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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科29巻8号

1974年08月発行

雑誌目次

特集 外傷救急診療におけるDo's & Don'ts

頭部外傷—救急処置室におけるDo's & Don'ts

著者: 早川勲

ページ範囲:P.979 - P.981

はじめに
 頭部外傷の重大性が論じられ,それを専門的に取り扱える脳神経外科施設の全国的整備の必要性が唱えられてすでに久しい,爾来,たしかに施設の整備は進んだが,しかし,その結果として,頭部外傷患者の治療成績がいかほど向上したか,筆者は寡聞にしてその詳細を知らない3).特に,本邦において,その実際的必要性にもとづいて設置された脳神経外科施設が脳損傷患者の系統的治療体系をあまり考慮せずに設置されたために,特に,重症頭部外傷患者の治療が有機的に,効率よく行なわれていない傾向がある.10年以上も前であつたら,脳神経外科医の扱う頭部外傷は,頭蓋内血腫だけでよかつたかもしれないが,頭部外傷で問題なのは頭蓋内血腫だけではない.否,頭蓋内血腫にしろ,われわれはかつてはあまり問題にされなかつたような発症経過を示すものを,実際に頭部外傷患者の治療を手がけるようになつて知るようになつた.

頭部外傷—手術室におけるDo's & Don'ts

著者: 深井博志

ページ範囲:P.982 - P.985

はじめに
 頭部外傷急性期に手術室でなされる処置といつても,外傷が(A)頭部のみに限局する場合,(B)頭部以外の顔面,頸部以下の身体にもあり多発重複損傷・障害を合併する場合,また手術目的が(C)救命を第1とするか,(D)外傷に続発し生命あるいは脳機能を損うような合併症・後遺症の発生の予防的処置であるかにより,治療方針も内容も異なつてくる.また上記(A)の場合でも,損傷が①頭皮・頭蓋軟部のみに留まり脳実質の健全なもの,②頭蓋骨・静脈洞・硬膜などのみの損傷のもの,③脳実質に及んで脳障害を伴うもの,④以上のいろいろな組合せの場合もある.さらにまた⑤開頭前に頭蓋内血腫が疑われていても硬膜上下のいずれか分からないもの,⑥開頭したら術前診断と異なる頭蓋内病態で手術方針・処置を変えなければならぬ場合もあり,手術室での処置も様々である.限られた紙面でこのすべてに言及することはできないので,上記(A)の場合の手術室でする処置について気づくまま筆を進める.付表はその最も遭遇しやすい頻度順に列挙した,手術を必要とする頭部外傷の病態であるが,この中の主なものについて述べる.

顔面外傷—救急処置室におけるDo's & Don'ts

著者: 斉藤博臣 ,   塩谷信幸

ページ範囲:P.986 - P.988

はじめに
 顔面外傷の適切でない初療によつて生じた顔の醜い創跡の修正は,しばしば困難を伴うことが少なくない.女性の醜い顔の創跡は手術の適応があるが,男性では手術の適応がないと一般に良くいわれている.しかしこの考えは改められなければならない.男性でも青少年では外傷による顔の醜い創跡で悩むものであり,また職種によつては顔の傷はハンデキャップとなる.したがつて顔面外傷の初療の重要性はくり返し強調されているが,また適切な処置が守られていないことが多い.他部の外傷を伴つた顔面損傷では,一般に他部の外傷が優先して治療され顔面軟部組織の損傷がしばしばあとまわしになる.
 北里大学病院救急外来においては,一般外科,脳外科,整形外科,麻酔科,耳鼻科,眼科と形成外科が必要に応じて共診し,顔面外傷の治療にティームプレイを発揮している.また最近の顔面外傷は自動車の普及や高速道路網の発達によつて,従来のものといささかパターンが異なつてきたようである.すなわち,顔面軟部組織の損傷は,いわゆるfront glass injuryといわれるものが目立ち,額,頬,眉間に横走する多発性の弁状創であることが特徴である.顔面骨折も従来のLefortⅠ,Ⅱ,Ⅲ型では分類のできない複雑な型の出現を見る.

