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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科30巻1号

1975年01月発行

雑誌目次

特集 手の外科

手の新鮮外傷の初期治療

著者: 諸橋政樻

ページ範囲:P.11 - P.17

はじめに
 外傷の治療が初期治療と再建手術に大別されることは手に限つたことではない.しかし手の機能の重要性は今さら述べるまでもなく,その機能が繊細で微妙なバランスをもち,また立体知覚という大脳と直結する特殊の機能をもつていたり,一方ある時は極めて粗大な力をも出す能力をもつ,などの点で人間の生活にとつて極めて重要な位置を占めることは周知のことである.またこれらの機能に関係する各組織が,手や指という比較的小さな部分に緊密な連絡をもつて入り込んでいるという点でも特殊な部分であり,1つの組織の損傷が,幸い外傷をまぬがれた健康組織に重大な悪影響を及ぼすことも手の外傷の特徴の1つである.
 こうしたことで,とくに手の外傷について,これまで繰返し初期治療の重要性が説かれてきた.そして特に初期治療の小さな誤りは大きな機能障害を来すという点が強調されてきた.

手指骨骨折の治療

著者: 星秀逸

ページ範囲:P.19 - P.25

はじめに
 ドアーに手をはさんだり,野球などの球技で突き指したり,ローラーに手を巻き込むなど,手指骨骨折は日常非常に多く経験し,屈曲転位などの変形を残したまま放置すると,しばしば屈筋腱などが周囲と癒着して機能障害を残すことも少なくない.また,骨折の型も多彩で,その治療に難渋することもある.
 第11回日本手の外科学会において,症例討議の議題に"手指骨折"が取りあげられ,第1図に示すような指骨,中手骨骨折について論議されたが,実際的と思われるので,これらを中心に順を追つて説明を加える.

手指切断創の治療

著者: 生田義和

ページ範囲:P.27 - P.35

はじめに
 切断された手指に対する治療として,非常に稀な場合を除外して,長い間断端形成術がその主流であつた.しかし,1960年代に驚異的な進歩をとげたMicrovascular Surgeryの導入により,切断指再接着術が1970年代になつて急速に拡がりつつある.1974年9月16日に開かれた第1回マイクロサージャリー研究会において,切断指再接着の成功例を報告したのは北海道大学整形外科,新潟大学整形外科,慈恵医大形成外科,北里大学整形外科,河野臨研,名古屋大学分院整形外科,奈良医大整形外科,順天堂大整形外科,慶応大学整形外科,広島大学整形外科,山口労災病院整形外科,琉球大学整形外科等の多くのグループであつた.手術時間や予後の問題が残つているとはいうものの,再接着の可能性とその手術手技をマスターした外科医は急速な増加をたどつている.従つて,今後切断された手や指を持参した患者に対応する外科医は,従来の断端形成術の方法を考慮する以前に,まず再接着を試みるかあるいは試みることの出来る施設に患者を輸送するか,あるいは断端形成を行なうかの2つの大きな分岐点に立つべきである.いうまでもなく,再接着を試みるためには,切断された部分の血管縫合を成功させるだけの技術が必要であるが,再接着された手指の機能は,神経縫合,皮膚縫合,術後処置および機能訓練等の手の外科一般にわたる幅広い知織と技術によつて左右されることも知つておかなければならない,以上の観点から,本項では手指再接着の現状と,他施設に患者を輸送する場合の処置及び断端形成術について述べる.再接着術の詳細については他書を参考していただきたい.

