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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科3巻12号

1948年12月発行

雑誌目次

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創傷に對する海水の應用に就て

著者: 伊藤博

ページ範囲:P.461 - P.464

緒言並に文獻的考察
 創傷に對する各種療法は古來既に研究論議せられ,現今一般に藥物療法のみを主とせられつゝある現況なり。現今使用せられつゝある方法は各種藥物ガーゼを創面に貼用するものにして,所謂消毒劑による消毒作用に信をおきて使用せらるるものにして,理論上に於ては消毒效果として何ら疑を差挾むべき餘地なし。然れども消毒劑は消毒にのみ作用せず,創の肉芽面に障碍を與へ,組織の抵抗力を減するのは既に認められ居る所なり。然らば消毒ガーゼの消毒作用と,組織の抵抗力低下作用との綜合力は豫期せる如く偉大なるものには非ざるなり。
 茲に於て第一次世界大戰前後に喧傳せられたる生理的療法を再檢討し,これに加ふるに現今に於ける各種化學療法を平行して使用する時は,その價値を上昇せしめ得るものなりと信ず。この意味に於て余は生理的療法に於ける5%〜10%高張食鹽水に代ふるに,海水(鹽分約1.8%〜2.5%)を用ひ創傷療法に應用して,見るべき效果を認めたり。依てこれを報告し大方諸賢の御批判御教示を仰がんとするものなり。

根治的一次的膵臓十二指腸切除術

著者:

ページ範囲:P.464 - P.469

 Allen Whipple氏及びその協同者が,十二指腸及び膵臓頭部摘出の最初の成功を發表して以來12年間を經過したが,その間に最初に發表された手術を2囘に分つて施す摘出方法は種々の修正を受けた。現在に至るまでの根治手術と稱せられる手術の發達の歴史を辿つて見ることも魅力ある物語ではあるが,それは他の適當な場所に於て記述されることとして,我々は今ここでそれを再び繰返すことは特に有意義であるとも思はれないので省略する。しかしこの手術の細部に關する多くの點に就ては,今日もなほ繼續して種々論議すべき問題があるから,たとひ比較的少數の症例を集めたものでも,この手術法が正確に遵守された症例は,それを報告するのは時宜に適したものと思ふ。それ故に,我々のこの報告の目的として,過去6年間にNew York Hospitalに於て22名の患者に手術を施し,それが滿足すべき手術法であつたことが證明された術式に就き,それをここに檢討するのである。
 私は1943年11月に一次的手術法を報告したが,それは膽道の排出口を膽嚢を介して造つたのみならず,この膽道の吻合を胃空腸吻合部よりも下方に造設した爲め,Whipple氏によつて正當の批判が下された。依つてこの手術は直ちに家の如きものに變更し允。躑ち,膽道の排出口は總輸謄管室腸吻合術によつて造り,しかも胃腸吻合部より,上方に造設した。又これらの症例は,その5例を除いて,凡てCoffey氏術式によつて膵臓空腸端々吻合を施した。

胸部損傷患者の肺機能に就て

著者: 木下仁

ページ範囲:P.469 - P.474

序言
 胸廓成形術を主體とする,胸部外科學の最近の躍進的の發展は,空洞性肺結核及び陳舊性膿胸のような,從來は難治のものと見られた重篤の疾患の治療に對し,一大光明を投じている。從つて胸部外科學を,各方面から檢討して,これの進歩發達を計るのは,外科醫の重要な任務であると言はなければならない。私は多數の胸部損傷患者について,貴重な經驗を積む機會を得たので,先人の業蹟の驥尾に附して,その一端を採録して,この點に寄與したいと思ふ。

濃硫酸による全身性熱傷に對する靜脈幹結紮法の適用

著者: 三羽兼義 ,   萩原三夫 ,   高橋堅太郞

ページ範囲:P.474 - P.476

緒言
 重篤なる瓦斯壞疽症,身體各部の化膿炎衝,或は廣汎なる火傷等に續發する全身中毒症状の發現に際して,私共1)は積極的に病竈部よりの主幹靜脈を結紮して甚だ滿足すべき結果を得,既に屡々報告して批判を乞ふた。
 茲に報告する症例は,濃硫酸の爆發によつて殆ど全身に亙る腐蝕性熱傷を蒙り,最初から豫後不良を想はしめた症例である。果して受傷の翌朝から全身中毒症状が漸次甚しくなり。午後になつてからは,高熱と共に尿閉,意識溷濁,譫語等の重篤症状が相次で起り,脈壓遽かに衰え,橈骨動脈の搏動を辛うじて感ずる程度となつた。これに對し輸血,その他の強心法を試みるも殆ど見るべき效を奏しなくなつたので,腐蝕程度の最も高度である全下肢よりの毒素吸收を遮斷する目的を以て,兩側鼠蹊靱帶直下に於て大薔薇靜脈を含む股靜脈根部を完全結紮することによりて,奇蹟的に病勢を好轉せしめ得たものである。爾後の經過は極めて順調となり,生命の危險を脱したのみならず,創傷治癒の經過も亦極めて良好となつた。