頸部外傷—救急処置室におけるDo's & Don'ts

著者: 佐野進 ,   松谷貫司

ページ範囲:P.989 - P.991

はじめに
 頸部外傷は各論的な各器官についての報告が主となり,従来の救急措置の文献をひもとくと,不思議と総合的なものが少なく,頭部外傷から胸部へとすぐに移つているのは,頸部が狭小な部位にもかかわらず中枢とをつなぐ神経,血管はいうに及ばず,呼吸器,消化器あるいはこれらのすべてを支持する頸椎等の重要な器官が錯綜して存在するので,一度,大きな外傷をうけると即死し,あるいは救急室に運ばれてきた時は,もはや絶望的のものが多いので関心の薄かつた外傷といえるであろう.命題が頸部外傷に限定されているものの,その原因をみても切創,刺創などの開放性損傷や,鈍性の外力,特殊のものとしては固形物あるいは腐食性の液体の誤飲などがあり,救命措置も非常に難かしく,時には一見しただけで反射的な判断を下さなければならぬ必要性にもせまられてくる.

胸部外傷—救急処置室におけるDo's & Don'ts

著者: 織畑秀夫

ページ範囲:P.992 - P.994

はじめに
 胸部外傷の患者が運ばれてきて,救急処置室で患者を診た場合に,どういうことを行なつてよいか,またどういうことは行なつてはならないかという問題について述べることとする.
 胸部外傷についてまず考えることは,胸部には心臓大血管および肺という生命に直結する重要臓器があるという点である.特に心損傷は最も急速に致命的な状態になるという特徴がある.

腹部外傷—救急処置室におけるDo's & Don'ts

著者: 山本修三 ,   須藤政彦

ページ範囲:P.995 - P.997

はじめに
 受傷原因別にみて,現在わが国でみられる腹部外傷の過半数は交通災害によるものであり,われわれが最近8年間に取扱つた入院を要した腹部外傷521例中,交通災害例は345例66.2%の多きにのぼる.交通災害腹部外傷の特徴は,外力が大きいため,腹腔内多数臓器の損傷や,腹部以外に重複損傷を有するものが多いことであり,このことは診断治療上重要であり十分銘記しておく必要がある.
 腹部外傷の病態は,腹腔内または後腹膜の実質性臓器や血管の損傷による出血と,管腔臓器損傷による腹膜炎が主体となるが,とくに出血の場合は,その症状所見が腹部以外の損傷のそれに比し非顕性であるため,あらゆる外傷患者について,診断上の最大の注意は腹部に対して払われるべきであるといつても過言ではない.

腹部外傷—手術室におけるDo's & Don'ts

著者: 真栄城優夫

ページ範囲:P.998 - P.1000

はじめに
 腹部外傷の手術といつても,特に一般の外科手術と異なるわけではないが,緊急手術として行なわれるため,人的,物的な制約を受け,さらには第1表に示すように,70%の症例が2つ以上の臓器の合併損傷であることに特色があると思われる.したがつて,あらゆる臓器の解剖と手術法に習熟していなければならず,個々の症例の全身および局所の状態により,さらには個々の臓器の損傷の程度により,臨機応変の処置と判断が要求される.1つの手術法に固執することは賢明でなく,患者の生命を救うことを目的としなければならない.個々の臓器損傷に対するDo's & Don'tsは,症例によつても異なり,紙数にも限度があるので,腹部外傷全般のごく一般的,基礎的なことについての,やつて良い処置,悪い処置を述べることにした.

泌尿器外傷—救急処置室におけるDo's & Don'ts

著者: 宍戸仙太郎 ,   杉田篤生

ページ範囲:P.1001 - P.1004

はじめに
 最近交通機関の発達により交通戦争といわれるほどの交通事故の激増や,産業の隆盛に伴う労働災害,各種スポーツによる外傷などの増加がみられ,泌尿器外傷の発生頻度の増加がみられている.そこで尿路系の外傷性損傷の発生頻度についてみると,金沢ら1)の1964年1月より1966年12月までの3年間の統計によれば,医療行為によるものを除いた全尿路外傷総数は675例,このうち尿道外傷が348例(51.5%)で過半数を占め,腎外傷が264例(39.1%)でこれにつぎ,膀胱外傷35例(5.2%),膀胱尿道外傷が18例(2.7%),不明10例(1.5%)で,下部尿路外傷が上部尿路外傷の約1.5倍の頻度を示していたと述べている.私たちの教室においても,泌尿器外傷として最も多く経験されたのは尿道損傷であり,ついで腎損傷,膀胱損傷の順であつたが,尿管損傷については金沢らの報告でもみられなかつたように,私たちも交通事故や労働災害などで損傷を受けた症例は経験していない.尿管損傷が発生する場合としては,まず第1に骨盤腔内臓器の手術時であり,第2には内視鏡的操作の場合であつたので,本稿では省略する.

