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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科28巻8号

1973年08月発行

雑誌目次

特集 急性腹膜炎

汎発性腹膜炎における膿の進転,貯溜およびドレナージの問題

著者: 牧野永城 ,   桜井健司 ,   松井昭 ,   三重野寛治 ,   楊鴻生 ,   青木克彦

ページ範囲:P.1069 - P.1078

はじめに
 腹腔内の管腔臓器が穿孔して,内容が遊離腹腔内に漏出する場合,液体が腹腔内をどのように移動して,どこにもつとも貯溜しやすいかに関しては,古くから種々の説明や論議がある.それから腹腔内感染に対するドレナージの使用に関しても,局在性膿瘍に対するドレナージの使用に疑念をもつ者はないが,一旦汎発性腹膜炎となると,ドレーンの挿入部位に関しても問題があるばかりでなく,一体ドレーンの使用そのものに意味があるかないかに関してさえ意見が分かれている.実際腹腔のドレナージは,日常臨床医が遭遇している問題なのに,その使用に関してはつきりした指針がないというのが実情である.
 以下述べることは,これらの問題についてわれわれが行なつた動物実験および臨床症例から得られた知見で,臨床上の指針の一端となると考えたものである.

急性腹膜炎によるショックの治療対策

著者: 玉熊正悦 ,   石山賢 ,   碓井昌 ,   小泉澄彦

ページ範囲:P.1079 - P.1085

はじめに
 戦後20有余年,抗生剤の発達で外科的感染症は大きく変貌したといわれるが,外科領域で日常しばしば遭遇する代表的な重症感染症である急性汎発性腹膜炎は現在でも極めて重篤なものである1)2).原因としてもつとも多い消化管穿孔の場合,穿孔胃腸管の部位,大きさ,来院までの時間,穿孔前の全身状態と原疾患により修飾されている度合,などにもよるが,一旦急性汎発性腹膜炎に進展すると,いわゆる細菌性ショックと呼ばれる循環不全,腎,肺障害などを伴うことが多く,その治療の難しさは実地臨床家のひとしく経験するところである.本年4月京都で開かれた第73回外科学会で石川(浩),田中(早)両教授司会のもとに行なわれたこの問題に関するシンポ4)で筆者はとくに「感染とショック」を担当し急性腹膜炎でショックを誘発する因子とその対策を中心に報告したが,本稿ではその主旨を焦点にとりあげ,本特集企画分担の責を果したいと思う.

外傷性腸管破裂

著者: 大矢裕庸 ,   金子芳弘 ,   折居俊雄 ,   伊藤俊治 ,   大島道一 ,   内田敬美 ,   大井康之 ,   横須賀稔 ,   松野正孝 ,   近添拓世 ,   片岡一朗

ページ範囲:P.1087 - P.1096

 外傷性腸管破裂による臨床症状は出血と腹膜炎の組み合せといえる.これにさまざまな合併損傷が加わると臨床像は複雑となり,目先の損傷に眩惑されて実態を握みかねることにもなろう.本損傷のみならず腹部外傷の診療に当つては,初診時には救命を第1としての救急措置を順序よく迅速に行ない,全身状態の管理をすすめながら,次いで臨床経過の変化から開腹の可否について速やかな判断を得ることが要点となる.
 ここでは筆者らの外傷性腸管破裂48例の臨床経験と,これに関する実験結果から,本損傷に対する基本的な診療方針を中心に述べていきたいと考える.

胃・十二指腸穿孔治療上の要点

切除か,一次的縫合か

著者: 大谷五良

ページ範囲:P.1043 - P.1048

Ⅰ.胃・十二指腸穿孔の治療方針
 それによつてひきおこされる急性腹膜の治療を第1とすることはいうまでもない.それに加えて原疾患の治療が行なわれればこれにこしたことはないわけである.このような方針からまず腹膜炎を安全に治すことを目標にしていろいろな処置がとられてきた.そこで腹膜炎の経過と治療法についてのべてみよう.
 穿孔がおこると,激しい腹痛が突然おこり,これは間もなくおさまつて,いわゆる被覆性穿孔の状態になることもあるが,多くはいろいろな治療にもかかわらず,腹痛は軽快せず定型的腹膜炎に移行する.上部消化管の穿孔は下部のものに比し,細菌感染率は低く,endotoxin shockに陥るには比較的時間の余裕がある.

