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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科28巻5号

1973年05月発行

雑誌目次

特集 外科と感染—その基本的対策とPitfall

外科的感染症の問題点

著者: 柴田清人 ,   児玉幸昌 ,   藤井修照 ,   品川長夫 ,   鈴木芳太郎 ,   村松泰

ページ範囲:P.609 - P.615

はじめに
 A.FleminingのPC発見に始まる化学療法の進歩は,誠に目覚ましいものがある.しかし,これらの抗生剤の進歩,普及に伴つて耐性菌の出現,菌交代現象が問題となり,中でも近年臨床外科における感染症の起炎菌として,一連のグラム陰性桿菌が増大し,これらによる重症感染がもつとも注目を浴びるに至つた.われわれは,外科領域感染症のうちでもつとも問題になる術後感染について,就中手術創感染,腹膜炎,肝,胆道系,ならびに呼吸器感染の問題点について,若干の検討を行ない特に臨床家として留意すべき点について述べる.

手術室感染と対策—付:無菌手術室とその考え方

著者: 都築正和

ページ範囲:P.617 - P.625

はじめに
 外科手術に際しての合併症として細菌感染が非常に恐れられたのは19世紀中期の頃までであつた.Pasteur(1861)による細菌感染の発見と,Semmelweiss(1848,Wien),Lister(1867,Lon-don)らの努力によつて始められた制腐法(An—tiseptik)によつて手術は安全なものとなり,その後も多くの先覚者の努力によつて各種の無菌法が取り入れられてきた.このようにして,1900年代になると,手術に伴う細菌感染の抑制策は一段落し,手術に際しての問題点は麻酔法,患者管理,循環呼吸動態の研究などに集中された感があつた.しかしこの間にも手術に伴う細菌感染とその対策についてはいくつかの調査と研究が行なわれており,これらの研究によれば,手術後に発生する感染症は5〜15%であつた.第二次大戦前後の抗生物質が発見され実用化された時代にはかなりの感染率の減少がみられたが,その後再び増加して,大体同じレベルになつている1)2).その理由としては,抗生物質耐性菌が発生して次の新種抗生物質の発達をうながし順回過程に入ること,以前には手術不能であつた重症患者にも手術が行なえるように周辺技術が進歩してきたことと,また心臓大血管外科,移殖手術など感染を起こしやすく,一度感染が起こると致命的な結果に終る可能性の大きい大手術が行なわれるようになつたことなどによるものと思われる.

手術器械および各種材料の滅菌—不完全滅菌による障害に陥らぬために

著者: 古橋正吉

ページ範囲:P.629 - P.639

はじめに
 外科治療における無菌法の必要性は一般に周知のことである.しかし,最近の無菌法の概念は,単に手術器材の滅菌にとどまらず手術環境空気の無菌化すなわちバイオクリーン技術にまで拡大されている.これは,いわゆる絶対無菌手術の実施を志す場合に不可欠の要素といえる.欧米においては,すでにバイオクリー手術室が多くの病院に設置され,整形外科の股関節全置換術を中心に利用されている.
 現在,通常の無菌手術であつても術後感染率は平均3%の壁を破れないでいる.感染源は空気だけでなく,職員や患者,手術器材の汚染と関係が深い.したがつて術後感染防止には,これらの因子を丹念に検討して対策をたてるほかはない.

皮膚消毒—手術野および術者の手指の消毒

著者: 脇坂順一 ,   田中英輔

ページ範囲:P.641 - P.647

はじめに
 外科手術における術中感染は,消毒法,滅菌法の発達ならびに種々の抗生物質を含む抗菌薬剤の開発利用によつてかなり減少はしているものの,なお創感染の頻度は少なくなく,その防止法については根本的対策がとられねばならない.外科領域における術後感染症の中には,手術器具,患者の手術野,術者の手指などの消毒が不完全なために,耐性菌はもちろん弱毒菌も感染することが少なくない.また最近においては,耐性菌が病院内の勤務者,寝具等に多く存在している事実が明らかとなり,これより発生する病院内感染,手術室そのものの汚染,いうなればホスピタリズムということがクローズアップされてきている.一方手術野或は術者の消毒は近年においては,逆性石鹸の出現によつて一応の進歩は見ているものの,詳細にこれを観察すると決して安心できない多くの諸問題が残つている.そこで私共はまず手術者および手術野の消毒についての現段階における進歩の現況について概説すると共に,併せて新たなase—pticな考え方,ならびにその対策についても言及してみたい.

