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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科3巻5号

1948年05月発行

雑誌目次

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最近に於ける義肢の動向—(その1)義足

著者: 水町四郞 ,   兒立俊夫

ページ範囲:P.169 - P.174

いとぐち
 戰爭の間,我々は完全に眼かくしされた状熊であつた。國交が斷絶すると共に,諸外國の科學の動向といふものから完全に隔絶されて,その結果は戰爭中我々の行つて來た研究が果してよいものであるのかどうかも,わからずに數年の年月を經過してしまつた。未だ講和條約は結ばれないが,最近米軍の好意ある取計ひの結果,戰時中竝に戰後の科學研究の業績に接し得る様になつた。この機會に於て,我々の從來迄の研究業績を今一應再檢討し,今後の進むべき途を決あることが是非共必要であらう。
 戰爭の悲慘なる部面は至るとこうに認められるが,戰爭の犠牲者として,四肢を切斷されたものも數萬を超える數に達してゐる。産業が機械化され,交通機關の高速度化に伴つて,産業又は交通災害者として,四肢を切斷されるものゝ數は増加はして來てゐるが,決して戰爭によつて生みだされる四肢切斷者の數に比すれば,實に微々たるものである。このため戰爭の間我が國に於ても義肢は著しい進歩をとげたが,諸外國に於ても夫々優秀な研究が遂げられてゐる。幸にも我々は米國製全遊動義足の實物を見る機會に惠まれたので,これをよい參考にして,數ケ月來研究に從事したので,以下,それを基礎として,我々が抱いてゐる今後の義肢の動向について記述して見ようと思ふ。

脊椎カリエスに對する固定・反張・矯正と負荷の問題

著者: 石原佑

ページ範囲:P.174 - P.179

 著者は當臨牀外科を通じて2囘に互り「脊椎カリエスの豫後判定に就て」と「脊椎カリエスとコルセツト」と題し脊椎カリエスの經過,治療上の根本問題の一部に觸れ卑見を述べた。此等は總べて著者が年來主張する脊椎カリエスの諸問題に關する要再檢討の表はれの一端である。古來脊椎カリエスに關し幾多の研究業績が發表されて居るが,その一部は根本に触れず,他の一部は未解決であり,又他の一部は金科玉條の如く考えられて居て,而も考究すれば誤謬として改善さるべきものがある。
 脊椎カリエス(特に椎體カリエス)の豫後の判定に就ては諸種の理化學的,免疫學的,其他の檢査の重要性は何れも高く評價せらるべきであるが,此等を參考とした上に於て,「レ線冩眞の讀み」が極めて重要な役割を演ずる事を強調した。著者は更にカリエスを數群の特徴に分類し,且豫後がレ線像の讀みによつて比較的早期に推定可能である事を確認し,向治性,非向治性の分割によって治療方針の撰擇に資し得た。更にコルセツトに就ては,其装用期間と前述のレ線冩眞による讀みと豫後判定の基準とを綜合して,コルセツトの應用態度にある規範を求め得たものと信ずる。

穿孔性蟲垂切除に際し斷端閉鎖は必要か

著者: 槇哲夫 ,   柿崎長藏

ページ範囲:P.179 - P.181

緒言
 蟲垂手術に際し近時適應の撰擇と手技の一般的向上とによつて,術後の糞瘻形成は甚だ稀となつたが,それでも尚重要な後貽症の一たるを失はない。之は癒著剥離や斷端處理に際し,脆弱に陥つた腸壁に無益の損傷を加へることに原因することが多い,殊に蟲垂が根部で穿孔し,而も盲腸壁に高度の炎症波及がある場合,切除蟲垂の斷端閉鎖に非常な困難を感じ且之を敢て行ふ際却て腸壁を損傷し,糞瘻形成の因をなすことは屡々經驗する所である。斯る場合蟲垂を根部にて切り放し,斷端を結紮或縫合せずに放置すれば如何。即ちそれによつて容易に糞瘻を貽すものかどうか。又腹膜炎及手術創の治癒經過に如何なる影響を與へるものであるか。蟲垂炎の手術手技に關しては既に論じ盡された觀があるが,我々は之等の點を檢討する爲次の様な小實驗を試みた。