誘導の諸問題

著者: 斉藤淏 ,   井出裕雄 ,   鈴木和徳

ページ範囲:P.1049 - P.1056

はじめに
 とくにこの場合の急性腹膜炎における誘導法(drainage)について書くようにと,難問題が筆者に投げられた.しかし関連したことは最近の本誌(「臨床外科」28巻4号)に,また今春の第73回日本外科学会の学術集会においても十分に論じられているのである.胃・十二指腸潰瘍の穿孔性腹膜炎が主な対象となるのであろうが,これが治療としては,今日の日本では胃切除+無誘導法(以下Dと略記,誘導物にも流用する)が多くに支持されている.

腹腔内洗浄と合併化学療法の意義

著者: 渡辺晃 ,   村上穆 ,   俣野一郎 ,   柴崎信悟 ,   小林正義 ,   加畑治 ,   松本高 ,   小川純一 ,   西野弘美 ,   田村晄一 ,   福田欣孝 ,   軍司光夫 ,   野木東洋 ,   大関庸一

ページ範囲:P.1057 - P.1067

はじめに
 研究というのは真理の探究には違いないが,その終局の目的はやはりなんらかの形において人類に貢献するものでなければならないと思う.医学の研究は,本邦では特に学位論文が中心で,それだけを目的とした無味乾燥な研究もかなり多く,実際その研究に従事してきた医師は,忍従の数年間を大学医局において過してきたと述懐する者もかなり多いであろうと思う.というのはあまりにも最近は臨床とかけ離れた研究が多くなつてきたためと思う.さて急性腹膜炎とは,最近までほとんど学会でも問題にされなかつた.つまり大学病院では急性腹膜炎の臨床例が少なかつたので,大学での研究テーマには取り上げられなかつたためであろう.筆者は10年前に国立水戸病院に着任して数多い急性腹膜炎症例に遭遇して,それから真剣にこの問題解決のため臨床的研究を始めたのである.
 大学では臨床例が少ないから勢い実験に頼らざるを得なくなり,各種条件下にいろいろな腹膜炎を定量的に動物に起こさせて,その病態生理,ショック発現機序,治療方針等を考究し各群毎に成績を出して臨床例に関する治療方針を打ち出そうといろいろ研究が進められてきた.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・18 胃疾患の肉眼診断・10

Ⅵ.胃原発の悪性リンパ腫

著者: 佐野量造

ページ範囲:P.1040 - P.1041

 胃に原発する悪性リンパ腫は胃の悪性腫瘍の3%程度を占めている.組織学的には,リンパ肉腫(成熟したリンパ球に似た細胞よりなるもの),細胞肉腫,ホヂキン肉芽腫,巨大濾胞リンパ腫に分けられ,このうちでは細網肉腫がもつとも多く,予後はリンパ肉腫が良い.肉眼的に,リンパ腫は早期癌に類似した外見を示すものとボルマン型の進行癌に似たものがある.
 悪性リンパ腫の肉眼分類として筆者は次のような分類をしている.①表層型(superficial type),②潰瘍型(ul-cer type),③隆起型(polypoid type),④決潰型(fun-gating type),⑤巨大すう襞型(giant fold type).

クリニカル・カンファレンス

胃・十二指腸潰瘍穿孔をどうするか

著者: 松田好雄 ,   青木照明 ,   四方淳一 ,   信田重光 ,   牧野永城

ページ範囲:P.1102 - P.1118

〈症例〉
 患者 42歳,♂.
 現病歴 2年前位から胃部不快感あり.近医にて投薬治療を受けていた.

外科医の工夫

新案2方活栓および3方活栓付血管内留置針について

著者: 小川秀道

ページ範囲:P.1123 - P.1124

はじめに
 術中の静脈路の確保は安全な患者管理をおこなう上で極めて重要で,麻酔開始に当つて欠かすことのできない処置の1つである1)
 この目的のために,従来の静注針あるいは"cut down"にかわり,現在,より軽便なポリエチレンあるいはテフロン製静脈留置針が広く用いられている.各種のものが市販されているが,これらは目的によりかならずしも満足すべきものではない.そこで次のような改良した血管内留置針を考案試作し,実験動物およびvolunteerにおいてその効用を検討し,満足すべき結果をえたので紹介をかね報告する.なお本血管内留置針は著者が1969年9月米国留学中に試作し使用したものであることを断つておく.

