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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科28巻3号

1973年03月発行

雑誌目次

特集 肝癌の外科

肝癌診断の現況

著者: 奥田邦雄 ,   下川泰 ,   松浦康彦

ページ範囲:P.323 - P.330

はじめに
 肝癌といえば通常原発性のものと続発性のものの両方を含んだ意味で,特にヘパトーマのような原発性のものに限定して物を論ずる場合はそのようにいう必要がある.肝癌の頻度は肝炎,胆道疾患,肝硬変症などにくらべると低いので,実際に患者を経験して開腹あるいは剖検などにより診断を確かめ得た事がないと,大きな肝臓を触知しても直ちに自信をもつて肝癌と診断し得ないかもしれない.あるいは大きな肝臓を触診すると肝癌と診断してしまう危険もある.
 最近RI診断,α—Fetoproteinによる特異的診断が確立されたが,それまでは肝癌即不治というように考えられていたため,また早期診断不能と考えられていたため,診断に対する一般の熱意が低かつたように思う.しかし昨今の新しい診断技術の進歩により,今日では肝癌は早期診断さえ行なえれば,手術的除去も可能で,すでに径2cm位の肝癌をα—Fetoproteinの検出によつて探知,発見し,完全除去に成功した症例の報告も現われている1).一方α—Fetoprotein陰性の原発肝癌もあるので,この検査が万能でない事も明らかで,原発肝癌も早期診断はまだまだ十分行なえる段階には到つていない.他の諸検査を綜合して考える事が必要である.そのような問題を含めて最近の診断技術の進歩とその考え方について述べる.小児の肝癌についてはここでは述べない.

肝癌と肝切除—手技について

著者: 本庄一夫 ,   高三秀成

ページ範囲:P.331 - P.338

はじめに
 近年,肝動脈造影をはじめ種々の診断法の開発により腫瘍がかなり小さい時期に肝癌の診断が可能なこともあるが,実際には相当な大きさに達してはじめて診断されることが多く,根治的切除可能な症例があまりにも少ないのが現状である.切除不能の肝癌に対しては血流遮断や制癌剤の肝動脈内注入などが盛んに実施されかなりの成果が得られつつあるが,完全治癒を期するためには腫瘍塊を含む根治的肝切除がもつとも望ましい治療法であることはいうまでもない.
 腫瘍がまだ小さくかつ表在性で,とくに肝辺縁部に存在するときは小範囲の肝部分切除で十分なばあいもあるが,通常はかなりの大きさに達しているために広範囲の肝切除を必要とすることが多い.肝切除の手技上,重要な点は出血の制御と残存肝の障害,壊死の防止であるが,このためには広範囲の肝切除ではとくに脈管の走行などの解剖学的事項を理解しておくことが必要である.以下手術に必要な肝の解剖学的事項と肝切除手技について述べる.

肝癌の切除適応と限界

著者: 葛西洋一 ,   水戸廸郎 ,   玉置明

ページ範囲:P.339 - P.347

はじめに
 最近10年間に従来悲観視された肝癌の手術成績も徐々に向上し,術後3年生存例も増加しつつある6)28).これは肝スキャン,肝動脈造影,α-Fe-toproteinによる血清診断法の進歩などによつて,肝癌の診断率が向上したことも大きな要因である15)
 最近までに教室で経験した肝癌107例のうち,切除しえたものは24.5%であるが,肝癌の切除率という点では10年以前とそれほど変つていない.肝癌の切除率に関してはより高率をあげるものもあるが,切除の適応をいかように判定すべきかという点には,実際上多くの問題がある.
 ここでは,教室の経験を中心に肝癌の病態的特性と肝切除という観点から肝癌の切除適応と限界に対する見解を述べる.