外科領域における抗生物質療法—現況と問題点

著者: 石引久弥 ,   佐藤次良 ,   牛島康栄

ページ範囲:P.651 - P.658

はじめに
 Penicillinにはじまる抗生物質療法は外科領域の感染症に対しても重要な治療手段となつている.起炎菌を決定して,その薬剤感受性に基づいて抗生物質を選択し,適正な投与量,投与法,投与期間をとることが教科書的指針とされている.しかし具体的に実施するとなると,いくつかの問題点が出てくる.その1つは生体における細菌学,薬物学的な理論的な裏づけが不十分であることにもよるが,次々と登場する抗生物質と市販名が臨床医を混乱させていることも見逃せない.このような観点から,現況と問題点,具体的な方針などにふれてみたい.本文が抗生物質療法の実際に役立てば,幸いである.

手術に伴う予防的抗生物質使用の反省

著者: 田口鐵男

ページ範囲:P.661 - P.668

はじめに
 手術後に起こる種々の感染性疾患の発症は外科医にとつてもつとも頭の痛い問題である.すでにその成因,予防対策について数多くのすぐれた研究が発表されている.しかし,いまだに完全に解決されたわけではない.
 そもそも,感染の発症には細菌の毒力,菌量,患者の全身状態,局所性因子,手術手技など多くの因子が複雑に絡みあつて関与している.それぞれの因子に対する予防策がたてられ,ある程度の成果をあげている.予防的に抗生物質を使用するのもその1つである.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・15 胃疾患の肉眼診断・7

Ⅲ.胃腸管のポリポージス

著者: 佐野量造

ページ範囲:P.600 - P.601

1.胃の腺腫性(または再生性)ポリープ
 胃の再生性ポリープの分類(Monacoら)はその分布によつて,1)単発性(single polyp),2)散在性(di-screte polyps),3)限局性(localized polyposis),4)びまん性(diffuse polyposis)に分けるのが便利である.もつとも多く経験されるポリープは単発および散在性で限局性およびびまん性ははなはだまれである.症例36は限局性ポリポージスでMonacoらの定義にしたがうと1局所に限局して50数個以上のポリープが密集しているものである.この症例はほとんどが良性のポリープであるがそのうちの1個に癌化が認められた.限局性ポリポージスは集族型のⅡaまたはⅠ型の隆起性癌と鑑別が必要である.症例37はびまん性ポリポージスで胃の全野に無数のポリープが存在している.腺腫性ポリープはどの型がより癌化し易いということはなく,いずれのものも径2cm以上のものは癌化している頻度がたかい.

グラフ

災害現場の救急医療と簡易医療室の問題

著者: 鈴木又七郎

ページ範囲:P.604 - P.608

 ① Transportable Me-dical Treatment Post(簡易医療室)は,重量2,000kgという比較的軽量なので,陸上輸送の困難または中断された場合,ヘリコプターに吊りさげて,災害現場に運搬して,救急医療の最前線基地として活動する.
 ② M.T.Pの4方の外側に装備された,特殊懸垂装置を作動させて,本体を挙上する.

