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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科28巻12号

1973年12月発行

雑誌目次

特集 外科と栄養—高カロリー輸液の問題点

高カロリー輸液における糖質代謝

著者: 大柳治正 ,   松本邦彦 ,   関田幹雄 ,   石井明憲 ,   光野孝雄

ページ範囲:P.1647 - P.1655

はじめに
 1960年代の後半より,Dudrickら1)2)3)やSchu-berthら4)5)6),によつて全く異なる観点より臨床応用が確立された高カロリー輸液は,経口摂取不可能な患者を飢餓から解放できるようになり,本邦においても盛んに行なわれるようになつてきたが,多くの基礎的,臨床的報告にもかかわらず,投与される各組成の濃度やそれらの代謝に及ぼす影響についての報告は少ないようである.
 Dudrickら7),Peastons8),Wretlindら9)はそれぞれに糖質,アミノ酸,脂質を中心とするそれぞれの組成を提唱しているが,まだおのおのの組成と濃度の詳細は確立されたものでないというのが現状である.特に,糖質はアチドーシス,蛋白代謝過大,またはその他の不良代謝作用を避けるために,1日最低100gは必要である物質である10),のにもかかわらず,糖質における選択は意見のわかれるところである.

高カロリー輸液における蛋白,アミノ酸代謝

著者: 武藤輝一 ,   岩淵真 ,   小山真 ,   桑山哲治 ,   松原要一 ,   丸田宥吉 ,   斉藤聡郎

ページ範囲:P.1657 - P.1663

はじめに
 蛋白水解物を用いてのElman(1940)によるアミノ酸輸液の研究は今日のごとき栄養輸液の進歩を促す基礎ともなつたが,その後のアミノ酸混合液を中心とした栄養輸液およびその代謝に関する本邦での研究は欧米のそれにくらべ勝るとも劣らぬものであった.さらにDudrickら(1967)5)により中心静脈を介して多量の高張栄養輸液剤の輸注も可能となり,一方では副作用がきわめて少なく,カロリーの高い脂肪乳剤が開発されていたこともあつて,従来の栄養輸液はいわゆる完全静脈栄養という段階にまで発展してきている.
 本稿においては紙面の都合もあり,思うところのすべてを述べることはできないぶ,著者らの経中心静脈高カロリー輸液に関する臨床成績および実験成績を中心に,蛋白,アミノ酸の代謝と補給をめぐり2〜3の問題点について述べることとする.

高カロリー輸液における脂質代謝

著者: 山田栄一 ,   佐藤忠敏 ,   具栄作 ,   飯塚益生 ,   村上一登 ,   木村信良 ,   寺田健治 ,   波多野誠

ページ範囲:P.1665 - P.1673

はじめに
 外科領域において経口的にも,経腸的にも栄養摂取の不可能な,あるいは制限をしなければならない症例に遭遇したとき,経静脈的に栄養補給を試みなければならないが,特に長期間静脈栄養のみで患者の栄養状態を維持しようとする場合には,各栄養素のバランスのとれた補給が必要となつてくる.この際十分なカロリーを補給するために今迄多くの人々が種々の方法で努力を重ねている.
 安全な脂肪乳剤の出現をみなかつた米国においてはDudrick & Wilmore8)9)54)らが高張糖液(20%Glucose)ならびに5%アミノ酸液を用い高カロリーの中心静脈栄養を試みている.そして体重増加,窒素平衡ならびに水分電解質平衡いずれも陽性に維持し得たこと,また仔犬に行なつた実験での成長状況などから高張糖液・アミノ酸による経中心静脈高カロリー輸液が有用であることを報告している.一方葛西・小野寺24)47),らもDudrickらと同様の方法で経中心静脈高カロリー輸液を長期間行なつた症例に血中脂質濃度の減少を認め,長期間静脈栄養を行なわなければならない場合には必須脂肪酸の補給の必要性を感じている.