手の外傷後変形の診断と治療

著者: 赤堀治 ,   高杉仁

ページ範囲:P.37 - P.44

はじめに
 手の外傷がある程度以上はげしい場合,多少の変形,障害をのこすことはやむをえないであろう.まして処置が不適切であれば障害はいちじるしく増大することも当然である.このようにして必然的に,あるいは人為的にのこされた変形,障害を治療するにあたつて,第一に考えるべきことは,いかなる機能が再建可能であるか,またいかなる機能再建が必要であるかを十分検討し,手全体としての機能を高めるため個々の症例に適した治療方針を決めることである.例えば屈筋腱損傷により手指の屈曲という重要な機能が障害されている場合,腱移植などにより屈曲力を再建することが望ましいが,医師の技術,患者の条件などがこれをゆるすか否かがまず問題となる.医師として治療に自信がなければ,いたずらな侵襲を加えることなく,専門医に送ることが望ましい.患者の側の問題として,関節拘縮や皮膚瘢痕化が高度で,腱手術の予後があまり期待できなければ,そのまま放置することも一つの解決法であるし,むしろ切断が適応となる場合も考えられる.腱が切れているからこれを縫合すればよいというのではなく,個々の症例について,年齢,職業,障害の程度などを検討し,合理的に治療方針を決めることが必要である2)

手の先天性奇形の扱い方

著者: 三浦隆行 ,   木野義武

ページ範囲:P.45 - P.54

はじめに
 手の先天性奇形は,単なる指骨のわずかの短縮,小指の軽度の側屈変形のごとく比較的単純なものから,複雑な形態を示すものまできわめて多岐にわたり,その手術時期,適応,術式の選択も症例毎に異なつており,治療について公式化した理論を述べることは困難であるが,一般的にみられる手の先天奇形の症例を選んで現在における私の治療方針について述べる.

手の感染症

著者: 南条文昭

ページ範囲:P.55 - P.60

はじめに
 感染症の立場からすれば,手指だからといつて特殊なものではない.しかし,手指が特殊に見られるのは,たえず外界にさらされているために日常生活上些細なものから複雑なものに至る種々の外傷を受けやすく,それに伴つて感染を容易に併発しやすいこと,手指が非常に複雑な構造を有すると共にcompactに出来ているために,一度感染を起こすと特異な拡がりを示すと共に,手指機能の障害を結果として容易に生ずる危険性のあることによるといつてよく,このような意味合から適切な治療が要求されることとなる.

座談会

手の外傷の扱い方

著者: 鈴木勝己 ,   室田景久 ,   玉井進 ,   矢部裕 ,   広谷速人 ,   山内裕雄

ページ範囲:P.62 - P.74

 わが国に手の外科学会が出来て17年になる.この間,整形外科医を中心として学会は盛大となり,内容も充実して来たが,実際の手の外傷のほとんどが,第一線の病院や診療所で処置されている状態には変りがない.この間に,これら症例の受けた治療に進歩があつたかについての答はさまざまであろう.いずれにせよ未だ理想の状態にはほど遠いことは,残念ながら事実である.これには,手の外科をあまりにも特殊なものとして,『仲間うち』で温め過ぎていた傾向が手の外科医側にありはしなかつたであろうか.一方,実際に手の外傷を扱つた医師の側にも,「たかが手ぐらい」という気持がありはしなかつたであろうか.この両者間の溝が浅くならない限り,手に外傷を受けた患者の不幸は今後も続くであろう.この座談会が少しでもそのために役立つならば幸いである.

カラーグラフ 臨床病理シリーズ・30

脾疾患の肉眼病理所見

著者: 三方淳男

ページ範囲:P.8 - P.9

 脾切除の対象となる疾患は割に少なく,しかも肉眼的に特徴的所見に乏しい場合が多い.今回は剖検例も加えて2,3の疾患について解説したい.
 症例1(①)42歳男性で,肝細胞癌による門脈の腫瘍血栓を生じたため,脾腫を来した.脾は慢性うつ血が著明で410gと腫大し,表面①の左上方の黄白色調でやや陥凹した所は瘢痕化した陳旧な梗塞であり,左下方と右中央付近の黒褐色調の部分は新鮮な小梗塞巣であつた.

