icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床外科3巻2号

1948年02月発行

雑誌目次

特集 蛔蟲

外科的蛔蟲症に就て

著者: 大槻菊男

ページ範囲:P.44 - P.44

 蛔蟲が腸の寄生蟲として消化器障碍や神經系の中毒症状を起すことは甚だ多い。この所謂蛔蟲症は内科,小兒科領域に屬するのであるが,外科領域に於ても,重大な役目を演じてることは周知のことである。
 外科殊に内臟外科に於て手術前準備として,檢血,檢便によつよ蛔蟲の存否をたしかめ,その陽性の場合には必ず之を驅逐して,手術後身體の變調衰弱に乘じて蛔蟲がその威を逞しうするために起る諸種の障碍を未然に防ぎ,患者の苦痛を除き,その豫後を良好にすることをつとむべきであることは,外科醫の常識である。

寄生蟲の移行及び移動に就て

著者: 小泉丹

ページ範囲:P.45 - P.49

 近時の寄生蟲の異常な蔓延擴布と感染の増率とに伴なつて(私は,伴なつてといつて,由つてとはいはない)寄生蟲病者も増してゐる。患者が増せば異常な症例もその數が多くなつて來るのが當然である。寄生蟲の蔓延とその感染率の價値のある數字が,必要なだけの條件を具へさして,得て置かねばならぬのが,この特殊な状態のもとにある日本の保健の資料として極めて必要なことである。また此と共に,このやうな状態のもとで,異常な症例がどのやうに,またどんな例があつたかを確かにして置くことも必要である。此に關して臨牀諸部門の諸家の周到な觀察と報告とが切望されるのである。
 茲で年來私が感じて來て居り,特に近頃その感を深くしてゐることを附記して置く必要を感ずる。其は,寄生蟲に因る症候とする診斷を下すのに細心であつて貰ひたいことである。特に蛔蟲に關して,私は年來臨牀診斷に不滿を感じてゐるのであるが,近時此の寄生の高率化に伴なつて,この感が一層深いのである。一面に於て,蛔蟲の病害作用の周到正確な觀察と檢査とが望ましく,一面に於て,簡單に蛔蟲に因るものとする診斷に注意深くありたいのである。

蛔蟲性イレウスの成因及び治療にたいする批判

著者: 大井實 ,   別府道德 ,   金森盛起

ページ範囲:P.49 - P.55

緒言
 本邦に蛔蟲寄生がすこぶる濃厚であることは周知の事實である。また蛔蟲によりイレウスが起ることも周知である。それなのにいわゆる蛔蟲性イレウスなるものに遭遇することのきわめてまれであることはひとしく醫家,ことに外科醫のはなはだ不思議に思うことである。蔡氏によれば1940年(昭和15年)までに本邦において報告された蛔蟲性イレウスはわずかに100餘例にすぎないとのことである。主として農村患者を對象としていこる熊本醫大において,著者らはまだ蛔蟲性イレウスを經驗したことがない。また第1表に示す如く諸家のイレウス統計でも蛔蟲性イレウスはきはめてその頻度が低い。
 以上のことから,われわれは蛔蟲によるイレウスは非常に起りにくいものであるとの推定を下さざるを得ない。著者らは次に最近經驗したきわめて興味ある症例を報告し,この推定を肯定せんとするものである。蛔蟲性イレウスの報告は上述の如く紙上に散見するが,その大部分はまれなる症例の報告という程度にすぎない。歐米先進國の近年の文獻には,かゝるまれなる症例の報告さへもきわめてまれであり,蛔蟲寄生の少ない國においては當然のことであろう。日本は蛔蟲性イレウスの文獻に富む方である。しかし洋の東西を問はず著者らの如く蛔蟲によつてもイレウスが起らなかつたという症例をあげて,この問題を裏面から論じている學者は近年はほとんど見當らない。著者らは蛔蟲性イレウスなるものが今まで考えられていたよりもさらにまれなものであることを論じ,ひいてその治療方針にまで言及せんとするものである。否定的な所説であるから廣く讀者諸賢の御批判をお願いする次第である。

最近屡々經驗せる蛔蟲性イレウスに就て

著者: 岸達朗

ページ範囲:P.55 - P.60

緒言
 近時大戰以來各種藥物は極度に逼迫し從つて各種疾患治療上臨牀醫家の非常に苦慮してゐる所である。此の藥物の拂底といふ事が蛔蟲症に對しても著明な影響を招來したものか最近各種開腹術時及び消化管レ線透視時蛔蟲の存在を屡々見受けるばかりでなく,私は相次で蛔蟲性イレウスと確められた7例を經驗したので追加報告し,併せて文獻により考察を加へ,諸家の御批判を仰ぎ度いと思ふ。
 元より淺學菲才にして文獻亦乏しく,記載もれのものも多々あると考へられるが,その點豫め御諒承願ふ事とする。