侵襲下の高カロリー輸液

著者: 小野寺時夫

ページ範囲:P.1675 - P.1681

はじめに
 臨床的に高カロリー投与が生死の鍵となるような場合は,重症感染,手術侵襲,広範熱傷,多発外傷など生体に対するなんらかの侵襲が加わり,栄養代謝も高度に失調していることが多い.このような患者に対して高カロリー投与した場合の代謝動態を検討し,いかにして高カロリー利用を高めるかが重要な課題である.このような観点から本項では,侵襲下の代謝の特性を概説し,手術および他の侵襲下に高カロリー輸液を施行した症例について述べ,侵襲下の高カロリー輸液の問題点,施行上の注意点などについてふれる.

小児における高カロリー輸液の問題点

著者: 平井慶徳

ページ範囲:P.1683 - P.1691

はじめに
 最近の高カロリー輸液の普及発展が,小児の外科疾患の治療成績向上に果たした役割は多大のものがある.小児の外科疾患の治療にあたつて,術前,術後の管理が重要である事は良く知られるところであり,水分電解質補給,酸塩基平衡,呼吸循環管理,栄養管理等,各方面にわたつて,大きな努力がなされつつある,中でも,栄養障害を来たし易い外科的疾患を有する症例において,その生体にできるだけ正常な栄養状態を維持させ,その発育まで考慮するとなると,その栄養管理は大事業と言わざるを得ない.生体に対する栄養補給の経路としては,健康体の場合,経口栄養すなわち食餌がそのすべてである,しかし,病的状態にある場合には経口(腸)栄養が不可能であることが少なくなく,当然経口(腸)栄養以外の補給経路が考えられ,ここに登場するのが非経腸的栄養法,すなわち栄養輸液である.従来小児の術前,術後管理の中で,この栄養輸液の占めていた役割は微々たるもので,軽視する小児外科医も少なくなかつた.しかし,1967年のRickham1)による,新生児小腸広範囲切除症例に対する脂肪乳剤による栄養管理に関する報告,Dudrick & Wilmore2)によるlong term total parenteral nutritionと題した報告を契機として,非経腸的に完全な栄養補給を行なうという方法が全世界に普及し,種々の研究が行なわれ発展をみるようになつたのである.

—アンケート—私の処方

著者: 佐藤喜三 ,   福井四郎 ,   早坂滉 ,   小野寺時夫 ,   陳維昭 ,   岩淵真 ,   平井慶徳 ,   古屋清一 ,   勝俣慶三 ,   柴田明彦 ,   山田亮二 ,   角田昭夫 ,   岡田正 ,   津田誠 ,   松本陽一 ,   砂田輝武

ページ範囲:P.1693 - P.1673

 記載順は①:症例数,②:年齢,③:原疾患,④:適応,⑤:輸液組成,⑥:輸液期間,⑦:輸液経路,⑧:合併症,⑨:成績,⑩:輸液組成の主張点とした.症例数が10例以下の場合は②以降を各症例毎の記載とし,10例以上の場合はそれらの集計を記載した.

上大静脈内高カロリー栄養輸液による術後イレウスの保存的治療

著者: 工藤正純 ,   後藤洋一 ,   高杉信男 ,   長谷川正義

ページ範囲:P.1721 - P.1724

はじめに
 腹部大手術後に往々にして発生するいわゆるイレウス状態には,およそ2つの場合が考えられる.その1つは重なる再手術に体質的なものが関与する漿膜の線維性癒着による場合であり,もう1つは縫合不全などに起因する限局性,汎発性の感染による場合である.いずれの場合も局所的,全身的な悪条件のために,ときには発症後早期の再手術に多大の困難が伴う場合がすくなくない.
 このように特に困難な症例に対しわれわれは上大静脈内高カロリー栄養輸液法を応用して,ある期間保存的治療を試み,症例によつては適時手術療法に切りかえて腸閉塞を解除させ,満足すべき成績を得ているので,症例をあげてその問題点につき検討したい.