肝癌と肝切除—肝硬変との関連のもとに

著者: 石川浩一 ,   菅原克彦 ,   柏井昭良

ページ範囲:P.349 - P.355

はじめに
 原発性肝癌の治療成績がきわめて悪いのは進行肝癌が多いことのほかに肝硬変症の併存にも原因がある.高度の肝硬変症が存在すると手術手技上の困難が生ずるのみならず,肝不全をきたして術後のcritical stageをのりきり得ない危険が大きい.もし幸いにこの時期をようやく経過し得ても残存肝の再生肥大を望みがたく1),補充療法にも限界があるので,早期に死にいたる.また肝硬変を基盤として発生する原発性肝癌は多発中心性に発生することが多いので,現在の癌を切除し得てもやがて再び他部から発症する可能性が高い.
 最近,オーストラリア抗原(Au抗原),α-Feto-protein(AFP)の測定技術が進歩し,ウイルス肝炎とAu抗原,肝癌とAu抗原,肝癌とAFPについて多くの研究をみるにいたつた.Au抗原とウイルス肝炎,肝硬変,肝癌の疫学的検討は,切除可能な肝癌の発見につながる一つの道でもある.著者らは主としてAFPの外科臨床での意義について検討してきた2)が,さらにAu抗原との関連について少数例ではあるが自験例を中心に述べる.

切除不能な肝癌の治療法

著者: 武藤輝一 ,   吉田奎介 ,   伊藤博

ページ範囲:P.357 - P.363

はじめに
 肝癌の治療法としては肝切除による癌腫の摘出が最も根治性の高いものであることは異論のない所である.教室における昭和36年からの35例の原発性肝癌について治療別にみた生存曲線は第1図の如くであり,小児肝癌3例を含む切除し得た8例の3年生存率は50%と,他の群に比べ格段に良好である.しかし,原発性肝癌の切除率はたかだか20数%に止まり,残りの大部分は何らかの理由,すなわち切除可能限界を越えた癌腫の拡がり,肝硬変の合併等のため,切除不能として姑息的治療に終始せざるを得ないのが現状である.教室の症例についてみても,切除率は35例中8例,23%に過ぎず,転移性肝癌においてはなおのこと切除の可能性は小さい.したがつて臨床医にとつては,たとえ姑息的であつてもこれら切除不能の肝癌に如何に対処するかは,日常さし迫つた課題といわねばならない.
 原路性および転移性を含めて肝癌が切除不能な場合,今日行なわれている治療法は施設により種種であるが,およそ下記の如く大別できよう.

小児の肝癌—診断から手術手技・化学療法の実際について

著者: 長谷川博

ページ範囲:P.365 - P.378

はじめに
 小児の肝腫瘍は小児外科の急速な発達に伴つて近年特に注目されている疾患であり,種々の興味ある特徴が報告されている.その中でも小児の原発性肝癌は,特に臨床的,代謝的,病理学的,免疫学的などの点で多彩で興味溢れる疾患であり,山極1)2)が既に明治43,44年に本邦第1,第2例を報告しているように,胎生期の肝の発達過程にみられる組織所見に類似しているものが多い.したがつてその呼称も小児肝癌,肝芽腫,hepato-blastoma,embryonal hepatoma,primary cancer of the liver in infancy and childhoodなどといわれ,成人の肝癌とは種々の点で異なるものである.また頻度的には,財団法人がんの子供を守る会・治療研究委員会による小児悪性新生物全国登録3)4)5)にみられるように,1970,1971年では,神経芽細胞腫,Wilms腫瘍に続いて,小児の悪性固形腫瘍の第3位を占めており,登録例だけで1年間に日本全国で30名弱となっている.また性比は,成人の肝癌と同様,男にやや多く3)4)5),文献によつては男女比は2倍以上(16:56),55:2010))であるとされているが,同率とみるものもある9)12)

