icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科29巻11号

1974年11月発行

雑誌目次

特集 外科と血栓

血栓の生成と抗凝固療法

著者: 村上文夫 ,   大城孟

ページ範囲:P.1251 - P.1259

Ⅰ.血栓症の成因について
 血栓症はわが国において最近とみに増加の傾向を示し,外科領域における重要な1課題として注目されるようになつた.
 血栓症の成因につき1856年Virchow1)は, ①血管壁の性状の変化—損傷,粗化など(血管  壁因子mural factors) ②血液粘稠度の変化—凝固性の亢進(凝固因子  coagulation factors) ③血流速度の遅延(うつ血stasis)という3つの要因(Virchow's triad)を挙げ,血栓症はこれらの要因が相互に関連して発生すると主張したが,この所説は1世紀後の現在に至るまで容認されている.これらの変化の相乗がある限度を超えると,ある因子の障害は他の因子の障害のtriggerとなり,雪だるま式に血栓準備状態に陥つてゆき,遂にはhomeostasisに抗して血管内血液凝固を招来するものと理解されている.従つて血栓形成の予防ないし治療を全うせんがためには,これら諸要因の相互関係をよく理解し,このような悪循環のきづなを何処かで断ち切るようにすることが,必須条件となつてくる.

救急処置を要する動脈閉塞症

著者: 草場昭

ページ範囲:P.1261 - P.1267

はじめに
 救急処置を要する動脈閉塞症には,1)動脈塞栓症,2)急性動脈血栓症(含,外傷性急性動脈血栓症),3)解離性大動脈瘤がある.これらの急性動脈閉塞症の特徴は,適切な処置を施さない限りほとんどの症例で急速に阻血症状が進行し,ついには壊死に陥るが,一方において,早期診断が適切におこなわれれば,単純な手術で完全に治癒させることができることである.
 しかしながら,その外科治療の成績は,発症よりの経過時間,閉塞動脈の性状,ならびに閉塞範囲,他の心血管疾患の合併などによつて左右される.解離性大動脈瘤は,成因,治療方針共に前2者とはいささかおもむきを異にするので,本項では,動脈塞栓症,急性動脈血栓症について,その成因,症状,診断,ならびに治療の要点についてのべる.

急性腸骨大腿静脈血栓症

著者: 田辺達三

ページ範囲:P.1269 - P.1275

はじめに
 近年,わが国においても血栓閉塞性血管疾患の増加が指摘され,一般の関心もしだいに高まつてきている.腸骨大腿静脈血栓症は血栓症の代表的疾患であるが,静脈血栓症に限らず,一般に静脈疾患はこれまで直接生命を脅かすものが少なく,また適確な診断法,治療法を欠くなどの理由から,等閑に付され十分な検索がなされない傾向にあつた.しかし静脈血栓症は世界的に急激な増加をみており,重篤な合併症や,難治の後遺症の問題が明らかにされ,この十年間に成因,頻度,診断,治療などについて改めて詳細な検討が加えられてきている.
 ここでは北大第2外科における下肢の血栓閉塞性静脈疾患症例108例について分析し,内外の文献と対比しつつ,とくに急性腸骨大腿静脈血栓症のもつ諸問題点を明らかにするとともに,本症の早期診断,早期治療の重要性を強調したい.

腸間膜血管閉塞症

著者: 三島好雄

ページ範囲:P.1277 - P.1282

はじめに
 消化管に阻血症状をきたす血管病変として,小腸領域では腸管壁小血管の閉塞,急性腸間膜血管閉塞,腸間膜血行不全,腹腔動脈起始部症候群,慢性腸間膜動脈閉塞などが,大腸領域では可逆性ならびに非可逆性の阻血性病変,新生児の壊死性腸炎,大腸癌に合併する局所性腸炎などが報告されているが1),ここでは主題にしたがつて主に腸間膜血管の閉塞について述べる.
 著者らのえた統計では,わが国における腸間膜血管閉塞は急性型が多く,男子にしかも中年以後に多い.血管の中では上腸間膜動脈に多く,欧米とは異なつて塞栓より血栓によるものが多いが,区別の不明なものも少なくない.病因としては動脈硬化症,心不全などの他に大動脈炎症候群など血管炎によるものがわが国ではかなり多い2)

脳血栓症に対する手術の試み

著者: 菊池晴彦

ページ範囲:P.1285 - P.1291

はじめに
 脳血栓症が脳を養う脳血管の閉塞症を意味するとすれば,その手術治療の歴史は比較的長いといえる.すなわち,頭蓋外内頸動脈血栓に対する外科的治療は,すでに1953年以来,世界各地で多くの外科医,脳神経外科医が手がけており,その報告も数多くなされている(De Bakey 1961,Rob.1961,Edwards 1962,Murphey 1965,Clauss 1965,Blaisdell 1966,Davie 1967,etc.).
 また頭蓋外における椎骨動脈系の閉塞に対しても,De Bakey (1965)の血栓内膜除去,あるいは代用血管によるバイパス作製や,長島,上野(1970)の椎骨動脈・頸動脈吻合等が行なわれている.

