,心電図,心音図,カテーテル検査,心血管造影などが用いられるが,血行動態の検索,心血管造影診断法は特に重要な検査法である.以下これ等を中心に,先天性心疾患では主として左→右短絡を有する疾患について,後天性心疾患では弁膜疾患について,その手術適応,手術時期,手術,手術法選択について検討を加え,さらに心臓外科における術後合併症,とくに体外循環との関係について若干の検討を行なつた.

高齢者手術と臨床検査

著者: 山城守也 ,   金沢暁太郎 ,   中山夏太郎 ,   橋本肇 ,   加賀美尚

ページ範囲:P.1383 - P.1391

はじめに
 従来から老人または老年者の定義について種々問題になつてきているが,いわゆる成人と老年者を65歳,70歳で分けてもルーチンの臨床検査によつてはなかなか明瞭な差がでてこないのが普通である.しかしながらヒトというものには個体の寿命があるし,人口動態統計によつても現実に80歳前後に死亡数のピークがあり,この年齢の付近に平均的寿命があることは確かである.80歳以上であつても一見元気な老人は多いが,疾患そのもの以外に老化(年齢)そのものによる死の危険はやはり高いと考えねばならないであろう.例えば年齢的に特有でない肺炎が高齢者ではもつとも高い直接死因となつていることなどは,その抵抗力,予備力の失調を物語るものであろう1)
 村地は1),老年者の年代区分に関して,次のように述べている.すなわち「70歳代の半ば以前の老年者に認められる身体機能の異常は,年齢そのものよりも疾患や動脈硬化に起因する場合が多い.一方70歳代後半にはいつた老年者では,年齢そのものによるいわば生理的老化が進んでおり,外的侵襲に対して抵抗力が落ちている」.われわれも70歳代,80歳代の手術をてがけてきたが全く同惑である.

新生児・乳児手術と臨床検査

著者: 池田恵一 ,   水田祥代

ページ範囲:P.1393 - P.1403

はじめに
 近年における小児外科の進歩は目ざましく治療成績の向上はいちじるしいものがある.これは手術手技や小児麻酔技術の向上によることはいうまでもないが,超微量分析法の進歩をはじめとして小児であるために従来不可能とされていた諸検査が可能となり,患児の病態生理を解明し,適確な診断および術前・術後の患者管理を行なえるようになつた点を忘れることはできない.
 しかしながら,小児外科,特に新生児外科の対象は主として緊急手術を要するものが多く,術前検査に費やす時間は限られており,その限られた時間に必要で十分な検査および処置を行なうことが要求される.

急性腹症と臨床検査

著者: 本多憲児

ページ範囲:P.1405 - P.1411

はじめに
 急性腹症は緊急に開腹手術を要するか否かを早急に決定しなければならない疾患であり,しばしばショック状態となり,最悪の事態をもたらすのでいろいろの検査法が行なわれている.ここに急性腹症と臨床検査についてのべる.

肝・胆・膵疾患と臨床検査

著者: 菅原克彦 ,   柏井昭良 ,   河野信博 ,   三谷進

ページ範囲:P.1413 - P.1419

はじめに
 肝・胆・膵の外科的疾患患者の診療を行なうさい,とくに重要なことは,精密な問診と,正確な現症の把握により,入院時診断を行ない患者の全身状態をまず把握することである.次いで計量診断表1)でえられた結果に基づいて,疾患部位を想定し,疾患の重症度や全身状態に応じて重点的に必要な診断過程を経て,最終診断に到ることになる.時には,肝障害さらには体液的な平衡状態の破壊により,状態が悪化し僅かの侵襲を加えることすら,かなり危険なことがあるので,この領域の診療にあたつては疾患の病態さらには臨床検査の価値をよく理解し,診断に必要な臨床検査を適宜,取捨選択することが求められる.
 この領域の疾患に対する臨床検査には,病変の部位や範囲を解剖学的に知り,より根治的な治療を行ないうるか否かを判定するための検査と2),外科治療に特有なものであるが,患者が手術侵襲に耐え得るか否か,また手術前にどの程度の補充療法が必要であるかを知るための検査が含まれる.