膽道氣管枝瘻の1例

著者: 代田明郞

ページ範囲:P.476 - P.479

 私は最近,吾が松倉外科教室に於て膽道氣管枝瘻の典型的なる1症例を經驗し,而もレントゲン檢査に依て其の瘻管の存在を確認したので茲に報告しようと思ふ。
 抑々膽道氣管枝瘻は,氣管枝膽道瘻,肝肺瘻等(Gallen-od. Gallengang-od. Gallenblasenbron—chusfistel,Leber-bronchialfistel,Leberlungen—fistel,Biliopulmonalfistel,Bronchus-od. Lun—ge-gallengang,Bronchobiliäre Fistel)の名の下に呼稱せられる疾病であつて,諸種の原因的疾患に依り膽道の一部と氣管枝との間に直接的,或は間接的瘻管の形成されたもので,稀有なる疾患である。此れを内外の文獻に徴しても其の報報例は未だ極めて寡く,歐米に於ては1837年Kunde氏を最古として,その數僅に數10例に過ぎず。本邦に於ては明治29年田中氏の報告を嚆矢とし今日迄に10例内外の報告に接するに過ぎない。

皮膚黒色肉腫に就て

著者: 藤田承吉

ページ範囲:P.480 - P.483

緒言
 黒色肉腫は黒色素形成機能あるChromatopho—renの異型的増殖による惡性腫瘍で,その病理解剖學的並に臨牀的特異の所見に基き腫瘍中特殊の地位を占めるものである。而してその構造及び發生機轉に關しては現今尚不明の點等が多い。本疾患は既に遠く希臘の醫聖Hippokratesによつて記載せられ,羅馬の醫Celsusは本症にNigri—cansなる名稱を附したが,これに就いて詳細に發表したのはLaennecを以て嚆矢とする。以來Borst,Dieterich,Eiselt,Luther,Ribbert及びその他多くの人によつて報告されているが,本邦に於いても大塚氏は眼球の脈絡膜に原發した32例を,砂田氏は鼻科領域に於ける15例を,光吉氏は耳鼻咽喉部に於ける21例(内外文獻138例中)を報じ,皮膚より發生した黒色肉腫に就いては川西氏は18例を,天野氏は25例を蒐集報告している。然し是等原發部位を異にした黒色肉腫に就いて,綜括的に觀察したものはまだ見當らない。
 著者は當教室に於いて,足蹠趾間の皮膚に原發し領域淋巴腺並に全身性轉移を來した黒色肉腫を經驗したので之を報告し,併せて本邦文獻を渉獵蒐集した皮膚黒色肉腫55例及び之に眼球,耳鼻咽喉科領域その他の部位に原發せる黒色肉腫を加へた188例について統計的觀察を試みて諸賢の御參考に供する。

興味あるBrodie氏骨膿瘍に就て

著者: 德安哲夫

ページ範囲:P.483 - P.486

緒言
 Brodie氏骨膿瘍とは,極めて輕微不定の症状を以て長年期に亙る,慢性原發性,限局性骨膿瘍で,1830年英醫Benjamin Brodie氏が初めて報告したものである。爾來泰西ではLexer,Gross,Oeh—lecker,Simon氏等の研究,報告ありて其の發表例數は220餘例に及ぶ樣だが,本邦では,昭和5年玉木氏の報告以來發表例數は60餘に過ぎない。
 抑々本疾患は,青少年期より壯年期に最も罹患し易く,症状の輕微且つ不定なる爲め,屡々他の疾患特に關節炎,關節ロイマチス,又は神經痛等と誤診せられ易い。余は最近本症で種々の點で興味ある例に遭遇したので報告する。

直腸癌の誤診されたエスチオメーヌの1例

著者: 小堀董

ページ範囲:P.486 - P.489

緒言
 外陰部及びその附近,即ち會陰,肛門,直腸に生ずる極めて慢性難治の侵蝕性潰瘍並に象皮病様變化,直腸狹窄を招來する1症候群を今日一般にエスチオメーヌと呼んで居る。
 本症の成因本態に關しては古來種々論ぜられ,或は結核に,或は梅毒に,或は非特異性細菌に,或は淋菌に,その原因を求められて來たが,1928年Frei氏が本症患者にFrei反應を試み,悉く陽性成績を得て所謂,第四性病と極めて密接なる關係にある事を報告して以來,多數の追試が行はれ今日ではエスチオメーヌなるものは鼠蹊部淋巴腺肉芽腫に屬するもので,その一異型或は末梢症状群である事が認められるに到つた。

下谷病院に於ける腦外傷の統計的觀察

著者: 高山祿郞 ,   藤原欣哉

ページ範囲:P.489 - P.494

緒言
 凡そ腦外傷は文化の進歩發達と共に逐年増加し來れるも,特に最近交通機關の混雜と共に驚異的に頻發し,當院外科に於ても最近腦外傷を診療する機會が著しく多く,當院開設以來の腦外傷入院患者總計368例に達せるを以て茲に其の統計的觀察を試みんとする。

多發性肝臟嚢腫の1例

著者: 瀧澤敏正

ページ範囲:P.495 - P.500

緒言
 眞性非寄生蟲性肝臟嚢腫は從來稀有なものとせられ,剖檢或は開腹の際に偶然發見せられることが多く,外科的治療を講ぜられた臨牀例は比較的稀である。1900年初めてLeppmann氏が自己症例と共に外科約治療を加へた16例を蒐集發表して以來,諸家相ついで報告するに至つた。就中,1912年Sonntag氏は26例を,1923年Jones氏は61例を,1927年Melnikow氏は93例を蒐集報告し,1933年大塚氏によれば歐米例105例を算してゐる。本邦に於ては1910年(明治43年)三宅速氏が初めて外科的療法を施した症例を報告し爾來諸家の報告する所となつた。1942年(昭和17年)光田氏は自己症例と共に,非寄生蟲性肝臓嚢腫本邦例35例を蒐集し,外科的治療を加へたもの17例を算してゐる。
 其後今日まで本症の報告を見ない。余も亦最近非寄生蟲性多發性肝臟嚢腫の1例を經驗したので茲に報告する。

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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