人工臓器における血栓の問題

著者: 桜井靖久 ,   井街宏

ページ範囲:P.1293 - P.1299

Ⅰ.人工臓器における血栓形成
 人工臓器は,人工的な合成材料でつくられており,生体にとつては異物である.生体を構成している高分子と,合成のポリマーとの違いを,いろいろの観点からまとめてみると,第1表のようになる.血液は,異物に接すると凝固するのが通例であり,したがつて,血液と直接に触れる部分を有する人工臓器においては常に血液凝固・血栓形成のおこる可能性があり,これが人工臓器の実用上の大きな障害となつていることは周知の通りである.第2表におもな人工臓器と,そこにおいて血栓形成が問題となる部分とをまとめてみた.
 人工心肺を用いて体外循環した後に,ときに発生する脳・肺・腎などの機能障害の原因の一つとして,微小塞栓が考えられている1).このmicro-emboliを構成している主体は血小板の凝集したものであるという2).近年,実用化しつつある膜型人工肺において,血液と酸素との接触面積を増すためにキャピラリー型や中空線維型などが考案されているが,この場合には血栓による血液通路の閉塞が大きな問題となる3)

外科領域におけるDIC

著者: 松田道生

ページ範囲:P.1301 - P.1308

はじめに
 DIC(Disseminated Intravascular Coagulation,汎発性あるいは播種性血管内凝固)症候群という名称が広く用いられ,その病態生理と結びつけられて理解されるようになつたのはここ10年余りのことであるが,その現象は古くからよく知られてきている(Generalized Shwartzman re-action,毒蛇による咬傷と出血傾向,Purpura fulminans,異型輸血と腎不全など).
 大量出血による低血流量性ショック,エンドトキシンショック,移植臓器の拒絶反応,等々,近年外科領域においてDICがその原因ないし結果として重要な役割を演じていることが明らかにされ,多くの研究者の注目を集めているが,本稿では,この領域での成果を内外の論文を紹介する形でまとめ,臨床面で実際に患者を管理される方々のお役に立てたいと思う.

医原性血栓症

著者: 大内博 ,   葛西森夫

ページ範囲:P.1309 - P.1314

はじめに
 外科に関連した医原性血栓症は,まずSeldin-ger法1)に代表される動脈造影法施行後に発生する動脈血栓症があげられる.しかし,近年血管に対して操作を加える方法は,診断面のみならず治療面にも及んでおり,かなり長期間にわたつてカテーテルを留置することがある.したがつて,医原性血栓症の発生に対しては,常に念頭におき,これに対処することが必要である.

EDITORIAL

血栓と外科的治療

著者: 杉江三郎

ページ範囲:P.1247 - P.1249

 外科と血栓──この課題は重要であるが,範囲も広範であり,焦点がなかなか絞り難い.本特集では,それぞれ外科における血栓の問題のうち重要課題が取り扱われるはずであるが,その導入部分としてここでは外科における血栓を俯瞰的にながめてみよう.
 すでに古くVirchow病理学の教える通り,血栓形成の因子としては,①血管壁の変化(動脈硬化や損傷,その他感染),②血流の変化(動脈瘤や狭窄などによる血液停滞や渦流),および③血液成分の変化(血液凝固因子の変動,たとえば特発性血栓やDICなど)が指摘されてきたが,これは今日でも正しい.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・27

悪性リンパ腫と類縁疾患

著者: 三方淳男

ページ範囲:P.1244 - P.1245

 リンパ節の腫大を来す疾患には,多くの炎症性及び腫瘍性疾患がふくまれるが,外科的に切除や生検の対象になるのは,癌の転移とか悪性リンパ腫を疑う場合が圧倒的に多い.従つて,悪性リンパ腫を中心に,鑑別を要する2,3の疾患をふくめて解説を試みたい.

クリニカル・カンファレンス

急性下肢静脈血栓症をどうするか

著者: 阪口周吉 ,   古川欽一 ,   上野明 ,   桜井健司 ,   牧野永城

ページ範囲:P.1316 - P.1332

《症例》
 患者 61歳,♀
 病歴 入院前日の朝から患者は腰部および左下腿にかけての疼痛に気づき,これが立位,歩行で漸次増強してきた.入院当日は起床時左下肢の暗赤色の腫脹,疼痛が出現し,歩行不能となつたので整形外科外来を受診したが急性の静脈疾患を疑われ,外科に転科,入院した.