外科における免疫学的検査

著者: 折田薫三

ページ範囲:P.1421 - P.1427

はじめに
 ここ数年間の免疫学の進歩は驚異的である.細胞性免疫および新しい手法を導入した体液性免疫に関する論文が医学,生物学の領域でおびただしく報告されている.一見,外科とはまつたく無縁にみえた免疫学が臓器移植の領域で外科医の夢を現実のものとしたことは周知である.きわめて広い免疫の分野から外科に必要なものを抽出することは至難であるが,現在から将来にかけて外科医が必要とし,あるいは必要とするであろう事項を私なりに取り上げ,検査法の大要と外科的意義につき略記して責の一端を果したい.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・19 腸の炎症性疾患

Ⅰ.クローン病,潰瘍性大腸炎,腸結核

著者: 小出紀

ページ範囲:P.1356 - P.1357

 腸の炎症性疾患を考える時,まず特発性のものとしてクローン病と潰瘍性大腸炎があげられると思う.クローン病は1932年「主に若者をおかす亜急性または慢性の壊死性・瘢痕形成性の局所性回腸炎」として報告されたものである.しかし近年クローン病の概念に合致する病変は消化管に広く分布することが明らかとなり,口から肛門まですべての部分のクローン病が報告されている.特に大腸のクローン病はその頻度も比較的多く,英国学派では潰瘍性大腸炎の10〜50%に認めるとしている.以前からクローン病と潰瘍性大腸炎の鑑別については議論のあつたところであるが,大腸のクローン病が多く認められる様になると,ますますその鑑別は問題になると思われる.
 次にクローン病は回腸終末部に多いところから,増殖性腸結核との鑑別が必要とされてきたが,不整形潰瘍を形成する腸結核の場合など,小肉芽腫の形成と相俟つて鑑別の困難な症例もあるので,ツベルクリン反応の実施をおすすめしたい.ちなみにクローン病の場合は70%がツベルクリン反応陰性であるという.

座談会

術前検査の進め方—Riskの判定を中心として

著者: 上垣恵二 ,   吉田雋 ,   山本亨 ,   寺田秀夫 ,   金上晴夫 ,   牧野永城

ページ範囲:P.1430 - P.1443

 日々直面する症例も,ひとたび何を術前検査の原則とするかを問い返すとき,意外と難かしい問題を含んでいます.そこで,今回は,個々のcaseの中から,riskの判定を中心として検査のポイントを出していただき,術前検査の進め方の上での問題点を話し合つていただきました.

外科医の工夫

伏針の摘出について

著者: 内田好司

ページ範囲:P.1449 - P.1449

 第一線で外科に携わつているものならば伏針で苦い思いをしたことのない人は少ないと思う.それだけに各人がそれぞれの工夫をこらして日常ことに当たつているのであろうが,私は次のようにやつて比較的簡単に摘出できているのでご紹介したい.
 当然のことながら第1に肝要なことは針のOrientierungである.ペンチを用いて虫ピンの頭の部分だけを切りとつて,これを伏針の刺入点にのせ絆創膏で固定する.ついでこの点から5mm〜1cm離れた所(部位による)へ4本の虫ピンを,刺入点を中心として井桁に組みこれも絆創膏で固定する.

論説

胃癌の発育様相の再検討

著者: 樺木野修郎 ,   小篠俊之 ,   春田晧之 ,   山崎筑後 ,   山崎一城 ,   力丸健 ,   河野洋 ,   重藤紘 ,   栗林信介 ,   根井宏

ページ範囲:P.1453 - P.1458

はじめに
 胃癌根治術の確立,化学療法,免疫療法などによつて,胃癌の遠隔成績は向上の一途をたどりつつある.
 しかしながら,外科医の取扱う胃癌の中で,進行癌,末期癌の占める頻度は高く,一方,早期胃癌の中で,Ⅱc早期胃癌とその進行癌の肉眼的所見が相類似するために,その分類の上に1つの問題をなげかけているようである.

薬剤

Uronaseによる下肢動静脈,血栓症に対する血栓溶解に関する研究

著者: 大原到 ,   松岡富男 ,   阿部和夫

ページ範囲:P.1459 - P.1465

はじめに
 下肢の動脈血栓症の治療法として最近急激な進展をみたものにFogarty氏カテーテルによる動脈および静脈血栓摘出術がある.一方また血栓を溶解して,これによつて血管の開通を期待する方法がある.この2つの方法が登場して治療成績が向上してきた.
 血栓溶解の為に蛋白質分解両酵素が用いられたが,現在ではtrypsin,Plasmin(fibrinolysin)等は用いられなくなり,専らstreptokinase1),またはurokinaseが用いられておる.本論文では後者についてとりあげる.

症例

慢性尿毒症に合併せる血性心のう炎とその治療

著者: 佐藤護 ,   阿部忠昭 ,   栗林良正 ,   贄田茂雄 ,   阿部幸義 ,   加藤哲郎 ,   高橋寿

ページ範囲:P.1467 - P.1470

はじめに
 慢性尿毒症に血性心のう炎(hemopericardium)を併発することは従来からよく知られており1)2),ときには心タンポナーデによる死亡例も報告されている3)4).一方,人工透析あるいは腎移植における近年の技術および知見の進歩により,慢性尿毒症患者の長期にわたる治療,管理が可能となつた.したがつてこの場合,hemo-pericardiumなどの合併症に対する適切な治療対策がきわめて重要となる.
 われわれは最近,尿毒症性の血性心のう炎に対して,心のうドレナージを行なつて著効をえて,危機を脱し,その後人工透析による管理により症状の著しい改善をみた1例を経験したので報告し,あわせて若干の考察を加える.

