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雑誌目次

雑誌文献

臨床外科30巻10号

1975年10月発行

雑誌目次

特集 凍結外科—Cryosurgery

Cryosurgeryとは—その成り立ちと応用

著者: 宇都宮譲二

ページ範囲:P.1215 - P.1217

I.Cryosurgeryとは
 低温の医学における応用は近年めざましいものがある.
 Cryosurgery(凍結外科)は約10年前米国において装置の実用化に成功して以来,広く外科系臨床の各分野に応用され,今日では,古典的外科治療手技の改良という意味にとどまらず,それらが及ばなかつた領域を処理しうる手段としてもみなされるにいたつている.

脳神経外科におけるCryosurgelyの進歩

著者: 六川二郎 ,   種子田護

ページ範囲:P.1218 - P.1224

はじめに
 古くから冷却による神経機能の変化に対して多くの関心がよせられてきたが,1883年Openchowski21)がエーテルの気化熱を利用した凍結装置を考案した.彼はこれを用いて犬の脳皮質を凍結し種々の観察を行ない,この方法は出血や広範囲の組織損傷をひきおこすことが少ないことを指摘している.1948年Haas & Taylor11)はメスによる切除より凍結破壊がすぐれていることを強調している.Balthasar(1957)3)は凍結破壊が広範囲の浮腫や出血の少ないこととともに,脳組織の限局性破壊という面からも本法の利点を認めたが,適当な装置がないために技術的に実用化がむずかしいとした.1957年Rowbotham25)は−20℃までの冷却装置を作り,脳腫瘍に使用し満足すべき結果を得たと報告している.Markら16)は1961年,神経機能に対する可逆的な抑制作用に注目したが,時を同じくしてCooper8)は1961年優秀な冷却装置を考案し,これを用いて種々の臨床例に対して手術を行ないすぐれた成績をあげた.著者の1人種子田は1969年から1972年にかけてNewYorkのDr. I. S. Cooper教授のもとでこのcryosurgeryに関しての基礎的臨床的共同研究を行なつたので,この経験をもとにしてつぎに説明をする.

消化器領域におけるEndoscopic Cryosurgery

著者: 城所仂 ,   山崎忠光 ,   長浜徴 ,   横田広夫

ページ範囲:P.1225 - P.1231

はじめに
 超低温の組織破壊作用を治療に応用しようとする試みは古くからあつたが,これが外科的な治療手段として確立されたのは,1961年Cooper1)らによつて始められたCryogenic Surgeryの報告からであるとされている.
 さて,凍結によつて生体に起こる組織壊死のmechanismは次のように2段階に分けて考えられている.その第1段階は超低温の直接作用,すなわち細胞内部の原形質,核等の凍結によつておこる細胞破壊の現象である2).第2段階は凍結終了後から続いて始まる血行障害のために徐々に進行して行く2次的な組織壊死の過程である3).われわれは胃壁の凍結実験において,microangiographyを用いて凍結後の経日的変化を追つたが,解凍直後においてほぼ正常数に戻つていた局所の微小血管像が,日数の経過につれて次第にまた数を減じて行くことをみている.この説明としては解凍後には一時再開通した血流も微小血管の血管壁の凍傷のために次第に血栓を形成するようになり,このような小さな血行障害が時間とともに増大して行くことによつて,局所に2次的な組織破壊が起こつてくるものと解釈される4).このように,ゆつくりと漸進的に組織の壊死脱落が進んでゆき,さらにまたある時期からは肉芽の再生がこれと平行して始まるために,出血の危険性が非常に少ないことと,疼痛も殆んどないことが特徴的である.

痔核に対するCryosurgeryの応用

著者: 蔵本新太郎 ,   藪田宗彦 ,   淵上弘道 ,   浦田隆弘 ,   永井清博 ,   西谷亮一郎 ,   柳田謙藏 ,   亀谷寿彦

ページ範囲:P.1232 - P.1236

I.近代的医療手段の1つとして凍結外科
 Cryosurgeryが登場してきたのは1960年Coo-perが凍結装置を開発して以来といつてよい.
 われわれは1968年頃より研究を始めて今回に至っている.凍結療法には,凍結に対する組織の感受性如何によつてその治療効果が大いに左右される.私どもは消化器および実質性臓器に対する実験等を重ねてきたが,海綿状血管腫は凍結療法の好適用例であることを知つた.同時に凍結療法のもつ特長の1つである再生肉芽が伸展性に富み,柔く,術後変形および機能障害等が少なく,かつ筋層に対しては凍結しにくいこと(凍結に対して筋肉は抵抗性が強い)を考えあわせ,内痔核に適応できるのではないかと考えた.