肝移植の現況と将来

著者: 服部孝雄

ページ範囲:P.379 - P.385

はじめに
 宿主肝にはふれないで,同種肝を本来の肝のあるべき場所とは別のところに移植する,いわゆる異所性同種肝移植の実験が,Goodrich-Welch1)(1956)らによつて報告されてからややおくれて,Moore2)らは肝全別後の同所性肝移植をイヌで初めて行ない(1959),次いで,Starzl3)らによつてこの研究は著しく推進された.早くも1963年には,Starzl4)によつて同所性肝移植の臨床例が報告され,1964年にはMoore5),Demirleau6)らの同所性肝移植の臨床例も相次ぎ,肝移植臨床の幕あけは甚だ華やかなようにみえた.しかしながら腎移植に比べて,肝移植にはあまりにも大きな問題がありすぎるため,その後の発展は,必ずしも初めに期待されたようなものではなかつた.まず肝全剔に加えて,肝移植を行なうことは,腎移植の場合に比して比較にならぬ程大きな手術侵襲であり,移植を完遂するためには,移植肝の上部および下部の下大静脈の吻合,門脈の吻合,肝動脈の吻合と血管の吻合が4つある上に,胆道の再建もせねばならないという技術的な困難さがある.またallograftの供給源は屍体以外にあり得ないが,常温で肝の正常組織が阻血に堪えられる時間は15分程度という条件を考えた場合に,屍体肝の利用の困難さは,心移植のそれと比すべきものであろう.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・13 胃疾患の肉眼診断

Ⅰ.早期胃癌の肉眼形態とその鑑別—5.ⅡaおよびⅠ型早期癌

著者: 佐野量造

ページ範囲:P.320 - P.321

1.Ⅱa型早期癌
 隆起性癌は60歳近くの高年者に多く,胃体中部,幽門部に生じ易い.Ⅱa型はその分布より単発型,散在型,集簇型に分けられるⅡa型の早期癌と鑑別を必要とするものに1)上皮性のポリープ(疣状胃炎,家族性ポリポージス,Gardner症候群等),2)異型上皮,3)化生腸の上皮の過形成,4)粘膜下腫瘍(副膵,平滑筋腫,好酸,肉芽腫,カルチノイド等),5)転移性癌(大腸癌,メラノーム球等).Ⅱa型は集簇型を除きその大部分は単発性で老人に多い点より診断は容易である.しかし,これを見逃がしたり放置しておくと1年位の間に急速に発育し肝転移をきたす例が経験されるので,多少でも粘膜の隆起をみたならば胃生検で確かめる必要がある.症例24は2.0cm以内のIIa型であるが粘膜下層の静脈内に浸潤し,手術時すでに肝に拇指頭大の転移をみた例である.
 症例25はⅡa+Ⅱcのポリープ型とも分類されるが,Ⅱcの部がせまくⅡaの部がめだつときにはⅡa型に分類している.症例26は集簇型のⅡaで略図に示した範囲(8.0×8.0cm)はすべて癌である.癌巣は限局した領域を有し周辺の粘膜からアレヤの相違によつてその範囲は明瞭に識別される."1つの領域"を有している点がポリポージスや転移性の癌の鑑別点となる.

クリニカル・カンファレンス

肝損傷を伴った腹部外傷をどうするか

著者: 羽鳥俊郎 ,   須藤政彦 ,   若林利重 ,   浮島仁也 ,   牧野永城

ページ範囲:P.388 - P.403

≪症例≫
患者:20歳,♂
 受傷の状況:47年8月22日,10:30AM,乗用車助手席に安全ベルトを装着して乗車中,ガードレールに激突,20分後に収容された.

外科医の工夫

安全確実な腎摘出術

著者: 松林冨士男

ページ範囲:P.405 - P.405

 外科医は大学病院や泌尿器科のある病院にいる時は腎臓摘出の機会はほとんどない.しかし,その他の病院や救急患者が運ばれ緊急手術を要する場合には,腎摘は外科医の担当となる.
 修練中も,普段もあまり腎摘の機会に恵まれぬ外科医も,上記のような場合,これをさけることはできない.常々,その心がまえと,知識を十分備えておかなければならない.