座談会

高カロリー輸液の今後

著者: 古屋清一 ,   木村信良 ,   平井慶徳 ,   遠藤昌夫 ,   武藤輝一

ページ範囲:P.1706 - P.1719

 ここ1,2年急速に脚光を浴びてきた高カロリー輸液療法は,そのすぐれた効用の反面,合併症,代謝さらには精神衛生上の問題点などの課題を抱えています.その意味で過渡期にあると申せましよう.そこで今回,エキスパートの方々にお集まり願い,現状を踏まえて,高カロリー輸液療法の今後の方向についてお話し合いいただきました.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・21

絞扼性イレウスにおける絞扼腸管の術中肉眼的所見—Color Indexによる損傷度の判定(その1)

著者: 松峯敬夫

ページ範囲:P.1644 - P.1645

Ⅰ.絞扼腸管の色調および病理組織像と予後
 外科医が絞扼性イレウス遭遇した場合,阻血腸管を切除すべきか,保存すべぎかしばしば判断に迷うことがある.この判断を適確に行なうためにばどうしても術中の阻血腸管の性状,特にその色調と組織像および絞扼解除の予後を対比させた検討がなされねばならない.このため著者は実験的にラット回腸にclosed loopを作成し,腸管を切除することなく絞扼を解除することにより,3者を比較してみた.
 この際,阻血腸管の色調を正確に判定するため,光伸書房出版の500 color cardsから,正常より高度絞扼までの腸管の色調にでぎるだけ近い色票7枚を選び出し,color index(C.I.)を作成した.

研究

中心静脈栄養法におけるチューブ留置静脈の組織学的検討

著者: 古賀禧子 ,   池田恵一

ページ範囲:P.1725 - P.1730

はじめに
 小児外科領域では,栄養管理上,経静脈栄養を主体とせざるを得ない場合がある.かかる症例では,上大静脈にチューブを留置し,中心静脈栄養法を行なえば,長期間にわたり高張輸液投与が可能である.末梢静脈による輸液と異なり,中心静脈栄養法では,一旦チューブ留置による静脈の合併症を惹起すれば,時に致命的となる.故にその安全性は,臨床症状のみならず,病理組織学的検索を行なつて確認すべきと考え,以下の実験を行なつた.

論説

食道癌手術における食道切開の必要性と手技

著者: 秋山洋 ,   檜山護 ,   木暮喬 ,   板井悠二

ページ範囲:P.1737 - P.1740

はじめに
 食道癌切除に限らず,癌の外科的切除にあたつて,切除断端に癌遺残をさけるべきことは,根治をめざす以上,局所治療としてはまず最低限の必要条件であろう.
 とくに食道癌については後述のように手術手技上の問題,標本上の特性の問題,術前照射後の腫瘍触診の困難性の問題などのため,切除にあたつて断端癌遺残のないよう注意することはとくに重要である.

漏斗胸外科15年の知見—(その1)漏斗胸の成因,臨床所見,手術適応,手術手技および合併症

著者: 浅井康文 ,   樫野隆二 ,   池田晃治 ,   和田寿郎

ページ範囲:P.1741 - P.1746

はじめに
 教室では1957年6月,9歳の男子に胸骨挙上法(Bro-wn氏法)による本邦最初の漏斗胸に対する外科的治療を行なつて以来1)2)今年で15年を経過した.1972年8月末までに当科外来を訪れた漏斗胸患者は,518例に達し,このうち331例に教室で考案した胸骨翻転術や非対称例る対する肋壁成形術などを行なう機会を持つた.
 胸壁奇形は決して珍しい疾患ではなく,外科治療を望む患者も多いが,漏斗胸手術は本邦では教室以外に,2,3の施設で少数例の手術が行なわれた報告があるのみであり3)−5),本症に悩む患者のためにもつと積極的に手術が行なわれるべきと考えている.本編では,15年間の臨床的知見を中心に報告する.

吻合部潰瘍の検討

著者: 板東隆文 ,   豊島宏 ,   増田弘毅

ページ範囲:P.1747 - P.1754

はじめに
 欧米では300例以上の吻合部潰瘍(以下Upj)検討例が報告されているが(第1表),本邦では300例そこそこで比較的まれな疾患と考えられている.当科では,十二指腸潰瘍(以下Uld)には原則として選択的迷走神経切断術+幽門切除術を行なうことにしているが,幽門洞の生理,胃酸分析の新しい概念から7例のUpjを検討し,Upj発生の観点から各術式に考察を加えてみた.