悪性腫瘍に対するCryosurgeryの応用—その適応と限界

著者: 小川伸一郎 ,   金田浩一 ,   津屋旭 ,   内田正興 ,   牛腸広樹 ,   宇都宮譲二

ページ範囲:P.1237 - P.1243

はじめに
 悪性腫瘍の第一次選択的治療が根治手術であることは今日の常識であるが,根治手術不能とされる症例についてのその治療法は複雑である.放射線科の特徴として,私たちは,このような症例を数多く扱つてきた.すなわち,これら根治手術不能例の悪性腫瘍の治療法は,局所療法としての放射線療法が中心であり,これに全身および局所制癌療法,および症例によつてはホルモン療法が補助的手段として利用されている.これらの治療法においては,放射線の照射線量,薬剤の投与量は正常組織への影響と腫瘍効果とのバランスの上にたつて決定されるものであり,現在までのところおのずとその限界が明らかになりつつある.
 局所のより高い腫瘍効果を求めるために,私たちもこれまで各種の悪性腫瘍に対して放射線に併用して局所動脈内注入化学療法(以下動注法)を試みる等努力してきたが,残念ながら満足すべき結果を得ていない1-3).特に放射線や薬剤に著しく抵抗を示す腫瘍に対しては,甚だその治療に手を焼いた経験も少なくない.私たちは,このような症例や,放射線治療後に局所再発をきたした悪性腫瘍の症例を主な対象として,最近普及著しい凍結手術を約4年間にわたり試みてきた.そこで,これまでの症例を報告し,2,3反省を加えたい.

進行癌に対するCryosurgeryと動脈内注入化学療法の併用療法の検討

著者: 三浦健 ,   石田正統 ,   灰田公彦 ,   灰田茂生

ページ範囲:P.1244 - P.1254

はじめに
 切除不能の各種進行癌に対する冷凍手術の応用性を検討するために,著者らは5年前より,犬の各組織に液体窒素(−196℃)のfreezing injuryを加えた場合の反応を研究して来た19-22).特に実質性の臓器ばかりでなく,管腔性の臓器に凍結壊死が起こつた場合の穿孔や出血の問題を調べ,冷凍手術の効果と安全性について実験を重ねて来た.
 その結果,冷凍手術は食道や腸の如き管腟性の臓器においては穿孔の危険があるけれども,直腸の如き周囲に丈夫な支持組織を有するものや実質性の臓器に対しては安全に応用できることを知つた.また冷凍手術による凍結壊死の組織破壊効果については著しいものがあることも認めた.しかしながら同時に,凍結壊死の及ぶ範囲には一応の限界があり,その深達度の点には問題があつて,われわれの日常遭遇する広範な,深達度の深い切除不能の進行癌の場合,冷凍手術だけでは十分な抗腫瘍効果を得ることは困難であることを知つた.

形成外科領域におけるClyosurgery

著者: 大塚寿

ページ範囲:P.1255 - P.1259

はじめに
 Cryosurgeryそれ自体原理は簡単であり,手技も容易である.しかし①少ない侵襲で病巣の破壊ができる.②術後の変形や機能障害が少ない,③腫瘍細胞をまき散らさずに切除または生検ができる,などの特徴を正しく生かし,よい効果をあげるにはやや経験を必要とする.
 組織破壊の条件,凍結壊死の機序などは大抵の論文に記載されているので,今回は実施に当たり注意すべきことと形成外科領域におけるcryosur-geryの生かし方などについて検討してみたい.

カラーグラフ 消化器内視鏡シリーズ・3

PolypectomyとHot Biopsy

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.1212 - P.1213

 大腸ポリープの内視鏡的摘除の臨床的意義は以下に示す2症例により明らかである.
 症例150歳女性.S状結腸の径3cmのポリープからの生検では癌は証明されなかつたが,ポリープ摘除による切除生検の結果,腺腫の一部に小癌巣が認められた.しかし,粘膜下浸潤はない(①,②).