泌尿器外傷—手術室におけるDo's & Don'ts

著者: 津川龍三 ,   松浦一

ページ範囲:P.1005 - P.1008

はじめに
 泌尿器外傷は他臓器と同様,迅速で適確な診断と手術を行なうに際しての慎重な適応の選択が周囲の雰囲気にのまれずになされなければならない.なるべく保存的にという考え方が常に働いていなければならず,諸統計もそれを示している.以下泌尿器外傷時の手術室におけるDo's & Don'tsを主体に実際的なタッチで述べてみたい.

四肢外傷—救急処置室におけるDo's & Don'ts

著者: 三浦隆行

ページ範囲:P.1009 - P.1011

はじめに
 スポーツ,交通事故,労働災害において四肢の受ける災害頻度はきわめて高い.四肢外傷とくに開放創を伴う場合には初期治療の適否が以後の経過に重大な影響を与えるにもかかわらず患者の大部分は最寄りの医院,病院に収容されてその初期治療を受ける.患者自身に医療機関選択の余地がほとんど残されていない災害救急の現状からは,幸に熟達した医師と設備の整つた病院に収容された場合は良好な経過を辿り,逆の場合は悲惨な結果に終ることのないようすべての外科,整形外科医が自らの力量と設備に相応した救急処置室におけるDo'sとDon'tsを十分に熟知していなければならない.すなわち既に2次再建手術に熟達した医師にとつては"やつてよいこと","すべき処置"であつても,それに熟達していない医師にとつては"して悪い処置"となり,またたとえ熟達した医師であつても病院の設備によつては"して悪い処置"となる.それ故本稿では現代医学の最良,最高の治療指針としてのDo'sとDon'tsを示すのではなく,1人の四肢外傷患者が将来誤つた初期治療のために悲惨な運命を辿らないためにすべての外科医が心得るべきDo'sとDon'tsについて私見を述べたいと考える.

四肢外傷—手術室におけるDo's & Don'ts

著者: 上野良三

ページ範囲:P.1012 - P.1014

はじめに
 近年,重複損傷(Mehrfachverletzung)の増加に伴い,四肢外傷についても両下肢あるいは上肢と下肢に複数の損傷を有する場合があるので,1つの損傷に止まらず全体的な治療計画が要求される.大腿骨折と下腿骨折が同一肢あるいは両肢にみられることもまれではなく,たとえば,大腿骨折に対して観血的整復固定術を,下腿骨折には非観血的整復術といつた方針を確定し,さらに術式を選定することが必要である.
 四肢外傷に対して手術を決定した場合には術前,血管,神経損傷の有無を検査し,記録しておくことが重要で,上肢の損傷であれば橈骨動脈の拍動の有無,下肢であれば大腿動脈,膝窩動脈,足背動脈の拍動の有無,運動麻麻痺については,橈骨神経麻痺(腕関節背屈,MP関節伸展および栂指外転―栂指を手背に垂直に運動させる.拇指末節の伸展),尺骨神経麻痺(第5指DIP関節の屈曲,第2〜5指の開排,第2〜4指のMP関節屈曲,尺側手根屈筋による腕関節掌屈),正中神経麻痺(橈側手根屈筋による腕関節掌屈,PIP関節における指の屈曲,拇指IP関節の屈曲,拇指と小指の対立),下肢においては,深腓骨神経麻痺(足関節背屈),浅腓骨神経麻痺(足外側縁の挙上),大腿神経麻痺(膝関節伸展),脛骨神経麻痺(足関節底屈)などを検査し,知覚鈍麻あるいは知覚脱出の領域を観察して末梢神経損傷の有無を検査し,記録に止めておくことが必要である.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・25