論説

遠隔成績からみた胃・十二指腸潰瘍に対する広範囲胃切除術の適応

著者: 姉歯安正 ,   佐藤良友 ,   渡辺麟也 ,   鎌田常明 ,   菊地金男

ページ範囲:P.409 - P.414

はじめに
 胃および十二指腸潰瘍に関する手術方法は迷走神経切離,胃切除または幽門成形を中心に種々試みられているが,手術適応の決定,手術術式の選択は外科医によつてまちまちな現状である.しかし迷走神経切離や幽門成形など,胃切除以外の術式を用いる様になつたのはわが国ではごく近年のことで,それまでは胃,十二指腸潰瘍に対する手術術式として胃切除術が広く行なわれ,しかもかなりの好成績を得ているのである.近時,胃をできるだけ温存して小範囲切除にとどめる試みや,胃切除以外の方法による手術が行なわれており,いずれも理に適つた治療法ではあるが,今まで行なわれてきた胃切除範囲を2/3以上とする広範囲胃切除術も,その良好な成績を顧るとき決して捨て去つてよいものではないと考える.
 われわれの外科に入院する胃,十二指腸潰瘍の症例は,多くの内科医から手術を依頼されて送られてくる症例であるが,われわれはこれらの全例について,原則として適応の是非をあまり問題にせず,DEMEL氏線を基準として潰瘍部を切除するいわゆる広範囲胃切除術を行なつてきた.従つてその手術成績を検討して,各症例の術前状態を振りかえれば,どの様な症例に行なつた胃切除術が最も効果的であつたかを知ることができるわけである.かくしてわれわれは遠隔成績の良否に関係する因子を求め,帰納的に胃,十二指腸潰瘍に対する広範囲胃切除術の適応を探ろうと試みた.

症例

Traumatic Hepatic Sequestrationの1治験例

著者: 永末直文 ,   荒木貞夫

ページ範囲:P.419 - P.422

はじめに
 Sequestrumという言葉は普通,骨質壊死部が周囲組織より遊離された場合に腐骨の意味で整形外科領域で用いられることが多い.外傷後の肝壊死(sequestration)の最初の記載はすでに17世紀前半にFabricius Hilda-nus12)により行なわれているが,hepatic sequestrationという言葉を用いたのはGraser, E.5)が初めてのようである.肝はその豊富な血行支配のため壊死になりにくいといわれているが,肝外傷あるいは肝動脈枝の損傷による限局性肝壊死(hepatic sequestration)については,今世紀の初めよりしばしば報告されている3)11)15)
 ここに報告する1例は,70年前に報告されたGraser, E.5)の症例と何ら本質的には異つたものではない.しかし現在では種々の新しい肝診断法を駆使することにより,正確な診断のもとで,適確な治療をすることができるようになつたことを考えると,雲泥の差があるように思われる.肝外傷後に横隔膜下あるいは肝下膿瘍がみられた場合,hepatic sequestrationを考えなかつたため,何度もドレナージのみをくりかえした症例はTurrill, F. L.15)らの報告するところである.本症は肝外傷後の合併症としては少ないが,常に心しておかねばならないものと考えられる.

完全房室ブロック患者の後腹膜腫瘍摘出経験—カテーテルペースメーカーの一時的使用

著者: 阿岸鉄三 ,   三田俊彦 ,   石神襄次 ,   吉田浩 ,   津島昭平 ,   森川定雄 ,   春井正資

ページ範囲:P.423 - P.427

はじめに
 完全戻室ブロックを有する患者に対する外科手術は,麻酔導入時や術中出血時などの心搏出量増大を要請される場合,それに応じえないことのため,かなりの危険にさらされることが少なくない.
 最近の医用エレクトロニクスの発展は,cardiac pa-cingを比較的容易かつ安全性の高いものとしている.

まれなる結腸線維腫の1症例

著者: 青木豊明 ,   梅山馨 ,   木下晴夫

ページ範囲:P.431 - P.433

はじめに
 大腸に発生する腫瘍は大部分が癌であり,良性腫瘍は悪性腫瘍に比べると極めてまれである.とりわけ,線維腫は少なく,しかも純粋な形の線維腫は,直腸で数例の本邦例が報告されているにすぎず,結腸では未だ報告例は見当らない.われわれは最近上行結腸腫瘍の疑いで開腹し,組織学的に純粋な線維腫であつた1例を経験したので,ここに2,3の考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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