Topics

欧米におけるCryosurgeryの動向

著者: 隅田幸男

ページ範囲:P.1265 - P.1268

Cryosurgeryの誕生
 Cryosurgery(凍結外科)という言葉は新しくても,冷却による治療手段は決して新しくはない.エジプトのパピルスに記載され,ヒポクラテスも痛みを冷却して治し,ナポレオンの侍医Larrey男爵は雪と氷のロシア遠征で凍創になつた兵士の四肢切断が痛みもなく出血もなく行なわれると記載し,James Arnottは氷と食塩の混合液で乳癌を1851年に治療している.その後も,凍結温度による治療は雪状炭酸を用いて皮膚科の小疾患に限られて利用されていた.1907年にはすでに液体空気で皮膚癌の治療第1例が報告され,1917年には膀胱乳嘴腫や癌がドライアイスで治療されている.
 New YorkのSt. Barnabas病院の脳外科医,Irving I. Cooperは凍結治療用の器械を独自のアイデアで考案した.Cryoprobeがそれである.彼はパーキンソニスムその他の脳腫瘍を凍結して次々とすぐれた治療成績を報告した(1961年).Cryosurgeryという言葉が確立されてからは,この画期的な医術は米国というよりむしろヨーロッパで著しく発展した.特に泌尿器科領域への導入は早かつた.

外科医のための生理学

肛門の生理

著者: 隅越幸男

ページ範囲:P.1269 - P.1271

はじめに
 肛門という言葉はまことに瞹眛であつて,はつきりした部位のきめがない.単なる出口としての肛門外口のみをさしたり,あるいはさらにある程度の奥行を含めたものを示す場合がある.すなわち一般には肛門といえば肛門管及びその外口を含めて考えて差支えないと思う.ところが肛門管と申しても歯状線dentate line以下の部分をさす学者と,肛門括約筋でかこまれた,より奥の方まで,すなわち粘膜面から見れば肛門柱の消失する高さ,いわゆるHerrmann線以下で,わかりやすく言えば指を入れて狭く感ずる部分全体をさしているものとがある.発生学的には直腸と肛門の境界はdentate lineであるので,前者を解剖学的肛門管,後者を外科的肛門管と称してもよく,臨床的には後者を用いるほうが都合がよい(付図).

臨床研究

腸骨動脈閉塞症における副血行路について

著者: 大内博 ,   水口昇三 ,   佐々木久雄

ページ範囲:P.1273 - P.1277

はじめに
 近年特に動脈硬化に由来する腸骨動脈閉塞症の症例が増える傾向にあり,血行再建術の適応となる例も少なくない.適応選択に当つては,他臓器の病変もさることながら,動脈閉塞周辺の副血行路の発達様式を術前に正確に把握することが望まれる.副血行路の発達の程度は,本疾患における臨床症状の発現との間にも相関が存在すると思われる.
 われわれは,これら腸骨動脈閉塞症の患者に血管造影を行ない.放射線学的に動脈閉塞部位と副血行路の発達様式について解析を行ない,興味ある所見を得たので報告する.

肝内胆石症の治療上の問題点—特に予後を左右する因子の検討

著者: 成末允勇 ,   岡島邦雄 ,   戸谷拓二 ,   藤井康宏 ,   曾我部興一 ,   荒木京二郎

ページ範囲:P.1279 - P.1285

はじめに
 近年経皮経肝胆道造影をはじめとする直接胆道造影や胆道鏡の進歩などにより,胆石症の診断および治療成績は向上してきたが,肝内胆石症は,その成因の解明,治療法の確立など現在なお多くの問題を残している.再手術例も多く,その難治性という点で,胆道外科の最後に残された課題の1つともいえよう.
 本稿では,自験例を中心に主として治療法の反省,およびわれわれの見解について述べたい.