蛔蟲による腸閉塞症の1例

著者: 藤裕幸

ページ範囲:P.60 - P.61

緒言
 從來吾が國には人體寄生蟲は甚だ多く,新聞雜誌上にも屡々問題にされてゐるのであるが,就中蛔蟲は最も廣く蔓延してゐるものである。從つて外科的疾患の中には蛔蟲に起因するものは可成り多く,吾々は屡々遭遇することがある。この點に就ては現在迄多數の報告例があるのであるが,私も順天堂醫院入局後蛔蟲によつて腸閉塞症を起し手術を行つて多數の蛔蟲を摘出し全治退院した一例を經驗した故茲に御報告申上げる次第である。

一種の興味ある蛔蟲の棲息状態に就て

著者: 濱口榮祐

ページ範囲:P.61 - P.63

緒言
 蛔蟲は彷徨癖を有し,本來の寄生場所である小腸から移動して膽道膵管等に進入することが屡々あるのみならず,これが腸管を穿孔して腹腔内に出で,腹膜炎を起した例の報告さへ少くない。併しながら蛔蟲が健全な腸管を穿孔し得るや否やは今日尚疑問とされてゐるが,赤痢や腸チフスの際に腸の潰瘍を穿孔したり,胃腸の手術後その縫合部を突破して腹膜炎を起し得ることは一般に認められてゐる。これとは反對に,蛔蟲は又腸管内で多數集つて塊状をなし腸閉塞の原因ともなり得る。要するに蛔蟲には色々の奇妙な習性があげられてゐるが,最近自分は一種の興味ある蛔蟲の棲息状態を觀察したので此所に報告する。

肝臟内に多數の蛔蟲を證明した1例

著者: 田中等

ページ範囲:P.64 - P.67

緒言
 蛔蟲がその平常の棲息個所たる小腸を離れて異所迷入を起すときは,屡々その宿主に對して致命的障碍を與える。異所迷入に關しては從來蟲垂,膽嚢,膽管,肝,膵,脾,膀胱,子宮,卵巣. 腹膜腔,胸膜腔,心膜腔,肺,氣管,鼻腔,鼓室,涙管,肺動脈等が擧げられているが當教室に於て昭和21年12月,臨牀上膽石症樣症状を呈し,手術によつて肝臟内に多數の生きた成熟蛔蟲を證明した症例を經驗したので,こゝにその臨牀經過並びに手術所見を報告する次第である。

生蛔蟲を膽嚢内に有する膽石症の1例

著者: 福家義暢

ページ範囲:P.67 - P.68

緒言
 膽石症と蛔蟲との關係については洋の東西を通じ古今幾多の學者に依り手を染められた好個の研究題目である。殊にその膽道迷入に就ては,或は病理解剖學上より,或は手術的所見より種々の研究が行はれたが,今日尚未開拓の領域は少くない。殊にその迷入經路に就ては,諸説區々として未だ定説を見ない現状である。然るに最近多度津三宅病院に於て,膽石症の患者に於て興味ある,膽内に,而も生蛔蟲を認めたる1例を經驗したので茲に發表し大方諸賢の御批判を仰がふと思ふ。

蛔蟲迷入に因る蟲垂炎の1例

著者: 土井達郞

ページ範囲:P.69 - P.70

緒言
 蛔蟲は平常何等の自覺的症状を呈さないが,時として膽道,膵管,蟲垂内に迷入し,往々にして外科的重篤な疾患を來すことがある。著者は此の比較的稀有なる蛔蟲の蟲垂内侵入の1例を經驗し,その症状及び經過に特異なるものを認めた。
 我國に於ては蛔蟲の人體内寄生率は著しく高く,嘗つて50%に寄生し居ると云われてゐたが,今日に於ては著しく増加し蛔蟲症が特に注目されて來た現今此の1例を報告し,御參考に供したいと思ふ。

蟲垂炎手術創から術後蛔蟲の逸出した症例に就て

著者: 藤田承吉

ページ範囲:P.71 - P.73

緒言
 蛔蟲によつて蟲垂炎を起し或はその併發症たる穿孔性腹炎乃至盲腸周圍膿瘍を形成した例に就いては既に相當多數の報告があるが,蟲垂炎手術創から術後蛔蟲の逸出した症例に就いては鮫島,岡川,德谷及び田寺氏等の4例の報告があるに過ぎない,然るに當教室に於ては最近引續き本症2例を經驗したのでこれを報告し諸賢の御參考に供したいと思う。

