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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科3巻10号

1948年10月発行

雑誌目次

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脈無し病

著者: 淸水健太郞 ,   佐野圭司

ページ範囲:P.377 - P.396

本病の紹介
 この病氣は新しい病氣ではない. 然し稀な病氣である。日本に於ての報告を總ざらひしても,26例を越さないだらう。外國には遂に報告例が見當らない。私は前々(昭和12年頃)から,この病氣に縁を持つて注意して見て居たのであるが,どうも此頃殖えて來た様に思ふ。終戰後方々から紹介されて來ることが多いのである。この病氣はまだ正式に名前がついていないので,色々な名をつけられて,又は名なしのまゝ送られて來る。そればかりではない。この病氣の原困も解つていなければ,從つて治療法もない。もつとひどいことには,症状そのものすらほんとうには掴まれていない。即ち何も解つていない状態なのである。私はこの病氣の7例に關係した。そして各々詳細に觀察することにより色々新いことも發見したし,昔からの報告例とも對照してみて,一應症候學を完成出來たと思ふ。又病理,病源論等に關しても多少の新知見を加へ,且治療法にも色々の工夫を試みているので,多少意に滿たない處もあるけれど,不取敢今までの事をまとめて發表する次第である。
 此疾患の理解の便宜上,其代表的な1例の病歴を掲げよう。

急性炎症に對する單純穿刺吸引療法—「炎症に對する外科治療法の再檢討」より

著者: 榊原仟 ,   石井雅樂 ,   宮入鴻一 ,   志賀嚴

ページ範囲:P.397 - P.402

 慢性竝に急性炎症に對する外科治療法として擧げられるものの大部分は外科治療法發達の初期から永年に亙つて行はれ來つたもので,ともすれば無批判的に實施せられて,其作用機序等が明でなく,從つて適應其他に關しても單なる經驗に頼るに過ぎない部分が少くなかつた。榊原は共同研究者と共に斯る療法の再檢討を企圖し研究し來つた。今日迄に得た所のものは未だ基礎的研究の範圍を出ないけれども,尚幾多の新知見を得たので,昭和23年5月1日第47囘日本外科學會總會に於て報告した。本篇は其一部である。
 初め單純穿刺吸引療法を以て,切開排膿療法の最小單位と考へ,これによつて切開排膿療法の作用機序を明にせんとして此をとりあげたのであるが,研究の結果本法は一つの獨立した治療法であることが分つたので茲に別個に發表した譯である。

手術前後に於ける血漿蛋白の消長に就て

著者: 砂田輝武 ,   鹽田辦治郞

ページ範囲:P.402 - P.407

緒言
 蛋白質は人體成分の約20%を占め,あらゆる生活細胞の主要成分の一で人體の新陳代謝遂行に缺くべからざるものであることは周知の事實である。疾病時に於ても蛋白代謝は組織の再生,感染及び毒素に對する抵抗に直接重大な關係があり,蛋白質の缺乏は全身衰弱,創傷治癒の遷延,合併症の發生延いて豫後の悪化を招來する。殊に吾々外科醫の對象が化膿性疾患,外傷,熱傷,惡性腫瘍其の他衰弱を伴へる内臓疾患更に手術的侵襲等と多大の體蛋白消耗を招來するものであることを思へば,患者の蛋白代謝の實情をも知る事は豫後の判定治療方針決定,手術に關する問題(適應の撰定,時期の決定,術前準備並に後療法の方針)の解明の上に決定的な意義を持つものと考へられる。
 最近の研究によれば體蛋白の代謝は血漿蛋白と互に動的平衡の状態に在り,血漿蛋白の濃度は正常では體蛋白の貯藏量との間に一定の關係を保つでゐるものであるから血漿蛋白の測定によつて或る程度迄體蛋白代謝の状態が知られるのである。