私の意見

"How to influence editors and win readers":Third Annual Course in Scientific Communicationに参加して

著者: 出月康夫

ページ範囲:P.1126 - P.1129

 昨年の9月末から10月初旬にかけて米国のSan Franciscoで,ひきつづき2つの大きな外科系の学会が開かれた.移植学会(Transplantation Society)の第4回国際会議と米国外科学会(American College of Sur-geons)の第58回臨床総会である.この2つの学会の合い間のわずかな期間を利用して,やはりAmerican College of Surgeonsの主催で,9月30日と10月1日の2日間"Communicating scientific thought:How to influence editors and win readers"というScien-tific communicationに関する小じんまりとしたワークショップが開かれた.San Franciscoの名所の1つであるNob HillにあるMark Hopkins Hotelという古いホテルの一室で開かれたこのワークショップは,平たくいうと"医学論文の書き方"に関する講習会である.

世界の手術室・3

ドイツとアメリカの伝統

著者: 隅田幸男

ページ範囲:P.1130 - P.1132

 伝統を誇るヨーロッパ医学のメッカの1つにミュンヘン大学医学部がある。この大学では胸部外科の開拓者E.F.Sauerbruchがかつて活躍し,その後R.Zenkerが引継いで,Düsseldorf大学のE.Derraと共にドイツの近代胸部心臓外科を二分して頑張つてきたところである.
 ミュンヘン大学病院は公衆衛生学の父であるMax von Pettenkofer(1818〜1901)の名にちなんだ通りにある.余談だが経口感染説を否定したPettenkoferは自らコレラ菌を飲んだがため感染し死亡した.ここで学ぶ日本からの留学生は今もあとを断たない.Sauerbruchがここの外科教授になつたのは若冠36歳(1911年)の時である.彼は1903〜1904年にわたり低圧室内で肺虚脱を防ぎながら食道や肺疾患患者の手術をしたという.その後陽圧室も考案している.運動場のように広い床をもち,大空のように高い天井をもつ当時の手術室は古色蒼然と今日でも残つている.そんな手術室であるためか過去と現在との混在が著しい.IBMのコンピューターがあるかと思えば,巨大なガスボンベが沢山転がつていたりである.手術器械台の上にどつかりと置いてあつたごつい開窓器もポンペイ遺蹟から発掘されたものと何ら変りがなかつた.

論説

肝動脈結紮後の肝機能の変化

著者: 永末直文 ,   綾部欣司 ,   村上博圀 ,   市丸喜一郎 ,   荒木貞夫 ,   草場威稜夫

ページ範囲:P.1135 - P.1141

はじめに
 1922年のRitter,A.37),1933年のGraham,R.R.13)らの報告以来,肝動脈結紮は腹部外科に携わる者にとつては常に不安な合併症であつた.これらの報告は胃,胆嚢,総胆管,膵などの手術時に不慮の合併症としてみられたもの(accidental hepatic artery ligation)であるが,最近でのaccidental hepatic artery ligationの致命率も半世紀前のそれとあまり変つていない.すなわちMonafo,W.W.28)らKarasewich,E.G.18)らは最近の報告の中で,もし肝固有動脈あるいはそれより末梢での損傷に気付いたら,ただちに血行再建をすべきであると述べている.しかしBrittain,R.S.10)ら,Andreassen,M.6)らの報告のように致命的な影響のみられなかつたものもある.
 これに反して1950年頃より肝硬変症16,36),肝動脈瘤20),肝血管腫17),肝外傷38),肝動静脈瘻24)などの治療法としてやむなく,肝動脈結紮を行ない(therapeutic hepatic artery ligation)生存できた症例が多くみられるようになつた.