外科医のための生理学

食道運動の生理

著者: 有森正樹

ページ範囲:P.77 - P.80

 食道の生理は他の消化管臓器と異なり,その機能は食物の通過管としての役割りがすべてを占めるといつて良く,食道腺の分泌機能の重要性はとるにたりぬものであり,消化吸収機能はない.従つて食道の生理機能はすなわち食道の運動機能といえる.
 近代的な食道運動の解析は1883年,細い管を食道内に挿入して嚥下による食道内圧の変化を測定したKroneckerとMeltzer1)によつて開かれたといえる.

外科医の工夫

爪嵌入症の根治療法

著者: 田内力

ページ範囲:P.82 - P.83

□はじめに□
 一般外科外来にてしばしば見かけられる疾患であるにもかかわらず,難治であり,また再発例を多数見る疾患である.本疾患は疼痛を伴うため,患者に長期間にわたり苦痛と,靴をはくことが出来ないという不便をあたえるが,重篤な疾患でないので外科医も皮膚科医もあまり興味を示さないためか,簡単に爪嵌入部を切除する等して治療に終始しているのが,再発を多く見る原因となつているように思われる.私共が外来にてしばしば見る本疾患について患者に問診すると,再発例が非常に多く,2回3回は当り前,中には4回目ですと答える患者も多々あるようである.そこで,絶対に再発のない方法として;私が数年来用いている方法を発表して諸賢の追試を得たいと思う.ここ数年来,外科系医学雑誌,および成書等を見ても,私の方法と同じ手術法の記載が見あたらないので敢て本誌に寄稿することにした.

臨床研究

モルガニー孔ヘルニアについて—本邦集計例よりみた年齢的特異性

著者: 町田清朗 ,   西川鼎二 ,   関野英二

ページ範囲:P.85 - P.92

はじめに
 近年,小児外科学および麻酔学の発達に伴い,先天性横隔膜ヘルニアの手術報告も数多くみられるようになつたが,そのほとんどは,ボホダレック孔ヘルニアであり,乳幼児モルガニー孔ヘルニアは,われわれが本邦文献より渉猟し得た範囲では,19例を数えるにすぎない1,2)(付表).最近われわれは,2例の乳児モルガニー孔ヘルニアを経験したので,自験例の紹介と共に,本邦集計例よりみた本疾患の年齢的な特異性について述べてみたい.

臨床報告

門脈圧亢進を呈した巨大肝嚢腫の1例

著者: 幕内博康 ,   青木春夫 ,   伊藤隆雄 ,   須藤政彦 ,   茂木正寿

ページ範囲:P.93 - P.97

はじめに
 真性肝嚢腫は特に稀な疾患ではなく,他疾患による開腹時に偶然発見されることもときどきあり,剖検例の007〜0.53%(Brown1),Feldmen2)et al.)と言われているが,巨大となつて何らかの臨床症状を現わし,外科的処置が必要となるものは稀である.さらに,門脈圧亢進を呈するものは海外で10数例,本邦では1例23)をみるのみである.一般に本症は巨大となつても経過が非常に緩慢で,症状も上腹部腫瘤のほか,腹部膨満感,鈍痛,圧迫感などと特異性に乏しい為,従来術前診断が困難で,単発性のものでも完全摘除不能例も多いとされていた.しかし最近の診断法の進歩,肝手術手技の向上により,本症の診断,全摘除も比較的容易となつてきている.
 われわれは内容3,000ml以上の巨大肝嚢腫により門脈圧亢進を呈した高齢者の1例を経験し,全摘除し得たので報告する.