アメーバ赤痢の術中所見と病理像(Ⅰ)

著者: 松峯敬夫 ,   白川洋一 ,   松原修二 ,   青木幹雄

ページ範囲:P.976 - P.977

はじめに
 アメーバ赤痢は経口的にとり入れられたentamoeba histolyticaの大腸侵入,定着に始まり,時折肝に転移性の巨大膿瘍を合併する疾患であることはよく知られている.しかしアメーバ赤痢の多くは,ほとんど症状のみられない軽症型であるといわれており,穿孔(いわゆるfulm-inating type),出血,狭窄,アメボーマ(amebic granu-loma),アメーバ性虫垂炎,肝膿瘍等の外科的合併症をきたすことは比較的まれである.
 entamoeba histolyticaは栄養型として大腸粘膜に侵入すると,まず白血球浸潤の少ない壊死層を形成し,筋層が一種のbarrierとしてはたらくため,しばらくはそのまま留まつているが,粘膜筋板を穿通すると,崩壊・壊死が粘膜下層に急速に横に拡がり,粘膜が潰瘍縁に懸垂した典型的なflask typeの潰瘍が形成される.本来アメーバ赤痢の壊死巣は細胞反応に乏しいものであるが,この時期になると細菌による二次感染が加わり,白血球浸潤が著明となつてくる.

臨床研究

胃切除後の蛋白・アミノ酸代謝

著者: 安名主 ,   大町俊夫 ,   石井一嘉 ,   松下昌光

ページ範囲:P.1019 - P.1026

はじめに
 胃切除後できるだけ短時日内に全身状態を改善させるために,術後の代謝動態の特徴を十分に理解しておき,それに基づいた食餌の内容,摂取方法の改良,あるいは薬剤による補助的療法を工夫することも望ましい.従来,胃切除後の蛋白・アミノ酸代謝については数多くの研究があるが,それぞれの研究では一つの面からの追究が進められていることが多い.そこでわれわれは過去6年間に得た成績をもとにして,各種胃疾患に対する胃手術の前後の動脈血清遊離アミノ酸,血清蛋白,アルブミン値,クレアチン,クレアチニン,および尿素窒素などの変動,アミノ酸の尿中への排泄,腎におけるアミノ酸クリアランス,腸管からのアミノ酸の吸収,15Nグリシンを指標とした蛋白代謝,総合アミノ酸経口摂取のアミノ酸代謝への影響などから胃切除後の蛋白・アミノ酸代謝について総合的に検討を加えた.

経皮的胆道造影—合併症よりみた手技上の反省

著者: 岡島邦雄 ,   山本泰久 ,   成末允勇 ,   曾我部興一 ,   福田範三 ,   酒井邦彦 ,   戸谷完二 ,   木林速雄 ,   作野和人

ページ範囲:P.1027 - P.1033

はじめに
 近年肝,胆道,膵疾患の診断に経皮的胆道造影が優れた診断能を持つことが広くみとめられ,肝生検にも比すべき検査法として内科的にも応用されている1-5).しかしなお本法には少数ではあるが,胆汁漏出,出血等の重篤な合併症が存在し,このことが内科医が行なうにせよ,万一の場合にそなえ外科医の協力体勢を整えておくべきだ3,6,7,12)とされる所以である.本稿ではわれわれが経験した本法合併症の原因を解析し,手技上の問題点につき反省した結果を報告する.

遺伝性球状赤血球症13例の臨床的観察

著者: 大城孟 ,   向井清 ,   門田守人 ,   洪性徳 ,   杉立彰夫 ,   小林延行 ,   村上文夫 ,   陣内伝之助

ページ範囲:P.1035 - P.1041

はじめに
 遺伝性球状赤血球症(hereditary spherocytosis,HS)は家族性溶血性黄疸の名で知られるように,家族内に発生し,貧血,黄疸,脾腫を主症状とし,球状赤血球,綱赤血球増多,赤血球滲透圧抵抗減退,赤血球寿命短縮,血清ハプトグロビン(haptoglobin,Hp)減少を特長とする疾患である.
 本疾患は人種により発生頻度が異なり,白人には多く,南ドイツは多発地域として有名であるが,黒人には少ない.本邦では比較的まれな疾患の1つであるが,最近では河北ら1)(79例),佐竹ら2)(131例),原ら3)(56例),滝川ら4)(57例)により多数の症例が報告され,遣伝学的な面からも血液学的な面からも注目されている.またこの疾患は摘脾が効を奏するために外科領域でも注目され研究されている疾患である.