外科より觀た榮養失調症(第1報)—榮養低下と手術忍容力

著者: 大村泰男 ,   西山信雄 ,   上野良太 ,   鹽川優一

ページ範囲:P.181 - P.183

緒言
 榮養失調症は戰時中及び戰後に注目された疾患であつて,特殊な收容所,或は孤島の生活者に多く見られ,日本内地に於ても程度の差こそあれ本症が現われて來た。内科方面では,つとに本症を注目し,その廣範な研究が共同研究の型に於て行はれてゐるが,外科領域ではまだまとまつた報告のあるを聞かない。榮養低下の場合,創傷治癒の遷延,化膿頻度の上昇,手術後經過の不良など,こゝ數年來外科臨牀にたづさわる者としては自ら充分に觀得されたことであつて,從つて榮養低下の外科領域に於ける影響に既に常識の範圍に在るとも言へるのであるが,これらの點に關して精細な,まとまつた報告には接してゐないために,私共は外科より觀た榮養失調症なる題目の下に各方面より之を探究しつゝあるのである。こゝに榮養低下と手術忍容力,つまり手術的負荷に對する個體忽容力と榮養状況との關係を第一報として報告したい。
 手術は身體的負擔を大なり小なり伴ふものであることは云ふまでもない。その負擔に堪へる力は何を標準にして測定すべきか。文獻によれば循環器系統の状況,殊に心臓の機能を調査することが最も一般的であると述べられてゐる。順序正しい身體的動作,或は南側股動脈壓迫下に於ける運動による血壓,臍博数の變化を測定すること,又呼吸停止時間による判定,潜在性浮腫發生試験などが舉げられてゐる。然しながらこれらの試験も一面的な觀察であって,全身のあらゆる調査を綜合したもの,こそ,個々に當てはまる確實な所見であって,つまるところ臨林經驗が最も重視される可きだと謂ふ意見も充分理解される。

膿胸のペニシリン胸腔内注入治驗例

著者: 水谷洋二

ページ範囲:P.184 - P.185

I緒言
 昨年末來名古屋赤十字病院外科に於て,名大田代先生指導のもとに,膿胸をペニシリン(以下「ペ」と略記す)胸腔内注入に依り,極めて効果的に治癒せしめ得たので茲に報告する次第である。
 肺炎雙球菌性膿胸は勿論,葡萄状球菌,連鎖状球菌性膿胸に「ペ」溶解液を胸腔内に直接注入することは,Tillet等(1944)が初めて8例の肺炎雙球菌性膿胸に使用し,この内7例を外科的襲侵を加へることなく治癒せしめ得たことに初まり,Christie(1944)もその報告をなして居るが,當時の使用「ペ」量は餘りにも少量すぎるため,單に胸腔穿刺「ペ」胸腔内注入のみでは滿足すべき効果が見られなかつた。Poppeも同方法に依う,結論として,本症の「ペ」注入法は豫防的又は極く初期に於ては確かに有效であるが,既に完成した膿胸に於ては外科的に排膿を行はねばならぬと言つて居る。膿胸自身に對して「ペ」を筋肉内又は静脈内に注射しても,肋膜を通過して胸腔内に移行出現する「ペ「量の極めて僅かであることは既に實驗的にも證明されて居るところで,これに反して膿胸ある胸腔丙に「ペ」を直接注入すれば長時間に互り排泄せられずに膿汁中の病原菌に作用して奴果を擧げ得ることは確實である。

赤痢症状を缺如せる「アメーバ性肝臓膿瘍」の1例

著者: 中川達雄

ページ範囲:P.186 - P.188

緒言
 肝臓膿瘍がアメーバ赤痢に繼發することは周知の事であるが,赤痢症状を呈しないで肝臓膿瘍を惹起することは餘り知られていない。赤痢アメーバは勿論熱帶地方に多いが,亞熱帶,温帶地域にも相當廣く分布しており,我國では3〜5%の感染者があると云はれる。然し戰後外地からの歸還者が増加するにつれ感染者も増加するだらうとは蓋し想像に難くない。余は偶々赤痢の既往なく,胃腸障碍等を訴へたことのない男子めアメーバ性肝臓膿瘍に遭遇したので茲に報告する。

