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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科28巻11号

1973年11月発行

雑誌目次

特集 膵炎の外科 慢性膵炎

診断基準をめぐる問題点

著者: 石井兼央

ページ範囲:P.1511 - P.1516

はじめに
 慢性膵炎を病理組織学的に初めて記載したのはFriedreich(1878年)であるといわれている1).彼は大酒家によくみられる膵実質細胞の減少,線維化などの膵組織の慢性炎症像をさして,酒客の膵炎(drunkard's pancreatitis)とよんだ.ついでOpie(1902年)は線維の増生には膵小葉間にみられるもの(intralobular type)と,小葉内にみられるもの(intraacinar type)の2型があり,アルコール中毒ではintraacinar typeの膵線維化が多いとのべている2).Opieのこの説はその後肯定されていないが,膵臓の線維化を病因との関連でながめた点で注目される.このように慢性膵炎の病理組織学はずいぶん古くより知られていたのだが,臨床所見に特徴的なこともなく診断法にも決め手になることもなかつたので臨床上の問題とはながらくなりえなかつた.
 現在でも実際に用いられている血液,尿のジアスターゼ定量法(Wohlgemuth法)をWohlge-muthが発表したのは1908年であつたが3),Wo-hlgemuth法が普及し腹痛患者で血液,尿ジアスターゼが測定されるようになつてきたのは1930年頃からのようで,この頃になつて急性膵炎,慢性膵炎の臨床診断が内科医によつてもされるようになつてきた.

外科的治療の方針とその成績について

著者: 佐藤寿雄 ,   斉藤洋一 ,   松野正紀 ,   徳武光貴

ページ範囲:P.1517 - P.1526

はじめに
 従来,わが国では手術を必要とするような慢性膵炎は極めて少ないものとされてきた.著者らは早くより慢性膵炎に注目していたが,1964年,膵石を伴つた慢性膵炎例の手術を行なつて以来,少ないながらも纒まつた症例数を経験することができ,本症の治療のあり方についても批判できるようになつた.今回は自験例についての手術成績を述べ,これを基として外科的立場からの本症の治療方針について著者らの見解を述べてみたいと思う.

急性膵炎

病態生理と診断過程

著者: 中瀬明

ページ範囲:P.1527 - P.1533

はじめに
 急性膵炎の病因は古くから常に新しい問題としてとりあげられ,多角的な研究がすすめられてきたが,いまだそのすべてが解明されているわけではない.しかし,この研究過程から急性膵炎の発生と進展に関与する多くの因子が見出されて,急性膵炎の病像とのかかわりあいが次第に明らかになつてきている.
 ここでは急性膵炎の病因についての最近の知見を概説し,その病態生理と診断について述べ,術後膵炎,外傷性膵炎などについても一部言及した.

治療成績からみた検討

著者: 中山和道 ,   小林重矩

ページ範囲:P.1535 - P.1542

はじめに
 急性膵炎の治療において古くは早期開腹手術が強調された時期もあつたが,諸技術未熟のためかその手術成績はきわめて悪く1)2),次第に保存的療法の治療方針が多く行なわれるようになりかなりの死亡率の低下をみており,最近では抗酵素療法,輸液および抗ショック療法等の発達により積極的保存療法の治療成績は著しく向上し急性膵炎治療の主流をしめている.しかし急性膵炎類似の臨床像を呈する急性腹症群にはアミラーゼ値の異常上昇を示すものが少なくなく,診断に決定的な検査法が欠けるため,確定診断,的確な治療方針の決定のために,併発症に対する処置の目的でしばしば開腹が必要な場合に遭遇すると思われる.また術後管理の進歩,手術技術の向上により,より安全に開腹術が行なわれるようになつたため,かなり積極的に早期手術をすすめる人もある.重症例においてはまだかなり死亡率は高く,急性膵炎は諸治療方針に一定の見解をみず,いろいろな難問をひかえている.そこで著者らの経験せる症例をretrospectiveに検討を加え,反省し,問題点についてふれてみたい.

胆石症と膵炎

特に急性期の治療を中心にして

著者: 秋田八年 ,   香月武人

ページ範囲:P.1545 - P.1551

はじめに
 胆石症と膵病態との関連をもつとも劇的に紹介したのはOpie(1901)29)であろう.彼は,急性膵壊死の2剖検例を報告し,1例は胆石が総胆管末端に嵌頓して膵管を圧迫閉塞し,他の1例では胆石が総胆管膨大部に嵌頓して胆管と膵管が"clo-sed common channel"を形成していたことから,胆石による膵管の閉塞や胆汁の膵管内逆流が急性膵炎の原因であろうと提唱した.その後,正常胆汁の生理的圧での膵管内逆流では急性膵炎が発症しないことが判明し,異常胆汁の膵管内逆流や,異常胆汁成分の異常高圧による膵管内逆流が急性膵炎発生機序と理解されるようになつた.異常胆汁成分としては,感染胆汁中の遊離型胆汁酸と,膵phospholipase Aによつて生成されるly-solecithinの組織障害作用が重視される11)24)34)