腹部大動脈血栓症の1手術治験例

著者: 岸明宏 ,   吉崎英一郎 ,   横山隆 ,   伊藤一郎 ,   松浦雄一郎

ページ範囲:P.1471 - P.1475

はじめに
 腹部大動脈閉塞症は欧米においてはかなり多くの症例が取り扱われているが1)2)3),本邦においては比較的まれな疾患のようである.これには急性閉塞症として,心疾患に由来するsaddle embolism及び血栓症があり,慢性閉塞症として大動脈分岐部,総腸骨動脈の粥状動脈硬化症及びBuerger氏病,梅毒等がその原因となつている.
 最近,著者等は冠不全,心房細動を有する患者で,肺炎が誘因となつたと思われる急性腹部大動脈血栓症に対し,急速digitalization後neuroleptanesthesia下に血栓剔除を行なつたのでその概要をここに報告する.

胆道二重造影法により発見した遺残結石の1例

著者: 亀山仁一 ,   後藤勝也 ,   橋本昌美

ページ範囲:P.1477 - P.1480

はじめに
 胆石症はわれわれが日常しばしば遭遇し,比較的容易に手術が行なわれている疾患である.しかしなかには術後も術前とまつたく同様なあるいはむしろ増強する症状をきたし,再手術が行なわれることもある.この原因としては遺残結石がもつとも多く,これは術中の慎重な操作と探索により防止できるものが大部分といわれる.このため術中胆道造影法あるいは胆道鏡が開発され遣残結石防止の役割を果している.しかし,これらもまだまだ十分とはいえない.最近われわれは術中胆道造影により異常陰影のないことを確認した上で閉腹した.本症例に術後T-ドレインからの胆道造影を行なつたところ,充盈像では陰影欠損像を呈しなかつたが,胆道二重造影法により初めて遺残結石を発見した症例を経験したので,胆道二重造影法について若干の文献的考察を加えて報告する.

多発性非寄生虫性肝嚢腫の1例

著者: 高橋正彦 ,   新原博之 ,   水谷幽 ,   宮崎泰弘

ページ範囲:P.1481 - P.1483

はじめに
 著者らは最近71歳の女性で,腹部に腫瘤を触れ,来院し,術前に肝嚢腫と診断し,開腹術を行なつた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

空腸彎曲部の原発性十二指腸癌—大動脈内注入化学療法と照射療法併用例

著者: 三浦健 ,   石田正統 ,   阿部秀一 ,   室井竜夫 ,   笹本和啓

ページ範囲:P.1485 - P.1491

はじめに
 十二指腸の癌や肉腫はまれな疾患で報告も少ない.まれな疾患であるが故に通常の上部消化管レントゲン造影検査でも看過されやすく,診断の確定した時にはすでに進行癌となつていることが多い.開腹しても膵頭十二指腸切除術や十二指腸部分切除の行える例は少なく,またたとえ根治手術を行つても術後早期の再発が多くて遠隔成績は極めて悪い.
 十二指腸癌は大半が乳頭部にみられ,乳頭上部や下部に発生するものはまれであるが,なかでも空腸彎曲部に発生するものは極めてまれで,現在までにわが国では数例の報告しかみられない.著者らは最近この空腸彎曲部に発生した原発性十二指腸瘤の1例を経験した.切除不能であつたが,腸管吻合を行つて通過障害を除くと共に積極的に化学療法を試みた.特に従来より切除不能の胃癌や結腸・直腸癌に試みてきた5-FUとMitomycin C(MMC)の大動脈内亜選択的注入による化学療法とCobalt-60照射療法併用18)20)21)の経験を本例にも応用してみた.長期の延命効果についてはまだ云々できる段階ではないが,明らかな抗腫瘍効果が認められて良好な経過を得つつあるので,ここに報告する.

頸部奇形腫の1治験例

著者: 横堀孝 ,   四宮義也 ,   石井好明 ,   大橋忠敏 ,   三友善夫

ページ範囲:P.1493 - P.1497

はじめに
 奇形腫は卵巣,睾丸・尾仙骨部・後腹膜・縦隔などには比較的しばしば見られるが,頸部に発生するものは極めてまれとされている.Mappesら1)によれば,世界の文献で109例の報告があるというが,本邦報告例はいまだ10例にみたない.われわれは,生後7カ月男児の頸部奇形腫を手術し,術後6年半追跡し得たので,ここに報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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