臨床報告

特発性食道破裂の経験

著者: 小島靖彦 ,   河村允 ,   宮崎逸夫 ,   可西右使 ,   巴陵宣彦 ,   木越晴夫

ページ範囲:P.1043 - P.1047

はじめに
 特発性食道破裂は,正常の食道におこる器質的病変によらない破裂をさし,激烈な上腹部痛,胸痛をもつて始まり,早期に外科的治療を加えない限り死の転帰をとる予後極めて不良の疾患である.
 私共は最近膿胸を呈してきた本症を経験,救命しえたので,本邦例を集計するとともに若干の文献的考察を加えたので報告する.

石灰化脾嚢胞の1治験例

著者: 友田信之 ,   野村勝 ,   青柳成明 ,   中山和道 ,   古賀道弘 ,   谷村晃

ページ範囲:P.1049 - P.1052

はじめに
 脾嚢胞の最初の報告は,1829年Andral1)によつて報告された皮様嚢腫であり,本邦に於ては1890年有田7)の報告以来,現在までにわれわれが渉猟した範囲内では,90例の報告をみるにすぎない.今回われわれは,44歳女の石灰化脾嚢胞の1例を経験し,摘脾により治癒せしめたので報告する.

十二指腸リンパ管腫の1例

著者: 島筒志郎 ,   増田哲彦 ,   中村俊吾 ,   吉崎英一郎 ,   守田知明 ,   結城庸 ,   円山英昭

ページ範囲:P.1053 - P.1056

はじめに
 十二指腸良性腫瘍は,比較的まれな疾患とされている.その病理組織において,その主なものは,上皮性では,ブルンネル腺腫,カルチノイドであり,非上皮性では,平滑筋腫,脂肪腫である.
 われわれは,最近,きわめてまれな十二指腸リンパ管腫の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

胆道回虫症の1例

著者: 津田勇平 ,   木下博明 ,   枝川篤永 ,   大森国雄 ,   松本正美 ,   井関基弘

ページ範囲:P.1057 - P.1059

はじめに
 胆道回虫症は現在まれな疾患とされているが,最近われわれは回虫屍を核としてできた総胆管結石症の1例を経験したので,ここに報告する.

先天性胆嚢欠損症の1例

著者: 小沢国雄 ,   渡部脩 ,   前川武男

ページ範囲:P.1061 - P.1065

はじめに
 先天性胆嚢欠損症は,比較的めずらしい疾患の1つであり,過去の報告例をみると手術時あるいは,剖検によつて初めて発見されている.この術前診断は非常に困難であり不可能とさえいわれている.過去の報告例をみても,胆嚢造影にて胆嚢が造影されない為に,胆石症の診断にて開腹を行なつている例が,大半を占めている.本症例も術前に胆道系に関する種々の検査を行なつたが,胆石症の診断のもとに開腹し,先天性胆嚢欠損症であることが判明したので,文献的考察を加えて報告する.

膵管空腸側々吻合術にて良好なる経過をえた慢性膵炎の1例

著者: 西沢諒一 ,   田畑育男 ,   佐々木大輔 ,   佐藤東 ,   和田修

ページ範囲:P.1067 - P.1071

はじめに
 従来,本邦にては胆石症などの胆道疾患や膵癌に随伴する膵炎以外で外科的対象となる重篤な慢性膵炎は極めて少ないとされた.
 今回私達は術前に慢性膵炎と診断し,膵管空腸側々吻合術により良好なる経過をえた1例を経験したので報告する.