廣範なる石灰沈著を來せる胃膠様癌の1例(抄録)

著者: 島田脩

ページ範囲:P.189 - P.189

 癌組織内の石灰沈著は新しき事項ではないが,胃癌に於ける廣範なる石灰沈著は稀有にして,僅かに3例の報告に過ぎない。本邦に於ては未だ其の例を見ない。然るに最近我々はその例に遭遇せるを以て報告する。

マラリア様熱發作を伴ふ胃癌症例

著者: 濱口榮裕 ,   辻壽一

ページ範囲:P.190 - P.193

 53歳の男子の胃癌(單純癌)に於てマラリア様熱發作を認め,マラリア,敗血症は否定され,叉癌組織の融解も輕度であり,附近に高度の炎症も認められず,胃切除後熱發作は完全に消退したから發熱原因は胃癌そのものに歸さねばならない。局所よりの毒素吸收が眞の發熱原因と考へられるが,それを證明することが出來なかつた。

下腿短切斷に於ける腓骨殘存部の轉位竝に余の創案せる骨膜下腓骨殘存部全剔出術に就て

著者: 生駒光彥

ページ範囲:P.193 - P.198

第1章 緒言
 下腿短切斷端の腓骨殘存部が如何なる運命を辿るかは興味ある問題であるが,之に關する文獻は殆んどない。僅かに1916年R. Hoffstätterが下腿殊に短切斷端の腓骨は脛骨との間に造成される骨橋(Brückenkallus)によつて固定されると説いて居るが,余が昭和18年5月〜19年4月迄の間に取扱つた1136名の下肢切斷者を觀察した結果から見て,短切斷端に於てはかくの如く骨橋造成によつて腓骨端部が固定せられたる例を經驗しないばかりでなく,腓骨下端は種々の方向に轉位し,その爲に斷端は義肢鞘と適合しない結果,高度の疼痛,擦過創更に感染して膿瘍,蜂窩織炎,潰瘍等を生じ,終には義肢の装着を不能に陥らせる事を知つた。この治療法として腓骨の剔出が最も良い方法と考へるが,Neudörfersen, Hoffstätter,高木教授(東大)は腓骨を別出する事によつて膝關節はその機能を障碍乃至は廢すると主張して居る。余は之に對し骨膜下に於て腓骨を剔出する事により術後の膝關節の機能を全然障碍せずして目的を達する事に成功したので,腓骨轉位の頻度,角度,方向等と共に記載して. 諸賢の批判を仰がんとするものである。

腓骨小頭裂離骨折の1例

著者: 木村元吉

ページ範囲:P.198 - P.200

 腓骨小頭の裂離骨折は,その折片轉位像に於て特有である。すなはち,圖に示す様に,腓骨小頭の上部折片は,恰も帽子が旋風に吹き上げられた如き形で遙か上方に轉位離隔し,X線冩眞を見ただけでは,その折片が果して何れより飛來したか,了解に苦しむ場合がある。これは當然,この部に附着する二頭股筋の收縮による縦隔轉位であるが,同時に本骨折の發生には通常腓側々副靱帶が關與してゐるものと考へられてゐる。この様な腓骨小頭裂離骨折は極めて稀に見るもので,現在までに僅か數例の報告を見るのみに過ぎない。吾々は最近當遞信病院整形外科に於て,この腓骨小頭裂離骨折の例を經驗したので,これを報告し,その成因過程につき考察を加へてみたいと思ふ。