症例

胃カルチノイドの1例

著者: 一戸兵部 ,   吉岡岑生 ,   杉本博洲 ,   石川惟愛 ,   小見山喜八郎

ページ範囲:P.1755 - P.1758

はじめに
 胃カルチノイドは,比較的まれな胃粘膜下腫瘍の1つである.最近著者らは,胃粘膜下腫瘍と診断,胃切除を行ない病理組織学的に胃カルチノイドと診断された1例を経験したので報告する.

先天性と思われる成人食道気管支瘻の1例

著者: 山田正 ,   杉山肇 ,   尾崎寅夫 ,   市川久次郎 ,   月岡一馬 ,   小山昱甫

ページ範囲:P.1759 - P.1762

はじめに
 先天性食道気道瘻には食道閉鎖をともなつていることが多いので,その大部分は新生児期に発見される.しかし,比較的まれには食道閉鎖をともなつていないために,その臨床症状がすくなく,ひいては成人期にはいつてはじめて発見されるものもある.われわれは最近,成人に見られた先天性と思われる食道気管支瘻の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

外傷性肋間動静脈瘻の1例

著者: 津田勇平 ,   上原信彦 ,   川島正好 ,   山田正

ページ範囲:P.1763 - P.1766

はじめに
 近年における血管外科の普及にともない,外傷性動静脈瘻の手術例が増加して,その成因や病態生理も広く知られるようになつた.本症は,理論的には動・静脈が隣接しているところでさえあれば,いかなる部位にも発生しうるものであるが,実際には四肢や頸部などに生じることが多く,胸壁,ことに肋間動静脈間に発生することはきわめてまれである.ところが最近,われわれは胸膜穿刺生検後に発生した肋間動静脈瘻の1例を経験したので,若干の考察を加えてここに報告する.

比較的稀な外傷性遅発性脾破裂の1治験例

著者: 伊藤進 ,   郡山春男 ,   伊藤力 ,   堀部治男 ,   佐々本徳秀 ,   伊東和人 ,   川上仁

ページ範囲:P.1767 - P.1770

はじめに
 近代文明の発達に伴い,種々の外傷も増加の一途をたどり,その治療の進歩にもかかわらず,死亡率は依然として高い.
 私どもは,最近,本邦において,最年少と思われる外傷性皮下遅発性脾破裂を治験したので,これを中心として,当院における過去16年間の脾破裂例の統計的観察を加え報告する.

空気脳室撮影後の"Progressive Ventricular Dilatation"の1例

著者: 平山章彦 ,   古和田正悦 ,   儀藤洋治 ,   渡辺一夫 ,   伊藤昭一

ページ範囲:P.1771 - P.1774

はじめに
 1965年Adamsら1)により,normal pressure hydr-ocephalus(N.P.H)の概念が提唱されて以来,その病態生理については,多くの報告がみられている.ことに,1972年Rovitら11)は,PEG後急激な脳室の拡張(progressive ventricular dilatation)をきたしたN.P.Hの8例を報告し,PEG後の脳室拡大と原疾患との関係を示唆するとともに,脳室拡大の機構について,興味深い考察を行なつている,
 最近,私達は結核性髄膜炎後のN.P.Hの症例にPEGを施行したところ,術後に高度な脳室拡大を示した症例を経験したので,若干の文献的考察を行ない報告する.

腎動脈瘤の1例とその考察—特に腎内動脈瘤について

著者: 藤田道夫 ,   田村欣一 ,   村上信乃

ページ範囲:P.1775 - P.1777

はじめに
 腹部大動脈主要分枝に発生する末梢動脈瘤には肝動脈瘤,脾動脈瘤,腎動脈瘤などがあり,これらはまれに1例報告を見る程度である.われわれはこのうち腎内腎動脈瘤の1例を経験したのでこれを紹介し,若干の文献的考察を加えてみた.

十二指腸細網肉腫の1例

著者: 瀬藤晃一 ,   植松清 ,   五百蔵昭夫 ,   山口勝敏 ,   藤田茂夫 ,   関口孝弘

ページ範囲:P.1779 - P.1783

はじめに
 十二指腸に原発する悪性腫瘍は比較的まれな疾患であるが,中でも肉腫は特に少ない疾患と老えられる.最近われわれは十二指腸細網肉腫の1例を経験したので,これを報告するとともに若干の文献的考察を加えたい.

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「臨床外科」第28巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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