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腦外科より見たる日本腦腫瘍の特殊性其他腦腫瘍外科に於ける2,3の問題
著者:
中田瑞穗
ページ範囲:P.253 - P.263
私ども腦腫瘍外科に力を注ぎはじめてから,尚ほその年數は充分長いとは云へないのに,既に今日,規模こそ未だ外國と比較にならぬほど小さいとは云へ,實際の手術の成績は先進諸國の平均と對比して,あまりに遠く懸け離れた見劣りのするものでないところに追ひついたやうに思ふ。一つ一つの例に就て先進國の人に見られても,あまり恥しい思ひをしないですむと思へるところに來得たと思ふ。これは要するに,Cushing腦外科の體系にしたがつて何もかも外科醫自らが經驗し研究し,診斷にしてもすべて外科醫の手で成しとげ決して,内科醫の診断に頼らないと云ふ體系をとつてゐるからである。この診斷の正確さと云ふことが腦腫瘍外科に於ける最も重要な位置を占めることはもはや疑のないところである。扨て,この腦腫瘍をよく知り,よく診斷し發見して正確に手術し得るために,神經學の知識の必要であることは云ふまでもない。詳しく診察をすゝめ深く病史を檢討吟味するためにもこれは必要缺くべからざるものである。然し實際の臨床に於て腦腫瘍を確實に診斷し,且つ,手術し得るに充分なまでの腫瘍局在部位の判定,腫瘍種別の診斷等を完全ならしむるためには啻に神經學的知識のみでは足りないことがはつきりと經驗されておる。
即ち神經學以外に惱室徴,惱血管像等のレントゲン診断其他の補助診断法が屡々非常に有力なる診断贅料を提供することは吾々の日常經驗するところである。叉,實際に診断した惱腫瘍を手術によつて眼前に確かめ且つそれを手術することによつて次々に蓄積されて行く惱腫瘍に關する一種の勘といふものも,外科以外では得やうとして得られない重要な診断上の力となることも疑ひない。然し,同時にこれらと同様或は時としては,より以上の診斷上の慣値を有するものに膓床惱腫瘍に關する統計的數字を知悉し記憶するといふ一事のあることを決して忘れてはならない。此の數字の内には先づ全疾患、中における惱腫瘍の頻度といふことが問題となる。帥ち惱腫瘍はどれ位多く見られるものかといふ見當を知つて置くことば,その第一である。ところが,この頻度は平均世界各國大同小異であつて,日本に於てもその數は決して諸外國のそれより特に多くも亦少くもないことが判る(第1表)。