橈骨神經麻痺に對する腱成形手術

著者: 渡部滿保

ページ範囲:P.200 - P.202

緒言
 橈骨神經損者に依る麻痺に對する治療の原則は,他の末梢神經に於けると同様に,神經自身に對する手術を行ふのであるが,その手術成績は神經手術中比較的良好ではあるけれ共,尚治癒率は60%(Stoffel,Perthes),75%(Spitzy),或は中村愛助氏によるも治癒55%,良好28%である。この成績不良群に對して殘された方法は補助器の装着と關節固定術と腱成形手術である。この中前二者は下垂手の防止を目的とするもので,機能的に良好な結果を得難いが後者は力源筋の條件さへよければ驚くべき良好な機能的治癒を營ましめる事が出來るのである。本題に關しては日本整形外科學會雜誌18卷12號に川本薫氏の9例に就て詳細な報告がみる。私は僅か1例ではあるが,戰傷に依る橈骨紳經麻痺に對し腱成形術を試み,やゝ滿足すべき結果を得たので,茲に報告し諸賢の御教示を御願ひする次第である。

日本外科學會をきく

著者: 卜部美代志

ページ範囲:P.203 - P.205

 第48囘外科學會總會は他の學會とは1ケ月をくれて5月1,2,3日の3日間,新緑の新潟市縣會議事堂で開催された。全國から集つた熱心な會員によつて會場は文字通り立錐の餘地もない程に埋められ,連日盛會であつた。こうした中で中田瑞穗會長司會の下に宿題報告2題,一般講演65題の盛り澤山の講演がたて續けに行はれた譯である。筆者は出發前に雜誌の編集部から學會をよくきいて來てその模様を書けと云はれてあつたのであるが,實際行つてみて一人の入が全部の講演をきいて全部頭に入れてくることはなかなか難事であることがわかつたのである。それにつけても會長が朝から晩まで務めて學會を統卒された御苦勞を感謝するのである。乃で筆者は多くの講演の中で記憶に殘つたもの丈けを取り上げて,少しく私見を加へて次に書き綴つて見やう。

日本整形外科學會に出席して

著者: 水町四郞

ページ範囲:P.205 - P.207

 第21囘日本整形外科學會は4月26日より3日間東京慈恵會醫科大學中央講堂に於て開催せられた。昨年の大會に於ては會期は2日間を豫定してゐたのであるが,申込演題が百題にも達したので,戰前と同様に會期を3日間に變更されたのである。しかも1題の割當ては8分間となつてゐた。どうも8分間では聞きたいことも,’抄略される危惧がないでもない。少くとも優秀なものには10分間は與へたい様な氣がする。この點は學會としては一應考慮すべきことであつて,外科學會に於て時間を二つに大別してある方が,一歩進んでゐる様に思はれる。評議員會でもこの點が取りあげられて,來年からは各教室で重要度に應じて主任者が番號をつけて申し込み,演題整理に一歩を進めて來てゐる。演説を聞いて見ると,演者に對しては甚だ失禮な申し分であはあるが,學會で報告されないで,或は集談會で發表される方が適當ではないかと思ほれるものも2,3認められた。これは集談會を程度の低いものとするものでもなく,症例報告は不適と云ふものでもないが,極く稀有な症例でない限りは,總會の演説としては遠慮してほしい氣がする。しかしこたは勿論私一人の私見にすぎないが。
 3日間の演題を通觀して,最近如何な問題が研究の焦點になつてゐるかと言ふと,骨・關節結核の問題が第一に取り學げ得ると思はれる。即ち第3日の午前中は主として,この骨・關節結核に集注された。慈恵會醫大の骨關節結核混合感染の治療に關する研究は實に廣範圍に渉つて居て,種々な觀點から述べられたが,來年度の宿題に採擇されたので,來年は是非その綜合報告によつて,我々を啓發してほしいものである。

腦外科研究會創立總會

著者: 淸水健太郞

ページ範囲:P.207 - P.209

 昭和17年名大齋藤教授が企てて以来戰爭のため流會又は延期,遂に終戰後3年にして今囘始めて其第1囘を開くことが出來た。
 5月3日,總會前夜,齋藤眞教授を始め,創立有志のもの20名程,新潟醫大會議室に集合し,議事を議した。先づ名稱は腦・神經外科研究會とすること。毎年數囘研究會を開催,開催地は其時々に決定する。機關誌を日本醫學雜誌株式會杜より發行せしむること等を立案し,明日の總會に於て會員の贊否を問ふことになつた。

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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