腸内寄生蟲による腸フレグモーネ

著者: 若月俊一 ,   津布久誠

ページ範囲:P.74 - P.76

緒言
 急性局所性腸炎乃至腸蜂窩織炎に就いては1932年のCrohnの報告を始として,其の報告例は内外共に多數に上るが,其の原因に就いては,或は腸粘膜損傷よりの細菌侵入,血行性の細菌感染,蛔蟲,鞭蟲等の寄生,個體の抵抗状態の變化,自律神經系異常,更にアレルギー等,諸種の要因が唱えられて居るが未だ定説は無い。此等の中,寄生蟲との關係に就いては,本邦に於ては,昭和12年鹽田氏の經驗せる44歳女子の1例及び昭和17年の永島氏の28歳男子の1例計2例のみである。一方蛔蟲による腸閉塞の症例は相當多いが,其の際の腸管の變化に就いて論じたものは殆ど無い。吾々は寄生蟲特に蛔蟲竝に十二指腸蟲の蔓延甚しい農村にあつて,多數寄生蟲(主として蛔蟲の寄生する腸管に手術を加える機會多く,然し其の腸管變化が,所謂腸フレグモーネ又はCrohnの第1型として報告した局所性腸炎と頗る相似た所見を呈することを認めたので,報告して諸賢の御批判を乞う次第である。

蛔蟲に依る結腸穿孔性腹膜炎の1例

著者: 和田藤

ページ範囲:P.76 - P.77

症例
患者 滿3歳,女兒
主訴 腹部膨滿

蛔蟲による腹部膿瘍の1例

著者: 山本淸

ページ範囲:P.77 - P.80

緒言
 蛔蟲は最も普遍的なる寄生蟲であり,我國に於ては約40〜80%の寄生率を示し,田舎に於ては殆んど100%に近い高率を示してゐる。最近の家庭菜園其他の事情により,都會に於ても相當の寄生率を示すであらうことは想像に難くない。最近の報告よりして,所謂蛔蟲症も更に増加してゐるものと思はれる。蛔蟲め異所寄生による病變の中,小腸と解剖的連絡を有してない部の迷入としては肋膜腔,腹膜腔,泌尿器系,循環器系,神經系,生殖器系,筋肉,皮下等總ゆる個所への迷入可能であるが,最近腹腔内に膿瘍を形成した1例を經驗したので茲に報告し從來の症例に追補する。

腦症状を以て發見された肺臟ヂストマの1例

著者: 岡崎忠夫

ページ範囲:P.80 - P.81

症例
患者 西〇九〇九12歳男子
愛媛縣南宇和郡一本松小山の産,父の職業農業

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

78巻13号(2023年12月発行)

特集 ハイボリュームセンターのオペ記事《消化管癌編》

78巻12号(2023年11月発行)

特集 胃癌に対するconversion surgery—Stage Ⅳでも治したい!

78巻11号(2023年10月発行)

増刊号 —消化器・一般外科—研修医・専攻医サバイバルブック—術者として経験すべき手技のすべて

78巻10号(2023年10月発行)

特集 肝胆膵外科 高度技能専門医をめざせ!

78巻9号(2023年9月発行)

特集 見てわかる! 下部消化管手術における最適な剝離層

78巻8号(2023年8月発行)

特集 ロボット手術新時代!—極めよう食道癌・胃癌・大腸癌手術

78巻7号(2023年7月発行)

特集 術後急変!—予知・早期発見のベストプラクティス

78巻6号(2023年6月発行)

特集 消化管手術での“困難例”対処法—こんなとき,どうする?

78巻5号(2023年5月発行)

特集 術後QOLを重視した胃癌手術と再建法

78巻4号(2023年4月発行)

総特集 腹壁ヘルニア修復術の新潮流—瘢痕ヘルニア・臍ヘルニア・白線ヘルニア

78巻3号(2023年3月発行)

特集 進化する肝臓外科—高難度腹腔鏡下手術からロボット支援下手術の導入まで

78巻2号(2023年2月発行)

特集 最新医療機器・材料を使いこなす

78巻1号(2023年1月発行)

特集 外科医が知っておくべき! 免疫チェックポイント阻害薬

icon up
あなたは医療従事者ですか?