電心圖によるシヨックの實驗的研究

著者: 杉原榮一

ページ範囲:P.408 - P.411

 1612年Peter Loweにより命名されたるシヨックは,今日まで重要なる研究題目として先進諸家のあらゆる角度よりなされたる觀察と實驗の報告は各種の説を生み,或は甲論或は乙駁して興味津々たるものあり,現在に至るも猶決定的なる説を見出し得ない状況にある。電心圖の臨牀的應用價値の認めらるゝに及び,之を以てシヨックの解明をも企てるのは自然の務であつて,既に多數の報告を見るが,各種シヨックを比較考察せるは廖々たるものである。
 抑々外傷性シヨックの本態に關する古來の説を見るに,自家中毒説・ヒスタミン中毒説・局所液體滲出説・神經刺戟説等が有力であり,當教室の業績は中毒説を以て説明せんとし,血壓下降機轉は主として肺循環障碍によるものとしてゐる。余は外傷性シヨックとして止血帶解除によるシヨックを選び,ペプトン・ヒスタミン等の血管毒によるシヨック,腹部叩打による神經性シヨック,全く機械的に循環血液量を減少する起立性シヨック等との相違を電心圖により實驗的に比較檢討を試み,いさゝか興味ある所見を得たので諸賢の御批判を仰がんとする。實驗には總べて家兎を使用し,麻醉は用ひない。

ペニシリン動脈注射療法に對する批判

著者: 本多憲兒 ,   浦上輝彥 ,   佐藤弘隆 ,   飯島俊雄 ,   熊谷直 ,   伊藤茂雄 ,   木村止 ,   堀田廣行

ページ範囲:P.411 - P.415

 吾々は昨春の日本外科學會席上ペニシリン(以下P)全身療法の基礎的研究としてのP吸收,排泄に關する知見1)2)を發表し,Pの動脈注射に就ては排泄速なるを以てPの作用機轉より合理的ならざるも驅血帶により注射側血中濃度を長期保持せしめ得ることを附言した。直ちに千葉醫大中山外科教室よりPの動脈注射法の優秀なること,葡萄糖に混ずる時はPは關節腔内にも排泄される等の驚異的知見の教示を受けた。其後中山教授は其著書3)又は論文4)に本療法に就て種々の新知見を發表されたことは周知の如くである。然れども吾々の研究成績は依然として反對であるのみならず中山教室の實驗成績には醫學常識上直ちに承認出來ない所があつたので追試をも行ひ,其結果を今春の日本外科學會席上で公表した。然し學會に於ては時間に制限され吾々の所論を充分盡し得なかつたので,更に猶本邦外科の權威の意圖を誤解してから筋肉注射時にも葡萄糖に溶解しての使用も行はれて居る如くであるので茲に所論を敷衍説明する次第である。
 昨春吾々は何故にP動脈注射をPの作用機轉から不合理であるとの結論をしたか。如何に優秀な藥劑も適應と用法を誤れば奏效しない。P療法に於ても同様である。吾々がP療法に於て最も重要視するのは適量を一定の間隔で注射して血中P有效濃度を必要期間持續せしめることである。之は勿論吾々の新知見ではなく周知の如く既に英米に於て確認された決定的事項である。

股靜脈からの輸血

著者: 猪野四猪

ページ範囲:P.415 - P.418

 大人に於ける輸血には,肘靜脈,大伏在靜脈(V. saphena magna)等の表在性の靜脈を用いるのが普通であるが,此等の表在性の靜脈が利用出來ない時は,どうしたらよいか?誰も先づ靜脈切開を考えるのが普通であるが,私は偶然の機會から,かかる際に米國では,靜脈切開を行ふことなく極めて簡單に股靜脈から輸血してゐるのを知り,教室で他の同僚に追試していただいた結果,その手技が簡單迅速で,その利用性の多いことは,靜脈切開の比でないことを確認したので,廣く一般醫界にも利用していただきたいと思う。
 私が最初に股靜脈輸血を實施したのは,全身の火傷患者に於てであつた。患者は夏期にガソリン運搬に從事中,偶々それが爆發し,身體には極めて短かい半ズボンと靴とを著けていただけだつたので,殆んど身體の表面積の2/3が,第2度乃至第3度の火傷を蒙つたのであつた。元來火傷の部分には,數時間後に強い浮腫が現らはれるので,その部の靜脈は輸血に利用し難いのであるが,此の患者は米國式の治療をすることになつていたので,顏面を除いて,すべての火傷部を繃帶で覆つたので,表在性の靜脈は利用出來なかつた。そこで此の患者に毎日股靜脈から血漿又は全血を輸入して,9日間生命を維持することが出來た。其の後4例の全身火傷患者(身體表面積の1/3以上)に股靜脈輸血(血漿を含む)を實施し,理想的經過で治癒せしめ得た。

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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