びまん性にみられた胆嚢Papillomatous Cholesterosisの稀なる1例

著者: 萩原信宏 ,   三品寿雄 ,   平尾雅紀 ,   早坂真一 ,   佐藤富士夫

ページ範囲:P.99 - P.102

はじめに
 胆嚢粘膜に黄白色の斑点が散在するが,あるいは粟粒大から米粒大のポリープ状突出を有する胆嚢は,胆嚢コレステロージスと呼ばれる.
 報告者によつては「苺様胆嚢」1,2),「絣様胆嚢」3-5)等,種々の名称が使われるが,同一のものである.本邦ではその名称は,次第に肌嚢コレステロージスに統一されてきている4)

稀な胸腔内気管支性嚢腫の1例

著者: 松岡潔 ,   伊藤保憲 ,   溝淵正行 ,   野村武生 ,   岩田克美

ページ範囲:P.103 - P.108

はじめに
 気管支性嚢腫は気管,気管支にそつてどこにでも発生するが,その多くは縦隔か肺内に存在し,それらとかけ離れた部位に発生することは稀である,われわれは最近縦隔胸膜をかぶらず,また肺外に存在した胸腔内気管支性嚢腫の1例を経験したので報告する.

高度黄疸,重症糖尿病を合併した肝門部癌に対する高カロリー栄養輸液とLongmire手術の著効例

著者: 工藤正純 ,   後藤洋一 ,   高杉信男 ,   手戸一郎 ,   長谷川正義

ページ範囲:P.109 - P.112

はじめに
 肝門部胆管癌により高度の黄疸,全身衰弱,糖尿病性半昏睡などを合併し,頻死の状態で入院した患者に対しLongmire手術を行ない,上大静脈内高カロリー栄養輸液で術前術後を管理することにより,満足すべき結果を得たので若干の検討を加え報告する.

胆嚢捻転症

著者: 疋田利樹 ,   古川力男 ,   八木橋洋志 ,   福田葬雄

ページ範囲:P.113 - P.115

はじめに
 胆嚢捻転症は1898年Wendel1)が初めて発表し,また,本邦では1932年横山2)が第1例を報告している.比較的稀な緊急を要する外科的疾患である.最近,われわれは急性虫垂炎の診断のもとに開腹し,本症であると判明したので報告する.

乳腺に発生した形質細胞腫の1例

著者: 鈴木剛 ,   後藤明彦 ,   宮本亮一 ,   下川邦泰 ,   加藤俊彦

ページ範囲:P.117 - P.121

はじめに
 形質細胞腫の本態については異論はあるが,現在一般には多発性骨髄腫と同一と考えられている.すなわち骨髄に発生するものが主であり,骨髄外の軟部組織に発生するものは髄外性形質細胞腫と呼ばれ,1904年Schri-ddeによつて初めて記載されたが,比較的まれなもので,本邦では吉井(1914)の報告以来30数例の報告があるにすぎない.
 われわれは,本邦ではいまだ報告のない.乳腺に発生した髄外性形質細胞腫の1例を経験したので症例を報告し,文献的考察を行ないたい.

甲状腺Adenoacanthomaの1例

著者: 原田種一 ,   西川義彦 ,   伊藤国彦 ,   細田泰弘 ,   薬丸一洋 ,   向井万起男

ページ範囲:P.123 - P.125

はじめに
 adenoacanthomaとは,一般に「腺癌のある程度の範囲が扁平上皮型の細胞に,悪性の化生を示したもの」と定義され1),時に,子宮,肺に認められ,稀に胆嚢,食道,直腸,乳腺,その他に見られる2).甲状腺のaden-oacanthomaについては,Englisch&Slany3),Ross4),Halpert&Thuss2),Cocke&Carrera5)らにより報告されているが,稀なものとされている.われわれも最近adenoacanthomaの剖検例を経験したので報告する.

直腸カルチノイドとS字状結腸癌の併存せる1症例

著者: 福留厚 ,   井原悠紀夫 ,   渡辺千之 ,   新井正美 ,   武井寛一 ,   青木幹雄 ,   仁平博子

ページ範囲:P.127 - P.131

はじめに
 重複腫瘍はそれ自体が比較的少ないものであるが,一方がカルチノイドとなるとさらに稀な症例となる.著者は最近経験した直腸カルチノイドとS字状結腸癌の併存した1症例を報告し,若干の文献的考察をこころみた.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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