クリニカル・カンファレンス

創傷治療をどうするか

著者: 羽鳥俊郎 ,   志賀厳 ,   塩谷信幸 ,   加藤繁次 ,   橋詰定明 ,   牧野永城

ページ範囲:P.670 - P.688

〈症例〉
 患者:55歳男子.
 現病歴:1966年9月28日の夜,飲酒して銘酊し,隅田川の堤防(約1.5mの高さ)から河岸に転落,左前額部を打ち,長さ3cm余りの,泥で汚染された裂創を負つた.意識喪失,頭痛,悪心,嘔吐などの症状はなかつた.付近の診療所に運び込まれ,創傷を4針縫合閉鎖の上,3日間入院の後退院.外来治療を続けた.受傷後5日目に創の周囲から顔面左半分に多少の硬直や,時折ピクピクという痙攣みたいなものを感ずるようになつた.当院にいる知り合いの医師に電話して様子を話したら,破傷風の危険があるから直ちに入院するように言われ,入院してきた.初療の際の治療の詳細は不明だが,破傷風の予防注射は行なわれなかつたらしい.本人は以前にもそのような注射を受けたことはないという.

学会印象記

第73回日本外科学会総会から

著者: 宇都宮譲二 ,   三島好雄

ページ範囲:P.693 - P.695

 編集部より本学会についての感想をまとめる様求められた時はすでに会期もなかばに達していたし,またこのマンモス学会のすべてを総括することは不可能であるので急ぎ思いつくままに筆をとつた.それは学会のあり方と内容とに分けられる.
 学会とは一言でいえば情報交換の一つの手段であるが,今日特に,医学の分野においてその傾向が著しい情報の急激な増大に対応する為に,その伝達と処理機構もまた複雑化の一途をたどつている時,学会の姿も急速に変貌し,多くの矛盾をかかえつつあることは否定することはできない.学問の分化の方向に対応する為に,それぞれの臓器・治療手技・研究課題別に分化会,研究会がつぎつぎと形成され,また地域や共通組織内における地方会など,外科系のみに属するものでもその数を即座に正確に答えられる者ははたしているであろうか?このような現況において,外科学会総会のあり方はいかにあるべきかということは歴代の会長がもつとも腐心する点であると思う.以下私なりの考え方をまとめて今回の学会にこれをあてはめてみよう.

世界の手術室・1【新連載】

ポンペイとアメリカ

著者: 隅田幸男

ページ範囲:P.696 - P.698

 手術室はメスを握る者にとつて終生神聖なる仕事の場である.同時に研究と教育の場でもある.その歴史はおそらくは医学の歴史と共に始まつているものと思う.手近にある資料を紐解いてみるとHippocrates全集(Har-vard University Press,1968年版)のKAT'IHTPE-ION(In the Surgery)の章のⅡ節にも「手術に必要なものは患者,術者,助手,器械類,光源の場所,種類は…」と書かれており,さらに術者の姿勢,光の方向,助手の役目までがかなり詳細に記述されていることから,おそらくは今日のように特定の場としての手術室がすでに存在したものと思われる.著者は現存する最古の手術室ではないかと思われるPompeiiにある"外科医の家"を訪れてみた(①).その間取り図にもはつきりと"手術室"が区切られている.当時としてはかなり進んだ手術が行なわれていたらしく,手術器具も100種を上まわり,特にメス,ハサミ,ピンセット,サジ,ゾンデなどは種類がめつぼう多く,開創器に至つてはその構造は今日と何ら変らない.後に紹介するMunchen大学病院の手術室ではPompeii時代のものをそのまま使用しているのではないかと思われるほどそつくりの開創器を見かけて驚いたものだ.

外科医の工夫

腸手術術前の準備

著者: 宇都宮譲二

ページ範囲:P.699 - P.700

 腸外科の歴史は感染症との戦いの歴史であるといわれる.腸内細菌が腸管外への感染による合併症のみならず,腸吻合部の治療障害因子として大きな意味を有することも知られている1).したがって大腸手術の前準備として術中,術後における腸内細菌をいかにして最低濃度にするかという問題について,尨大な試みがなされたにもかかわらず,いまだ議論はつくされていない2),その手段は機械的清掃(mechanical cleansing)と化学療法剤の経口投与による化学的腸内清掃(chemical cleansing)とに分けられる.主な論点は前者の単独がよいか? 両者の合併がよいか? また化学療法剤では何をどのように用いるのがもつとも効果的か? という点に集中されている.今日の時点では化学療法の併用に賛同する者が多く,その使用法はkanamycineまたはneomycineとtetracyclincの経口投与を術前短期間に行なうことが好気性および嫌気性菌の抑制効果がもつともよいという意見が多い2).Nichols3)らが最近提唱している方法は手術前日の午後1時,2時,11時にそれぞれneomycin 1 gmとerythromycin1 gmを経口投与する方法である.