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・20 腸の炎症性疾患

Ⅱ.アニサキス症,蜂窩織炎,ベーチェット病

著者: 小出紀

ページ範囲:P.1508 - P.1509

 前回のべた如く,クローン病は亜急性乃至慢性の局所性回腸炎として記載されたものであるが,本邦では古くから急性の局所性回腸炎が注目されている.それがクローン病の急性期である可能性も否定できないが,日本人は生の魚介類の食物を好むので,アニサキス(鯨等海産哺乳類の胃に寄生する線虫類で,その幼虫が小甲穀類・魚類を宿主とする)の幼虫による病変としての急性局所性回腸炎を念頭に止めておきたい.本症の場合,好酸球性蜂窩織炎の形をとるが,イレウス症状が重篤でない限り,保存的療法で大多数例を全治せしめ得るといわれる.ところで,一般に腸の蜂窩織炎はまれなものであるが,発生するとイレウスの原因となり原病を増悪させることが多いので注意を要する.再生不良性貧血・白血病等の血液疾患の時の他,肝硬変症に際して上部小腸に発生することがある.
 最後に,近年わが国において多発し,難病として社会的に注目されるベーチェット病において,消化管をおかすIntestinal Behcetといわれる型があるので,その1例を提示する.多発性潰瘍をつくり,穿孔をきたし易いので,ベーチェット病の死因の1つにあげられている.

クリニカル・カンファレンス

急性膵炎をどうするか

著者: 石井兼央 ,   羽生富士夫 ,   若林利重 ,   黒田慧 ,   上垣恵二

ページ範囲:P.1554 - P.1567

 上垣(司会) 本日はお集まりどうもありがとうございました.「急性膵炎をどうするか」というクリニカル・カンファレンスですが,お集まり願いました先生方は自分のライフワークとして膵疾患を手がけておられる専門家中の専門家でございます.この専門家の方に,お手元に配りました症例を題材にして,急性膵炎の一般的な考え方,診断,治療の仕方,そういうものをお話し願うのが目的でございます.
 外科ということですから,治療が第1の主眼になることは当然ですが,急性膵炎では診断という面にも非常に大きな問題が含まれております.したがつて,内科の石井先生にもご足労願つた次第でございます.

外科医の工夫

減張縫合による乳癌根治術後の一期的皮膚縫合

著者: 坂西昭夫 ,   土屋克己

ページ範囲:P.1569 - P.1569

 乳癌根治手術を行なうに当つては腫瘍の局所再発を防止する意味で皮膚切開は腫瘍外縁より3〜6cm離して行なう必要があり,かつ皮下脂肪組織はできるだけ除去すべきであることは周知の事実である.しかしこのような広範な皮膚切除を行なつた場合は縫合時に皮膚縁が寄らないことが多く,かつ過緊張のための血行不良を起こし折角縫合した創縁の壊死をきたして創哆開が起こることは諸賢のしばしば経験されたことと思う.このような皮膚不足時には従来皮膚移植を行なうのが通例であつた.しかしながら移植皮膚は必ずしも全面活着するとは限らず,一部でも壊死に陥つた揚合はその治療に長時日を要し,放射線治療の開始時期がおくれることが多かつた.
 私達は5年来縫合予定皮膚の緊張が強い部分に減張縫合を行ない,創縁を一期的に縫合して好結果を得ているので以下その手技を紹介する.

論説

乳腺粘液癌について

著者: 尾松準之祐 ,   三木篤志 ,   松沢博 ,   奥野匡宥 ,   曾和融生 ,   竹林淳

ページ範囲:P.1577 - P.1583

はじめに
 乳腺粘液癌は乳癌取扱い規約1)に於いて特殊型の1つに分類され,悪性度が低く,予後の良いことが知られている.しかし,その頻度が低いために,本邦では十分な報告がほとんどなされておらず,昨年第13回乳癌研究会の主題として取上げられるに至り,漸くその本体解明への門戸が開かれた感がある.
 わが教室では,1961年以降現在までの約11年余の間に,両側乳癌3例および男子乳癌2例を含む231例の乳癌症例を経験したが,そのうち今回病理組織標本を検討し得た210例中,粘液癌は4例(1.9%)であつた.

縦隔洞気腫

著者: 松浦雄一郎 ,   塩田克昭 ,   上原真幸

ページ範囲:P.1585 - P.1591

はじめに
 縦隔洞気腫は,既に1819年欧米においてLaennec1)によりinterlobular emphysemaとして報告され,引きつづき1937年にHamman2)が本症の臨床症状の詳細な検討を試みている.
 本症は比較的まれな疾患であり,その多くは姑息的治療により全治するためかこれまであまり重視されていなかつた.しかしながら,悪性縦隔洞気腫と呼ばれる型のものもあり,本型は縦隔洞内に著しい空気の貯溜のために縦隔洞内圧が上昇し,呼吸,循環不全,ショック状態を招来,致命的となることも周知の通りである.そうした症例は早期に適確な診断が下され,適正な治療が必要であることは論をまたない.