慢性膵炎に対する膵腸吻合術後の膵機能の変化について

著者: 田代征記 ,   中川逸男 ,   吉田正樹 ,   村田悦男 ,   河野通文 ,   野田健治 ,   山本勝 ,   持永瑞穂 ,   横山育三

ページ範囲:P.1287 - P.1292

はじめに
 われわれは第3回目本消化器外科大会にて,膵頭十二指腸切除,膵腸吻合術後の残存膵の機能を何らかの方法でつかむことが出来た全国的アンケート調査の40症例の検討の結果,膵腸吻合時の膵体尾部の障害の程度が,その後の長期観察時の残存膵の状態の良否を左右し,残存膵の実質の硬さの増していたものは,長期観察時に機能が良好でないものが多いことを発表した.更に雑種成犬による実験で膵管を1週間結紮した膵臓に膵腸吻合を行なうと,時日の経過につれfibrosisが増加する結果を得て,膵腸吻合術時の膵の障害の程度が,その後の吻合残存膵の状態を左右する有力な要因であることも発表した1).このように,既にある程度の障害をうけた膵を腸に吻合した場合の吻合術後の膵の病変の進展を最小限にとどめる方策を見出すため,実験的に1週間主膵管を閉塞させた膵について,膵腸吻合した後の線維化を薬物により抑制出来るかどうかをも検討し,その成績は共同研究者の中川が別に発表した2)が,今回はすでに明らかな丘brosisを有する膵石症を伴うような慢性膵炎に膵腸吻合を行なつた場合の術後の膵機能の変化を検討したので,その成績を述べる.

術中ソルビトール加乳酸リンゲル投与の体液バランスに与える影響—高張性輸液の臨床的意義

著者: 滝野善夫 ,   芦田りう ,   真木博幸 ,   武田純三 ,   重松俊之 ,   天野道之助

ページ範囲:P.1293 - P.1297

はじめに
 手術侵襲による細胞外液量の欠乏に対してlactateRingerが多用されて久しい.この間術中,術後の低血圧,乏尿,さらには術後イレウスの発生等の合併症が著しく低下し1),手術患者の麻酔管理に大きな貢献がなされた.
 今回,われわれは術中の電解質とエネルギー補給を目的とするsorbitol加lactate Ringerが,体液浸透圧,電解質バランスに及ぼす変動を追究すると共に細胞外液(ECF)のhyperosmolar expansionの腎機能に一与える影響を検討した.

臨床報告

胸腺原発カルチノイドの1例

著者: 小助川克次 ,   大沢幹夫 ,   臼田多佳夫 ,   飯塚邦夫 ,   山添信幸 ,   原田昌範 ,   大條浩

ページ範囲:P.1299 - P.1304

はじめに
 カルチノイドは,一般に消化管及び呼吸器粘膜に散在する神経内分泌細胞に由来する腫瘍と考えられているため,消化管及び気管支に多くみられるが,今回われわれは前縦隔に局在し,胸腺原発カルチノイドと思われる1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

虫垂カルチノイドの1例

著者: 金児千秋 ,   浜崎聡一郎 ,   田中誠

ページ範囲:P.1305 - P.1307

はじめに
 カルチノイドは消化管上皮に存在するKultschitzky細胞から発生する腫瘍で,その多くは消化管に発生し,なかでも虫垂に発生頻度がもつとも高いが,それでもなお絶対数は少なく,本邦では虫垂カルチノイド症例は自験例を加えて40例が報告されているにすぎない.私たちは最近急性虫垂炎の診断のもとに虫垂切除を行ない,切除標本の組織学的検査により虫垂に発生したカルチノイドであることを知つた1例を経験したのでそれをここに報告し,文献的考察を試みた.

直腸カルチノイド

著者: 佐々木英制 ,   水谷哲夫 ,   近藤博 ,   久米祥彦 ,   栗林弘 ,   尾崎鉄也

ページ範囲:P.1309 - P.1313

はじめに
 われわれは最近,直腸原発のカルチノイド症例を経験したので報告する.
 直腸カルチノイドは無症状に経過するものが多いが,本例は直腸指診を契機として内視鏡,生検と検索を進め,カルチノイドの疑診を得た治験例である.