術前術後

手指消毒法の研究(Ⅰ)—特にHibiscrub,Hyamine-T,Isodine,phisoHexの連続洗浄法による効力検定

著者: 古橋正吉 ,   宮前卓之 ,   上田伊佐雄

ページ範囲:P.1337 - P.1344

はじめに
 手指の外科的消毒法については,Fürbringer1)以来多くの研究がある.方法としてはブラシによる摩擦洗浄と消毒薬併用の方法が当初からひろく用いられてきた.その後,Domagk2)がZephirolを開発し化学的消毒法が重視され,その後も各種消毒薬が作られ手洗い時間の短縮が意図されて今日に至つている.いつぽう,皮膚消毒薬の実際的効力についてはPrice3)が連続ベースン洗浄法により手指細菌数の定量的研究を行ない,これは再現性のある実験として高く評価されている.わが国では,星4),小田5,6)らの好気性,偏性嫌気性皮膚細菌について詳細な研究があり,以後,各方面から臨床実験報告がある.これらの報告のいずれもが指摘していることは皮膚を摩擦洗浄または消毒しても細菌数を零とすることはできず,常在菌は必ず残り,手術用ゴム手袋の着用後はいつたん減少していた菌数が急激に増加する点である.このためPriceらはSkin Disinfection(皮膚消毒)よりもSkin Degermingの用語を用いることをすすめている.これは,皮膚の細菌数を手術実施に支障のない程度まで減少させることと定義している8).わが国では「皮膚消毒」を慣用しているが本質的な理解のもとに便宜上使用していると解釈したい.研究者によつては単に「術前手洗い」としている者もいる.ここでは慣例によつて皮膚消毒の語を用いることにする.

臨床研究

北多摩地区破傷風の統計的観察

著者: 高橋勝三 ,   黒田孝井 ,   里見昭

ページ範囲:P.1345 - P.1347

はじめに
 1972年版厚生白書13)によると破傷風はまだ十分に制圧されたとはいえない伝染病のグループに属しており,第1表に示すごとく最多発年の1959年に比べれば約1/10に減少したが,なおその死亡率は高い.7年前著者が当院に赴任した頃続いて3例の小児破傷風を経験して驚いたが10),最近はほとんどみなくなつた.北多摩領域としては如何なものであろうかと考えたのが本研究の緒であるが,幸に城西外科研究会の会員,当該保健所のご協力をえていささかの知見をえたので報告する.

臨床報告

多発性胃嚢腫の1例

著者: 杉本博洲 ,   一戸兵部 ,   石川惟愛 ,   三浦市郎

ページ範囲:P.1349 - P.1352

はじめに
 胃粘膜下嚢腫は,比較的まれとされレ線学,内視鏡等による診断技術の進歩した昨今でも,時として,その診断の容易でないことがある.われわれは,最近,胃ポリポージスを疑われた多発性胃嚢腫の1例を経験したので報告する.

乳幼児尾仙骨部奇形腫について

著者: 小暮公孝 ,   都築靖 ,   内田好司 ,   清水哲也 ,   阪上昌三郎 ,   松山四郎

ページ範囲:P.1353 - P.1357

はじめに
 尾仙骨部奇形腫は比較的まれな腫瘍であるが,その特異な部位と異様な外観により注目され,紀元前2,000年の昔から記載されている.欧米ではLisco2)をはじめGrossら1),HickeyとLayton3),DonnellanとSw-enson4)などのすぐれた論文があり,本邦でも若林ら5)が1962年までの本邦報告例110例を集計している.本腫瘍には組織学的に3胚葉成分を完備した成熟型奇形腫のみならず,広く奇形腫群に属する様々な組織像を示す悪性腫瘍が含まれ6),発生部位も尾仙骨後下方の典型的部位の他に,外部から見えない仙骨前のものが含まれている.本腫瘍は臨床的にも,腫瘍学的にも,さらに手術手技の上からも独特な特徴を有する興味深い腫瘍である.
 われわれは今までに3例のそれぞれ特徴ある臨床像と経過を示した尾仙骨部奇形腫を経験し,その治療上2,3の問題を感じたので,文献的考察を加えて報告する.

薬剤

脳血流不全に対する線維素溶解療法の応用—術後補助療法としてのUrokinaseの意義を中心に

著者: 森山昌樹 ,   鈴木正弘 ,   上村孝臣 ,   志沢寿郎 ,   松井康信 ,   岩崎由雄

ページ範囲:P.1359 - P.1366

はじめに
 脳を循環する血流の不全を如何に改善するかは旧くかつ新しい課題として幾度も登場してくる.
 脳血流不全を来す原因として(Ⅰ)器質的なもの(①頭蓋内外頸動脈・推骨動脈系のアテローム変性による狭窄または閉塞,②遊離血栓による栓塞)に加うるに(Ⅱ)機能的なものを無視するわけにいかない.すなわち,①動脈瘤破裂の際にみられるvasospasm ②頭蓋内血腫または腫瘍による脳内主幹動脈群の圧迫,③Subclavian stealなどarch-vertebrobasilar systemの脳血流異常shuntなどいずれも脳外科医が日常臨床で積極的に解決せねばならぬ問題であろう.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?