症例

S字状結腸放線菌症の1例

著者: 大橋広文 ,   高井清一 ,   松岡俊彦 ,   田中千凱 ,   島田脩 ,   飯田光雄 ,   佐藤昭子 ,   加藤健彦 ,   加地秀樹

ページ範囲:P.1593 - P.1596

はじめに
 腹部放線菌症はpenicillinの発見以来その治療成績は著しい改善をみている.確定診断以前に抗生物質を投与し治療するためか,本来数少ない疾患とされてきた本症は,現在ではさらにまれな感染症となつている.今回著者らは偶然の機会によりS字状結腸放線菌症の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

毛髪嚢腫の5例

著者: 石田肇 ,   高橋勝三

ページ範囲:P.1597 - P.1599

はじめに
 毛髪嚢腫は本邦では比較的まれな疾患でその報告例も少ないが,当外科で1966年より72年前半までに5例の本症を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

仙尾部脊索腫の1例

著者: 藤島捷年 ,   秋吉毅

ページ範囲:P.1601 - P.1604

はじめに
 脊索腫は,胎生期の脊索の遺残物から生ずる比較的まれな腫瘍である.脊索腫は増大が緩徐で症状の発現がおそく,または医師の不注意のために発見がおくれることが多く,診断されたときにはすでに,完全摘出が困難な状態になつていることがまれでない.そのため予後不良の疾患とされている.われわれは,ほぼ完全摘出ができたと思われる,仙尾部脊索腫の1例を経験したので報告し,あわせて文献的考察を加えた.

破傷風の2治験例

著者: 中尾実 ,   竹内隆 ,   小酒浩 ,   谷田秀 ,   牧原司幸

ページ範囲:P.1605 - P.1610

はじめに
 最近では外科的特異感染症である破傷風(tetanus)を経験する機会が少ない.とくに大学病院などでは,その感が強く,本症に対する知識がうすれつつある.しかし,早期診断・早期治療がもつとも予後を左右する本症に対して,私達は常に本症に対する知識を備えていなければならない.破傷風治療の主体をなす抗毒素血清にしても,常にanaphylactic shockやserum diseaseの併発を恐れていたウマ血清使用の時代から,今日では副作用のほとんどみられない破傷風人免疫血清globulin(Tetanobulin)が現われ,その効果も次第に実証されつつある.すでに英国では,ウマ血清が製造中止され,人免疫血清globulinのみにかかわりつつあるという19)
 最近,私達は2例の破傷風患者を経験し,破傷風人免疫血清globulinを大量に使用して完治せしめたので,本症の概要を述べてみたい.

大動脈弁上狭窄症の手術経験

著者: 山口繁 ,   榊原高之 ,   王筬和 ,   服部俊弘 ,   岩波洋 ,   国吉昇 ,   山崎祐 ,   中崎和子

ページ範囲:P.1611 - P.1616

はじめに
 近年,左心カテーテル法や大動脈造影法の進歩により,大動脈弁上狭窄症(Supravalvular aortic stenosis)の報告1-10)20)が見られるようになつたがその数は少なく,比較的にまれな疾患である.したがつて心疾患手術が日常のものとして積極的に行なわれている今日においても,本邦における手術報告は少なく,榊原9)10),田口7),平野1),池田2),伊藤5),大内20)等の9例の報告をみるに過ぎない.われわれは,最近本症の1例の手術経験を得たので報告する.

臍尿膜管瘻の1例

著者: 佐藤太一郎 ,   神谷武 ,   家田浩男 ,   二村雄次 ,   堀内郁文 ,   鈴木章八 ,   田中隆行

ページ範囲:P.1617 - P.1622

はじめに
 尿膜管の疾患は腹部外科と泌尿器科の境界領域であり,比較的まれな疾患である.わが国では1933年,太田が第1例を示し,以来数十例が報告されてきた.私共もこの1例を経験したので報告し,文献的考察を加える.

Meigs症候群の1例

著者: 藤間弘行 ,   新井政幸 ,   斉藤脩司 ,   町谷肇彦 ,   角田洋三 ,   新井恒子

ページ範囲:P.1623 - P.1627

はじめに
 1937年MeigsおよびCass1)は,卵巣線維腫に胸水および腹水を合併し,腫瘍摘出により胸腹水の消失した7例を報告したが,RhoadsおよびTerrell2)は,これをMeigs症候群と名づけた.さらに,1954年Meigs3)は本症候群の原発腫瘍を,線維腫様外観を呈する卵巣良性充実性腫瘍に限定することを提唱した.しかし,このほかにも良性または悪性の卵巣や子宮の腫瘍などでも,同様の臨床的特徴を示すことがあるので,現在では本症候群は,胸水および腹水を合併した女性骨盤腔内腫瘍で,腫瘍摘出により胸腹水の消失するもの,と広義に解釈されている.
 われわれは,最近左卵巣偽粘液性嚢胞性腺癌による本症候群の1例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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