乳腺細網肉腫の1例および本邦報告例の統計的観察

著者: 大室儁 ,   岡本英三 ,   桑田圭司 ,   菅原一郎 ,   豊坂昭弘 ,   大橋秀一 ,   京明雄 ,   鈴木栄太郎 ,   劉燦太郎 ,   西浦徳明 ,   岡空達夫

ページ範囲:P.1315 - P.1319

はじめに
 一般に乳腺内に発生する肉腫は乳癌に比べて稀であり,なかでも細網肉腫が乳腺に初発することは少ない.乳腺細網肉腺は1938年Fragala20)が最初に報告して以来,1967年Lawler21)が欧米,その他諸外国の症例61例を集計しているが,このなかには本邦症例は含まれていない.本邦においては1950年堀口1)の報告に始まり,現在まで19例1-19)の報告がある.最近われわれは本症の1例を経験したので報告すると共に本邦20例を中心に,若干の文献的考察を試みた.

脈絡膜転移を疑われた乳癌の経験

著者: 高柳和江 ,   松村長生 ,   太田憲一 ,   古味信彦 ,   松村香代子

ページ範囲:P.1321 - P.1325

はじめに
 乳癌の脈絡膜転移は,外国では報告例が散見されるが1),本邦においてはきわめて少ない.欧米においては,眼科疾患の3,500例(Payne,1932)から147,000例に1例(Stattard,1933)の割で悪性腫瘍の脈絡膜転移がみられ,その70%前後が乳癌の転移であるという2,3)
 本邦においては,1895年(明治28年)の桑原の報告以来4),現在まで私どもが渉猟しえた限りでは,20例の乳癌の脈絡膜転移が報告されている.

肉腫様組織像を伴つた食道癌(いわゆる癌偽肉腫)の1手術例

著者: 米沢健 ,   細井英雄 ,   池田義雄 ,   小林衛 ,   池田典次 ,   永岡貞男

ページ範囲:P.1327 - P.1332

はじめに
 食道原発の悪性腫瘍のうち,食道癌偽肉腫(Pseudo-sarcoma)は非常に稀な疾患であり,1957年Stout1)が報告して以来10例の報告をみるにすぎない.本症と癌肉腫との鑑別は非常に困難であり,今日まで癌肉腫(Carcinosarcoma)として報告された58例の中にも癌偽肉腫を疑わせる症例が甚だ多いようである.最近われわれはポリープ状食道癌に線維肉腫様変化が共存した食道癌偽肉腫の手術例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

食餌性イレウスの2例

著者: 里見昭 ,   畑尾正彦 ,   徳永剛 ,   岡村孝 ,   高橋勝三

ページ範囲:P.1333 - P.1336

はじめに
 消化管内異物によつて急性腸閉塞症を生じた症例は比較的多く報告されている.そしてその成因と成つた食餌の種類や誘発の要素について種々の記載がなされているが,食餌は各国により異り,風習も好みも種々であるから,消化管閉塞異物がその国の,また個人の食生活を反映するのはいうまでもない.われわれは昆布により腸閉塞をきたした高齢者の例を2例経験したので報告する.

腸捻転を伴えるChilaiditi症候群の1手術経験例

著者: 鈴木康紀 ,   土田博 ,   千葉宏俊 ,   津島恵輔 ,   笹村雅人 ,   山形尚正 ,   三上俊郎

ページ範囲:P.1337 - P.1341

はじめに
 消化管の一部が肝と横隔膜との間に嵌入している状態をChilaiditi症候群として今日よく知られているが,臨床上特に重篤な症状を示すことが少ないので,実際に遭遇することは非常に稀である.最近われわれは嵌入腸管の横行結腸が軸捻転を起こしイレウス症状を呈してきた本症候群の1例を経験し手術する機会を得たので若干の文献的考察を加え報告する.

回盲部消化管重複症の2例

著者: 林雅造 ,   篠田正昭 ,   藤沢健夫 ,   能見伸八郎 ,   村上治朗

ページ範囲:P.1343 - P.1347

はじめに
 消化管重複症は,舌根部より肛門に至る全消化管に発生しうるところの先天性形成異常である.従来,ente-rogenous cyst,enteric cyst,ileum duplex, jejunumduplex,unusual Meckel's divertecula, giant diver-ticula,enterocystoma等の名称で呼ばれていた疾患を,同じカテゴリーに属する病態として,Ladd及びGross(1940)は"Duplication of the alimentary tract"なる概念のもとに統一することを提唱した1).元来本邦では,本症で腸管に発生するもののうち,管状のものを重複腸管,球状のものを腸管嚢腫と呼んでいたが,腸管以外の消化管にも発生することから,それらを総称して消化管重複症と呼び2),とくに腸管に発生するものを腸管重複症(重複腸管)と呼ばれている.本症は比較的まれな疾患であるが,小児外科学の進歩に伴い,最近報告例が急速に増加している.
 われわれは,最近2例の回盲部消化管重複症を経験したので,症例を報告し,あわせて若干の文献的考察を加えた.