症例

胃軸捻転症の検討

著者: 杉村忠彦 ,   斎藤正光 ,   倉光秀麿 ,   織畑秀夫

ページ範囲:P.701 - P.705

はじめに
 胃軸捻転症は比較的まれな疾患であるが,近年X線検査法の発達によつて容易に診断できるようになつた.胃軸捻転症は短軸性(間膜軸性),長軸性(臓器軸性)および両軸性に分けられる.われわれは最近3年間で6例の胃軸捻転症を経験したが,これら全てに胃X線検査を施行しならびに可能なものには胃内視鏡検査も行なつた結果,短軸性5例,非常に珍らしい両軸性(下結腸型)1例で,長軸性はみられなかつた.著者は本症例を提示し,特に胃内視鏡検査を施行した短軸性2例および両軸性1例を供覧し若干の文献的考察を加え報告する.

胃原発悪性リンパ腫の1例

著者: 山際裕史 ,   大西武司 ,   稲守重治 ,   竹内藤吉 ,   石原明徳

ページ範囲:P.711 - P.714

はじめに
 胃の悪性リンパ腫は,本邦では約400例が文献上に報告されていて,決してまれとはいえない.早期胃癌は粘膜下までの浸潤で,転移の有無を問わないというとりきめであるが,悪性リンパ腫の場合は,その性格上,これと同じように考えることはできないが,一応,粘膜下までの浸潤を早期とすれば,8例が文献上に報告されているにすぎない5,9-15)
 本稿では,胃のリンパ網内系の不規則な増生(lym-phoreticulosis)の1部が悪性化したと考えられる症例を示し,若干の考察を加える.

前交通動脈の巨大動脈瘤

著者: 古和田正悦 ,   儀藤洋治

ページ範囲:P.715 - P.718

はじめに
 巨大脳動脈瘤の報告は,文献上80例に満たないが,その多くは内頸動脈や椎骨,脳底動脈の例であり,中大脳動脈や後大脳動脈の症例はごく少数である.さらに前交通動脈の症例は,現在のところわずかに5例の報告があるに過ぎないようである.最近,私達は前交通動脈の巨大な動脈瘤の手術例を経験したので,文献的考察を行ない報告する.

先天性胆嚢欠損症の1例

著者: 許斐康煕 ,   池田靖洋 ,   原寛

ページ範囲:P.719 - P.722

はじめに
 先天性胆嚢欠損症については,これまでにもかなりの報告がみられるが,その大部分は術中または剖検によつて胆嚢窩に胆嚢がみられないことだけで報告している場合が多い.術中,術後あるいは剖検時に精査を行ない,かつ胆管造影を行なつて異所性胆嚢の存在を否定したうえで,先天的な胆嚢欠損症であると確診し得たものだけを数えれば,報告例の約半数にもならないであろう7)
 著者らは,最近胆石症よう症状を呈した症例の開腹術を行なつて胆嚢欠損の所見を得,さらに術後十二指腸ファイバースコープを用いた逆行性胆管造影を行なつて異所性胆嚢の存在を否定し得たので,文献的考察を加えて報告する.

胃結核の1例—過去5年間における本邦報告例の考察

著者: 斉藤敏比古 ,   小島伸彦 ,   赤岩正夫 ,   中山和道 ,   中山影親

ページ範囲:P.723 - P.728

はじめに
 胃結核の術前診断は癌,粘膜下腫瘍,潰瘍,その他の胃疾患との鑑別がきわめて困難であり,本邦における報告例をみても術前に確定診断を得たものは数例にすぎない.
 最近著者らはX線検査ならびに内視鏡検査の結果,噴門部悪性腫瘍の疑いのもとに胃底部切除を行ない病理組織学的に胃結核と診断した1例を経験したので報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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