結腸脂肪腫の1例—本邦報告例の検討

著者: 曽和融生 ,   三木篤志 ,   馬宗吉 ,   尾松準之祐 ,   奥野匡宥 ,   畑間博 ,   北野厚生 ,   小林絢三 ,   赤土洋三

ページ範囲:P.1073 - P.1078

はじめに
 一般に消化管の脂肪腫は,比較的まれな疾患とされ,剖検例でも0.32〜4.4%1)2)3)の頻度に報告されているにすぎない.しかし消化管の部位的発生頻度では,大腸に占居する症例が最も多く4-7)9),したがつて大腸癌と鑑別すべき疾患の1つとして重要視する必要のあることはD'javid8)によつても指摘されている.本邦における大腸脂肪腫の報告は,1928年千葉11)にはじまり,それ以後現在まで第1表のごとく24例を数えるにすぎないが,今後大腸疾患の診断技術の発達と共に,本疾患が漸次増加する傾向にあるものとも考えられる.われわれは最近本症の1例を経験したので,この機会に本邦報告例についての臨床事項を中心に若干の考察を加えた.

腸間膜閉塞症の治験例—特にabdominal angina 2症例について

著者: 篠崎哲宗 ,   赤岩正夫 ,   末永英文 ,   中山和道

ページ範囲:P.1079 - P.1084

はじめに
 腸間膜動脈閉塞症にも,急性に発症するものと,慢性経過をたどるものとがあり,一般に消化管の慢性乏血状態によつておこされる症状,あるいは特有な疼痛発作をabdominal angina,あるいはintestinal anginaなどと呼ばれ,この症状がしばらくつづくと,患者は突然に死亡.剖検では広範な腸梗塞が見出されるという1,2)
 臨床的には食後に増悪する腹痛,下痢,嘔気,食慾不振,体重減少等広いsyndromeとして検討されてきている.

軟部組織に発生した好酸球肉芽腫の1例

著者: 中尾武久 ,   北川敏夫 ,   深野木正人

ページ範囲:P.1085 - P.1087

はじめに
 好酸球浸潤を伴つた肉芽腫,いわゆる好酸球肉芽腫は,1929年Finziが,15歳男子頭蓋骨に発生した症例を発表して以来,かなり多数の報告を見る.ところで,発生部位としては,骨,皮膚,皮下軟部組織があげられるが,特に軟部組織に見られる好酸球肉芽腫は,外国および本邦においても報告が少なく,極めてまれなものであるとされている.最近われわれは,右上腕下部に発生した好酸球肉芽腫の1例を経験したので報告する.

Vasculo-Behçet's Syndromeの2例

著者: 近藤肇彦 ,   西島早見 ,   古味信彦 ,   長田淳一 ,   安里哲時

ページ範囲:P.1089 - P.1093

はじめに
 Behçet病またはBehçet症候群は1937年トルコの皮膚科医Behçet1)が再発性のアフタ性口内炎,外陰部潰瘍および角膜ビラン,上鞏膜炎の眼症状を有する2症例を報告したのが最初である.その後1940年に彼自身が,アフタ性口内炎,外陰部潰瘍および虹彩炎をTriple Symptom Complexとした新しい独立疾患として発表したもので,最近,難治性疾患の1つとして注目を集めている.その後症例の増加に伴い,慢性経過中,増悪と寛解を繰り返す特徴が明らかにされ,また多種多様の全身的,系統的な病変を呈することが知られるようになつた.罹患臓器としてはmuco-cutaneo-ocularの領域に限らず,呼吸器系,中枢神経系,消化器系,循環器系などの病変があげられる2).これらのうち血管系に主な病変がみられるものは,Angio-Behçet's Syndrome3)またはVasculo-Behçet's Syndrome4)といわれているが,深部静脈の病変を呈するものは比較的少ない.最近私共は深部静脈の閉塞を伴つたVasculo-Behçet's Syndromeの2例を経験したので報告し,文献的考察を加えたい.

気管内麻酔とAnesthesia Mumps

著者: 松木明知 ,   若山茂春 ,   豊田幹夫 ,   中橋隆次郎 ,   尾山力

ページ範囲:P.1095 - P.1098

はじめに
 「胃と腸」6巻11号で竹本1,2)は稀ではあるが経口内視鏡検査施行後に一過性に頬部の腫脹が観察されるとしている.
 しかし全身麻酔とくに気管内麻酔後にも同様の頬部腫脹が一過性に見られることはほとんど知られていない.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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