体部腺域にみられる胃潰瘍

著者: 山際裕史

ページ範囲:P.1143 - P.1148

はじめに
 胃潰瘍は,胃の病変の中でもつともpopularな疾患のひとつであり,その発生や病態生理に関する研究は数多いが,現在まだその本態については判然としていない.たとえば,発生部位ひとつをとつても,そのほとんどすべてが幽門腺域に生じ,体部腺域に生じるものの頻度は極めて低いとされている1-3).しかしながら,多数の症例を検討すると,体部腺域に生ずる潰瘍の数は決して少ないものではない.
 本稿では,体部腺域内に生じた潰瘍を,臨床病理学的に検討し,若干の考察を加える.

症例

石灰沈着を伴つた胃膠様癌の1例

著者: 桜井秀憲 ,   山岡郁雄 ,   新井正美 ,   青木幹雄 ,   四方淳一

ページ範囲:P.1149 - P.1152

はじめに
 悪性腫瘍における石灰沈着像は甲状腺・乳腺・結腸・卵巣などの癌や平滑筋肉腫や血管肉腫などにもみられるが胃癌に石灰沈着像がみられるのは非常にまれである.われわれはこのような1例を経験したので報告する.

上腸間膜動脈性十二指腸閉塞症の3治験例と本邦報告例の統計的考察

著者: 関根鴻 ,   嶋崎腎 ,   嶋崎和夫

ページ範囲:P.1153 - P.1160

はじめに
 上腸間膜動脈性十二指腸閉塞症はRokitansky6)が初めて1842年,腸間膜による小腸の内嵌頓につき,1863年6),十二指腸が空腸彎曲部で腸間膜に圧迫される可能性を指摘,Nicaise7)が1885年第1例を報告,1889年Albrecht1)が詳細に検査,Arteriomesenterialer Duo-denal verschlussと命名,欧米で報告が相つぎ,1913年Haberer2)が急性胃拡張と分離,独立疾患とみられるようになるも,1914年Melchior3)はAtonia gastrodu-odenalis acutaといい正当性を主張した.
 1910年中原24)がドイツでの4経験例を報告したが,本邦第1例は1920年の矢田25)の報告に始まり,現在までに95例の報告があり,3自験例を報告し,考察を加えてみる.

当教室で経験した乳癌症例の検討—特に術後成績を中心として

著者: 曾和融生 ,   奥野匡宥 ,   尾松準之祐 ,   三木篤志 ,   松沢博 ,   竹林淳

ページ範囲:P.1161 - P.1166

はじめに
 われわれの教室において,1961年1月より1971年12月までに経験した乳癌のprimary caseは221例であるが,このうち1966年末までに取扱つた126例につき,術後遠隔成績を中心とした検討を行ない,併せて若干の文献的考察を試みた.

Neuroleptanesthesiaを用いた低体温麻酔の1例—下空大静脈走行異常と動静脈瘻を合併した腹部大動脈瘤の症例について

著者: 北村征治 ,   乾育功 ,   戸崎洋子 ,   天方義邦

ページ範囲:P.1167 - P.1171

はじめに
 最近著者らは左総腸骨動脈と右総腸骨静脈の間に短絡性の瘻孔を有する大動脈瘤の根治術に際し,neurolep-tanesthesiaによる低体温麻酔を行なう機会を得た.
 Zajtchukら1)の自験例を含めた報告によれば,大動脈瘤の下空大静脈への自然破裂をみた珍しい記録が1831年の昔にSymeによつて行なわれているとのことである.その後に同様の症例報告が散見され,外科的治療を加えられたものは1938〜1966年の間に46例あり,Zajtchuk自身の報告を加えても1971年までの33年間には47例にすぎない.腹部大動脈瘤に動静脈瘻が合併すると動脈瘤より末梢側における組織の腫大がおこり,これがかなり急速に増大する.これは中心静脈圧(以下CVPと略す)の上昇をきたして動脈瘤より末梢側に起こる静脈血の帰流障害が発生するためであると考えられる.したがつてこの手術に際して興味ある点は,長時間の血流遮断後にdeclumping shockが発生する可能性があること,さらには瘻孔閉鎖術後に循環動態および体液量の変化をきたすことが予想されることである.実際には本症例は思いがけない術後合併症の多くを併発しながら経過したが,麻酔も手術も成功を得た.ここに著者らの考察を加えて報告したい.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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