種々形態を異にした迷入膵の5例についで

著者: 遠藤正三郎 ,   磯本徹 ,   山本康久 ,   佐藤方紀 ,   小堀迪夫 ,   伊藤慈秀 ,   佐野開三

ページ範囲:P.1349 - P.1354

はじめに
 迷入膵とは,膵以外の部位で本来の膵と全く無関係に膵組織,膵基質あるいは膵胚芽が見出されるものをいい,一般に胎生期における発生学上の異常により生ずると考えられている.本症は比較的稀な疾患であるが,欧米では1729年Schulze1)により最初に報告され,本邦でも1895年山極の記載以来,報告例が増加している.しかし本症の多くは,臨床診断上特異な症状に欠け,外科領域では他の疾患の開腹時,偶然に発見されることが多いが,時には複雑な症状の発現により確定診断が困難なまま,開腹手術がなされることもある.われわれは,最近18年間に本症の5例を経験したのでこれを報告し,若干の文献的考察を加える.

1週間後に覚醒しえた急性眠剤中毒の1例—腹膜灌流の応用

著者: 鹿野奉昭 ,   本田義信 ,   勝屋弘忠

ページ範囲:P.1355 - P.1357

はじめに
 かつて睡眠剤中毒患者の積極的治療法として,メジマイドがバルビタール拮抗剤として使用されたが,単なる中枢興奮剤にすぎないことが判明し,体内からの睡眠剤排泄を促進する方法として大量の輸液と利尿を計るより以外の方法はなかつた.近年Maxwellら1)の腹膜灌流による透析の有効性が報告されて以来その適応範囲は著しく拡大されてきた.
 われわれは最近自殺の目的で大量のフェノバルビタールを服用し,昏睡に陥つた患者に腹膜灌流を施行し1週間後に覚醒しえた1例を経験し,併せて血中フェノバール濃度の測定でその有効性を確認したので若干の検討を加えて報告する.

外傷性振顫に対する定位脳手術の経験

著者: 大久保忠男 ,   郭隆璫

ページ範囲:P.1359 - P.1362

はじめに
 頭部外傷後に四肢に振顫を来す現象は,日常われわれのしばしば経験するところである.しかしながら,これらの疾患に対する報告,研究は現在までのところ多くはない.われわれは頭部外傷後に四肢に振顫を来した2症例に対してstereotaxic thalamotomyを行ない, 1例は著効を得,1例は軽度の改善をみた.ここにこれらの症例について報告し,合わせて若干の考察を加える.

非定型的末梢性前大脳動脈瘤の1例

著者: 石井喬 ,   土田富穂 ,   早川勲

ページ範囲:P.1363 - P.1367

はじめに
 末梢性前大脳動脈瘤は比較的稀なもので,その頻度は2.5%1)から9.8%2)と報告されている.その大多数は,前大脳動脈がcallosomarginal arteryを分岐する部位,あるいは,frontopolar arteryを分岐する部位にみられる.しかし前大脳動脈の分岐にはバリエーションが多く,前大脳動脈枝の分岐部位別に動脈瘤の発生部位を検討するよりも,前大脳動脈が脳梁膝部で後方へ直角に屈曲する部位に好発すると表現した方が妥当である.この点より脳梁膝部の動脈瘤は定型的末梢性前大脳動脈瘤と呼ばれている3)
 われわれは,くも脳下出血で発症し,脳血管撮影により右前大脳動脈終末部(Fischer A5)に発生した動脈瘤が発見され,手術により動脈瘤を切除し,動脈瘤の病理組織学的検索を加え得た症例を経験した.本症例は,発生部位的にみて非定型的動脈瘤4)であり成因の上からみても興味ある症例であり,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

臨床外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1278

印刷版ISSN 0386-9857

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